俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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八幡が柱になるのが遅くなった理由は主に
①命令違反
②隊律違反
③無断欠勤
この三つです

命令違反はその命令が不適切と独断判断したから、隊律違反は主に他の隊士と対立して、無断欠勤は様々な技術を身に付けたり帰るための情報を探すためです。


天柱の日常

 

 とある西洋風の館。

 広大かつ豪勢な屋敷。庭も小さな集落程度ならすっぽり入る程に広い。

 その中央部にある書斎に1人の外人男性が窓の景色を眺めていた。

 

 男はこの館の主である。

 母国ではしがないチンピラであったが、とある出来事を切っ掛けに日本で成り上がった。

 鬼の力である。

 無惨から与えられた力によって男はこの日本で成功してみせた。

 遠くない日に本国へ戻り、更なる成功を掴んで見せる。

 そして、何時かはあの男を超えて己が鬼の王に……。

 

 コンコンコンッ。

 扉を叩く音が響いた。

 

「入れ」

 

 母国語で命じる。

 彼の屋敷に日本人はいない。

 選民主義の強い人種である彼は他国の人間を信用していなかった。

 

「失礼します、旦那様。明日の予定で確認すべき点が見つかりました」

 

 五十代前後の男性が入室する。

 彼はこの屋敷の執事。母国からわざわざ招いた由緒正しい名門の一族であり、男が唯一信用している人間である。

 

「何だ? 何かあったのか?」

「いえ、大したことではございません」

 

 男は振り向く事無く質問する。

 その時だった。

 

 

 

「明日の予定は全部白紙だ」

 

 男の首が信用している筈の執事によって首と四肢を斬られたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うし、仕事完了」

 

 この鬼やその周囲がやってきたと思われる犯罪の証拠を収集し、外人の鬼を暗殺した後、俺はやっと執事の変装を解くことが出来た。

 

 変装技術。

 任務をより効率に遂行する為、入隊して3年後にやっと習得した技術だ。

 覚えるのにはかなり苦労した。

 パルクールや聞き分けによる情報収集と違って、呼吸による身体能力や、何故か身につけた超感覚が活かせないからな。地道に努力していくしかなかった。

 まあ、ちょっとズルはした上に、今は身長のせいで変装対象も限られるが。

 

「た、大変だ! 麻薬のリストが盗まれた!」

「何!? 一体いつ!?」

 

 外が騒がしい。

 やっと俺がこの屋敷に潜入して証拠集めしていた事に気づいたらしい。

 さて、それじゃあ次は別の人間に変装して脱出するか。

 ちゃんとこの屋敷の人間の行動パターンは把握済み。余程の体格差が無い限り変装出来る。

 

「それじゃあ、任務を続行するか」

 

 予定通り、俺は鬼の服を追剥ぎして変装した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「派手に俺より忍やってるな」

 

 任務帰り。

 道中の茶屋で飯を食ってると、宇随にそんなことを言われた。

 

「変装して数日敵の陣地に侵入し、敵の勢力拡大を妨害するための情報工作及び暗殺。手段が派手に忍者だろ」

「言われてみればそうだな」

 

 俺に与えられた任務は鬼の討伐だけではなかった。

 鬼の海外進出の事実確認及び事実だった際の計画阻止。

 コレが俺の任務だ。

 

 通常、鬼は庶民出身が多いが、偶に地位や財産のある奴、或いは鬼に成る事で富や利権を得た奴もまた存在する。

 そういった奴らの首を落とすには近づくために武力以外の手段が必要であり、後始末も他の鬼とは比べ物にならない。

 そこで俺の出番になる。

 変装したり侵入したりして敵に接近し、首を狩った後は必要なら色々と工作して失脚させるなり何なりする。

 こういった真似が出来るのは俺と宇随ぐらいなんだよな。

 

「よく一週間も他人に変装してバレねえな。おれには無理だ」

「二週間だ。俺一人で全部やりきる必要があったからな」

 

 俺が変装したのは執事だけじゃない。

 色んな手を回す為に、色んな人間に変装し、色んな工作を仕掛けた。

 かなりの重労働だった。バレずに複数の人間を演じ、それぞれ違う工作をするのは。

 

「で、お前にこの資料を渡して俺の仕事は終わりだ。引継ぎ頼むぞ」

「ああ。……って、よくコレだけ調べられたな。暗号解読も派手に済ませてるじゃねえか」

「まあな。証拠集めるだけじゃ柱の」

「やってることが地味に忍時代の情報工作だなこりゃ」

 

 宇随の言う通りだ。

 コレ、鬼狩りじゃなくてスパイとかじゃん。

 

「しかも、どの任務も成功させる。流石は『最優の柱』、『鬼殺隊の双柱』だな」

「………」

 

 最優の柱。

 難易度の高い任務をやり遂げることから付いた俺のあだ名。

 欲を言えば最強の方がいいのだが、一番強いのは悲鳴嶼だ。俺が名乗るわけにはいかない。

 

 鬼殺隊の双柱。

 悲鳴嶼さんこと岩柱と俺こと天柱の二柱の事。

 俺たちは鬼殺隊から見たら同格のようで、よく比べられる。

 まあ、柱稽古では今のところ俺が勝ちこしているが。

 

「じゃ、俺は次の任務あるから行くわ」

「あ?まだあるのかよ?」

 

 

「ああ。あと五件ほど。一週間は寝れねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある山中の廃村にあるボロい小屋。

 その中に一体の鬼が崩れかけた床に座っていた。

 巨大な蝸牛のような姿をした異形の鬼。

 首は人間だがその下は完全に蝸牛だ。

 更に、この鬼はただデカいだけではない。

 

「う…ぐ、ぁぁ……」

「ころ…して……」

 

 蝸牛鬼の殻には、人間の顔が幾つも浮かび上がっていた。

 取り込んだ人間の顔である。

 これがこの鬼の血鬼術。

 人間や他の鬼を食うのではなく、生きたまま取り込むことで、自分が受けたダメージを取り込んだ者に押し付ける能力。

 蝸牛鬼はこれを使って自身を討伐しに来た鬼狩りを倒した。

 取り込んだ人間を人質に使う。そうするだけで鬼狩りは何も出来ず、彼に殺されるか逃げるしか出来ない。

 人間相手には無敵の楯と言ってもいい。

 しかし、何事にも例外はある。

 鬼殺隊の中でも人質の命に無関心な者、鬼を狩る以外は些末だと切り捨てる者、自分の命を優先する者も存在する。

 そんな時は二つ目の血鬼術が効力を発揮する。

 

 鬼相手にも彼の能力は有効である。

 取り込むには足で直接触れる必要があるが、一度捕まえてしまえばこちらのもの。

 なんとこの鬼の血鬼術、取り込んだ鬼の血鬼術を自分のモノとして使用できるのだ。

 

「きひひッ。本当に便利な血鬼術だな。だからこうして生かしてやってるんだ」

「この……クソ野郎が!」

 

 軟体の足に包まれているナナフシのような形状の鬼。

 この鬼こそ植物操作の血鬼術の本来の持ち主、儒黙である。

 とある事情で縄張りを離れたところを運悪く蝸牛鬼と遭遇してしまい、取り込まれてしまったのだ。

 儒黙の血鬼術は前準備が必要故、急な戦闘には対応できない。結果、蝸牛鬼は格下でありながら儒黙を取り込みその力を手にすることが出来た。

 

 彼が取り込んだ鬼の血鬼術は植物操作と強化。

 血鬼術の根を山に張ることで山の草木を支配下に置き、自由自在に操作し、植物を通じて離れた場所から血鬼術を使用出来る。

 葉を手裏剣のように鋭くして飛ばしたり、蔦や枝を鞭や剣のように振るわせたり、種を弾丸や爆弾のように飛ばす、痺れ粉や毒の胞子を飛ばす等、某モンスターゲームのような技が使える。

 更に草をトラバサミなどの罠などにも変えることが出来る。

 更に更に。植物から本体に情報が送られ偵察にも使える。

 

 山の植物全てが武装した兵士であり、敵を迎撃する罠と兵器。

 根を張った山の中だけとはいえ、十二鬼月並みの血鬼術を使える。

 今、この山は蝸牛鬼の要塞である……。

 

 

 ゴロンッ。

 

 

「………え?」

 

 突然、視界が逆さになった。

 あまりに突然の事で理解が遅れる。

 その原因が首を斬られたと気づくには数十秒ほど経過した。

 

「う、そ……」

 

 気が付いたころには既に遅かった。

 身体は黒い灰のように崩れ、血鬼術を使える力もない。

 何も出来ないまま、鬼はこの世から消え去った。

 

 

 

 

 

 

「けっこうギリギリだったな……」

 

 日輪刀を鞘に納めながら息を付く。

 

 かなりヤバい状況だった。

 少しでも手元がズレたら全て失敗するような、大きな賭けだった。

 

 あの鬼の甲羅に人間の顔を見た瞬間、俺は『ジンメン』というキャラを思い出した。

 食った獲物を生きたまま取り込み、本体が死ぬと取り込んだ獲物も死ぬという手の出しにくい敵キャラである。

 それを知ってるから俺はすぐに気付いた。あの鬼は取り込んだ人間にダメージを押し付けるタイプの血鬼術を使うと。

 故、俺は奴が血鬼術を使う前に殺す事にした。

 

 以前、そういう手合いの鬼と戦った事で身に染みている。こういった理不尽な血鬼術を使う鬼は何かする前に殺さなくては成らない。さもなくば、自分だけでなく、周囲も巻き込む羽目になる。

 

 血鬼術を使われる前に、気付かれる前に倒す。

 気配を消して接近し、死角に潜り込んで首を斬り落とし、尚且つ切った事を気取られないようにする。

 難しい。柱になった今でも極めてハードな難易度だ。

 

 条件のうち2つはイイ。

 奇襲は得意だ。今では俺の不意打ちに対応出来る鬼の方が少ない。

 だが、首を斬られても暫く気づかれてはならない。これがかなり曲者だ。

 

 斬られた事に気づかない斬撃。これは俺も出来る。

 しかし、ソレはベストなタイミングの時のみ。敵の虚を突く一瞬よりも更に短い刹那の間隔でする真似じゃない。

 不意打ちも得意ではあるが簡単ではないのだ。だというのに更に難易度の高い技術を同時に要求されたら、難易度は相乗的に跳ね上がってしまう。

 だが、ソレでもやり切るのが柱というものである。

 

 本当にこの職場はブラックだ。

 難易度はアホみたいに高いし、責任もバカみたいに重い。ここに来る前の俺なら即座に逃げてた。

 けど、やるしかない。帰るためには、柱の地位がどうしても必要だ。

 

 

 それに、不可能が出来るようになるのは気持ちが良い……。

 

 

「おい八幡、かなり難易度の高い任務を熟して精神的疲労があるのは分かるが、まだ終わってないぞ」

 

 突然、八雲に声をかけられた。

 

「そこに倒れている鬼殺隊は隠に任して早く行くぞ。なあに、次で最後だ」

「そうだ…な」

 

 俺は羽織の懐から小太刀を取り出し、ソレを取り込まれていた鬼の首に振るった。

 鎖付き日輪小太刀。色々と便利だから持ち歩いている武器の一つだ。

 この羽織もかなり愛用している。ポケットが多くて持ち運びが楽だ。

 背中には金箔で応龍が描かれて派手な仕様になっているが、気配にさえ注意していれば案外目立たない。

 

「ぐべッ!!」

 

 鬼の首を刎ねる俺の小太刀。

 血鬼術の起こりを感じたから何か仕掛けようとしてたのは直ぐに気づいた。

 まあ、何かしなくても鬼である時点で見逃すつもりはなかったが。

 

 さて、それじゃあ行くか……。

 

 

「緊急連絡! 天柱様に応援を要請! 直ちに任務を中断して北東に迎え!」

 

 は?

 

 





八幡の任務は基本的に難易度が滅茶苦茶高いです。
というか、他の隊士や柱には出来ないようなものばかりです。
潜入みたいに特殊技能を要求する任務は勿論、今回のように理不尽な状況での任務が大半です。
あと、柱稽古の戦績は八幡が一番良いです。
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