とある夜中の岩場。
天柱こと八幡は二体の鬼と戦闘を繰り広げていた。
双子の鬼らしく、似たような姿をしており、似たような血鬼術を使用している。
【血鬼術 加速】
兄鬼が速度を更に上げる。
確かに速いが、何も捉えきれない程ではない。
たとえ二体同時相手でも普段の八幡なら対処可能。
第一、どれだけ速かろうが、八幡ならただ速いだけの敵など恐れるに足らない。
鬼との戦闘で積み重ねた経験と研ぎ澄まされた直感、そしてこの世界に来て得た超感覚。
これらさえあれば敵の攻撃を先読みして対応するなど序の口の筈。
では何故攻めあぐねているのか。その答えはもう一体の鬼にある。
【血鬼術 停滞】
弟鬼の血鬼術。
兄鬼を除く自身の周囲全ての動作を遅くする血鬼術。
コレによって八幡の速度は著しく下げられ、普段通りの動きが出来なくなってしまっているのだ。
速度バフとデバフ。
鬼にとっては最高の組み合わせであり、八幡にとっては最悪の組み合わせ。
いくら彼でも尋常じゃない速度の敵を相手に、著しく速度を下げる血鬼術を掛けられてはたまったものではない。
膠着状態。
八幡は血鬼術によって動きを封じ、鬼は知恵と感覚によって攻撃を捌かれて。
こうして両者は互いに決定打を打てずにいた……。
【天の呼吸 奥義壱 鬼身】
【天の呼吸 雷の型 晴天霹靂】
突然、八幡の運動速度が普段より少し遅め程度になった。
同時に呼吸によって加速して接近。しかしまだ距離が遠いため、刀をブーメランのように投げる事で弟鬼の首を刎ねた。
「ま…まずい!?」
突然弟を倒されて焦り、その場から逃げ出そうとする兄鬼。
しかしソレを許す程八幡は鈍間ではない。
鬼身を解いて小太刀を取り出した。
スパンッ。
兄鬼目掛けて投擲。
逃げ道を予測して鬼の首が通る地点に“投げ置く”。
結果、鬼は自身の速度を八幡に利用されて首を刎ねることになった。
「ったく、こんな日に任務出すなよ。義勇たちの柱就任会に遅刻するだろうが」
本日はめでたい日。
なんと、柱が三人も誕生したのだ。
冨岡義勇、鱗滝錆兎、胡蝶カナエ。
この三人が追加されたことで柱は七人になった。
本当に助かる。
今まで半数も柱がいなかったせいで仕事が集中しすぎていたからな。おかげでどれだけ激務を押し付けられ、連続徹夜を繰り返したことか。
けど、ソレも今日で終わり。
明日からアイツらも激務に巻き込むことで相対的に俺の受ける仕事が減り、比例して休日も増える筈だ。
「(あ、でも煉獄さん辞めるから七人じゃないか)」
あの人俺が柱になった当初から辞めたがってたけど、なかなか柱になれるような人材が入ってこないせいでお館サマ直々に何度も説得という名の圧力食らってたからな。けど今日で柱が過半数を超える以上、そろそろ解放されるかもしれない。
こればかりは仕方ない。もうあの人は心が折れてしまっている。これ以上戦わせたら実力が発揮出来ず死ぬか、心の病で倒れるかのどっちかだ。流石にお館サマも解放してくれるだろう。
あと序でに俺にも休みくれないですかね?
とまあ、そんな下らないことを考えていたら目的地―――義勇の新しい家、水屋敷が見えて来た。
家の方を向くと、俺の気配に気付いた真菰がこちらに向かって走って来ている。
その後ろを錆兎と義勇が付いてきており、鱗滝さんが門の外からその様子を見ている。
あ、鱗滝さんと一緒に胡蝶姉妹もいるじゃん。アイツらあんまり鱗滝一門と関わりなさそうなんだが……まあいいか。
「遅いよ八幡~! 義勇と錆兎の柱就任会終わったじゃない!」
「仕方ねえだろ、緊急で仕事が入ったんだから」
柱就任会には間に合わなかったが、柱就任パーティには間に合った。
それじゃあ、今日ぐらいは柄になく騒ぐか。
パーティの後、俺は二次会に行く事無く真っすぐ帰路についた。
いや~、思った以上に俺らはっちゃけたな。
鱗滝さんとその一門だけじゃなく、他の柱とその親族も来てドンチャン騒ぎ
一番騒いでたのは宇随だな。忍者修行で培った様々な技術を芸として披露してた。
で、俺を対抗馬として指名してからは芸対決して……その後は忘れた。
その部分だけ記憶がないが、俺の事だから負けてないだろう。うん、大丈夫の筈だ。
あと、柱になったと義勇がムフフ顔でドヤってたんで、鍛錬と称して錆兎含めボコボコにしてやった。
生意気な後輩共が。舐めてるとボコるぞ。いや、もうボコったわ。
二対一でも最後まで優位に立てるまで強くなったからな俺。
で、暴れ足りねえと思ってたら、鍛錬見てたほぼ全ての柱と大乱闘が始まった。
宇随が楽しそうに参加するのは分かるが、カナエや槇寿郎さんも乱入するのは以外だった。
槇寿郎さん、柱どころか刀を握ることすら辞めたがってたのに。
まあ、最後ぐらい派手に暴れたいということなんだろう。
で、俺と悲鳴嶋さんの二人が残り、途中で鱗滝さんが止めて乱闘は終了。その後は屋敷の主である義勇以外各々の家に戻った。
まあ、俺は家じゃなくて藤の家の旅館だが。
「ただいま~」
「おかえりなさいませ、天柱様」
つい癖で言ってしまった独り言に旅館の亭主らしき男性が返してくれた。
今日初めて泊まるところのせいか。いつもはこんなミスしないのに。
そんな少し小っ恥ずかしい思いをしながら俺は部屋に向かう。
「天柱様、お部屋に向かう前に少しお話が」
「あん?なんだ……」
振り向いた瞬間、俺は背後から亭主に襲撃された。
「連れてきましたよ」
とある廃屋。
人が一人分入るほどの大袋を抱えた亭主が入ってきた。
暗くてよく見えない室内。
明かりだけでなく月明かりすらない。
ソレもそうだろう。なに今晩は星も月も見えない曇り夜なのだから。
季節のせいか、それとも風通しが悪いせいか。廃屋の中は夜にしては若干蒸し暑い。
「ああ、やっと帰ってきたの? じゃあソレ置いといて」
この廃屋の主であろう者が隅を指差す。
幼い声だ。
室内が暗いせいでよく見えないが、背丈も子供のように小さい。
廃材らしき物の上にちょこんと座るその様は、どう見ても子供のようだ。
「はい、ではここに……」
「いや、待て」
【血鬼術 流水弦】
突然、廃屋が破壊された。
幾重の鋭く巨大な刃物に切り裂かれかのように崩れ落ちる元廃屋だった瓦礫。
派手な倒壊音を立てながら辺りに土煙と木屑が舞う。
しかし、そんな状態でも二人がその生き埋めになる事はなかった。
土煙と木屑が収まり、亭主らしき男と廃屋に住んでいた者が姿を現すと同時、雲が一部だけ晴れて二人を月光が照らした。
「よくも騙そうとしたな、鬼狩りめ」
「そっくりそのまま返すぞ、鬼が」
鬼狩り―――八幡は亭主の変装をやめて木の上から鬼―――累を見下ろしていた。