俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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累再び

「へぶしッ」

 

 俺は殴ろうとしてきた亭主らしき男を取り押さえ、首を締めた。

 柔道でいう羽交い締め。

 ガッチリと決まった以上、並の人間は振り払えない。

 柱である俺の腕力と技術に適うのは同じ柱クラスの剣士か、並より上の鬼ぐらいだ。

 

「離せ!」

 

 だから、ソレを力で振りほどけるコイツは鬼ということになる。

 

「貴様…何故気づいた!? 気配は完全に隠れている筈だぞ!」

「まるわかりだバカ。そんなに敵意を向けていたら新人の隊士でも気づく」

 

 冷静に返すが、俺は若干焦っていた。

 この男からは鬼の気配がしない。

 鬼の臭いはするし、音も聞こえる。

 そして俺の無駄に鋭くなっている直感も鬼だと言っている。

 だというのに、鬼特有の気というかオーラというか、そういったものを感じさせないのだ。

 一体どうなっている。俺の直感も超感覚もコイツが鬼だと言っている。なのに何故気配を感じさせない?

 

「……ああ、そういう血鬼術か」

「!?」

 

 気配を注意深く探るとその仕組みが分かった。

 この鬼からは、成人男性の気配と同時に、微弱だが鬼の気配がする。

 二つのの気配が一つの身体からしているのだ。

 おそらく、この鬼の血鬼術は憑依かソレに近い能力。

 コレを使う事でこの旅館の亭主に憑いているのだろう。

 

 なるほど、種は割れた。

 なら、攻略法も自ずと見える。

 

「ッシ!」

「うお!?」

 

 抜刀。

 鬼の首めがけ、ギリギリ避けられる程度で居合を繰り出す。

 

「き…貴様! 何で刀なんて持っている!?」

「あ? 当たり前だろ鬼狩りなんだから」

「いや、今のお前は休日だろ! なんで休みなのに帯刀してるんだ!?」

 

 何でコイツが俺の休日を知っている。

 

「剣士なら武器を肌身離さず持ち歩くのは当然だろ。寝る時や便所は勿論、風呂でも奇襲に反撃できるよう近場に置いている」

「はあ!? 鬼狩りってそこまでそこまでしなくちゃいけないのかよ!? 異常だな!」

 

 何処がだ。鬼殺隊なら当たり前の事だろ。

 俺たち人間はお前たちと違って武器がなければ非力なんだぞ。

 下弦以下の鬼なら素手でも対処できるが、やはり日輪刀がないとジリ貧になる。

 

「まあいいや。とにかく……死ね!」

「ヒィ!?」

 

 殺気と圧力をかけながら、刀を鬼目掛けて振り下ろす。

 だというのに、鬼は抵抗らしいものは見せない。

 他の血鬼術を使うでもなく、鬼の身体能力に任せて突撃するでもなく。

 頭を抱えてその場で縮こまるだけだった。

 

「………ッチ」

 

 ピタッ。

 刀が当たる寸前で止める。

 クソ、ハッタリは通じないか。

 前、似たような血鬼術を使う鬼はコレで騙せたんだがな。

 

「………? ………!? ………て、テメエ……ハッタリかまし―――」

 

 

【天の呼吸 雷の型 雷鳴】

 

 

 呼吸の技を格闘技に応用。

 強い踏み込み―――震脚によって発生した衝撃を肘に乗せて頸椎にぶちかまし、鬼の意識を刈り取った。

 いくら鬼が超越生物だといっても生物と言う括りから抜け出せない以上、やりようによっては気絶させられる。

 

 シュウゥゥゥ。

 煙のようなものを立てながら鬼の血鬼術が解除される。

 脱皮する虫のように亭主の背中から鬼が這い出て、やがて完全に分離。

 気絶した状態の亭主と鬼がゴロンとその場に横たわっていた。

 

「よし、じゃあ情報収集するか」

 

 この鬼には聞きたい事がある。首を斬るのはそのあとだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜここが分かった?」

 

 木の上にいる八幡を見上げながら鬼―――累は質問する。

 

「あの鬼から聞いた。少し“接待”するだけで正直に話してくれたぜ?」

「……ッチ、あの役立たずめ」

「今度は俺からの質問だ。何で俺の変装に気づいた?」

「別に、鬼独特の気配みたいなのがしなかったからだよ。まあ、君たち人間には分からないだろうけどね」

「なるほど、俺たちには感知できない鬼特有の感覚があるんだな。勉強になったぜ」

「そう、ソレはよかった…ね!」

 

 そう言うや否や、累は赤黒く染まった己の腕を振るった。

 同時に、指先から血のような色合いの糸が放たれる。

 ソレは八幡が上に立っている木を容易くバラバラに切断した。

 ゴロゴロと木片となって崩れる。

 しかし、八幡は既にそこにはいなかった。

 

 

【雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃】

 

【血鬼術 刻死牢】

 

 

 ほぼ同時に技が炸裂した。

 累の背後目掛けて放たれる雷の如き一閃。

 八幡の奇襲を迎え撃つべく形成された赤黒い糸の鉄壁。

 両者の剣技と血鬼術は互いの攻撃を相殺。八幡は弾き飛ばされ、累の術も切り裂かれた

 

「(……なるほど、以前より腕を上げたようだね。これなら皮着(かわぎ)が何の役に立たなかったのも分かる)」

 

 累は冷静に八幡の戦力を分析する。

 追撃はしない。既に八幡は着地して体勢を立て直している。

 下手に攻撃すれば逆に隙を突かれ、不利になるのは明白である。

 

「(……あ~あ、アイツの血鬼術便利なのに。勿体無いことしちゃったかな)」

 

 最初は悪態をついていたが、別に累はあの鬼―――皮着が役立たずだとは思っていなかった。

 戦闘力こそ累に全く及ばないが、人間を衣服のように着る事でその気配を同一化出来る血鬼術の有用性は認めている。

 累はコイツなら柱である八幡だろうとも隙を突けると思ったのだが、どうやら見通しが甘かったらしい。当てが外れてしまった。

 

 戦闘力だけではない。

 体格も身長も違うというのに、完璧に変装する技術。まるで鬼が化けたかのようだ。無論、人間が他人に変化するなんて出来ないので、姿勢や仕草や歩き方、筋肉の動かし方などで誤魔化しているのだろうが。

 短時間で居場所を特定する情報取集力。鬼を捕らえて尋問したのだろうが、それでも早すぎる。それだけ上手く情報を引き出したのだろう。

 そして何よりも、あの鬼を相手に人質を殺すことなく倒した事。この男なら可能だという確信めいたものがある。

 多種多様な特殊技能。これだけ様々な技術があるのなら戦闘力以外でも鬼殺隊で重宝されているであろう。

 つまり、この男が死ねば鬼殺隊の機能を著しく下がる。

 

 これは好機だ。

 手柄を立ててあの方に役立つ好機。

 まあ、累の目的は最初から手柄では無いのだが。

 

 

「鬼狩り……天柱、比企谷八幡! 以前の借りを返しに来た!」

 

 バサッと、累は前髪をかきあげ、左目を見せる。

 刻まれているのは下伍ではなく下壱という文字。

 これこそ累が以前より強い鬼だと証明している。

 

「お前は僕から全部奪った! 折角集めた家族も、見つけた家も、力も全部お前が壊したんだ!

 ここまで虚仮にされたのは初めてだよ、天柱! この屈辱……今すぐ返してやる!!」

 

 

 

「ッハ、そりゃコッチの台詞だ、下弦の伍……いや、今は下弦の壱か」

 

「テメエ、逃げた後にその力を取り戻すためにどれだけ人間を食った? そんなテメエが俺に奪われたと被害者面出来る立場か?

 ふざけんな。ここでお前は殺す。テメエが今まで奪ってきたように、今度は俺がテメエから奪う番だ」

 

 

「「………」」

 

 互いに睨み合う十二鬼月と柱。

 累は以前の屈辱を晴らすと同時に、柱の首を無惨に捧げる為。

 八幡は以前の失敗を挽回すると同時に、柱としての役目を全うする為に。

 

「「はあ!!」」

 

 過去を切り払う為、両者は互いに斬撃を繰り出した。

 

 

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