前回、八幡が使った奥義の正体を明かします。
真夜中、月や星の光すらない曇り夜。
木々が生い茂る山の中を2つの影が駆け巡っていた。
鬼殺隊最高戦力が一柱、天柱こと比企谷八幡。
十二鬼月が一体、下弦の壱こと累。
二人は過去の汚点を晴らすために、互いを屠らんとする。
両者は山の中を駆け抜ける。
地上や木々の上を自在に飛び回り、木々や枝の間を液体のようにすり抜ける。
八幡は鎖を、累は糸を使って。
二人は飛んでいるかのように枝から枝へ移動した。
【血鬼術 流水弦・五月雨】
すれ違いざま、累が急転換。
糸を駆使して旋回し、八幡の背後を取る。
それと同時に赤い剛糸の血鬼術を繰り出した。
【天の呼吸 雲の型 流れ雲】
振り向く事無くソレを受け流す八幡。
刀を背に翳し、峰の部分を反対の手で持つ。
身体を回転する事で衝撃を分散させ、威力を逸らした。
【血鬼術 流水弦・鉄砲水】
【天の呼吸 雪の型 深積雪・―――】
累の赤黒い糸を刀で流す。
逸らされた糸は近くにあったきへと向かい、バターのごとく易々と切断した。
【―――返り咲き】
八幡の斬撃が累の首めがけて放たれる。
カウンター技。
累の攻撃を受け流すことで体勢を崩させ、その勢いを自身の攻撃に乗せる。
タイミング、位置、共に完璧。
そのまま切断されるかと思いや……。
グルンッ。
累は後ろから縦に回転することで斬撃を避けた。
「ッチ」
どちらが舌打ちをしたのか。
両者は再び木々を跳ね回って敵を攪乱させようと試みる。
「(あの鬼、以前より比較にならない程に強い!)」
今の累は、以前と比べて格段に強くなっている。
いや、本来の実力に戻し、ソレにプラスしたといったところか。
累は最初から、下弦の壱或いは弐に匹敵するほどの強さを秘めていた。
原作でも家族役の鬼に分けた血鬼術を回収すれば柱と良い勝負をしたかもしれないし、より強く変化したかもしれないと言われる程である。
下弦の伍に甘んじていたのは、彼が数字に興味がなかった事。そして、力を分け与えて弱体化したせいである。
その分散した力も、弱かった鬼が並とはいえ鬼殺の隊士たちをひねり潰すほど強化された程。
ならば、基礎スペックの高い累に全て集中すれば、どれだけの力を発揮できるか。
分散された力が累に集中する事で累自身の鬼としてのスペックも相乗的に向上。原作だった頃の累とは比べ物にならない程の力を発揮する。
血鬼術も同様。
本来、家族の血鬼術は累のモノ。当然、本来の持ち主である累の方が上手く使えるだろうし、鬼として強い累が振るった方が強いに決まっている。
更に更に。今の累は八幡を倒す為に力を蓄え、技をさらに強化してきた。
最早、今の累は下弦としての枠を超えている。
下弦以上上弦以下。中弦といったところか。
「(この人間、前よりも格段に強くなっている!?)」
対する八幡もまた、以前よりも数段腕を上げている。
柱になってから、彼はより多くの鬼を倒してきた。
厄介な鬼、卑怯な鬼、多彩な鬼、純粋に強い鬼。
様々な鬼との戦い、任務を通すことで。
八幡は以前より格段に強くなった。
前回、累と戦った時点で八幡は既に柱クラスの実力を有していた。
数多の修羅場を潜り抜け、並外れた経験と直感と実力を手にした。
ソレからより多才に、より鋭く、より速く、より強くなった。
今では柱の中でも最強と呼ばれる悲鳴嶼行冥と並ぶ。
人呼んで、鬼殺隊最優の柱、天柱。
岩柱と双璧を為す一柱である。
精鋭の鬼と最優の剣士。
互いが互いの陣営の中で最高格を担う猛者である。
【血鬼術 刻死輪転】
【天の呼吸 嵐の型 嵐影湖光】
周囲から迫り来る剛糸の牢極を切り裂く。
手数を重視した剣戟。
周囲を一瞬で隈なく斬撃が埋め尽くし、赤黒い糸を全て切り払った。
「コレで何度目だ? テメエの糸を切り払ったのは」
「………」
累は無言で攻撃を続行。
赤黒い糸の弾丸をマシンガンの如く放ち、八幡を牽制する。
一発一発が並の隊士を確実に捉え、防御ごと切り裂く威力。
だというのに、八幡は空中でありながら難なく切り伏せた。
「もう分かったろ。テメエの攻撃は俺には通じねえんだよ」
「………」
無言。
累は八幡に返答することなくその場に留まる。
ソレを見て八幡は一瞬疑問に思うも、戦いの場で迷いは禁物。
罠の可能性を考慮しつつ、折角のチャンスを逃すまいと向かい来る。
【血鬼術 黒血棘縄】
繰り出された糸の血鬼術を、八幡は回避した。
木を蹴って進路方向して全て避ける。
が、糸は木に巻き付くことで進路を変え、背後から八幡に襲い掛かった。
しかし、そんなことは八幡も想定済み。振り向き様に糸を叩き落そうとしたが……。
グンッ ピタァァァ……。
「ッ!?」
切れない。むしろ逆に弾かれた。
刃が糸に減り込みかけた瞬間、バネのように跳ね返す。
先程の糸とは全然違う。外見は同じなのに、一体何があったというのか。
「……テメエ、別の血鬼術を混ぜたな?」
「お前の呼吸の技も似たようなものでしょ?」
累の血鬼術の正体。
ソレは、他の血鬼術を混ぜる事で強化したモノである。
今回混ぜたのは姉蜘蛛が使用していた溶解の繭を足したもの。
掛け合わせることで溶解性は無くなったが、糸の血鬼術の鋭さと硬さを無くす事無く弾力性と太さを得ることに成功した。
そして、この血鬼術を使えるという事は、他の血鬼術も同様に使えるという事である。
「!?」
木の幹を足場にして方向転換。
途端、八幡がさっきまでいた地点目掛けて糸が射出された。
累ではない。累の挙動は八幡が一挙手一投足見逃さず目を向けている。
では、誰がやったのか。その答えを八幡はすぐさま知ることになった。
「手下も使えるのかよ……」
母蜘蛛が使役していた子蜘蛛、兄鬼が使用していた手下。
これらも糸の血鬼術を使って八幡を攻撃していた。
「ハハハ! 何のためにお前とマトモに戦ったと思っている? こうやって子蜘蛛をお前にバレない様に配置しておいたのさ!」
八幡は強い。もし最初に血鬼術合成を使ってもすぐに対応されるのは目に見えている。よって、次の手をすぐさま打てるよう、子蜘蛛を伏兵として紛れ込ませたのだ。
そして、累はまだ二種類の血鬼術しか同時に使えない。よって、最初は普通に戦ったのだ。
ちなみに父蜘蛛の血鬼術は既に使用している。厳密にいえばアレは血鬼術ではなく変異なので血鬼術としてカウントされない。
まあ、不細工になるのが嫌なので見た目は分からないようにしているが。
「今度こそ終わりだ、比企谷八幡!!」
【血鬼術 刻死牢】
【血鬼術 殺目篭】
【血鬼術 刻死輪転】
累の血鬼術合成による血鬼術と、子蜘蛛の血鬼術が同時に迫り来る。
逃げ場はもうない。最初に使った血鬼術と違い、今度の血鬼お術は糸が切れない。
詰み。このままいけば八幡は細切れに……。
【天の呼吸
ドクンッ。
八幡の心臓が跳ね上がる。
そのままドクンドクンと急加速。
より強く、より早く、より大きく。
まるでF1のターボエンジンが掛かるかのように。
【天の呼吸 雷の型 千火万雷】
急加速。
八幡がその場を縦横無尽に駆け巡る。
地面を、木の幹を、糸を足場にして。
途端、雷光がその場一帯を照らした。
雷が辺り一帯に鳴り響くかのように。
豪快な踏み込み音と強烈な斬撃音が響き渡った。
「………なんだ、やっぱり切り札を隠していたんだ」
怒りからか、それとも喜からか、または別の感情か。
パラパラと赤黒い糸くずが舞う中、累は引き攣った笑みを浮かべる。
ブォン!
刀を振るって、舞い散る糸屑を薙ぎ払て、八幡がその姿を顕す。
肌は薄っすらと赤く変色した腐った目は獣のように爛々と輝き、野性をむき出しにした笑みを浮かべていた。
鬼。
野獣のようなその様は正しく鬼そのもの。
赤い肌も相まって、赤鬼のようであった。
「うっらあああああああああああ!!!」
【天の呼吸 雷の型 轟雷】
瞬間、雷鳴が鳴り響いた。
速度も威力も先程とは桁違い。
技そのものは特に変わっていない。
だというのに、先程は切れなかった筈の血鬼術を切断してみせた。
「な…何!?」
驚きながらも累は攻撃の手を緩めない。
すぐさま持ち直して剛糸の雨を降らせるが。
「おおおおおおおおおお!!!」
【天の呼吸 雷の型 雷鳴轟轟】
八幡はそれらを雷の如き連撃で切り開いた。
一時足を止めて、電流が流れるかのように続けて刀を振るう。
一本斬る度に斬撃は威力を、一歩進む度に進撃は速度を、一度振るう度に剣戟は勢いを増す。
一度発動すれば回転を重ねるに比例して力を増すその様はまるで水の呼吸拾ノ型生生流転のようであった。
「ック!」
累も黙って見ているワケではない。
糸を繰り出して、手下の蜘蛛を使って。
八幡の進撃を止めようと術を繰り出す。
【天の呼吸 雷の型 千火万雷】
止まらない。
邪魔なものを振り払い、ただひたすら前に突き進む。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
雄たけびを挙げながら八幡は突き進む。
攻撃性や凶暴性をむき出しにして。
彼は獰猛に笑いながら、心底楽しそうに笑い声を響かせながら。
「(な…なんだ!? 急に動きが変わったぞ! この男、こんなに凶暴な雰囲気だったか? 他の鬼狩りと違って、もっと淡々とした男だった気が……)」
八幡の変化に戸惑いを憶えながらも累は攻撃の手を更に強める。
しかしそれでも気になるものは気になる。
累は攻撃を続けながらも、焦りを憶えながらも、八幡の観察を続けた。
「(それからさっきから響くこの変な音! 一体何なんだ!? まるで心臓のような音……ん?まさか……)」
そこまで来て累は八幡の変化に合点がいった。
「(コイツ、心臓の鼓動を強くしている! だから威力が上がったのか!?)」
そう、これこそ八幡の変化の原因である。
天の呼吸奥義・壱(ファースト)鬼身。
自身の全集中の呼吸によって心拍数を引き上げ、血流を加速させる事で速度を上昇させる技。
コレによって攻撃の速度や手数といった回転力を急上昇させる技事が出来る。
聞こえたエンジン音の正体は高まった心拍。
急激に上昇した心音は周囲にも聞こえる程に大きく、激しくなる。
体表の変化は血管が腫脹した事によるもの。
急激に加速した血流は、増水した川のように血管を激しく流れる。
「うるあああああああああああああああああ!!!」
そして、この技を使用する八幡は、ケダモノのようになる。
普段は無駄に分厚い理性で抑えてある闘争本能や野性を、剝き出しにして暴れまくる。
こうなってしまえばもう彼は止まらない。敵を殺すまでその足は獲物へと進撃し、その刀は鞘に戻ることなく悪鬼の首を取らんと猛り狂う。
鬼身。
今の彼は文字通り鬼の身へと変じていた。
「ック、舐めるな人間が!!」
累もまた止まらなかった。
引けないのは彼も同じ事。
過去の屈辱を晴らす為に、彼は更に攻撃の手を強める。
全ての力を血鬼術に集中。ただひたすら八幡を殺さんとする。
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」
両者一歩も譲らない。
ただひたすら、目の前の敵を、狩るべき獲物を殺すために。
【血鬼術 流水弦・濫舞】
【天の呼吸 雷の型 大雷神】
背に龍の紋章を背負う赤鬼が、銀閃の津波目掛け、雷の龍を彷彿させる斬撃を放った。
・嵐の型
水の呼吸の柔軟な動きと風の呼吸の手数を合わせ、雷の呼吸の激しさを含んでいる型。
手数が多い技が多く、多対一や迎撃によく使用される。
しかしその反面決定力に欠けているのが弱点。
・雲の型
水の呼吸の柔軟な動きと風の呼吸の敏捷性を合わせ、雷の呼吸の高速移動をほんの少し含んでいる型。
他の型と違って歩法に重点を置いている。
緩急をつけた動作で相手を翻弄したり、敵の攻撃を受け流したり、気配を誤魔化すなどの技に特化している。
しかしその反面、攻撃技に乏しいのが弱点。
・雪の型
水の呼吸をより守りに特化させた型。
カウンター技や受け流す技が多い。
攻撃技がないのが難点。