「この手紙、どう見たって血鬼術掛かってるじゃねえか」
宇随に渡された手紙。
嫌な予感がしたから受け取る前に注意深く嗅いでみたら、やはり仕掛けがあった。
どんな仕掛けかは分からない。流石に臭いだけで血鬼術を看破出来るわけじゃないからな。
封筒を開けたら呪われたり、爆発したり毒ガスが出るタイプ……じゃ、無い。俺の勘がそう言っている。
じゃあ何だ? 上記の奴以外で手紙に掛けて有効な血鬼術……自分の領域に引き込む?
「ああ、転送系の血鬼術か」
「あん?なんか言ったか?」
そういやそんな鬼いたな。自宅の入り口に転送の血鬼術を掛けて待ち伏せしてた鬼。
俺は扉に血鬼術が掛かったと分かった時点で放火して鬼を炙り出したから、その血鬼術掛かってないけど。
敵のやり口が分かったら準備だ。あの時は鬼の正確な位置が分かってたから出来たが、今回はその手が使えない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。自分から罠に飛び込むしか居場所を特定する手段はない。
大丈夫だ、俺なら問題ない。俺の勘がそう言っている。
「宇随、その手紙たぶん鬼の血鬼術が掛かってる」
「何? 本当か?」
「動くな! 何がキーで発動するか分からないからな」
宇随を止めて話を続ける。
「俺宛てだから俺がいく。お前らも一緒に行って待機してくれ」
「……行けるのか?」
「ああ。むしろ、一人がいい。連携を取れる状況じゃねえと思う」
「お前のいつもの勘か?」
「ああ」
宇随は『そっかそっか』と言いながら深く頷いた。
「じゃあ俺のを使え」
「え?お前も貰ってたの?」
俺は宇随宛の手紙を貰う。
同じ匂いだ。おそらく同じ血鬼術を掛けられているのだろう。
「お前宛の手紙ならお前の対策をしているかもしれない。俺のを使う方がいいだろう」
「……ああ」
こっちを使った方がいいと俺の勘も言っている。
なら、準備した後にコイツを使うか。
【雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃】
まずは一体目。
焚いた煙ごと転送し、煙幕代わりにする。
煙幕で身を隠しながら、俺は一番近くにいた鬼の首を刎ねた。
勿論俺には何も視えちゃいない。臭いと気配で位置と首の箇所を探った。
「な!? 鬼狩りが攻撃してきたぞ!?」
「まさか罠だって気づかれた!?」
「話が違うぞ!」
狼狽えている鬼共。
よし、敵が混乱しているうちに出来るだけ片付けるか。
「落ち着け! 早く血鬼術を使ってこの人間を倒せ!」
その一言で他の鬼達はすぐに冷静さを取り戻した。
鬼達は次々と血鬼術を発動していく。
【血鬼術 濃霧】
突如、八幡の視界を深い霧が遮った。
まるで最初からこうだったと言わんばかりに洞窟中を包み隠す紫色の濃霧。
だがソレだけ。視界が遮られた程度なら問題ない。たとえ見えずとも、気配と臭いで敵の位置と首の在処を特定できる。なにも問題ない。
「(いや、この霧は少し厄介だな)」
通常の霧よりも更に視界が悪い。
足元すらロクに見えない様はまるで目隠しでもされたかのようだ。
その上、音まで聞きづらい。おそらく防音作用もあるのだろう。
更に若干息苦しい。どうやtら空気に粘り気を与えて呼吸を阻害しているらしい。柱の肺活量なら大したことないのだが、この状況では多いに影響する。
遮光性に防音性、そして粘性のある濃霧。確かに煙幕にはもってこいだ。
これだけ悪条件が揃えば、上級隊士でも雑魚鬼の不意打ちにすら負けるかもしれない。
もっとも、天柱にとっては少し制限された程度だが。
【血鬼術 地面軟化】
今度は足場が悪くなった。
まるで波打つかのようにぐにゃぐにゃと曲がる地面。
通常なら走ることはおろか、立つことすら不可能。
しかし柱には通じない。絶妙なバランス感覚と強靭な三半規管、そして巧みな足さばきで自在に移動する。
「(これは……厄介だな)」
八幡は苦笑いしながらバランスを取る。
いつもなら楽々とは言わずともバランスを保てるが、今はこの邪魔な濃霧がある。コレのせいで感覚と呼吸が阻害され、普段の性能が発揮出来ずにいた。
最悪の足場に最悪の視界。ここまでくれば柱とて油断は出来ない。
【血鬼術 飛弾】
次は弾丸が飛んできた。
一寸先は何も見えない煙幕の中、突然現れた丸い鉄球。
速い。銃弾とは言わずとも剛速球と言うに相応しい速さ。
八幡は咄嗟に避けるも鉄球は急に方向転換、追尾して襲い掛かる。
「(ッチ、面倒クセえ!)」
八幡が表情から完全に余裕が消えた。
ただでさえ足場も視界も最悪だというのに、追尾機能付きの弾丸が高速で複数も同時に対処しなくてはいけないのだ。当然、余裕なんてなくなる。
【血鬼術 鏡花水月】
最後に、複数の鬼が襲い掛かって来た。
否、幻である。
実体のある幻が複数同時に向かってきたのだ。
しかも、幻のためこいつらは鉄球の攻撃も足場の影響も受けない。
「クソが!」
八幡はそれらを切り捨てる。
幸い、幻鬼の武器は爪と牙だけであり、強さも並程度。良くて下弦の陸止まり。
いくら複数とはいえ、この鬼だけならすぐに退治できたであろう。
たとえ倒せない分身が複数来ようとも、この程度なら対処可能。
片手間に、楽々と攻撃を捌きながら、匂いと気配を元に接近して鬼の首を斬る。
そう、単体なら。
環境の影響を受けない実体のある幻。
剛速球で複数同時に自動追尾する鉄球。
波のように揺らぐ立つ事すらままならない地面。
視界を塞ぎ、音も聞こえ難く、呼吸もしにくい濃霧。
悪条件が四つも揃い、相乗的かつ爆発的に悪化している。
そんな中で戦うのはいくら柱でも至難。たとえ、最優の柱でも。
「(……久々に使うか)」
【天の呼吸
あれから何分経過したであろうか。
八幡は相変わらず四体……いや、5体の鬼によって苦しめられていた。
状況は相変わらずである。
四体の鬼の血鬼術によって八幡動きを封じられ、防戦一方の状態。
鬼達はこのままジワジワと体力を削ろうとしている。
そう、このままいけば鬼の勝ちなのだが……。
「クソ!まだ天柱はくたばらねえのか!?」
初老の鬼が騒ぐ。
この鬼は四体の鬼のリーダー格であり、五体目の鬼である。
初老の血鬼術は遠視及び透視。感覚を他の鬼達と繋げる事でこの濃霧の中でも鬼達は正確に八幡を捉え、血鬼術を行使出来ている。
だが、ソレも時間の問題である。
「(このままじゃ、俺らが先に潰れる……!)」
この鬼達には時間がなかった。
彼らは血鬼術こそ十二鬼月並みに強力だが、ソレを維持できる程のスタミナがなかった。よって連携を取って柱に襲い掛かっている。
柱の攻略法。ソレは何もさせない事だ。
八幡が鬼を攻略する方法と似たようなものだ。
刀を振らせない、接近させない、考えさせない。この三つをやれば大体勝てる。
だが、今回はその相手が悪かった。
「!? なんだ!?」
初老の鬼の視界に、八幡がこちらに歩いているのが見えた。
ゆっくりではあるが、確実に。
目を鬼達に合わせて近づいてきた。
見えず、聞こえず、呼吸もしにくい濃霧の中を。
グニャングニャンと揺れ動く地面を歩いて。
執拗に高速で追尾する鉄球を捌いて。
実体のある幻たちを避けながら。
八幡は近づいて来ている。
「な……何で!?」
何故だ、何故場所が分かった? 何故近づける? 何故平気なんだ!?
そんな疑問が脳内に過るも、考える前に行動する。
「集中砲火だ!」
【血鬼術 強化水月】
【血鬼術 飛弾】
【血鬼術 地面軟化】
全力で血鬼術を発動させる。
狙いは無論のこと八幡。
一点集中で八幡に血鬼術が仕掛けられるが……。
【天の呼吸 雨の型 夕立のにわか雨】
全てを捌かれた。
濃霧の中、高浪の如く激しく地面の上で。一瞬で弾丸と幻を切り伏せた。
まるで予め何処から幻と弾丸が来るのか、どう地面が動くか最初から分かっていたかのように。
八幡は四つ全ての悪条件に対して最適解を一瞬で叩き出した。
「ば…バカな!?」
あまりの出来事にその場にいた鬼達は戦慄する。
何故、こんな濃霧の中で平然と動ける。
この霧の中での視界は足元すらマトモに見えない。
音も聞こえにくく、鬼狩りの便りである呼吸難しい。
なのに何故平然と動ける?
何故、こんなに波打つ地面の上で歩ける。
普通なら歩くことすらままならない筈。
だというのに何故平然と歩ける?
何故、全ての鉄球を平然と避けられる?
こんなに速い球が同時で追尾するというのに。
なのに何故こうも平然と対応できる?
何故、平然と全ての幻を切り伏せられる?
幻は悪条件の影響を受けない上、切ってもまたすぐ現れる。
だというのに、何故これほど完璧に対応できる?
ああ、どれか一つならまだ話が分かる。
相手は柱。鬼狩りの中でも最強の剣士。
ならば、どれか一つなら対応できるだろう。
だが、ソレが二つ、三つ、四つ、五つと重なればどうだろうか。
いくら柱でも無理だ。そんなのは誰だってわかる。
なら、目の前はコレは何だ?
何故、この鬼狩りはこの悪条件が重なる中でも動ける?
何故、この鬼狩りは相乗的かつ爆発的に悪化している状況でも動ける?
何故、この鬼狩りはこんな圧倒的不利な状況でも平然と戦って勝てるんだ!!?
バンバンバンッ!
「!!?」
発砲によって鬼はハッと気づく。
既に八幡が遠視の血鬼術なしで目視出来る距離まで近づいていた。
しかし既に遅い。八幡の銃撃によって牽制を受けて動きを止められた。
既に戦況は八幡が握っている。
【天の呼吸 雷の型 晴天の霹靂】
急加速。
予備動作のない動作で雷の如きスピードで接近。
鬼の首目掛けて飛び掛かる。
「この…! 殺されて堪るか!」
再び集中砲火。
火事場のバカ力というものか、それともただ悪運が強かったのか。
目では捉え切れず、
しかし、ソレが逆に彼らの首を絞めることになった……。
【天の呼吸 雪の型 深積雪・返り】
八幡は彼らの血鬼術を跳ね返した。
文字通りの意味である。
厳密に跳ね返したのは四つの弾丸の血鬼術。
刀の
何という絶技。いや、神業であろうか。
【雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃・六連】
頭部を再生して足を止めている間に、連続で鳴り響く雷鳴によって、鬼の首は切り裂かれた。
次回で八幡の逆転劇の正体が出ます。