俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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真の姿

 

「カァー! 天柱、比企谷八幡! 上弦ノ伍ト交戦中!冨岡義勇、宇随天元、胡蝶カナエ、直チニ迎エ!」

 

 水柱、音柱、花柱。現場から比較的近い柱の屋敷に鎹烏が突入し、声を張り上げる。

 その報告を聞いた途端、柱達はすぐさま現場へと向かった。

 

 上弦の鬼。

 ここ数百年退治に成功した事がない、正に異次元の強さを誇る鬼。

 本来、鬼殺隊最強格である柱が短命なのも、この上弦が柱を定期的に間引くせいである。

 

 確かに八幡は強い。

 今代最強の柱である悲鳴嶋と互角に渡り合える実力者だ。

 柱になる前から、何度も推薦されていた。

 

 だが、流石に上弦は荷が重い。

 幾多の柱が上弦と交戦し、負けた。

 この百年間、どの柱も上弦には勝てなかった。

 だというのに、八幡は一人で上弦と戦っている。

 

 急がなくてはならない。

 三人が間に合えばまだ助かる見込みもあるかもしれない。

 最悪の事態を回避する為、三人の柱は全力で走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ生きてるんだろ? ならさっさとかかってこい」

 

 真夜中の町、路地裏を抜けた先の広場。

 八幡は刀を肩に担ぎ、木の上を見上げた。

 首を斬る寸前、八幡は気付いた。玉壺の身体から何かが出て来るのを。まるで、蝉が脱皮するかのように背中から割けて中から本体が出て来るのを。

 生きてるのを前提に呼び掛け、向こう側からの反応を待つ。相手が何をしてきても良いように警戒をしながら。

 

「ヒョッヒョッヒョ。流石だ、まさかこんな直ぐに気づかれるとは」

 

 言葉は称えているようだが、嘲りが垣間見える声で笑う。

 物陰から現れた玉壺の姿は先ほど比べて大きく変化していた。

 鋭い爪に太い腕、魚のような鱗が並ぶ長い胴体をうねらせて移動する。 

 

「見るがいい、私の真なる姿を! 金剛石よりも硬く強い鱗、練り上げた美しき姿を!」

 

 より凶悪な姿に変貌した玉壺は、自慢げに己の肉体を誇った。

 

「ソレがお前の本当の姿か?」

「その通り! 今の私は万全の力を発揮できる! 今までの私と同じだと思えば痛い目を見るぞ! もっとも、貴様はここで死ぬのだがな!」

 

 

「そっか、なら俺も変身するか」

 

 

 

「………は?」

 

 玉壺は八幡の言った内容が理解出来なかった。

 変身? 人間が? 何を莫迦なことを言っている?

 鬼なら兎も角、人間が変身なんて出来るわけがない。

 一体、この男は何を突然トチ狂ったことを言い出すんだ?

 その意味を知るのはすぐの事になる……。

 

 

【天の呼吸 奥義・壱(ファースト) 鬼身】

 

 

 途端、八幡の身体が変化した。

 表皮は赤く染まり、目はギラギラしたものへと。

 そして、心臓部位からはエンジン音のようなものが響いている。

 

 鬼身。

 文字通り鬼のような変貌を遂げる事で、鬼人の如き力を得る技である。

 

「な…なんだその姿は!?」

 

 玉壺はまさかの出来事に驚きを隠せない。

 本当に変身するとは。

 長い年月を生きた彼でもお目に見なかった。

 

「じゃあ、やるとするか上弦の伍よぉ!!」

 

 鬼は、獰猛な笑みを浮かべて玉壺へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【天の呼吸 雷の型 千火万雷】

 

【血鬼術 陣殺魚鱗】

 

 

 駆ける。

 真夜中、2つの影が互いを滅ぼさんと駆け巡る。

 

 

【天の呼吸―――】

 

 

 一つは鬼人の身になった八幡。

 雷のようにパワフル且つスピーディーに、かと思えば、雲のように緩急自在且つ朧気に移動する。

 剣戟も同様。嵐のように激しく力強いかと思えば、雨のように流麗かつ繊細なものへと変化する。

 変幻自在。強力無比。美妙巧緻。これら言葉はこの剣技の為にあるといってもいい。

 

 

【血鬼術―――】

 

 

 対するは真の姿になった玉壺。

 ある時は壺から壺へと瞬間移動を行い、又ある時は壺から飛び出して、蛇のような下半身を用いて高速移動を行う。

 同時に血鬼術も行使。壺から毒や水、眷属を出して八幡に応戦。時には最強の血鬼術“神の手”を繰り出す。

 彼の血鬼術を一言で表すなら凶悪。一つ一つが鬼殺隊殺しであり、全てが一人に集約している。

 

 片や柱、片や上弦。

 互いに互いの陣営での最高戦力。

 この戦い、おそらく激戦となり長引くであろう……。

 

 

【天の呼吸 雷の型 轟雷】

 

 

「ほぉおあぁあ!?」

 

 無茶苦茶な動きをする玉壺の腹部に、八幡の刺突がカウンター気味に突き刺さった。

 金剛石よりも硬いハズの鱗は粉々に砕け、胴体を文字通り破壊する。

 

「ぐ、おおおォォォォ!?私の美しき完全なる姿がアア!?」

 

 完全体を打ち砕かれた玉壺の姿が、再び脱皮するようにして通常状態に戻る。

 抉られた動体を再生しながら壺間の高速移動を駆使して距離をとるが、八幡は逃がさんと言わんばかりに追撃を仕掛けた。

 八幡の踵が壺を粉々に踏み砕く、しかし肝心の中身は既に別の壺へと移動していた。八幡は即座に反応して再び踏み割る、また移動、また踏み割るを繰り返していく。

 

「ぐぅう……!まずいマズイ不味い!私の華麗なる壺移動より奴の方が速い!!」

 

 

 玉壺の壺による瞬間移動は文字通り一瞬で移動する。

 更に、出現する場所はランダムな上、眷属達も壺の瞬間移動を行って紛れている。

 いくら壺が現れるという前段階があるとはいえ、移動先を見抜くことは至難の技。

 現に、今まで玉壺はそうやって高位の隊士や柱を屠って来た。

 しかし八幡には人並外れた五感に加え、予知能力染みた直感がある。これによって移動した地点を瞬時に察知し、先回りすることで玉壺を追い詰めていた。

 

 御覧の通り、依然として戦況は八幡はが優勢だった。

 確かに玉壺の血鬼術は厄介を通り越して凶悪ではあるが、八幡が二枚も三枚も上手。既に八幡は玉壺の攻略法を編み出していた。

 

 

 壺による瞬間移動。―――把握済み。臭いと直感で何処に移動しているのか直ぐにわかる。

 

 玉壺の眷属の対応。―――把握済み。気配の区別はもう付いている。後は直感に任せる。

 

 他の凶悪な血鬼術。―――把握済み。血鬼術の気配と玉壺の思考パターンは覚えている。

 

 

 玉壺がどう動き、何処に移動し、どんな血鬼術を使うか。

 八幡は既にそれらを把握し、その対抗策を打っている。

 序盤で八幡を倒せなかった時点で、玉壺の敗北は決した。

 

「ぐっ!」

 

 

【血鬼―――

 

 八幡の日輪刀が当たる寸前、壺を取り出し血鬼術を使おうとするが、八幡の方が早かった。

 術が発動する前に、八幡の刀が玉壺の壺を弾き飛ばし、地面に落ちて割れる。

 

「……ヒョ、ま、待たれよ……」

 

 待たない。

 八幡は刀を振り上げ、今まさに首を斬り落とさんとしている。

 

「(死ぬ……のか? 私は……こんな、とこで? 何も作れずに……?)」

 

「(い…嫌だ! 死にたくない! もっとやりたいことが…。作りたいものがあるのに!)」 

 

「(そうだ、私の作品をあの方は認めてくださった! 今も私の作品を楽しみにしている! あの方のためにも……芸術のためにも……傑作のためにも!!)」

 

 死を意識した瞬間、玉壺の脳裏に走馬灯が走った。

 

 

 

『芸術ぅ? そんな気色ワリぃのが? バカ言うな! そんな汚いゴミ、さっさと捨てろ!」

 

『気持ち悪い! なんでそんなの作るの!? アンタ何考えているのよ!? 頭おかしいんじゃない!?』

 

『可哀そうに…。生き物をこんなに惨たらしく殺してしまうなんて、やっぱり両親が亡くなってイカれたのね……』

 

 

 

「(これは……私の人間の頃の……記憶?)」

 

 

 

 記憶が断片的に濁流の如く大量に、且つ一瞬で流れる。

 その中でも一際……いや、他の記憶を塗り潰すようなものがあった。

 

 

 

『美しい』

 

『…………ヒョ?』

 

 

 

 夜の浜辺。

 異様な存在感を放つ男が、銛で刺されて瀕死状態の彼に近づいてきた。

 その言葉は、彼が最も欲していた言葉を放った。

 彼が作った『芸術品』を眺めながら。

 

 男──無惨は死に掛けの子供に手を伸ばす。

 

『力が欲しくないか? 芸術を理解出来ない莫迦共を駆逐する力が。力を手に入れて思うがまま、永劫に作品を作り続けたくはないか?」

 

 

 

「……ッッ!!」

 

 

 

 認められた。

 

 その時から子供は鬼と成り、新たな生を授かった。

 

 百人の命より私の方が価値がある、選ばれし優れた生物。

 

 弱く、生まれたらただ老いるだけのつまらぬ下らぬ命を、高尚な作品にしてやる神の手を授かった。

 

 

 

「……ッ私は、真の芸術家だァァアアアアアアアア!!!!!!!」

 

「!?」

 

 八幡の刀が玉壺の鱗の隙間に入り、首を切り落とそうとした途端、月夜に玉壺の慟哭が響き渡った。

 

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