俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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累って本気で強くなることを目指していれば魘夢を倒せるだけじゃなく、上弦入りも出来そう。


痣者

 

 八幡の全身に龍のような痣が浮かび上がっていた。

 

 右頬には龍の顔のような紋章。

 四肢にはそれぞれに龍が巻き付くかのように。

 背中には応龍が刺青のように浮かび上がっている。

 

 痣者。

 全集中の呼吸を一定以上極め、心拍数が200を超え、体温が39度以上になるという条件を満たす事で、身体に特殊な痣が発現した者達の総称。

 この痣が発現した者は身体能力と回復欲力が飛躍的に上がり、強力な鬼とも戦えるようになる。

 

 八幡は、最初は最初から条件を満たしていた。

 鬼身によって心拍数を限界まで引き上げ、体温も同様に高まる。

 呼吸に関しては言うまでもない。三つの呼吸を複合させ、自分だけのものとして昇華し、ソレを用いて上弦と渡り合える程に極めている。

 

 揃っている。

 八幡は痣に目覚めるための条件が揃っていた。

 足りなかったのは機会。

 痣が発現するに足りる程の、格上との戦いである。

 

 今がその時だった。

 

 上弦の鬼。

 本来なら格上であり、油断や慢心もしない。

 更に、死を目前にする事で更なる力に目覚めた。

 彼の痣が目覚めるのにこれ以上ない相手である。

 

 

 

「ふ……ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「ここは私だけが新たな力に目覚める展開だろ! 何故貴様まで強くなっている!?」

 

「こんな理不尽など認められん! ここで否定してやる! ここで潰してやる!!」

 

 

【血鬼術―――】

 

【天の呼吸 雲の型 霧隠れ】

 

 

 八幡の周囲を壺が囲んだ瞬間、八幡の姿が玉壺の視界から突如消えた。

 

 雲の型・霧隠れ。

 気配を消しながら独特の歩法で緩急を付けて周囲に紛れる技。

 本来なら上弦相手に隙の無い状態で使う技ではないが、痣によって身体が強化された今なら可能。

 血鬼術の発動に集中した瞬きの時間すらない隙を突いて、姿を隠す。

 

 

【―――津波海遊壺】

 

 

 関係ないとばかりに血鬼術を行使。

 八幡に直接掛けるのではなく、その場一帯を水浸しにするように毒水をばら撒いた。 

 奴が何処にいようと構わない。完全に閉じ込める事は出来ないが、この場一帯に毒水を漬ければ足だけでも捕えられる。その時が奴の最後……。

 

 

【天の呼吸 雷の型 八雷神(やくさいかづちのかみ)

 

 

 

 途端、雷の龍が吠えた。

 

 玉壺の背後から振り落とされた雷龍の顎。

 鋭い牙を玉壺目掛けて振り落とし、一瞬で嚙み切る。

 

「―――ッ!」

 

 悲鳴は聞こえない。かき消された。

 轟く雷鳴の如き衝突音に、龍の咆哮の如き破壊音に。

 悪鬼の悲鳴をも飲み込むその大音量はまさしく雷神そのもの。

 

 八雷神(やくさいかづちのかみ)

 霹靂一閃を更なる段階に高められた上位互換技。

 その攻撃力、速度共に霹靂一閃の発展技の比ではない。

 雷の龍のような幻影の牙により、鬼の認識を超えた速度で首を狩り獲る。

 何故八と言う名が付いているかは分からない。たぶん八幡の八か何かだろう。

 

「………ぁ」

 

 八つ裂きにされた玉壺は、そのまま黒い塵となって消えて逝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀を鞘に納め、その場で横になる。

 

 遂に……やっと、俺は手に入れた。

 上弦に対抗するための手段。

 鬼人や魔感よりも強力な、上弦と同格以上にやり合えるための()を。

 

 龍のような痣。仮にこいつを龍痣(りゅうし)と名付けよう。

 龍痣の存在については以前から気付いていた。

 切っ掛けは鬼身。心臓の鼓動と体温を上げ続けると、何かに目覚めるような感覚がした

 鬼身習得当初は気付かなかったが、何度か使い続ける違和感を覚え、下弦の壱との戦闘で違和感の正体に気付く。

 龍痣こそ鬼身の原型であり、あるべき完成形だと。

 そして今日、自覚して使うことが出来た。

 

 龍痣の力は凄まじい。

 コレが発現した途端、追い詰められた状況をいとも容易く覆せた。

 直感で勝てる事は理解していたが、まさかこんな漫画みたいに新たな力が目覚めるなんて、露ほども思っていなかった。

 いや、本当に。マジで漫画やアニメで見るような、ご都合的に覚醒したかのような……主人公にでもなったかのような気分だ。

 そして更に。この力はまだまだ先がある。

 どんな力なのかは知らない。だが、俺の勘が言っているんだ。

 まだまだ未知の力が眠っている。まだまだこんなモンじゃない。まだまだ俺は強く成れる……と。

 

「……ッハハ、楽しませてくれるぜ!」

 

 ああ、心地よい。

 俺はまだ上を目指せる。

 柱に至った今でも、まだ上がある。

 俺はまだまだ……強く成れる!!

 

「(……ッハ、まさか俺がこんな中二みたいなことを考えるなんてな)」

 

 神隠しに遭う少し前、病気なんてもう治っていると思っていたが、やはり俺も男の子のようだ。

 最強に憧れ、なろうとしている。

 まさしく中二ましっぐらだ。

 

 鬼身、魔感、そして龍痣。鬼に魔と来て、今度は龍。中二もいいとこだ。大正時代に神隠しに遭って、日本刀振り回してバンパイアハンターしてる時点で中二だが。

 いや、そんなことよりも今はもっと大事なことがあるな……。

 

「つ……疲れた」

 

 疲れた。

 滅茶苦茶疲れた。

 もう動けない程に疲れた。

 

 毒とダメージの影響がここで来た。

 呼吸によって誤魔化していたが、その反動のツケを払う時が来てしまった。

 やはり無傷ノーダメとはいかなかった。

 当然だ、相手は上弦の鬼。

 今まで歴代の柱でさえ討伐は叶わず、逆に狩られる立場に追いやった別格の鬼なのだから。

 ソレを死ぬような傷を受けることなく、五体満足で倒した俺の方がおかしいんだ。

 

「(……いや、マジで動けねえ)」

 

 俺はしばらく動けなくなる。

 意識もあと少しで途絶える。

 その前に安全な場所に……。

 

 

 

 

「……っと、随分フラフラだな、比企谷」

 

 よろけてその場あら倒れそうになった途端、何処からか現れた宇随が俺の身体を支えた。

 

「宇随……何時の、間に……?」

「ついさっきだ。気配を消さずに近づいたのに気づかないなんて、相当消耗してるな」

「……うっせえ」

 

 そもそもお前が早く来ないから俺が一人で戦う羽目になったんだろうが。

 

「貴様はよくやった。今は安心してぐっすり眠れ」

「……ああ」

 

 俺は眠気に身をゆだねて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……クソ、が……」

「お、お兄…ちゃん……」

 

 無限城の稽古場。

 廃墟同然にボロボロになったその場で、妓夫太郎と堕姫が磔にされていた。

 

「……そこまでだ、累」

 

 累と妓夫太郎や堕姫の間に誰かが割って入る。

 上弦の壱、黒死牟。

 彼は累に六つ目を向けて話しかけた。

 

「……決着は……ついた。……数々の……血鬼術を利用した戦術……見事なり。故に……入れ替わりの決定を……認めよう」

「な、なんだと!?」

 

 黒死牟の発言に反応したのは妓夫太郎。

 累が自分達と同格の力がある事は不本意ながら認めざるを得ないが、上弦の座を奪われることは納得がいかない。

 詰め寄ろうとするが、拘束している糸から脱出する事は出来ず、その場で藻掻く程度が限界。ただ睨むのがせいぜいである。

 

「上弦をも縛り……切り裂く頑強な糸……数多の……蜘蛛の眷属……そして今、妓夫太郎より強力……且つ多彩な効力の毒を持つと証明された……。故に私は累を評価する……」

「ありがとうございます、“師匠”」

「……より一層励む事だ……、累。……いや、あの方が……新しい名前を授けるそうだ」

 

 

「苦累。ソレがお前の新しい名だ」

 

 こくりと頷く累……いや、苦累。

 その瞳には、いつの間にか上弦伍の文字が刻まれていた。

 

「お兄ちゃん……私、悔しいよう……」

「すまねえなぁ……兄ちゃんのせいで、すまねえなぁ……」

 

 苦累が糸を遠隔操作で解除すると、二人は抱きしめ合って悔しそうに涙を流す。

 ソレを苦累は冷めた目で眺めていた。

 

「……君たち、下弦降格は免れたみたい」

「あ? テメエ何言って……は? 伍?」

 

 嫌味のように聞こえた発言に対して苛立ちを見せる妓夫太郎。

 しかし、苦類の目を見てその怒りを収めた。

 

「何か事情が……あるらしい。無惨様が……御見えだ……」

 

 

「平服せよ」

 

 

「「「!!?」」」

 

 上弦の鬼は一瞬で言葉通り平伏した。

 

 

「玉壺がやられた」

 

 失望と落胆を隠さない声色に、上弦たちが強張る。

 

 ここ百年に渡り、上弦の顔ぶれに変化はなかった。その圧倒的な実力でもって人を喰らい、鬼殺隊を殺し、柱を葬ってきた彼ら。歴代の上弦の中で恐らく最も極まった精鋭であり、無惨様としても満足していた錚々たる顔ぶれであった。

 その一角が崩れた、と彼は静かな口調で上弦に告げた。

 

「上弦の誕生と共に上弦が消えた。なかなか皮肉が効いているな」

「「「………」」」

 

 上弦たちは何も答えない。

 答えられるわけがない。

 何を言おうともパワハラを食らうのは目に見えているのだから。

 

「これからはもっと、死に物狂いにやった方がいい。私は、上弦だからという理由で、お前たちを甘やかしすぎたようだ」

 

 無惨様の声が聞こえた直後に、再びの琵琶の音。

 空間を飛ばされるれる感覚感覚を受けながら、妓夫太郎と堕姫の上弦陸は無限城から消えた。

 

「累……いや、苦累よ。よく上弦になった。光栄に思え。お前は私の期待に応えたんだ」

「ありがとうございます」

 

 今度は苦累に対して優しく接する無惨。

 

「いつかは上弦になるとは期待していたが、現実に起こると驚くものだな。最近までは下らぬ家族ごっこに興じていたせいで、より驚きだ……何か、心変わりになる切っ掛けがあったのか?」

「………ええ、どうしても殺したい鬼狩りがいるんです」

「……なるほど、そういうことか」

 

「苦累よ、お前は家族という下らない拘りを捨て、上弦に至るまで強くなった」

 

「以前までは鬼としての自覚が足りないようだから名は与えなかったが、ソレも今日限り。お前は鬼として大きく成長したのだ」

 

「おめでとう、苦累。これからはより多くの人間を食らい、より強くなり、より私の役に立て。お前なら出来る筈だ」

 

「お前ならばそのどうしても殺したいと願っている鬼狩りも殺せるだろう。私は応援しているぞ、苦累」

 

 

 

「ありがとうございます、無惨様」

 

 なおこの後、折角の上弦の伍が消えてパワハラ会議を開くことになったのは言うまでもない。

 

 





上弦であり重要な資金源である玉壺が死んでも無惨がそんなに怒らなかったのは、累が上弦入りして機嫌が良かったからです。
潜伏先である貿易商はやりにくくなったけど、まだ複数ありますし、金に関しても堕姫に花魁やらせて稼いでもらえばいいし、実力も玉壺を上回ってるので、玉壺が上弦の伍をやる意味が下がっちゃったんですよね。だからプラスマイナスほぼゼロなんですよ。
まあ、その新しい上弦の伍はすぐ死ぬんですけど。
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