俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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糸の土砂崩れ

 

 

「シャアア!」

 

 蜘蛛の怪人が襲い掛かる。

 茂みから飛び出し、木の上から飛び降りて。

 数体の化物は八幡の振るう刀によって瞬時に首を斬られた。

 だがその程度では減らない。次々と苦累の分身体である蜘蛛怪人が迫ってくる。

 

 

【血鬼術 縛糸】

 

【血鬼術 白繭の糸】

 

 

 今度は死角からの同時攻撃。

 一つは背後から、もう一つは木の上から。

 ほんの少しタイミングをずらすことで注意を誘導させ、命中率を上げるが……。

 

 バン!

 右手の日輪刀で攻撃を捌きながら、左手で銃を引き抜き、眼前の蜘蛛怪人にヘッドショット。続けて上方の小さな子蜘蛛目掛け、糸を吐き出す前にノールックで撃ち抜いた。

 無駄玉なんて使わない。見る必要もない。気配と直感だけで十分当たる。

 

 バンバンバン! バンバン!

 血鬼術を使われる前に、銃撃で黙らせた。

 三発を前方に、更に二発右へ発砲。

 隠れていた苦累の眷属を撃ち抜き、頭数を減らす。

 無論、気配と直感だけで。

 

 

「シャアア!」

 

 だが、それでも全滅には足りない。

 まだ怪人は残っており、八幡目掛けて迫る。

 八幡はその場を跳躍しながら、奇術師のように弾を一瞬で装填。

 まるで本当に魔法を使ったかのような早業だが、その技術をも超える技を彼はすぐ見せることになる。

 

 

【天の呼吸 雲の型 霧隠れ】

 

 

 突然、八幡の姿が消えた。

 否。消えたのではなく、独特の歩法で相手の死角に潜った。

 あくまで人間の範疇内。決して血鬼術ではない。

 まあ、そんなことは相手にとってどうでもいいのだが。

 

 

【天の呼吸 雨の型 夕立のにわか雨】

 

【天の呼吸 雲の型 霧隠れ】

 

【天の呼吸 雲の型 入道雲】

 

 

 ヒットアンドアウェイ。

 既に集団の中に深く入り込んだ八幡は次々と蜘蛛怪人を屠ってはまた姿を隠し、再び現れては切り刻む。

 ソレだけではない。気配の強弱を調整して敵を攪乱させ、同士討ちを誘発。八幡を殺す筈が、逆に見方を殺す羽目になった。

 そうやってどんどん数を減らしていくが、比例して姿を隠す肉の防壁が無くなっていく。

 

『!? そこか!』

 

 

【血鬼術 刻死牢】

 

【血鬼術 流水弦・五月雨】

 

【血鬼術 糸の毒針】

 

 

 結果、八幡は苦累の眷属達に見つかり、再び血鬼術による集中砲火をけしかけられる。

 

 

【天の呼吸 雲の型 流れ雲】

 

 

 八幡はソレらを雲のように掴み所のない動作で受け流す。

 敵の攻撃を弾き飛ばし、それを他の蜘蛛怪人に当てる絶技を披露した。

 近距離では八幡の剣戟によって、遠距離では味方の血鬼術によって数を減らしていく。

 だがソレでも数はなかなか減らない。次々と苦累の分身体である蜘蛛怪人が迫る。

 

「ッチ」

『!? 待て、逃げるな!』

 

 背を向けてその場を立ち去る八幡を追いかける蜘蛛怪人。

 だが、ソレがいけなかった……。

 

 トンッ。

 不自然な地面の膨らみを踏まないよう、その場を軽く跳躍。

 跳んだ地面には罠が仕掛けられている。

 八幡の勘からして地雷のようなもの。

 匂いで何かあると見抜き、直感で危険だ判断した彼は迷わず回避を選択。

 その上、追ってくる敵を誘導する事でその罠に嵌めてみせた。

 更に八幡無双劇場は続く……。

 

 スルッ!

 木と木の間に張られた無数の糸を抜ける。

 予め張られていたせいで殺気は感じられない。

 糸自体かなり細く、黒いせいで夜では余程注意しない限り見えない。そんなものが辺りに点在。しかも、点在の仕方がランダムなせいで見分けるのはかなり難しい。

 だというのに八幡は直感と匂いでその糸の存在を察知し、スルスルと液体のように掻い潜って糸による断頭を回避。普段とあまり変わらない速度で歩みを進める。

 蜘蛛怪人たちは八幡を追うが、糸に絡まって囚われてしまった。

 一体や二体だけではない。次々と糸の牢獄に気付かず突撃してしまい、その全てが絡まってしまった。

 八幡は振り向く事無く懐から何かを取り出し。

 

 ボォン!

 手投げ爆弾を爆発させた。

 これまた奇術師のように一瞬で火を導火線に付け、罠に引っかかった蜘蛛怪人目掛けて放り投げ爆破。一気に吹っ飛んだ。

 現代の手榴弾ならピンを抜くだけだが、この時代の爆弾は火を付ける必要がある。そのため八幡は一瞬で火を付ける技術を身に着けている。

 

「シャアア!」

 

 だが、ソレでも蜘蛛怪人は減らない。

 爆破した逆の方向から迫り来る。

 

 

【血鬼術 刻死輪転】

 

 

 繰り出された血鬼術を跳んで避ける。

 ソレを追う形で蜘蛛怪人は襲い掛かるが……。

 

 ビュオン!

 跳んだ先に、丸太が死角から飛んできた。

 これも苦累が仕掛けた糸の罠。

 八幡は身体を最低限捻ることで避けつつ、通り過ぎた途端に丸太を吊るす糸を斬る。これで罠は解除された。糸から解かれた丸太は近くの木へと転がり……。

 

 ガァン!

 ぶつかったと同時、罠が丸太に発動した。

 木が盛大に倒れ、丸太を埋める。

 一本二本ではない、一気に周囲の木が倒れてきた。

 ソレに巻き込まれる形で、八幡を襲おうとしていた蜘蛛たちが生き埋めになる。

 無論、狙ってやったこと。敵の罠を利用して、敵の頭数を減らした。

 だが、これでも足りない。生き残った蜘蛛の怪人の残りが八幡に襲い掛かろうと……。

 

 ブシュッ!

 襲い掛かろうとした瞬間、今度は毒液が吹き掛けられた。

 血鬼術の発動を予め見抜いていた八幡は、毒液を吐かれる前に回避行動へ移行。毒液が掛かるギリギリで避けた。

 結果、それらの毒は逆に蜘蛛の怪人へ掛かる事になり、また頭数を減らす事になった。

 

「この程度か? なら拍子抜けだ…な!」

 

 今度は背後の地中を刀で刺し、すぐに引き抜いた。

 土の中にいる子蜘蛛。ソレが八幡に毒牙を突き刺そうと狙っていたのだ。

 しかしその目論見は潰えた。気配を察知され、事を起こす前に潰されてしまった。

 

 スパンッ!

 ダニ程の大きさしかない子蜘蛛が、草陰から飛び交う。

 八幡はソレをノールックで叩き落し、踏み潰した。

 

 ビュンッ!

 無論、子蜘蛛による攻撃も来る。

 真上、背後、右の茂み。三方向から糸が迫り来る。

 八幡はそれら全てをノールックで避けながら、これまたノールックで同時に三本の釘を投げる。

 投擲された釘は子蜘蛛の頭を潰し、地面に縫い付けた。

 

 ソレからも八幡は次々と罠を見抜き、眷属蜘蛛の攻撃を察知し、着実に苦累の居場所に向かう。まるで、最初から何処から来るか分かっているかのように。

 

「(……これ、たぶん無駄だな)」

 

 その様子を見て、苦累はため息を付いた。

 八幡用に仕込んだ数々の罠や伏兵。それらを悉く突破されている。そりゃため息の一つも付きたくなる。

 だがソレでいい。もう既に手は打ってあるのだから……。

 

 

 ビキビキビキィ!

 

 森の木々にヒビが入り、一気に倒壊した。

 八幡の周辺だけなんて易しいものではない。文字通り森中の木全てだ。

 風上の木からドミノ倒しのように、他の木を巻き込みながら、倍々になって倒れていく。

 その様はまるで土砂崩れや川の氾濫のよう。山の地面そのものが崩れ、滝になったかのように流れる。

 転がり落ちる木は八幡の周辺だけでなく、山の一変を丸々飲み込んだ。

 

『ここまでやったら普通は死ぬけど……』

 

 暗闇の中、苦累は倒壊した山を見下ろす。

 自然災害を意図的に起こしたかのような、大掛かりなトラップ。

 流石にここまですればいくら柱と言えどくたばると思われるのだが、苦累は決して気を緩ませることはなかった。

 

 

【天の呼吸 奥義・壱 鬼身】

 

 

 木々の隙間から、八幡が飛び出してきた。

 

 鬼身と魔感の同時発動。

 魔感によって周囲を観察、状況を把握し、最適解を選択、作戦を立案。

 鬼身によって向上した身体力を以て、ソレらを実行してみせた。

 

「!?」

 

 咄嗟に、累は糸を横に振るった。

 同時、ガキィンという金属を引き裂くなような音が鳴り、強烈な衝撃により火花が辺り散る。

 

「見ないうちに大きくなったな。成長期か?」

 

 火花によって照らされその姿が顕わになる。

 前回よりも成長した苦累の姿。少年のような体躯はもう青年と呼べるほどに成長していた。

 

「子供の体格だと何かと不便だからね。こうして大きくしたんだ」

「そうか…よ!」

 

 

【天の呼吸―――】

 

【血鬼術―――】

 

 

 血鬼術と剣戟により、戦いの火蓋が切り落とされた。

 





・天の呼吸 雲の型 入道雲
殺気や闘気、気配のみを飛ばしつつ、自身の気配を薄くする事で、相手に自身の居場所を誤認させる技。
正面での戦闘から不意打ちに持ち込むために使う事が多いが、やり用によっては多対一での戦いで攪乱したり、同士討ちを誘発する事も出来る。
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