俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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二度目の痣

 

 山が削れて出来た、赤黒い縄による巨大なリング。

 空間に直接釘を縫い付けているかのように、小さな蜘蛛たちが何もない虚空に爪を刺し、宙にしがみ付いている。

 その子蜘蛛たちをフックにして赤黒い縄によるリングが張られており、その中央で八幡と苦累が戦闘を繰り広げていた。

 

 

 累の追撃は続く。

 四方八方から、空間にしがみ付く子蜘蛛たちに糸を絡まらせる事で攻撃を繰り出した。

 人体は勿論、鋼であろうと紙のように切り裂く必殺の刃。

 ソレが木を一切傷つけず、八幡のみに迫り来る。

 

「終わりだ、比企谷八幡!」

「ッチ!」

 

 しかし、それ等全てを避けてみせた。

 水のように変幻自在に、風のように縦横無尽に、雷のような電光石火で。

 嵐の如く次々と迫り来る糸刃を全て回避した。

 

 ソレからも累の猛攻は続く。

 今度は威力を上げ、木を全て斬り崩さんばかりの勢いで。

 豪風の如く木々を薙ぎ払い、八幡ごと飲み込まんと迫る。

 

「……」

 

 それ等を八幡は巧みな体捌きで回避。

 地を駆け、木の幹や枝を跳ね、隙間を的確に探して回避。

 猿でもこのような動きは出来ない。

 これだけでも並の隊士ならその実力に目を剥くだろう。

 しかし、累が注視したのはそこではなかった。

 

「……僕の指を動きを憶えている? そしてその上で穴を作るよう誘導しているのか」

 

 確かに身のこなしは凄まじい。

 重力を無視しているかのように、あらゆる体勢で、重心などに一切ブレなく、高速で全て避ける。

 しかし、それ以上に注目すべきは、八幡の空間掌握である。

 

 糸の嵐をさばきながら八幡は累の手―――正確には指先の動きを注視した。

 累の糸は累自身の指の動きに連動しいる。故、そのパターンをある程度でも暗記してしまえば、指の動きを見るだけで、敵の全てを読み取れるようになる。

 無数の糸による攻撃は脅威だが、しかしそれを操る指は十本だけ。

 なら、それらを見ていれば攻撃の予測は出来る。

 

 累の人指し指が動くと同時、八幡は銃撃を真上に行う。

 羽織で見えにくいが、腰に巻き付けてあったホルスター。

 まるで居合の如くスピーディ且つスムーズにそこから銃を引き抜いて発砲。

 放たれた一発の銃弾によって剛糸の軌道を変え、安全地帯を作ってみせた。

 

 八幡の身体ギリギリを、透明な無数の糸が通り過ぎる。

 銀閃の雨が降る中、八幡は銃を持つ腕だけ左にやった。

 

 バンバンバン!

 三発だけ発砲。

 放たれた弾丸によって再び糸は軌道を変えられる。

 それと同時であった……。

 

 

【天の呼吸 雷の型 千火万雷】

 

 

「なっ──」

 

 突然、八幡が縦横無尽に駆け巡って累との距離を詰める。

 それを阻止しようと累は糸を放つが、時すでに遅し。

 そのまま

 

「終わりだ」

 

 そしてついに、累の眼前まで迫った八幡が刀で累の左手首を捉え………る寸前、八幡は自身の直感が鳴らす警鐘を聞いた。

 

「……ッ!」

 

 咄嗟に身体を捻って方向を変える八幡。

 累の真上を飛び越える彼の目には、極細い糸で蜘蛛の巣のように展開された糸の防御壁があった。

 

「ッチ、気づいたか」

 

 目立つように血鬼術を連発する一方で、自身の周囲に見えない程に細い糸で罠を張る。

 無論、トラップを仕掛ける瞬間を見逃す程に八幡は愚鈍ではない。

 よって、累は糸とは別の血鬼術、子蜘蛛を生み出し操る血鬼術によってコレを行った。

 

 累は自分が中距離型なのは把握している。

 八幡なら自身の攻撃を潜り抜けて接近している事も承知済み。

 故、その対策を取るのは自然の事である。

 

 見えづらければ、臭いも気配も薄い糸。

 目を凝らせば、良く嗅ぎ分けたら分かるかもしれないが、鉄火場でそんな余裕などあるはずが無い。

 普通なら引っかかる筈だが、八幡の方が上手であった。

 超常的な直感によって累の企みを看破。

 ソレを切り裂きながら戦闘を続行……。

 

「ぐっ」

「……やっとか」

 

 出来なかった。

 立て直そうとして、足元がふらつく。

 その様子を見て得意げな表情を浮かる累を睨みながら、八幡は苦々しく言葉を吐いた。

 

「……毒か」

「そう。糸の表面に毒を塗ってあるんだ」

 

 累が両の手を広げる。

 全ての糸の照準が八幡へと向けられ、放たれる時を今か今かと待っていた。

 

「苦労したよ。だってお前、毒をかぎ分けるからさ。だから薄~く塗って気づかれないようにしたんだ」

 

「あと、毒自体も改良に改良を重ねたんだ。お前にバレないような毒を作り上げたんだよ」

 

「すごくない? 普通ならそこまで気を使わないけど、柱が相手だからね。細心の注意をこれでもかって払ったよ」

 

 

 

 直後、糸の巨波が八幡と襲いかかる。

 金剛石の類であろうと容易く貫く強度の糸が、何百本以上。文字通り細切れになるしかない

 自身の勝利を確信した苦累は薄く笑みを浮かべ……、

 

 

 バンッ!

 

「ッ!?」

 

 両肩に走る痛みによって苦悶の表情に変わった。

 

「(何が……!?)」

 

 毒はちゃんと聞いた筈。

 目の前の男が『あの力』を使ったのは肌で感じた。感じてしまった。

 だが先ほどの自分の妨害で『あの力』の発動を阻止できた以上、毒を喰らいながら使えるわけが── 

 

「この痣、毒も解除出来るんだな」 

 

 混乱する苦累に、雷龍を連想させる勢いの突進が繰り出された。

 

 

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