俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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上弦の参

 

 たっぷりと絞られました。

 

 いや~、やっぱり胡蝶姉妹が滅茶苦茶怒ってたわ。

 無理するなだの、勝手に鬼と戦うなだの、予想通りの内容だった。

 実際、累との戦闘では負傷したり毒のダメージ負ったからな。普段は無傷で任務を終わらせている分、余計に無茶な戦闘に見えたんだろう。

 この程度は必要経費と俺は割り切っているが、アイツらはそうじゃなかったらしい。

 怒ったのは胡蝶姉妹だけじゃない。宇随や錆兎、更にあの口下手な義勇まで怒って来た。

 いや、お前らの方が俺よりもよっぽど無茶してるだろ。この間、ボロボロになって壱週間ぐらい入院していただろ。ソレに比べたら俺の傷はかなり軽傷だろ。

 俺は決して無理しに行ったわけじゃない。ちゃんと勝算があり、一人で戦ってこそ意味があると確信したから一人で戦ったんだ。じゃなきゃ連絡なしに行くかよ。

 

「よし、完全復活だ」

 

 軽く体を動かす。

 傷跡も痛みもない。毒も完全に抜けきっている。

 普段通りに動ける。いや、むしろ万全の状態だ。

 今すぐにでも任務に行けるが、今日くらいは安静にしろと言われている。

 だから久々に遊んでみようかな。

 まあ、その前に柱合会議に参加しなくちゃいけないが。

 

「嫌だなあ、会議に召集されんの」

 

 絶対小言言われる。

 特に悲鳴嶋さんのが面倒くさそうだ。

 あの人いい人だけど、もう二十歳超えてる俺の事を未だにガキ扱いするからな。

 心配してくれるのはありがたいが、ソレが嫌なんだよ。

 まあ、報告は今日じゃないし、ゆっくり休んでからでもいいと言われてるから、今のうちに言い訳考えておくか。

 

 他の柱達も上弦の情報を直ぐに知りたかっただろうに、俺が回復するまで待ってくれるらしい。

 多少はしのぶからも聞いてはいるだろうが、やはり戦った本人から聞きたいのだろう。

 まあ、もう既に回復してるけどな!

 

「で、お前が見張りか、アオイ」

「そういうことです天柱様」

 

 俺は振り返って監視員に目をやった。

 

「貴方は昔から独断行動が目立ちます。いつもうまく行っているのは流石だと思いますが、少しは振り回される周りの気持ちも考えて下さい」

「大丈夫だ心配するな。俺がやることは必ずうまくいく」

「そこまでの過程が問題なんですよ! 最終的に上手く行っても、見ているこっちはいつもハラハラします!」

「……へいへい」

「なんですかその返事は!? そんなのだから柱になるのに五年も掛ったんですよ!?」

 

 いや、五年がデフォだから。というか、柱になれる時点ですげえと俺は思ってるんだけど。

 

「とにかく、私が見張り役である以上、勝手な行動は許しません!」

 

 

 

 

 

「お前も鬼にならないか?」

 

 

 で、なんでこんなことになったんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます比企谷さん、わざわざ荷物を持っていただいて」

「別にいいよこれぐらい」

 

 その日、八幡とアオイは町へ買い物へと行っていた。

 蝶屋敷は一目を忍ぶために町から離れており、買い物は一苦労。

 普段は担当の人間がいるのだが、今日は患者が一気に入院したせいで人不足となり、人手が割かれている。

 しかも、この買い物は専用の知識や目利きがいる上に、売り場が遠い。

 よって、買い出しにいける人間がアオイだけになり、監視対象である八幡は付いて行かざるを得なかった。

 

「じゃあ帰るぞ。乗りな」

「はい」

 

 荷物を車に詰め込み、発進させる。

 運転手は八幡。

 現代人だったおかげか、八幡は運転が上手い。

 とある任務で戦闘機を奪い、初めて乗ったというのに乗りこなした程だ。

 その後、お館様から暴れ過ぎとお叱りを受けて謹慎処分を食らったが。

 

「……けっこう揺れますね」

「こんなものだろう」

 

 自動車でデコボコ道を走る。

 運転は上手いのだが、流石にこの時代の車と道路で揺れずに走るというのが無理である。

 酔いそうになったのでアオイは外の景色を眺めた。

 

 帰り道の途中の小さな村。

 村人の住居が密集し、五十人に満たない程度の人がほそぼそと生活を送る小村。

 山の麓にいくつかの田んぼがあるだけの、何の変哲も無いはずの場所。

 もし、今回のような遠出でなければよる事すらしなかった。

 だから、コレは運が悪かっただけなのだろう。

 

「助けてください!助けてください!」

 

 必死で逃げ続ける女に出会ったのは10分程前のこと。

 日中ではあるが曇天の下で自動車を走らせていると、突然八幡が車を停止させた。

 彼曰く、嫌な悪寒がする。血の匂いと破壊音がすると。

 最初はアオイも訝しんだが、八幡の勘の良さは知っていた。よって八幡の指示通り車を降りて近場の村へ向かう。

 その道中だった、この女性と出会ったのは。

 

「何が?」

「男が……男が村人を殺して回っているんです…!家を殴り壊して、村の人を殴り殺て……!」

 

 女はその場に泣き崩れた。

 家を拳で破壊し、拳で人を殺す。

 八幡はコレを鬼の所業だと判断した。

 

「わかりました。助けます」

「お願いします…。主人が……皆が、まだ村に残っているんです」

「分かった、すぐ行く」

「ま、待ってください!」

 

 向かおうとする八幡をアオイは止めた。

 

「今の八幡さんは任務を禁止されています! ソレに、日輪刀もないのにどうやって!?」

「ここにある」

 

 八幡は刀を取り出した。

 常に日輪刀の持ち歩きは当たり前。

 羽織の中にも既にいくらかの武器を仕込んである。

 

「アオイ、お前は車で先に戻ってくれ。俺が鬼を倒す」

「け、けど……!」

「緊急事態だ。それともお前はこの人たちを見捨てるのか?」

「~~~~! 分かりました、すぐに戻って皆さんを連れて参ります!」

 

 アオイは迷うも八幡と別行動をとることを選んだ。

 監視の役目を放棄するのは心苦しいが、自分がいては足手まといになる。

 第一、今まさに襲われている村人たちを放っておくわけにはいかない。

 アオイは車に飛び乗り、八幡の見様見真似で発進させた。

 ソレを見送った八幡も動き出す。

 

 全力で駆ける。

 風のように疾く、雷のように迅速に。

 先程と同じように、逃走する女性や子供と何度かすれ違った。

 何故女性や子供ばかりなのか。そんな疑問が浮かぶが、速度を緩めることはなかった。

 

 辿り着いた村には、誰一人として生き残りはいなかった。

 辺り一面に転がる命だったもの。

 探す必要はない。ここには、もう生存者はいない。

 村中を濃厚な死の匂いが包み込んでいる。

 もし、この場に生存者がいるとするなら、ソレは人間ではないだろう。

 

「……テメエがやったのか?」

 

 八幡がゆっくりと振り返る。

 そこには一人の青年……いや、一体の鬼がいた。

 

 灰色の肌に紅梅色の短髪、同細身ながらも筋肉質な体格の若者。

 上は素肌に直接袖のない羽織、下は砂色のズボン状の道着。

 顔を含め全身に藍色の線の紋様が浮かんで8おり、黄色い瞳には各々に“上弦“と”参”の文字が刻まれている。

 

 上弦の参。

 

 その事実を認識した途端、八幡の手が僅かに震えた。

 震えを無理やり抑えようとするも、止まることはない。むしろ、認識すればするほどに、その実感が湧いてくる。ソレほどに、参という数字は重く圧し掛かった。

 

「背中に龍が描かれた羽織に長い髪。……お前が苦累を殺した柱だな」

「……だったら何だ?」

「お前を殺せと命を受けている。だがその前にお前の名を聞きたい」

「……天柱、比企谷八幡」

「俺は猗窩座。見ての通り上弦の参だ。……八幡。お前に素晴らしい提案がある」

 

 

「――お前も鬼にならないか?」

「…………は?」

 

 意外すぎる誘いに八幡はキョトンとした。

 動揺も気にせず、猗窩座は言葉を続ける。

 

「お前の強さは見れば分かる。隠してはいるが今にも飛び掛かりそうな勢いの闘気と殺気。まるで獣……いや、妖獣のようだ。闘気は兎も角、其処まで練り上げられている殺気は見た事がない」

「………」

「だが人間には限界がある。寿命に縛られる限り、至高の領域に辿り着くことは出来ないだろう。だから八幡、鬼になろう。鬼なら永遠に鍛錬が続けられる」

「……鬼の力、か。確かに魅力的な提案だ」

 

 八幡の言葉に猗窩座はパァといった笑みを浮かべた。

 

「今度は俺が質問する番だ。……村人を殺したのはお前だな?」

「そうだ。柱なら、こうすれば必ず来るだろうと思っていた」

「……俺をおびき寄せるためだけに、殺したのか」

「そうだ」

 

 その返答を聞いて、八幡の柄を握る手に力が入った。

 

「何を怒る。お前が鬼を殺すように、俺は人を殺す。強者が弱者を狩るのは当然の理屈だろう」

「……そうだな、弱いものは喰われる。動物も人間も……鬼もな」

 

 

 

 

 

「お前の提案は却下だ。さっさと俺に食われろ」

 

 

【天の呼吸 雷の型 晴天霹靂】

 

 

 雷の如き一撃が、上弦の参目掛けて飛び掛った。

 

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