俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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楽しい

 

 

 その日は、胡蝶カナエにとっていつも通りの日常の筈であった。

 

 任務を終えて屋敷に戻った彼女は、身を清めて床につく。

 大した相手ではなかったが、遠出で疲れた彼女はすぐ眠りについた。

 起きたのはその数時間後。慌ただしく屋敷を走り回る音で目が覚めた。

 

 何を騒いでいるのか。

 若干微睡む目をこすってカナエは起き上がった。

 そして寝巻きのまま廊下を歩くと、一人の少女が慌ただしく走ってきた。

 

「カナエ様!」

 

 アオイだった。

 八幡のお目付け役を引き受け、彼と一緒に買い出しに行っている筈の彼女。

 だというのに、アオイの傍には八幡がおらず、その上彼女は血相を変えている。

 異常事態が起きている。そのことに気付いたカナエは眠気を無理やり吹っ飛ばした。

 

 

「カナエ様!」

 

 少女の声に振り返れば、そこに居たのはアオイだった。

 

「アオイ、そんなにに慌ててどうしたの?」

「はい、実は・・・」

 

 アオイが今にも泣きそうな顔で言葉を続けた。

 

「天柱様が、上弦の……参と交戦……しており、ます」

 

 ソレを聞いた途端、カナエの呼吸が止まった。 

 その言葉を理解出来たのはその数秒後。

 思い出したかのように常中の呼吸を行い、すぐさま自室へと駆けて日輪刀と隊服を取り出す。

 

「カァー! 比企谷八幡、上弦ノ参ト交戦中! 冨岡義勇、胡蝶カナエ、直チニ迎エ!」

 

 言われるまでも無い。

 最悪の事態を回避する為、カナエは全力で走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【破壊殺―――】

 

 

 隕石のような拳撃。

 流星群のような蹴撃。

 瞬く間に塵と化すような災厄の数々。

 ソレらを迎え撃つのもまた、天災の如き剣戟であった。

 

 

【天の呼吸―――】

 

 

 力強く迅きこと雷の如く。

 激しく疾きこと嵐の如く。

 静かに連なること雨の如く。

 深く動かざること雪の如く。

 知り難く変幻なこと雲の如く。

 天災を再現した剣技が災厄を切り払う。

 

 天災と災厄。

 雷霆と隕石。

 どちらが上かと言われたら後者を選ぶであろう。

 だが、八幡と猗窩座との間では少し違っていた。

 

 

【破壊殺 鬼芯―――】

 

【天の呼吸 嵐の型 嵐影湖光】

 

 

 災厄を、天災が打ち破った。

 

 終始優位なのは八幡(天災)の方であった。

 猗窩座の攻撃を打ち破り、技を繰り出す瞬間を潰し、逃げ道を奪う。

 何とか凌いでいるものの、天災はジワジワと侵攻し、猗窩座を追い詰めていく。

 

 剣先の刺突を避け、刃の斬撃を防ぎ、剣士の技を受け流す。

 一つ対処すれば、間髪入れず次の攻撃が飛んでくる。

 後手に回らされている。反撃しようとしても、すぐさま潰される。

 追い詰められている。逃げようとしても、すぐさま先を越される。

 雨のように降り、嵐のように荒れ、雷のように激しい剣戟を、猗窩座は必死に凌いでいた。

 逆に、猗窩座の攻撃は全て避けられ、捌かれる。

 スルスルと液体のように動き、懐に飛び込んでは再び間合いを侵略。攻撃へと移る。

 

 鬼身と魔感と龍痣の同時併用。

 通常時より速く、通常時より早く、更にソレらを強化。

 心拍の上昇による速度上昇と、人為的なタキサイキア現象と、龍痣。

 鬼人の速さと魔人の早さを手にした今の彼は、雲を得た龍のようであった。

 

 

【破壊殺 拳式―――】

 

【天の呼吸 嵐の型 太刀風・烈風】

 

 

 斬撃を飛ばして右腕を切断。

 猗窩座の攻撃が来る前に無力化させる。

 

 

【破壊殺 脚式 冠先割】

 

【天の呼吸 雲の呼吸 霧隠れ】

 

 

 蹴撃を霧のような歩法で回避。

 猗窩座の攻撃を実体がないようにすり抜けた。

 

 

【破壊殺 崩式―――】

 

【天の呼吸 雷の型 晴天霹靂】

 

 

 凄まじい速度で猗窩座に接近。

 懐に飛び込んで何かする前にソレを潰した。

 

 

「(俺の力が…全く通じない!)」

 

 猗窩座は焦りに焦っていた。

 自身の技が全く通じない。

 避けられ、受け流され、防がれる。

 だがこんなものはまだマシ。大半は動く前に潰される。

 歯が立たない。これではまるで……奴のようではないか。

 

「(上弦の……壱!)」

 

 猗窩座の脳裏に、最強の剣士の姿が浮かんだ。

 

 

 

「(よしこのまま押しきる!)」

 

 対する八幡もまた余裕はなかった。

 八幡は決して出し惜しみも手を抜いていたわけでもない。

 切り札を出すタイミングを窺っていただけである。

 

 猗窩座には、これといった攻略法がない。

 他の鬼達と違って、血鬼術は単純な身体強化のみ。

 圧倒的な鬼としての自力で潰してきたという単純なものだ。

 下手な小細工は通じない。下手に切り札を出しても通じない。故、気軽に奥義を出すわけにはいかなかった。

 だから、切り札を一度出した以上、ここで仕留めなくてはならない。

 ここで逃せば、その代償は高く付き、その命で償わなくてはならないことになるのだから。

 

 

【天の呼吸 雷の型 轟雷】

 

 

「ぐわッ!?」

 

 八幡の斬撃によって、猗窩座は弾かれた。

 バランスを崩したその隙に八幡は背後に回り込む……。

 

 

【破壊殺 脚式 冠先割】

 

【天の呼吸 雲の型 入道雲】

 

 

 幻影。

 猗窩座が蹴り飛ばしたのは八幡ではなく、八幡が飛ばした殺気であった。

 鋭い蹴りは空振りとなり、その勢いのせいで更に隙を晒す事になる。

 

 

【天の呼吸 雷の型 早鳴り】

 

 

 その隙を突いて、刀が猗窩座の首を捉えた。

 しかしソレだけでは力が足りない。

 八幡は首を落とす為に力を入れる。

 

「ぐ…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 猗窩座もまた力を入れる。

 首を斬り落とされんと、首にありったけの力を込めた。

 

 力を込める。

 迫り来る刃を弾く為。

 

 力を込める。

 己を押し込む重りを弾く為に。

 

 力を込める。

 弱かった頃の自分を弾き飛ばす為に。

 

 

『もうやめて』

 

 

 

 ふと、女性の声が脳裏に過った。

 知らない筈の声、しかし何処かひどく懐かしくて好ましい。

 だが、今はソレどころではない。早くこの場を切り抜け、反撃しなくては。

 

 

 

『もう十分。○○さん、これ以上は……っ』

 

 

 

 

 

《強く成りたかったのではないか、猗窩座?》

 

 

「!!!」

 

 唐突な無惨の声が、猗窩座の意識を鬼のソレに変えた。

 

 鬼気迫る猗窩座。

 彼の気迫に呼応して、無惨の血が急速に適応を早める。

 鬼と化した猗窩座の精神は女の声をかき消し、戦い一色に染めた。

 

「俺は…強くならなくてはいけないんだ!!」

 

 湧き上がる力を爆発させるかのように、猗窩座は吠えた。

 ソレに呼応して猗窩座の肉体が変化。

 全身から蒸気が立ち、オーラを纏う。

 実体を持った闘気は八幡の刃を弾き飛ばす。

 更に猗窩座の肉体を包み込んでその姿を変えた。

 

「おおおぉぉ!」

 

 変化した猗窩座が飛び掛かる。

 先程とは比べ物にならない速度。

 八幡はソレに驚きながらも戦闘を続行。

 龍と鬼の剣戟と拳撃が再びぶつかり合った。

 

「!!? (な、なんつースピードとパワーだ!?)」

 

 猗窩座の唐突なパワーアップに驚きながらも八幡は対応する。

 拳の乱舞を刀で受け止め、衝撃を流す。

 やることは何も変わらない。その筈なのだが……。

 

「(クソ、これはマジい!)」

 

 圧倒的なパワーとスピードはソレを不可能にする!

 

 いくら技量があろうが、降り注ぐ隕石を、その衝撃を見切り受け流せるわけがない。そんなことが出来るならソイツは人間じゃない。

 単純明快に強い。これこそ猗窩座の強みである。

 そしてもう一つ……。

 

「(見える…見えるぞ! 奴の攻撃が何処から来るのか全て分かる!)」

 

 今の猗窩座は、八幡がどう動くか全て見えていた。

 分かるではない。文字通り全てが視えている。

 破壊殺・羅針の糸。

 原作で炭治郎が見ていた隙の糸を血鬼術によってより高次元に再現したものである。

 

 

【天の呼吸 嵐の型 嵐影湖光】

 

【破壊殺 砕式 万葉閃柳】

 

 

 拳撃が剣戟の嵐を吹き飛ばした。

 たった一発。だというのにソレで八幡を弾き飛ばす。

 

 

【天の呼吸 雲の呼吸 霧隠れ】

 

【破壊殺 滅式】

 

 

 拳の乱舞が八幡の幻影を吹っ飛ばした

 周囲全て吹き飛ばし、幻も本体も全部弾き飛ばす。

 

 

【天の呼吸 雷の型 晴天霹靂】

 

【破壊殺 終式 青銀乱残光】

 

 

 接近した八幡を吹っ飛ばした。

 先に動いた筈の八幡をソレ以上の速度で弾き飛ばす。

 

「ぐあッ!?」

 

 猗窩座の蹴り上げによって吹っ飛ばされ、木葉のように舞う八幡。

 完全に無防備な状態の彼に、猗窩座の拳が繰り出された。

 

「(クソ…全然通じない!)」

 

 八幡は焦りに焦っていた。

 自身の技が全く通じない。

 力尽くで全部弾かれ、吹っ飛ばされる。

 全部力技だ。今まで培った技術を全て力のみで封殺された。

 理不尽。

 この戦いはこれに尽きる。

 

 

 痛い。

 殴られ、蹴られた箇所が痛い。

 特に、背中が猛烈に痛い。

 

 悔しい。

 磨き上げた技術が通用しない。

 自分なりに最善の努力をしてきたつもりだ。

 だというのに、こいつはその技術を軽々と力だけで容易く打ち返してくる。

 

 

 怖い。

 一撃を喰らうどころか、掠るだけで死ぬには十分な拳。

 打ち合う度に、死ぬかもしれない力と向き合わなければならない。

 次の瞬間には死んでいるかもしれない。

 

 だというのに。

 

「……ハハ」

 

 口から笑い声が溢れる。

 

 こんなにも痛いのに。

 こんなにも悔しいのに。

 こんなにも怖いのに。

 

 

 

「アハハ…」

 

 笑顔になる。

 笑うべきではないのに。

 苦しみ、怒り、憎むべきなのに。

 だというのに、笑いを抑えられない。

 

 笑う度に、心が軽くなっていく。

 笑う度に、頭が冴えていく。

 笑う度に、力が溢れてくる。

 

「あっハッハッハ!」

 

 抑えきれない。

 笑うことを、解放することを。

 

 自分を縛る何かが砕ける。

 自分を封じる何かが崩れる。

 自分を閉じ込める何かが壊れる。

 

 ああ、そうだ。

 そういうことだったんだ。

 余計なものなんて、最初から要らなかったんだ。

 

 ああ、そうだ。

 戦うのは、こんなにも。

 

 

 楽しい!

 

 

 いい気分だ、

 実に、いい気分だ。

 まるで宙に浮いたかのよう。

 ああ、今なら何でも出来そう気がする。

 

 

【天の呼吸 奥義・参(サード) 常世心地】

 

 

 

 

 

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