翌日、俺は柱合会議に参加することになった。
前回は回復まで待ってくれたが、こうも連日で上弦と戦うことになったせいで遂にお館様が痺れを切らしてしまった。
お館様の方からもう待てないと指名され、こうして怪我が残る身でありながら会議に参加する事になった。
「(ったく、何をいまさら報告することがあるんだ 上弦についての報告書はもう出した筈だぞ)」
ガラリと襖を開けると、全員の視線が俺に向かった。
既に全ての柱が揃っている。
おい、まだ会議が始まる五分前だぞ。
「やっと主役が来たか。お前はソコに座れ」
宇随は俺に手招きしながら反対の手でど真ん中を指さした。
え、俺が最後なのにソコ座るの? 悲鳴嶋さんの隣でかなり窮屈なんだけど?
「比企谷、上弦との戦いはどうだった?」
「報告書は既に書いた筈だ」
「お前の口から聞きたいんだ」
「………後で説明する」
他の柱もちらちらと俺のことを見ている事から、全員が気になっているのだろうが、教えてやらない。
どうせお館様が来たら話すんだ。なら同じ事を二度言わなくてもいいよな。
「やあ、待たせたね」
奥の襖を開けてお館様が現れた。
「それじゃあ、柱合会議を始めようか」
「では俺か。……上の情報についてです」
さっさと話して帰りたい俺は最初の発言権を取った。
いつもは俺以外なのだが、どうやら他の柱も上弦の話を聞きたいらしい。
ちゃんと報告書書いて全員に読むよう回したんだけどな。
よって大分端折って話す。
途中、俺の報告書を丸写しした資料が配られたのだが、ソレがあるなら最初から出せや!
「コレは私見ですが、上弦の参以上は最低でも柱級が三人必要です。それと再生力がそれ以下の数字の鬼より桁違いに強く、ただ首を斬るだけでは足りません。切断面から再生を図るでしょう。なので頸を斬り即座に身体を遠ざける必要があります」
あの時、猗窩座の首を蹴り飛ばしでもすれば、俺はアイツを倒せていたはずだった。
クソ、今度会ったらアイツの首を俺が絶対に切り落としてやる。
「……そうか。よく生きて帰ってきてくれたね、八幡」
「いえ。参を討ち取れなかったのは私の失態です。次はこの身を犠牲にしてでも奴の首を討ち取ってみせます」
少しかっこつけて言うと、後ろにいる宇随が噴き出しやがった。
おい、それどういう意味だ。俺も少し寒いと思ったが何も笑う程じゃないだろ。
「それじゃだめだ。八幡は上弦を二体も倒し、参を撃退した貴重な柱だ。無惨討伐の為に無くすわけにはいかない」
「勿体なきお言葉です。……あと、これは私からの提案なのですが…」
「この私を囮に上弦をおびき出してはどうでしょうか?」
俺がそう言った途端、会議の場が少しざわついた。
「確か、上弦の参は君を狙っていたようだね?」
「ええ。前回、奴は天柱だと聞いてきました。どうやらある程度の情報は向こうに行っているようです」
「……なるほどね」
「お館様、私からもよろしいでしょうか?」
突然、不死川が手を挙げる。
「ソレならば、比企谷さんの周囲に一人だけ柱を配置してはどうでしょうか?」
「おい不死川、ソレじゃあ他の任務に支障をきたすだろ」
「その心配はない。柱のほかに有望な隊士は何人かいる。柱一人だけなら欠けても補える」
「俺も派手に賛成だ。第一、悲鳴嶋さんと互角の貴様が欠ける事態になる方が支障をきたす」
「宇随、お前まで……」
え~、誰かと一緒なんて俺嫌なんだけど。
出来るなら、俺は獲物を独占したいんだけど。
「俺も賛成だ。男なら、一人だけに頼らず己の手で上弦を取りに行く」
「問題ない。(死なせるわけにはいから全力で)八幡を守ってやろう」
「上弦が来ると分かってるなら好都合よ。皆で一気に結着を付けるわ」
誰も反対する様子はなかった。……俺以外は。
あと義勇、お前は括弧の中をちゃんと言え。だから誤解されるんだぞ。
あと錆兎、御前崎市もフォローしてやれ。義勇の世話係はお前だろ。もしかして面倒になった?
「よし、反対はないようだね」
こうして俺の意見は封殺されて柱合会議は終了。
もう要はないので帰ろうとした途端、俺の肩を宇随が掴んだ。
「おい、何帰ろうとしてんだ?」
「んだよ、全部話したろ?」
「それじゃねえよ」
「今日は上弦と戦った英雄を祝して宴会だ!」
は?
「あの野郎ども、こんな時間まで飲ませやがって…」
宴会が終わって帰路につく。
いつも通りの展開だ。
不死川が義勇の言葉足らずに苛ついて、その様子を宇随が笑い、カナエと錆兎が止める。俺と悲鳴嶋さんはソレを少し離れて眺める。
ああ、いつもの光景だ。
この光景がいいと最近になって思うようになった。
誰一人欠ける事なく再び集まり、次も全員で生き残ろうと誓い合う。
ああ、認めよう。俺はこの世界が好きになっていると。
確かにこの世界は危険で生きにくい。
冷暖房も図書館もネットもウォシュレットもサイゼもない。
飯も元の世界に比べたら貧相で自由度が著しく低い。
家事も家電がないから滅茶苦茶大変だ。
今思えば、元の暮らしは天国みたいに恵まれていたと感じる。
しかも、この世界には鬼という天敵が跋扈しているのだ。マトモに暮らせるわけがない。
こんな世界、たとえ特典があっても元の俺なら行きたいとは思わなかった。
けど今は違う。この世界で、俺は色んな
鱗滝さんに弟子入りして義勇達と会ってしまった。
鬼殺隊に入隊して宇随たちと会ってしまった。
天柱に就任して不死川たちと会ってしまった。
自分だけ安全な世界に帰るには、多くの人と縁を築いてしまった。
対する元の世界はどうだ?
確かに物や環境はいいが、大事な縁は何もない。
この世界に来る前の俺はボッチ。その上、両親とも仲がいいとは言えない。
だったら、こっちの世界にいた方がいいんじゃないか。
苦楽を共にし、同じ目的を有する仲間のいる世界に。
無論、小町は心配だ。だから、元の世界に戻れるなら戻って一度顔を見たい。
けどソレだけだ。もし今戻れたとしても、俺はまたこの世界に行く。
第一、俺は元の世界に帰れるのか?
生きる為に死に物狂いで鍛え、力を付けた。
帰るために鬼殺隊へ入隊し、金と情報を集めた。
何時かは帰れると、鬼なんて危険生物がいるこの世界から戻れると信じて。
そうやって鬼を狩り続けて数年後、今の俺は鬼殺隊の最上位である柱になってしまった。
もうこの世界の抵抗感はなくなり、完全に順応している。
鬼への恐怖心は既に無くなり、積極的に鬼狩りを続けている。
今の俺は、完全にこの世界の住民になってしまった。……いや、それ以上か。
第三の奥義。アレは心の底から楽しみ、その快楽に溺れる事が発動条件だ。
つまり、俺は人斬り成らぬ鬼斬りを心底楽しみ、その快感を受け入れていることになる。
鬼狩りは楽しい。
不謹慎だが、それ以上に強くなりたい気持ちが勝っている。
猗窩座との戦闘で気付かせられた。俺はまだまだ強くなれると。
第三の奥義、常世心地、アレにはまだ先がる。
宙に浮いたその先。あのまま天へと……その先の境地へと!
「(……まあ、ソレも鬼を倒し切ったらおじゃんか)」
そこまで考えて俺は頭を振る。
鬼を全滅させるとか、帰る手段を見つけるとか、そんな皮算用をする余裕があるのか。
今の俺は上弦の鬼に狙われている。俺を追い詰めた猗窩座よりも強い鬼が弐体も控えているんだ。
先の事、しかも出来そうにもないことを考えるよりも、まずは生き残ることを考えるべきだ。
けど、ソレが解決したら……。
もし、このまま元の世界に帰れなかったら。
もし、このままずっと無惨を倒せないたら。
その時は、この世界―――仲間がいるここで骨を埋めるのも悪くないか。