俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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最期の賭け

 

「カハ……」

 

 カランカラン。

 八幡の手から、折れた刀が力なく抜け落ちた。

 

「心臓を…潰した…。もうお前は…死ぬ……」

 

 淡々と黒死牟は語るが、八幡がもう戦えない原因はそれだけではない。

 八幡に虚哭神去を刺したと同時、大太刀に変える要領で体内に刃の根を拡げてズタズタに引き裂いたのだ。

 しかも、血鬼術で追い打ち。ここまでやられたら、もう助かる可能性はない。

 まもなく、八幡は死ぬ。このまま何もしなければ……。

 

「そいつは……どうか、な……!」

 

 盛大に血を吐きながら、八幡は黒死牟の首に噛みついた。

 折れた刀によって付けられた傷口。

 未だ塞がってないそこから流れ出す血を、彼は啜った。

 

「!? 貴様、まさか…!」

 

 その意図に気付いた黒死牟は驚いて八幡を突き飛ばすが、少し遅かった

 

 ブリュッ。

 突き飛ばされながら、いつの間にか取り出した短刀で黒死牟の目を一つ抉り、目玉を手にする。

 そして、ソレを黒死牟に見せびらかすかのように喰らった。

 

「貴様…自分が何をしているのか…知っているのか……!?」

「……ッハ、どうせ死ぬんだから……人生最大の、博打ぐらい…打ってもバチは当たらねえだろ? ……生きるか、死ぬかの…大博打だ」

 

 八幡の意図。ソレは、無惨の血を取り込んで鬼化する事。

 どうせこのままでは死ぬ。なら、最期に部の悪い賭けに出るのも悪くない。ソレに……。

 

 

「それに俺、博打が強いんだぜ?」

 

 彼は、この賭けで負けるとは微塵も思っていなかった。

 

 

 

「ッガ―――」

 

 八幡の身体に異変が起き始めた。

 全身の血が針のように逆立つ激痛に、八幡はのたうち回る。

 遅れて体中に走る痺れ。全身の血管を伝って、鬼の血が全身に行き渡る。

 それに続き、筋肉や骨や神経や皮膚…。肉体のあらゆる部位を、全身の細胞一つ一つに至るまで全てが変化を遂げていく。

 強靭な肉体。頑丈な骨格。野生生物を凌駕する感覚。

 この一瞬、比企谷八幡が別の生物へと書き換えられていく……。

 

 

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!」

 

 八幡は醜い肉塊へと変じた。

 

 全身から触手が生え、急成長しながら八幡を包み込む。

 やがてそれは八幡自身を食らい、更に巨大化な肉塊へと成長した。

 

「愚かな…。確かに、私の血の濃度は…あの方に最も近い…。だが…あの方が許可しない限り…血に効果は無い…」

 

 

「最期の最後で己でなく他の力に頼るなど軟弱千万…! 失望したぞ、比企谷八幡!」

 

 黒死牟は八幡だった肉塊に刀を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全く、無茶するな。まさか上弦の壱と戦う為に無惨様の血を取り入れるなんて。しかもよりによって黒死牟さんからなんて』

 

『けど、やっぱり血肉が足りないから飢餓状態になっている。きゃ、これはもうその域を越えて飢餓に潰されているね』

 

『じゃあ、僕の血肉と力をあげるよ。もう僕には要らないし……あの時のお礼もあるからね』

 

 

 八幡の懐に入れられた白い糸の塊が解けて、肉塊の中で解けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒死牟が肉の繭と化した八幡を真っ二つに切り裂こうとした瞬間……!

 

 

 パッカァーン!

 

 肉塊を突き破って何かが飛び出した!

 

 

 

「!?」

 

 咄嗟に刀で受ける黒死牟。

 飛び出したナニかは、黒死牟を突き飛ばしながら天へ舞う。

 その姿を黒死牟がその六つ目で捉えた瞬間、驚きのあまり全ての目が大きく開いた。

 

 腰まで伸びた白金色の髪。ソレは月光を虹色に反射させている。

 ギリシア彫刻の如く鍛え上げられた肉体。何も身に着てない上半身には龍のような紋章が刻まれ、背中から七色に光輝く翼を広げて宙に浮かんでいる。

 黄金色に輝く左右の瞳には其々“上弦”の“零”と刻まれていた。

 

 美しい。

 天人が夜空に舞い降りたかのような美しさ。

 煌びやかさのあまり、黒死牟はその天人が鬼であり、八幡だと気付くのが遅れた。

 

「まさか…あり得ん……!」

 

 黒死牟は眼前の存在を信じられなかった。

 無惨が許可しない限り鬼にはならないというのに、八幡は鬼と化しているではないか。

 しかも唯の鬼―――生まれたての雑魚鬼ではない。

 自身と同じ上弦の鬼。同格へと進化している。

 おかしい。有り得ない。こんな不条理、あっていい筈がない!

 あまりにも理不尽かつ不可解な現実を黒死牟は受け入れられなかった。

 

 

【天の術式 光彩羽毛飛剣(シャインフェザーカッター)

 

 

 だが、相手はいちいち待ってくれない。

 鬼化した八幡は黒死牟目掛け血鬼術を行使。

 光翼から羽に酷似した無数の光の刃を放った。

 

 

【月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月】

 

 

 迎え撃つ黒死牟。

 回転鋸のような形状の斬撃を複数繰り出し、羽毛の手裏剣を巻き込む。

 羽刃と月刃がぶつかり合い爆発。発生した衝撃波によって辺りが吹き飛ばされ、土埃が舞った。

 

 

【天の術式 龍剣爪腕刃(ドラグネイルセイバー)

 

 

 土埃の煙幕の中、八幡が黒死牟目掛け突撃。

 空から急加速で接近しながら、腕から黒色の刃を生やして斬りつける。

 ソレを黒死牟は己の型で防ぎ、激しいぶつけ合いを開始した。

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 

 雄たけびをあげながら一歩も譲らない剣戟を拡げる。

 八幡が黒死牟の胸元を斬りつけたかと思いきや、次の瞬間には黒死牟が八幡の胸元を斬りつける。そしてその逆をと、繰り返す。

 その有様はまるで一つの演劇。まるで最初から決まっているかのよう。ソレほどまで両者の実力は拮抗していた。

 

「同じ鬼、同じ技量、同じ上弦! この一夜で、俺はお前たちの土俵に上がってみせたぞ!」

 

 美麗な顔を獰猛な笑みに歪めながら八幡は叫ぶ。

 彼の言う通り、たった一晩での八幡は上弦並み……いや、黒死牟級の力を手にした。

 力の使い方は理解している。剣士としての直感と経験、そして今まで戦ってきた鬼の情報を基にして。粗削りではあるが、鬼として初陣であるというのに使いこなしている。

 柱の中でも最強格であった彼が、上弦の中でも最強格となったのだ。その強さ、もう誰にも止められない。

 

「舐めるな…小童が! 」

 

 ソレを否定する黒死牟。

 上弦の壱としての矜持が、八幡の発言を許容出来なかった。

 彼は五百年の時を生き延びた悪鬼。積み重ねたモノが違う。ソレをたった一晩で同格?……笑止千万。舐めるな小僧が。

 比較的若い上弦の弐だって百年は経たのだ。生まれたての赤子ごときが上弦を名乗るな。

 

 

【月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月】

 

【天の呼吸 雷の型 雷鳴轟轟】

 

 

 月刃と雷光がぶつかり合う。

 エフェクトでしなかった筈の雷が血鬼術となって現実となり、その威力を以て光と爆発をもたらす。

 

「この!」

「くッ!」

 

 爆発に押され、地面を転がる両者だったが、すぐに起き上がりすぐさま行動に出る。

 八幡は上空へと飛び立ち、黒死牟は下がって虚哭神去を大太刀へと変化させる。

 両者共に、大技を放つつもりである。

 

 

【月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え】

 

【月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月】

 

【月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月】

 

 

 次々と月刃を創り出す黒死牟。

 視界全てに刃の嵐が映るその光景は絶望の一言。

 だが、ソレを目にしても八幡は余裕の笑みを崩す事はなかった。

 

 

【天の術式―――】

 

 

 八幡の身体に電光が走る。

 バチバチと音を立て、一瞬で雷の如き輝きへと変貌した。

 

 

(ダーク)―――】

 

 

 右手に電流が迸る。

 

 

穿つ(ブレイク)―――】

 

 

 左手にも電気が溢れる。

 

 

【―――雷閃(サンダー)

 

 

 膨大な電流は両手の間に収束され、巨大な雷の槍と化した。

 自然界ではあり得ない規模と威力の雷。

 ソレは雨霰の如く迫り来る月刃をかき消し、黒死牟へと向かっていった。

 

「舐めるな!」

 

 しかし黒死牟も黙っちゃいない。

 すぐさま新しい刃の嵐を追加し、雷の槍を飲み込まんとする。

 ソレに対抗して雷を出し続ける八幡。やがてソレは大爆発を起こし、衝撃波によって二人は再び吹っ飛ばされた。

 

「「まだだ!!」」

 

 人外同士の(殺し合い)はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、鬼殺隊は甚大な被害を被った。

 上弦二体の襲撃。上弦の壱と弐によって、柱がやられた。

 

 花柱、胡蝶カナエ。―――上弦の弐、童磨によって重傷を負わされ、現在療養中。生きて帰れたものの、肺を酷く痛めている為、柱としては復帰不可能。

 

 海柱、鱗滝錆兎。―――上弦の壱、黒死牟によって右腕を切り落とされた。容態は安定しているが、もう刀を振れない体となってしまった。柱として復帰不可能。

 

 天柱、比企谷八幡。―――上弦の壱、黒死牟によって殉職。駆け付けた頃には遺体も見つからず、現場には夥しい血痕と凄まじい戦闘の跡が残っていた。柱として復帰不可能。

 

 柱三人の戦死及びリタイア。この情報は瞬く間に隊中に広まり、より上弦への畏怖を強める事になる。

 

「八幡、早く帰って来い……」

 

 だが、一部の者、特に生き残った柱たちは八幡の生存を信じていた。

 

 上弦は確かに強かった。

 負傷していた弐だけでも駆け付けた残りの柱と相手取り、朝まで粘る事しか出来なかった。

 右腕を失い、全身の所々に切り傷が刻まれていた童磨と名乗っていた鬼。あれ程までに消耗していたというのに、自分たちは倒すことが出来無かった。

 不甲斐なさと力の無さを呪いながらも、あれ程までに上弦の弐を追い詰め、命と引き換えに上弦の壱と戦った八幡に再び畏敬の念を抱く。

 いや、だからこそ信じているのだ、八幡は生きていると……。

 

 

 

 

 

 

 

「オメエ絶対生きているだろ! じゃなきゃ上弦の壱の情報なんて用意出来ねえだろうが!!」

 

 宇随は八幡からの手紙を畳に叩きつけながら叫んだ。

 




八幡が鬼化する展開は前々から考えてました。
というのも、初期安では八幡が最初から鬼でした。けど、ソレじゃあ前作の焼き増しになるので、ギリギリまで鬼にしないことにしました。流れ的には一般隊士→柱→鬼という順番です。
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