天柱──比企谷八幡の訃報は直ぐさま鬼殺隊全体に広まった。
ある柱は静かに涙を流し、ある柱は悔しそうに顔を歪ませながらも任務に打ち込み、ある柱は更に過酷な修練を重ねた。
多くの者が涙を流し、皆が口をそろえて言った。あの男こそ歴代の柱最強だと。
入隊当初からあらゆる任務を無傷でこなし、あらゆる技術を身に着け、あらゆる鬼の首を斬って来た。
柱に就任してからは困難な任務を易々とこなし、ここ百年近く誰も成し得なかった上弦の鬼の討伐を二度も行った。
そして、上弦の弐を討伐間際にまで追い込み、上弦の壱を相手に単独で粘った。
数々の偉業を成し遂げた逸材。まさしく最強の柱と言ってもいい。
だが、そんな彼でも上弦の壱には勝てなかった。
「比企谷さん……」
カナエは病室のベッドで横になって呟いた。
治療が間に合ったおかげで命だけでなく、隊士として戦える状態にまで回復できた。
彼女は再び刀を手に取るであろう。まだ、戦えるのならその命尽きるまで戦うはずだ。
あの日の誓い―――かつて、妹と交わした約束を果たすために。
けど、もしここにあの人も居てくれたら……。
フワっと、そよ風がカナエの髪を撫でた。
「っ!? ひき……う、宇随さん?」
咄嗟にあの人の名を呼び、振り返る。
だが、そこにいたのはあの人ではなく音柱宇随天元だった。
「……わりぃな、比企谷じゃなくて」
病室に入ってきた天元にカナエは慌てながら立ち上がった。
宇随は特に何も喋ることも無く、カナエの側まで近寄り、長細い包みをカナエに渡す。
ソレを見た途端、カナエの脳はフリーズした。
「……胡蝶、スマン。……間に合わなかった」
それだけ言うと、天元は何も言わず直ぐさま病室を……蝶屋敷を離れていった。
数秒程、カナエは訳が分からず困惑した。
何故、彼が謝る必要があったのだろうか。
この包みの中は何なのだろうか。
否、全部分かっている。
カナエは震える手でゆっくりと布を解いていく。
そして、その中身を見た瞬間、膝から崩れ落ちた。
「ッ!? あ…あああぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
血濡れの折れた虹色の日輪刀と、血塗れの龍の羽織り。
それが何を示すのか、痛いほど理解していた
「……錆兎、お前それって……」
義勇は同門である錆兎の恰好が何時もと違うことに気がついた。
羽織の柄が違う。片方はいつもの亀甲柄に、もう片方は背中に龍が描かれている。いわゆる片身替りというやつだ。
「……ああ、八幡がいつも着ていた龍の羽織だ」
八幡が持っていた龍の羽織の一つ。
背中に双頭の龍が描かれたモノを、錆兎は半分に切って自分の羽織に繋げていた。
「義勇、俺は俺を許せない。何も出来ず、無様に負け、八幡を死なせた俺が!」
「………」
「八幡は上弦の弐を撃退し、カナエを守りきった。なのに俺は……俺は!」
「男ならば…鬼殺隊の柱ならば! 命を課して奴を食い止めるべきだった! 八幡が命を懸けて上弦の壱を食い止めたように! 俺も……俺も!」
「……錆兎」
義勇には、錆兎の気持ちが痛い程に理解出来た。
あの時、自分が間に合っていれば、もっと早く駆け付けていれば、八幡を援護出来たかもしれない。
だが、そんなことをいまさら言っても仕方ない。八幡が上弦にやられたという事実は覆らないのだから。
「……義勇、俺は決めたぞ。俺は……上弦の壱を倒す!」
「!? けど錆兎、その腕じゃ……」
義勇は錆兎の片腕……木造の義手を見つめた。
上弦の壱との戦闘で失った片腕。
残った腕で刀は振るえるが、柱としては復帰不可能。いや、片腕では戦闘自体困難。これではとても上弦と戦えるわけがない。
「……義勇、お前の言いたいことは分かる。この腕じゃとても戦えない。第一、五体満足だった状態でも上弦の壱に勝てなかった。だから……」
パサッと、錆兎は義勇に羽織を投げ渡した。
「お前も俺と一緒に戦ってくれ」
受け取った義勇はソレを拡げる。
何時も義勇が着ている羽織を半分にして、背中に双頭の龍が描かれた羽織を繋げた片身替。ちょうど錆兎の着ている双頭の龍と反対だ。
「これって……」
「一緒に戦ってくれ。柱として……鱗滝一門として八幡の仇を一緒に取るんだ!」
パサリと、義勇はソレを羽織る。
「無論だ、言われるまでもない」
翌日、柱全員に手紙が届いた。
内容は上弦の壱と弐の姿と性格と血鬼術などについて。
事細かくデータを記載されたソレは、戦った本人以外は決してかけない出来栄え。
そして、ソレに添えられた追伸は柱を激励するような、バカにしたような内容であった。
こんなことを書ける人物は一人しかいない……。
「「「比企谷(さん)! お前(アナタ)絶対生きてるだろ(でしょ)ォ!!」」」
涙を返せこの馬鹿野郎!!