俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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夢で逢えたら

 

「……はぁ」

 

 空を見上げながら、竈門炭治郎は深く息を吐いた。

 

 色々なことがあった。

 那田蜘蛛山では下弦の陸と戦い、その際に不完全ながらもヒノカミ神楽―――日の呼吸を使った。

 何とか下弦の鬼を倒したが、呼吸の反動により一時気を失い、駆け付けた援軍―――柱から治療を受けた。

 禰豆子の存在がバレてしまい、連行され柱合会議で裁判にかけられた。

 怒涛の連続でイベントが起こった。本当に嵐のような忙しさだった。

 

 そして現在、戦闘で負った傷を癒やすため、蝶屋敷と呼ばれる屋敷で炭治郎は治療を受けている。

 

「(……良かった。柱の人達と、お館様になんとか禰豆子のことを認めてもらえて)」

 

 最初は、大半が直ぐに首を斬るべきだと言っていた。

 このことは前から予測していたし、バレたらそうなると言われていたので想定内。

 だから、この状況を打破するために、ある人から教わった一言を吐いた。

 

 

『うるさいこのスケベ柱! また博打に負けてひん剥かれたいのか!?』

 

 

 この一言で柱達は黙った。

 最初は彼自身も効果があるとは到底思っていなかった。

 聞いた時はふざけているとしか思えなかったが、こうして実際に意味がちゃんとあったので信じて次の言葉を吐く。

 

『俺は天柱から上弦の情報を聞いた。取引だ、天柱と無惨の事を聞きたいなら俺と禰豆子の命と安全を保証しろ』

 

 ソレから炭治郎は恋柱と霞柱の二人を除く柱一人一人の個人情報を暴露した。コレにより最初はデタラメだと思っていた柱も炭治郎の発言を信じ、目的を達成したのである。

 

「(あの人の言った通りに事が運んだ。……いや、人じゃないか)」

 

 炭治郎は例のあの人……夢で出会ったとある鬼の事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……上手くいかない」

 

 狭霧山の麓で炭治郎は悩んでいた。

 義勇の紹介から鱗滝に弟子入りし、鬼と戦う術を学ぶ機会を得たのはいいのだが、一向にその手段である全集中の呼吸が身に付かない。

 無理やりやろうとしても、肺が爆発しそうになる。

 自分には才能がないのか。炭治郎は落ち込むが、首を振ってすぐに意識を切り替える。

 今の自分には止まっている余裕などない。禰豆子の為にも努力しなくては……。

 

 

 

「ただ努力するだけじゃダメだ。ちゃんと工夫しねえと」

!?」

 

 背後から声を掛けられた炭治郎は驚いて振り返る。

 ここには彼一人の筈だった。その証拠に匂いも気配も一切感じなかったのに……。

 

「―――ッ」

 

 その男を見た瞬間、炭治郎は言葉を失った。

 鬼だ。しかし、他の鬼と違って臭みが一切ない。

 どちらかといえば禰豆子に近い匂い。そう、人を食ったことがない鬼の臭いだ。

 

「努力ってのは最小限に留めるモンだ。最短距離を模索し、辿る道を選んで、一気に突っ切る。で、よりいい道を思いついたらその道に修正する。そうやって目的は達成するモンだ」

「あ、貴方は……?」

 

 震えながら炭治郎は聞く。

 

「ああ、そういや自己紹介が未だだったな。……俺の名は比企谷八幡。義勇や錆兎と同じ鱗滝一門の一人だ」

「……つまり、鬼殺隊? けど、この匂いは鬼。なのにお堂で見た鬼と違う……あ、あの!」

 

 ハッと思い出したかのように炭治郎は質問する。

 

「鬼を人に戻す方法を知ってますか!?」

「知らん。そんな方法があるなら俺が知りたい」

「そ、そうですよね……」

 

 八幡の答えに炭治郎はシュンと落ち込む。

 

「ソレよりも確実な事を話そう。……お前、呼吸を憶えたいんだな?」

「え、あ…はい」

「ここに来たという事は水の呼吸か?」

「は、はい……」

「日の呼吸の方が才能あると思うだが……いや、アレ負担デカい上に習得難しいからな。まずは比較的容易な水の呼吸を習得してからにするか」

「?」

 

 八幡はブツブツ言いながら炭治郎に近寄り……。

 

「フン!」

「―――ッ!」

 

 絶妙な力加減で炭治郎の腹を殴った。

 

「ヒュゥゥゥゥ……」

 

 炭治郎の口から息が漏れる。

 肺から無理やり空気を吐き出され、通常とは違う呼吸で息を吸う。

 途端、彼は八幡の意図に気付いてその呼吸に集中する。

 いきなり殴られた事に抗議しそうになったが、そんなものは吹っ飛んだ。

 

「ソレが水の呼吸だ。といっても、出力は10%…1割程に留めているが」

 

「けど、一発じゃ無理か。じゃあ次の夜にまた来るわ」

 

 炭治郎はその言葉を最後に目が醒めた。

 

 

 その夜から、八幡はそれから、炭治郎に呼吸の鍛錬法について毎晩指導した。

 呼吸を無理やり活性化させてコツを掴ませ、最初は出力を抑えて身体に馴染ませる。そしてある程度出来るようになると、型を丁寧に教えて呼吸を最大出力でぶつける方法を教えた。

 昼は鱗滝から、夜は八幡から指導を受け、炭治郎は確実に、尚且つ最短で呼吸を習得していく。

 そして、水の呼吸の習得後からは両方の修行が厳しくなった……。

 

 

 

 

「すぐに立て! 鬼は待ってくれんぞ!」

 

 鬼との戦闘で生き残る為、鱗滝に投げられまくったり……。

 

 

「俺の血鬼術で幻影を創り出した。コイツの相手をしてもらう」

 

 鬼との戦いに慣れる為、様々な鬼と戦わされたり……。

 

 

 

 

「殺気と敵意の匂いを憶えろ! この匂いが来たらすぐに反応しろ!」

 

 鱗滝からは鋭い嗅覚を戦いで活かすよう指導され…。

 

 

「血鬼術の起こりを憶えろ。これが血鬼術の匂いだ。コイツが臭う前に鬼を仕留めろ。出来ないなら対応できるようにしろ」

 

 八幡からは鬼との戦いで嗅覚を活かすよう指導を受け…。

 

 

 

 

「敵は何処から来るかわからんぞ!気配を憶えろ!」

 

 気配を消した鱗滝に不意打ちをされ…。

 

 

「鬼は理不尽だ。どんな攻撃するか分からん。だから、全ての攻撃に適応出来るようにしろ。出来るなら来る前に首を刎ねろ」

 

 

 昼は鱗滝にしばかれ、夜は夢の中で八幡にしばかれ、時々来る兄弟子たちにしばかれた。

 どれもこれも厳しかったが、特に八幡との訓練が一番実戦的だった。

 なにせ夢の中だ。なんでもありだから本当に様々な鬼と戦える上に、それら全ては八幡が倒した相手だ。その攻略法は既に解き明かしている。

 

 

「血鬼術は千差万別で一体一つとは限らない理不尽なモンだ。だが元人間がやる以上、一定のルールがある。コレ、俺が今まで戦ってきた鬼の情報を纏めた本だ。……あ、字があまり読めない? じゃあ俺が教えてやる」

 

 今までの鬼の情報を教え…。

 

「こういった鬼の血鬼術は一度かけられたら終わりだ。気配を消し、気付かれる前に殺せ。……あ、気配の消し方が分からない? じゃあ俺が教えてやる」

 

 その情報を基に幻術で創り出した鬼と戦わせ…。

 

「こういった敵は銃で牽制しろ。あ、銃が使えない? じゃあここで憶えろ」

 

 必要な技術を叩き込んでいった。

 

 

「よし、じゃあ次は実戦だ。これから出す鬼を倒してみろ」

 

 八幡が用意したのは水を操る魚のような鬼。

 流水の道を創り出し、高速で泳ぎながら、鱗の弾丸を発する。

 

「(戦場は遮蔽物無し。状況は背後に守るべき一般人。よってここは意地でもこの人を守る!) こっちだ生臭いクソ魚!」

 

 先ずは相手の観察。血鬼術と行動パターンを見極める。その為に炭治郎は鬼を挑発した。

 怒らせて思考を単純にさせることで、単純な血鬼術しか使わないようにさせる。そうすることで対処を余裕にさせると同時に、その鬼の血鬼術が何なのかわかりやすくなる。更に、こちらに集中させる事で人質から眼を逸らして逃がす。一石三鳥だ。ちゃんと八幡の教え通り、自分で考えて戦略を立てている。

 

 

【血鬼術 飛鱗弾】

 

 

 飛んでくる鱗の弾丸を少し大げさに避ける。

 いきなり触れるのは危険。爆発機能が有ったり、弾丸にも二重で何かしらの血鬼術が掛けられている可能性がある。よってここは様子見である。

 

 

【水の呼吸 肆ノ型 打ち潮】

 

 

 魚鬼が発する鱗の弾丸を弾き飛ばす。

 小細工がないと分かった以上は問題ない。防御しながら相手を観察しつつ、接近する。この鬼の性格上……。

 

 

【血鬼術 早流突進】

 

【水の呼吸―――】

 

 

 痺れを切らした魚鬼が突っ込む。 

 水流を早くして威力を上げ、角を向けて迫り来る。

 攻撃の匂いを察知した炭治郎はソレに合わせて技を繰り出す。

 

 

【―――壱ノ型 水面斬り】

 

 

 カウンター。

 水流から敵の軌道線を読み、匂いでタイミングを読み。

 自身の技と相手の技のタイミングをピッタリと合わせ、魚鬼の首を斬り落とした。

 

「………合格だ」

 

 放り投げられた羽織を咄嗟に受け止める炭治郎。

 背に昇り鯉の絵が描かれている羽織。

 なんとなくそれを炭治郎は着込んでみる。

 

「これは?」

「卒業証書代わりだ。隠し懐がけっこうあるから任務の時にでも使え」

 

 その言葉を最後に、炭治郎は目醒める。

 彼の枕元には、卒業証書である羽織が無造作に置かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あれから暫く、比企谷さんの夢は見なくなった)」

 

 卒業してもう教えることが無いからなのか、それとも夢に現れるための力が無くなったせいか。けど、そんなことはどうでもいい。

 大事なのは、その力が使えるか否かである。

 

「(来た。後ろに鬼の臭いがする。突然現れた事から空間系の血鬼術か)」

 

「(こういう血鬼術を使う鬼はいきなり現れて不意打ちする。けどその性質上、自分の存在に気付かれて反撃されるとは考えてない。……そこを突く!)」

 

「(あの鬼は俺が鬼殺隊だと気づいて殺気を向けている。臭いで分かる、俺を殺す気だ。なら、俺を餌にすれば簡単に釣れる!)」

 

 作戦は立てた。後はソレに基づいて行動するだけである。

 

「(来た!)」

 

 

【水の呼吸 壱の型 水面斬り】

 

 出てきたところでタイミングを合わせて不意打ちに近いカウンターを食らわせる。

 炭治郎の目論見通り、彼の放った一撃は簡単に鬼の首を刎ねた。

 

「……へ?」

 

 鬼―――沼のような異空間から飛び出した忍のような恰好の鬼は自分が何をされたからわからずに消えた。

 

「……まだいる」

 

 匂いでまだ鬼がいる事に気付く炭治郎。

 鬼は群れることはないが例外がないわけではないし、死んだ後でも効果がある、或いは発動する血鬼術もある。よって倒した後も警戒しろ。八幡の教えである。

 

 

【水の呼吸―――】

 

 

 炭治郎は次の攻撃に対処するために、慌てる事無く刀を振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷さん、貴方には感謝しています」

 

 貴方のおかげで、俺は鬼をより効率的に倒す術が身に付いた。

 貴方のおかげで、俺は禰豆子を無理やりとはいえ認めさせることが出来た。

 貴方のおかげで、俺は様々な事を学び、視野を広げて、もっと多くの事を知った。

 

 どれだけ感謝しても足りない。だから……。

 

「だから今度は、現実の貴方と会いたいです」

 

 炭治郎は、薄く虹色がかった黒刀を月に掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ次は日の呼吸を憶えるか」

「………」

 

 その日の晩、炭治郎は八幡に会いたいと思った事を後悔した。

 





このssでの炭治郎は原作より安全に戦っております。
響凱との戦闘では鼓を鳴らされないよう銃で牽制することで血鬼術を妨害し、矢琶羽との戦いでは煙幕で視界を奪うことで血肉術を防ぎました。
一般隊士時代の八幡と同じやり方です。
鬼殺隊って剣術だけじゃなくこういった技術もいると思うんですよね。
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