俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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猗窩座再び

 

 作戦は、スムーズに行われた。

 

 乗客を守る役目は煉獄が請け負った。

 人質に成り得る乗客たちは一か所に集められ、身動きが取れない状態。よって余計なことを心配せず一車両だけを守っていれば問題なかった。

 駅員や運転手も問題ない。最初から先頭には炭治郎たちが配置されており、夜になると同時に列車を無理やり止めさせる。コレで事故などを心配することなく戦えた。

 

 鬼の首はアッサリ切り落とされた。

 列車と一体化する事で首の位置を分かりにくくしていたが、夢の中で鬼との実戦を経験した三人には通じなかった。各々が優れた感覚によって首の位置を特定し、すぐさま切り落とす。

 鬼の妨害もあったが問題ない。血鬼術を使われる前に、その気配を優れた感覚で察知。銃撃や爆弾等で牽制を行う。

 更に、竈門兄妹が更なる力に目覚めたのも大きい。炭治郎は不完全ながらも日の呼吸を使い、禰豆子は炎の血鬼術で鬼の血鬼術を無効化。徐々に確実に鬼を追い詰め、遂にその首を斬り落とした。

 その後、列車を途中で止めて脱出。次の駅で騒ぎになる前に逃げ出した。

 

 全部上手くいっていた。

 誰も欠ける事無く、完璧にやってのけた。百点満点と言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

 

 

「花札の耳飾り―――。お前が、あの方が探していた鬼狩りだな?」

 

 ただ一つ、上弦の参が乱入したという点を除いて。

 

 

 上弦の参、猗窩座。

 その力により、炭治郎だけでなく炎柱―――煉獄さえも太刀打ちできなかった。

 圧倒的。災害の如き圧倒的な暴力により、人間たちは蹂躙された。

 

 これこそ鬼。

 人間の天敵であり、上位の生物である。

 何処かの誰かさんがポンポン鬼の首を斬るので忘れそうになるが、人間は鬼との戦いで圧倒的に不利であり、劣っている。

 柱とて例外ではない。たとえ十二鬼月ですらないその辺の一般鬼でも、状況次第では死ぬことだって多々あるのだ。

 今回の相手は上弦、しかも誰かさんとの戦いの中で急成長した個体。……人間が勝てるわけがない。その誰かさんだって人間でない領域に足を踏み入れたのだ。

 

 人間では化物は殺せない。

 敵わないからこそ化物として扱われるのだ。

 化物を倒す方法は主に二つ。知恵によって倒すか、同じ化物になるかだ。

 

「死ぬな、杏寿朗」

 

 猗窩座は、今にも死にそうな杏寿朗にそういった。

 

「鬼に成ろう、杏寿朗。鬼に成れば老いる事無く永遠に強い体でいられる。傷ついてもすぐ治るからすぐに鍛錬に戻れる。弱い人間の身体なんかより断然便利だ」

「こと…わる! どんな理由があろうとも……俺は鬼に成らない!」

 

 

【炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天】

 

 

 差し出された猗窩座の腕を無視して、刀を振るう

 速さを優先した切り上げ。

 煉獄が咄嗟に繰り出した絶技を、猗窩座は拳を振るって叩き落す。

 炎柱の剣戟は、猗窩座に届かなかった。

 

 

【炎の呼吸 伍ノ型 炎虎】

 

 

 煉獄の攻撃は続く。

 虎のように敏捷且つ力強く、燃え盛る炎のように強烈な一撃。

 だが、その剣技を猗窩座はあっさりと受け止めて見せた。

 血鬼術も体術も使用せず、鬼の身体能力のみで。

 

 決して煉獄の技は見掛け倒しではない。

 その証拠に、先ほどの踏み込みで空気が震え、地面が揺れた。人間の踏み込みで、だ。これだけでも十分に驚愕に値する威力である。

 だが、ソレでも猗窩座―――怪物には届かない。

 

「素晴らしい闘気と技だ。一見するだけでお前が至高に近い領域だとわかるが……まだまだ弱いな」

 

 ガシっと、猗窩座に掴まれた。

 振り解こうと煉獄は抵抗するが、動かない。

 どれだけ力を振り絞っても、技をかけてもビクともしない。

 相手は片手で刀を掴んでいるだけで、決して術も技も使用していない。

 

 猗窩座は力のみで柱―――煉獄杏寿郎を拘束しているのだ。

 

「(は、早く煉獄さんを助けないと……)」

 

 まずい、早くしなければ殺される。だからなんとかしなければ。

 そう考えた炭治郎たちが戦場へと足を踏み入れようとした途端、煉獄と目が合った。その目は言っている、お前たちは動くなと。

 

「「「!!」」」

 

 煉獄の目を見た三人はその場で固まった。

 今の彼らでは、煉獄にとって足手まとい。下手に踏み込むと、より戦況が悪化する。かといって、逃げても煉獄から炭治郎にターゲットを戻すだけで、決して逃げられない。よって、ココは大人しく何もしないのが正解である。

 

「(~~~~! なんて…無力なんだ、俺は……!)」

 

 炭治郎達は、己の無力さに打ちのめされた。

 

「お前の剣戟は素晴らしいが、所詮は人間。……全然だめだ。この程度では俺に届かない」

「それでも俺たちが諦めることはない! 俺たちは悪鬼に苦しめられる人がいる限り、戦い続ける!!」

「………無駄な努力を」

「~~~!!?」

 

 

 瞬間、煉獄が吹っ飛んだ。

 猗窩座の前蹴り。

 速いだけのただの蹴りが煉獄の腹部に命中し、肺の中の空気を強制的に追い出した。

 

「俺もつい最近まではこれ程の力はなかった。だが、あの方から血を頂くことで格段に強くなれた。……分かるか? これが鬼だ」

 

 

「お前たち人間が必死に鍛錬して手に入れる力を、俺たちはあの方の血を少し取り入れる程度であっさり手にする。……あの鬼も、そうやって強くなってきた」

 

 

「人が鬼に勝つ方法はただ一つ、それ以上の鬼になる事だけだ」

 

 

 

「違う!」

 

 煉獄は、再び立ち上がった。

 

「人は老いるからこそ、死ぬからこそ、儚く美しいからこそ、強くなろうとするんだ!」

 

「人の強さは決して肉体のみではない!ソレを今、俺が証明してみせる!」

 

「たとえ鬼がどれだけ強くても関係ない! 俺は俺の責務を全うする! 誰一人この場で死なせはしない」

 

 

【炎の呼吸 玖ノ型 煉獄】

 

 

 煉獄の叫びに呼応するかのように、彼の纏う闘気が膨れ上がる。ソレは一瞬で臨界点にまで達し、一気に解放……いや、爆発させる。

 爆炎の如き激しさと、業火の如き威力。ソレは猗窩座の首を……。

 

 

【破壊殺 滅式】

 

 

 猗窩座の首には届かなかった。

 

 たった一発。

 突き出した一つの拳が、煉獄の全力を粉々に打ち砕いた。

 

「―――カハッ!」

 

 再び吹っ飛ばされる煉獄。

 そのあまりの威力と速さにより、受け流しも受け身も取れなかった。

 何度も地面にリバウンドし、その度に空高く打ち上げられ、また地面に叩きつけられ、再び高く打ち上げられる。この繰り返しのうちに全身の骨は砕かれ、肉は裂かれ、血をまき散らす。

 

「ぅ…ぁ……」

 

 声にもならない声をあげ、転がる煉獄。

 もう彼には戦うどころか立つ体力もない。そもそも呼吸出来るかさえ怪しかった。

 

「もうやめにしよう、杏寿朗。お前がどうやったところで俺には勝てない」

 

 ゆっくりと近づきながら、猗窩座は語る。

 

「お前たちは俺たちに想いの力だの正しさだのを吐くが、そんなものは弱者の戯言だ。力で適わないからせめて心だけは勝ちたいという慰めに過ぎないんだ」

 

「思いが何だ? 人の矜持が何だ? そんなもので腹が膨れるか? そんなもので鬼を倒せるか? 違うだろ? 出来ないからそんな台詞しか出ないんだろ?」

 

「認めろ、杏寿朗。ソレが人間の限界だ。強い言葉で誤魔化してもお前たちが弱者であり、奪われる側である事実に変わりはないんだ」

 

 

 

 

『ああ、確かにそうだな』

 

 

 

 

「「「!!?」」」

 

 ゾクリと、全員が動きを止めた。

 その声を聴いた途端に沸き上がる原始的な恐怖によって。

 炭治郎達だけでなく、鬼である猗窩座も例外ではなかった。

 

 

『所詮この世界は弱肉強食だ。強いモンがルールを作る権利がある。弱者敗者がいくら吠えたところで意味はねえ』

 

 

 空間が揺らぐ。

 声がする度に、空と大地が震える

 骨の髄まで軋むような、強大な気配が近づく。

 

 

 

『だから、俺はきれいごとなんて言わねえ。大義も主張しねえ。やりたいことをやる』

 

 

 夜空が、裂けた。

 ガラスでも割れるかのように、パリンと。

 その亀裂の中から、光が差す。そこから一人の男が現れた。

 

 

 プラチナ色の髪。腰まで伸ばしたソレは月光で七色に反射している。

 黄金の腐った瞳。鈍く光るソレには“上弦”の“零”と刻まれている。

 褐色に焼けた肌。艶のあるソレには龍の刺青のような痣が浮かんでいる。

 

 美しい。

 夜空から舞い降りるその光景は、まるで天から降り立った天人のようであった。……ただ一つ、強烈な鬼の気配を発しているという点を除いて。

 

 

 

「猗窩座、テメエをぶっ殺す」

 

 天人のような鬼―――八幡は猗窩座を指差しながらそう宣言した。

 

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