俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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コイツには勝てないのか

 

 その男が人でないことは、すぐに理解出来た。

 あまりにも美しい相貌と、見る者全てを魅了する色気。

 これら全ての魔性に加え、その強大な圧力。生物として圧倒的な格の差が、鬼であると気づかせた。

 

「比企谷・・・さん!?」

 

 最初に言葉を発したのは煉獄だった。

 彼の知る比企谷八幡とは違った姿。だが、すぐに気づいた。

 

「よお猗窩座、よくも俺の後輩をいじめてくれたな、ええ?」

「比企谷…八幡!」

 

 空からゆっくりと着地する天の鬼―――八幡。

 

 彼は、猗窩座に向かってファイティングポーズを取った。

 ボクシングのような構えでステップを踏み、時折シャドージャブを行う。

 かかってこい、俺と殴り合おうぜ。その意図を理解した猗窩座は露骨に顔を顰めた。

 

「俺と殴り合いがしたいのか? ……ふざけるな!!」

 

 猗窩座は怒りを込めて八幡に向かった。

 

 

【破壊殺 滅式――】

 

【天の呼吸 雷の型 早鳴】

 

 

 先に拳を当てたのは八幡だった。

 猗窩座より後に動いたというのに、猗窩座より速い拳。

 鬼としての血鬼術でも、柱としての剣技でもない。呼吸を応用した格闘術。

 ソレはカウンター気味に猗窩座の顔面に突き刺さり、猗窩座自身の攻撃の威力も相まって更にダメージを与える。

 

 

「オラオラオラァ!!」

 

 怯んだ猗窩座にラッシュの猛攻。

 先程と同じように血鬼術は使わない。使う必要がないのだ。

 高が参ごとき、今の彼なら血鬼術なしだろうが空腹だろうが問題ない。なぶり殺しだ。

 

 

【天の呼吸 雨の型 叢雨】

 

 

 ラッシュの質が変わった。

 ただの拳の連打から、呼吸による技へと昇華。

 緩急を付けた不規則な軌道の打撃をあらゆる角度からぶち込む。

 速度、角度、虚実。あらゆる事柄がランダムかつ強力な拳の滅多打ち。

 全てを見切るなど不可能。猗窩座はその猛攻に対して防御が手一杯だった。

 

「こ…の!」

 

 

【破壊殺 砕式 万葉閃柳】

 

【天の呼吸 雪の型 雪折無柳】

 

 

 力ずくで、ダメージ覚悟で猛攻から脱しようとする猗窩座。

 しかしそれを読んでいた八幡はソレを利用。猗窩座の滅式を受け流し、その威力で猗窩座の腕を折りながら投げ飛ばした。

 

 

【天の呼吸 雷の型 昇り雷樹】

 

 

 追撃の蹴り上げ。

 上弦級の力と柱級の呼吸が合わさった蹴りは規格外の破壊力。

 それは猗窩座に回避も受け流しも防御も許さず、ダイレクトにその衝撃を与えて頭部を粉砕した。

 

「「「(強い!!)」」

 

 八幡の強さに、その場にいた剣士たちは目を奪われた。

 圧倒的な力。パワー、スピード、テクニック。全てにおいて上弦の参を上回り、尚且つ場を完全に支配している。

 

「(この戦況を支配するやり方。次の手を着実に打ち、敵の打つ手を潰し、時には利用する。……間違いない、この鬼は……比企谷さんだ!)」

 

 人間だった頃と変わらない戦い方。鬼に成った事で膂力こそ上がったが、その動きは煉獄の知る八幡そのものであった。だから認めざるを得ない。

 

「(比企谷さん……あなたは、本当に鬼に堕ちてしまったのだな……!)」

 

 理由はどうであれ、八幡が鬼に成ってしまったという事に。

 

 

【破壊殺 脚式 飛遊星千輪】

 

【天の呼吸 雲の型 幽雲】

 

 

 猗窩座の蹴りを避ける八幡。

 幽霊のように掴み所のない動作で残像を残しながら背後に回り込み、蹴りの体勢で無防備になっている猗窩座に攻撃を仕掛けた。

 

 

【天の呼吸 雷の型 轟雷】

 

 

 八幡のラッシュ。……否、その拳はラッシュと言うには少し遅い。

 強い踏み込みからなるストレートパンチと掌底は確かに強力だが、踏み込むという工程がある以上、ラッシュには向かない。だが、ソレでも十分。

 一発一発が強力な突きは、命中する度に相手を怯ませ、意識を奪う。その隙にまた拳を打つ。この流れはたとえ上弦の参とて脱出は不可能。猗窩座は雷の如き拳の連打を黙って受けるしかなかった。

 

 

「(調子に…乗るな!)」

 

 なんとか気合で意識を保ち、八幡の拳を捉えようとする猗窩座。だが、そんなものは八幡には通じなかった。

 

 

【天の呼吸 嵐の型 突風・旋回辻】

 

 

 猗窩座が腕を掴み取ろうとした瞬間、八幡が急旋回。背後に回り込みながら回転肘打ちを頸椎に叩き込んだ。

 八幡の手を取ることに集中していた猗窩座はソレに対応するどころか、八幡の動きに気づく事すら出来ず、直に食らう。結果、彼の意識は一瞬シャットアウトされた。

 

 

【天の呼吸 晴の型 炎天の日照り】

 

 

 無防備な胸部に一撃を叩き込む。

 貫くような鋭い拳ではなく、響くように強烈な掌底。

 ソレは猗窩座の筋肉による防御を突破し、内臓の大半をグチャグチャに潰した。

 

「………カハッ」

 

 口から血を吐く猗窩座。彼は痙攣しながら力なく倒れた。

 

「ダメ押しだ」

 

 背後に回り込み、反対の手による貫き手で背中から心臓を貫く。

 そこから猗窩座の血を吸う事で力を奪っていった。

 鬼の源である無惨の血。これを全て失うという事は、鬼としての死を意味する。だが、今の猗窩座にはそのことに対して恐怖する事すら出来ていなかった。

 

「(勝てない……素手でも、こいつには…勝てないのか……!?)」

 

 八幡に力を奪われて意識が薄らぐ中、猗窩座は力の差に絶望した。

 

 通じない。

 何百年も積み重ねてきた技が、たった数年鍛えたこの男には一切通じなかった。

 届かない。

 何百年も至高の領域を目指してきたが、たった数年で無我の境地にたどり着いたこの男には届かなかった。

 勝てない。

 どれだけ技を繰り出そうと、どれだけ足掻こうと、鬼より弱い筈の人間だった頃からこの男には勝てなかった。

 

 何故だ。一体何が足りない。この男と俺は一体どこが違うというんだ。

 何故技が通じない。何故境地に届かない。何故この男に勝てない!?

 何故?何故?何故なんだ!?

 

「(俺は……弱い、のか……!?)」

 

 何も変わってない。どれだけ人を食っても、どれだけ鍛えても、どれだけ強くなっても。 

 何も出来ず、何も為せず。役立たずのまま終わる。

 結局、何も守れないまま……。

 

「(……守る? 俺が? 何を?)」

 

 

 

 

「(そもそも、俺って何のために強くなろうとしたんだっけ?)」

 

 

 そんな疑問を最後に、猗窩座の意識は途絶えた。

 

 

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