俺の鬼狩りは間違ってない   作:大枝豆もやし

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格闘家としての満足

 

 

【天の呼吸 奥義・零 鬼滅】

 

 

 八幡の技が、炸裂した。

 

 狛治の拳を胸部で受け流しつつ、全身を弛緩させて衝撃を分散。

 そして流した衝撃を刀に乗せながら、瞬時に最適なポジショニングや姿勢を確保。

 受け流した威力に自分の力を上乗せして、狛治の首に折れた刀を叩き込んだ。

 

 

 これぞ天の呼吸最初の奥義、鬼滅。

 天の呼吸の全ての要素を持つカウンターであり、その本質はあらゆる戦況や相手の攻撃に応じて変幻自在に形を変える無形の技。それ故、如何なる局面でも繰り出せるのだ。

 しかし、逆に言えばこの技の使い手は戦況や相手に応じてどう受けてどう返すかを瞬間的に判断し、実行しなくてはならない。たとえ極限状況でも完全な脱力を実行しつつ、臨機応変且つ複雑な力の操作を行う。ソレを可能とするには、使い手の反応速度、判断力、実行力、想像力、等々。様々な素質を大いに問われる。

 更に、相手の攻撃を受けて返すという性質上、受け流す方向を誤れば攻撃を受けてしまい、脱力が不完全ではダメージを受け流す過程で自滅してしまう危険性を抱えている。

 このように使うには様々な課題があり、使いこなすのは至難の技。故、八幡ですら使いこなすのは難しく、実戦で使う事はなかった。

 だが、この日、最初の奥義はやっと日の目を見ることになった!

 

 元来、技とは弱者が強者に対抗する為に開発したもの。

 体格の劣った者、才無き者、単純に非力な者。そういった者も使えるのが最高の技というものであろう。

 心拍数を無理やり上げてたり、脳のリミッターを上げる等などは人の技とはいえない。そんなものは人外の技である。

 

「―――ッ!」

 

 最後の最後は人間の技術によって。

 鬼の力ではなく、人の技によって。

 突飛な力ではなく、積み重ねてきた力によって。

 

 こうして、猗窩座()から狛治()に戻った一人の格闘家は、一人の剣士に倒された。

 

 

 

「……負けました」

 

 何もない白い空間で、狛治は恋雪に頭を下げた。

 

 結局、勝ったのは八幡であった。

 当然の結果である。猗窩座の頃から圧倒され、力の源である血まで奪われたのだ。勝てるわけがない。

 

「ふ…フフッ」

 

 そんな狛治を、恋雪は笑った。

 

「惜しかったですね、狛治さん。もしあの方が鬼でなかったらあの技で勝てたでしょうね」

「うむ! あの剣士は人間離れし過ぎている! 本当に人間の頃からあれほど強かったのか?」

「(いや、そんなことは……いや、確かにアイツの強さはおかしかったな、うん)」

 

 そんなことはない、そんなことを言っても敗者の戯言にしかならないと言いかけたが、他の剣士や柱達との戦いを思い出してその考えは引っ込んだ。

 刀で受けたなら兎も角、何で肉体に直撃した攻撃を受け流せるんだ。何でソレを跳ね返せるんだ。こんなものは血鬼術の領域だろうが。

 だが、今の彼にはそんな事を文句垂れるつもりはない。

 

「ソレで狛治、お前はあの戦いで満足したか?」

「………ええ」

 

 こくりと頷く狛治。

 

 満足だ。

 自分の全てを出し切った。

 一人の格闘家として、一人の人間として、狛治として戦えた。

 充分に戦えた。もう彼に、未練は残っていない。

 

「では、逝きましょうか狛治さん」

「……はい」

 

 何故、狛治が無惨の呪いから解放されたのかは分からない。

 恋雪たちの想いのおかげか、ソレとも八幡が無惨の血を搾り取ったせいか。或いは冷血な神が爪の先ほどの慈悲で起こした奇跡なのか。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 

「よし、今度は地獄で鍛え直す! 鬼よりも強く成り……恋雪さんを今度こそ守り切って見せます」

「フフフ。頼りにしてますよ、狛治さん」

 

 二人は歩み出す。

 何百年も止まっていた時が、ようやく動き出した。

 もう、何があっても離れることはない。絶対に守ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか、お前には大事な人が待ってたんだ」

 

 消えて逝く狛治の肉体。

 散った場には、氷の結晶を象った力の塊が転がっていた。

 これは贈り物。勝者に送る称賛であり、狛治が人として戦えた証である。

 八幡はソレを受け取り、七色の翼を広げ、夜空へと飛び去った。

 

 

 

「………ッハ!あまりに驚愕の連続で比企谷さんを止めるのを忘れてしまった!」

「ちょ、戻ってください比企谷さん! 比企谷さーーーん!!!」

 


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