デート・ア・ライブ 千璃ホロコースト   作:泰邦

20 / 46
第二十話:決断

 

 令音は目の前のモニターを見ながら深いため息をついた。

 今日の夕刻、狂三が結界を張って人の時間を吸い取ろうとしていたこと。そこまではまだ〈フラクシナス〉でも観測できていた。

 しかし、そのあと。屋上に入った時から士道との通信が出来なくなっていたのだ。状況だけはカメラで見ることが出来たものの、今考えれば琴里を呼び寄せる罠だったのではないかと思っている。

 危機の不調という可能性もあるが、千璃が絡んでいる以上は機械類による計測など当てに出来ない。

 〈ラタトスク〉に対する敵意がある以上、彼女の存在は非常に危険である。電子機器に対する能力を持つことに加えて、琴里を下すだけの戦力も保有しているのだから。

 手元にある砂糖たっぷりの甘いコーヒーを飲みながら令音は椅子にもたれかかる。

 

 ──どうしたものかな。

 

 士道と連絡がつかなくなり、いてもたってもいられなくなった琴里が出撃。状況的に正しかったかもしれないが、結果は千璃に返り討ちだ。

 十香に被害はほとんどなく、多少かすり傷を負ったくらいで大きなけがはない。折紙は真那と一緒にASTの部隊に回収されていったが、真那はともかく折紙は大丈夫だろう。

 真那は重傷だ。士道たちを回収しに行った際、応急手当だけはしておいたが……しばらくは入院することになるはずだ。

 それくらいには、ひどい怪我だった。

 問題は士道と琴里だ。

 琴里は気絶しているだけだし、彼女の場合は精霊の力があるから外傷自体に問題はない。精密検査をしても異常は見つからなかったため、眠っているだけだと思われる。

 そして士道。彼の場合は更に酷い。

 琴里が千璃にやられるのを見ているしか無かったと自分を責めているし、何やら考え込んでいて部屋に閉じこもっている。

 

 ──彼だけの責任ではないのだがね。

 

 勝手に出撃した琴里もそうだし、千璃にやられるがままだった〈フラクシナス〉のメンバーもそう。自分も含めて、今回の案件は手に余り過ぎた。

 それを士道だけの責任にするつもりは毛頭ないし、そもそも彼の役割は戦いをすることではない。

 あくまでも精霊を救うための手段として彼の力が必要なだけだ。それ以外の分野には期待していないし、期待するべきではないと令音は思っている。

 多くのものを背負わせ過ぎてはいけない。彼はまだ高校生で、自分たちに比べればまだ幼い子供でしかないのだから。

 だからこそ、そこまで追いつめている千璃が──自分たちが許せない。

 

「…………樋渡千璃、か」

 

 令音の表情が消えている。普段からあまり感情を表に出さない令音だが、今はその比ではない。

 何も彩られていない鉄面皮の下にどんな感情を隠しているのか、誰にも分らない。

 悪意か善意か。

 好意か嫌悪か。

 令音はいくつかのフォルダを展開し、中にあった一枚のデータを表示させる。そこに映されていたのは一人の──あるいは一体の映像だ。

 流れる金髪。金色の瞳。中性的で男性かも女性かもわからないうえ、着ている服は全身を包むゆったりとした白い装束。古典的な魔法使いのような服装だが、その表情は微笑みだけで彩られている。背後に映っている街並みは少なくとも日本の風景ではなかった。

 感情が一切読み取れない、ある意味で完璧なポーカーフェイス。

 名も知れぬ青年。樋渡千璃の意志ある『天使』。

 

 令音は、その名を知っている。

 厳密には『天使』ですらないその存在の名を。

 

「────」

 

 令音が呟くその存在の名には、わずかな■■が含まれていた。

 

 

        ●

 

 

 士道は〈フラクシナス〉の医務室で悩んでいた。

 一体何が正しくて、何が間違っているのか。

 何が本当で、何が嘘なのか。

 士道にそれを見抜く目などないし、仮に見抜けてもどうすればいいかという考えが浮かばなかった。

 疲れていて体を動かしたくはないけれど、頭だけは冴えわたっていて眠れない。だからこんなことをずっと考えてしまう。

 

「……はぁ……」

 

 狂三が嘘を言っているようには見えなかった。それに、彼女が嘘をついて得をすることがあるのかも疑問だ。

 士道を"喰べる"と言いながらも、最大のチャンスを士道の説得に当てた彼女が……疑心暗鬼になって考えればいくらでも疑うことはできるが、士道はもう、疲れていた。

 精霊を救いたかった。

 理不尽に攻撃される彼女たちを守りたかった。

 自分ならそれが出来ると教えられた。

 なのに──それを教えた琴里が、精霊を殺そうとするなど……士道にとってはそれこそが"裏切り"だった。

 琴里は千璃に敗北して倒れ、千璃は士道に一言だけ言い残してどこかへ消えた。

 

「……後悔しない選択を、か」

 

 後になってやり直したいと思うようなことにならないようにと、千璃は言っているのだろう。

 思えば彼女は最初から好意的だった。狂三と千璃が手を組んでいるというのなら、彼女たちがやっていることは悪いことではないのではないか?

 千璃のやった"過去の悪行"を一切知らない士道だからこそそう考える。

 士道は捨て子だ。

 両親の顔をすら知らず、生き別れた妹がいたことすら知らず、五河家に引き取られた。一度は絶望の淵に立たされたが、それでも今こうしているのは琴里と、その両親のおかげだ。

 だが、やはり彼女たちも裏切るのだろうか?

 士道の力を利用するためだけに家族のふりをしていただけなのだろうか?

 その瞬間に、ふと千璃の言葉が脳裏をよぎった。

 

『それに、他人なんて何時か裏切るよ。血を分けた兄弟姉妹でもそうだし、何より親密になったはずの間柄でも切っ掛けひとつで簡単に関係は崩れて裏切られる。組織なんて碌なもんじゃない』

 

 きっと彼女も他人を信じて、家族を信じて、それでも裏切られたからああなった。

 それは、自分も同じではないのか?

 今の両親に愛されていたと思っていた。今の家族に家族と認められたと思っていた。

 でもそれは虚飾の関係性だったのだろうか。精霊の力を封印できるなんて特異な力を持つ士道の力を利用するためだけに引き取り、育て、時が来たから手伝わせる。

 恐怖はない。

 恐怖を感じない。

 代わりに、酷い嫌悪感だけがある。

 だったらいっそのこと、自分の方から──

 

「シドー!」

 

 思わずビクッ! となってしまうほどの声量だった。

 医務室の入口に立っていたのは、狂三に意識を落とされたの十香。別室に眠らされていたはずだが、起きてから士道のことを探して回ったのだろう。制服姿のままでいくらか折り目がついてしまっているが、気にした様子もない。

 目立つ傷こそないが、所々にかすり傷のようなものがあった。

 

「とお、か……」

「大丈夫か、シドー。怪我はないのか? どこか痛いところはないのか?」

 

 士道の体を心配して執拗なまでに聞いてくる。その原因は士道ではなく十香自身にあった。

 役に立てなかった。

 十香の胸中にはその思いだけが渦巻いていた。

 何とかすると言って教室から出ていったとき、十香は酷く不安になった。

 自分を置いてどこか遠いところに行ってしまうのではないか。知らない間に居なくなってしまうのではないか。

 朝に感じた違和感も相まって、十香の精神は不安定になり、それによって限定的に霊装と『天使』が顕現した。それを以てしても狂三には対抗できなかったが、十香にとって重要なのはそこではない。

 

 ──シドーは、今でも私のことを見てくれているのだろうか?

 

 精霊が十香以外にもいるということは前に教えられた。彼女たちを救うことが出来るのが士道だけとも聞いた。

 デートして仲良くならなければ精霊を救えない。そう聞いたとき、十香はとても嫌な気分になった。

 理解はできる。理由もわかる。

 だが認めたくないというのは十香の本心でもあった。

 

 ──シドーは私だけのものだ。

 

 初めて仲良くなった人間で、仲良くしてくれた人間で──初めて恋をした人間だった。

 誰のものでもない、私のものにしたい。他者とのコミュニケーションなどほとんど経験のない彼女がそう思うのも仕方がないだろう。

 嫌われたくない。失いたくない。だから出来るだけ傍にいて、出来るだけ一緒に過ごしたい。一度失いかけた経験があるために、その思いは他者を凌駕する。

 でもそれは十香の一方的な思いだ。士道に迷惑をかけたいわけではない以上、隣のマンションに住むことを許容したし、ほかの精霊を救うことも手伝う。

 だけどやはり、十香は士道のことが好きだからこそ心配だった。

 

「お、おいっ。十香!?」

 

 呆然としたままの士道に、正面から抱き付いてベッドに押し倒す。

 士道の胸元に頭をうずめるようにして、よかったと小さく息を吐く。

 

「本当に……無事でよかった」

 

 その言葉に、士道は目を丸くして驚き──心配をかけたことを詫びて頭をなでる。

 「ごめん」と一言謝り、「ん」と返事する十香。

 そのまましばらく抱き合ったままベッドの上に寝転び、十香が気持ちの整理がついたところで顔を真っ赤にしたまま士道の顔を覗き見た。

 いつもの士道だ。今朝見た違和感のない、いつも通りの士道。

 士道はそんな十香を見ながら、一つだけ思うことがあった。

 

 ──十香だけは、裏切りたくないな。

 

 もちろんそれは四糸乃にも言えることだが、霊力の逆流云々を抜かしても、彼女たちは心の底から士道のことを信頼してくれるからこそ霊力を封印できた。

 そんな彼女たちを裏切ることは、士道には出来ない。

 けれども、千璃限定とはいえ"精霊と敵対した"琴里を見た以上、これが今後無いとも限らない。

 十香たちに危険が及ぶようなことは避けたいし、決して琴里と敵対したいわけでもない。

 どうすれば、と考える士道は、不意打ち気味に十香からされたキスで思考が真っ白になった。

 

「ん──!?」

「ん、ちゅ……っは……」

 

 元より押し倒された形だ。今は普通の人間程度の力しかないとはいえ、十香から逃げることはできなかった。

 たっぷり数秒ほど唇を重ねた後、十香は顔を赤くしたまま士道の目をまっすぐ見た。

 

「余計なことを考えるな。……今は、今だけはゆっくり休むべきだと思うぞ」

 

 十香の顔を見て何かを考えだした士道の目が、今朝のそれと重なった。

 だから十香は無理やりにでもその考えを取り払うべきだと思ってキスをして、やった後になって恥ずかしくなり目を逸らす。

 考え事をするのは構わない。だが、今日は駄目だ。あまりに多くのことが起きすぎたから、今日だけは休むべきだ。

 そう主張する十香に対して、士道は頷くしかなかった。

 それに──と十香は続ける。

 

「……相談に乗るくらいなら、私にもできる。考えることはあまり得意ではないが、私はシドーの力になりたい」

 

 まっすぐに士道を見る十香の目は、決意で固まっていた。

 守られるだけの女でいるつもりはない。士道と共に立って、隣にいて、何時でも助け合えるようになりたい。

 そんな十香の思いをまっすぐにぶつけられ、士道は口ごもる。

 

「もっと私を頼ってくれ。私が今ここでこうしていられるのは、シドーのおかげなのだから」

「……ああ、そうだな」

 

 一人で考えても仕方がない──いや、一人で考えるべきことではなかったのだ。

 ことは士道だけでなく、十香や四糸乃にも及ぶ。〈ラタトスク〉に疑問を持つ今のままで、彼女たちが本当に安全で居られるかどうかなどわからない。

 琴里と腹を割って話そう。

 だけどその前に。

 

「聞いてくれるか、十香?」

「もちろんだ。──私はシドーの味方だからな」

 

 抱き合ったまま、士道はポツリポツリと話し始めた。

 

 

        ●

 

 

 翌朝。

 夜遅くまで話していたせいで十香ともども寝不足だが、そうも言っていられない。

 どこまで〈ラタトスク〉という組織を信用するべきかわからない以上、今は琴里との話し合いを優先すべきだと士道は判断した。

 もちろんすべてが最善手であるという保証などないし、人生経験も浅い士道が最善手を打てる訳がないと自負している。それでも、一人でも自分のことを信じてくれる人がいる以上は死ぬ気でやるつもりだった。

 学校は先日の一件で休校。市内の病院はてんてこ舞いらしいが、知り合いが無事だとわかって少しだけホッとする。

 しかし、士道の用件はそれだけではない。

 

「……琴里と話したい?」

「はい。なんで琴里が精霊の力を使うのか。千璃さんを殺そうとした理由とか……」

「……ふむ。だが、琴里も今は安静にしているべき状態だ。あまり長く話すことはできないが」

「大丈夫です」

「十香も一緒かね?」

「いや、私は途中までだ」

 

 どこか誇らしげに言う十香に苦笑しつつ、士道は同じように頷く。

 その様子を見て、令音は無表情ながらも驚いていた。

 士道の状態に危機感を抱き、神無月とも相談していた令音だが……今の様子を見る限りだと大丈夫そうだと感じた。十香が彼の心を癒したのだろうと察し、少しだけ嬉しくなる。

 善意で救った相手に、今度は救われることになる。そのサイクルはとても難しいが──実現出来れば、素晴らしいことだから。

 

「……そうか。ではついてきたまえ」

 

 令音についていく士道と十香。二人は〈フラクシナス〉の内部に詳しい訳ではないが、銀行の金庫のような分厚い壁を見て目を丸くする。

 頑強な扉だ。何を意図して作られたのかは明白だが、この中に琴里がいるということはこれを"使わざるを得ない"状況であるということ。

 まるで凶暴な獣でも入れる檻のような──そう考えたところで、内装に目を向いて驚く。

 ガラスで仕切られた向こう側はマンションの一室のようなものであるのに対し、こちら側は薄暗い研究室のような場所だ。

 その向こう側の部屋で、琴里は豪奢な椅子に腰かけて優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「……ここからでは話すことはできない。中に入ってもらうことになるが、構わないかね?」

「はい」

 

 しっかりと頷く士道を見て、令音は扉の指紋・声紋認証を使って扉を開け、士道を中へ入れる。

 士道は礼を言って中へ入り──その途中で見た壁の異様な分厚さに緊張の糸を張り直し、一歩を踏み出した。

 

「……ん? 士道じゃない。どうしたのよ」

 

 霊装ではないいつもの私服を着ている琴里は、士道が入ってきたことに気付いて言葉を投げかける。

 何も変わらない琴里に対し、士道は緊張しつつ言葉を返す。

 

「聞きたいことがあってな」

「そう。せめて座ったら? 案山子希望だっていうなら、その夢応援してあげてもいいけど」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 ちらりと令音がいるであろう方向に目を向ければ、そこには白い壁しかなかった。向こう側からは見えるがこちらからは見えない。マジックミラーのようなものなのだろう。

 琴里の対面に座り、しばし無言で過ごす。

 聞きたいことは幾らでもあったが、当人を前にしてその言葉が出てこなくなったのだ。

 一度だけ頭を掻いて、気合を入れ直す。十香の為にも、四糸乃の為にも、自分の為にも──ここで聞かなくてはならない。

 

「……琴里。お前は精霊か? それとも人間か?」

「どっちだと思う?」

「俺が見た限りじゃ、精霊だ。『天使』を使って戦うなんて、精霊以外ありえないだろ」

 

 そもそもあれは人に扱える代物ではない。魔術師(ウィザード)と呼ばれるASTだって、脳を酷使しながら随意領域を操っているのだ。

 精霊を精霊足らしめる神秘の力。それが『天使』だ。

 

「まぁ、機械で測ったらそういう結果がでるけどね……私は人間。私自身は少なくともそう思ってるわ」

 

 理解できないとでも言いたげに眉をひそめる士道だが、琴里はそれを気にせず言葉をつづけた。

 

「私は五河家に生まれてきた人間よ。それは間違いない。そして五年前──五年前のある日、私は精霊に"成った"」

「……は?」

「前例がない訳じゃないわ。樋渡千璃も人間だった。彼女が人であった頃の記録も残ってる」

 

 ありえない、とは言い切れなかった。

 琴里は元より、千璃も現代社会にかなり適応できていた。狂三はさておき十香や四糸乃の前例がある以上、人間社会に溶け込むことは容易ではない。

 あるいは精霊として過ごす年季の違いなのかとも思っていたが、元が人間ならば話は早い。

 

「正確に言うなら、精霊の力を持った人間、ってところかしらね」

「そんなことが……」

 

 いや、だからこそか。狂三の言っていた言葉が今理解できた。

 千璃はもともと人間だった。だからウッドマンという男との因縁があるし、〈ラタトスク〉に属する琴里が戦力として扱われ、千璃と戦わされた。

 このまま〈ラタトスク〉に居れば、また同じようなことが起こる。それでも精霊を救いたいというのなら、新たな選択肢として千璃と狂三が協力すると。彼女はそう言っていたのだろう。

 ──だが、実際に琴里の口からきいて確かめることが大切だと士道は考えた。

 

「……千璃さんを殺そうとしたのは、どういう訳だ?」

「彼女は優先討伐対象だって上から命令があったからよ。彼女はあまりに人を殺し過ぎてる」

「人を殺し過ぎるっていうのなら、それは狂三も同じだろ。それだけで彼女を殺す理由にはならないはずだ」

「彼女が人だったころから恒常的に殺人を犯していた。人体実験を繰り返して、人を人とも思わないことをやっていた。だから殺すのよ」

 

 違う、そうじゃない。

 千璃が殺人を犯したからなんて理由で殺そうとする琴里が、士道は許せなかった。他人の命令で簡単に殺そうとする琴里を許しちゃいけないと感じた。

 人を殺すというのは重いことだ。当然殺人などしないのが一番だが、もしも殺してしまった場合はその理由を他者に押し付けてはいけない。

 どんな理由があろうと、殺人はやったものの罪だ。他者に命令されたから罪はないなどという理屈は通用しない。

 だからこそ、琴里には千璃を殺そうとすることをやめてほしいし、そんなことを命令した〈ラタトスク〉に憤りを覚える。

 

「本当に、やるつもりなのか……?

「相手は超常の力を持った精霊。人間の法で裁くにはちょっと手に余る存在よね? 貴女が力を封印しても、私みたいにすぐに力を取り戻す可能性もある。だったら、殺すしかないでしょう」

「仮にそうだったとしても、それはお前がやるべきことじゃない!」

「私以外の誰に出来るのよ。ASTにどうこうできるとも思えないし、私だって勝てるか怪しいのに」

「だったらなおさら止めるべきだ。そんなのはお前のやるべきことじゃない」

「やるべきことじゃない? 私はこの力を望んで手に入れたとは思っていないけど、恩人に恩を返すのにこの力を使って何が悪いのよ」

 

 駄目だ、と士道は思う。

 自分にしかできないと言われ、恩人に恩を返すチャンスだと浮かれ──そんな理由で千璃と戦う琴里を士道は見ていられなかった。

 彼女を止めるにはどうすればいいのか。〈ラタトスク〉の琴里の上司に言ったところで前言を撤回するのか? 因縁があって、都合のいい駒があって、倒せるかもしれない希望がある。

 そんなことを中学生の女の子にやらせている時点で、この組織の限界が見える。

 だったら、もう手段は──。

 士道は口を閉ざし、静かに部屋の外へと退出する。琴里はまだ何か言いたげだったが、士道は静止の声を振り切って外へ出た。

 

「……シン?」

「すみません、令音さん。ちょっと部屋に戻ります」

「あ、ま、待てシドー! 私も行くぞ!」

 

 簡単に声をかけ、士道はレストルームへと足を向ける。

 

 

        ●

 

 

 一旦家に帰ることにした士道と十香は、〈フラクシナス〉の転移装置で地上に降りて士道の家へと向かう。

 士道の後ろを半歩遅れて歩く十香は、心配そうにチラチラとみているが、士道はそれに気付いた様子もない。

 玄関を通って士道は自分の部屋へと向かい、リビングで待つ十香のもとへと程なくして帰ってくる。

 その手に握られていたのは青いスマートフォン。

 かつて千璃に渡され、一度だけ使った連絡用の機器だ。最近使ってないのですっかり忘れていたが、先ほどどうやって連絡を取ろうかと考えたところでこの存在を思い出した。

 

「……本当にいいんだな、十香」

「私は元よりシドーと一緒だ。シドーと一緒なら、私はどこへだっていく」

 

 快活に笑う十香に小さく笑みを返し、士道はスマートフォンを操作して連絡をかける。

 一度、二度とコール音が鳴り響き、ついに相手の声が聞こえた。

 

『──もしもし』

「千璃さん、ですか?」

『この電話は私にしか通じないよ。──それで、どうするかを決めたのかな?」

「はい……でも、千璃さんはどうして俺に肩入れしてくれるんですか?」

『……正直に言えば君の精霊の力を封印する、っていう力を手元に置いておきたいからかな。君のそれ、利用しようと思えば幾らでも利用できるから』

 

 士道の為を思って言っているのだろうか。それとも自分が利用するためにそういう言葉を用いているだけなのだろうか。

 疑心暗鬼になりつつも、十香の方を一目見て覚悟を決める。

 

「〈ラタトスク〉をどうするつもりか、教えて貰えますか?」

『あれ自体に興味はないよ。用があるのは首魁のウッドマンだけ。それ以外がどうなろうと興味はないね』

「だったら──琴里を助けるのに、力を貸して貰えませんか?」

『……どういうことか、聞いても?』

 

 状況を知らない千璃は、その結論に至った理由を知りたがる。

 そして士道も、詳しく話すと長くなるのでかいつまんでではあるものの、全てを話す。

 琴里の現状。置かれている立場。殺人を犯してほしくないこと。そのためにはどうすればいいか。

 すべてを話したとき、千璃はくすくすと笑っていた。

 

『なるほど、君らしいね。じゃあ、つまり』

「はい……俺は、〈ラタトスク〉じゃなく、千璃さんと手を組みたいと思います」

 

 損得勘定ではない。士道は精霊を助けたいから〈ラタトスク〉に居たのであって、何か見返りを求めていた訳じゃない。だから組織が変わっても問題ない。

 世話になった〈フラクシナス〉の船員には罪悪感も湧くが、やっていることは彼ら彼女らと同じだ。手を組む相手が違うだけ。そう言い聞かせて、士道は決めたのだ。

 精霊を救う、そのために。

 

『歓迎しよう、五河士道君。君の目的を果たすために、私たちは全力を尽くしてサポートをする』

 

 




メインヒロインの面目躍如の回。

そして〈ラタトスク〉からの離反。琴里の封印はまだ済んでいない。
どうなるかさっぱりわかりませんね(目逸らし

……なんか迷走してきたなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。