デート・ア・ライブ 千璃ホロコースト   作:泰邦

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サブタイ考えるのが非常に面倒になってきました。もうつけるの諦めるか……(おい
なお、つなぎの回なので若干短めです。


第二十七話:そして彼女は

 

 目覚めた場所は見知らぬ部屋だった。

 畳特有のイグサの匂いが鼻孔をくすぐり、木製の天井をしばらくじっと見続ける。

 体中に走る倦怠感と酷い頭痛。布団の上に寝かされているということはわかるが、それ以上のことを考えようとすると頭痛が襲ってきて何も考えられなくなる。

 こうなる前、自分はいったい何をしていたのか思い出そうとすると、部屋のふすまが開いて一人の少女が入ってくる。

 青い髪と右手のパペット人形。ワンピースに麦わら帽子をかぶったその少女と目が合うと、少女はパタパタと急いで部屋を出ていった。

 

「…………よしの……?」

 

 掠れ気味の声で呼んでみるが、既に四糸乃はどこかへ行ってしまったらしく、ふすまを開けっ放しにしたままの部屋の中で声が空しく消えた。

 自分でふすまを閉めようと思うも、酷い倦怠感と頭痛のせいで平衡感覚がぐらついてまともに立ち上がることも出来ない。少しばかり奮闘して動くことを諦め、頭痛が収まるのを待つことにした。

 

 ──何が、あったんだっけ。

 

 頭痛に邪魔されながらも、ゆっくりと自分の記憶を手繰っていく。

 〈フラクシナス〉にいたことは覚えている。そこで何かを考えて──そのあとから、記憶が無い。

 何かを考えていた記憶がおぼろげに残っていて、そのあとがぷっつりと途絶えている。その間に何かあったのは間違いないだろうが、本当にここはどこなのだろうかと思う。

 そうしている間に誰かが四糸乃に手を引かれたまま部屋に入ってきた。エプロン姿のままだが、それは確かに士道だった。

 

「琴里! 大丈夫か、どこかいたいところとかないか?」

「……ぜんしん、いたい」

 

 喉が掠れていて片言で話す琴里。正確に言えば痛いのは頭だけで体は倦怠感が襲っているのだが、最早琴里にはどちらでもよかった。つらいことに変わりはない。

 そんな琴里の様子を見て士道は苦笑し、「水を持ってくる」と言って四糸乃を残して部屋を出ていく。

 すぐに戻ってくるだろうと思って琴里は少し身じろぎをする。横を向いて四糸乃の方を向いたのだ。

 

『いやー、琴里ちゃんもなんか大変なことになってたみたいだねー』

 

 これ幸いとばかりに話し始めるウサギのパペット人形よしのん。心なしか四糸乃もホッとした様子を見せており、どちらも止めないのでよしのんのトークは士道が戻ってくるまで続いていた。

 その話で分かったのは、ここが士道や十香が一時的に滞在している千璃の家だということ。

 四糸乃たちは昨日の夜にマンションにいたところで連れ出されたということ。

 その際に士道と久々に会って四糸乃が抱き着いたこと──これは最後まで言う前に四糸乃が恥ずかしがってよしのんの口を押さえつけていたが。

 士道の手伝いを受けながらゆっくり水を飲み、一息ついたところで尋ねる。

 

「……ここ、千璃の家なの?」

「え? ああ、一応用意した拠点だって言ってたな。ただ、琴里のこともあるから俺と十香は一時的な滞在のつもりだったんだが……」

 

 昨日の朝に起きた事件が原因で、今はいろいろ立て込んでいる。士道はそういっていた。

 日付を確認すると自分の記憶の日にちから一日進んでいる──つまり、自分がらみのことなのだろうと琴里は予想していた。

 自分の記憶がきれいにすっぽり抜けていて、一日進んでいて、何か事件が起こったと聞かされれば誰だってそう思う。

 

「それで、だな。昨日のことで千璃さんが琴里と話したいことがあるっていってたんだが……話せるか?」

「……覚えてない」

 

 どんなに思い出そうとしても、昨日の朝から今に至るまでの記憶がすっぽりと抜け落ちているのだから、思い出せるわけがない。

 使おうと思っても霊力が全く使えないあたり、再封印されたのは間違いないようだが。

 

「……そうか。なら、今はゆっくり休め。千璃さんには俺から言っておくから」

「うん……」

「その必要はないよ」

 

 足音もなく部屋の中に入ってきた千璃に士道が驚く。先程まで十香と一緒にゲームに熱中していたはずだが、何時の間にかこちらに来ていたらしい。

 ジーパンにTシャツとラフな格好をしている千璃は士道の隣に腰を下ろし、あぐらをかいて座り込む。

 ちょっと難しい話をするから、と四糸乃を部屋から出し、真剣な表情を作る千璃。

 

「今回の件は私もちょっと焦ったけど、なんとか終息した。でも色々気になるから君のことを調べたんだよね」

 

 もちろん士道君の付き添いでね、と続ける千璃。大事な妹を無条件に預けられるほど千璃のことを信用しているわけではないのだから、当然といえば当然の条件だ。

 やったのは単純な生体情報から霊力の状態まで多岐にわたるが、その一部の資料を士道に見せると頭の上にクエスチョンマークが乱立しているのが幻視出来ていた。

 琴里相手にもう一度懇切丁寧に説明するのも時間がかかるので端的に結果を告げる。

 

「君は一度、中途半端ながらに『反転』した」

「……『反転』……?」

「……」

 

 琴里は〈ラタトスク〉の上層部とつながりがある。最悪のケースとして考えられる『反転』のことを教えられていたのだろう。士道と違い、何のことかわからないというような反応を示さなかった。

 伝えていなかったために説明が欲しそうな士道の視線を無視し、千璃は琴里の目を見続けて言葉を続けた。

 

「最悪の事態だったよ。私が危惧していた可能性の一つが現実になったわけだからね──でも、君は元に戻った」

 

 本当に"元の"琴里"かどうかは千璃には判別出来ない。判別するための要素が無いからだ。

 霊結晶(セフィラ)の値がマイナスを示す状態を『反転』と呼び、〈ラタトスク〉はもちろん千璃ですら精霊をその状態にさせることを忌避する。

 これは単純な霊力の暴走ではないのだ。

 詳しいことは〈ラタトスク〉では分かっていない──だが、千璃はそれをどこまで知っているのか。

 琴里にとってもその事実は知っておくべきであると思っているし、真実一度は『反転』してしまった以上二度目が無いとは言い切れない。

 

「現状、君の肉体に問題はない。内臓へのダメージもないし、脳へのダメージもない。君が今感じている頭痛と倦怠感は反動かな。筋肉痛みたいなもんだから、しばらく休んでればそのうち治る」

 

 通常『天使』は『反転』した状態では使えない。精霊と反転状態の精霊は全く別物に近いからだ。

 別物というよりも逆の位相の存在というべきか。

 同一人物でありながら全く別の存在──言うなれば二重人格にも近いが、重要なのはそこではなく、反転状態では『天使』は使えないというところだ。

 プラス値とマイナス値を足すような事象である以上、本来起こそうと思って起こすことの出来る状態ではない。互いに反発しあってどちらも使えないのがオチだ──が。

 

「君は絶妙に入り混じった『天使』と『悪魔』を使いこなしていた。それが一番の疑問なんだよ」

 

 便宜上反転状態での装備を『天使』に対して『悪魔』と呼称することにした千璃。

 琴里は本来ありえないこの二つを混ぜて使用していた。その反動で今は体を動かすことすら困難な状態になっているが、この程度で済んでいるのはむしろ幸運といえるだろう。

 下手をすれば廃人になっていたかもしれない。

 

「……いや、これはもしかして前提が間違っている? プラスとマイナスという実数だけで表すわけじゃなく、虚数も含めた複素数に例えるべきだとすれば──」

 

 一人でぶつぶつと考察しだした千璃を尻目に、士道は琴里の方を向いた。

 まっすぐに見つめるその瞳に、琴里は思わず視線を逸らす。

 すると、両手で顔をはさまれて無理やり目線を合わせられた。

 

「琴里。今回のことは俺にも非があると思ってる。お前じゃなく、〈ラタトスク〉の上の人間が信じられなかったって言っても、〈ラタトスク〉を抜けるってことはお前を裏切るってことに繋がることをわかってて千璃さんについたんだからな」

 

 だが、円卓会議(ラウンズ)を信用できなくなった以上は〈ラタトスク〉にいるわけにもいかず、千璃と手を結ぶしかなかった。

 琴里は円卓会議のことを士道よりもよく知っていて、信用出来るからこそ「千璃を殺せ」という命令を受諾した。

 士道は千璃のことを心の底から信用しているわけではなく、むしろ疑っているといってもいいほどだが、それでも「精霊を救う」という目的に対しては真摯だった。だからこそ士道は協力を求めたのだ。

 しかし、どんなに言葉を連ねても士道が一度は琴里を裏切ったことに違いはない。

 だから、士道はゆっくりと頭を下げる。

 

「ごめん。俺は、お前のことが見えてなかった。兄妹だからって蔑ろにした。謝っただけで赦してもらえるとは思ってないけど──わぷ!」

「うるさい……私だって、本当は誰かを殺すなんてしたくないに決まってるでしょう」

 

 非常にゆっくりとした動作で枕を投げつける琴里。それだけで随分と疲労していたが、そんなそぶりを見せずに頬を膨らませてそっぽを向く。

 千璃の存在は危険だった。ウッドマンの声は機械を通したものであったが、演技だとはとても思えなかった。実際に会ったこともある琴里としては、ウッドマンがそんなことを言いだすということ自体が信じられない出来事ではあったのだが。

 それに、千璃の場合は狂三と違って"必要に駆られて"殺害に走ったわけではない。

 ウッドマンから過去の悪行をいくらか聞かされているため、余計に印象が悪いのも琴里が千璃を嫌う理由の一つだ。

 

「でも、誰かがやらなきゃいけなかった。あの女は危険だから、今のうちに芽を潰しておくのが最善だって……そう聞かされたから」

「だけど、それは琴里が絶対にやらなきゃいけないことじゃなかっただろ?」

「精霊に対抗できるのは精霊か、そうでなくても真那くらいの強さがなきゃ無理だった。だから私が動いたの」

 

 ただの人間であった頃でさえまともな方法では殺せなかったという千璃が精霊になった。だから、ウッドマンは琴里に頼んだ。

 経緯としては簡単なことだが、士道はどうしても気になることがあった。

 

「……なんか、千璃さんて人間のころから人間離れしてた……?」

「失敬ね。私の『天使』は元々精霊に近い存在で、私が殺されたときに私をベースとして存在を融合させたから今があるのよ。守護霊みたいな存在だから、殺されたのは本当に不覚だったわ」

 

 思考していた千璃が自分の話題に移っていることに気付いて言葉を挟んでくる。一度は殺されそうになっていたはずなのだが、千璃としてはどうでもいいことらしい。

 それはともかく、そこまで執拗に殺そうとしてくる人間がいるのだ。本当に千璃が何をしたか気になってくる。

 訊くべきか、訊かざるべきか。

 訊いたところで教えてくれるとも限らないが、訊いたら訊いたで恐ろしい気もする。

 そんな士道の葛藤を見抜いたのか、千璃は少しだけ笑う。

 

「君らには教えないよ。訊かない方がいい。いまとなっては無関係とは言えないけど、訊いたって胸糞悪くなるだけだからね──どうせそのうち知ることになる」

 

 さぁ、昼食の準備中だったんだろう、と千璃が士道を促す。

 時刻は十二時ちょっと前。そろそろ十香がお腹を空かせているはずだから、急いで準備をしなければならない。

 エプロン姿で急いで台所まで戻っていく士道を眺め、千璃と琴里は最後に視線を交わした。

 

「士道君もそうだったけど、五年前のことを思い出したそうだね──大丈夫だと思うけど一つ忠告。その存在は人の思考を徹底的に欺く。何かを言ってきても、それは思考を誘導するためのプロセスに過ぎない。まともに取り合っては駄目だよ」

 

 士道は千璃が"ネームレス"と呼ぶ存在から忠告を受けたことを話していない(・・・・・・)

 どちらをより信用すべきか今の士道には判断がつかなかったこともあるし、どちらも現時点では信用できない存在だからだ。

 同様の価値観を持つ琴里もまた、千璃の言葉そのものをまともに取り合わない(・・・・・・・・・・)。まさに千璃が言った通りの行動を千璃に対して行っているわけだ。

 

「しばらくは放っておいていいだろうさ。どうせ役者がそろうまでは表舞台には出てこない」

「随分とあれのことを知っているみたいじゃない。仲間なの?」

「いや、あの子は多分、私のことを目の敵にしてる。今思えば私を殺すのに一枚噛んでたんだろうねぇ。でなきゃ、アレを出し抜くことなんてそうそう出来ることじゃない……まぁ、あの子のことだ。私に気を付けろとか忠告してても驚かないね」

 

 その口調に嫌悪感などは感じられない。ただ純粋に、昔を思い出しているだけのように感じられた。

 そろそろ休むべきだ、と判断したのか、千璃は立ち上がって部屋を出ようとする。

 だが、その直前に琴里から声がかけられた。

 

「どうでもいいわ、そんなこと──それよりも」

 

 琴里の瞳は暗い情念に支配されている。

 際限のない独占欲に身を焦がし、義理とはいえ兄妹でありながらそれ以上の関係性を望む。

 そんな彼女は、強い口調で断定するように告げる。

 

「おにーちゃんは絶対に渡さない。あの人は私のものだ(・・・・・)

 

 その言葉を受けた千璃は、口元を小さく歪ませていた。

 




なんか琴里がこじらせちゃった系に……なおヨスガノソラな展開は今のところ考えていません。
原作最新刊が明日発売ですが、ファントムとかその他のオリジナル設定は変えない予定。使える部分は使うかもしれませんが。
……原作と矛盾するっていうのが一番面倒なんですよねぇ。原作未完はこれだから……やめる気はないんですけども。

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