デート・ア・ライブ 千璃ホロコースト   作:泰邦

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なんだか徐々に文字数減っていってるような……


第三十話:互いの想い

 

 

 エレンは鏡で頬についた返り血を確認し、ハンカチでそれをふき取る。月明かりくらいしかないが、それでも十分だ。戦闘自体一瞬で終わったし、本来なら返り血を浴びたことも許せないのだが。

 目の前には血の海に沈む狂三。心臓と喉を貫かれており、誰が見ても死んでいるとしか思えなかった。

 だが、どうせこれは分身体だろうとエレンは考えていた。

 

「……全く、面倒をかけさせてくれますね」

 

 用意した〈バンダースナッチ〉は彼女のせいで大半が使い物にならなくなっている。誰を守ろうとしているのか、あるいは自身の安全のためかは知らないが、厄介ではある。

 一人でも勝てる自信はあるとはいえ、余計な邪魔を入れないための〈バンダースナッチ〉である。展開した傍から破壊されているのでは足止めどころか牽制にもなりはしない。

 監視している人員から千璃の動きを逐一報告させているとはいえ、動き出すと止められるのは真那かエレンくらいだ。やるなら電撃戦しかないだろう。

 

 ──今回の狙いはあくまでも〈プリンセス〉夜刀神十香。それ以外に用はないのですがね。

 

 一度嘆息して狂三の死体を海にけり落とし、宿の方へと歩きだすエレン。

 〈ナイトメア〉時崎狂三と〈サイレント〉樋渡千璃が協力関係にあることはわかっている。同じ学校に通っているのだから、〈プリンセス〉夜刀神十香とも協力関係にあると考えたほうがいい。

 楽観的に考えて最悪の事態に陥るよりも悲観的に考えて最悪の事態に備える方が被害は少なくなる。

 そういう訳もあって、少々手を出しあぐねていた。

 修学旅行の行き先を変更させ、十香の正体を暴きだしたところまでは順調だったのだが──どうにかして彼女だけを誘い出す必要がある。

 時間は限られている。千璃が手出しをしないうちに終わらせたいものだが、狂三がことごとく邪魔をしているのが厄介だ。

 

「ジャック・クリスピン曰く『時間を守れば身を守る』、とは二葉の言葉でしたか」

 

 思わずと言った様子でこぼれた言葉を考える。

 どのみち、修学旅行が終わった後も監視はする。精霊だと判明した以上は逃がすはずもない。

 

「千璃同様、首を落として差し上げなければ」

 

 小さく笑みを浮かべながら、エレンはつぶやいていた。

 

 

        ●

 

 

 翌日。

 宿泊している旅館に戻った途端、亜衣麻衣美衣の三人娘につかまって枕投げ合戦に参加を強要されていたエレンを見ていた狂三は、一番恐ろしいのはあの三人娘ではなかろうかと思っていた。

 グロッキー状態でも職務を果たそうとするあたり、きっちりした性格ではあるらしい。

 それはともかく、士道のことである。

 やや高所に位置する崖の上に双眼鏡片手に構えており、視線の先にはプライベートビーチにて耶倶矢、夕弦とイチャイチャしている士道の姿があった。

 イチャイチャというか、二人の「日焼け止めを塗ってほしい」という要求を羨んでいるだけのように見える。

 本来ならあそこにいるのは自分と十香のはずだったのだ。あと不本意ながら折紙もいる可能性が非常に高かった。

 だが今は八舞姉妹の攻略に専念するため、十香と狂三は士道に近寄ることが出来ない状況にあった。折紙は自らの嗅覚で探し出そうとしていたので、狂三(の分身体)が邪魔をしている。

 

「……」

 

 士道の身の安全のためとはいえ、ほかの女性と遊んでいるのを監視していると不機嫌になってしまう。

 これはつまり、そういうことなのだろうと狂三自身も思っているが、口に出す気は更々ない。

 利用するためだけに近づいた。なし崩し的に同居しているが、それは自分の目的があってこその状態だということを忘れてはならない。

 忘れるな、と自分に言い聞かせる。

 あくまでも、利用しあうだけの関係性だ。感情に任せて動くわけにはいかない。

 

「──っと」

 

 士道から事前に渡されていたスマートフォンを手に取る。青色のそれは千璃と通話するためだけのもので、電波妨害がなされている今は外部と連絡が取れる唯一の手段でもあった。

 耶倶矢と夕弦の相手に忙しい士道に変わり、狂三が定期的に連絡を取って情報交換をする手筈になっている。

 回りくどい真似をするより千璃自身が現地入りしたほうが話は早いと思うのだが、ほかにやることがあると言ってこないのだから仕方がない。

 数コールほど続いたあとに千璃は電話に出た。

 

『何か進展はあった?』

「特には。出来る限り一般人と一緒にいればあちらとしても強硬手段に出ることはないようですし、接触を躱しつづけるのも不可能ではありませんわね」

『そっか。あっちにも気にすべき企業イメージとかあるし、一般人の前では無茶はしないだろうね』

 

 だが、逆に言えばそれだけだ。

 なりふり構わなくなった場合は帰りの飛行機さえ落としにかかる可能性もある。流石にそこまで無茶はしないと思うが、偶然を装って精霊をあぶりだそうとする可能性なら十分にある。

 特に今は世界中を飛び回って捕捉が難しい〈ベルセルク〉もいる。彼女たちのこれまでとこれからの被害を考えれば多少強硬手段に出てもおかしくはない。

 何よりも千璃が危惧しているのは、士道の価値にエレンたちがどれほど気付いているかだ。

 

「今のところ士道さんは十香さんやわたくしに気に入られているだけの一般人として扱っているようですけれど」

『そういうふりをしている、って可能性があるんじゃどうしようもないね。ま、遅かれ早かれ気付かれるだろうし、無理してまで隠す必要はないかな』

「……よろしいんですの? 士道さんが狙われるのは、貴女としても望むところではないのではなくて?」

『そりゃ私だって本意じゃないさ。でも、あっちには私が肩入れしてるって時点で"単なる一般人"扱いはしてくれないと思うよ』

 

 エレンとウェストコットからすれば千璃は目の上のたんこぶのようなものだ。目的を遂げるために最も邪魔な存在だからこそ、情報収集には余念がない。

 加えて、彼らのもとにはおそらく"二番目に観測された精霊"がいる。千璃も彼女のことを知っており、彼女も千璃のことを知っている。

 目的まではわかっていないだろうが、情報そのものならエレンたちよりも余程持っているはずだ。

 

『あの子、この三十年でどう変わったかわからないんだよね。情報も掴めてないし、状況的に私に敵対したと考えてもいいし……もっとも、私に逆らう勇気があるとも思えないけど』

「……何をしましたの?」

『さぁてね、心当たりが多すぎてちょっと絞り切れないかな』

 

 そういった事情もあり、士道のことがばれているかもしれないと千璃は言う。

 かもしれないというよりもほぼ確定的にばれていると考えたほうがいいかもしれないが、そうだとしても今回の目的はあくまでも十香や狂三で、士道のことは確認のついでだろうと狂三は思っていた。

 時折監視しているエレンの視線は士道ではなく十香に向いていた。これだけでも興味の対象が士道にないことを理解できる。

 それがブラフである可能性もあるにせよ、やることは変わらないのだから気にすることもないだろう。

 千璃も同様の意見のようだし、そういう方向で話はまとまった。

 

「それでは、また夕刻に連絡を入れますわ」

『分かった。昼間は大丈夫だろうけど、夜は本当に気を付けるようにね』

「言われずとも無論、わかっていますわ」

 

 通話を切って懐に携帯を入れ、双眼鏡をのぞき込む。

 

「……どういうことですの?」

 

 思わず呟く狂三の視界には、ビーチバレーをして遊んでいる夕弦と耶倶矢、それに士道。

 それはいい。それは目的に沿った行動だから、狂三としては何か思わないでもないが理にかなった行動ではある。

 だが何故十香と折紙がいる。ついでに令音もビーチバレーに参加している。

 すぐさま分身体の一人に報告させると、一瞬目を逸らしたすきに海に飛び込み、恐ろしい速度でプライベートビーチまで泳いで行ったという。離れていた二人がほぼ同時にだ。

 ここまで来ると呆れが先に来る。様子を見る限りでは問題も起こっていないようだし、もう放っておいていいかと双眼鏡を投げ捨てる。

 念のために監視は残すが、狂三も好きなように動くことにした。折角の修学旅行だ、楽しまなければ損である。

 

 

        ●

 

 

 士道はひりひりする顔面を抑えながらトイレへ向かっていた。

 ビーチバレーで受けた名誉の傷である……かなり強烈な十香のスパイクを喰らったが、意識を持って行かれるほどとは思わなかった。

 起きた時はどこから現れたのか狂三がいて、しかも士道を膝枕していたのだから驚いた。折紙と十香がジッと羨ましそうに見ていたが、狂三の浮かべた恐怖の微笑の前には何も言えなかったらしい。

 なお、士道は角度の関係で見えなかった。

 

「……狂三に世話になりっぱなしだな、俺」

 

 折紙や十香の突発的で突拍子もない行動を抑制しているのは狂三なので、そう考えるのも仕方がない。耶倶矢や夕弦でさえ反抗することを諦めているあたり、それだけ威圧感があるのだろう。

 後者の二人に関しては相手にすると厄介だからという面もあるが。

 だが、今回に限っては多少大目に見てくれなければ困る。二人との距離感を縮めねば、霊力を封印するための好感度稼ぎが出来ない──ここだけを考えるととてつもなく自分が屑に感じるので、士道としてもあまり考えたくないのだが。

 今に始まったことじゃないので、今更考えたところで意味もないが。

 

「……ん?」

 

 ふと、トイレの脇から耶倶矢が出てきた。

 先ほど「気絶していたからまだ一人でトイレは危ない」と言ってついて来ようとした者が若干名いたが、それこそ脱兎のごとく逃げ出してきたのだ。あとのことは狂三に任せた。あの子なら士道の理想通りに動いてくれると信じている。

 それはともかく、耶倶矢である。

 まさかこいつもトイレの手伝いを……? と戦慄したが、流石にそんなことはないだろうと頭を振ってその考えを振り払う。

 

「どうしたんだ? 皆のところで待ってるんじゃ……」

「ふふ……我が颶風の加護の前ではあの程度の隔たりは意味を成さん」

「俺的には理由の方を聞きたいんだが……」

 

 頬を掻く士道に対し、耶倶矢は口を開くが視線はあっちこっちに行って「うー」だの「あー」だの言葉にならない呻きをあげている。

 最終的に頭をガリガリと掻いて嘆息し、諦めたように士道をまっすぐ見据えた。

 

「諦めた。余計な装飾をせずにちゃんと話すわ」

「お、おう……」

「なんだかんだであんたを巡って私と夕弦が争ってるわけだけど、明日にはそれも終わっちゃうわけじゃん?」

「そう、だな……まさかお前──」

 

 これから話すことは大事なことで、余計な装飾をつけずにちゃんと話す。真剣な表情で話す耶倶矢に士道はまさかと思うが、その予感は当たっていた。

 

「士道。明日さ──夕弦を選んでよ」

 

 それは、昨日の夜に言っていた千璃の予想の一つ。

 互いに互いを想いあっていて、だからこそ今まで決着がついてこなかった。相手を勝たせようと隙を作っても、自分が勝っては意味が無いから本気で戦わない。

 辺りに被害をまき散らすはた迷惑な「じゃれ合い」だ。

 士道が考えている前で耶倶矢は夕弦のいいところをこれでもかとばかりに話しており、その表情はまるで自分の大切なものを自慢するようなもので。

 自分にとって掛け替えのないたった一人の大事な人だからこそ、生きていてほしいと願う。

 

「──お前、自分が死ぬ気なのか?」

「そうよ。私じゃなくて、夕弦が八舞として生き残るべきなの。もっとこの世界を知ってほしい。私だってそりゃ死にたくはないけど……夕弦とどっちを選ぶかって言われたら、迷いなく夕弦の命を優先するわ」

「……そう、か」

 

 千璃の話ではあくまでも「主人格」になる方を決める戦いであって、敗北して取り込まれても内側で生き続ける可能性はあるという。

 だが、それは机上の空論だ。本当かどうかなど確かめようが無いし、失敗した時のリスクが大きすぎる。

 何か方法が無いか。千璃ならあるいは何かしらの方法を持つかもしれないが、士道としては信用しきれない千璃に彼女たちを預けるのも躊躇われる。

 精霊に対しては士道同様に好意的であったとしても、彼女の人間性故に信じきれないのだ。

 

「明日、アンタは夕弦のことを選ぶ。それでこの話はおしまいよ。……でないと、この島にいるアンタの友達吹き飛ばしてやるんだから」

 

 狂三を懸念しているのか、最後の方はやや声が小さめだった。

 しかし、それを考えても彼女が脅威であることに違いはない。本気の戦闘になれば、狂三とて周りのことに気を裂いてはいられないだろう。

 やたらとかっこいいポーズと決め台詞を吐いて去っていった耶倶矢の後姿を見ながら、士道は深くため息を吐いた。

 

 ──……どうしたもんかな。

 

 夕弦を選ぶだけなら簡単な話だ。だが、それで耶倶矢が消えては意味が無い。士道の目指す完全無欠のハッピーエンドには程遠い結果だ。

 ともかく、一旦みんなのところに戻らなければ怪しまれてしまう。

 そう思って歩き出した直後、背後から声がかかった。

 

「静止。士道、止まってください」

 

 振り向いてみれば、夕弦がそこにいた。様子を見る限り先程の耶倶矢との会話は聞かれていないようだが、士道には「やっぱりか」という思いがあった。

 千璃の予想通りならこの話は耶倶矢だけでなく夕弦からもされてしかるべきだ。でなければ早々に夕弦の勝利で終わっている。

 そして当然、蓋を開けてみれば夕弦の言っていたことは耶倶矢と同じだった。

 

 ──自分じゃなく、耶倶矢を選んでほしい。

 

 なるべく不自然ではないように振舞ったつもりだが、少しばかり怪しまれていたのは仕方がないだろう。士道とて人間だ。動揺だってすることもある。

 

「耶倶矢こそが八舞の精霊として相応しい。士道とて今日一日でわかったでしょう? 彼女ほど魅力的な人もいない。選ばない道理などありません」

「……お前ら二人が競っていたのは……」

「解説。ああでもしないと自分からアピールしません。耶倶矢は恥ずかしがり屋ですから」

 

 二人は似た者同士だ。同じ精霊から別たれた、ほぼ同一の存在。ならばこういう結果になってもおかしくはなかったのだろう。

 互いが互いを深く愛している。愛しているからこそ自らが消えることを許容し、相手に世界を知ってほしいと願いを託して消えていくのだ。見方によっては究極的な自己愛にも近いそれを、士道は肯定できなかった。

 士道にはおそらく、その条件を前提から覆すことが出来る。

 絶対とは言えずとも、霊力を封印してしまえば──その時点で二人は争う理由を無くす。

 出来ることなら最善の結果を望みたい。自分にそれが出来る力があるのなら、妥協などするつもりはない。

 明日だ。明日の結果を伝えるときまでに、なんとかしなければならない。

 考え込みながら士道は歩き続け、そう結論を出した。

 

 ──そして、士道の思惑にかかわらず、事態は動き始める。

 




遅れた理由は耶倶矢の喋り方を考えた末に結局あのしゃべりをさせないというやり方をしたからです(
……十四歳神の加護を受けてもあの口調は書けませんでした……。

さて、それよりFateですよ。リアルタイムでUBWルートやってるので楽しみすぎて何も手につかなくなりそうなので今のうちに仕上げました。明日になったら続きを書く予定なので多少影響受けるかもしれませんが。
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