デート・ア・ライブ 千璃ホロコースト   作:泰邦

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第三十二話:顕現

 

 如何に世界最高峰の科学力を誇るDEM社の空中艦とて、千璃の前では張子の虎にも等しい。

 原理不明、詳細不明。可能性としてはおそらく電気信号そのものを操作していると思われるその力によって、瞬く間に空中艦〈アルバテル〉は制圧された。

 絶対的なまでの『科学』の怪物。同じ分野で勝つことはおよそ不可能だと、対峙した乗組員たちは本能的に理解した。

 〈アルバテル〉の制御を艦橋以外の場所から行う千璃に対し、彼らは成す術すらもなかったのだから。

 加えて、絶望はそこで終わらなかった。

 

「やぁ、君らが乗組員か。この艦を任されるってことは、それなり以上のエリートなんだろうね」

 

 身綺麗な格好のままに銃を持ち、千璃が艦橋へと現れる。霊装こそ纏っていないが、『天使』によって生み出された拳銃ならば〈バンダースナッチ〉とて貫ける。

 緊急時故に艦橋内での武器の使用を許可し、千璃へと銃口を向ける。だが、千璃はそれを嘲笑を浮かべて見つめるだけだ。

 今更護身用の拳銃程度でどうにかなるような状況ではないことくらい、彼らにだってわかっている。だが、何の抵抗もなく殺されるのだけは嫌だった。

 しかし無駄。

 エレン同様、千璃はワイヤリングスーツ無しでも随意領域を展開できる。懐に小型のCR-ユニットを忍ばせているのだ。

 ただの弾丸など彼女を貫くには至らない。

 

「しかし面白いものを作ったものだよ。無人で遠距離操作できて随意領域を発生できる機械か。エレン相手に一体何秒持つことやら」

 

 ハッとした様子でモニターをのぞき込む一人の乗組員。調べていくごとに顔色が悪くなり、最終的に真っ青にさせてつぶやいた。

 

「〈バンダースナッチ〉が……全機、操作不能……?」

「権限を書き換えた。ま、正直あっても邪魔だし、時間稼ぎ程度に使わせてもらうことにするよ」

 

 リソース的に〈バンダースナッチ〉を使うほど余裕があるわけでもない。既に〈アルバテル〉を抑えている以上、後続を落とせないのだから問題もないだろう。

 最後の難関はやはりエレン。あれをどうにかしなければこちらに勝ち目はない。

 狂三が抑えてくれているはずだが、彼女だって直接的な戦闘能力はそれほど高い訳でもない。『天使』の能力が別格といえるほど強力だからこその役割だ。

 同時に切れる頭があるからこそ、千璃は狂三に現地でのことを任せていた。

 

「……しかし、本当に面倒だ」

 

 わずか数秒で操作権限を乗っ取った〈バンダースナッチ〉全機が破壊された。応答がなくなったから確実だろう。

 当然といえば当然だが、壁にすらなっていない。

 あれと真正面から戦って止められるのは全力状態の十香や八舞姉妹などの武闘派だ。狂三も上手いこと時間を稼いでくれているだろうが、士道たちを気にしたまま戦えるほど簡単な相手ではない。

 

 ──私が行くしかない、か。

 

 出来ればもう少し時間が欲しいところだったが、そうも言っていられない。

 寿命を削るつもりで戦わねば、エレン相手に勝つことはできないだろう。

 

「……よし」

 

 そうと決まれば手早く事を済まそう。そう考えて艦長であるパディントンの両足を撃ち抜く。

 絶叫ののちに痛みにうめく声が響き、ほかの乗組員が悲鳴を上げた。千璃はそれすら気にせずパディントンの頭を掴み、視線を合わせて質問をする。

 

「ウェストコットの目的はなんだ? この島に何をしに来た?」

「ぐ……それを、貴様に話すとでも──」

「口答えするな」

 

 乾いた銃声。再度挙げられる悲鳴。右腕を撃ち抜かれたパディントンは芋虫のように血の海に倒れる。

 返り血は全て随意領域で弾いているため、千璃に血がつくことはない。ここまで来る時も同じようにしてきたのだから、返り血など無くて当然。

 服も顔も血で赤く染まっているが、千璃はそれを気にせずパディントンへ再度尋ねる。

 

「ウェストコットの目的を話せ。何をしにこの島に来たのか、それがわかれば殺さないでおいてやる」

「が、あ……ぷ、〈プリンセス〉の調査、と、五河、士道という、少年の、拉致、だ……」

「……チッ。"価値"には気づいてないはずだが、露骨に動きすぎたかな」

 

 五河士道の調査。ウェストコットは彼のことを知らないはずだが、千璃の近辺調査をすれば自ずと浮かび上がる疑問ではある。

 精霊ですらない一般人と、何故懇意にしているのか。

 それは千璃を危険視し情報を集めるウェストコットたちからすれば当然の疑問で、調べることでもある。だからいずれ彼らの手が伸びることはわかっていたことだ。

 アジトは転々と変えているし尾行や監視などは特に注意を払って始末してきた。狂三の人海戦術ならそれが可能であるし、通信に割り込んで位置さえ特定できれば千璃にだって簡単にできる。

 しかし、隠し通すにも限界はある。

 どこから漏れたかは知らないが、知られたのなら仕方がない。

 どのみち、もう隠し通すことは無理だ。

 

「私がここまでやるほどの"価値"があるって知られちゃったしなぁ」

 

 少しばかりイラつき気味に、先程までパディントンが座っていた艦長席に腰を下ろす。

 士道が千璃にとって「代えの効く人材」ならばここまでやる必要はない。だが、逆説的に言えばここまでやっても「手中に置いておきたい人材」だとウェストコットに言っているようなものである。

 あるいは精霊を守るため、と思ってくれれば僥倖といったところか。

 

 ──時間もない。さっさと終わらせようか。

 

 パチン、と指を鳴らす。

 同時に響く巨大な振動と警報音。体感でわかるほどに〈アルバテル〉が傾き、徐々に落下を始める。

 ここに来るまでに動力部に爆弾を仕掛けておいた。先ほどの合図でそれを一斉に爆発させ、随意領域さえ発生できないようことごとく破壊しつくした。

 じきこの空中艦は海に沈む。〈ラタトスク〉が人命救助に動くかどうかはわからないが、人道的な組織という理念を掲げるなら見殺しにすることもないだろう。

 騒いでいる乗組員たちを無視し、千璃はパンツァーファウストで外壁を破壊して外へと躍り出る。

 目標はエレン。

 近距離における勝率はごく低確率。

 だが、それでもやるしかなかった。

 

 

        ●

 

 

 エレンのレイザーブレードが〈バンダースナッチ〉の頭部を容易く切り裂く。

 火花をあげて倒れる〈バンダースナッチ〉を一瞥し、エレンは士道を守ろうと立つ狂三をにらみつけた。

 

「抵抗するのはお勧めしませんが」

「でしたら、手出しするのをやめていただきたいものですわね」

「御冗談を。センリが隠そうとするほどの存在ですし、何らかの私たちが知らない"価値"があるのでしょう」

 

 牽制のために撃たれた弾丸をエレンはつまらなそうに躱す。銃弾が撃たれてから避ける、あるいは止めるのではない。銃を撃つ前、銃口の向きと角度で弾道を予測して躱している。

 千璃の言っていた予想が現実のものとなった以上、飛び道具を主体とする狂三は正直戦うのを避けたい相手だ。

 だが、ここで退いては士道と十香がDEMに連れ去られることになる。

 それだけは、絶対に許さない。

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉──【一の弾(アレフ)】」

 

 己のこめかみを撃ち抜き、次の瞬間に狂三はエレンの側面へと回っていた。

 自身の時を加速させることで高速移動を可能とする弾丸だ。それを以てエレンの死角へと回り込み、【七の弾(ザイン)】を当てる。

 エレンが相手とはいえ、時を止めてしまえば回避行動をとることさえ出来ない。随意領域に触れさえすれば止められる。そうすれば──

 

「無駄ですよ。それは知っています(・・・・・・)

「な──ッ!?」

 

 視線が狂三を捉えたまま離していない。彼女の反応速度を凌駕出来ていない。

 銃口から放たれた弾丸はエレンの横を通り過ぎ、距離をとろうとする狂三へとレーザーが放たれる。

 紙一重でそれを避け、後ろへ飛んで距離を取る狂三。真那のように随意領域を使ってレーザーを曲げられるかと警戒したが、それよりも狂三の能力を当てられて止められることを警戒されたのだろう。

 加えて、エレンが狂三の『天使』を知っている理由。

 おそらくは琴里との戦闘の際にデータを取られたのだろうが、それにしたって【一の弾】は使っていない。

 

「……一体、誰から聞きましたの?」

「教える必要があるとでも? ……と、言いたいところですが、センリがそちらにいる以上はほとんどばれているようなものですしね──二葉(かずは)に、ですよ」

 

 聞き覚えのない人物だ。眉をひそめてエレンを見ていると、彼女は肩をすくめてみせた。

 それ以上語るつもりはないと言うように剣を構え、踏み出す。

 まだ【一の弾】の効果は切れていない。高速で移動するエレンを上回る速度で距離をとり、なるべく十香と士道から離そうとする。

 だがエレンとてそれは悪手とわかっている。

 故に士道たちを優先して狙うことで狂三を引き付けるのだ。彼女の目的が士道たちの防衛である以上、エレンが士道たちを狙う限りこの場を離れられない。

 

 

 

        ●

 

 

 ──どうすればいい。

 

 どうすればこの状況を打破できる?

 歯を食いしばって目の前で行われる戦いをただ見るだけしか出来ない自分に、一体何が出来るというのだ。

 狂三の分身体と千璃の作った火器銃器でエレンを襲うも、彼女は随意領域を絞り込むことと殺気で攻撃を躱し続けている。ここまで来ると人間かどうかさえ怪しい。

 だが、そんなことはどうだっていいのだ。

 虐げられていた少女がいた。

 それを助けられる力があった。

 だから助けることを決意して、みんなが笑っていられるハッピーエンドを目指して歩いてきた。

 トラウマを植え付けられても、殺されかけても、前に進もうと努力してきた。

 だが、なんだこれは。

 

 ──女の子の背中で守られるだけの男にはなりたくない。

 

 士道だって男だ。男には男の意地がある。

 不可能と言われたって、蛮勇と言われたって、好きな女の子の前ではかっこつけたいし強くありたい。

 守られるだけの男になどなりたくはない。彼女たちは人知を超えた力を持つが、精神は自分たちと同じなのだから。

 相手を傷つけ、自分が傷つけられるような戦いを経験させたくなどない。女の子なのだからなおさらだ。

 だから、どうにかしたい。

 皆を守れるように。例えそれが自分の身を危険に晒すことであろうと、目の前で徐々に追い詰められていく彼女たちをそのまま見ていることなど出来るはずが無いのだ。自分に出来ることがあるのならなんだってやる。

 

 ──自分一人安全圏で戦いが終わるのを待っているなんて、そんなことはできない。

 

 今、目の前で戦うエレンと狂三の二人。士道たちを守ることを念頭に置かねばならない以上、狂三の方が分が悪い。

 徐々に削られていく分身体の数もそうだが、エレン自身の身体能力その他諸々が人間離れし過ぎている。あまりに彼女の負担が大きい。

 

 ──戦う力が欲しい。

 

 イメージするのは、自分が見た中で最も強力な霊装──『天使』の姿。

 玉座より引き抜かれる一振りの剣。士道の傍で同じように戦いを見ている少女の使うそれを、脳内で強くイメージする。

 

 ──彼女たちを守るために、戦う力が欲しい。

 

 『天使』は想いに反応する武器だ。より強い想い。より強い願い。それらを糧として使う武器。

 士道は本来の所有者ではないから、本来の力が出せるとは思わない。だがそれでも、狂三の援護が出来るならそれでいい。

 出来るだけばらさない方がいいと千璃は言っていたが、そんな忠告などもう忘れた。自分が信じるままに、自分の願うままにその剣を振るうのだ。

 

「来い──〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!」

 

 その手に形成されるは一振りの剣。

 幅広の刀身は輝きを放ち、精緻な細工のされた鍔は芸術的とさえいえる一本。

 それを、士道は上段に構えて──振り下ろす。

 

 

        ●

 

 

 エレンは目を見開いて驚く。

 

「ただの人間が、『天使』を使うなど……ッ!?」

 

 強烈な斬撃が風を引き裂いてエレンを切り裂こうと迫る。

 だが威力も速度もそれほど高いという訳ではない。そも、ただの人間が扱える武器などでは無いのだからそれも当然。

 余裕を持って避けるも、意識の隙間を突かれた一瞬で脇腹を狂三に撃ち抜かれる。

 

「ぐっ──ッ!!」

 

 不覚。自身の常識を砕かれるような現象を見せつけられたのだから、仕方のないことではあった。逆に狂三はその可能性を事前に示唆されている。驚きはあるが、エレンより動揺は小さい。

 結果的にその違いが一撃に繋がったのだから、狂三としては助かったと思う反面、遂に目の前で見せてしまったかという思いもある。

 今まで〈鏖殺公〉を顕現させたことが無かったとはいえ、琴里の回復能力を再現できていた以上は剣を使えるようになるのも時間の問題だと千璃も話していた。

 寄りにもよってこのタイミング。助かったのは事実だが、複雑な思いが駆け巡る。

 

「……っと」

 

 胸元の携帯からアラートが鳴る。

 連絡が来た。時間だ(・・・)

 

「士道さん! この場から離れてくださいまし!」

 

 もちろん狂三も退避する。巻き添えなど御免こうむる。

 エレンはその様子を見て怪訝な顔をする。確かに一撃貰ったのは事実だが、それだけでやられるとは夢にも思っていない。多少動きは鈍くなるだろうが、随意領域を使えば簡易的な傷の処置も可能だ。

 逃げられるとは思っていないはず。ならば何故──と考えたところで、狂三の視線が上を向いていることに気付く。

 

「上──?」

 

 そこには。

 煌々と夜空を照らす月の光に紛れ、人影が一つ。暴風の中でもまっすぐにここを目指して落下してきており、それに気付いたエレンは咄嗟にその場から離れた。

 刹那、爆音と共に巻き上がる砂。荒れ狂う暴風によって巻き上げられた砂塵はあっという間に消えていき、落下してきた人物を露わにする。

 黄金のように輝く金色の髪。同じように輝く金の瞳と、本来白くなければならない場所が黒く染まっている眼球。

 黒を基調としたライダースーツのような服装に所々金で装飾を加えた霊装。

 

「──ひっさしぶりだねぇ、エレンちゃんよォ」

「──ええ、会いたかったですよ、センリ」

 

 互いの視線が交差する。

 殺意と敵意を持ってそれぞれ剣を構え──二つの影が激突した。

 

 

 




士道を士郎と書いてしまうこと数え切れず。加えて今回天使の顕現が投影っぽいことに……。
ちなみに私が影響受けてるなーと自覚しているのは神座シリーズとか禁書とかであります。最近はFateもかもしれません。

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