デート・ア・ライブ 千璃ホロコースト   作:泰邦

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第三十八話:胎動する思惑

 

 

「──以上が事の顛末です」

『ふむ……マナが、か』

 

 時刻は夜。美九と士道が話し合ったその日のこと。

 出向社員という位置づけであるジェシカは事前に渡されていた通信端末でウェストコット及びエレンへの報告を行っていた。

 ASTの誰にも見せないような真剣な表情で話すジェシカは、敵対した少女──真那のことを考えた。

 エレンに次ぐ実力者としてアデプタス2のナンバーを与えられ、〈ナイトメア〉と幾度も殺し合った少女。ウェストコットに恩があると言ってDEM社にいた彼女が、どうして裏切るような真似をしたのか。

 ウェストコットもまた、真那の裏切りにひどく憤っているだろう──というジェシカの考えは無駄だった。

 

『まぁ、予想の出来たことではある。センリがいるのだから、これくらいの隙はついてくるだろう』

『そうですね。マナの抜けた穴は小さくはありませんが、十分他で補える範囲かと』

 

 ジェシカの考えとは裏腹に、ウェストコットは何でもないかのようにエレンと話している。まるで、予想通りであるかのように。

 

「……マナのことは、どうするのですか?」

『放っておいて構わない。戦力を削がれたのは痛いが、こちらもまだいくつか手が残っている』

「ならば、次に会ったときは──」

『ああ、邪魔をするようならば殺すのが一番だ』

『一度裏切った以上、二度目が無いとは言い切れませんし』

 

 そうするのが当然とばかりに、二人は告げた。

 ジェシカは簡単に切り捨てる二人を恐ろしく思ったが、同時に真那への雪辱の機会を与えてくれた二人に感謝したくもあった。

 まだ幼い真那が、自分よりも強い魔術師であるなど──そんなことはジェシカのプライドが許さない。

 彼女を地面に這いつくばらせて、無様に命乞いをさせてこそジェシカの気が晴れるというモノだ。

 

『ASTの情報によれば〈ディーヴァ〉の居場所も突き止めたとのことですし、〈プリンセス〉の拿捕と同時に動くのはどうでしょうか』

『だが、相手にはセンリがいる。戦力の分散は出来る限り避けたい──そうだ、ASTといえば有望な子がいただろう』

 

 ジェシカが無言でいることにも構わず、二人は今後の予定を話しあっている。

 その話の中で出てきた〈ホワイト・リコリス〉という名前。たった一人で精霊を殺せるだけの武装を積み込んだといわれる兵器だが、使い手がいないということでお蔵入りにされた兵器でもある。

 その使い手の少女の話をしていた時、ジェシカには一つのひらめきがあった。

 真正面からまともに戦っても二の舞になるだけならば、精霊を殺せるだけの武装を持って対峙すれば殺せる。

 同系統の武装が日本支社においてあるはずだと考え、ジェシカは通信気に映る二人を見る。

 

『──カズハもセンリの殺害には喜んで手を貸すだろうが、あちらも着々と戦力を蓄えつつある。加えて、動いているのはおそらくセンリだけではない』

『私一人では不安だと?』

『あまり彼女を舐めない方がいい。かの守護天使は人間にとって神にも等しい存在だ。まったく、彼女の祖父はとんでもない存在を呼び出したものだよ』

『……あくまでも戦力としての予備、ですか』

『戦力を過剰に揃えることに否は無いだろう。如何に君でも、たった一人では複数の精霊を同時に相手どることは難しい』

『……そうですね。マナが裏切り、アルテミスもまだ不完全。私についてこられる可能性があるというのなら、引き込む価値はあるでしょう』

『ならば決まりだ──ジェシカ。これより作戦を通達する』

「はっ!」

 

 二人が話していたのはあくまでも戦力面での話。ジェシカたちも十分すぎるほどに優秀だが、真那やエレンと言った隔絶した実力者にとっては対して他と変わらない。

 だからこそ、可能性のある存在をこちら側に引き込む。

 そちらの方はウェストコットやエレンが担当するため、ジェシカたちのやる作戦は別物だ。

 

『──君たちの優先目標は〈プリンセス〉の拿捕。次いで〈サイレント〉の殺害だ。邪魔をするであろうほかの精霊も出来ることなら捕らえたいが、最悪殺してしまっても構わない』

 

 実行日は、天央祭初日。

 

 

        ●

 

 

「危うく貞操を奪われるところだった」

「うん。予想はできてた」

 

 時刻は夜。士道は琴里の待つ自分の家に帰り、耶倶矢、十香、四糸乃の三人はゲームに熱中する声が二回から響いている。

 酷く疲れた様子の七罪にジュースを振る舞い、本日の料理当番である夕弦が野菜を切りながら話しかけた。

 なお、料理当番は夕弦と耶倶矢の持ち回りである。千璃、十香、七罪、四糸乃は戦力外なので、基本的に四糸乃以外の面々はそれぞれ料理以外の家事を担当していた。

 士道が来た日は当然のように料理当番を任せるのだが。

 

「疑問。百合の方ですか?」

「身もふたもない言い方をすればそうなるね」

 

 ある意味夕弦と耶倶矢も似たようなものだが、彼女たちはきちんと弁えているので一線を超えるようなことはない。

 だが、士道が攻略できないという意味ではかなり面倒な部類に入る精霊である。思わず千璃が精神壊して依存させようとか言い出すくらいには。

 士織モードのままジュースを飲み干す七罪。意外と気に入っているのか、元の姿に戻ろうとしない。玄関で出迎えた夕弦が困惑していたのを除けば実害はないので好きなようにすればいいとは思うが。

 それより、千璃としては気になっていることがあった。

 

「実際デートしてみてどうだった?」

「完全にそっち系。士道への脈ゼロ」

「うーん……そういうことを聞きたいわけじゃないけど、まぁいいか。手は打ったから、そのうち泣きついてくるでしょう」

 

 実に否な予感しかしない言葉だが、疲れ切った七罪は突っ込むことを諦めた。被害が行くのは多分美九と士道だ。

 美九はさておき士道に被害が行くのは余り看過できたことではないが、手は打ったというあたりもう何を言っても遅いのだろう。あとは士道が苦労しないように祈るだけである。

 ……そんなことを考えている時点で士道に半ば陥落しているようなものなのだが、当の本人は全く気付いていない。当初の警戒心など最早なかった。

 それはさておき、現時点で一番の問題は美九である。

 

「どうにかあの子を表舞台に引っ張り出したいところだね。予備の策も用意してるけど、引っ張り出せれば随分と楽になる」

「何をするつもりかはあえて訊かないけど、多分それをやったら士道は怒ると思う」

「それはわかってるよ。でも、それくらいやらないと駄目そうなのがねぇ……DEMもこそこそと動いてるし、ちょっと荒れるかも知れない」

 

 エレンとウェストコットは未だに日本に滞在しているし、つい先日はジェシカというDEMの出向社員も現れた。ASTは対策を打ってあるとはいえ、DEMは厄介極まりない相手だ。

 真那を引き抜いたことで脅威度はある程度下がったものの、エレンがいる以上は余り変わりない。

 加えて二番目の精霊と、考えることが多すぎる。

 

「今のところ私と敵対しているのはDEMにAST、二葉に〈ネームレス〉。便利屋扱いしてるけど潜在的には〈ラタトスク〉も敵なんだよねぇ」

 

 厳密に言えば〈フラクシナス〉の面々だが。円卓は潜在的も何も元から敵なので監視は続けている。

 現状は打つ手なしとして何もやっていないが、千璃としてはあちらも潰しておきたい不確定要素だ。一度はウェストコットと手を組んでいた男──ウッドマンがいるのだから。

 一度は出し抜かれた相手だ。目立った動きをしていないからと言って油断していい理由にはならない。

 そう考えていた時、七罪がぐでーんと机に頬を付けたまま視線だけを千璃の方に向けた。

 

「……ちょくちょく名前を聞くけど、二葉って誰?」

「一応世界で二番目に観測された精霊、っていう触れ込みかな。今はDEMにいるみたいだけど」

「はぁ? DEMって精霊を殺そうとしてるんじゃ……」

「その筈なんだけど、多分優先度的に私の殺害が上位に入ってるんじゃない?」

 

 三十年も間があったのだから死んだとみなされてもおかしくなかったはずだが、現にDEMと二葉は手を組んでいる。巧妙に隠し通されているが、電子機器を用いている以上千璃に隠し通すことなど土台不可能。

 千璃が戻ってくるという確信があったのか、それとも別の理由があったのか。

 〈ネームレス〉が何か入れ知恵をした可能性もまた、無きにしも非ずといったところだ。

 その考えを述べたところ、今度は夕食の準備を終えた夕弦が疑問を投げかける。

 

「質問。〈ネームレス〉とは誰ですか?」

「〈ラタトスク〉では〈ファントム〉って呼ばれてる精霊。こいつがまた厄介でね……他人の認識を阻害できるから、姿を見ても本当に本人かわからない。あるいは今見せている姿も幻覚のようなものじゃないかって疑心も抱くことになる」

「驚愕。そんな精霊がいたのですか」

「ただ、こいつに関しては何時からいたのか(・・・・・・・・)私もわからない。気がついたらいた、って感じでね。順番的にはおそらく二番目か三番目あたりだと思ってるんだけど」

 

 原初の精霊が生まれたからこそ、二番目三番目の精霊が生まれた。だから、最初の一人目だけは絶対に順番が覆らない。

 それは千璃が一番よく知っていることだ。

 裏でこそこそと動いているというのはわかっているが、具体的に何をどうしようとしているのかはまだわからない。どうにも千璃を敵視しているということは過去にウェストコットたちと手を組んで千璃を殺そうとしたことからも理解できる。

 その能力の特性上、精密検査でさえもやりすごせる可能性も高い。三十年前は調べられたが、能力の特性上あれが"ブラフ"であるという可能性も捨てきれない。

 直接的な戦闘能力はないに等しいのが幸いといったところか。千璃と同じように策を弄するタイプだから、その厄介さは単純に暴力的な強さを誇る他の精霊とは一線を画している。

 

「まぁ、そのうち現れるでしょ。士道君の周りには精霊が集まってくるし、<ネームレス>も引き寄せられてくる──あるいは、もうすぐ傍にまで来てるかもね」

「……なんかホラーチックね」

「今貴方の後ろにいるの──って? それに近い感じだけど、幽霊と違って実体があるから怖がる必要はないね」

 

 基本的にオカルトは信じないので、千璃は七罪の言葉を一蹴した。

 そもそも精霊の存在そのものがオカルト染みているのだがそれはさておき。

 

「さて、話はここまでにしてご飯にしよう。夕弦ちゃん、今日の献立は?」

「解説。炊き込みご飯に野菜炒め、肉じゃがに豚汁です」

「おおー、今日は和風だねぇ。……ていうか、学校から帰ってきてよく炊き込みご飯なんて作る時間あったね」

「余裕。意外とすぐに作れるものです」

 

 料理はからっきしな千璃にはわからないが、夕弦が胸を張って出来るというのだからそうなのだろう。

 現在この家にはエンゲル係数を跳ね上げている少女が約一名いるので作ってある量はかなり多い。そうでなくても人数が増えているため、食事の準備というのは一苦労だ。

 別室にいる三人を呼び、手早くよそっていく姿はどうみても母親だったというのは七罪と千璃の共通意見だった。

 

 

        ●

 

 

 たった一人での夕食を済ませ、美九は鏡を見ていた。

 絹のような髪。瑞々しく、誰もが羨む美白の肌。おっとりとした雰囲気に思わず感嘆の息を漏らす美声。同性異性を問わずに惹きつけて止まないバランスの取れた体型。

 それら全ては、美九は先天的に持っていたものだ。

 声こそ一度失ってしまったものの、より他者を引き付ける魔性の美声となって戻ってきた。

 他者を人形のように扱う感性。自分の我儘を通す協調性のなさ。数え上げればきりがないと言える欠点だが、彼女の場合はそれらすべてを"美"という一点のみで許されていた。

 可愛いから何をしてもいい。美しいから我儘を言っても喜んで従ってくれる。

 霊力の影響による魔性の声を抜きにしても──彼女が歪む下地はあったと言っていい。

 

 ──まぁ、結局のところは人間見た目ってことですねー。

 

 美九が"士織"という少女を望んだのは自身の霊力が通じなかったという理由もある。美九自身は気付いていなくても、心の底では決して"声"で操れない相手を探していた。

 だが、やはり人というのは"見た目が九割"であることに変わりない。

 士織のことが欲しいと思ったのはほかの子たちと同じ──美九の好みに合う可愛らしい少女だったからに他ならない。

 これがゴリラのような見た目だったらまず美九は相手にしなかっただろうし、欲しいとは思わなかったはずだ。

 美九の周りにはいない、スポーツマンのようなすらりとした長身の女子。顔立ちは前に一度会った少年にそっくりだったが、兄妹だと言っていたからそれは仕方のないことだ。

 あぁ、欲しい。彼女が欲しい。

 情欲に濡れた吐息が思わずと言った様子で口元から漏れる。

 

 ──男なんて要らない。

 

 自分勝手に抱こうとして、嫌がれば人生を破滅に導くような愚図の群れ。女を抱くことしか考えていない気持ち悪いだけの存在など消えてしまえばいいのだというように、美九は思考する。

 アクセサリーのように女を侍らせ、酒と金に溺れたゴミクズ共。そんな己を陥れたような連中は軒並み破滅させてきた。

 これまでそうだったのだから、これからもそうだろう。

 "人をモノのように扱う"という一点に限っては美九もまた同類だというのに、その自己矛盾に彼女は気付けない。否、敢えて気付かない。

 だからわからない。

 

 士織が──七罪が、"外見だけで判断されること"を最も嫌うということが。

 

 




なんかいきなりお気に入り数とか増えててビビりました。なんでいきなり増えてるん?(

それはさておき。
原作六、七巻にあたる状況なわけですが、今後のあれを考えるとどうしても必要だったので美九と七罪の同時攻略に乗り出します(え
拗らせちゃった系最難関の二人を同時攻略とか原作的に考えると正気の沙汰とは思えませんが、七罪さん半分堕ちてるようなもんだから良いよね、と。

なお、それに伴って鳶一さんの攻略も早まる予定だったり。
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