デート・ア・ライブ 千璃ホロコースト   作:泰邦

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第四十話:デジャヴ

 ライブが始まった。

 軽快な音楽と楽しそうな歌声が聞こえるその場所で、千璃たちは天央祭を堪能していた。

 遠目に見える美九の姿は集まってきた観客の目を引くものではあったが、彼女はこのライブに出場するわけではない。

 出場していれば、千璃は様々な方法を以てその心をズタズタに引き裂く凄惨なパフォーマンスを用意したのだが──まぁ、出ていないものは仕方がない。

 今はそれよりも気になっていることがあった。

 

「……無粋だねぇ」

 

 通信の傍受によりDEMが動き出したことを知った千璃。祭りの最中に襲撃をかければ一般人に被害が出るし、秘匿もクソもない。

 ウェストコットはここまで手段を選ばなくなってきた。元々わかっていたことではあるが、どうにも人間的に腐っている男だと千璃は思う。

 無論、自身もまた士道という足かせがなければ同様の手段を取ることを厭わないだろうが、一般的に考えてもウェストコットは屑の範疇だった。

 

「動き出したの?」

 

 隣で焼きそばを食べている七罪が顔をあげて聞いてくる。精霊である彼女たちは聴覚もまた優れているため、歓声や歌声などで埋め尽くされたステージの観客席でも普通に会話が出来ていた。

 同じように焼きそばをそそりながらライブを見ている十香やジュース片手に楽しんでいる四糸乃はそちらに集中しているせいか、はたまた霊力を封印されて一般人と変わらない状態であるためか、二人の会話は聞こえていないようだった。

 

「流石に学習したみたいで、〈バンダースナッチ〉はいないけどね」

 

 或美島で全機の権限を上書きされたことを教訓に、人工知能だけで制御する〈バンダースナッチ〉は使わないことにしたのだろう。

 相手が真那やエレンならばともかく、ジェシカレベルならば〈バンダースナッチ〉だけでも相手取れる。数が上回っているのならばなおさらだ。

 代わりにDEMの魔術師が増員されているが、千璃からずれば大した人数ではない。

 ふーん、と気のない返事をしながら焼きそばを食べる七罪。あまり興味もないのだろう。

 だが、このまま放っておけばステージは台無しになるだろう。それでは夕弦と耶倶矢が可哀想だし、美九のことも色々こんがらがって面倒くさいことになってしまう。

 

「仕方ないかな」

 

 立ち見なのでそのまま後ろを向き、七罪に一度目配せをして会場から出ていく。

 七罪は一度だけため息を吐いて、ステージの方に集中することにした。次は耶倶矢と夕弦が出る番だ。

 

 

        ●

 

 

「真那ちゃんさぁ、寝る子は育つというけど寝過ぎだと思うんだよね。これだけ周りが騒ぐ中でよくまぁ寝てられたもんだと逆に関心するけど。電話にも出ないし」

『うるせーですよ。寝ぼけて携帯を壁にぶつけてたんです』

「あはは、それはまたすごい」

『ところで、そっちはかなり盛り上がってるようですね。バンドの演奏ですか?』

「そうそう。夕弦ちゃんと耶倶矢ちゃんが一般人の子とバンドを組んで出場するっていうからさ、皆で一緒に見に行こうって言ってたんだよ」

『兄様もそこにいるんですかね』

「そりゃね。二人からしてみれば士道君にこそ見てほしいんじゃない?」

『そういうもんですかね。私にはちょっと分からない感性ですが』

「そういうもんだと思うよ。私だってその手の感性に理解があるわけじゃないけど」

 

 携帯で真那と通話しながら歩き続ける千璃。天央祭の最中であるために人通りは絶えることが無いため、下手に空を飛んで移動することも出来ない。

 空には大分高い位置に滞空しているDEMの魔術師たちが見える。時間はそれほどないだろうと判断した千璃は適当な仮設トイレに入り、全身を覆うライダースーツのような霊装を纏って光学迷彩を施し一気に空へと駆け上がった。

 見えていなくても随意領域に触れれば知覚は可能となる。しかし、人間の感覚の大半は視覚に偏っている。

 ならば、咄嗟の判断に一瞬の遅延があったところで何らおかしくはない。

 

「まず一人、と」

 

 天宮スクエアへと砲撃を放とうとしていた一人へ向け、千璃は創造した魔銃で狙いを付けて引き金を引く。

 疾走する弾丸は寸分狂わず魔術師の頭部を撃ち抜き、一瞬で絶命せしめる。

 それだけで動揺が走るジェシカ分隊。何者かが随意領域を障子紙のように貫いて攻撃してきたという事実に、驚愕を隠せない。

 

『これは一体──ッ!?』

『せ、精霊反応です! 同様に生成魔力の反応もあります!』

『おそらく、情報にあった〈サイレント〉だと思われます!』

『早速出てきたカ──』

 

 行動の遅いジェシカたちを傍目に、千璃は煙草に火を点けて紫煙を燻らせる。ろくに一服する時間もとってくれなかったので、どうにも吸いたいという欲求が我慢できなかったのだ。

 別に目視されて困るわけじゃないし、と思いながら光学迷彩を解除して姿を現す。闇雲に攻撃されて天宮スクエアに被害が行くのも御免だし、この程度の連中なら余裕を持って始末出来ると確信したからでもある。

 エレンは別行動をしているためにここにはいない。それ故に急ぐ必要もある。

 

『迎撃目標、〈サイレント〉!! 攻撃開始!』

 

 一斉に放たれたミサイルが耳障りな風切り音を伴って千璃へと着弾する。如何に強力な精霊であろうと、分隊として用意されたのは二個中隊に達する戦力だ。

 それを一人で相手取ろうというのに、呑気に煙草を吸って隙を見せている千璃にジェシカは嘲笑を送った。──こんな女がどうしてメイザース執行部長に警戒されるのかがわからない、と。

 だが、その自信も爆発による煙が晴れた瞬間に打ち砕かれる。

 

「……通信機を使っていないのか。GPSも応答なしと来た──本格的に私の対策を整えているようね」

 

 ジェシカのことなど眼中にない(・・・・・)

 放たれた無数のミサイルも圧縮された随意領域を貫けず、それどころか意識は別のところを向いてさえいた。

 ハッキングしていたのはジェシカたちの持つ通信機。こちらはウェストコットではなくDEMの日本支社へと繋がるものだが、ASTへも繋げることが出来る。ASTの相手をする気はないので、そちらの回線はハッキングして潰しておこうと千璃は考えつつ、目の前のジェシカたちへと視線を向けた。

 そもそもの話、通信が傍受されているとあちらも予想しているはずなのに通信機を使っていた──つまりはブラフ。ジェシカの分隊そのものが千璃の誘導だという可能性がある。

 それでも一人残さず落としておけば、少しはDEMの戦力を削げるだろう。エレン以外は等しく雑魚に過ぎないとはいえ、ちょろちょろと動かれるのはうっとおしくて気分が悪い。

 煙草を口にくわえたまま、魔銃を右手に携えて空を駆ける。

 咄嗟にレイザーブレードで迎撃しようとした一人は、全身の動きを随意領域で止められて頭部を撃ち抜かれる。

 本来、随意領域を使う相手が敵なら、機体の性能にもよるがそれなり以上の実力差がなければ相手の全身を縛ることなど到底できない。

 それを容易く行う千璃の実力に、彼女たちは畏怖した。

 

「かかって来いよ雑魚ども。一人残さずウェストコットに血まみれの死体で送り付けてやる」

 

 凄惨な笑みを浮かべた千璃の眼球は、黒く染まっていた。

 

 

        ●

 

 

 七罪は食べ終わった焼きそばのパックを手元のビニール袋に入れ、改めてステージの上で超絶技巧を披露する夕弦と耶倶矢を見る。

 元が滅多にいないレベルの美少女であるため、その時点で目立ってはいた。それに加えて完璧な演奏にソロパートと、亜衣麻衣美衣の三人は徹底的にあの二人を目立たせる方向で調整したらしい。

 多芸だなー、と他人事のように思う七罪。

 実際に他人事だが、あそこまで様々なことは出来ないので羨ましくもある。

 

「……ん?」

 

 後ろから肩を叩かれ、ふと振り向くとそこには美九がいた。

 ニコニコと笑みを浮かべて「外に行きませんか?」と言っている。八舞姉妹のバンド演奏もほとんど終わりかけなのでまぁいいかと思い、七罪は頷いて美九の後に続く。

 チラリと士道の方を見ると、彼もこちらの様子に気付いていたが口パクで「大丈夫」とだけ告げておく。理解したかどうかは定かでないが、士道が頷いたことから伝わったのだと判断した。

 ライブが行われている天宮スクエアから出ると、会場内の熱気とは違って清涼な空気が流れている。外も十分ににぎわっているが、やはり密度が違うのだろう。

 手に持っていたゴミを近くのゴミ箱に投げ捨て、近くの出店を冷かしながら二人で歩く。

 

「さっき出ていった金髪の女の人は、士織さんの知り合いですかー?」

「まぁね。今はあの人の家に居候してるの。士道とも住んでる家は違うし」

「複雑な事情があるとは聞いてましたが、大変なんです?」

 

 曲がりなりにも兄がいると言った以上、一緒に住んでいないというのはそれなりに大変な事情があるのだと連想させる。

 嘘を嘘で塗り固めていくと意味が分からなくなるので七罪もあまりやりたくないのだが、いざとなれば行方不明にすればいいかと適当に考えておく。

 しかし、姓を「五河」で通したのは拙かったかもしれない。千璃と同居ないしは内縁関係なら姓は「樋渡」であるべきだ。

 

「それなりに。千璃も色々と複雑な事情を持ってるから」

「へぇ……それにしても、綺麗な人でしたねー」

「実年齢は七十超えたババアだけど」

 

 当人に言っても笑って肯定するだけで怒りはしないので、普段の癖がつい出てしまう。その言葉に美九はぴたりと動きを止めた。

 わなわなと震え、その事実を認められないように美九は大声で叫ぶ。

 

「な、七十……? あ、あの若々しい姿で七十ですかぁ!?」

「あー……まぁ、うん」

 

 とうとう説明を放棄した。

 終戦間際から生きているのならそれくらいの年齢になるのは当然だろう。三十年ほど隣界で眠っていた上に肉体を新調したのなら肉体年齢と合わなくて当たり前だが。

 七罪も詳しいことを知っているわけではなく、美九もまた説明されたところでくわしいところはわからない。

 

「樋渡千璃っていう名前でね。私と苗字は違うけどそこもまた面倒な──」

「──おや、今のセンリは父方の姓を名乗っているのですか」

 

 突如として聞こえてきた声に、七罪はハッとした様子で振り向いて確認する。

 スーツを着込み、背中に長いプラチナブロンドの髪を流している女性。鋭くにらみつける瞳からは、少なからず緊張感がにじみ出ていた。

 事前に写真を見せられて知っていたが、彼女の相手をするために千璃は出ていったのではないのか? 七罪にはこの状況を打破するための策がない。

 美九は彼女のことを知らないだろうが、七罪は千璃から散々聞かされてきた。

 状況は、かなりまずい。

 

「そう警戒せずとも、一般人が多数いるこの状況で手出しはしませんよ」

「どうだか……上でドンパチやってるのはアンタらでしょうに」

「さて、何のことでしょう」

 

 雑なとぼけ方をするエレンに思わず舌打ちする七罪。美九は急にとげとげしい態度を取り始めた七罪に目を白黒させているが、目の前の女性が原因だと分かった瞬間に迷惑そうな顔をする。

 デートを楽しんでいる途中に邪魔を入れられるのは誰しも嫌なものだ。それが嫌っている相手ならばなおさら。

 

【──帰って貰えますー? 邪魔なんでー】

「……霊力反応あり。やはり精霊でしたか……まったく、このままセンリの思惑通りに進むと面倒事が起きそうですね」

 

 美九の"お願い"を軽く聞き流し、エレンは美九へと視線を送る。

 冷徹に──それこそものを見るような目で観察するその視線に、美九は思わず恐怖を覚えて半歩下がった。

 七罪は美九をかばうようにしてエレンの視線に割り込み、時間稼ぎのための質問をする。

 

「聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「ご自由に。どのみち私も今は(・・)手を出せませんし」

「今は……って言ってたけど、千璃は偽名を使っているわけ?」

「あながち偽名とも言い切れませんね。父方の姓である以上、名乗る権利は確かに有しているわけですし」

「……じゃあ、昔は母方の姓を名乗ってたの?」

「ええ、まぁ──私の知っている名前はセンリ・リリス・クロウリー。隠蔽されているわけでもないので、少し調べればすぐにでもわかることだと思いますよ」

 

 父親が日本人で母親はイギリス人のハーフ。一度そう聞いた覚えはあるが、名前など気にしたこともなかった。

 さして重要でもないと聞きもしなかったが、その名前にも意味はあるのか。

 

「……随分とあっさり教えてくれるのね」

「別に私が損をするわけではありませんから」

 

 しれっとそんなことを言うエレン。

 良い性格してるわね、と思うも、七罪は戦闘を得意とする精霊ではない。美九も同様なのだから、どうにか千璃もしくは士道に連絡を取りたいものだが──目の前の女がそれを許してくれるとも思えない。

 だが同様に疑問も生まれている。

 何故エレンはこの状況のまま膠着することを許しているのだ? 上空では千璃が少しずつDEMの戦力を削いでいるのだから、千璃がそちらに集中している間はこちらがおろそかになるのは道理。

 これは彼女にとって邪魔の入らないチャンスであるはずなのだ。どうしてそれをモノにしようとしないのか──それどころか、一歩も動こうとすらしないのか。

 七罪には、それらが一切理解できなかった。

 

 

        ●

 

 

「どうだった、我らの颶風の饗宴は?」

「ああ、すごかった。お前らあんなに上手かったんだな」

「謙遜。いろいろと勝負しているうちに覚えただけです」

「それでも凄いよ。二人ともプロ顔負けだったからな」

 

 演奏が終わった後、少し汗をかいた二人が士道めがけて歩み寄ってきた。やり切ったとばかりに満足げな顔をしていた二人は、士道の言葉に照れつつ四糸乃からジュースを受け取っていた。

 十香と四糸乃もライブで興奮したのか、手をぶんぶんと振って「凄かった!」と連呼している。普段はおとなしい四糸乃の新しい一面が見れた気がして、士道は笑みをこぼす。

 七罪は美九と一緒にどこかへ行っていたし、千璃もそれ以前にいなくなっていた。七罪はともかく千璃はDEM関連で動いている可能性が高い。

 千璃の強さは或美島で一度はエレンを撃退したことから推し量れるし、七罪も逃走だけに意識を裂けば捕まることはないだろう。狙っているのも十香だという話だったし、一番警戒するべきは霊力を封印されて一般人と変わらない状態の十香たちだ。

 いざとなれば士道が体を張ってでも彼女たちを守らなければならない。

 ──と、そう考えた瞬間、どこからか殺気を感じた。

 千璃と手を組んで以来──というよりも、トラウマを刻み込まれて以来、士道は殺意に敏感になっていた。それが自分に向けられたものならばなおさらだ。

 人ごみの中でなお目立つタイトスーツの女性。プラチナブロンドの髪をなびかせ、刺すようにに鋭い視線でこちらを見ていた。

 

「…………?」

 

 だが、なんというか……言い知れない違和感のようなものを覚えた。

 こちらのことをきちんと認識しているのに動こうともしないところや、周りの人が彼女を避けるようにして(・・・・・・・・)動いているところなど。

 そもそもにして、或美島であった時とは雰囲気が違うような──そう思ったとき、ふと背後から声が聞こえた。

 

「ありゃ偽物ですよ、兄様」

 

 ホットパンツにタンクトップと涼しげな格好の真那は、嘆息しつつ士道にその正体を教える。手早く支度して家からここまで急いで向かってきたのだ。

 一番近い場所でその実力を思い知ってきた真那が、エレンの実力を知らないはずがない。

 細かい所作から雰囲気、殺気、視線の鋭さなど、真那は全て知っている。

 そして、視界に入っているエレンにはそのどれもが当てはまらない(・・・・・・・)

 何より顕著なのはあの場から動かないこと。本物ならではの匂いもなく、それらしい動作もしなければばれるのは当然の話だ。

 

「ここに来るまでに他の偽物も見てきましたし、間違いないです。ですが、一体何を狙ってやがるんですかね……どうにも嫌な予感というか、変な感覚があるんです」

 

 ふらふらと夢遊病者のようにどこかへと歩き始める真那。

 どこを見ているのかもわからない瞳を見ると危なっかしく、士道は彼女を止めようと手を伸ばしたが、真那はその瞬間にハッとした様子で呟いた。

 

「まるで前にも見たような感覚。なんていうんですかね、これ──デジャヴるんですよ(・・・・・・・・・)

 

 間違い探しをするかのように真那は周囲をジッと見つめ、何かを見つけた瞬間に走り出す。

 そして──おそらくは一般人であろう女性の背後に回り込み、そのまま部分的に展開したCR-ユニットを用いてレイザーブレードを生成する。

 迷う必要はなかった。

 歩き方がそもそも一般人のそれではないし、今の真那は絶対に間違えないという自信があった。

 単純にエレンの技を多く見てきたからではない。

 この光景に見覚えがあった(・・・・・・・)からだ。

 振り下ろされたレイザーブレードは周りの人間には近くすら難しい速度で女性の首元へと向かい──首を切り落とす直前に弾かれた。

 

 




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