【短編集】まさか廃人施設のボスとは思わない   作:ryure

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サブウェイマスターは「ふたごちゃん」のトレーナーカードも持っている。
双子の車掌なので当たり前のことなのだが、成人男性から繰り出される「ふたごちゃん」はちょっとしたネットニュースのネタになっていた。

「エリートトレーナー」ノボリの休日 の蛇足的続編。


「ふたごちゃん」のネットニュース

「おはようございます。

あ。今日もまた、ネットニュースに取り上げられてますよノボリさん」

「またですか。今度はなんです?」

「ええっと、『サブウェイマスターノボリ! 知られざるオフショット~トレーナーカード『ふたごちゃん』の……」

「わー! わー! 思い出させるのはおやめくださいまし! わたくし、間違えてしまっただけなんです! 行きますよシャンデラ!」

「あぁ、行ってしまわれた……」

 

 慌てて事務室の机や椅子に長い脚をガンガンぶつけながら出ていってしまったノボリさん。相当前の休日に「ふたごちゃん」を冠するトレーナーカードを出してしまったことが堪えてしまったらしい。

 黒ボスのキャラの濃さ……声が大きく、ハキハキとした敬語で、双子の弟と反対の表情を常に浮かべていて、とても真面目、そしてそして、ものすごく強いエンターテイナー的・職業トレーナー……を思えば、オフで「ふたごちゃん」をやっておられても、事実彼は有名な「双子」なのだし、嘘もついていないから良いんじゃないかと思うのだけど。

 

 それにネットニュースに取り上げられているとはいえ、負の話題ではないのだし。サブウェイマスターの弱みをつついて炎上させてやろうというニュアンスではなく、どちらかというと「あなたのまちのほっこりニュース」とか「今日の癒しポケモン」の部類だし。

 

「あれ? ノボリ、ヘソ曲げちゃった?」

「あ、クダリさんもおはようございます」

「おはよ!」

「ヘソを曲げちゃったというか、恥ずかしがられているような印象でしたよ」

「そうなんだ。えへへ見て見て、ぼくも『ふたごちゃん』のトレーナーカード引っ張り出してみたの。これをノボリと『タッグバトル』で出したらウケるかな?」

「明日のライモン・ネットニュースは決まりですねえ。お可愛らしい」

「やったぁ」

 

 白ボスの手にある二枚の「ふたごちゃん」のトレーナーカードに写っている笑顔の小さな男の子。ノボリさんのトレーナーカードには口をへの字に曲げた少年が写っている。社内報に載せたらバカウケ間違いなしだから写真部分だけコピーとらせてもらえないだろうか。

 ボスたちったら、写真に写る小さな姿でさえモンスターボールをしっかり握りしめ、ポーズは違うものの鏡のような対のポーズをしっかりしていて「これぞ、かのサブウェイマスターの幼少期!」としっかりわかるお姿なのだ。エンターテイナーがすぎる。

 

「『サブウェイマスター』はマルチトレインでも使用されているんですよね。オフだと基本は『エリートトレーナー』でしたっけ?」

「そうそう。でもそれはシングルかダブルかトリプルだね。『タッグバトル』には要件があるんだよ。『ふたごちゃん』『カップル』『おやこ』とか。もちろん申請したらどうにかなるかもだけど合理的事情ってやつ? が必要らしい。

 じゃあ、ぼくたち運良く『ふたごちゃん』を持ってるんだからそれでいいかなって」

「なるほど。大人になってからはそっちは使ったことあるんですか?」

「ないかも! うん、今度の休み、使ってみる!」

「やっぱりネットニュースは決まりですねぇ」

「ノボリ、大喜びに違いないね!」

 

 快活に笑ったクダリさんは、ノボリさんが「大喜び」の様子を想像したのかきゃらきゃら笑いながらノボリさんが出ていった方に歩いて行った。

 

 地下王国の最強のふたり、だけども普段の彼らは「キャラクター」を脱ぎ捨てた時、親しみ深い人間に早変わりする。世間で言われているどこか神秘的な非人間キャラクターではなくて、人間らしくて、そばにいるのが分かる存在になる。

 まだこの姿は鉄道員の間の秘密にしておきたかったのだけど。

 

 まぁ、本人たちが楽しそう(?)だからいいか。

 

 

 

 

 

 

「クダリ、なんですせっかくの休日に。仕事の日も顔を突き合わせているのに休日も同じ顔を拝んでいたいのですか?」

「今更過ぎ。ね、今日はタッグバトルやってみようよ」

「タッグ……はぁ。例の『ふたごちゃん』ですか? 何かよからぬことでも思いついたので?」

「良からぬこと、じゃないよ。ノボリはひとりで使っちゃったけど、思い出してみたら大人になってから『タッグバトル』やってないって気づいたの。あ、マルチトレインはお仕事だからカウントナシね。せっかくだからさ、今日は思いっきりタッグバトルで荒らしちゃおうよ!」

「……いいでしょう。せめて今日の手持ちは二体までにしましょうね。わたくし、負ける気はありませんが一般トレーナーに向かって道端ドッキリスーパーマルチトレインは流石に惨いと思うのです」

「それはそう。できればマルチトレインのお客さま、増やしたい。格好はどうしよう?」

「普段着でいいんじゃないですか?」

「色違いの服! ほら、『ふたごちゃん』なんだしさ!」

「そんなの制服で嫌というほど見慣れたものでしょう……あぁ、ちょっと! 勝手に!」

「ふふん。

『ふたごちゃんのクダリ と ふたごちゃんのノボリ が 勝負を仕掛けてきた!』

どう?」

「えっと、新しいポーズですか? お前はそういうの本当に好きですねぇ。笑われるのは嫌じゃないんですか?」

「ぜんぜん。ほら、ふたごちゃんのポーズ!」

「今更ですけど、ふたご『ちゃん』って年齢じゃないですからねわたくしたち。いい歳の成人男性がオフでやることじゃないですよぅ……」

「オンで散々やっているじゃない」

「あれは上層部から要請された『キャラクター付け』でしょう? 他のバトル施設でもされていると思います」

「ノボリ、本当は営業スマイル上手だもんね」

「そうでしょう、そうでしょう!」

 

 ぼくにはノボリの笑顔はわかるけど、今日も口角は上がってないし生真面目な性格がにじみ出ていて目も真面目、だからともすれば怒っているようにも見えるかもだけど。

 まあぼくにはわかるし訂正はしないんだ、いつも。目がきらっきらしている時は笑顔! 簡単だね!

 

「行くなら堂々と行きますか。買い出しついでに」

「今日はワリカンだからね」

「もちろんです」

 

 その時、アーケオスが「買い出し」と聞いてボールから飛び出してきた。なんで?

 

「おやおや。またアイスが食べたいのですね。今日もお手伝いしてくださりますか?」

「ねぇノボリ、もしかして前さ」

「ダラダラした挙句兄を顎で使ったのですからね、それくらい当然でしょう? おいしゅうございました」

「そうかもだけど、やられたなぁ……」

 

 やる気十分アーケオス。一緒に元気なシャンデラ、あとの二匹は誰にしよう?

 

 色違いのお揃いの服を着て、ポッケに入れたのは「ふたごちゃん」のトレーナーカード。

 うんうん、なんてことのない休日にぴったり。

 

 こういうのが、あとから「いい思い出」として効いてくるんだよね!

 

 

 

 

 

 翌日、「【レア】サブウェイマスターノボリ・クダリ、『ふたごちゃん』で野良タッグバトル?!」なんてネットニュース記事に載ったぼくたちは、パパラッチに向けて最高のスマイルとピースサインを向けて、全世界に発信されたのでした。

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