「エリートトレーナー」ノボリの休日、「ふたごちゃん」のネットニュースの続編です。
『スーパーダブルトレイン、最終便が参ります。危ないですので白線の内側までお下がりください』
『白ボス、ホームに誰もいません。このまま車庫にお願いします』
『了解。スーパーダブルトレイン、折り返し車庫に参ります』
はぁー、残念。残念だけど今日の勤務はこれでおしまい! それはそれとして疲れた身体と緊張感からの解放は格別だね!
なんとなく、ボールの中のみんなもホッとした感じ。早く帰って晩御飯食べようね。きっと今日は早番で帰ったノボリがご飯を作ってくれてるから。
車庫への自動運転をオンにして、ぼくは座席に腰を下ろした。
ガタンガタン、ガタンガタン……
線路の小さな隙間を車輪が乗り越える度に発生する心地よい揺れが素敵なリズムになってぼくの身体を揺らしてる。
暗い地下と対照的な明るい車内の中、鼻歌混じりにリズムに乗って左右に身体を揺らす。
ガタンガタン、ガタンガタン……
そうだ、今日は早めに帰れるってことノボリに連絡しないとね。ライブキャスターを起動してショートメッセージを送っておく。
『最終便、お客さまなし。早めに帰るね』
『わかりました。気をつけて帰ってきてくださいまし』
これでよし!
じゃ、着くまで今日のバトルビデオ見返してよっと。
「みんなお疲れさま! スーパーダブルトレイン、正常に車庫入りしたよ。みんなは異常はなかった?」
「シングルトレイン、異常ありません!」
「ダブルトレイン、問題ありません!」
「スーパーシングルも無事完了!」
「じゃ、今日は無事に運行終了! あとは定時まで頑張ろっか!」
事務作業と明日の準備なんてきっとあっという間! 頑張ろ!
業務用ライブキャスターをパソコンに接続して今日のバトルビデオを提出。読み込まれたバトルビデオがバーッと一覧になっていくのを確認。自動でなんの種類のバトルだったのか、勝利と敗北のタグ付け、経過ターン数が記録され、フォルダ分けされていく。
これを待機中の職員やぼくたちが見るわけで、分かる限りの覚書みたいなのを追加していく。
例えば、「じばく/だいばくはつオチ」とかね? たまにある。先に瀕死になった方が負けってルールとはいえ、車両への甚大なダメージがあるから本当はやめて欲しい。
そんな感じで覚えている限りの戦法も書いておく。「なまけ+なかまづくり」「ほろびのうた」「トリパ」「おいかぜパ」「タイプ相性◎」……無数の努力と試行回数の成果。ぼくらにとって、地下を掘り進んだ先にある美しい宝石のような結晶たち……。
定時まで他に仕事がなければじっくりずーっと眺めて対策を練っていたい。そうしてぼくらがより強くなって、より壁として立ちふさがればもっともっとみんなも強くなる! 共に高めあっていける! だから……でも。
ぼくも雇われなので、先にちゃんとお仕事、する。
「白ボス、こちら車両の修理の請求書です」
「うわ。ありがとう。これ……」
「お察しの通り、だいばくはつです」
「だよね。今日の怪我人はいなかったと思うけど」
「防衛システムをアップグレードしたお陰で挑戦者共に無事でしたから」
「よかった。予算、通しておいて」
はぁ……これだから爆発オチは。なんてちょっと愚痴もありつつ。
「ボス! こちら来月のシフトです!」
「オッケー、ちゃんとみんな有給とってる?」
「むしろボスがとってくださいね」
「ぼくもとりたい、とりたいとは思ってる」
「思ってるだけじゃ社労士は許してくれないんですよ」
「いつも車両点検日に休んでるから。あと休むならノボリも」
「黒ボスにも通達しようとしたのですが、『早番とはすなわち早上がり、定時ダッシュさせて頂きます!』と仰ってスーパー二種のバトルビデオをコピーしてすぐ帰られました」
「うーん? じゃあとりあえず平日のココ、たしか車両点検日でしょ。ぼくらの有給ここね。ノボリのも出しとくから」
「承りました!」
サブウェイマスターも労働法に則ったシフト勤務。世知辛いね、ずっと居させてもらえないなんて。そんなの人間である限りムリだけど。
書類やメールでの承認作業を続けながら、片目では倍速で流したバトルビデオを見ながら、時々インカムで入ってくる質問とかに応えつつ。
あーあ、お腹すいた。早くノボリの作ったあったかいペペロンチーノが食べたいな。ぼく、今日はとってもパスタの気分。ふたごならきっと伝わるよね。伝わって。
ライブキャスターでリクエストしておくのは忘れてたけど、まぁそこはふたごのテレパシーでなんとかなるよね!
着替えて退勤! ロングコートと制帽、まるい靴はロッカーへ。普通の革靴とただのジャケットを身につけ、リュックを背負う。腰に着けたベルトにみんなの入ったボールを装着して、オッケー!
タイムカードもちゃんとピッてしたし、戸締りは今日ぼくの番じゃない!
うん、とっとと帰ろ。
今からは「サブウェイマスター」クダリじゃなくて、「エリートトレーナー」クダリ!
乗務員専用の扉をガチャッとあけて、人気のないライモン駅を出るとそこは明るい眠らない街。早く帰ろ、早く帰ろ!
空腹を抱えて夜の街を駆け足。眩い街灯に照らされながら進んでいくと、バッと影が飛び出してくる……!
草むらじゃあるまいし、野良バトルまでポケモンみたいに襲いかかってこなくてもいいんじゃない?
「やぁ、スーツのお兄さん。仕事が終わっても一勝負! これがまた格別なんだよね!」
「同意、だいたい同意。エリートなぼくに襲いかかってくるなんて、見る目があるね!」
「あ、あ、そのセリフ、エリートトレーナーさん?!」
「目と目が合ったらポケモンバトル、でしょ! 行くよ!」
すっごくお腹すいたから、ちょっと割増で頑張って! お願い!
そんな気持ちでサラリーマンのお兄さんに向かってアーケオスのボールを繰り出した。
アーケオスは見るからに半目で眠かったみたい! ごめんね!
眠気と空腹で「よわき」ならぬ「つよき」にはりきってくれたアーケオスのおかげですぐに三タテ、うん、大人げないけど相手からしかけてきたんだもんね!
相手に向かってちゃんと「エリートトレーナー」のトレーナーカードを差し出すと、相手はぼくの顔をバッと見た。カードと見比べてる。
普段からもあのコートと帽子がないと案外ぼくだって気づかれないんだよね。そんなもの?
「サブウェイマスターのクダリさんじゃないですか! クダリさんってオフは『ふたごちゃん』じゃなかったんですか?」
「もちろん『ふたごちゃん』も持ってる。ご存知ふたごちゃんだからね。主にタッグバトルしたい時に使ってるよ」
「あ、そうなんだ、そうなんですね? ノボリさんはひとりでも『ふたごちゃん』だったってネットニュースで見たものだからてっきり……」
「あれは普通に間違えただけ。ふふ、ノボリをからかってやろうっと」
ノボリの間違いからは結構日が経ってるのに、まだ覚えてる人いるんだ? おかしくなっちゃうね。
サラリーマンのお兄さんと別れて、やっぱり駆け足。早く帰らないとお腹からハイパーボイスが繰り出される!
だけど、バトル大好きなぼくの心までは変えられない。ぼくの心が望んでいるように今度は家の近くで捕まっちゃった。
「ポケモンは大好きですね? あなたの顔がそう告げています! 僕もポケモンがだいすきなので、ここはひとつ勝負しましょう!」
「よーし。じゃ、エリートな短期決戦、見せてあげる!」
特徴的なTシャツ、にこやかな笑顔。
ポケモンだいすきクラブのひとだ!
でも、もう、ここからでもなんだかいい匂いがわかるんだよ! そこにノボリの作ったご飯が! もうすぐありつけるってわかってるんだもん!
「いけっデンチュラ! 早く晩御飯食べよう!」
すばやさ高めのデンチュラはしっかりぼくに応えてくれた!
そしていつものようにトレーナーカードを差し出すと、ポケモンだいすきクラブのお兄さんもぼくの顔とカードを見比べた。
「あぁ、『エリートトレーナー』のクダリさんでしたか。お顔を拝見してもしやと。『ふたごちゃん』を制覇できると思ったのに……」
「あのね、それでトレーナーカードを制覇したとしても、それ二回負けてる」
「そうでした。そうなんですが……レアなトレーナーカードを登録するとコレクター欲が満たされるといいますか……」
「ふふん、ぼくならもっとすっごい肩書きの登録の仕方知ってる! 聞きたい?」
「それは、ぜひ!」
「バトルサブウェイにきて、四十九連勝して、ぼくたちと戦って! そうしたら『サブウェイマスター』を登録できるよ! ふたりしかいないんだから!」
「巧妙な宣伝だった!」
「『ノッテタタカウ!』みなさまのご乗車、お待ちしております!」
明日にでもバトルサブウェイに来てくれるようにファンサしておかなくちゃ。
たっぷり握手してあげてから、是非来てね? と手を振って、やっとのことでたどり着いたぼくは玄関のドアを開けた。
「ただいま!」
「おかえりなさいまし。今日は美味しいカルボナーラですよ」
「やったぁ、すっごくニアピン! 今日パスタの気分だった!」
「ニアピン? なんでもいいですが早く手を洗ってきてくださいまし」
ぼくがバタバタと足音を立てて出ていったリビングには、「ふたごちゃん」の時のぼくらの写真、「てつどういん」の時の写真、そして「サブウェイマスター」の写真が並べてある。
どれもこれも、おんなじ顔をしたぼくらが並んで、幸せそうに笑ってる写真。
未来はどうなるのかな、同じようにお揃いの服を着て肩を並べているのか、はたまたそれぞれ別々の道を見つけるのか……分からないけど。きっと素敵な写真が増えるはず。
あ、でも今度のふたりそろった久しぶりの休み、この前はタッグバトルの為に家にいなかったから……今度こそぼくが食事当番だった!
わざと「ふたごちゃん」ソロバトルしてぼくもネットニュースに載ってみる? それともそれは狙いすぎ? 集客目的にはいいのかな? ある意味無料の宣伝だし……でもやり過ぎたら価値がなくなっちゃうか。
あれはノボリの純粋なうっかりだったから面白かったってのはあるよね。「ふたごちゃん」はふたりでいるのは当たり前だし、ひとりで「ふたごちゃん」って、ヘンかも。
翌日のネットニュースには「【考察】サブウェイマスターの知られざるプライベートとは?【レア度順】」というネットニュースにぼくたちの持っているトレーナーカードの肩書きの種類が掲載されていて、もうなんでもアリなんだって気づいたぼくらはふたりで頭を抱えた。