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・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度
仮面ライダー生誕50周年記念作品
真 仮面ライダー生誕30周年記念作品
1997年9月1日 深夜3時 太平洋-インド洋間
月の光に淡く照らされている黒々とした群青の空と海、一隻の巨大な巡航客船が運航していた。夜空の闇に包まれながらも純白さを保つ船体は、全長200m以上もあるその巨大さを誇張しているようだった。
船内で、操縦士と思わせる20代の男性1人が弱く光を灯している照明が取り付けられている操縦室にいた。
『This is the Mikado, now on the way back from Ras Tanura Port.It will arrive by sunrise, so please be prepared to accept it.』
操縦士が船内の無線を終えると、彼と同じ制服を着た中年の男性が来て話しかけた。
「お疲れ、一晩この船を任せて貰って悪かったな。」
「ありがとうございます。いやぁ、久々の長旅でしたけど特に何事も無く着港できそうですね。」
「ああ。この船は原油の生産工場を視察に来た各国の政府や大手企業の重鎮さん、それに様々な物資を載せているからな。と言っても化石燃料も年々減ってるし、温室効果ガスやらで大気も濁って綺麗な星空も見えなくなってきてるし、人間もそろそろ環境問題にも目を向けないとな。」
「そうっすね。ところで三浦さん、今回の航海を終えたら実家に戻るみたいなことを聞きましたが本当でしょうか?」
「ああ、そうだ。偶には離れ離れになったせがれの顔も見てやんなきゃな。そういえばお前にはまだ見せてなかったか。」
三浦と呼ばれる船長は、財布の中にある写真を操縦士に見せた。
「隣にいるのが息子さんですかね。笑っている顔が三浦さんとそっくりだ。」
操縦士は、写真の男性の隣にいる少年に一瞬目線を向けた後に三浦に話しかけた。写真の少年は黒髪の短髪で、いかにも年頃な服を着ていた。
「お前、いいこと言うじゃねえか。こいつは吾郎と言ってな、船に乗っている俺の姿を見て船乗りを夢見てるんだ。今はこの仕事で離れ離れになっているけどな。」
「へぇ、吾郎君も休日には三浦さんと一緒に船に乗っているんですかね。」
「ああ、それに俺よりよく魚が取れるんだ。しかも獲った魚が旨くてな。まるで妻が作っていた手作りの料理の味を思い出すんだ。それより目的地にはまだ着いていないぞ。気を抜かずしっかり運べよ。お前もそろそろ独り立ちする時期だしな_」
三浦が一瞬笑みを浮かべながら操縦士と話していたが、突然警報が鳴り響いた。
「何だ、今のは⁉︎」
「すみません、こちらも分かりません!衝撃も特に無かったので_!」
「俺は外の様子を見て来る、お前は運航を続けろ!」
「は、はい!」
周囲を確認するため一旦操縦室から離れ暗闇の中に入る三浦。弱く光る懐中電灯を片手に廊下を歩く。数十m先にある階段を登り、手前にあった船員の個室のドアを開く。辺りを見渡すと部屋が荒らされており、誰もいない。突如、上から三浦の服に生温い雫が一滴落ちる。雫は赤黒く、天井を見ると言葉を失った。
照明の上から石灰色の糸で縛られ、腐食し血液と筋肉が混ざり合いドロドロになった人間の姿があった。粘性を持った糸は人間の中心から赤く染まり、犠牲者の右首筋には一対の牙のような刺し傷があり、そこから出血していた。
「この船にも既に"奴等"が…⁉︎」
物陰で得体の知れない"何か"が蠢いているのを感じ、三浦は内側から込み上げる恐怖を抑えつつ別の個室に入った。そこも同様の光景が広がっていた。三浦は逃げるように操縦室に戻ろうとしたが_
その頃、操縦士は「得体の知れない何かもいる」という恐怖を抱きつつタンカーを動かしていた。突然三浦の悲鳴が聞こえ廊下に向かうと、そこには信じ難い光景があった。三浦の身体全身が操縦室手前の廊下の天井に糸に貼り付けられ、その上から人と獣の見分けがつかない怪物がいたのだ。
人間と同じく一対の手足を持っているが、鋭い鉤爪を持つ黒々とした手足、体幹に行くに連れ灰色になる体毛、4対の眼を持つ頭部、所々にある白と黄色の縞模様、一切の言葉を話さずただ唸り声をあげるなどその容姿・様相は明らかに人間のものでは無かった。
怪物は操縦士に目を向けると操縦士に近づいた。彼の首筋に一対の牙を突き立てようとした。その刹那、一陣の風が怪物と操縦士の間を横切り、緑の怪物として彼の目の前に姿を現した。禍々しい姿ではあるものの、背中から安らぎに近い安心感を感じさせ、操縦士はそのまま気を失った。
緑の怪物は黒の怪物に飛びかかり組み合った後、互いに解き激しい攻防を繰り広げた。緑の怪物の毛爪が黒の表皮を引き裂く、黒の怪物も噛みつこうとするが驚異的な速さで避けられ、操縦室の入り口を金属が軋む音と共に湾曲する。
攻防は徐々に緑の怪物が優勢になり、黒の怪物の左眼の1個を切り裂き潰した。黒の怪物は苦悶の鳴き声を上げ、尻から出した糸の塊を緑の怪物の足元に向け放ち、操縦室の窓を突き破り海中に没した。緑の怪物も糸の塊を躱し追跡しようとしたが、三浦が途切れ途切れになりつつも自分に話しかけているのに気づいた。緑の怪物は爪で糸を切り裂き彼を救出したが、三浦の命はもう風前の灯であった。
「君か…息子を、吾郎を…頼む…。」
三浦は懐中にあった息子との写真を怪物に託し、怪物の腕の中で静かに事切れた。これが三浦の最期の言葉となった。写真の裏には滲んでいたものの、何かの住所らしき箇条書きが書かれていた跡があった。
『This is Yokohama Port. Reply urgently, one hour past the scheduled time. 』
無線が流れる中、地平線の陽光が大海原とタンカーを包み込もうとしていた__。
1997年9月7日 午前9時 栃木県 那須郡 那須町 那須北丘牧場
草花が茂る大地を眩しく照らす雲の一切無い朝焼けの最中、1件の3階建ての建物と5、6軒もある牛小屋が立ち並ぶ牧場があった。
『那須北丘牧場』、門の看板に日本語・英語で刻まれたその牧場は国内の畜産分野において最先端かつトップの出荷量を誇っていた。
ここには、次世代の社会貢献の担い手になり得る農学部の大学を卒業した学生だけでなく、首都圏の生存競争に負け様々なものを失い疎開した者達も働いていた。賃金は安いものの、人材のバックグラウンド問わず受け入れる社会主義的運営は日本由来の企業としては異彩を放っていた。
牧場内の1部屋の個室の窓から一筋の光が差し込んでいた。その光は眩しく、1人の男がベッドから起き上がった。
「お父さんおはよー。今日もゆっくり寝れた?」
「_おはよう新、俺より早起きで偉いぞ。だけど、他の人の部屋に入る時はノックをしなさい。」
「はーい。」
1人の男の子が朝の挨拶をしながら、男の部屋に入った。
「今日も牛さん達のお世話をしに行くの?」
「ああ、牛達も新と同じくらい俺のことを気に入ってるみたいだからな。まるで家族みたいに_」
「家族?」
「ごめん、こっちの話。叔母さん達の作った料理も食べたいし、俺も支度を始めるから待ってくれ。」
「うん!食堂で待ってる!」
新がそう言うと食堂に向かって歩き出した。そして男・風祭真も新を数秒見つめ、身支度を終わらせた後食堂に向かった。
食堂。真と新が団欒の中で食事を取っている最中、食堂に設置されている巨大なテレビ画面で報道番組が放送されていた。
『_こちら今、神門号が着港した横浜港にいます。一週間前に起こった神門号船内での大量殺人事件ですが、未だに犯人を確保出来ておりません。昏睡状態から目覚めた生存者の証言によりますと、「自分以外全員を殺害した怪物の他にもう1体別の怪物が現れ、自分を助けた。」とのことです。』
画面にいる男性の実況アナウンサーが淡々とした口調で現場の状況を話す。それを見た30代前後の男女が、小さな声で不安を隠しきれない口調で囁くように話す。
「もういつになったら終わるのよ、こんな出来事…!」
「仕方がないだろ、警察がまだ退治できていないんだから。」
「でも…私達で逃げる前に私達の子が殺されたじゃない。貴方はそれを忘れたの?」
「俺だって忘れていない、むしろここにいる全員がそうだろ…!」
男性は、苦虫を噛み潰したような表情で言葉を続ける。
「東京はモノや街はあるけど、何というか常に忙しく人当たりが悪い…。何より5年前から"バケモノ"が世界中の都心部で暴れ回っていじゃないか。だから着いていけなくなった俺達は売れるもの全て売っ払って、まだバケモノが出ていないここに疎開して、2人でここでやり直している最中じゃないか…!」
「でも、やっぱり怖いよ私…!」
その会話を聞いた真は動きが止まった。彼の脳裏にこれまでの悪夢がよぎり始める。
自分が異形の姿や人面蝗に変貌し人々を殺す悪夢。自分が無力だったせいで死んだ恋人・明日香愛と父・大門。何も目的もなく新を守りながら世界各地に流浪する最中、助け出したにも関わらず自分達を"バケモノ"と罵り迫害し身柄をテロ組織に渡す手引きもした紛争地域の住民達。戦闘技術しか教育されておらず、自分が引導を渡すことでしか助けられなかった少年少女兵_
「_お父さん、お父さん!_」
「_?あ、うん。少し仕事のことで考えていただけだよ。」
「そう?ちょっと具合が悪そうだったよ。何か悩み事があるの?」
「そうかなぁ、早く寝るようにはしているつもりだけど。」
新の声で意識が帰ってきた真は、苦笑いしながら彼に答えた。
「朝礼まであと30分だよ。まだご飯残ってるけど大丈夫なの?」
「ゴメン。父さんは大丈夫だから先に行ってて。食堂のおばちゃんに頼んで吾郎君の分も持って行ってから行く。」
「はーい。」
新が先に朝食を済ませたので急いで食べ終え、食堂の栄養士達に「もう1人分作って欲しい」と頼み吾郎の部屋に持って行った。
「吾郎君、朝ご飯を持ってきたから好きな時に食べて。」
真は吾郎の部屋のドアを軽く叩いた後そう言って立ち去り、始業開始の朝礼までに歯磨きを済ませ、牛飼い小屋に移動した。
牛飼い小屋。そこでは真を含めた50数人の従業員が働き、寮で生活を営んでいた。
糞の除去や藁の入れ替えといった小屋掃除、人の手による搾乳、搾乳した原乳の運搬などが主な職務内容であった。
真達はそれらの内、掃除と搾乳がメインであり、牛達に懐かれているのもあってか真が搾る乳の量は他の労働者が搾るものより多かった。
「お久しぶりですね、1週間前の事ですが。大分牛達に懐かれ、出荷量が増えているというのは本当でしたね。事業を拡大できる地域を探す為に世界各地を視察に行ってて中々戻れなくて、私達としては非常にありがたいです。」
真は小屋に来た男性に向かって笑顔で挨拶をしながら、乳牛に懐かれながら乳を絞っていた。
社長の容姿は眼鏡を掛けた中年太りで50代の白人であり、腹は着用していたスーツがはち切れそうな程に膨れていた。また彼の後ろにはスーツ姿の男がいて、男の左眼には切り傷の跡が見えていた。社長達を見た瞬間、真の近くにいた乳牛を含め小屋内の牛達が一斉に遠ざかっていた。
「すみません、知らない外の人間のことを怖がっているだけです。悪気があって遠ざかっている訳では_」
「いえいえ、別に構いませんよ。暫くここに来ていなかったから私の顔を忘れてしまったかもしれません。むしろ風祭さんがこの牧場に来てくれたお陰で黒字になり、業績も右肩上がりとなりました。私を含めた皆様の為にも、ここでずっと働いて戴けたらありがたいです。」
「是非とも!」
社長は真との会話が終わると去って行った。牛達は恐怖心が和らいだのか真のところに集まり、真は作業に戻ろうとした。だが、
「大変です!吾郎の奴、窓から飛び出してどこかに行きました!」
「何だって!?」
突然の知らせに従業員達はどよめき始めた。
「アイツ、親父が死んだからと言って作業をサボり続けやがって…」
「つい最近入った新入りがせがみまくったから首の皮が繋がったようなものなのに…どこまで足を引っ張るつもりなんだ。」
「すみません、俺が探しに行ってきます。」
真はそう言うと従業員がこう言い返した。
「探すってお前、吾郎の行き先が分かるのか?」
「完璧には分かりません、ですが心当たりはあります。すぐに戻りますから!」
「おい、真!」
真は牛飼い小屋から飛び出し、駐車場にあった愛用のオートバイ・スズキバンディット250に跨り草木や荒地を駆け抜けた。
正午を迎えた森林、吾郎はまるで死に場所を探すかのように彷徨っていた。その希望が叶うかのように背後から突然日熊が現れ、巨腕を振り下ろした。吾郎は間一髪避けるが、熊は草木を薙ぎ倒しながら追いかけ遂に彼を崖まで追い詰めてしまった。崖からの落下か熊の爪に引き裂かれるか。2つの選択肢が吾郎に迫られた刹那、彼は身体がフワッと浮いた感触に包まれ、崖とは反対方向に座らされた。
「_顔を合わせて話すのは初めてだね。」
真は吾郎を救出すると、彼の目の前に立ち振り向きながらこう話しかけた。
真は熊と対峙し、熊が振り下ろす爪を超人的な跳躍力とスピードで避け首筋に峰打ちを決めた。喰らった熊は、遠くまで聞こえる地響きを立てながら倒れ込んだ。
「…すまない。今はそこで眠ってくれ。」
倒れた熊の脈を取り気絶したと悟った真の姿を見て、吾郎は大きく開けた口を塞がずにはいられなかった。
「凄い…!」
「_大丈夫か?」
「…ありがと。」
「熊が目覚めないうちに早く安全な所へ離れるんだ。」
真は吾郎をバイクに乗せ、熊が倒れた場所から急いで去った。
一方、物陰で真と一緒に食べていた男女がその光景を物陰から目撃していた。
「見た、貴方…。まさか、あの人が例の事件の犯人じゃ…!」
「シッ、あまり大声を立てるな。見つかったら殺されちまうかもしれないだろ…!」
「私もう嫌よ…バケモノに子供殺されて都会離れたのに、どうしてここまで来るのよ…!」
「一刻も早くこの事を社長に伝えよう。殺られる前に殺れば良いだけだ…!」
男女は急いで農場まで戻った。
午後半ばを迎えた森林の小道の中、吾郎は真に捕まりながら話しかけた。
「何故僕を助けたの?」
「どうしてって_」
「僕は、父さんと一緒に世界中の海を渡る夢があったんだ。その為に本や図鑑を読んだり、死んだ母さんの分まで育ててくれた父さんと一緒に船に乗って、釣りを手伝ったりした。東京湾でカジキを僕1人で連れた時は、父さんも喜んでいて嬉しかった…。」
「でも、周りの大人やみんなは父さんや僕の夢を"叶わない夢を見ていても仕方ないだろ"ってバカにしたんだ。僕は父さん以外誰も人を信じられなくなって、みんな敵だと思って殴ったことからそれでみんなとうまくやっていけなくて…。父さんが久々に仕事から帰ってくると電話で聞いたとき嬉しかったのに…。」
吾郎は自分の込み上げる悲しみを抑えきれず、話した。
「何で、何で父さんは死ななければならなかったの!?牧畜の仕事は上手くできないし、友達がいない僕にとって父さんはいなくなって欲しくないんだよ!僕、父さんのいない世界で生きたくない、みんなの為に死んだ方が良いよ…。」
真は自分の気持ちを吐露した吾郎にこう答えた。
「気持ちは分かった…けど死のうとは思うのはダメだ。」
「へ?」
「俺も吾郎君と一緒なんだ。こんな俺を愛し育ててくれた父さんや恋人を救えなかった。人より運動やバイクを動かせるだけで、それ以外は何も変わらない無力な人間だと思い知らされた…。けれど、だからと言って自分から死のうと思うんじゃない…!」
真は続けて吾郎に語りかける。
「俺は君のお父さんと話したことが無い…でも、愛する人から"結晶"を受け取ったから分かることがある。吾郎君、君はお父さんの意志を継いで生きていくんだ。時間はいくらでも掛かっていい、でも自分から道を閉ざすんじゃない。いつだって切り開くのは自分なんだから…!」
「…」
真は農場に着くと、目の前で新が走りながら迎えに来るのを見た。
「お帰り、父さん!」
「ただいま。」
真はそう言うと、新を抱き締めた。
「紹介するよ新、この子が吾郎君だ。吾郎君は船で世界一周するために勉強しているんだ。」
「ちょっと風祭さん…!」
「へえ、すごーい!初めまして、僕は風祭新。僕のことを新って呼んで。よろしく。」
新は天真爛漫な笑みと共に吾郎に手を差し伸ばした。
「…は、初めまして。三浦吾郎と言います。よろしくお願いします。」
吾郎は緊張と恥ずかしさで強張りながらも、握手で新に応じた。
一方、牧場の施設の裏。熊を倒した真が普通の人間ではないことを知らせる為に男女は社長を探していた。
「俺達はあんなバケモノを匿ったことにどうして気づけなかったんだ、クソ!」
「あのまま放置していたら、いずれここも次々と人が死ぬわ…。」
「一旦二手に別れて探そう、俺は奥を探してみる。お前は牧場内を頼む。」
「分かったわ、15分後にここで待ち合わせね。」
男女は二手に別れ社長を探した。陽はもうすぐ落ち始め、周囲は暗闇に包まれつつあった。
男は牧場裏にある巨大な倉庫の扉の目の前に立った。
倉庫は四方と高さでそれぞれ40m・20m程あり、30年以上前からある壊れた資材を入れるための建物であった。普段あまり使われない場所であり、様相も墓場みたいな不気味な雰囲気であったため社長以外は入らない所であった。扉は取手を含め赤錆に覆われており、こじ開けるほどに力を入れなければ入れない程であった。
何とか入れたが倉庫内の空気は血と小虫の匂いが混ざった異臭で漂っていた。足音も反響し照明器具も淡い月光のように非常に弱く点灯している。男はゆっくりと歩き進んでいくと、信じがたい光景を目にした。
約5m先の目の前に砂嵐のようなノイズが走っているパソコンの画面と、右隣にある血痕がこびり付いた目元が黒ずんでいる不気味な赤子の人形が置いてあり、壁には悪魔を呼び出すに使われる魔法陣のような刻印があちこちにペンキで塗られていた。その近くには無造作に打ち捨てられた、人や牛、さらにはヒトと別の生物がキメラのように合成されたかのような謎の生物を初めとした様々な動物の死体の生ゴミが入った金属製の箱が左右の奥の方にあった。
倉庫内の空気以上に強烈な悪臭と、箱から無造作に出っぱった骨が、まるで自分を地獄の底に引き摺り込むような様相を漂わせた。男性は込み上がる恐怖と吐き気に襲われ口を塞いだ。
そして突然、自分以外に誰もいないのに粘液が粘り付いた足音が聞こえ、人と獣の区別がつかない異形の影が照明に照らされた場所に顕現した。足音は徐々に大きくなり、男の恐怖心も同時に掻き立てられていく。
「何だよ…誰かいるのかよ…!」
思わずその場から逃げ出し、扉をこじ開けようとしたが錆のせいで全く開かない。扉を力一杯叩いて助けを求める叫びを上げても誰も来ない。男が疲れ果て崩れ落ちたそのとき、頭上から心地良くも粘り着いた生暖かい感触が全身に渡った。振り返ると男性は巨大な蜘蛛の巣に掛かっていることに気づき驚愕した。巣から抜け出そうとしても粘性が強すぎて脱出することができない。男の恐怖心が最高潮に達しそうになり、思わず恐怖に怯える声を出していた。その時、男の頭上から巨大な何かが人のものとは思えない呻き声と共に迫り、男はひどく顔を歪ませながら悲鳴を上げた。
一方牧場の事務棟、女性は社長がいるかどうか確かめる為に廊下を早歩きで向かっていた。執務室の扉の前に立つと、ドアを2回軽く叩き一言言った。
「失礼します、社長に用がございまして来ました。」
言ったにも関わらず誰も応対しなかった為、執務室に入った。だが、照明が消され窓が全開に開けられていた。不思議に思う女性だったが、突然窓の外から男性の断末魔のような叫び声が聞こえてきた。
「貴方!?」
女性は執務室から飛び出し、倉庫に走って向かう。5分程で倉庫に着いたが、倉庫の扉は開かれている。悪臭を嗅いで思わず衣服で鼻を覆う女性。一瞬下を見ると恐怖に怯え顔を歪め叫びを上げた。
そこには、無造作に破かれた服に所々剥き出しになっている骨や、一部の筋組織や毛髪以外全身ドロドロに溶けた男が目の前にあったのだ。
1997年9月7日 午後6時半 栃木県 那須郡 那須町 那須北丘牧場
陽は既に落ちていた。倉庫には真達や牧場の従業員だけでなく、警察官や刑事、記者達が数人いた。扉の前には黄色と黒で彩られたバリケードが張り巡られ、パトカーのサイレンが牧場中に響き渡る中、パトランプと記者の持つカメラの発光により辺りは白昼と同じくらいの明るさで照らされていた。
「こんなデカい蜘蛛の巣のようなものに貼り付けて人間を溶かすとか、明らかに人間によるものじゃないな。」
「すると犯人は先週のタンカー船襲撃と同じく人間じゃないと?」
「ああ、こんな地方にもバケモノがいたとはな…。怪物騒ぎは都会の方だけにしてくれってんだ。」
中年と若手の刑事の会話を遠くで真達は事件現場を見つめていた。あまりにも凄惨な光景を見て吾郎は思わず言葉が出る。
「見て下さい。溶かされていませんが、父もこうやって殺されました。父さんを殺した怪物はここにも来ていたんだ…!」
怒りと悲しみが胸の内に交錯している吾郎の様子を見て、真と新は深刻な表情で黙って聞いていた。
「僕、絶対に許さない…父さんを殺したバケモノを絶対に…!」
「…行こう、明日に備えて夕飯食べて寝るんだ。」
「…分かりました。」
真は吾郎にそう話し、寮に戻った。
執務室。牧場の社長と女性がデスクの手前にあるソファーに対になる位置で座っていた。娘に次ぎ愛する夫を喪った悲しみから泣き崩れながら話す女性を見て、社長は話しかけた。
「話したいことがありましたら話して下さい。我々は共に暮らし支え合う仲間じゃないですか。」
「先程殺された夫のことでして…。夫を殺したのが風祭さんだと思うのです…。」
「何故そう言えるのです?」
社長は尋ねると女性は具体的に話し始めた。
「実は、三浦さんの息子が脱走して夫と一緒に探していた際に偶然熊に襲われているのを見まして…。直ぐに皆様に知らせようと牧場に戻ろうとしたら風祭さんが現れて…。しかも素手で熊を倒したのです…!」
「何だって、それは本当でしょうか?」
「はい。奴は恐らく5年以上前から続く連続殺人事件の犯人で、ここを潜伏先にすることで警察や自衛隊からの目から逃れているのです…間違いありません!」
社長は女性の話を聞き終えると、真剣な眼差しで返した。
「…分かりました、この牧場や施設の人命が関わる深刻な事態です。すぐ他の職員達や現場にいる警察の方々を連れて来て下さい。お願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、分かりました。今すぐ呼びに行きます!」
真が住む寮の一室。彼と新がいたのだが、部屋の空気は非常に重苦しいものであった。
「父さん、ここもそろそろ不味くなったよ。最初に来たときから嫌な予感はしていたけど、改造兵士になった人間が潜んでいるよ。」
「分かってる、あの殺し方でこの前取り逃した奴がここにも来たってことは…。だからって吾郎君を放っておけるのか?」
「…仕方が無いよ、吾郎君は生まれる場所や環境が悪すぎた。吾郎君と一緒に僕達も共倒れするのは嫌だよ。」
新のその言葉を聞いた時、真は少し苛立ちの表情を見せた。
「新、吾郎君は今日のことでようやく現実と向き合い始めるようになったんだ。だけど、まだ吾郎君には彼を理解し支えてあげられる誰かがいない_。」
真はそう言うと、上着に入れてある吾郎と彼の父親の写真を取り出した。
「あの時、吾郎君の父さんから言われたんだ。"息子の吾郎を頼む"って。何故彼が俺のことを知ってたか分からない…でも、これだけは分かる。子供が成長し自分で生きていくまで支え守るのが親の役目だと。そして新、自分で生きる力を持つまでお前と吾郎君を守ることが彼から託された使命だと…!その思いを踏み躙らない為にも、ここから出て行く訳には行かない!」
「父さん_。」
新は言葉を失った。一旦考え込むが、数十秒後に返した。
「分かったよ、でも無理しないでね。父さんは僕にとってただ1人の家族だから。死んだら絶対に許さない。」
「ああ、分かってくれて嬉しいよ。」
真は笑顔になると扉を軽く叩く音が聞こえた。
「風祭さんはいらっしゃいますか?」
先程夫を殺された女性の声が聞こえた。
「はい、風祭です。こんな遅くに一体何の用で?」
「すみません、こちらも失礼を承知しております。社長が風祭さんと子息に用がありまして、今すぐ裏倉庫までついて来て戴けませんか?」
「分かりました。息子も後で来ますが、道は覚えたらしいので大丈夫です。」
真はそう伝えると新に向かってこう呟いた。
「先に行ってくる。俺を引きずるための罠かもしれないが、引きずり返して見せる。」
「気を付けて、父さん。」
真は扉のドアノブを開き、裏倉庫に向かった。
吾郎の個室。吾郎は毛布を被り睡眠を取ろうとしたが、中々寝付けなかった。何故なら父が死んでから初めて食堂で夕飯を食べたが、久々の食堂の照明が眩しすぎたからだ。そして、自分を助けたものの素手で熊を倒した真の姿を見て「真も自分の父を殺した怪物の仲間では無いか」と猜疑心が過っていたためでもあった。目を擦りながらベッドから起き上がると、目の前の机と椅子に座っていた少年がいた。
「やあ、こんばんは。」
少年が話しかけると、驚きの余りに吾郎は思わず壁に寄りかかった。
外の照明による窓からの光で不明瞭ながらも、少年の容姿は物語の世界から飛び出てきたかのような美しさを誇る金髪碧眼の麗人であった。更に彼はボタン1個外したワイシャツに黒のネクタイ、黒スーツのズボンに革靴を着用していた。
「ゴメンゴメン、この国では靴を脱ぐのが常識だったね。」
「貴方は誰ですか?」
吾郎は少年に問いかけた。少年も飄々としながら返す。
「名乗る程でも無いよ、まーせいぜい"神様"って所かな。」
「神様ってことは、父さんを殺した奴を知っているのですか!?」
「勿論、と言うか何となく勘づいてるっしょ?」
そう言うと少年は吾郎の左隣にベッドに座り込むと、顎を掴みながら話しかけた。
「今日君を助けた人、熊を倒せて凄いじゃん。でも、もしかしたらソイツが君のパパを殺したかもしれないって話。」
「え?」
「だって普通に考えてさ、人を殴り殺せる熊を素手で倒せる人間っている?もしかしたら人に化けて見せかけの善意を見せることで、身も心も隠しているかもしれないよ。自分が殺人モンスターであることをね。」
「…。」
吾郎は自分の悩んでいることを、身も知らない少年に打ち明けられ俯く。
「なーんだ、そんなことで悩む必要なんて無いよ。気持ちをスッキリさせる方法を教えてあげるよ。」
少年はズボンのポケットから拳銃・コルト45 ガバメントGM2を取り出し、吾郎に渡した。
「これでアイツを殺っちゃえばいいんだよ。君が好きだったパパを殺した奴を倒したいんでしょ?撃つかどうか任せるよ、じゃあねー。」
少年はそう言うと、吾郎が前向いた瞬間に何処かに消えていた。吾郎も部屋の周囲を見渡している最中、窓を覗くと真が先程夫を殺された女性の後を付いて行くのを見た。そして彼はコルト45を手に持ち、険しい顔で見つめていた。
時刻は日を跨ごうとしていた。真は女性の案内で先程女性の夫が殺された事件現場である巨大倉庫まで着くと、そのまま尋ねた。
「あの、ここに連れてきた意味を教えて戴けませんか?」
「ここまで来ていただきありがとうございます。風祭さん、これから貴方に"最期"の仕事をして戴きます。」
雑木林の影から社長がそう言うと、草村から従業員や警官、更に機動隊が現れた。従業員の手には金属製の鍬やバット等が握られ、機動隊も真の周りを囲い隙間から鈍く光るライフルの砲身が突き出ていた。
「_ッ!?これは一体…!?」
「そう、貴方方には死んでもらいます。生まれ育ったこの極東の土で永遠の眠りにつくなら本望でしょう_!」
社長は真に言い放つと、従業員達が怒号と雄叫びと共に一斉に襲い掛かった。真は従業員達や警官達達の攻撃を次々と受け流し、躱す。そして機動隊が従業員や警官の前に出て一斉に砲撃を行なったが、真は並外れた跳躍力で30数mもある巨木の枝に飛び移る。その光景を目の当たりにした社長とスーツ姿の男以外は一斉にどよめき始めた。
「おい見ろ、たった一飛びであの高さまで跳んだぞ!」
「今、俺達が相手しているのはただの殺人鬼じゃねえ…本物の"バケモノ"だ!」
「皆様、ここで怖気付かないで下さい!世界にはこのような人の皮を被った悪魔が何百も潜んでいます…皆様が互いに支え困難を乗り越える為にも悪魔を打ち倒すのです!」
社長がそう鼓舞すると従業員達の志気が上がり、再度襲いかかった。
人間達の攻撃を避け続けた真だったが、右の方から草が擦れる音が聞こえ振り向いた。そこには、真の後を付いて来た吾郎が倉庫の木々に隠れていたのだ。真に対する銃撃が吾郎を襲い、吾郎は被弾を恐れ囁くような悲鳴を上げる。
「_ッ!?」
吾郎の声に気づいた真は、人間の視界から消え失せるほどの素早さで木の枝から飛び込んだ。そして素早く吾郎を抱え転がり、流れ弾から回避した。真は吾郎からそっと手を離すと、社長と銃弾を放った機動隊員の方を向きながら言い放つ。
「何故、無駄に血を流そうとする…俺を殺せればどうなってもいいのか!?」
「仕事もロクに出来ないガキに生きる価値なんてねーだろ!」
「貴様等…!」
内側から込み上がる激しい怒りのあまり、真は歯軋りと右手の拳を強く握り締めた。しかし、突然真が苦しみ始めた。顔を上げると、真の眉間から赤黒い"第3の眼"が開き、さらにその両隣から悪魔のような黒い触覚が皮膚を突き破りながら生えた。眼球も赤黒く染まり、目元や触覚周りといった全身の皮膚からドス黒い血管が浮き出ていた。
その様相を見て人間達は恐れ慄き、吾郎も真の側から後ずさった。
「さっさとブッ殺せ!コイツをがいなくなりゃ牧場や町は平和になるんだ!」
従業員の1人がそう叫ぶと、機動隊の銃口が一斉に火を吹いた。身体の変異による激痛で身体が思うように動かない真は吾郎を庇うだけで精一杯であり、彼を庇うと銃弾を自身の背で受けた。あまりの激痛で真は思わず吐血し、倒れ込むと同時に一枚の写真が落ちた。それは、吾郎と彼の父親・三浦の最後の記念写真だった。
その光景を見て、吾郎の精神は様々な気持ちが粘土細工のように混ざり合った状態となり、放心状態になった。その状態を無視されるかのように真の周囲に従業員達が囲い、一斉に鈍器を叩きつけた。肉を叩き抉る生々しい音が響き、地面と共に写真も赤黒く染まっていった。
『だって普通に考えてさ、人を殴り殺せる熊を素手で倒せる人間っている?もしかしたら人に化けて見せかけの善意を見せることで、身も心も隠しているかもしれないよ。自分が殺人モンスターであることをね。』
吾郎の脳裏に少年の声が過ぎる。そして、ポケットの拳銃を取り出し真の元に歩き、真を囲う従業員達が吾郎から次々とどいた。吾郎が真の元まで辿り着くと、拳銃の銃口を血だるまになりうつ伏せで倒れた真の後頭部に向ける。拳銃の引き金を引こうとしたその刹那_。
『吾郎君、君はお父さんの意志を継いで生きていくんだ。時間はいくらでも掛かっていい、でも自分から道を閉ざすんじゃない。いつだって切り開くのは自分なんだから…!』
『へえ、すごーい!初めまして、僕は風祭新。僕のことを新って呼んで。よろしく。』
吾郎の脳裏で真と新の声が聞こえ、涙を流しながら引き金を引けずにいた。
「何グズグズしてんだよ、こんな奴さっさと殺しちまえよ!」
「さっさと止めを刺せよ、ほんと使えねーなコイツ!」
人間達のやじが飛び交う中、吾郎は怒りの表情で彼等の方に振り向いた。
「僕は…殺さない!」
吾郎のその言葉を聞いた一同は、驚愕した表情を隠せず唖然とした。
「何言ってんのよ…その人間モドキのせいで次々と殺されるのが分かんないの!?」
「それでも!それでも、僕を助けてくれた人を殺したくない…人間かどうか関係ない!ひとりぼっちで生きてくのは嫌なんだ!」
そして吾郎は真の前に立った。
「さあ、殺しなよ、僕は生きる価値無いんでしょ!」
吾郎は手にしている拳銃の銃口を自分の顳顬に当てた。自分から死のうとする吾郎の姿に人間達は動揺の色を隠せず、無意識のうちに口も手も動けずにいた。
「ちょっと貴方達、何を躊躇ってんのよ!?相手は手負いのケダモノと子供1人なのよ!」
女性が呼びかけるものの、今の人間達にはその戯言すら耳にしなかった。女性は、焦りと苛立ちが込み上がった感情により次第に顔が青ざめていく。
「社長!彼等にもう一度呼びかけてください!この町や牧場を救えるのは貴方だけです!もう一度、もう一度ご指示を_!」
「分かりました、これが最後の指示です。」
社長は冷たく鋭い眼差しで女性の顔を見た後、ポケットから取り出した拳銃で彼女の額を撃ち抜いた。その乾いた銃声を聞いた一同が意識を取り戻した際は、女性がピアノ線が切れた操り人形のように崩れ落ちた直後であった。
「社長、これは一体!?」
人々がどよめき出す。特に証拠も無く、家族のように慕い護ってきた恩人とも言うべき雇用主が、突然仲間を躊躇いもなく射殺したことが信じられなくて当然であった。
「力も権力もないが故に弾かれ、行き場を失ったお前達を拾い社会復帰させ、心も腹を満たさせたのは誰だと思っている?柔和に指示してやったにも関わらず、弱りきった害蟲とガキ2匹を殺せないのかこのゴミ屑供は。」
冷淡な口調で話す社長に、従業員達は狼狽していた。
「俺達は、例え血が繋がらなくても"家族"ではありませんか!家族でも平気で身内を殺せるんですか!?」
「"家族"?そんなもの、お前達のような単純な黄猿を飼い慣らす名目にしか過ぎん。一度でも役立たずに成り果てた時点でもう、"家族ごっこ"は終わりなのだよ…!」
「そんな…じゃあ"家族のように"ってあんたの意のままに動く生きた機械になることだったって言うのかよ…!」
「今更気づいたのか。今すぐこの女の所へ送ってやる_!」
社長は今までに無いほどに邪悪な笑みを浮かべると、右裾から落ちてきた銀のシリンジを掴み胸に強く押し当て、シリンジの薬剤を注入した。すると、社長は青白い光と煙を放ちながら、見るにも耐えない醜悪な変貌を遂げつつあった。
白く溶けるように崩れ、赤黒い血管が体表を覆っていく肌。
黄色と白の体毛が生え、黒く染まった両目の周りから片目1個につき3個眼が剥かれるように現れる。
さらに筋肉も盛り上がり、頬から飛び出るように出現した触肢が口の中に収まるまで縮んだ。
社長は、一週間以上前の石油タンカーを襲撃した犯人である怪物の姿へと変貌したのだ。
「そんな…社長もバケモノだったなんて_!」
怪物に変貌した社長の姿を見て狼狽していた男だったが、怪物に突然飛びかかれ悲鳴を上げた。
そして怪物は金属の刃物で肉を刺す音と共に彼の首筋に牙を突き立てると、彼は事切れ、ミイラ化するように徐々に全身の水分を奪われ、衣服と骨と腐った肉を残し溶けてしまった。
機動隊が恐れをなし発砲し命中するが、命中した箇所が徐々に修復した。そして一斉に発砲するものの、怪物はそのまま突っ込み金属製の銃身やライオットシールドを怪力でひしゃげた。
「よこせ!」
従業員の男の1人が吾郎から拳銃を奪い取った後、吾郎を蹴り飛ばし怪物に発砲した。左胸に弾が当たった怪物は一瞬怯む。が、男の銃を持った方の右手は手首から上腕部にかけて水風船が割れるように粉々になり、断面から血液が止まらずに流れていた。肉片を見た男は、激痛と絶望で絶叫しているうちに怪物に顔面を握り潰された。
そして怪物は、機動隊どころか警官や人々を女子供問わず次々と捕食、もしくは爪で引き裂き血の海に沈めて行った。
倒れている真。光が届かない暗闇の世界で、自分の流れ出た赤い血潮の温もりで眠りについていた。だが、暫くして人々の悲鳴や肉を裂き血飛沫が夜空を染め上げる音が耳に響く。
(俺はまた救えないのか…バケモノになった俺を愛してくれた愛も、父さんも、逃げた先々で出会ってきた人達も、吾郎君の父さんも、そして吾郎君も_。)
そして子供の悲鳴が聞こえた。吾郎だ。吾郎に、彼の父や仲間の命や夢を奪った怪物が迫る。
(違う…今度こそ救ってみせる、大切な人達を!俺の命に変えても!)
真は目にも止まらない速さで吾郎と怪物の間に入って行った。
地獄のような光景を見て、怪物と視線が合ってしまった吾郎は怯えながら後ずさる。しかし、後ろには倉庫があり、もう逃げる場所はどこにも無かった。怪物は鋭い爪を振り下ろし、吾郎は声にならない悲鳴を上げた。しかし、その爪が当たることはなかった。何故なら、さっきまで倒れていた真が両腕を重ねて吾郎を庇ったからだ。
「吾郎君、ありがとう。俺はもう、世界の残虐さから逃げない。」
「…へ?」
「俺も君と同じだ。『たった1人の親だから』という建前を自分に言い聞かせながら現実から逃げ続けていた…。でも、君と会って俺は間違っていることに気付いた…俺はもう逃げない。目的の為なら人や思いを踏み躙る悪魔を、"財団"を!この手で倒す!」
真は吾郎と話し終えると光と煙に包まれる。煙が晴れると、吾郎の目の前にはもう1体怪物がいた。
逆三角形の上半身に長い脚。スマートながらも筋骨隆々とした力強い緑色の肉体。腕に生え揃う鋸状の刃。手足には、湾曲した爪。悪魔のように伸びた触覚。目元から涙を流すようにのように刻まれた黒色の模様。赤黒い眼に眉間に生えた鮮血色の第3の眼。言葉を話さず唸り声をあげる禍々しい姿ではあるものの、背中から安らぎに近い安心感を感じさせた。これこそ真のもう一つの姿、邪悪な文明やその眷属らを打ち払う"怒りの[[rb:蟲>むし]]"。改造兵士Lv.3としての姿であった。
真は怪物の腕を払い除けると、110m以上までジャンプした跳び蹴りを怪物に喰らわせ、吾郎のいる場所から吹っ飛ばした。真はすかさずダッシュで距離を詰め、よろめきながらも起き上がる怪物に目にも止まらぬ打撃や引き裂きを喰らわせる。しかし怪物も負けじと力任せに手足を振り回すが、真は次々と躱していく。
真と怪物の激闘を目撃し茫然とした吾郎だったが、突如手を引っ張られ倉庫の裏に隠れた。吾郎は手の方向を見ると、そこには新がいた。
「新く_!」
「シッ、大声を出したら場所がバレる。」
「すみません。でも何故僕をここまで連れてきたのですか?」
「固っ苦しい言い回しはよしてよ。僕のことは"新君"でタメ口でもいいよ。」
「分かりまし…じゃなかった。分かった。でも、何故僕を匿ったの?」
吾郎が新に尋ねると、新は複雑な表情で答えた。
「本当は君のことが信じていない、むしろ君がいたせいで父さんは君達に殺されると思っていた。さっきまでは。」
新はその後、笑顔で吾郎の方に向きこう話した。
「でも、その考えは変わった。君は弱っていた父さんを殺さなかった。むしろ君が勇気を振り絞って人間達を説得してくれたお陰で父さんを助けてくれた。だから、僕は君のような人間達を信じたいと思う。」
怪物が足元を狙った攻撃をしたとき、真はジャンプで怪物の右肩を踏み台に飛び越えた。真は空を滑空するように次々と建物や林の木々に飛び移る。怪物は走り回り、怪力や爪や糸で次々と牛小屋や森林を破壊。牛達は鳴き声を上げ逃げ惑う中、真は奇襲を行い着実にダメージを与えていく。
しかし怪物が吾郎達に振り向くと、怪物は彼等の方に糸を吐く。真は吾郎達の元に向かい庇うが、糸が首に巻き付いてしまう。更に真は怪物の怪力で引き寄せられ、従業員達から受けた胸や背中の傷を打撃や引き裂き攻撃で痛めつけられてしまう。
「まずい、父さんがやられる!…って吾郎君!?」
自分達を庇ったせいで追い詰められている父の姿を見て、新は動揺する。しかし、吾郎はそんな状況でも何かを探している様子だった。
「あった!」
吾郎が見つけたもの。それは、先程男性従業員から奪われた謎の少年から渡された拳銃だった。
「あの銃を使って風祭さんを助けに行くよ!」
「駄目だ!それを使うと君の体がバラバラになっちゃう。引き返して!」
「君の方から言ってくれたじゃないか、『僕は人間達を信じたい』って。大丈夫。風祭さん…君の父さんは必ず助ける!」
吾郎はそう言うと倉庫裏から走り出し、拳銃に向かい走り出す。しかし吾郎が踏み抜く草花の音で怪物が気付き、真への攻撃を止め糸の塊を吐き飛ばす。吾郎は避けたものの蹴つまずき倒れる。吾郎に迫り鋭い爪を振り下ろす怪物。しかし真は起き上がり、首に巻き付いた糸を解き怪物を抑え込む。そして吾郎は立ち上がり、拳銃を手にし怪物に向け引き金を引いた。
バァン!
乾いた銃声と共に思わず目を閉じる吾郎。しかし、彼の体は無事だった。彼の目には、頭蓋を打ち抜かれたため頭を抱えつつ苦悶の雄叫びを上げ苦しむ怪物の姿があった。そして周囲を見回すと、右手を緑色の光に纏わせ自分の方にかざしていた新がいた。しかし、新の呼吸は乱れており、数秒後倒れた。倒れた新の元に吾郎が駆け寄る。
「新君!?大丈夫!?」
「へーきへーき、僕もちょっと無茶したかっただけ…今だよ父さん!」
新は真の方を見て言った。怪物は糸の切れた人形の如く崩れ去り完全に事切れた。
「やった…やったよ風祭さん!」
吾郎が歓喜すると、新も一緒に真に駆け寄った。そして吾郎が真に抱きついた後、真と面を向かってこう話した。
「僕…どんなに辛くても絶対に逃げません。辛くなったときは風祭さんのことを思い出して、父さんに追いついても誇れる立派な航海士になってみせます!」
吾郎がそう言うと真は頷いた。怪物の姿のままであったが、真は笑っているように見えた。しかし_
『アハハハハハ!ヒャハハハハハ!!』
倉庫内にあった人形が、口を動かしながら赤子の声とそれがエコーに掛かった両方の笑い声を上げ始めた。
真と新はとてつもなく恐ろしい予感に感付いた。真は咄嗟に新と吾郎を小脇に抱え、独特の風を切る音と共に跳躍し倉庫から離れる。あまりにも突然過ぎる出来事に吾郎は思わず声を漏らした。
「え、ちょっと風祭さん_⁉︎」
不気味な声が途切れた瞬間に辺り一面が灼熱の業火に包まれ、残された命を次々と奪っていく。
1997年9月8日 午前0時 千葉県 成田エアポートレストハウス
駐車場に1台のタクシーが止まった。
ドアが開くと怪物の部下である黒スーツの男が下車し、ホテルのカウンターまで向かいチェックインを済ませる。最上階までエレベーターで向かい、借りている個室に入るとスタンド式の照明と机に置かれてあるPCを起動させた。起動中、彼は卓上にあるベージュ色のした固定電話に電話番号を入れ通話を始めた。すると、受話器のスピーカーから知的で低い声が聞こえてきた。
「Hellow, this is Ayanokoji. Is the president present?」
『I am, what are the requirements? 』
「President, there are two things:disappointing information and happy information.Which one do you listen to first?』
『That's the bad news first.』
「Okay. First of all, the reconstruction of the Japan branch has failed.And good news ... I know where he is." Shin Kazamatsuri ".」
『Well.Keep an eye on him. 』
「Yes.I moved everything to memory before returning here.Please be assured that at the same time, all the evidence was erased. 」
男はポケットから取り出したUSBフラッシュメモリを見つめる。
『[Okay, At dawn, return immediately with the first flight.』
「I understand.」
男は通話を終えると、受話器を元の位置に戻した。
1997年9月7日 午前10時 アメリカ ニューヨーク・マンハッタン 高層ビル群
日差しが眩しく降り注ぐ青空の下に並び立つ、巨大な摩天楼の一角。最上階にある社長室で受話器を元の位置に戻し、ガラス張りの窓を背に、机にあるPCを前に肘を机に立てて両手を組み合わせ椅子に座っている男性がいた。
陽光が眩しすぎて見辛いが、男は金髪青眼のブロンドヘアにチャコールグレーのスーツを身に纏っており、鼻が高く目つきも肉食獣の如く鋭かった。その為か、知的だが近寄り難い雰囲気を醸し出していた。PCを操作し始めた。
デスクトップのタブには世界各地にある財団の支部の面々と会合するためのビデオ通信、真や彼の関係者たち・既に改造兵士に施術している人々のリストがあった。リストには写真や名前、戸籍といった個人情報も記載されていた
男は真に倒された社長のデータを抹消した。
「It's Mr.Onizuka's last legacy. Please entertain, Shin Kazamatsuri_! 」
1997年9月8日 午前5時 栃木県 那須郡 那須町 那須北丘牧場
深い闇のような夜空に一筋の陽光が差している。辺り一面焼け野原と化した牧場の門の前には1台のバイクと変身を解いて新たに服を着用した真と新、吾郎の3人がいた。
「父さん、もう行っちゃうの?」
「ああ。ここに居続けても助けられる誰か救えない。俺はそんな人達を救う為にも行くんだ。新はこれからどうするんだ?」
「僕は、吾郎君と一緒に居場所を探すよ。しばらくの間、根無草だけどさ。」
「風祭さん、僕は大丈夫です。戦いの無い場所でたくさん勉強して、貴方や父さんに顔向けできる航海士になります!ただ…。」
「ただ?」
「あまり無茶をしないで下さい。さっきもそうですが、自分のことを考えていないように見えて_!」
真は吾郎の肩を優しく叩きながら、笑顔で応える。
「_ありがとう。俺も無茶しないよう頑張るよ。」
そして真はメットを被ってバイクに跨り、一回アクセルを吹かすと陽に向かい走り去っていった。
(俺はもう逃げない!この世界には俺達のようなバケモノでも受け入れてくれる人がいるんだ。そんな人達が平和に暮らせる為にも、財団を倒してみせる_!)
Cell Ⅰ telophase