Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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世界各地の交通機関で、原因不明の事故が多発していた。
一方セーラは、とある密室で彼女を助けた少年たちと邂逅する。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
この作品には以下の要素が過剰に含まれています。それらに拒否反応を示すなら、コメント欄等で荒らし行為などをせずにブラウザバックして下さい。
・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Cell Ⅹ:Harmagedon

1997年12月28日 日本時間午後10時35分 北太平洋上空 ユナイテッド航空826便

 高度31,000フィート(9,400m)の群青の空、1機の旅客機が航行していた。機体の進行方向には乱気流があり、遭遇するには最早時間の問題であった。機内は374人の乗客でほぼ満席であり、観光目的の者もいれば国外への逃亡を図ろうとする者もいた。そして、食事を終えた直後なのもあって乗客のほぼ全員が就寝しようとしていた。

『黒部さん、あと2分で乱気流に突入します。乗客にシートベルト着用の指示をお願いします』

 機内のギャレー。CAの1人が航空操縦士に連絡を取ろうと何度も無線を繋げようとする。だが、全く繋がらす、彼女は首を傾げる。

「ダメ、返事が無いわ」

「電波が悪いかもしれない、コクピットに行こ」

「そうね」

 同僚の1人と共に、乗客を起こさないようにしつつ急いで操縦席に向かう。操縦席に辿り着き、CAは右側の航空士に話しかける。

「すみません、シートベルト着用の指示を……」

 そのとき、もう1人CAは耳がつんざくような悲鳴を上げる。CAが振り返ると、首の骨が折られ席にもたれる操縦士の1人がいた。さらに足元を見ると、もう1人の操縦士の下半身が断面から血液などを流しながら無造作に押し込まれていた。あまりの光景にCAの2人は恐れおののいていた。

『必要ありませんよ、これは人が進化するための"試練"なのですから』

 CAの2人が振り向くと、そこには異形の怪物の顔をした操縦士が運転席にいた。さらに天井から元の操縦士の上半身が屠殺における血抜きのようにぶら下がり、断面全体から血がドクドク流れていた。CAの2人は断末魔に近い悲鳴を上げ、旅客機は乱気流へと突っ込んでいった。

 

 

 警報が鳴り響くとあるビルの一室。装備品一式を着用した警官服姿の金髪碧眼の男性、カルロス・深町と私は、拳銃を携え壁に隠れている。炎が燃え盛る部屋の奥からの弾丸の雨は激しく、中々チャンスが来ない。

 数週間前、実力派テニスプレイヤーであり巡査であった私は世界大会で優勝し、表彰台の撮影が終わってからカルロスといつ結婚するか悩んでいた。刑事の彼と婚約して大丈夫か、そのことをカルロスに話したら「立場は関係ない、俺はいつでも真面目なきみが好きだ」と言った。その結果、私たちは2、3日後に婚約した。

 婚約してから数日後、警察署に訪れた際に「ニューヨークで人型の軍事兵器を開発している多国籍複合企業体(コングロマリット)がある」ことを耳にした。だがカルロス以外の上司や同僚はその話を逸らし、その何人かは

「If you value your life, don't say it.」

……と言う始末であった。私は市民を守る立場としてその発言が許せなかった。私たちは捜査を進めるうちその企業こそ"財団"であること、奴等はニューヨークにそびえ立つビルの1角を拠点にしていることを掴んだ。そして今、奴等を追い詰めていた。

 私たちは合図と共に瓦礫を投げつけ、奥にいる敵が怯んだ隙を見て突入し確保する。

 だが突如、"何か"が部屋の壁をぶち破りながら現れる。それは右手に鉤爪を生やしているなど"機械仕掛けの怪物(改造兵士Lv.2)"と言って過言では無かった。カルロスは私を庇って怪物の鉤爪に切り裂かれ、傷口から大量の血液を流しながらその場で倒れ伏す。

「カルロス⁉︎」

 私は呼びかけるものの、カルロスは動かない。私は怒りと憎悪の衝動に駆られ、床にあった機関銃を拾って乱射する。だが怪物は一切傷付かず、私を手にかけようと迫る。

 そのとき、怪物の歩みが止まる。怪物は足元を見ると、カルロスがしがみついているのに気づく。

「……生きろセーラ……俺の分まで、生きろ!」

「カルロス!」

 カルロスは最後の力を振り絞り、天井付近にあるガス管に目掛け発砲する。弾丸の跡からガスが吹き出し発火・爆発し、私、セーラ・深町は吹き飛ばされた。

 

1998年1月3日 午前9時30分

「……カルロス……」

 セーラは寝言を呟く。

「……この人、確か敵でしょ?(かくま)っていいの?」

「仕方無いよ。財団は勢力を増しているし、何より父さんは限界を迎えつつある。今は戦力を増やすべきだ、例え敵でも……」

 セーラは2人の少年の声を聞いて、目を細めて目覚める。話し声からして、10歳も満たない年頃であった。

「……ここは……?」

 セーラは周囲を見渡すと、天井に吊るされた電球は部屋全体を電球色で弱く照らし、右前方には備え付けの梯子が伸びている。周囲は窓が一切無い代わりに、書籍や家具などが壁に寄せられている。さらに部屋全体が埃かぶっていてカビ臭く、呼気が白く見えるほど空気も冷え切っている。そのため、ここは人によっては「居心地が最悪」と評価がつけられる程であった。

「__ッ⁉︎」

 セーラは左手首に痛みを感じて視線を移すと、彼女の左手首の甲には血が染み付いた包帯が巻かれていたことに気付く。

「あ、起きた」

「Who are you⁉︎」

 耳元近くで声を聞いたセーラは拳銃を抜き、銃口を向ける。その方向には2人の少年がいた。

 

1998年1月3日 午前10時 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

 窓から差し込む陽の光に当たり、真は目覚める。そこは、結城から借りていた真の部屋であった。

「……気が付いた?」

 裸になった真が寝ていたベッドには汗が染み込んでおり、右隣には瑠里が座っていた。

「……ここは……?」

 真は若干不機嫌そうな瑠里の顔を見つめる。

「わたしがここに運んだ。で、真は丸々6日ぐらい寝込んでた」

「6日も……⁉︎」

「そうよ!50度くらい熱出すし、オジさんにバレないようにするのメッチャしんどかったから……!」

「……ごめん」

「いいよ、別に。オジさんは薬局に行ってるから、私たちのことを話せてない」

 真は心からもどかしさを感じていた。ここに戻れたものの、自分が改造兵士であること、そして財団との戦いに瑠里を巻き込ませないことなどを結城に話せずにいたことに。

「後、これを見て」

 瑠里はページを開いた状態の新聞を真に渡す。その見出しと記事を見た真は眉をひそめる。

「……これは⁉︎」

『日航機、次々と乱降下』

『負傷者60人以上』

『事故の調査はアメリカに』

『乱気流の予見は難しいか』

「最近、ハワイとか行こうとする飛行機が事故って成田の病院で治してるみたい」

「アメリカ……まさか……⁉︎」

「私も思った、"財団"が絡んでるんじゃないかって」

「だけど、それが本当なら人目につき過ぎる。一体、何のために__⁉︎」

 

1998年1月2日 午後8時 アメリカ ワシントン DC北西区 ペンシルベニア通り 1600番地 ホワイトハウス

 星々が輝く雲一つない夜空の下、ホワイトハウスの周囲は新雪に覆われていた。だが舗装されているアスファルトの道路はいち早く整備され、そこを走る自動車が時たま通り過ぎていた。

 ホワイトハウス内のオーバルオフィス。大統領が座る椅子と机の後ろにある窓には黄色のカーテンにアメリカ国旗と大統領印章入りの旗が飾られ、下には青色の絨毯が敷かれていた。

 絨毯中央に置かれている1対のソファーに1人ずつ座っている人物がいた。1人は大統領、もう1人は綾小路であった。

「In addition to all the major cities,I also went to Hawaii and Indonesia...I think I've been to everything.」

 大統領の問答に頷く綾小路の眉間には、虹彩が黄緑色の眼球をした"第3の眼"が開いていた。テーブルには、彼がグレゴリーのデータを移したUSBメモリが置かれていた。

「Adelbert,Onizuka,Gregory,and Nogi were all supposed to be following our plan.Gregory,in particular,completed the protocol,so it's fair to say he was of great help to us.But...!」

「Pride,fanaticism,ambition,revenge...they were consumed by personal impulses, |and began to deviate from the plan.」

「So I sent you to the Foundation as a spy.You led them to their downfall, |and gained the power of Cyborg Soldiers.The latest ones, at that.」

「Yes,it's thanks to our careful relationship with them.」

「But we can't let our guard down yet.Shin defeated Hayami and Adelbert and obtained the Destray.And his baby is still missing.Don't let us get caught off guard.」

「|I'm sorry.I'll keep an eye on the progress.」

 綾小路はふと思い出した表情で右手の腕時計を見る。

「Mr. President,it's almost time for the helicopter.」

「Understood.I'll ask NASA to change the communications satellite's wavelength on the way to the Security Council.You continue to control Japan's transportation.」

「I understood.」

 綾小路は煙が消えるように瞬間移動する。

「Our plan is nearly complete,and we are on the verge of seizing national dominance.I'm counting on you,Ayanokoji.」

 

1998年1月2日 午前2時 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会跡

 雪が降り注ぐ夜空の下、教会の周囲はバリケードに覆われている。さらにアメリカ軍地上部隊の兵士が配備され、住民が近づく様子がないか警備している。

「?」

 "地獄の門"があった穴倉の警備に当たっていた2人の兵士のうち1人が殺気と寒気を感じ、振り向く。

「What's wrong?」

「I felt a murderous intent from behind...」

 だが、そこは深淵まで延々と続く闇しかなかった。

「Let's connect it to the main force for now.」

 1人が左手に持った無線で連絡しようとする。だが、突然穴倉から生じた紫色のオーラが兵士の身体を包む。彼はなす術なく断末魔のような悲鳴を上げ、闇の中に吸い込まれる。

「Hey,what's wrong⁉︎」

 もう1人の兵士は銃器を携え穴倉の中に入るものの、闇の中に潜むものの姿を見て悲鳴を上げる。

 5分後、地上に姿を現した"それ"は跡地から煙のように消え去る。そこには、跡地を警備していた兵士達全員の死骸が転がっていた。また、穴倉の中に引き摺り込まれた兵士2人も首の骨ごと頸動脈が切り裂かれていた。

 

 宇宙空間。そこにはアメリカなどが打ち上げた複数のデータ中継衛星が、地球の軌道上に位置していた。その1台である最新型『TDRS-G』の付近に"それ"、野木は"戦神"の姿で顕現する。

『さて。お膳立ては済んだようだし、手短に終わらせるか』

 野木は"第3の眼"を妖しく光らせ、人工衛星のアンテナやセンサーに向け右手をかざす。右手から生じた波動が、人工衛星の波長を次第に変えていく。

 

1998年1月3日 午前10時5分 東京 中野区 中野三丁目

 雲1つない快晴の空の下、前日まで雪が降ったことで路面が凍結していたにも関わらず自動車が行き交っていた。その左側に位置する歩道は雪がまだ溶け残っており、結城はそれを踏みしめながら進んいた。

(アイツ()大丈夫かな……俺が部屋に運ぼうとしたら瑠里ちゃんに全力で止められたし。それに、見たこともないバイクに乗って帰ってきたが……一体何があったんだ?)

「……それにしても貴方、心配したわ。事故に遭ってどうなったかと思ったけど……」

「ごめんな、心配かけちゃって。成田の病院で輸血して貰って良かったよ」

 結城は通りすがりの男女の言葉が耳に入り、声の方向にある反対側の歩道を見る。そこには30代以上の男女に、男性が肩車している園児くらいの少年と母親に抱かれている赤子がいた。彼らは和気藹々としていて、結城はそのまま振り返ろうとした。

 その時、先ほどの家族と同じ方向で断末魔のような悲鳴が聞こえた。結城はもう一度振り返ると、先ほどの男性が蹲っているの見る。男性は皮膚が白く溶けるように崩れ、1対の触覚が生え、赤黒い血管が体表を覆い、緑色になる。白眼を剥き、筋肉も盛り上がり、顎が裂け、男は鬼塚が変貌した怪物と同じ姿となって雄叫びを上げる。怪物は目の前にいた人々を手当たり次第手を掛けていく。

「や、止めろ!」

 その光景を見た結城は、幹蔓(みつる)が暴走したことが頭によぎり思わず声に出す。

 

1998年1月3日 午前10時5分 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

「!⁉︎」

 真は結城の叫びを感じ取り、すぐさま掛け布団を払い立ち上がろうとする。だがその直後に眉間の内側から激痛が迸り、視界がぼやけると同時に力が抜け、真はバランスを崩し倒れ込みかける。

「真⁉︎」

「……大丈夫、まだ疲れが取れてないだけ……それより結城が……!」

 真は自らの身体に鞭打つかのごとく立ち上がり、そのまま窓から飛び降りると同時に"怒りの蟲"へと変貌する。瑠里は急いで1階のガレージまで駆け降り、グラスホッパーに乗車した真の後ろに跨る。グラスホッパーはアクセルを吹かして出る。

 

1998年1月3日 午前10時5分 東京 中野区 中野三丁目

 怪物は周囲の人々を血祭りに上げ、その魔手は目の前で怯える彼の家族にも及ぼうとしていた。

「危ない!」

 結城は咄嗟に女性を庇い、地面に転がる。

「大丈夫ですか⁉︎」

 結城の問いに女性は思わず頷く。だが、怪物の方向には少年がいた。

「助けて!母さん!」

 少年の助けを求める声も虚しく、怪物の爪は今にも振り下ろされようとしていた。

 そのとき、巨大な緑色の影が猛スピードで怪物に衝突する。怪物はビルの間の奥まで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。緑の影が静止した場所には、グラスホッパーに跨った真と瑠里の姿があった。

「オジさん達は任せて、真!」

(今、なんて__⁉︎)

 瑠里は呆然とする結城と家族と共に隠れる。瑠里の言葉に頷いた真は、グラスホッパーの右ハンドルを握り捻って引き抜く。『グラスアクセラー』と呼ばれる短剣のような棒を手にした真は逆手に持ち替え、鬼塚と同じ姿をした怪物を次第に追い詰める。

(何故あの怪物(バケモノ)はあのバイクを……⁉︎)

 真は猛スピードで跳躍しながらグラスアクセラーを振い、同じく跳躍する怪物と交錯する。着地した怪物は立ち上がると同時に頭部と胴より下全身が分かれ、同時に着地した真は断面から吹き出す怪物の返り血を浴びる。

「……どうして、どうして殺すの⁉︎"人殺し"!"バケモノ"!」

 その光景を見た女性は涙を流しながら訴え、少年は悲しみの表情を真に向ける。だが、真は俯いたまま一切振り向かないでいた。その直後、瑠里は怒りの表情で女性に詰め寄る。

「アンタねぇ、あのままじゃ殺されてたのよ!真はアンタたちを助けるために戦ったのよ!」

 瑠里の訴えを間近に聞いた女性の赤子が泣き出す。

 そのとき、真は瑠里たちに接近し庇う。真の背中から火花と血液が飛び散り、苦悶の表情を浮かべながら片膝をつく。

「真⁉︎」

 瑠里は真を呼びかける。真も立ち上がりつつ、攻撃を仕掛けられた方向を振り向く。そこには粘り着いたような歩行音と共に徐々に姿を現していく怪物の姿があった。

 全身の外側を覆うライトグリーンの鱗。口元が裂け、鋭い牙が生えた口。触手のように伸び口の中に戻すために収縮する、真の血が付いた舌。爬虫類のような緑黄色の両眼の間に"第3の眼"が生えていた。

「オジさん、その人たちと一緒に逃げて!」

「でも瑠里ちゃん!君は……⁉︎」

「私のことはいいの、早く!」

 結城は困惑しつつも家族を連れて逃げる。その様子を見た怪物は追いかけようとする。真は注意を逸らす目的も兼ねて先に攻撃を仕掛けるが、その都度流されカウンターを喰らう。さらに怪物の姿は蒸発するかのように姿を消し、真は死角から猛スピードでジャンピングパンチを鳩尾に喰らってゴミ捨て場まで吹き飛ばされる。起き上がった真の前には、"怒りの蟲"の姿の自分がもう1人いた。もう1人の真は距離を詰め、格闘で真を圧倒する。真は倒れ伏し意識を失いかけ、手にしているグラスアクセラーを放しかける。最早真に戦う力は無いと悟り、元の姿に戻る怪物は瑠里に迫る。

「逃げて、瑠里!風祭さん!」

 マンホール現れた裕美は開栓した消化器を怪物に向けて吹かせ、周囲の視界を塞ぐ。自身の顔に向けて吹き付けられた怪物は、思わず目と鼻を塞ぐ。消火剤の煙幕が晴れた頃には、真たちの姿とグラスホッパーはそこには無かった。

 

 

1998年1月3日 午前10時30分 東京 とある密室

「まだ安静にした方がいい。それに今、僕たちを殺しても意味がない」

「何……⁉︎」

 少年はセーラの左手首に視線を移し、セーラは包帯を解いて見る。傷口に腫瘍のようなモノができていた。それは心臓のように拍動し、全体に張り巡られ視認できる血管も脈を打っていた。

「⁉︎」

 セーラは恐怖を感じ、急いで包帯を巻き直す。

「……それは触れることで人を怪物に変えるウイルスを持つ、"宇宙からの贈り物"。少しでも人として生きられるように僕が抑え込んでいる。けど、僕が認識できない場所ではそれが進む」

「……何故助けた?私は敵なのよ」

「関係ない、僕はあなたを助けたかった。それに__」

 少年は、隣にいる少年の方に振り向く。

「あのとき、僕は君と"父さん"に教えて貰った。"理屈や道理じゃ間違ってても、誰かを助けに行く方が大事"だと」

 少年は、言い終える頃には視線がセーラの方に戻っている。

「……それに、あなたを移動したとき、あなたは父さんと同じ人だと分かった。そんなのは悲しすぎる、頑張った人は報われなきゃダメだ……僕はそう思う」

 しばらく間を置いた後、セーラは溜息をつく。

「私の過去を(のぞ)き見するとはね……いいわ。手を貸してあげる」

 セーラは拳銃を下ろし、少年達は部屋から声が漏れない程度に喜ぶ。

「勘違いしないで、協力するのはあなたの父親の借りを返すためよ。それに私はCIAといっても、上から指示を受けてた末端よ。それでも構わないかしら?」

「ありがとう、僕たちはそれでもいいよ」

「……それで、何をすればいいかしら?」

「うん、やって欲しいことがあるんだ。それはあなたにしかできない__」

 

1998年1月2日 午前4時 ドイツ ネルトリンゲン 上空

 明けの明星が輝く空、数十機のアメリカ軍の戦闘機が高度18kmの成層圏を巡回していた。朝焼けの逆光を浴びているそれらの機体が黒く反射しているのもあってか、獲物を狙い飛び続ける(カラス)の群れを彷彿とさせた。

「Air force here, ground forces respond.」

 軍隊長は何度も呼びかける。

「No good,no response at all.」

「Captain,I'll go ahead and check things out.」

「Yeah,be careful.If you sense danger,turn back.」

「Got it.」

 隊員の1人が先に教会跡に辿り着く。

「⁉︎」

 上空から見下ろしたそれは、1人残らず皆殺しにされた地上部隊であった。

「The ground forces have been wiped out...!」

「What…⁉︎」

 隊員の報告を聞いた隊長は絶句する。隊長は報告が本当か確かめるため、他の隊員が乗る機体を連れて教会跡へ向かう。

 そのとき、教会跡上空にいる部下が乗る機体の操縦席に目掛けて1本の紫色の光の柱が落ち、閃光が周囲一帯を飲み込む。その眩しさに思わず瞼を閉じるが、その間に機体の爆発音が聞こえる。光が収まると隊長機が墜落し、空中で爆発する。緊急脱出用の装置はすでに破壊され、隊長はそのまま死を迎えた。

『Fooooo!出だし快調!』

「You were supposed to be dead...⁉︎」

『Unfortunately,I have a lot of bad luck.I'll make sure to repay you for yesterday.』

 戦神の姿の野木は強奪した戦闘機で、統率が取れない航空部隊を1機ずつ着実に撃ち落とす。

 

1998年1月3日 午前1時 アメリカ ワシントン-ニューヨーク間上空

 星々が輝く夜空、1機の政府専用のヘリが飛行していた。時刻もあってか、大統領を含めたパイロット以外は仮眠を取っていた。

 ブルルルル……

 スーツにしまった携帯の振動で大統領は目覚め、苛立ちを感じながら通話を始める。

「It's me.Why are you being noisy at this time of night?」

「...Sorry...The God of War is still alive!」

「What..⁉︎」

 ノイズ音と共にスピーカー越しで機体が爆発する音が聞こえ、通話が途切れる。

「That can't be...No way...That can't be...⁉︎」

『It's punishment for making me angry.』

 野木が自分の心に喋りかけてきたことで、大統領はかつてないほどに狼狽する。

「Don't mess with me!I picked you up and made you the president...Have you forgotten that debt⁉︎」

「Picked you up?I only teamed up with you. |Just like my father, you're a fool who's still using my mother to her full potential.」

「Kill him...Kill Kenichi Nogi!」

 発狂し暴れる大統領を部下が取り押さえる。まるで駄々こねる大きな子供を抑えつけるように。

『殺されるのは__貴様だ』

 大統領は野木の宣告を聞き、顔を青ざめ硬直する。上方から轟音が聞こえ窓から見上げると、野木が強奪した戦闘機が炎上し降下していた。戦闘機の落下速度は凄まじく、緊急回避は不可能だった。衝突した機体は爆発し、大統領達は全員焼き尽くされる。その光景を人間の姿の野木は冷たい眼差しで俯瞰し、革ジャンのポケットから取り出した携帯電話で通話を始める。

「もしもし、俺だけど……あぁ、偽物はこっちで片付けとくから引き続きよろしく」

 野木は通話を切って携帯をポケットに戻し、煙のように姿を消し瞬間移動する。

 

1998年1月3日 午前11時半 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

 部屋に戻った真は、変身した姿のままうつ伏せの姿勢でベッドにつく。脱力したためか、ベッドに伏せた数秒後に蒸気を発しながら人間の姿に戻る。

「……裕美は下水道に戻ったし、今は休まなきゃね」

 瑠里は熱さまシートを真の額に当てる。

(熱っ)

 真の体温は再び50℃前後まで上がっていた。瑠里は、傷を負った真の背中に塗り薬を広げる。

「____ッ⁉︎」

 背中の傷が深いせいか、真がこれまでに無い程に激痛を感じてる様子に瑠里は驚く。

「大丈夫⁉︎」

「……この位の傷なら昔はすぐ治ったけど……」

「まだあのケガが……⁉︎」

 野木との再戦で敗北してから目眩や激痛、平衡感覚を失うのが日に日に増していくのを真は感じていた。

「……それ、新しく買った?似合ってるね」

「__え?」

 真は瑠里が付けてるマフラーを見て聞く。

「何って……この間(クリスマス)、私にくれたじゃん……!」

 瑠里は、耳当てや手袋を真に見せる。だが、真はイマイチ思い出せない表情で見つめる。

 

 一方、結城は沢山詰め込んだレジ袋を片手に階段を登る。結城は真の部屋に辿り着くが、部屋にいる彼と瑠里の一連の会話を聞いて驚きの表情をする。

(背中に深い傷⁉︎まさか……⁉︎)

 結城はその表情を隠し、部屋のドアをノックする。

「真、瑠里ちゃん、入っていいか?」

「いいよ、オジさん」

 部屋の中、結城のノック音を聞いた瑠里は振り返って返事をして鍵を開ける。部屋の中に入った結城は、真の背中の傷を見て全て察する。

「……そういうことか」

「え……?」

 瑠里は思わず結城の方に目を向ける。

怪物(やつ)が俺たちを庇った時だ……そうだろ?」

 結城は真から瑠里の方に視線を移す。

「え……まさか……⁉︎」

 結城は瑠里に頷いた後、真に振り向き直す。

「……お前は昔から口下手で、嘘つくのが苦手だからな。そんなお前が、今まで黙ってた。"怪物"にされたお前が、人知れず戦ってたことを」

 真と瑠里は衝撃を受け、結城はそんな真の両肩を叩く。

「……何故だ……何故1人で背負いこむんだ……」

「……」

 真は結城から目を逸らしかける。

「お前は、勝ち目が無いから戦いに挑まなくていいんだ……そのことはお前が一番分かってるだろ……!」

「……勝ち目が無いなんて、分からないよ」

 真は言葉を続ける。

「俺も最初は逃げてばかりだった。父さんも、愛も、みんな助けられず、静かに暮らせる場所を探しても結局は裏切られたりでどこにも無かった。けど……」

 結城は驚きの表情を見せる。

「俺は間違ってた。瑠里ちゃんやみんなと出会って分かった。愛や父さん、お前みたく受け入れてくれる人達がいる限り、俺はまだ"人間"だということを。そんな大切な人達を傷つける世界や悪魔から、俺はみんなを守りたい__!」

「真……!」

 瑠里は呟き、結城はほくそ笑みながら真の肩から手を離す。

「……一度決めたことを曲げないのは相変わらずだな。そうじゃなきゃ、元チャンプの名が廃るよな!」

 真は頷く。

(風祭さん、あの改造兵士が現れました!場所は中央線の新宿〜中野間です!)

「何……⁉︎」

 裕美のテレパシーが伝わった真は、結城や瑠里を背にゆっくり立ち上がる。

「……行くのか?」

「……あぁ、見ててくれ。これがもう1つの姿、"怒りの姿"を__!」

 真は背中の傷の激痛を堪え、呻きながら全身と両拳に力を込め、眉間から赤黒い"第3の眼"が開く。その両隣から悪魔のような黒い触覚が皮膚を突き破りながら生え、眼球も赤黒く染まり、全身の皮膚からドス黒い血管が浮き出し、光と煙に包まれる。煙が晴れると、"怒りの蟲"となった真の姿があった。

 真は結城の方に若干振り向いた後振り向き直し、窓を開ける。その後真は駆け寄った瑠里を抱えて飛び降り、グラスホッパーがあるガレージに向かう。真と瑠里は再びグラスホッパーに跨り出発する。その様子を結城は見送る。

 

1998年1月3日 午前11時50分 東京都 中央線 中野-新宿間 都道302号

 中央線の車両1両目。運転手は徐々に速度を上げていく。そのとき、グラスホッパーが車両を飛び越え、線路間のスペースが空いてる場所に着地する。降車した真はそのまま窓ガラスを破りながら運転席に飛び掛かり、運転手を引き摺り下ろした後にブレーキハンドルを引く。吹っ飛ばされて床に叩きつけられた運転手は怪物の姿に戻り、周囲の風景に同化する。姿を消した怪物が近くにいないか真は見渡す。そのとき何かが首に絡みつかれた真はドアを破壊しながら運転席から引っ張り出され、跨線線路橋の下の砂利に叩きつけられる。

 一方、他の車両では急停車した影響で乗客の何人かは転倒するが大事に至らなかった。

「みんな!早く逃げて!」

 窓ガラスをグラスアクセラーで叩き割った瑠里は乗客に呼びかけ、その1人が開けた非常ドアコックの真下のドアから乗客が次々と外に出る。

「瑠里、真が危ない!」

「え⁉︎」

 乗客が全員出たことを確認した瑠里は、駆けつけた裕美と共に真の元へ向かう。

 

 跨線線路橋の下の影になっている場所。そのまま首から身体を巻きつけられた真は、姿を現した怪物に鋭い蹴りやボディブローを叩きこまれる。

『今度こそ送り届けますよ、あなたが愛する恋人や父の元へ__!』

 怪物の猛攻を受けた真は拘束から解かれたと同時に吹っ飛ばされ、コンクリートに叩きつけられる。意識が朦朧とする真は怪物が自分の元に急接近するのを感じ、ギリギリ回避に成功する。真が元いた場所に振り返ると、真に化けた怪物がいる。接近した怪物は真を関節技で痛めつけ羽交締めにし、首筋に噛み付く。噛みつかれた真は呻き声を上げ、首筋から出血する。

 駆けつけた瑠里と裕美は物陰に隠れるが、本物の真がどちらか困惑する。

「裕美、アイツが偽物よ!」

 瑠里は2人の真のうち背中の傷が無い方に指差し、裕美は額から"第3の眼"を開眼し、そこから念動力を発する。

『な、何だこれは……⁉︎』

 偽物の真は苦しみだし、怪物の姿に戻る。

「真!」

 真は瑠里の呼びかけに強く頷き、彼女が投げたグラスアクセラーに向かって跳び上がりこれを手にする。真は着地する際に裕美に向けて伸ばした怪物の舌をグラスアクセラーで切断して振り返る。怪物は舌の断面から大量の血を流し、悶える。真はそのままトドメを刺そうとする。だが突如、真と怪物の間に紫の光のオーラが割って入る。光のオーラが消えた場所に人間の姿の野木がいた。

「"戦神"……⁉︎」

 野木の出現で裕美は動揺し、真と瑠里は身構える。

「おお娘さん、Lv.3になったんだって?その姿、似合ってるじゃないか」

「……今度は何の用⁉︎」

 瑠里は野木に睨みつける。

「悪いね、綾小路さんには"最期"に1働きして貰うんだ。ここで失礼させて貰うよ」

 野木は怪物を連れ、煙が消えるように瞬間移動する。真達は安堵しつつも、野木の言葉に不穏を感じる。

「……真⁉︎」

 突如真は眉間から脳髄、全身と激痛が迸り吐血する。さらに真は左胸を抱えながら両膝をついて(うずくま)り、痙攣(けいれん)する。それに気付いた瑠里と裕美は呼びかける。

 

1998年1月3日 午前11時55分 東京都 新宿区 西新宿二丁目 東京都庁第一本庁舎 屋上ヘリポート

 煙が生じるように野木と怪物はその場に姿を現す。

『……あなたは死んだ筈では……?』

「"死んだ"、ねぇ……」

 野木はそう言い放つと"戦神"へと変貌し、振り向く瞬間に胸部から1枚むしり取りナイフ状にした羽根で怪物を一刀両断する。怪物は傷口から大量出血して倒れ伏す。

『……何故貴様が……⁉︎』

『ようやく本音が出たか。あの時俺がいなくてもアンタらは計画を進めると判断し、死んだと思わせた。それだけさ』

『……大統領はどうした……⁉︎』

『あぁ、殺した。鬼塚先生の"呼応反応による理想国家(ユートピア)"、グレゴリーさんの"製剤投与(インジェクション)による改造兵士化"……そんな先達の叡智(えいち)を母さんと同じく、"自身の権力増強"のためだけで使い潰した。最後まで恥知らずな人だよ』

 野木は言葉を続ける。

『だが安心してくれ、この計画を(もっ)て"平和な世界"にしてみせる。その前に、アンタにはその(にえ)になって貰うがね』

 野木が話しながら掌のペリットを弾丸に変えてワルサーp38に装填する最中、綾小路は力を振り絞って周囲の風景に同化し肉薄する。だが、野木は彼の体温や足音、気配で場所を特定する。野木は装填が完了したワルサーp38の弾丸を放ち、全身にそれを受けた綾小路は死の舞を踊る。野木は紫色のオーラを纏わせた右足で回し蹴りを叩き込み、綾小路はヘリパッドに叩きつけられる。オーラの超衝撃波で弾丸が引火し爆発した綾小路は、断末魔を上げ炎上する。

 宇宙空間。野木に改造され、今も地球の軌道を回り続ける中継衛星『TDRS-G』が日本列島の直下に来る。その時、衛星のセンサーが感知する。それは絶望、恐怖など負の感情に飲まれながら絶命した綾小路の"怨念"ともいうべきものであった。

 衛星はこれを世界中に拡散していく。一般人も、政治家も、自衛隊員も、身分年齢問わず改造兵士化が始まる。ある者は今まで抑制していた反動で暴れ回る。またある者は人間のまま死を迎える者がいれば、複数人で改造兵士を銃殺する。 その様子を、野木はISSオホーツク工場の社長室の窓からただ1人冷静に見つめる。

 あらゆる国から雄叫びと悲鳴が上がり、地獄の炎に包まれる。

 

Cell Ⅹ telophase

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