Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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世界中の人々が次々と改造兵士へと変貌、凶暴化していく。
何者かの助けで難を逃れた真たちは、遂に全ての謎と真実を知ることになる。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
この作品には以下の要素が過剰に含まれています。それらに拒否反応を示すなら、コメント欄等で荒らし行為などをせずにブラウザバックして下さい。
・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Cell Ⅺ:Nordlingen

1998年1月3日 午前11時59分 千葉県 成田市 城東カトリック病院

 受付のカウンターから見て奥の方にあるカルテ棚で、バインダーのうちの1冊を取り出すナースの1人がいた。彼女の右脇には別のバインダーが挟んでおり、左手首の甲には包帯が巻かれていた。

「あの子が渡した血液パックの切り取り、それを用いたことを記載したカルテ……一体、何の関係が?」

 ナースは小言を呟きながらインデックスを頼りに項目を読み始め、まず1ページ目を捲る。

「⁉︎」

「どうしたの、そんなに驚いちゃって……」

「この方の入院日、確か……⁉︎」

「最近多いんですよねぇ、旅客機や電車での事故。今月に入ってから患者や輸血するためのパックの取り寄せが多くなりましたし」

「そうなのですね……」

 話を終えた同僚のナースは、自分の持ち場に戻るため(かかと)を返す。ナースは同項目をさらに読み進める。作業着の内側にしまった血液パックの切り取りに記載された名称やメーカーや住所などが、このカルテにも記載されていることに気づく。

(やはり間違いない、既に手遅れだった……⁉︎)

(何か分かった?)

 少年の声がナース、セーラ・深町に伝わる。

「すみません、少しトイレに……」

 セーラは同僚たちに伝えた後、トイレに向かう。そこには、気絶させ個室に閉じ込めた顔そっくりのナースがいたのだ。だが突然、女性の呻き声が聞こえる。

「⁉︎」

 セーラは振り向いて声の方向がある202号室に向かう。そこには輸血パックが繋がった注射が右前腕部に刺さっており、喉笛を掴んで床に蹲って倒れかけている女性がいた。彼女は眉間から1対の触覚が生え、皮膚が白く溶けるように崩れ赤黒い血管が体表を覆う……等の過程を経て鬼塚が変貌した怪物と同じ姿となって雄叫びを上げる。怪物は悲鳴を上げる院内の人々を区別無く平等に握り潰し、喉笛を切り裂く。その光景は院内中に広がっていた。

「……最悪の展開だわ、すぐ戻らせて……!」

(分かった、そこから動かないで)

 物陰に隠れたセーラが呟いた後、煙のように姿を消す。時計の針は午後0時を指していた。

 

1998年1月3日 午後0時 東京都 中央線 中野-新宿間 都道302号近辺 跨線線路橋下

「真、しっかりして!真!」

 真は左胸を抱えながら両膝をついて(うずくま)り、(うめ)きながら痙攣(けいれん)する。あまりの激痛で既に人間の姿に戻っており、意識が朦朧しているのもあって瑠里と裕美の呼びかけに応じられない。

「……見て!」

 空を見上げた裕美の言葉を聞き、瑠里と真も鉛色の空を見る。そこには、数十体の鬼塚が変貌した怪物が(イナゴ)のような翅で羽音を立てながら上空を飛び交っていた。その様相はまるで蝗害(こうがい)そのものであった。

「……結城が危ない!」

 ぎこちなく立つ真を、瑠里が上着を被せる。

「本当に大丈夫、まだ戦える⁉︎」

「……大丈夫、行こう」

 真はそう言うと、グラスホッパーに乗る。その様子を見た瑠里と裕美は不安の表情を浮かべ、瑠里はグラスホッパーのタンデムシートに跨る。

「私は地下から結城さんの所に行きます」

「あぁ、頼む」

 裕美はそう言うと近くのマンホールから入り、真と瑠里はそれを見届ける。雪が降り注ぐ鉛色の空の下、真と瑠里はグラスホッパーに跨り、人気が少ない都道を駆け抜ける。

「……見て……!」

 瑠里の呼びかけに応じた真は、彼女の目線に目を向ける。そこは鬼塚が変貌した怪物が人々を蹂躙し、機動隊と死闘を繰り広げていた。機銃掃射や火炎放射で倒れる怪物もいれば、それに耐えたり仲間を壁に回避して機動隊を喰い殺す怪物もいた。

 さらに、彼らの足元にある死体には先ほど真が救った母と子供2人が無惨に貪り喰われた姿があった。

「……なんて、酷い……!」

 真は、無差別な殺戮で犠牲になった人々に対するやるせなさで言葉が出なかった。そして、このような事態を招いた財団に対する怒りを胸に突き進む。

 

 

1998年1月3日 午後0時 日本 北海道 稚内市 宗谷岬 ISSオホーツク工場

 分厚い雲に一面覆われた鉛色の空の下、工場の建屋や周囲は今も雪が降り注いでいる。その積雪量は14cmにも及んでいたが工場に支障をきたしておらず、日勤と夜勤のシフト制で数百人以上の社員が交代で運営していた。

 工場の生産ラインは、かつて野木が引き抜いた真の白髪を初期化し分化させた血球を培養した最大60kLの培養槽から始まり、連続遠心分離機などで不純物を取り除き、最後はパウチに封入される。それらは全てグレードB以上のクリーンルーム内で大量生産され、工場と提携する医療機関やアカデミアに出荷される。その工程は他の受託生産と同時平行かつ日夜問わず行われ、その激務に対応すべく、パートや嘱託を含めた社員の半数以上は被験者として献血と同時に輸血を施されていた。その結果、激務に耐えられるようになっていた。

「なぁ……このシフト、ヤバくないか?社宅が隣にあるからって、週一で10〜12時間はキツいって……!」

「あぁ。社宅もトイレと風呂は別れてるし、BSやネットとか使えるけどさぁ。労働と休みのバランスが合わないっつーか……」

「というかパートも社員もみんな、なんであんな輸血を受けに行くんだよ。『受けたら疲れなくなった』とか言ってるけどさぁ、アレがどれだけヤバいのか知らないだろ……!」

 チャイムと同時に昼休憩が始まり、日本人の男性2人は疲労した表情で会話する。2人の目元には隈ができていた。

「それにしてもさぁ、俺らは修士卒だぜ?何でパート連中と一緒にラインをやらなきゃいけないんだよ?」

「しかもアイツら、メモを上手く取れない癖してすぐ聞くし、向こうの不始末が俺らに来るわ、待合室も雑談でうるさい癖にさぁ、給料が俺らと同じくらいなんだよな。正社員と同じとかありえねーっつーの!」

 終始愚痴話をする2人の様子を、野木は社長室の窓から冷たい眼差しで俯瞰する。机にあるPCのデスクトップには2人の顔写真が表示されており、さらにデスクには速水が育てていた花・シドンが飾られていた。

 そのとき、2人は数十M離れた場所から断末魔のような叫び声が次々と響き渡る。声の方向に振り向くと、パート等を含めた社員達が鬼塚が変貌した怪物と同じ姿に変貌していく。そして怪物達は次々と変貌しない社員を貪り喰らい、怪物同士で共食いする。

「な、何じゃありゃ⁉︎」

 2人の叫び声に反応した怪物達は彼らに迫る。あまりの恐怖で2人は腰を抜かし、その場から動けずただ(わめ)くことしかできずにいた。

 そのとき、怪物達が上空を振り向くと同時に飛び上がる。だが赤黒い弾丸の雨が怪物達の急所を射抜き、怪物達は断末魔を上げながら燃え上がり地面に叩きつけられる。2人は上空を見上げると、ワルサーp38を手にした野木が地面に降下していく。

「社長!助けていただきありが……!」

 2人は野木が来たことに歓喜し、その1人は野木の元に駆け寄る。だが銃声と共に彼の眉間(みけん)は射抜かれ、そこを基点に爆発・炎上した彼の身体は崩れ落ちる。

「社長⁉︎」

「何故、輸血を受けなかった?正社員となった以上、俺に全て捧げる義務がある__!」

「だってぇ……あんなもの(輸血パック)入れるなんて……自分から改造兵士(バケモノ)になるようなものじゃないですかァ!」

「そうか__なら、生きる資格は無い」

 野木は右手でもう1人の首筋を掴み、鈍い音と共に首の骨を瞬時に折る。右手を離した野木は崩れ落ちる死体を見つめ、死んだことを確認する。野木は瞬間移動で社長室に戻り、サングラスを掛けた黒スーツの男性がデスクの前に佇んでいた。

「ネルトリンゲンにおける護衛の指示(プログラム)を設定しました」

「おぅ、お疲れさん。今からここ(工場)を破棄する。ざっと見た所、"浄化"には十分な数だ」

「かしこまりました」

 野木はデスクに置いたシドンの鉢植えを見つめる。

「……それは?」

 男は野木に尋ねる。

「速水さんが育てていた、"シドン"というジャガイモの花さ。前に"花はなぜ美しいのか?"って聞かれた事があってね。彼はこう言ったんだ、"花は花であるから美しい"と」

「……私には全く」

「あぁ。最初は分からなかったさ、けど後で理解した。花を咲かすこと、それは生命(いのち)が輝きを見せること__速水さんの場合、兄さんや俺を倒し"新たな人類"としてあり続けようとした」

 野木は鉢植えを抱える。

「だが、花を咲かすまでの過程(歩み)があった筈だ。彼はそれを許せなかった、だから力に呑まれた。それは彼の弱さであり、欺瞞(ぎまん)だ。だが、その輝きを永遠にしようと頑張ったのは俺は好感できるんだがね」

 野木はデスクトップ画面の時刻の表示に視線を向ける。

「おっと、長話に付き合わせてすまない。行こう、我が故郷へ」

 鉢植えを持った野木は、スーツの男と共に瞬間移動する。同時に工場付近の電波塔から電波が発せられ、翅が生えた個体は次々と飛び立つ。ドイツ・ネルトリンゲンの聖ゲオルク教会跡へ。

 

1998年1月3日 午後0時20分 東京都 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

 真は1階のガレージに降車し、シャッターを閉めて施錠する。そして真は瑠里と共に急いで階段を駆け上り、扉を開ける。

「どうした真、そんなに血相変えて……⁉︎」

 結城が無事な様子を見て、真と瑠里はホッと一息つく。そして2人は急いで入り、扉を施錠する。

「君が無事で良かった。今、外が大変なことになってる__!」

「何だって⁉︎」

 真たちはテレビの手前の机に着席し、テレビをつける。

『本日午前12時から、人の形をした謎の怪物が大量発生しています!自衛隊によりますと、怪物たちは人が集まる所を狙っているようです!身の安全のため、絶対に外出しないで下さい!繰り返し……⁉︎』

 報道陣は怪物に襲われ、悲鳴や絶叫と共に中継が打ち切られる。その後の映像は、砂嵐しか流れていなかった。

「……マジかよ、この世の終わりじゃねえか」

 結城は唖然とした表情で映像を見つめ、テレビを消す。

「真、瑠里ちゃん。とにかく、ここから逃げるぞ」

「でも、どこへ逃げるの?」

 瑠里が結城に問う。

「下の隠し部屋に行く、あそこなら外からの攻撃にもある程度は持つ筈だ」

「隠し部屋あったの?」

 瑠里は驚きの表情を見せ、3人は扉を出て階段を下る。

「あぁ。叔父さんが言うには、戦時中はそれで空襲を凌いだらしい。俺は全く使わないから、いらない家具とかを入れる為に使ったけどな」

 結城は苦笑しながら真たちに話す。

「うわー、めっちゃカビ臭そ〜」

「でも、一時凌ぎには役立つ筈だ。入口は__⁉︎」

 バン!

 突然、ガレージのシャッターが大きな音と共にひしゃげる。

「何⁉︎」

 瑠里は怯え、真は瑠里と結城の前に出る。その直後、シャッターのめり込みは数を増やし、紙のように引き裂かれていく。そこから現れたのは、鬼塚が変貌した怪物の群れであった。

「嘘でしょ、なんで……⁉︎」

 瑠里は思わず声に出す。怪物たちは興奮のあまりに唾液(だえき)を垂らしながらゾロゾロとガレージに入り、真たちに一斉に襲いかかる。

「結城!入口はどこにあるんだ⁉︎」

 真は怪物達の前に立ちはだかり、必死に食い止めながら叫ぶ。

「ダメだ真、奴らの足元だ!」

「何だって⁉︎」

 真は気を取られた隙に怪物達に取り囲まれる。身の危険を感じた真は"怒りの蟲"に変身しようと眉間から"第3の眼"と1対の黒い触覚を生やす。だが真は再び眉間から全身に激痛が迸り吐血し、意識と視界が朦朧として呼吸が疎かになっていく。だが怪物達は、無慈悲にも真の身体を切り裂き貪る。

「真⁉︎」

 瑠里と結城の呼びかけも虚しく、彼らは怪物達に取り囲まれ悲鳴を上げる。

「や……止めろ……!」

 血祭りに上げられた真は、声を振り絞って叫ぶ。その時、怪物達の足元にある扉の隙間から緑色の閃光が放たれる。光を浴びた怪物達は吹き飛ばされ、ガレージの壁面に叩きつけられる。さらに開いた扉からスタングレネードが投げ込まれ、閃光と煙幕がガレージを包み怪物達の5感を鈍らせる。

「今のうちに早く!」

 聞き慣れた女性の声が扉の下から聞こえ、真たちは一目散に入る。真は殿(しんがり)として最後に入り、内側から扉を施錠する。

「ありがとう真、こっちは着いたよ!」

 瑠里達が辿り着いたのを確認した真は安堵の表情を浮かべる。同時に全身の力が抜けて落下し、床のような感触の何かに叩きつけられる。

「真、しっかりして真!」

 瑠里は真の身体を揺すりながら呼びかける。だが真の意識は徐々に遠のいて気を失う。

 

1998年1月3日 午後11時 東京都 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ 地下倉庫

「……ここは……俺は……?」

 真は眼をうすら開けて起き上がる。

「真!」

「……瑠里ちゃん?」

 右側を向くと瑠里と結城が座っている。そして真は自分の身体を見ると、ボロボロになっている古着を着せられているのに気づく。

「真、俺たち君と愛ちゃんの結晶に助けて貰ったんだ」

「どういうことだ、結城__?」

「全く、ダメじゃないか"父さん"。吾郎くんの忠告を無視しちゃ__!」

 真は聞き慣れた少年の声の方に顔を向ける。そこには息子の新と、那須で出会った三浦吾郎がいた。

「新……吾郎くん⁉︎」

 真は驚きと共に、かつての再会に喜ぶ。

「お久しぶりです、風祭さん。良かった、生きていて……!」

 吾郎は安堵の表情を見せる。

「君たちは何故ここに……?」

 真は吾郎に問いかける。

「新君たちは財団から逃れつつ、戦力を蓄えるためにここに逃げ込んだの」

「裕美ちゃん⁉︎」

 新達の後ろから出てきた裕美を見た真は驚く。

「追手が想像以上に厳しかったんだ。特にあの"戦神"……下手に呼応反応(テレパシー)を使ったらすぐ殺しに掛かるし、僕では吾郎くんを守りきれない……」

「もういい、アイツ(野木)が強いのは分かってる。吾郎くんを守ってありがとう」

「風祭さん……」

 吾郎と新は、真に申し訳ない表情をする。

「途中で割り込んで悪いけど、彼らから聞いたよ。愛ちゃんも親父さんも殺されて、裕美ちゃんも人間じゃなくなって、そしてお前が"悪しき文明(財団)"と戦ってたことに……けど、アンタを許した訳じゃないけどな!」

 結城は苛立ちの表情で部屋の奥の隅を(にら)む。そこにはコンバット姿で背中にロケットランチャーを背負ったセーラが、両腕を組んで壁に寄りかかっていた。

「まだあの事を根に持っているの?恋人(ガールフレンド)がいないのも納得だわ」

「当たり前だろ!人殺しのアンタに言われたくねェよ!」

 真は、歯を食いしばりながら拳を握る結城を抑える。それを見たセーラは呆れ顔で溜息をする。

「真、私はあくまで財団を潰すために組んだだけ。それが済めば、必ず殺す」

「あぁ、でも俺は死なない……!」

「そう、最初の頃より肝が座ってて殺し甲斐があるわ」

 真とセーラは互いに睨み合う。

「待って、セーラさん。確か"アレ"を持ってた(はず)じゃ……?」

「あなた、私の頭の中の他全部(のぞ)いたわね?」

「ごめん……けど、アレにはほぼ全部書かれていた筈__?」

「そうね。全員揃ったみたいだし、勿体ぶっても仕方ないわ」

 セーラは渋々、コンバット服の内側のポケットから手帳らしきものを取り出す。

「ドイツ・ネルトリンゲンで渡された、"鬼塚の手記"よ。これを持たされて始末されそうになった私を、貴方の息子が助けて利敵(ギブアンドテイクの)関係になったわけ」

 セーラは真に手記を手渡し、受け取った真はそのまま読み進める。

「____ッ!⁉︎」

 

 

 『い……いや、止めて、止め____あああああああああああああああ!!!』

 

 直接脳を破裂しに来てる圧

 

 無数の手が伸ばしてくる光景(ヴィジョン)

 

 徹底して無菌処理が施された手術室

 

 絶叫を上げ、虐殺される研究員

 

 洞窟と化し、死体の山と『野本健二』と刻まれたネームプレートを拾う茶褐色の"怪物"が(たたず)む研究室

 

『……"ダニエル"……私の、もう1人の子……!』

 

 

 ……これらに耐えきれず、真は手記を滑り落とす。

「真⁉︎」

 両膝をつき、一瞬で全身が脂汗で覆われる真をセーラ以外の皆が支える。

「……感じた……途轍(とてつ)もない"恐れ"、"怒り"__⁉︎」

 瑠里は手記を拾い、読み進め絶句する。

「嫌……何これ……⁉︎」

 その一部始終をセーラは見つめる。

 

◆◆◆◆◆

 

 1972年2月。大学1年次早々、(鬼塚義一)は早期臨床実習で提携校があるドイツ・ベルリンに訪れていた。積雪に覆われたそこには"シャリテー"と呼ばれる欧州最大の大学病院があり、地元の大学以外にもニューヨークに位置する「多国籍複合企業体(コングロマリット)」と提携していた。

 

 後に元締と謁見(えっけん)したことで知ることとなる"財団"と呼ばれるその成り立ちは、人類史の汚点と云うに相応しい。

 戦争末期。ナチスは起死回生のため、ドイツ・ネルトリンゲンにある研究施設で研究を行っていた。それは、紀元前に飛来した隕石に付着した粘菌を用いた"人体そのものの強化"であった。その隕石は地層学者が分析したところ、第23星雲にある地球に似た環境の惑星から飛来したものとされた。さらにかの楽劇王(ヴィルヘルム・リヒャルト・ワーグナー)もこの地に訪れたことと『ドイツ神話』を読んだことで描いたのが楽劇『ニーベルングの指環』、および作中に登場する『ラインの黄金』とされているようだ。

 話を戻すが人体強化は4段階まであり、それぞれ「人体そのものの強化」、「機械などで必要な状況に応じ強化」、「別種の遺伝情報による"根源からの創造"」、そして「別種との交配による"新生による超克"」とされている。「遠く離れた星雲に地球に似た環境の惑星があり、その隕石が落ちた場所から掘り出した鉱石や菌で生体兵器を作る」……あまりの荒唐無稽(こうとうむけい)さに某コズミックホラー(クトゥルフ神話)と思うかもしれない。だが、これは現実にあるものなのだ。この粘菌は付着した動植物を大量のウイルスベクターを感染させ侵食し、遺伝子構造を改変することで異形の怪物へと変貌させる性質を持っていた。今は規制されて話題にならなくなったものの、実際に「捕獲したUMAの遺伝子検査の結果、その遺伝情報には感染前の生物体の塩基配列と粘菌のベクターと同じ配列を持つ」という記事がある程である。

 戦後、米政府は来るべき食糧危機に備え世界の人口を3分の1に減らす目的を持っていた。政府は独軍将校や軍医に属していた"王族の末裔"と繋がっており、彼は親族を裁判にかける形で謀殺。研究資料を入手した彼は、それらを惜しまず米政府や西ドイツ、オーストリアなどに提供。民間には医療技術、裏社会にはデータの副産物や麻薬、武器内蔵型の義肢を送り、オルド自由主義の追い風の中で裏社会から圧力を掛ける形でドイツの急速な再建と成長を促した。

 その過程で一般企業や秘密結社を買収・掌握。旧ソ連とも取引しながらニューヨークに帰化し、そこに設立したのが「財団」であった。そして、その元締こそかつて"メルヘン王"と揶揄(やゆ)され、楽劇王と深い関わりを持つ王の末裔・"アーデルベルト・フォン・ヴィッテルスバッハ"(以降、アーデルベルトと表記)であった。

 

 その後、社長は年齢次代の社長後継者を必要とした。そのため、当大学病院で当時最年少で講師を勤めていた風祭大門博士と、彼の助手・沙月と接触。彼女を伴侶にすべくベルリンにおける高級レストランへ食事に誘い、「自分には権力や財力もある、だから結婚してくれ(要約)」と告白した。が、彼女は「私には既に愛している人がいる、だから貴方の気持ちには応えられない(要約)」と振られ、片思いに終わったらしい。

 後に彼女が既に博士と婚約し、子息・風祭真を授かったことを知った社長は憤慨。社長は米政府と共に新プロジェクト「新たなる免疫治療法の確立」を立ち上げ、同時に当てつけとして博士を研究主任として依頼した。私は臨床実習としてこの研究プロジェクトに参加することとなった。だが、その場所はかのネルトリンゲンの聖ゲオルク教会地下にある研究施設であった。さらに事前に配られた資料によると、当時の施設を大幅に改修し最新機器などを導入しているようだ。

 被験者を探している最中、その1人として沙月が志願。彼女は元々運動神経が抜群で、身体は至って健康そのものであった。被験者としては申し分が無い彼女であったが、彼女を愛する博士と社長は断固反対した。だが彼女の要望と米政府の後押しもあって施術し、結果は被験者10人中沙月以外死亡。沙月は常人を超える免疫獲得速度と細胞分裂速度を獲得した。だが、米政府から人体実験の指示が下された。

 そう、この研究プロジェクトは治療法の模索ではない。かつて戦前にナチスで行われた「改造兵士計画」の再演であり、最早実習では無かったのだ。

 私は末端でありながらこのプロジェクトに参加したことを誇りに思った。同時に、実験台に取り付けたこの"人間であって人間でない"新種の生物に興味を抱いた。その後、私達はその生物をモルモットとして様々な実験を行った。高圧電流を流したらどうなるか、皮膚や神経をそのまま摘出したら再生するか、摘出した細胞を初期化できるか、移植片(ドナー)として移植できるか__!先に結果を記すと、いずれも成功し、その生物から充分な量の検体を確保できた。後に財団本部のラボで冷凍保存されたり、それを用いて「機械などで必要な状況に応じ強化」するタイプの改造兵士の製造に成功したと耳にしている。

 これと同時に、あの生物から言語能力や記憶力が徐々に低下していくのが確認された。同僚は実験による後遺症と考えていたが、私は例の粘菌に適応できたとはいえ、それを後天的に付与されたことで記憶を不必要な要素として徐々に失っていったと考えている。具体的には脳から先に"細胞の限界"を迎え、免疫系とのバランスが崩れ、大脳辺縁系における海馬が萎縮するプロセスを経て被験体によっては即死に至ったと思われる。

 一方この頃から博士は世俗から距離を取るようになり、自主的にプロジェクトから降りた。以前から彼を中心とした揉め事が展開されており、「今すぐ例の生物を解放しろ」と直接止めに入ったこともあった。例え持っている能力が素晴らしいものであってもチームを乱す人間は不要と改めて認識した。

 

 我々は、遂に禁忌の領域に足を踏み入れる。「この生物は、子孫を残せるか」という命題である。これは戦中でもあまりの危険性で封印されていたものであった。だが、我々はここまで来たのだ、引き退る訳にいかない!これを超克することで「我々は神を超える」。我々はそう確信した後に米政府の了承の下で封印を解き、その命題に挑むこととなった。

 我々は身体測定の際に入手した社長の精細胞とこの生物の卵細胞を人工授精させ子宮に導入した。その後、妊娠月数をヒトと同様の期間として経過観察することとなった。だが、子宮にいる胎児(ミュータント)の成長速度は我々の想像を絶するものであった。妊娠1週目にして既に4週目まで……つまり通常の4倍の速度で成長していたのだ。

 同時に母体にも変化が見られていた。人工授精以前は、ある程度検体を取り出しても細胞が老化する気配などほぼ無かった。だが、人工授精以降は胎児に栄養分を抜き取られていたためか老化の一途を辿り、毛髪は白く染まり抜け、皮膚も潤いが失われていった。

 そして妊娠10週目。ヒトで云うなら妊娠40週目の出産日。母体の生物も生体反応も微弱といって過言ではないほど衰弱しきっており、最早ミイラと形容せざるを得なかった。

 だがその時、不思議なことが起こった。母体の腹上部から紫色のオーラが極上のナイフ状で飛び出し、服下部まで縦一文字で切り裂く。その切り口から1対の褐黒い手が伸び、母体の胎からヒューヒュー吹きながらせり出す。それは"ヒトの形にした褐黒い肉塊"と形容せざるを得ない醜悪な怪物であった。その光景を目の当たりにした周囲の人間達は、我が先と外へ出ようと争う。

 勿論私も目の前で生を受けた哀れな胎児に恐怖を感じている。だが、私はそれ以上に喜びを感じていた。私は初めて、この地球(ほし)の生態系にない新種の知的生命体、"神"を生み出したのだ!これを上回る喜びがあってたまるものか!なら次にすべきはただ1つ……その"神"を(たお)し、国家()を守る兵士(ソルジャー)を作り出すことではないか!

 私自身の感情の理解に時間を掛けている間に施設は破壊し尽くされ只の暗闇の洞窟と化し、例の粘菌と返り血で覆われていた。また私以外の研究チームが全員八つ裂きにされ、頭蓋を怪物の指先から伸びる紫色のオーラの触手に穿(うが)れ脳……恐らく一人一人が持つ知識・価値観・経験など全部を吸引されていた。さらにコンドルとトカゲの細胞の検体が入った瓶も割られ、中身が全て無くなっていた。そして、洞窟の奥には例の生物が横たわっていた。

「……何故、私を殺さない?」

 ボロボロのシーツをローブ代わりに羽織り、「野本健二」のネームプレートを拾った怪物に私は問う。

『ソノ場デ殺シテドウスル?アンタノ他二モ、母サンヲ殺ス算段ヲ立テタ輩ガイル筈ダ。ソレマデ首ハ繋イデヤルヨ』

「何故君は、人類を憎む……?」

『母サンガ受ケテキタ虐待ガ、俺ノ深層心理マデ反映サレテネ。生マレナガラ殺意ト憎悪ヲ抱イテルノサ。ダカラ俺ハコノ地球(ホシ)宇宙(ソラ)カラ、裁定者トシテ力を託サレタノサ』

「君は一体……⁉︎」

『ソウダネ、"野木健一"トシテオクカ……鬼塚先生、殺すのは後の方にしておくよ』

 自らを"野木健一"と名乗った怪物はローブを上げる。すると金髪青眼の美少年となっており、そのまま私を通り過ぎていった。

 

 その後、あの事故は米政府によりガス爆発事故として隠蔽され、Lv.4は安保理で作製禁止とされた。私は臨床的免疫工学の博士号を取得後、ネルトリンゲンの件で推薦入社を果たした。婚約し裕美をもうけて財団の研究主任として活躍する傍ら、未だ手をつけてなかったLv.3について悩んでいた。だが研究プロジェクトの1つで、かつてプロジェクトから抜けた大門博士と彼の息子・真がそれぞれ主任、被験者として参加したようだ。相変わらず自分の意見を頑なに変えない博士は兎も角、息子に私と同様に飛蝗(バッタ)の遺伝子を組み込ませたことで上手く出来る筈だ。近い将来、驕れる人類が淘汰され、(野木)(たお)し、"国家(この星)"を()べる人類への1歩として__!

 

◆◆◆◆◆

 

 

1998年1月4日 午前3時 東京都 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ 地下倉庫

 セーラを除く、鬼塚の手記を最後まで目にした一同は絶句する。そして真は、その内容に(つづ)られた母・沙月に対する拷問と彼女の最期にかつてないほどの憤りを見せる。その怒りは、強く握り締められた両拳で示されていた。

「昔、親父さんが"何人も被験者を死なせた"らしいとは聞いてたけどさ……こういうことだったのかよ……⁉︎」

 結城は衝撃を受ける。

「……知りたくなかった……でも、俺たちはそれを受け入れなければならないんだ……!」

「真……」

 瑠里は真を心配する。

「"財団"はあの後、風祭沙月(彼女)の細胞片を初期化(リプログラミング)した"融合細胞核(マザー・コア)"を後発の改造兵士の素体に用いた。世界で初めて生み出された改造兵士にして、その"原初の母(ユミル)"。それがあなたの母、"改造兵士(サイボーグ・ソルジャー)Lv.1"よ」

 セーラを除く一同は絶句する。

「そして財団は、急ごしらえでも改造兵士を増やすべく計画を実行した……それがこれよ」

 セーラは新と会話した後に、あるものを床に置く。それは、空の血液パック2枚に城東カトリック病院で回収したバインダー2冊であった。

「血液パック?」

 瑠里は怪訝(けげん)そうに血液パックを見る。

「⁉︎」

 瑠里はメーカーの表示を見たことで、裕美の病室にも血液パックがあったことを思い出した。

「『ISSオホーツク工場』……」

 裕美が瑠里を心配する。

「これ……裕美が改造兵士になったのって……⁉︎」

 セーラは口を開く。

「そう。輸血による改造兵士化で暴走し、より強力な改造兵士に処理させる。改造兵士の大量生産における事前試験(テストプレイ)としての(にえ)よ」

「…………」

 裕美は絶句し、瑠里はかつて自分と真との確執で彼女に大怪我を負わせたことに対する責任感で押しつぶされそうになっていた。

「……私のせいだ……私が、私が……!」

「瑠里……」

 裕美は声を掛け真と結城が寄るものの、瑠里は両膝から崩れ両手が床につく。

「まだ話は終わってないわ、見なさい」

 セーラは、該当のページを開いたバインダー2冊を瑠里達の前に出す。そこにはそれぞれ執刀医と患者名、血液パックに記載された名称・メーカー・住所などが記載されていた。

「執刀医は速水……患者は貞衛、美代子ちゃん……⁉︎」

 真は驚きながらバインダーの1冊を見る。

「おい、こっちは飛行機事故とかで輸血パック(コレ)が使われてたのかよ……⁉︎」

 結城はもう1冊を見て唖然とする。

「……そう。関東医大病院には速水逸郎による日本における改造兵士の増員、城東カトリック病院では連続旅客機事故における改造兵士の増員が記載されたカルテが保管されてた。私はこれを回収を彼等に頼まれた……そうよね?」

 セーラは新と吾郎の方に振り向き、新は頷く。

「……一旦休憩しよう。僕を含めてみんな、話の展開で疲れている」

「ダメじゃないか、()。ここからが本題だろ」

「!!?」

 一同は声の方を見る。そこには野木が脚を組みながらソファーに座っていた。

 

1998年1月4日 同刻 結城サイクルショップ 1階ガレージ

 ガレージ内はスタングレネードの閃光と煙幕が収まっており、こじ開けられたシャッターから新雪と寒気が入り込んでいた。グラスホッパーが置かれたこの場所を怪物達は闊歩(かっぽ)し、ドアをこじ開けようとしたり共喰いを始めていた。

 そのときシャッターの穴からスーツの男が姿を現し、怪物達は一斉に彼がいる方向に振り向く。怪物のうち1体が飛びかかり、顔を防ぐために出した男の右腕に噛み付く。しかし怪物の口元は徐々に黒ずんでいき、やがて力が抜け崩れ落ちる。

「醜いな……いや、一皮剥けばこうなるか」

 男は、噛みついた怪物の左胸を踏み抜きながら呟く。怪物は口元から全身へと黒ずんでいき、その身体は腐食していく。男はサングラスを投げ捨て、額の人工皮膚を破り捨て第3の眼を(あらわ)にする。全身の皮膚が血管が見えるほど白く(ただ)れ、徐々に青緑色に変化していく。そこに佇んでいたのは、全身が青緑色の綿状の物質に覆われた2M前後の異形の怪人であった。

『準備運動には丁度良い、来い』

 改造兵士と化した男は挑発し、怪物達は一斉に飛びかかり襲いかかる。男は手足を青黒く変色させ、怪物達を殴り、蹴り飛ばす。怪物達は打撃を受けた箇所から黒く変色し、身体が包まれたと同時に腐り果てていく。さらに男が動く毎に青黒い(もや)が撒き散らされ、空気中の酸素が奪われていく。怪物達は呼吸困難に陥り、内臓から全身にかけて腐っていく。さらにその死体から湧き上がる靄が更に酸素を奪い、次々と現れる怪物達を死に至らしめ腐らせていく。

 

1998年1月4日 午前3時10分 結城サイクルショップ 地下倉庫

 真は臨戦体勢に入り、セーラは抜いた拳銃の銃口を野木に向ける。

「やぁ吾郎くん、那須以来だね。グレゴリーさんを()って嬉しかったかい?」

「違う、僕は風祭さんを助けるために新くんと一緒に戦ったんだ!」

「……今度は何をしに来た⁉︎」

 真が野木に聞く。

「そりゃあ、あの時言った"語るべき時"が来たから教えに来たのさ。ここまで"財団(ウチ)"を知ったんだ、全て知る義務がある」

「というか、何でココが分かったの⁉︎」

 瑠里が野木に聞く。

「俺は呼応反応で改造兵士の居場所を把握できる。分かったのは、俺が連中(大統領達)を出し抜くため擬死行為(アンデストラップ)してた時だ。頑張って隠れんぼしてた甥は『俺が死んだ』と思い込み、表舞台に出るようになって分かったのさ」

 新と吾郎はショックを受ける。

「続いて、兄さんの容態の件だ。先生の手記をに書いてある通り、『Lv.1〜3の改造兵士は"人為的な施術による細胞の限界"を迎えやすい』。それは兄さんも例外じゃなかった」

「何……⁉︎」

 真は野木を見る。

「アンタは度重なる"体内変身(インナーチェンジ)"、激しい戦闘による肉体の損傷・再生、そして逃避行における六感の鋭敏化……など身体の限界を超えて改造兵士の力を酷使した。結果、悪意への耐性の低下、変身による短命化・老化・細胞死……などが一気に起こった。戦えるのは後1回位だろうね」

「今度こそ貴方の目的を教えなさい!」

 セーラは野木の眼前に拳銃の銃口を突きつける様子を見て、野木は呆れながら溜息をつく。

「勿論平和さ、それも人類誰1人いない素晴らしい世界だ」

「何ですって……⁉︎」

「個性とか多様性とか言葉で綺麗に取り繕ってるけどさ。でも所詮、各々(おのおの)の正当性を主張しているだけに過ぎない。醜く、(おぞ)ましく、ひ弱で下等な(うじ)(カビ)(けが)れ、それが旧人類。そんな奴等を漂白するため、俺は地球(この星)から力を託された。それでも自分達が正しいと主張したいなら、これを見てくれ」

 野木は右手を天井に掲げ、指を鳴らす。真達の周囲は暗闇に覆われ、闇が晴れると、そこには変身後の真と全く同じ姿形をして米警察の防護服を着た怪物が列をなしてそこ一帯に並んでいた。

「⁉︎」

 あまりの異様な光景に全員が唖然とし、瑠里は思わず嘔吐しかける。

 

『そう、"バッタ"だ。近い将来、驕れる人類が淘汰された後、この世界を支配しうる最も高い可能性を秘めた生物だ。

美しいとは思わんか……え?素晴らしいとは思わんか?

……これこそ"国家"だ。驕れる愚かな人間どもが忘れてしまった、"本当の国家"なのだ__!』

 

 この光景を見た真は、かつての鬼塚の言葉を思い出す。そして真の目の前にある光景は、鬼塚の思想そのものであった。

「これが"財団"……(いや)、その後ろ盾となっていた大統領の最終目的さ。交通機関で世界中で負傷者を大量に出し、改造兵士の遺伝情報を乗せたベクターを含んだ血液パックで輸血させる。そしてその患者を通信衛星からの電波(呼応反応)で遠隔操作し、『国家(大統領)を守る兵士(ソルジャー)』とする。正に人類史や、その先達に対する冒涜だ」

 野木は(うつろ)な眼差しで淡々と説明しながら指を鳴らし、幻影と背景を消して元の場所に戻す。

「そのため、大統領に忠実であればどの改造兵士でも良かった。だが父さんは安く買収されてしまうこと、そして俺達(Lv.4)を量産して人類が制御できなくなることを恐れた。これでは、"全世界の経済活動を自分達の影響下に置く"ことが果たせない」

「だから社長は人が制御できる改造兵士(Lv.3以下の改造兵士)を選抜するため、日本を"試験場"にした。そして、速水さんによる被験者達を風祭さんに差し向けた……!」

 裕美は呟く。

「そう。成功すれば、それなりに強力な改造兵士が手に入る。だから大統領は父さんを試すことにした。それに日本を試験場に選んだのも、大統領が日本を「戦後から徴兵を断固し続けている敗戦国」として嫌ってるのもあったからね。5年前から兄さんを"Masked Rider(次々と宿を移し、姿を隠す臆病者)"と呼んだり、被験者達を"使い物にならない"とこき下ろしてたし」

 野木は、真に視線を移す。

「あぁ、ドライブ中に白髪を抜いたのは悪かったよ。これは父さんからの指示。いずれ速水さんと戦うことになると感じたから、兄さんが生きてるうちに確保したかったんでしょ」

「何__⁉︎」

「だけど俺は、母さんをあんな姿にした父さんや大統領(連中)が嫌いでね。父さんを潰すためにまず密かに大統領と関係を築き、連中が知らぬ間に旧ソ連に検体の一部を送った。その結果、父さんは速水さんの暴走もあって社長から下され、兄さん達に倒された。そして、俺は社長に出世したのさ」

 真は、野木に白髪を抜き取られたことを思い出す。同時にこの時点で野木の思惑通りに事が進んでいたことと、無意識に身体の一部を渡したことによって事態を悪化させたことにに衝撃を受ける。

「だが大統領は痕跡を廃しつつ目的を果たすべく、先生(鬼塚先生)の手記ごと俺を消そうとした。そこで俺は『計画を進めるだろう』と予想し様子を伺った。そして連中を返り討ちにして、計画と社長の座を奪い返した」

「じゃあ、外で暴れているあの改造兵士(バケモノ)ってあなたの仕業……⁉︎」

「あぁ。衛星を通して送った綾小路さんの呼応反応(憎悪と断末魔)を受信した患者は皆、改造兵士となる。大脳がズタズタになって死ぬまで暴れ狂うから、衛星を破壊しても意味が無い」

 野木の解答に、瑠里は衝撃を受ける。

「だが、1つだけ方法がある」

「デストレイ……」

 裕美は呟く。

「正解。グラスホッパーに搭載されているデストレイには、核分裂から取り出されたエネルギーが用いられている。それは周囲のエネルギーを吸収することでほぼ永久に行われ、最大で太陽の表面温度に匹敵するまで増大する」

「……そして、それを取り付けた改造兵士は爆発的な力を得られ、潜在的に持っている能力を引き出せる。けど、それに耐えられなかったら……!」

 裕美が口籠る。

「そうだ。誰かが装着して俺を倒し、デストレイの起爆を停止する。それが君達の勝利条件。ただ、デストレイの負荷は想像以上だ。人間は勿論だが、改造兵士でも正気でいられないだろうね」

 一同は言葉を発せずにいる最中、野木はポケットの携帯電話が振動していることに気づいて取り出し通話し始める。

「もしもし、回収お疲れ……え、起動キーが無い?いいよ別に、連中を倒して奪還すれば問題無い。一休みが終わり次第、こちらに向かってくれ」

 野木は通話を切り、真たちの方を見る。

「たった今、グラスホッパーは俺たちが回収した。場所は北海道・稚内にある『ISSオホーツク工場』。取り返したければそこに行くといい、俺は先にネルトリンゲンで待ってる」

「待て!」

 野木は真の呼びかけを無視し、煙のように姿を消す。

「……グラスホッパーを取り返して、野木を倒す。これしか僕たちが生き残る道は無い」

「でも取り戻すってよ、アイツ(野木)の他にもあの改造兵士(バケモノ)どもとも相手にしなきゃいけないんだろ?……まさか⁉︎」

 新が呟き、結城は嫌な予感を感じる。

「……俺が装着する」

「真⁉︎」

 真の言葉に、セーラ以外は驚きの表情を見せる。

「なんで……なんで、いっつも辛いことを選ぶの……⁉︎」

「瑠里ちゃん……」

「あまり人に頼りたがらないし、失敗が多いし、道につまずいてばかり。それでも……どれだけ酷いことをされても、自分を見失っても、悩んだり傷ついても、それでもあなたは戦った!私は、そんなあなたが好きだった!でも私は、"パパを殺した"と勝手に疑った……そんな私を受け入れたあなたがいなくなるのはイヤ……!ようやく分かり合えたのに……こんな形で別れるなんて……そんなの、イヤだよぉ……」

「__歯を食いしばりなさい」

「……え?」

 セーラは包帯が巻かれていない方の手で、涙で濡れた瑠里の頬を叩く。

「__前にも言った筈よ、『強くなりなさいよ。そこで死ぬ位なら、両親(ペアレンツ)の仇討ちを糧にしなさい。』って」

 瑠里は、シャッガイでセーラに言われたことを思い出し呆然とする。

「もうこれは私達だけの戦いじゃない、野木()と人類、どちらかかが生き残る"戦争"なの。いい加減、そんな甘い考えを持つのは止めなさい!」

 セーラは瑠里を尻目に新に話しかける。

「グラスホッパーは私が奪い返す、貴方は3分時間を稼いで」

「いいの?貴女の身体は……⁉︎」

「そうね……でも貴方に拾われた命だわ、ここが燃やし時じゃないかしら」

 新は深刻な表情をする。

「それに、機動キーならここにある。気配を辿れば場所が分かるわ」

 セーラは先のスタングレネードで目眩したときに引き抜いたグラスアクセラーを新に見せる。

「あの……」

 吾郎はセーラに話しかける。

「使わないと思いますが、もしものためにこれを持って下さい。何かの助けになると思います」

「分かったわ」

 吾郎はセーラにワルサーp38を渡し、セーラは懐にしまう。

「……ご武運を」

 新は護身用のスタングレネードを見せ、ロケットランチャー等を装備したセーラを瞬間移動(テレポート)させる。彼女が見せた表情は、微かに微笑んでいた。

 その時、天井が徐々に溶け始める。

「危ない!」

 真は叫び、全員を壁際まで退避させる。天井は完全に溶け、何かが床に落下する。砂埃が混じった煙が晴れると、そこには改造兵士の姿の黒スーツの男が立ち塞がっていた。

『貴様ら全員、ここで抹殺する』

 怪人が真たちに宣言する。ここに真達の、人類の最後の戦いが幕を切って落とされた。

 

Cell Ⅺ telophase

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