Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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野木や改造兵士達を止めるには、グラスホッパーを身に纏った真が彼等に立ち向かうことしか方法が無かった。
黒スーツの男が変貌した改造兵士が迫る中、真たちに"決断"が迫られる。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
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・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Last:仮面ライダー

1998年1月3日 午後7時半 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会跡

 雪が降り注ぐ夜空の下、"ISSオホーツク工場"から飛び立った怪物達は次々と地表に降り立つ。怪物達は"地獄の門"があった穴倉の前に立ち塞がるように取り囲み、粘着質のものが粘り着いたような音と共に周囲を歩き回っている。

 入口が塞がれた洞窟の中、焚ひ(たきび)で灯した野木は風祭沙月()の側に座っている。そして彼の反対側には、鉢植えが取り除かれた"シドン"が土ごと植えられていた。

「見てくれ、母さん。母さんを死骸(こんな姿)にした旧人類は、滅びへと向かっている」

 野木は、洞窟の天蓋(てんがい)に世界中の風景を投影する。次々と変貌し、政治家・兵士・罪もない人々問わず(むさぼ)り喰らう怪物達。炎に包まれ倒壊していく国際連合本部ビル、各国の主要都市および建築物。

地球()を統べる種として旧人類(ヤツら)は限界だ、この力を懸けて必ず滅ぼす」

 野木は呟きながら決意を固める。

 

1998年1月4日 午前3時半 結城サイクルショップ 地下倉庫

『貴様ら全員、ここで抹殺する』

 黒スーツの男が変貌した改造兵士(怪物)は、真たちに宣言する。天井は完全に溶け、砂埃が混じった煙が晴れると同時に怪物の身体から青黒い(もや)が撒き散らされていく。同時に新は、靄の周囲から酸素が急激に奪われていくことに気づく。

「みんな、あの靄(あれ)に触れちゃダメだ!」

 新は一同に呼びかける。一同は、靄に触れた床や家具が腐食していくのを目の当たりにして驚愕する。

「じゃあ、どうやってアイツと戦えば……⁉︎」

 瑠里は思わず言葉に出る。

「みんな、一旦逃げよう。新、行けるか?」

「でも、逃げるってどこに?」

「"あの場所"しかない……俺を信じてくれ!」

「分かった……みんな、集まって!」

 真と新の会話が終わり、一同は彼等に集まる。真は新の両肩に両手を乗せ、全員は靄に包まれる直前に瞬間移動(テレポート)する。

『……逃したか』

 怪物は舌打ちしながら呟き、額の"第3の眼"で真たちの気配を探し始める。怪物は身体から発する黴をワイヤー状に伸ばし、その先端を天井に引っ掛けて1階のガレージまで登る。そして怪物は未だに全身が腐食しきってない、鬼塚が変貌した翅が生えている改造兵士の死骸の1匹に自身の黴を植え付ける。

『探せ』

 改造兵士はぎこちなく起き上がり、怪物の指示に従って飛び上がる。欠損した改造兵士の身体は、黴によって補われていた。

 

 

1998年1月4日 午前3時半 日本 北海道 稚内市 宗谷岬 ISSオホーツク工場

 雪が降り注ぐ夜空の下、新によって瞬間移動されたセーラが現れる。

「ここが、今の"財団"の拠点……」

 セーラは周囲を見渡しながら呟く。そこは、拠点と呼ぶにはあまりにも荒廃していた。建屋の殆どが外から見えるほど剥き出しになるほど倒壊し、未だ消えることが無い炎や火花が照らす。あらゆる場所から非常ベルが鳴り響き、傷口から血や臓腑(ぞうふ)を散らした(むくろ)と化した人間の社員が倒れている。さらに、周囲の何処(どこ)から怪物達の声や足音が響き渡る。

 セーラは怪物達に気づかれないよう瓦礫(がれき)に身を潜めながら進む。

「__ッ⁉︎」

 セーラは左手首から全身にかけて激痛が(ほとばし)り、その場に立ち止まる。包帯を外して見ると、傷口の腫瘍は一回り大きくなっていた。

 そのとき、怪物の1体がセーラに飛び掛かる。セーラは拳銃を発砲し応戦する。怪物は弾丸を受けて怯むものの、セーラに組み付く。セーラは左手以外身動きが封じられ、吾郎に渡された拳銃(ワルサーp38)を思い出す。セーラは懐からそれを抜き、怪物の顔面に向け撃鉄を引く。怪物の頭蓋は一瞬で柘榴(ザクロ)のように砕け散って(ただ)の肉片となる。セーラは左手から肩甲骨にかけて凄まじい反動を受け、思わず失神しかける。

「……うぅ……」

 少し間を置いてセーラは反動を受けた身体を無理に起こし、周囲を見渡す。そこには、左手に持った拳銃で頭蓋を吹っ飛ばした改造兵士の死骸があった。セーラは量産型とはいえ、拳銃1丁で手軽に殺せるようになったことに恐ろしく感じた。だが、彼女に困惑する(いとま)は無かった。先程撃ち殺した改造兵士の呼応反応を感知したためか、他の改造兵士達もセーラの元に群がっていく。セーラは急いで拳銃のマガジンを引き出し、12連中残り10発しか無いことに気づく。その後すぐさまマガジンを戻し、拳銃を2、3発撃つ。セーラは1発撃つごとにその反動に耐えきれなくなり、数十M離れた建屋の段ボールが積んである荷捌ルームまで吹っ飛ばされて資材や緩衝材の山に埋もれる。

 

『……Du wirst sterben……um für deine Sünden zu büßen……ohne dass dich jemand liebt oder sich um dich kümmert……!』

 

「……誰からも愛されず、看取られず、ただ罪を償う為、孤独に死ぬ、か__」

 セーラはハインリヒ神父の呪詛の言葉が頭によぎり呟く。同時に彼女の怪物化は進行し、左手首から左腕全体、胴体へと広がっていく。

 次第に意識が遠のいていく彼女に、改造兵士達が唾液(だえき)を垂らし足音を立てながら群がって迫る。

 

 チャリーン

 

「……?」

 セーラは、服の内側から金属製の何かが音を立てて転げ落ちたことに気づく。

(そんな所で寝ると風邪引くぞ、セーラ)

「……カルロス⁉︎」

 セーラはその方向に視線を移すと、死んだ筈のカルロス・深町が(たたず)んでいた。だがカルロスの姿は次第に薄れていき、やがてその場から消えた。カルロスがいた場所には、セーラがいつも胸元に掛けているペンダントがあった。

「……分かったわ、カルロス」

 セーラは少し微笑みながらペンダントに語りかける。改造兵士の1匹がセーラに飛び掛かり、セーラは前転して回避する。同時にセーラはペンダントを拾い、懐からグラスアクセラーを逆手に持って構える。

「悪いけど、ここで立ち止まる訳にはいかないのよ……Come on!」

 セーラは改造兵士達を挑発し、改造兵士達は束になって一斉に跳びかかる。セーラは背中のロケットランチャーの砲口(ほうこう)を彼等に向け、1発打ち込む。改造兵士達は砲弾に被弾して生じたその(ほむら)に身を焼かれ、黒煙を上げながら無造作に地面に叩きつけられ絶命する。セーラは爆炎の中を駆け抜け、障害となる改造兵士達をグラスアクセラーで次々と斬り倒し、しつこい輩には拳銃で撃ち抜く。怪物化が胴体から首筋まで広がるが、セーラは身体の変化や激痛に耐える。手にしたグラスアクセラーから感じる気配を頼りに、セーラは薙ぎ倒しながら構内や建屋の中を駆け抜ける。

 そして彼女は気づいていなかった、吾郎から貰った拳銃の反動に身体が耐えられるようになっていたこと。そしていつの間にか彼女の眉間に、真と同じ"第3の眼"が開いていたことに。

「……ここか__!」

 セーラは気配が一番強い場所、社長室に辿り着く。セーラはドアノブの合鍵を自前の拳銃で壊し、扉を蹴り破る。そこには、デスクの前にグラスホッパーが置かれていた。だが社長室には、窓ガラスを破って入ってきた改造兵士10数匹が群がっていた。

「__Attack!」

 セーラは社長室に突入し、社長室は怪物の雄叫びや銃声が響き渡る。

 

1998年1月4日 午前3時半 日本 東京都 ISS生化学研究所跡近辺 地下下水道

 全く人気のない地下下水道、瞬間移動した真たちはそこの浅い水たまりに降り立つ。同時に新は気を失い、その場に倒れ込むところを真に抱えられる。

「大丈夫⁉︎」

 瑠里は新に呼びかける。

「……気を失っただけだ。みんなをここまで連れて来てくれたから、疲れたんだと思う……早く行こう」

 真は新の小さな身体を背負い、そのまま前に進む。周囲は照明を初めとした光が一切無く、下水道内の気温も微妙に高いためか霧に覆われていた。

「……本当にここ?暗いし、何も見えないけど……」

「多分大丈夫。そこなら3日は過ごせると思う」

 瑠里達が不安を感じる最中、真は瑠里に返答し彼等を連れて暗闇と霧の中を進む。

「……着いた」

 真は、自身の身長と同じくらいの巨大な柵の前に立つ。真は背負ってた新を結城に託し、柵を怪力で外す。

「あれって確か__⁉︎」

 その先にあったのは、5年前に真が初めて貨物船の倉庫に忍び込んだ場所であった。瑠里は真の過去を見ていたため、その先にある船を見て思い出して声が出た。

「密輸船だわ。兵器を持ち込む以上、正規の貨物船は使えない。でもまさか、こんな所にあったなんて__」

「え?」

 裕美の言葉に真も驚く。

「すると"財団"は、(コレ)でやり取りをしてたって訳か?」

「ええ、それならある程度は持ち堪えられる筈です。銃器を初めとした兵器が積んであるから、私たちでも戦えると思います」

 結城の問いに、裕美は希望も込めて答える。

「よく見つけたなぁ、真。お前にしちゃ上出来だぜ」

「いや、偶々見つけただけだよ」

 久々の結城の嬉しそうな様子を見て、真は照れ臭く笑う。その裏で真は久々に朗らかな気持ちになる。

「風祭さん、僕と裕美さんで食料やどんな物資があるか見て来ます。その間に新くんをお願いします」

「ありがとう、吾郎くん」

 吾郎と裕美は貨物船に向かって走り出す。辿り着いた吾郎は船内への出入口のスロープを操作し、裕美と共に入る。その様子を残った真たちは見届ける。

「……真。この戦いが終わったら、お前はどうするんだ?」

「そりゃ、また世界GP(グランプリ)を目指すつもりだけど……」

「……瑠里ちゃん達から聞いたよ。お前、野木(アイツ)に"2回"も負けたそうだな」

「……そうだけど……」

「だからグラスホッパー(あのバイク)が戻ったら、『"戦う為の生物兵器"になって倒す』為に行くんだろ?俺が言ってるのはその後だよ」

「オジさん……」

「……」

 結城の問いに真は黙り込み、瑠里は唖然とする。

「まさかお前……"連中と共に死ぬ"とか考えてないだろうな……⁉︎」

「…………」

 真はすまなそうな顔で結城を見る。怒りが頂点に達した結城は真の頬を殴り、上着の袖を掴む。

「バカヤロウ!命を粗末にするな!」

「オジさん!やめて!」

 結城の真横から瑠里の声が聞こえる。結城は横を振り向くと、両目から涙を流して立つ瑠里の姿があった。結城は我に帰り、真の袖を離す。

「……もう、1人で全部やろうと思うな。改造兵士(バケモノ)にされたからって何だ、俺たちと同じ"人間"なんだよ。お前が死んだら、俺たちが悲しいんだよ!」

「結城……」

「……確かに人間は、弱くてバカな生き物だよ。途中で道を間違えたり、大事なものを失うことだってある。お前だって、そんな思いを何度も味わった筈だ。だからお前はもっと、"背中を預けられる誰かを頼れ"。辛いことや悲しいこと、全部話せ!俺や瑠里ちゃん、みんなが聞いてやる」

 結城は言葉を続ける。

「……だけど、状況が状況だ。ああしないと生き延びられないこと位、俺だって分かる。けどな、"死ぬ"為に行くな……"生きて帰る"為に行って来い。店は俺が直して、いつでも待ってやる」

「……ありがとう、結城。俺の為に……!」

 真は泣きかける。真がこの感情になったのは、父の大門や恋人の愛以来であった。このやり取りを見た瑠里は、2人の友情を感じた。

『いいや、俺が苦しみから解放してやる』

 突然黒スーツの男の声が聞こえ、新は無理矢理目覚める。同時に男が変貌した怪物が、量産型改造兵士と共に瞬間移動で現れる。

「危ない!」

 怪物が出す黴により、下水道が死の暗闇に包まれていく。"第3の眼"を開いた新は真たち3人の前に立ち、すぐさま緑色のバリアを展開する。

『あれほど力を使ったにも関わらず抵抗するか。だが所詮は子供、どこまで持つかな』

 怪物は不敵な笑みを浮かべた後、"第3の眼"を赤黒く光らせ量産型を差し向ける。量産型はバリアに目掛け飛び掛かり、失敗しても起き上がってバリアを殴打する。新は徐々に疲弊し、片膝がつく。

「新⁉︎」

「……大丈夫。僕が持ち堪えなきゃ……!」

 一方、密輸船。下水道で騒ぎが起こっているのに気づいた吾郎と裕美は外に出る。

(セーラさん、早く戻ってきて……このままじゃみんながやられる!)

 2人は怪物達に気づかれないように身を隠し、吾郎は心の中で彼女に訴える。

「……ダメ……そろそろ、げん……か……」

(貴方、それでも真の息子?ガッツは親父の方が上のようね)

 真と新のテレパシーでセーラの声が聞こえる。

(グラスホッパーは奪還したわ。急いでここに戻して!)

「……分かった!」

 真と新は互いに目を合わせて頷き、真は新の肩に両手をのせる。新は右手を左手とは別方向にかざし、"第3の眼"を光らせる。

『無駄だ、貴様達の敗北は既に決まって__⁉︎』

 怪物が喋っている最中、量産型改造兵士の身体が2・3発の弾丸を喰らって黴ごと焼き尽くされる。動揺する怪物に目掛け、左手に拳銃を手にしたセーラが乗ったグラスホッパーが猛スピードで突っ込み、新達から引き離す。怪物の胴体にはグラスホッパーのライトがめり込み、ライトに収縮される空気中の光の粒子や熱によって下水道内や周囲に充満された黴は全て焼き尽くされる。さらに怪物はその吸引で、瞬間移動どころか身動きが一切取れずにいた。

『これ以上、好きにはさせない!Fire!』

 セーラは柵の出口まで出た後、車体の向きを密輸船とは別方向に向け停車する。セーラはすぐさま車体を固定し、車体にせり出したトリガーを引く。周囲は青白い閃光と爆風に包まれ、真達は思わず目を隠す。ゼロ距離で喰らった怪物は、周囲の建物ごと跡形も無く消滅した。

「やったぁ!」

 瑠里は喜びの声を上げる。だがセーラがグラスアクセラーを引き抜くと同時に顔が青ざめ崩れ落ち、グラスホッパーにもたれかかる様子を見て動揺する。

「セーラ⁉︎」

 真はセーラに呼びかけ、その場にいる全員がセーラの元に駆け寄る。

「⁉︎」

 真は驚愕する。セーラの右上半身と顔の右半分が、腫瘍のようなものに侵食されていた。皮膚は赤黒く(ただ)れ、赤と黒の血管がハッキリと見えている。浮き出た血管は脈を打ち、左手の爪や口腔の歯は鋭く尖っていた。

「何故……こんなになるまで……⁉︎」

『…… 何言ってるかしら。時には、すべてに勝る大事なことだってあるのよ』

 痰が絡んだような声で話すセーラ見た真は思わず声が出て、瑠里は絶句する。

「……僕が助ける直前、ケガした左手の傷にあの粘菌が入ってしまった。でも、怪物化が大分進んでいたから応急処置しかできなかった。僕が認識できる場所なら怪物化を抑え込めるように……」

 新が深刻な表情で話す中、3人はセーラに寄る。

「悪かったよ、"人殺し"とか言って……君は俺たちを救ったんだ」

『……気が変わるのが早いわ。私は人を殺し続けた……そのツケが来たのよ』

 結城の謝罪を聞いたセーラは、両目を開いて嫌味を返す。

『……それに真、最初に貴方に助けて貰ったこと覚えてる?』

「あぁ。初めて改造兵士(バケモノ)になった時だろ、忘れられないよ」

 真は5年前、初めて"怒りの蟲"になった日を思い出す。業火に焼かれながらトラックのコンテナから現れる鬼塚の呼応反応に誘導され、徐々に人間でなくなっていく恐怖。そして姿形が人間でなくても自らの意志でセーラを救った日。

『……あの後、私は大統領に捕獲を提案した。けど抹殺の指示は変わらず、最精鋭のチーム全員を犠牲を出した。責任を取らされる形で、事件の揉み消しや改造兵士の始末を任せられた。その過程で人の闇を見てきたわ……こんな奴等の為の"世界平和"なんて、ただの幻でしかない……私は周囲を顧みず、淡々と"処理"するようになった』

 真はセーラを抱き、怪物化した左手を握る。同時に自分の腕の中で引き取る愛を思い出し、真は悲しみの気持ちが込み上がる。

『だから真、せめて最後ぐらいは……』

 セーラは首に巻きつけている真紅のスカーフを外し、グラスアクセラーと共に真の前に出す。

「セーラ、ネルトリンゲンには俺が行く。たとえデストレイを使うしかなくても、俺自身を葬ることになっても……俺が行く。この世界を……みんなを守ってみせる!」

『……そう、なら持って行きなさい。貴方には、その義務がある__!』

 真は固く決意すると同時に、スカーフとグラスアクセラーを手にして受け取る。それを見たセーラは安堵の表情を浮かべ立ち上がり、防弾チョッキやロケットランチャーを初めとした装備品1式を置き、吾郎から託された拳銃を持つ。

「……これからどうするの?」

『"財団"の工場を破壊する、もう改造兵士を1体も生み出さないように』

「アンタ……そこまでして、なんで⁉︎」

『……愛する人ができたら分かるわ』

 微笑みながら返答を返したセーラに、瑠里は困惑する。

「……セーラさん、今までありがとう」

 新は、セーラを瞬間移動させる。

 

1998年1月4日 午前3時35分 日本 北海道 稚内市 宗谷岬 ISSオホーツク工場

 機関室。剥き出しになった天井や壁に雪が降り注ぐ最中、セーラが現れる。セーラの怪物化はさらに進み、激痛と疲労で最早走ることすら出来ずにいる。さらに、怪物の黴を間近で吸い込んだため内臓はボロボロであった。

 だが、セーラは力強い足取りで一歩ずつ進む。彼女に思いを託した者の為に、彼女が思いを託した者の為に。僅かな時間でも過ごした男たちへの愛が(かて)となり、動力設備に辿り着く。

『……Goodbye(さようなら), Shin().』

 セーラは呟き、残り1発の拳銃の撃鉄を引く。動力設備の脆い部分に着弾した弾丸は爆発し、火花や閃光が起きる。動力設備は破壊し尽くされ、その爆発で生じた業火がセーラを徹底的に焼き尽くす。

『……カルロス⁉︎』

 その刹那、セーラの目の前にカルロスが立っていた。彼らは互いに手を伸ばして繋ぎ、満身の笑みを浮かべ前に進み、光り輝く世界に包まれる。

『これからはずっと一緒よ、カルロス__!』

 機関室は轟音と大爆発を起こし、その爆炎は工場一帯全ての建屋を焼き尽くす。残った全ての改造兵士達や血液パックを含め、そこにあるもの全てを塵と灰に還す。

 

1998年1月4日 午前3時35分 日本 東京都 ISS生化学研究所跡近辺の湾岸

「……もう行くの?」

 瑠里の問いに真は頷く。

「瑠里ちゃん、みんな。俺は行くよ。死んでいった愛や父さん、セーラの為にも、野木(アイツ)を止める」

 瑠里は、先ほどのセーラの最期の戦いを思い出す。

「……そうね、分かってる。行ってらっしゃい、真」

「ありがとう、瑠里ちゃん。そして、みんな……!」

 瑠里達が見守る中、真は激痛や発作に堪えながら"怒りの蟲"に変身し、グラスホッパーにグラスアクセラーを刺す。液晶画面のモニターが点灯し、真はグラスホッパーが起動したことを確認する。コードの羅列に人型のマークのあるコード"1997"があることに気づいた真はそのコードの数字に従ってテンキー入力し、最後に『Enter』キーを入れる。

 するとグラスホッパーの車体全体からロックが外れる音が聞こえ、開いたシートにはインナースーツが入っている。モニターにはグラスホッパーの外装やインナースーツ、デストレイをどのように取り付けるかが表示される。

 真は画面に従ってインナースーツを着用する。次に取り外したグラスホッパーの外装を外部装甲として取り付ける、グラスホッパーのヘッドの外装を仮面に変形して被る。そしてセーラのスカーフを首に巻き、動力部に内蔵されたバックル・"デストレイ・コア"を取り出す。バックルを(へそ)の位置に当て、バックルの両端からベルトが自動で伸びて装着される。

「__⁉︎」

「真⁉︎」

 瑠里は真の元に駆け寄る。臍から流れるあまりにも強力なエネルギーの奔流で真は一瞬意識が飛び、外装が無いグラスホッパーに寄りかかる。それは、乳白色をしており、バッタの面影がある外装を取り付けていた時と全く印象が異なっていた。

「____ッ!!」

 クラッシャー(口部外装)を開いて雄叫びを上げて立ち上がった真はグラスホッパーに跨り、沖合を500m以上爆走して飛び立つ。半分血が繋がった異父兄弟にして人類を滅ぼそうとする戦神・野木健一を倒し、世界の平和を取り戻すために。

 

 

1998年1月3日 午後8時半 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会跡

 ドイツ・ネルトリンゲン。1500万年前にシュヴァーベンジュラ山脈に隕石が落下したネルトリンガー・リースに位置した、実在する大規模郡都市である。クレーターの上に建てられた都市全体が市壁に囲まれたことから、「壁に囲まれた街」と呼ばれている。

 また街には石畳の街路に色とりどりの木組みのゴシック様式の家々、高くそびえる街のシンボルである聖ゲオルク教会の塔"ダニエル"……(など)ある。

 まるで中世ヨーロッパにいるような感覚を味わえることから、「ロマンチック街道」の重要な観光地として多くの観光客から親しまれている。

 

 だが、今のネルトリンゲンは以前までの華やかさが無かった。分厚い雲と未だ降り注ぐ雪に閉ざされ、消えることがない焔に包まれた"地獄"と化していた。教会は米政府によって破壊し尽くされ、今は瓦礫と地下洞窟に繋がる洞穴しか残されていなかった。

 市壁に囲まれた街も航空部隊の攻撃の余波で半壊され、降り注ぐ雪に覆われていた。街に住む人々も量産型改造兵士に変貌するか、彼等に喰い殺されるか、いずれかの運命を辿っていた。

 

 地下洞窟。その最奥には沙月の死骸と、その横に座る野木の姿があった。米政府の航空部隊の攻撃によって通路が塞がれていたものの、瞬間移動できる野木にとって大した障害にならなかった。

 野木は腕と足を組みながら無表情で、沙月の死骸の隣にある巨大な石に座っていた。その石は平べったくあり、何か金属の板(手術台)がひしゃげたような形をしていた。

「__来たか」

 野木は不敵な笑みを浮かべる。

 

 市内を徘徊していた量産型改造兵士達が、一斉に見上げ構える。自分の近くにいる天敵の捕食者に対し、威嚇して追い返そうと試みる被食者のように。そして、分厚い雲を突き破りながら鋼鉄の塊が現れる。塊は衝撃波に包まれた状態で落下し、500m以上進んで停止する。塊は衝撃波と猛スピードで、立ち塞がった彼等を肉片へ変えていく。停止した塊の場所には、外装を取り付けた真の姿があった。

 

 グラスホッパーから静かに降りた真は、改造兵士達を睨みつける。改造兵士達と真は互いに走り出し、互いに跳び掛かって攻撃態勢に入る。しかし、真の方が攻撃速度が数秒も早かった。真は襲い来る改造兵士の1匹を殴り飛ばす。改造兵士は殴られた場所からプラズマ化が進み、全身が赤熱化する。爆発寸前の改造兵士は他の改造兵士達が固まっている場所に叩きつけられ、その爆発が改造兵士達を巻き込み焼き尽くす。

(この力……俺が"デストレイ"になったようだ……!)

 真は改めてその力を恐ろしく感じる。着地と同時に臍から力が流れ込み、眉間や顳顬の頭痛と心臓への発作が起こる。真が頭部と胸を抱え苦しむ最中、脳裏から記憶が次々と抜けていく。今の真は、大切な人達の名前と姿の記憶を持ち続けることで精一杯だった。

「__ッ⁉︎」

 真は気配を感じ、彼のテレパシーを感知した"デストレイ・コア"を通してグラスホッパーを呼び寄せる。グラスホッパーはヘッドライトを輝かせ、改造兵士達を轢きながら真の元まで爆走する。グラスホッパーが手元に来た真はハンドルを握り、車体を抱える。グラスホッパーはテンキー入力無しでデストレイのライトをせり出す。真は振り向くと同時に、そこにいた"戦神"の姿の野木や改造兵士達にデストレイの超衝撃波を放つ。

 野木は紫色のオーラを張って防ごうとする。だが瞬時に打ち消され、改造兵士達共々に跡形も無く消滅する。それを見届けた真だが、気配を感じて後ろを振り向く。そこには先程消滅させた筈の野木と、際限なく飛来する改造兵士達の姿があった。

(__母さん⁉︎)

 真は、彼等の背後にある洞穴から亡き母の気配を感じる。そこは聖ゲオルク教会後の地下洞窟へと繋がる道であった。

(__愛、父さん……そして母さん、教えてくれ。こんな戦い、いつ終わるんだ。あと、どれだけ殺せばいいんだ。俺は……俺は__!)

 真は心で"人"としての心情を呟きながら、母がいる洞穴へと進むため改造兵士達に立ち向かっていく。その身体は真紅に輝き、今にも爆発しそうになる程に高熱に帯びていた。

 

1998年1月4日 午前5時半 日本 東京都 ISS生化学研究所跡近辺の湾岸

 真がドイツ・ネルトリンゲンへと飛び立つのを見届けた瑠里達は、密輸船にある物資を確認していた。そこには武器の他に非常食や様々な症状に対する薬などがあった。その最中、薬を飲んで眠っている新を瑠里が介抱していた。

「……うぅ」

「新、起きて大丈夫なの?」

 新は頷く。

「みんなが探してくれた薬で、大分良くなった」

 瑠里は、新の額を触る。

「ウソ⁉︎もう熱が下がってる」

「多分、治りが早いんだよ。それに……」

「?」

 新は笑顔で言葉を続ける。

「僕は"お母さん"と会ったことが無い。瑠里さんがそばにいてくれたから、初めて母親を感じられた。多分、それで早く治ったと思う」

「私、特に何もしてないんだけど……」

 瑠里は恥ずかしがる様子から深刻な表情に変わる。

「……それに、オジさんや裕美みたく何かが得意という訳じゃない。むしろ足手まといになってるかもしれない……私にできることって、あるかな……」

「そんなことない。僕も、父さんもそばにいてくれるだけで力を貰えてる」

「え?」

「吾郎くんがそうだよ、父親を"財団"に殺された。でも吾郎くんの父さんは死ぬ前、父さんに吾郎くんを託した。僕は、父さんがまた人間達に裏切られて傷つくんじゃないかと思ってすぐ離れるよう勧めた。けど父さんはどうしたか、瑠里さんなら分かるよね?」

「吾郎くんを最後まで見捨てずに戦ったんでしょ?」

「うん、父さんは吾郎くんを守る為に戦った。そして吾郎くんも、僕と父さんを助けてくれた」

 新と瑠里は、結城達と一緒に笑顔になっている吾郎を見る。

「……それに、父さんと仲良くなってから吾郎くんは明るくなった。それまではずっと部屋に引き篭もって誰とも話そうとしなかったんだよ」

 吾郎のこれまでの明るい振る舞いしか知らなかった瑠里は、思わず驚く。吾郎も瑠里と同じく家族を"財団"に殺されたが、真と出会えたことで大分変わった。瑠里は、自分が吾郎と同じ側の人間であったことに気づく。

「弱かったり迷ってもいい。でも、最後は自分の力で"許せないもの"、"やること"に立ち向かわなければならない。そうすれば、瑠里さんも"強さ"や"やりたいこと"に気付ける。僕はそう思う」

「私の"強さ"、"やりたいこと"……」

 瑠里は真との出来事を思い出す。初めてゴミ捨て場で会って匿ったこと、自分を救った怪物の姿の真を拒絶してしまったこと、結城サイクルショップでの日々、そしてイブの日のデート__たった数ヶ月の出来事だが、瑠里にとって大事な記憶であった。

「私、分かった。何をやりたいか__!」

 瑠里は、セーラが遺して新が除菌したロケットランチャーと防弾チョッキを手に取った。

 

「あー、疲れた!」

 結城達は密輸船内にあった物資を全て開封し、物資ごとに大まかに分け終わった。結城が床に寝転がろうとしたとき、彼の元に瑠里と新が来る。

「瑠里ちゃん⁉︎」

 結城が驚くのは無理が無かった。目の前にいる瑠里は、セーラの防弾チョッキやコマンド部隊の服を着用しロケットランチャーを背負っていたからである。

「オジさんごめんなさい……私、真を助けに行く」

「……瑠里ちゃん、気持ちは分かるけど真は……!」

「真が私達を巻き込ませたくない位、分かってる。でも真は、たった1人で戦ってる……だったら私は、真の側で支えたい!」

 瑠里は言葉を続ける。

「たとえ私のワガママでも、真にお節介と思われても、行きたい……もう誰かが死ぬのはイヤなの!」

 必死に訴える瑠里の姿を見た結城は悩み苦しむ。

「大丈夫ですよ、瑠里さんには優秀なボディーガードがいますし」

「吾郎くん……」

 結城は瑠里の隣にいる新を見つめ、新は頷く。

「ここは僕たちに任せて下さい、結城さん達の分まで頑張ってきます」

 瑠里と新の決意を見て、結城はしばらく考え込む。

「……分かった。ただし、危なくなったら必ずここに戻ってきなさい」

 瑠里と新は、結城から許可を貰えて嬉しそうにはしゃぐ。

「ありがとう、オジさん!」

 瑠里は感謝の言葉を述べ、結城は頷く。

「……じゃあ、行ってきます」

 瑠里は挨拶をした後、新と共にドイツ・ネルトリンゲンへ瞬間移動する。

「瑠里ちゃん、見ない間に立派になったなぁ……」

 結城は呟く。

「あなたが瑠里の、そして風祭さん居場所になってくれたからですよ、結城さん」

「そうかなぁ……俺、大したことをした覚えがないんだけどなぁ」

 裕美の言葉に、結城は思わず照れ笑いする。

「……瑠里ちゃん、新くん。生きて帰って来いよ」

 結城は空を見上げ呟く。それは雲一つない、星々が輝く夜空であった。

 

1998年1月3日 午後9時半 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会跡

 ネルトリンゲンに着いた新たちは、瓦礫に身を潜め周囲を見渡していた。

「あれってまさか……⁉︎」

 瑠里は、空から次々と飛来する改造兵士達がある1箇所に集まるのを目にして呟く。2人が見たその場所は爆発と轟音が絶え間なく続き、成層圏を超える程まで放たれた柱状の超衝撃波が彼等を薙ぎ払っていた。

「間違いない、あそこで戦っている」

「えぇ、彼はどこに……」

 新は眉間から"第3の眼"を開き、野木がいる場所を探し当てようとする。

「あそこです」

 新が指す方向を瑠里は見る。そこは改造兵士達の真後ろにある、教会跡の洞穴(ほらあな)であった。

「気をつけて。父さんと戦ってるけど、鉢合わせしないとは限らない」

「そのためのボディーガードでしょ?」

 瑠里は背中のロケットランチャーを見せ、新は苦笑する。

「ほら、ボサっとしないで行くよ」

「え、ちょっと待って……!」

 先に出た瑠里を見て、新は慌てて追いかける。瑠里たちは一面真っ白な死の荒野を進み、洞穴がある場所に辿り着く。

「危ない!」

 新は慌てて緑色の光のバリアを張り、自分達のところまで吹き飛んで爆発した肉片から瑠里を守る。

「……野木⁉︎」

「いや、見て」

 瑠里たちの目の前には、左胸を貫かれ炎上している"戦神"の野木があった。だがその10数秒後、野木の死体は紫色の光の粒子となって霧散した。

「本物じゃない……」

 瑠里は呟いた後、新がいる右横を振り向く。そこにいた新は、ひどく狼狽していた。

「……彼は最初からこれを狙ってたんだ、だからグラスホッパーの在処(ありか)を……!」

「……新?」

「急ぎましょう、時間はありません。一刻も早く倒さないと、もっと大変なことになる!」

 瑠里たちは急いで洞穴に入る。洞穴の中は焦げ臭く、足音は反響する。しばらく進むと、通路が瓦礫に塞がれていることに気づく。

「行き止まりだ。僕に……」

「待って、新は脆そうな所を見つけて」

 瑠里はロケットランチャーを新に見せながら提案する。

「分かりました」

 新は第3の眼で瓦礫が一番脆い場所を探し出す。

「そこです!」

 瑠里は、新が指定した場所にロケットランチャーの弾頭を1発放つ。瓦礫と衝突した弾頭は爆発する直前、新はバリアで爆風を防ぐ。

「よし、進むよ!」

 2人はその先を進み、最奥部に辿り着く。

「……何よこれ……」

 暗闇の洞窟となったかつての研究施設は、瑠里たちにとって"地獄"としか例えようがなかった。空間全体に漂う悪臭を嗅いだ瑠里は、思わず鼻を摘んで咳き込む。

「あれ、まさか……」

 新は向こう側の突き当たりの岩盤に指差し、瑠里に呼びかける。そこには沙月の死骸があった。

「真の"お母さん"……⁉︎」

 瑠里と新は絶句しているとき、足元から突然爆発が起こり、2人は後ずさる。

「いけないなァ、ノックせず入るなんて」

 2人の眼前に、拳銃の銃口を向けている野木が佇んでいた。

「アンタだってやってるじゃない!」

「あぁ、さっき無断で入った事は詫びるよ」

 瑠里の啖呵に野木は冷静に返す。

「紹介するよ、僕と兄さんの母さんだ」

 野木は沙月の亡骸を瑠里たちに紹介する。

「見てくれ、母さん。兄さんの息子やバイトの後輩は、俺を倒すために来たんだ。その度胸を、大統領や社員達にも見せてやりたいよ」

 野木は、沙月の方を見て語りかける。

「野木さん……いや、叔父さん。あなたは強くて賢い。そんなあなたが何故、ここまで人間を憎むんですか?」

 新は野木に尋ねる。

「まだ聞くか、興味本位や一時の感情でその身を委ねたり、他人を傷つける。そんな奴等、滅ぼして何が悪い?」

 野木は更に言葉を続ける。

「それに、"叔父さん"はショックだなぁ。もう中年扱いかよ。この姿(コーデ)、結構気に入ってたんだけど」

 野木は残念そうな表情をする。

「ま。2人仲良く来てくれたし、ケリをつけるか」

 野木は話しながら両腕の拳を合わせるように胸の前で組み、両腕を大きく回して左手を真の前に出す。

「変身」

 野木は指を鳴らすと同時に眉間から"第3の眼"が開き、彼の周囲に光の奔流(ほんりゅう)と稲妻が(ほとばし)り、"戦神"の姿となる。

『試させて貰うよ、君の力』

 野木は手をかざし、紫色のオーラ(超衝撃波)を瑠里たちに放つ。

「仕方ない……ここであなたを倒す!」

 新は負けじと"第3の眼"を輝かせ、バリアを展開する。

「ハアァッ!」

 新は両手を野木に向け、気合いと共に力を込める。新はバリアで野木のオーラを押し返し、それらを野木にぶつける。野木がいた場所は爆発を起こし、塵一つ残さず消滅する。

「やった⁉︎」

 瑠里は思わず声を出す。

『確かに君は強い。だが、それだけだ』

「何⁉︎」

 新たちは周囲を見渡す。新が気づく頃には遅かった。瑠里の背後に野木が立っていた。

「危ない!」

「__え?」

 野木は拳銃の銃底から刃を作り出し、銃身を持ち手にした手斧とした拳銃で瑠里に切り掛かる。その直前、新は瑠里と位置を入れ替える。入れ替わった新はその刃を喰らい、傷口から噴水の如く出血する。

「新⁉︎」

 新は吐血し、仰向けで倒れる。

『悪いが、コレが"現実"だ。闇雲に力を振るうのは、三流がやることなんだよ』

 野木は新の胸を踏みつける。新は鈍い音と共に肋骨を2、3本折られ、呻き声をあげる。野木は新の眉間に拳銃の銃口を向け、指を撃鉄にかける。

『話が分かると思ったが残念だ。母さんには悪いが、ここで死んで貰う』

(ダメだ……野木(コイツ)、強すぎる……)

 野木と新との実力差を目の当たりにした瑠里は愕然とする。

(でも、ここで死にたくない。それに……これ以上、誰かが死ぬのは見たくない!)

 バァン!

 野木の右腕に1発の弾丸が撃ち込まれる。

『?』

 野木は、傷口から赤い血が滴るのを確認する。銃声がした方に振り向くと、自分に銃口を向けた瑠里がいた。

「……今度は私が相手よ、来なさい!」

『見直したよ。でも、足元が震えてるじゃないか』

 野木は喋りながら紫色のオーラを纏った左手を右肩に当て、埋め込まれた弾丸を引き抜く。

「黙って!」

 瑠里は拳銃を2、3発撃ち込むが、亜空間バリアを張った野木には通じない。瑠里はロケットランチャーを構え、弾頭を発射する。だが弾頭の爆発生じた熱をバリアが吸収し、野木の右肩の傷を塞ぐ。

「⁉︎」

『また一つ覚えの攻撃か、今度はこっちから行くぞ』

 野木は手をかざし、紫色のオーラが洞窟内に広がる。オーラに包まれた瑠里は身動きが取れなくなり、ロケットランチャーをその場に落とす。野木は瑠里を引き寄せ、彼女の顎を右手で軽く持ち上げる。それでも瑠里は恐怖に怯えながらも、必死に抵抗しようとする。

『良い面構えだ、今までで一番"戦士"の顔をしてる』

 野木は、右人差し指の爪で瑠里の頬を撫でるように擦り傷をつける。さらに野木はオーラを解き、その場で座り込んで咳き込む瑠里の前に拳銃を投げ捨てる。

『最期のチャンスだ。人のままでいるか、人を辞めるか……君の覚悟、見せて貰おうか』

「ダメだ瑠里さん!父さんも、みんなも……それを望んでいない!」

 より強く踏み付けられた新は呻き声を上げる。

「新⁉︎」

 瑠里は両掌についた泥を見つめる。コレを塗れば、怪物の力で野木に一糸を報いられるかもしれない。だが瑠里の脳裏に、半分以上怪物化したセーラの姿が過ぎる。だが、瑠里は頬の傷に泥を塗ろうとする。

(真、オジさん、裕美、みんな、ごめんなさい。私、やっと真の気持ちが分かった。真は……自分じゃない怪物(バケモノ)になってしまうことより、大切な人たち(私たち)が死ぬ方が怖かったんだ。そうだ、だから真は命懸けで戦ったんだ__!)

 そのとき通路から爆炎が迫り、洞窟内は炎に包まれる。瑠里は手を止め、通路の先を見つめる。野木は沙月とシドンを守るため周囲の炎を紫色のオーラを放ち鎮火する。業火に包まれた洞窟内の様相は、地獄絵図そのものであった。

『やぁ兄さん、来るのが早かったじゃないか……って、もう口が利けないか』

 炎に包まれた通路から真は姿を現す。その外装は真紅に輝いており、デストレイ・コアにできた亀裂から蒸気を放っている。踏みしめた足元や足跡は溶けながら燃え上がる。奇声と共に洞窟内から現れた最後の改造兵士を、真は振り向きざま殴り飛ばす。改造兵士は洞窟の内壁に叩きつけられ爆破四散し、真は野木に振り向き直し睨む。

(お前を殺す!)

 野木はテレパシー越しで真の声を聞き、野木は笑い出す。

「何がおかしいの⁉︎」

『先生の手記にもあった筈だ。改造兵士は施術してから、人間だった頃の記憶を不必要な要素として徐々に失っていく。さらにデストレイをつけて暴れたことで、それが急激に摩耗(まもう)した。俺達の前にいるのは、もう"風祭真(兄さん)"じゃない。核爆弾と闘争本能で出来た、"最強最悪の改造兵士(ケダモノ)"なんだよ』

「そんな……⁉︎」

 瑠里は愕然とし、両膝をつく。

『だが、それはどうでもいい。ここでケリをつける』

 野木は胸の羽根を1枚取り、ナイフのような形に変えて構える。飛び掛かりながら殴りかかる真のデストレイ・コアに目掛け、野木の羽根が一閃する。野木の右肩と右翼の肉が焦げた一方、真のデストレイ・コアには野木の羽根が深々と刺さっていた。羽根の隙間から大量の蒸気と火花が噴水のように吹き出し、伝わる熱が一気に冷め、外装やインナースーツの各部に亀裂が生じる。命の源が絶たれた真はそのままの姿勢で佇む。そして野木は真を蹴り飛ばし、真の身体は瑠里の目の前に叩きつけられる。

「真⁉︎」

 瑠里の呼びかけに応じたのか、真の指先が微かに動き立ち上がる。

『……そういえば5千年位、半減期を迎えるまで動くんだっけ。貞衛さんも厄介な土産を残してくれたよ』

 動き出す真に対し、野木はガトリングガンを作り出して彼に掃射する。

「やめて!これ以上、真を傷つけないで!」

 瑠里の叫びも虚しく、ロケットランチャーの弾頭並みの威力を持つ弾丸の雨が真を襲う。真の外装は爆発を起こし、飴細工のようにひしゃげ溶け出す。野木は掃射を止め、ガトリングガンを紫色のオーラに帯びた金属の塊に変形する。

これで終わりだ(チェックメイト)

 野木は真に目掛けて蹴り込む。球体は真の外装に当たり、火花と閃光を起こす。真の近くにいた瑠里は、それに飲まれていく。

 

 

 

「……ここはどこ?」

 何も見えない。身体は動けず、真を呼ぶ声も出ない。光が届かない闇の中、心も身体もひどく沈んでいく。何もかも無くなった後のように、ゆっくりと。

『やっと頭を冷やせたか』

 憎たらしいアイツの声が聞こえてくる。

『顔を知らない大勢の為に戦う……紛れもなく"善"と呼べるものだ。だが、君や兄さんがやって何になった?ロクな見返りなんて無い上、嘆きと残滓(ざんし)しか残らなかったろ』

 アイツは言葉を続ける。

『分かりやすく話すか。君は平均的な能力しか持たない(ノーマルな)民間人(モブキャラ)だ。そんな君は、家族を"財団"に殺されたことで戦いに巻き込まれた。そのくせ、周囲の目を気にして出来ない事をやろうとするし、家族の仇だと憎み続けた改造兵士(バケモノ)が兄さんだと知った途端に悩む。道理や理屈が全く伴ってない、矛盾してるんだよ』

 アイツの言ってることは本当だ、私以上に私を理解し(分かって)ている。

『結局、俺を倒した所で今の形式(フォーマット)である限り人間は救われない。物質である以上、資源は枯渇する。繁栄する限り、滅亡は起こる。

 それに、旧人類の他にも人間性を失わなかった改造兵士もいる。何なら、生きた核爆弾と化した兄さんが死ぬまで奔走し続けるだろう。

 だから俺は、停滞した生態系をリセットし、地球(この星)を救う。いい加減、現実を理解しろ』

 私は立ち上がれない、それは人間として当たり前の絶望であった。アイツの行いは許せない__でも人間同士の差別や戦争は無くならない。むしろもっと酷いことになる。何をしても無駄なの?私は、真は、今まで何のために戦って__⁉︎

 

「でも、まだ諦めたくないんでしょ?」

 突然、瑠里の目の前に1人の女性が現れる。その女性は20代後半で、白衣を着用していた。

「……誰?」

「私は風祭沙月。真と、あなた達が"野木健一"と呼んでいる彼の母よ」

 沙月は優しい口調で瑠里に自己紹介する。

「ごめんね、最後まで付き合わせちゃって。別の場所に行こっか」

 沙月がそう言うと、辺り一面を覆う闇とは別の場所に変わる。

「ここって……⁉︎」

 そこは、瑠里が毎日高校に通うときに通っている通学路の歩道であった。交差点の信号が青になり、沙月は瑠里と一緒に渡る。

「沙月さん……これからどこへ?」

「あなたと私が今、会いたい人の所」

 沙月と瑠里はしばらく歩く。

「着いたわ」

 そこは、瑠里が真と初めて出会った路地裏のゴミ捨て場であった。瑠里はゴミ袋からの悪臭に耐えながら進み、奥にある物置倉庫に辿り着く。倉庫の固い扉をこじ開ける。

「真、起きて!ったくもー、おーきーなーさーい!」

 瑠里は真の頬を叩きながら、彼を起こす。

「__瑠里ちゃん?」

 真は目を覚まし起き上がる。

「いつまで寝ぼけてるの⁉︎私やあの人に感謝しなさい!」

「あの人……?」

 真は、瑠里が振り向いた方向に視線を向ける。目の前にいる沙月が、自分の母であることに気づく。写真でしか記憶に無い筈なのに、直感で分かった。

「__母さん!」

「真、ごめんなさい。私があの研究に参加しなければ、あなたや大門さんを苦しませずに済んだのに……」

 沙月は真に申し訳なく詫びる。

「いいんだ、過ぎたことはしょうがない」

 真は、花びらが咲いたジャガイモの鉢植えを沙月が抱えているのを見る。

「それは?」

「元々の持ち主が亡くなったから、あの子がくれたの。"シドン"っていうらしいわ」

「アイツが?」

 沙月は真の問いに頷く。

「お願い、真、瑠里ちゃん。あの子を救って」

「母さん……」

「あの子は人間以上に豊かなや感受性を持っているの……背景や外見を見ただけで全部を見抜くほどに」

「そして、母さんが持っていた憎しみや怒りが野木(アイツ)に乗り移り、人間を憎むようになった……」

 真の呟きに対し、沙月は頷く。

「あの子は、何度も取り返しがつかないことをしてしまった。今まで注意できなかった私の我儘(ワガママ)なのは分かってる……それでも私の子供なの、放っておけない」

「そんなことは無い。親が子供を思う、人は悪と戦う。当たり前のことじゃないか」

「……そうね、ありがとう」

「それに、アイツも"財団"と戦ってたんだ。母さんを守りながら、たった1人で……でも、そのために多くの人達を犠牲にするのは間違ってる」

「……真」

 瑠里は呟く。

「母さん、ようやく分かったよ。俺はアイツを止める。そして2度と、俺たちのような人たちを作らないために戦い続ける。だからごめん……今はまだ、ここにいられない」

「__そう、また会うのは先になるね」

 真は頷き、瑠里と共に踵を返し去ろうとする。

「待って!」

 女性は真を呼び止める。

「私、死ぬ前にあの子の名前を考えたの」

 女性は、それを真と瑠里に教える。

「__あぁ、伝えとく」

 真は振り向き直し、歩き出す。

「真……手を繋いで、いい?」

「あぁ」

 真と瑠里は歩きながら手を繋ぐ。

 

 それが、ある女性の真相だった。肉体は改造兵士の部品として消費された。けれどその魂は、息子の1人の魂を繋ぎ止めていた。罪滅ぼしではなく、人として当たり前のことを行った。

 私は、沙月さんやみんなへの感謝と共に未来の夢を考える。真のことを本にしたい。オジさんの店を手伝いたい。大切な人と一緒に家庭を持てたら最高だ。こうだったらいいな、こうしたかったな。もっとみんなと思い出を作りたいな__!

 そう繰り返し、深呼吸をする。

 

「__よーし。行っくぞー、真!」

「あぁ!」

 

 地平線から発する光が、徐々に私たちを包んでいく。私たちは、見上げた先へと歩き出す。自分を()くさないから、どこまでも行ける。

 どんな運命が待っていたとしても、生まれたことを悔やみたくない。悲しみの中にある勇気で、輝き掴むと信じているから__!

 

 

 

1998年1月3日 午後9時45分 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会跡 地下洞窟

「父さん……瑠里さん……」

 燃え上がる爆炎を見つめ、新は意気消沈する。爆炎は徐々に収まり、野木は真の亡骸が残っているか見る。だが、その跡には溶融したグラスホッパーの外装しか無く、瑠里も無事であった。

『……何⁉︎』

 野木は周囲を見渡し、気配を感じ振り向く。黒い影は野木に目掛け飛び掛かり、野木は紫色のオーラで間一髪で防ぐ。影は着地すると同時に、野木の拳銃を拾う。さらに影は野木の死角から肉薄し、彼の鳩尾に銃口を突きつける。

「真!」

 野木たちが目にしたのは、死んだ筈の真であった。だが真の腹部にはデストレイ・コアが埋め込まれ、繋ぎ目から見える筋組織のようなものが脈を打っていた。

『ハハハハハッ!傑作だよ。デストレイを人工心臓(ペースメーカー)にするとか、どこまでイカれてるんだよ⁉︎』

(何とでも言え!俺は瑠里ちゃんや結城、みんながいる世界を守り続けたい……いや、守り続けてみせる!)

 真はテレパシーで野木に啖呵(たんか)を切り、撃鉄を引く。野木は吹っ飛ばされ、内壁に叩きつけられる。

『楽しませてくれるじゃない……だが終わりだ!』

 野木は狂気の笑みを浮かべ立ち上がり、右手で紫色のオーラの塊を作り出す。

(これ以上やらせない!)

 瑠里は急いでロケットランチャーを回収し構える。

「ファイヤー!」

 瑠里は、それに残された最後の1発を撃ち出す。

『__ッ⁉︎』

 野木はオーラの塊をバリアに変え防ぐ。周囲は黒煙に覆われ、野木の視界は塞がれる。煙が晴れ、野木はバリアを解除する。その瞬間、野木の視界に生前の沙月の姿が入る。

『__母さん?』

 野木は思わず呟く。沙月の姿は真に映り変わり、真は野木の右肩を左手で掴む。真は毛爪で野木の頸動脈と"第3の眼"を切り裂く。その衝撃で野木の身体は骨の髄まで焼き尽くされ、洞窟内は業火に包まれる。

 

 

 

「あーあ、負けちゃった……ってか、母さんを呼ぶのはどうなんだよ?反則でしょ」

「母さんは、最期まで俺達を心配してたんだ。でも……」

 光の奔流に包まれ、音が反響する空間。真と野木は、人間の姿で対話している。

「……こんな形でしか君を助けられなかった、すまない。もう少し早く、君を知ってれば……」

 野木は溜息をつく。

「相変わらずお人好しだなぁ。俺もアンタと同じく、やりたいからやったんだよ」

「……やりたいから?」

「あぁ、自己満足だよ。俺たちがいなくても、旧人類は資源の濫用や争いを止めない。俺はそんな腐り果てた世界をぶち壊したかった。アンタらはそれを否定したんだ、だから気にする必要なんて無い」

「でも……それじゃ悲しすぎる」

「そりゃどうも。だが、俺はそれが『悲しい』とは思ってない。何もかもが滅びても、生き続けるものがある。これを消す事は誰にもできない。それが何か、兄さんなら分かる筈だ」

「……人の"想い"」

「ああ、正解だよ。"財団(俺たち)"にはそれが無かった。だが世間は、それを"個人の考え"と捉えがちだ。上層部や大統領は勿論、ノイズ程度にしか思ってない。だが"想い"は受け継がれ、積み重なるもの。失われるものがあっても、"想い"はいつまでも続いていくんだ」

 真の脳裏に、大切な人達や彼等から託された"想い"が蘇る。新を護った愛、真を救おうと突き放した父・大門、グラスホッパーを奪還したセーラ、最後まで真と野木の味方であった母・沙月__!

「さて、一通り喋れた。俺は行くよ」

「もういいのか?」

 真は野木に尋ねる。

「どうせ戦い続けるんだろ?戦いから逃げ、世界中の人間を犠牲にしたツケを払うには丁度良いじゃん」

「大丈夫。瑠里ちゃん達が良い未来を作ってくれる、俺は信じてる」

「あっそ。なら、アンタがくたばる瞬間を気長に待ってやるよ」

 真と野木は、互いに立ち去ろうとする。その瞬間、真は沙月から頼まれたことを思い出す。

「……"ダニエル"!」

「?」

 野木は足を止め、真の方に振り向く。

「母さんが考えた、君の名前だ」

「……母さんが?」

 真は力強く頷く。

「"ダニエル"、か……いい名前だよ」

 野木は真に微笑を向け、散歩にでも行くような足取りで光の中へと消えていく。

 

 

 

1998年1月3日 午後9時50分 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会跡 地下洞窟

 業火に包まれた洞窟内は、次々と焼き尽くし岩盤を崩壊していく。地面や内壁全てに付着した老廃物や粘菌、そして沙月の亡骸__!

「ここから出るよ、新!」

 瑠里は新を背負い、炎があまり来ない場所へ退避する。

「瑠里さん……」

「いいから早く!」

 瑠里は今にも涙が溢れている表情で新に訴える。そのとき、瑠里たちの頭上に巨大な岩盤が落下する。新は最後の力を振り絞り、瑠里と共に密輸船へ瞬間移動する。同時に洞窟の天蓋が一気に崩壊し、教会跡は半径数百Mのクレーターと化した。

 

1998年1月4日 午前5時50分 日本 東京都 ISS生化学研究所跡近辺の湾岸

 密輸船。量産型の改造兵士達が互いに殺しあったためか、デッキにはそれらの死骸や血溜まりが散乱していた。

「……来た!」

「裕美ちゃん?」

「瑠里たちが帰ってきました!場所はデッキです」

「よし、行こう」

 船橋ブリッジに隠れていた結城たちは急いでデッキへ向かう。そこには、ネルトリンゲンから帰還した瑠里と新が降り立っていた。

「おーい、瑠里ちゃん!新くん!」

「あっ、結城さん!」

 結城たちは瑠里と新に駆け寄る。

「2人ともお疲れ……ところで真は?」

 結城はデッキの周囲を見渡す。

「……オジさん、ごめん。真は……真は……!」

「……⁉︎」

 結城たちは思わず動揺する。同時に瑠里は感情が爆発し、結城の胸の中で思いっきり泣く。

「風祭さんは死んだのでしょうか……」

「……もしそうなら、真を殺したのは俺たち人間だ。アイツは……傷ついた体で戦ってくれたんだ。あんないいヤツを、俺たちは……!」

 吾郎と結城がそれぞれ呟く。

「そんなことない……真は死んでない!」

「瑠里ちゃん?」

 結城は瑠里を見る。

「真はきっと生きてる、遠い国から見守ってくれてる。私たちが全力でやるべきことに取り組めば、きっと真は帰ってくるよ!」

 結城たちは力強く頷く。朝焼けの空には、数多の星々が輝いていた。

 

 

 

 

終章(エピローグ)

2005年3月30日 日本 東京都 文京区

 あれから7年経った。世界は国としての形を保つのがやっとな位、あの時の傷跡が今も残っている。世界の人口の1/3以上いる、人間性を保った改造兵士に対する問題とか。

 それでも私、水樹瑠里は"強く"生きている。桜並木が並ぶ雑踏の中を歩く途中、私の目の前を二人の小さな子供が駆け抜けていく。笑顔で走るその子達には、尻尾が生えていたわ。

 私は笑顔でその姿を見送り、再び進む。野木(アンタ)が思うほどヤワじゃないわ、ってね。

 

 新はドイツに留学中。看護婦として働いている裕美みたく、医師になるため勉強しているらしい。後、息抜きで始めたバイクにも興味を持ったみたい。

 ネルトリンゲンへ取材に行ったとき、新と一緒に"4人"の墓を作ったり、地域の人たちから教会に生えたジャガイモの種を貰ったのは良い思い出ね。

 

 オジさんは北海道の稚内で『結城サイクルショップ』を再開して、そこに住んでいる。"財団"の工場があった場所を買い取って店を建てたみたいで、畑の奥にはセーラの墓もある。

 盆や有休を使って行くときもあるけど、新から貰った種で店に畑を作ったときは驚いたわ。近くの病院や港で働いている裕美や吾郎にも手伝って貰ってるみたい。

 そう言えばイタリアから帰ってきた蘭香も彼氏ができて、店や畑を手伝いながら居候してるんだったっけ。

 

 そして私は、ルポライターとして生計を立てている。高卒でTBSの下請け会社に入って、ジャーナリストとしての下地を積んでたの。色々困難や偏見があったけど、何とか1人立ちして本を1冊出せた。それはベストセラーとなって家を買えたり、1歳上の彼氏もできた。そして__

 

「ママ、おかえりー!」

「お腹すいた〜」

「ただいま。(しん)真琴(まこと)

 自宅に着いた瑠里を、2人の小さな双子が迎える。1人は1対のインパラのような角が生えた男の子で、もう1人は女の子であった。瑠里はそれぞれに慎、真琴と呼び、リビングにあるテレビの電源を付ける。

『本日、チェチェン共和国で"謎の怪人が戦場から子供を救助した"という速報が入りました。現地の住民によりますと、怪人は砲弾から子供を抱えて離れた後にバイクで走り去ったそうです』

 瑠里たちはリビングのソファーに座り、テレビ画面を見る。

『それにしても、あの怪人は何者でしょうか。我々はベストセラーに登場したキャラクターにちなみ、親しみを込めて呼んでいます』

「あっ!」

 慎と真琴は、怪人の画像を見て目を輝かせる。瑠里は優しく頷く。

『__"仮面ライダー"と』

 

2005年3月31日 午前6時 シベリア

 雪雲に覆われた黒々とした群青の空、吹き荒れる暴風雪の中を疾り抜ける1台のカスタムバイクがあった。夜空の闇に包まれながらも純白さを保つ車体とは対照的に、それに跨っている人物は漆黒の影のようだった。

 その影は漆黒のアーマーに鮮緑のボディスーツを全身に纏い、真っ赤なスカーフを首に巻きつけていた。頭部のヘルメットは悪魔のような1対の触覚がある頭蓋骨のようであり、腰にはベルトを巻きつけていた。

 

ここに、ヒトを(かたど)った兵器がある。

かつて"風祭真"と呼ばれたそれは、

神に背きし愚者(ぐしゃ)により異形の兵士(サイボーグ・ソルジャー)として第2の生を受け、

激動・混迷する世紀末の中、

様々な人の闇や過去の亡霊と闘い続け、

(わず)かな希望(のぞみ)を託された新世紀の(いしずえ)に、とその姿を変えた。

今もなお、誰にも知られず

孤独な旅路を走り続け、

その機械仕掛けの(からだ)で抗うことの出来ない罪と向き合い続ける。

そしてその瞳は、

時代のすべての罪を一身に背負ったように

紅く黒い。

 

 もうすぐ、夜が明ける。

 

The END

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