Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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那須高原の事件で財団と戦うために東京に戻った真。
だが、東京に着くと同時に膨大な人の思いが流れ込んでしまい、苦しんでしまう。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
この作品には以下の要素が過剰に含まれています。それらに拒否反応を示すなら、コメント欄等で荒らし行為などをせずにブラウザバックして下さい。
・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Cell Ⅱ:Corpse

1997年9月9日 午前0時 東京 中央区 佃 タワーマンション群の一角の路地

駅ホームの改札を通り、徒歩で自宅まで車道と歩道の曖昧な道路を歩いている20代前半のスーツ姿の女性がいた。終電近く夜遅くまで働いたためかとても虚な眼差しをしており、街灯が少ないのもあってか道を進むにつれ次第に暗く物静かな様相になっていった。

駅ホームから10数分歩き左を曲がると、そこには都庁のビルのように聳え立つ巨大なマンションがあった。

弱いライトの青白い光に眩しさを感じながらマンションに入った女性は、エレベーターの上矢印のボタンを押した。エレベーターが来るまでドアの前に立ち待っていた後、女性はエレベーターのドアが開き入る。

『上に参ります。ドアが閉まります。』

女性は自分が住んでいる階層に行く操作を行った後、抑揚があまり無い女性のアナウンスと共にドアが閉まる。

『36階です。』

最上階に到着するとエレベーターのドアが開き、女性は数十歩歩いた先にある「3606号」室の前に立つ。財布から取り出したカードを読み取らせた後、"6"の番号を3回入力する。するとドアの鍵が開く音が聞こえ、女性は中に入った。

照明を点灯するとワックス掛けがなされていないベージュ色の床と前方にリビングがあった。女性はまずリビングまで歩き、週刊誌より一回り大きいビジネスバッグをソファーに置くとリビングから出る。次にリビングを前方に見たとき右手側にある部屋に入り、クローゼットの扉を開けスーツをしまい下着姿になる。クローゼット内の引き出しからバスタオルとパンツを出し、反対方向にあるバスルームに入る。身に纏った石鹸をシャワーで洗い流すその姿は、立ちこもる湯気もあってか非常に妖艶なものであった。その頃、ドアの鍵が何者かに解除され開いた。だが、シャワーを流す音やバスルームが防音加工が成されているのもあって気づかなかった。

シャワーを浴び終えバスタオルを巻いている女性は、バスルームから出た途端に違和感を覚えた。先程まで点灯していた照明が消えていたのだ。照明のスイッチを入れても点灯しなかった。さらに、リビングではテレビで放送されている通販番組の音が聞こえてきた。女性は恐る恐るリビングに向かっていくと、そこには誰もいなかった。風呂上がりの為か、拭き取りきれなかった水滴が徐々に寒気を与えていく。何事もなかったと思い、別の部屋を見ようと移動した。

その時テレビ画面の番組映像が突如途切れ、スノーノイズが流れ始めた。

 

ザー…ザー…

 

女性は恐怖を感じ、廊下まで歩き別の部屋に移動しようとした。だがどこも鍵が掛かり、こじ開けようとも開かない。さらにリビングの扉も1人でに閉まり、鍵もカチリと掛けられた。常軌を逸した出来事の連続で女性は思わず声が出てしまう。唯一使っていない空き部屋だけは鍵が掛かっておらず、そこに逃げ込み安堵の吐息をした後深呼吸を行った。

 

「…何だったの、さっきの…?」

 

情緒を落ち着かせた女性は鍵を開けようとした。だが、そこも開かなかった。どんなに力を加えても開かず、より恐怖を感じる。

 

「開けて!誰か開けて!」

 

女性は声を上げ、ドアを壊れそうな位に引いたり叩いたりして助けを求めるが誰もいない。そのことは誰よりも自分が分かっている筈なのに。その事実が余計彼女を追い詰める。

 

『見〜ツケタ。』

 

上から非常に野太く地の底から響くような声が聞こえ、女性は上を向く。女性は顔を歪め、断末魔のような悲鳴を上げる。が、その声を聞く者は誰もいなかった。

 

 

1997年9月9日 午前5時 東北自動車道

星々が輝く夜明け前の空。どこまでも続く道路を、真はオートバイ/スズキ・バンディット250のアクセルを吹かせながら進んでいる。地平線から昇りつつある陽の光は、そんな真の姿を照らしていた。

 

『あー眠い。毎日残業2時間で上司もうるさいし、こんな朝から仕事行くの怠いんだけど。』

『あの馬鹿、昨日までにやらなければならなかった物件を全て駄目にしやがって…!』

『生活費がこれだけしかない…1ヶ月分の借金も夫がパチンコで全部使ったせいで子供の学費すら払えない…いっそのこと毒殺でもしようかな…。』

『少し勉強ができるからと言って先生からチヤホヤされるとか、マジウザいからさっさと死ねよ。』

 

「_____ッ!!?」

 

突然、直接脳髄に響く衝撃に似た感覚が真を襲った。いつまでも響き渡り続ける衝撃に真は頭を抱えて苦しみ出し、ヘルメットを被っていても苦悶の表情を浮かべているのが誰の目から見ても明らかだった。

呼応反応による共鳴…かつて鬼塚義一による分子外科手術を密かに施された時に持ってしまった権能。普通の人間が使いこなすには過ぎた能力。その"呪縛"と再び戦わなければならないのだ。だが、今真を苦しませているものは殺戮の記憶の投影ではない。怠惰、欺瞞、逼迫、排斥…人誰しもが避けて通れない"負の感情"であった。

 

真は朧げながらも東京ICを通過し、軋み続ける頭を抑えながら必死にバイクを走らせる。そして見知らぬ土地の路地裏にバイクを止めると、さらに奥にあるゴミ袋の山に力尽きるように倒れ伏した。

その光景を監視カメラがジジジ…と駆動音を出しながら映像を捉えていた。

 

1997年9月9日 午前8時 東京 中央区 佃 城南大学附属学校近辺の路地裏

城南大学附属学校。埋立地であった佃島に設立した城南大学に増設する形で開校した私立学校である。佃の再開発の一環で教育機関の増設目的で開校された城南大学は風祭真の母校であり、卒業生も政治家や研究者、ミュージシャンなど様々な分野の第一線で活躍している人材を輩出している私立大学である。

学部も医学部や工学部、薬学部など医療分野における理系学部が中心であるが、経済学部や体育学部などもある。さらに城南大学は筆記試験のみならず実技による推薦入学や、学部ごとに関東県内に数多く点在するキャンパスがあるため入学者数も260強と都内の私立大学では多い。その内の2割は佃キャンパスにある附属学校からの内申生であった。

だが内申生は学部によっては地方に住まなければならず、附属高校と大学での学力水準があまりにも乖離しているため勉強が追い付かない者もいた。それに加え私立大学故に学費も掛かるため、内申するにしても別の大学に進学する選択肢を考慮しなければならず、内申生の一部は留年・休学・退学からのアルバイト探しを行うほどであった。

 

鉛色の空の下、1人の女子生徒が歩道を走っていた。その生徒は制服を着用しており、橙色の瞳、セミショートの茶髪に左側を一房シュシュで結んだサイドテールが特徴的で、背丈が160cm前後あった。

瑠里(るり)ー、早くー!」

裕美(ひろみ)タイムー!」

瑠里は、目の前にいる女子生徒に呼ばれて急いで向かった。その女子生徒は瑠里と同じ制服を着ており、青みがかった黒い瞳に黒髪のショートボブに眼鏡を掛け、瑠里より一回り小さい背丈であった。

瑠璃は裕美に追いつくと、裕美が息せき切っている瑠璃に話し始める。

「もう遅いよ。『2人で登校したい』って言ってここで待っていたんだけど。」

「ごめんごめん、電車が途中で止まったからさ〜。人がメッチャ混んでたからケータイ掛けても中々繋がらないし。」

「気をつけてよね。ここ結構薄暗いから、1人でいるだけでも結構怖いんだから。」

その後、裕美が不安そうな顔で話を続ける。

「…瑠里、今日のニュース見た?」

「うん、マンションで人がいなくなっちゃう事件がまた起きたんでしょ?ろくに手掛かりが掴めず捜査しているっていうのは見たけど。」

「…怖くないの?瑠里だって城南(ここ)に通うために引っ越したって前言ってたじゃない。下手したら瑠里だって_!」

「だいじょぶだよ〜、セキュリティが掛けられているから入られる心配なんてないし。そもそもママには門限があるから早く帰って来いとか言ってくるし…。」

「そういう問題じゃないと思うんだけど…。」

 

瑠里と裕美が話している最中、裕美が1台のバイクが道の脇に駐車されているのが見えた。

「え、こんな所にバイク…?」

裕美が驚いて呟いた後、10m先のT字路の右側の路地裏の奥からゴミが崩れる音が聞こえた。

「とりあえず行ってみる。」

「気をつけて。」

瑠里は傍にあった鉄パイプを持つ。

「うっ、臭っさ…。」

音がした方向に向かって行く瑠里の視線には1人の男の姿があった。

「誰、この人…ってか大丈夫⁉︎」

瑠里は鉄パイプを後ろに捨て、男に肩を叩きながら呼びかけた。

「どうしたの瑠里⁉︎」

「男の人が苦しんでいる…⁉︎」

恐る恐る瑠璃に近づいて来た裕美が一瞬驚いて口元を両手で隠した後に呟く。

「"風祭真"…!」

「裕美っち…知ってるの、この人を…⁉︎」

瑠里は裕美に聞こうとするが、彼女の話を遮って続けて話す。

「…とにかくこの人を病院に行かせちゃダメ。人気のいない所へ運ばなきゃ、今すぐ!」

 

1997年9月9日 午前9時 東京 中央区 佃 某タワーマンション

日差しを隠すほどに覆っている薄い雲の下、高層住宅の建築物が樹海のように立ち並んでいた。大規模再開発や近年の建築規制緩和による流れ、水辺に映える佇まいといったさまざまな要因により集合住宅の高層化はより向上していたのだ。

パトカーのサイレンが鳴り響く中、そのうちの1台から2人の刑事が出てきた。1人は40代前後の白髪混じりの男性で、もう1人は背の高い20代後半の男性であった。2人はバリケードで覆われているマンションに入室手続きをして入り、眉一つも動かさず、それぞれ階段・エレベーターから上がっていく。

刑事達が集まった場所、そこは36階ある「3606号」室であった。2人は証拠品を探すため棚や箪笥の中身を探したが、結局手掛かりになるものが1つも見つからなかった。

「…指紋は無し、引き出しが荒らされた形跡も髪の毛一本も無し、鍵は掛かっていた。痕跡らしいものが全く無い。」

「ええ、宗方さん。まるで神隠しとしか言い様がありませんね…。」

「ああ。しかも起きているのはここだけじゃ無い。近頃ここら辺で建てられている別のマンションでも起きている。」

宗方は一瞬黙ると、若い刑事がこう言った。

「…それにしても何故ここの人達はあまり話題にしないんですかね。昨日まで住んでいた人一人いなくなったんですよ。購入で前借りした金を返済する人達が多いと言っても、関心が無さすぎませんかね?」

「関心が無いんじゃない、黙っているんだ。」

「え?」

「噂で聞いた話だがな。警察内部どころか事件が起きた周辺で隠蔽が行われているらしい。」

「警察が事件の隠蔽…⁉︎」

若い刑事が息を呑むと、宗方は続けて話す。

「5年前の殺人事件は勿論、ISS社やこの間の稚内などで起きたガス爆発も全て巨大な勢力が政府に干渉して事実を揉み消しているらしい。空想事に聞こえるかもしれんが、実際に調べていた奴等が何人も蒸発している。何なら警視庁(こちら)に派遣されたCIAの捜査官も命からがらだったようだからな。」

「そんな…CIAの捜査官ですら無事で済まなかったなんて…!」

「とりあえず今回の事件も裏に巨大な勢力があっておかしくないだろう…⁉︎」

 

グチャ、グチョ。グチャ、グチョ。

 

「…宗方さん?」

「…誰かがいる⁉︎姿を表せ‼︎」

宗方はそう言って拳銃を引き抜くと、同じく拳銃を抜いた若い刑事と共に「3606号」室を出た。同時に若い刑事にも聞こえ始めた、粘着質のものが粘り着いたような歩行音が。

 

グチャ、グチョ。グチャ、グチョ。

 

人のものとは思えない足音は徐々に大きく通路内を反響する。

「俺は右に行く、お前は左を回れ!」

「分かりました!」

2人は二手に分かれ、足音がする所へ向かう。

「(どこだ、どこにいる…!?)」

宗方が足を止めたその場所は、普通の通路であった。しかし彼以外は誰もいなく、彼の精神状態や陽を射す窓も無いのもあってか薄暗く感じさせた。宗方の耳に再び足音が聞こえ始め、徐々に大きくなっていく。

 

グチャ、グチョ。グチャ、グチョ。

 

宗方は次第に恐怖が堪えきれなくなり、拳銃の引き金を引いた。銃弾が肉を抉ると同時に足音も鳴り止んだ。被弾した場所を確認しに行く宗方。しかし、彼が目にしたのは_

 

「…嶋!」

 

若い刑事が赤黒く生暖かい水で床を濡らせながら虚な眼で宗方を見つめていた。宗方は呼びかけるが、糸の切れた人形のように黙ったままである。宗方は近くに非常階段があったことに気づき、急いで駆け降りる。しかし、宗方が降り続けても永遠に続いていた。

「どうなっているんだこれは⁉︎」

 

グチャ、グチョ。グチャ、グチョ。

 

階段の上からあの足音が聞こえる。恐怖が声となり、尻餅を付いて壁側に背中を当てようとした。しかし脳天に唾液のようなものがかかるのを感じ、宗方は上を見上げる。

 

赤黒く毛深い肌、両方の掌からは胴体と一体化した皮膜、縦に鋭く尖った耳に押し潰されたような鼻、そして人間のような生々しい眼球を宿した蝙蝠人間がぶら下がっていた。

 

宗方は悲鳴をあげ、嘲笑われながら血塗られる。

 

1997年9月9日 午後5時半 東京 中央区 佃 城南大学附属高校近辺の路地裏

「_ここは?」

「やっと気がついた?ゴミ捨て場をベッド代わりに使うとかセンス変わってるね。匂いがキツくて昼まで取れなかったんだから。」

真が目を覚ますと物置倉庫の中にいて、扉の前には瑠里や裕美がいた。

(そうか、俺は苦し紛れにここまで…。)

「ちょっと聞いてんの⁉︎」

真は瑠里の呼びかけで我に返る。

「裕美から聞いたわ。元バイクレーサーの風祭真さんだっけ?宿無しならオジさんから部屋借りれば?あなた、オジさんとは知り合いだったみたいだし。アポ無しでも家賃はタダにしてくれると思うよ。」

「…助けてくれてありがとう。ところで君達は誰なんだ?なんで俺を助けたんだ?」

自分でも分かりやすい位に悪態ついているにも関わらず嫌がらない真に瑠里は呆れていた。

「私は瑠里、水樹瑠里。こっちは裕美。困ってる人がいたら助けるのは当たり前でしょ?救急車は呼ばなかったけど。」

「ごめんなさい、風祭さん。瑠里は恥ずかしがり屋で…。」

「は、恥ずかしい訳ないでしょ⁉︎助けた分、奢って貰うんだから。ほら行くよ!」

「あ、あぁ。」

瑠璃に手を掴まれると、真の脳裏にある光景が脳裏に過ぎた。

 

1992年冬、5年前のとある病室。

喪服を着た1人の少女が遺体に「パパ」、と呼びかけながら泣いている。そばに居た母親も涙を流しながら嗚咽が出ている。

『突然ですが、ここで臨時ニュースです。昨夜、巷を騒がせている連続女性殺人事件の犯人が警察の包囲網を破り逃走しました。警察は囮捜査による現行犯逮捕を試みましたが警官を含め12名殺害され、捜査は困難を極めています_』

テレビで映されていた2人の刑事で、女性刑事の隣にあった男性刑事の顔は「パパ」と同じであった。そして、机には人と獣の区別がつかない怪物の姿をした犯人のモンタージュ写真があった。

 

「____ッ!」

「ちょっと、どうしたの今度は⁉︎顔色がまた悪くなってるよ!」

(何だったんだ今のは…⁉︎)

真は我に返る。

「_いや、ごめん。俺は大丈夫。君達は早く家に戻った方がいい。」

「大丈夫な訳ないでしょ、ゴミ袋で倒れてたのに。ほら行くよ!」

瑠里に手を引っ張られる真は、目線を裕美の顔に映す。

「…君は?」

「私もすぐ家に帰るから大丈夫です。それより風祭さんはゆっくり休んでください。後、瑠里が紹介したオジさんとはお会いしたことがありますが、とても素敵な人でしたよ。風祭さんのこともきっと歓迎してくれると思います。」

裕美が話し終えると真は瑠里に連れられてバイクに乗り、路地から去った。その姿を見て裕美は呟く。

「_風祭真。父の遺産であり"救世主"_!」

 

 

1997年9月9日 午後6時 東京 中野区 中野三丁目 住宅街

タンデムシートに瑠里を乗せ、真は彼女の案内に従いバイクを走らせていた。次々と建てられていく高層建築物に溶け込む昔ながらの閑静な住宅地や商店街、そして空気。真は入学式以来の光景に憧憬を感じ、この一瞬が長く続けばと思っていた。

「止まって、着いたよ。」

瑠里が案内を終え、ヘルメットを外す真に被っていたヘルメットを渡した。先に行ってる最中、瑠里は何かを落とした。

「瑠璃ちゃん、何か落とした…。」

真はそれを拾って呼びかけようとしたら、表札に刻まれた文字に目が行った。

「…『結城サイクルショップ』…。」

真が呟いた後、建物を目にした。それはドイツ田舎家風であり、敷地面積は目安住宅地1件分で、屋根と壁はそれぞれ焦茶色とクリーム色に彩られていた。さらに1階の7割程に設けられたガレージ部分にはバイクや自転車の本体や部品が立てかけられており、看板通りにサイクルショップであることを示していた。

「ほら真、入るよ。コーヒー以外のオジさんの料理は結構美味いんだから。」

瑠里に呼びかけられた真は、鈴の音が鳴る扉を開けた彼女と一緒に建物内に入り、階段を登る。建物内もドイツ田舎家風であり、素朴な暖かさを感じさせる店内であった。

「いらっしゃい!おお、瑠里ちゃん!今日はジャーマンブレンドを使った自信作ができたんだ。飲んでかない?」

そこには眼鏡を掛けた中肉中背の20代後半の男性が、奥にあるキッチンテーブルから声を掛けた。

「無理しなくていいよ。この間のロンドンのやつだって相当売れ残って、修理で赤字分を賄ったって言ってたじゃん。」

「そんな痛いとこ突かないでくれよ〜。真や愛ちゃんだってそこまで言わなかったぜ、もう。」

男が言い終えて別の方向に視点を変えると、そこにいた真と目を合わせた。

「…真‼︎?」

「結城…。」

男・結城卓也は驚きながら真の元に駆け寄り、今にも落涙する顔をして手を握った。

「真、お前…生きていたんだな…よかった、本当に良かった…!」

握った真の腕で泣く結城の姿を瑠里は静かに見つめた後、携帯電話の画面の時刻を見た。

「それじゃ真、そろそろ門限が近いから先に帰るね。今のオジさん、真と一緒にいた方が楽しそうだし。」

真と結城は瑠里の言葉を聞くと、部屋に飾られている時計を見た。時計の針はは既に5時を過ぎていた。

「もうこんな時間かぁ。折角の新作を瑠里ちゃんに飲んで欲しかったなぁ。次来るときは裕美ちゃんも一緒に…。」

「そのときはフレンチ2人分頼むわ。」

「ええ、そんなぁ〜。」

結城と瑠里が話している最中、真も流れに乗る形で瑠里に話しかける。

「瑠里ちゃん、家まで送って行こうか?」

「私、今佃島の新しく建てられたマンションに住んでいるの。引っ越したばかりだけど、自分で帰れる位には慣れてるよ。じゃ、また今度ねー。」

「おう!いつでも待ってるよ、瑠里ちゃん!」

瑠里は階段から降りて建物内から出ていった。

 

1997年9月9日 午後6時半 東京 中野区 中野三丁目 住宅街

「でもやり過ぎたなぁ、私。ゴミの中から助けたからってそこまでやる必要なかったというか。」

『結城サイクルショップ』から離れた距離にいた瑠里を、住宅街にあるマンションの窓ガラスから見ていた人と獣の区別がつかない男がいた。男は鋭く尖った右に豚のような鼻を持ち、微かに犬歯が伸びた口元に無精髭や胸毛を生やし、パンツ一枚の隙間から男性器を弄り、既に"骸"となった若い女性の陰部を男性器にすり合わせ、別の女性にはそれを舌なめずりしていた。部屋には押し入れ全てに1着のロングコートとシルクハットに加え、別の若い女性の"骸"が鳥の血抜きのようにハンガーに引っ掛けられていた。壁や床は精液や潮や血痕が染み込んでおり、部屋全体が異臭で蔓延し、机にはパソコンと纏められた複数の鍵、玄関には革靴があった。

その最中PCに電子メールが届く音が聞こえ、男は不気味な笑みを浮かべながら卑屈な笑い声を上げる。開封したメールには瑠里の写真があった。

 

「…さて、話をしようか。」

結城はさっきまでの明朗さとは打って変わって真剣な表情となった。

「話?」

「とぼけるな!親父さんの研究所の爆発事故から今まで全部だ!愛ちゃんはどうした?親父さんはどうした?お前が背負っているものを何故俺に言わなかったンだッ!」

「結城…。」

結城は真の胸ぐら掴んで怒りを隠しきれずに問い掛け、すぐに手を離した。

「お前はいつだってそうだ。世界グランプリのときだって、研究所の援助が必要な位に家計が苦しんでいたら予選前の土壇場で被験者を志願して辞退したんだろ。普通に暮らせる位の金くらいなら貸してやれたのに…。何故誰かに頼らなかった⁉︎」

「あれはあの時とは…!」

「あの時って何だ、あの時もその時も変わらないだろ!」

「……。」

「…俺は愛ちゃんの代わりにはなれないかもしれないし、今は無理に聞く気はない。けどな、一度お前のサポーターになったからには最後まで付き合わせろ。困ったことがあったら来い。俺はいつだってここで待ってる。」

「…分かった。」

真は結城を背に向けて建物から出た。

「…愛ちゃん。どうすれば君みたくアイツを支えてやれるんだ…。」

 

1997年9月9日 午後7時半 東京 中央区 佃 タワーマンション群の一角の路地

瑠里は駅ホームの改札を通り、徒歩で自宅まで車道と歩道の曖昧な道路を歩いていた。

「あーあ、やっぱ気味悪いわここ。暗いしジメジメしてるし。進級祝いだからってもう少し良いトコ見つからなかったの?」

瑠里は言い終えると、彼女の目の前には連続女性失踪事件が起こっているマンションがあった。瑠里はマンションに入り、降りてきたエレベーターのドアが開き入る。

『36階です。』

最上階に到着するとエレベーターのドアが開き、瑠里は「3606号」より先にある「3604号」室の前に立つ。財布から取り出したカードを読み取らせた後、"6"の番号を3回入力する。するとドアの鍵が開く音が聞こえ、瑠里は中に入る。

「ただいまー。」

「瑠里、早くお風呂入ってよ。沸かし直しはしないから。」

「はぁーい。」

瑠里はドアを開けて自室へと入る。カーテンを閉め、窓を開けて換気をする。羽織っていたカーディガンを脱ぐと、それを椅子に引っかけベッドの上に寝転ぶように倒れ込む。ごろん、と一回転して天井の照明へと向く。瑠里はふと思い出して、テーブルに置いたカバンの中を探し始めるため体を起こした。

「あれ、無い?」

瑠里は言った直後に、結城の所に行った際に落としたことを思い出した。

「あー、もーいいや。明日オジさんの所に行って探そ。」

瑠里はカバンを閉じ、シュシュを外して風呂に入る支度をした。

 

1997年9月9日 午後7時半-8時間 東京 中野区-佃島間のスクランブル交差点

赤信号で止まった渋滞の中、真はヘルメットの中で苦悩していた。

『とぼけるな!親父さんの研究所の爆発事故から今まで全部だ!愛ちゃんはどうした?親父さんはどうした?お前が背負っているものを何故俺に言わなかったンだッ!』

正に結城の言う通りであった。散々「俺に近寄るな」と喚き散らかした自分のために、店を構えてまで5年以上待ってくれた彼の期待に応えられなかったこと。そして、自分が「人殺しのバケモノ」になってからのことを教えたとき、彼はそんな自分を受け入れてくれるかが恐ろしかったこと。それらが真の心を抉っていった。

 

『今日午前9時頃、東京都の佃島で刑事2名が死亡しました。場所は連続女性失踪事件が起こっている高層マンションで、死因はそれぞれ銃弾と切り傷でした。銃弾が警視庁のものであったことから、警察は犯人が刑事の1人を襲って拳銃を奪って殺害したとして捜査を進めています。』

 

真は、目の前にある信号の先にある高層ビルに設けられた屋外大型ディスプレイからの映像と音声を見て瑠里の言葉を思い出した。

『私、今佃島の新しく建てられたマンションに住んでいるの。引っ越したばかりだけど、自分で帰れる位には慣れてるよ。じゃ、また今度ねー。』

真は一瞬不安になり、それに呼応するかのようにポケットから何かが鳴り始めた。それは瑠里が落としたポケットベルであった。

『オネガイ ダレカ タスケテ』

「まさか…瑠里ちゃん⁉︎」

真は信号が青になると、佃島に向かい始めた。

 

マンション群の一角 36階 「3604号」室

バスルームに入った瑠里は身に纏った石鹸をシャワーで洗い流し、湯船に入る。湯船から首を出しているものの、年相応以上に発達した乳房は瑠里によって邪魔であった。

「あー、肩凝り治らなくてほんと最悪。」

瑠里が呆れ気味なのも当然であった。中等部からブラジャーをしても苦しく感じ、校内外問わずナンパしてくる男子は目障りであった。自分はジャーナリスト、即ち追うものを目指しているのに周りからは追いかけられるだけ。モデルと何かと勘違いしてるんじゃない?そう思っていくうちに瑠里からは友達が離れていき、残ったのは裕美だけになった。

 

その頃、ドアの鍵が何者かに解除され開いた。だが、シャワーを流す音やバスルームが防音加工が成されているのもあって気づかなかった。

「どちらさまですか?」

瑠里の母が尋ねて後ろを振り返ると、直ぐに異変に気が付く。その人影は瑠里では無い、得体の知れない何かだった。その人物は母親に徐々に手を伸ばし、そのまま顔にめり込んで行く。その悲鳴を瑠里は聞く由もない。

 

シャワーを浴び終えバスタオルを巻いている瑠里は、バスルームから出た途端に違和感を覚えた。先程まで点灯していた照明が消えていたのだ。何度やっても点灯しない照明のスイッチ。さらに、リビングではテレビ画面の番組映像が突如途切れ、スノーノイズが流れ始めた。恐る恐る椅子に腰掛けている母に近寄る瑠里。

ザー…ザー…

「ねえママ、停電でもしたの?」

母の体を揺する瑠里であったが、そこには変わり果てた母の姿が椅子に座っていた。ザクロのように砕け散った頭蓋。無造作に元の場所に戻されただけの眼球。瑠里が目にしてから数秒後に手足がボロボロ取れながら崩れていった。床とテレビ台の隙間に転がっていた彼女のポケベルには血痕と『オネガイ ダレカ タスケテ』とあった。

瑠里は悲しみと恐怖が入れ混ざり、顔を歪ませて凄まじく泣け叫んだ。廊下まで走り別の部屋に移動しようとした瑠里だが、どこも鍵が掛かってこじ開けようとも開かない。さらにリビングの扉も1人でに閉まり、鍵もカチリと掛けられた。常軌を逸した出来事の連続で瑠里は更にパニックに陥ってしまう。自分の部屋だけ鍵が掛かっておらず、そこに逃げ込み足を抱え泣き崩れる瑠里。しかし、瑠里の背中には脚のようなものが当たっていた。

"人と獣の区別がつかない男"が、醜い笑顔を瑠里の眼前に近づけていた。男はロングコートにシルクハット、革靴と非常に奇抜な出立ちであった。

瑠璃は顔を歪め、断末魔のような悲鳴を上げる。

 

1997年9月9日 午後9時 東京 マンション群の一角 36階 「3604号」室付近

階段を駆け登る真。昏睡している間に物置倉庫に匿われて休養できた為か、先程までのノイズに干渉されることなく瑠里の気配に集中できている。

「待ってくれ、瑠里ちゃん…!」

登り終えた真は「3604号」室の扉のドアノブを捻って破壊しこじ開けた。そこには"骸"と化した瑠里の母と、瑠里を連れ去ろうとする男がいた。

真は殺意と憎悪に身を任せ"怒りの蟲"へと変貌を遂げ、男を殴りつけ瑠里を解放する。真が見た瑠里の姿は恐怖のあまりに目が虚ろになっており、股間から水が流れて続け、切り裂かれた服の隙間からは軽い切り傷がつけられていた。真は倒れ込んだ男の首を締め上げ、何度も鈍い音と共に何度も殴りつけては床や壁に叩きつけた。

男も負けじと連続女性失踪事件の犯人である怪物に変貌し、真を変貌した風圧で弾き飛ばす。怪物は窓を突き破り闇夜に羽ばたくが、真も負けじとベランダから他の高層建築物へ次々と飛び移る。しかし、スピードは互角といえど怪物とは違い、真は建築物などの足場が無ければ"高さ"で追いつけなかった。そのことに気づいたのか怪物は住宅街に差し掛かったところで200mほどの上空まで舞い上がり、真に向けて口から超音波を出す。それは肉眼では視認しにくく、辛うじて空間が少し揺らぐ程度のものであった。超音波を喰らった真は頭を抱え獣の雄叫びのような呻き声を上げ、頭を覆った上腕部や大腿部を初めとした表皮が破れるように引き裂かれ、噴水の如く鮮血を吹き出し筋肉組織も剥き出しになる。真は住宅街にある教会へ落下する刹那、教会の十字架を掴む。しかし教会の屋根は突き破られ、その床に真の軀が叩きつけられようとした。

一方、怪物は慢心の笑みを浮かべながら様子を見ようと高さ100m程まで降下する。だが、そこには落下したときの教会の屋根の破片であって真の姿は無かった。そのとき怪物は背後に何か気配を察知し逃れようとするが、異形の人影が怪物の左翼を掴む。人影は徐々に真の姿を露わにしていく。真は、右手に取った十字架を右鎖骨の内側から心臓に掛けて袈裟懸けになるように刺し穿った。その傷から鮮やかな赤い血が滝のように噴き出していた。

流石の怪物も断末魔のような声を上げ、真を振り落とそうとするが、真も負けじと腕に生えた毛爪で右、左と腕の根本から切断し投げ捨てる。飛ぶ術を無くした怪物は、呻き声と共にマンション周囲の住宅街の路地裏に墜落した。

 

マンション裏の住宅街の路地裏

飛ぶ術を無くした怪物は真から逃げ延びるため、血反吐を吐き血まみれの体を引きずるように足で逃げる。しかし、移動にはあまり使わない部位のために人間からも逃げるのが精一杯だった。しかし眼前に複数の光が照り付ける。光の眩さを覆う翼もない。

「Fire!」

鉛の雨が降り注ぎ、血潮が満ちていく。

 

マンション付近の住宅街

真は住民に気付かれないよう、周囲の建物の屋根を飛びながら怪物の行方を探していた。

その時、爆発音が炸裂し、マンションが根本から火煙を上げ今にも崩れ去ろうとした。そこにはマンションの壁に叩きつけられ炎上している怪物に、ロケットランチャーを携えた女性が先頭にいるコマンド部隊がいた。

しかし、今の真はそんなことに気を取られている余裕は無かった。マンションには瑠里がいる。彼女だけでも助け出さないと危ない。真はマンションの「3604号」室まで向かう。ガラスが散乱し砂埃が蔓延しているリビングで、真は今も気絶している瑠里を抱え、マンションの瓦礫や火災が届かない路地裏まで飛ぶ。路地裏の地面に着地した真は、瑠里をそっと下ろしてその場を立ち去ろうとする。

「…ここどこ…私は一体…?」

瑠里は少し頭を軋むものの目覚め、目の前にいる緑の怪物の姿を見て次々と脳裏が過り、顔を歪め、目元が涙に覆われる。

バリケードの先にある血の海と死体の山となった事故現場、救急車に搬送されたが死体になった「パパ」、そして眼前にいるモンタージュ写真に描かれた犯人とそっくりな怪物_!

 

「いやあああああああああああああああ!!」

 

星の輝きが少ない夜空に慟哭が響き渡る。

 

Cell Ⅱ telophase

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