Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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真は改造兵士から瑠里を救い出したが、変身後の姿を見た彼女に拒絶されてしまう。
その頃、突然人間が変死する事件が起きていた。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
この作品には以下の要素が過剰に含まれています。それらに拒否反応を示すなら、コメント欄等で荒らし行為などをせずにブラウザバックして下さい。
・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Cell Ⅲ:Dreamless

1997年9月9日 午後9時 東京 マンション群の一角付近の住宅街

「…ここどこ…私は一体…?」

軋み続ける顳顬(こめかみ)に我慢しながら目覚めた瑠里は、目の前にいる"怒りの蟲"を見て次々と脳裏が過り、顔を歪め、目元が涙に覆われる。バリケードの先にある血の海と死体の山となった事故現場、救急車に搬送されたが死体になった「パパ」、そして眼前にいるモンタージュ写真に描かれた犯人とそっくりな怪物_!

 

「いやあああああああああああああああ!!」

 

真は伸ばしている手を止め息をのみ、そして悟った。彼女の手を握った時に流れ込んだ景色は、彼女自身の過去であったこと。瑠里も、かつての自分と同じく財団に弄ばれた1人の人間であること。そして、彼女から大切なものを根こそぎ奪った財団をこの世から全て消し去らなければならないと。だが、彼女を支える人間を救うには遅すぎた。目の前の怯える魂にとって真も怪物達の同胞でしかなかったのだ。

真は込み上げる怒りや悲しみを震える拳に込め、真は瑠里から逃げるように夜空を駆けた。その拳は、隙間から赤い血が滴っていた。

 

その場で取り残される瑠里。そこに1台の車から発せられたライトで瑠里の目がくらみ、彼女は思わず袖で隠す。車は瑠里の目の前で停車すると、運転席から知らないスーツ姿の男が出て来た。

「初めまして、私は"株式会社シャッガイ"の貞衛(さだえ)と申します。ただいまお金に困ってらっしゃいませんか?それならすぐ稼げる求人がございますので_。」

一方的に話しかけられ名刺を受け取った瑠里は、状況を飲み込めずただ茫然としていた。

 

1997年9月9日 午後10時 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

閑静としたカウンターで、結城は当日の会計をしていた。だがその進みは遅く、結城の表情は曇っていた。

『とぼけるな!親父さんの研究所の爆発事故から今まで全部だ!愛ちゃんはどうした?親父さんはどうした?お前が背負っているものを何故俺に言わなかったンだッ!』

結城は真に怒鳴ったことを思い出していた。

「久々に会ったからって、そこまでムキにならなくても良かったな…。もう一度あったら、謝ってみるか…。」

結城が遅れた分取り戻そうと、書くスピードを上げようとしたが筆が止まった。

『ここで臨時ニュースです。先ほど都内の佃島のマンションで火災が発生する事故が起きました。地元の警察によると、1階のボイラー室が_。』

「え…⁉︎」

淡々と状況を説明するアナウンサーの男の声がテレビのスピーカーから発される中、結城はまるで石のように固まっていた。

 

1997年9月9日 午後11時 東京都港区 六本木七丁目14番22号 ヴェルファーレ

ステージの天井に取り付けられたミラーボールの下、ライト部屋中を埋め尽くす程の客がいた。老若男女問わず大音量のトランス・ユーロビート・テクノの曲調に合わせ踊り、別の階の部屋ではリキュールやウィスキーを注文し一気飲みをするなど、まるで頻発する事件のことを忘れるかのように振る舞っていた。

それもその筈であった。バブル崩壊を機とした就職難、失業率やメンタルヘルス患者の急増、地価や株価の暴落による景気後退。さらに5年前からの怪物による連続殺人・失踪事件など不安定さが増していく社会から一時でも忘れようとしていたのだ。だが、忘却に浸れるのも金や権力といった力を持つ者達であり、それ以外は鬱憤を募らせていた。

大音量のユーロビートが響き渡る中、人混みの中で20代半ばの男性が中年の男性と肩がぶつかった。若者は虚ろな眼差しをしてノースリーブにGパンを履いており、両耳にはピアスをつけ頭部から芳香が漂っていた。一方中年男性はスーツ姿にベルトで押さえきれないほどに膨れた腹に薄い頭皮、微妙に臭う加齢臭に眼鏡をしていた。若者は衝撃で手にしていたロゼカクテルを中年男性の頭部から上着まで掛け、グラスを落とし割った。

「…おい、何だ今のは。」

中年男性は一瞬沈黙した後、煮えたぎる怒りを堪えながら若者に詰め寄った。

「何だこのオッサン。」

若者はぶっきらぼうに言い放ち、その態度に憤慨した中年男性が歯軋りをさながら若者の胸ぐらを掴む。

「何だその態度は!」

「やんのかゴラァ!」

若者は胸ぐらを掴んでいる中年男性の手首を強く握り、大きく腕を引き中年男性の顔面に拳を叩きつけた。喰らった中年男性は人混みに吹っ飛ぶ。人々はどよめき悲鳴をあげるが、大音量でユーロビートが流れていたためか周囲にいた人しか気付かなかった。

若者は近くにあったビリヤードのキューを手にして振り回し、近くにあったワイングラスを割り、頭を抱えてうずくまっている中年男性にバットスリップ部分を何度も叩きつけては蹴りを入れていた。叩きつけていくうちにキューは折れ、若者は無理矢理中年男性を立たせて腹部に膝蹴りを叩き込み、壁側まで追い詰めたら今度は何度も中年男性の体を壁に叩きつけるように何度も蹴り込んでいた。

「おい止めろ!」

走ってきた警備員2人が若者と中年の間に割って入り、若者を2人掛かりで押さえ込んだ。

「離せよ!」

それでも若者は興奮しており、警備員達は押さえるのがやっとであった。若者は今度は鼻の両穴から血を流しながら叫び声を上げ、徐々に血の気が引いてきた。警備員が気付く頃には押さえ込んだ若者の腕からは力が抜けており、手放した途端に若者がうつ伏せで倒れ込んだ。中年男性が震える体を起こした頃には、若者はピクリとも体を動かさなかった。

その一部始終を、上の階のバーの吹き抜けから覗く1人のサングラスを掛けた女性がいた。

 

 

1997年9月9日 午前10時 アメリカ ニューヨーク・マンハッタン 高層ビル群

日差しが眩しく降り注ぐ青空の下に並び立つ、巨大な摩天楼の一角にある最上階。カーテンで遮光され闇夜に近い暗さの社長室でガラス張りの窓を背に、財団の社長が肘を机に立てて両手を組んで椅子に座っていた。社長は机にある目の前のPCのデスクトップに向かって話しかけていた。

『Suppressing the rebellion in Congo,rising prices due to the explosion of oil fields and transport tankers...your cyborg soldiers continue to help us.』

「I'm glad I could be of help.Please continue to provide actual combat data.」

『But Lv.3 is no good.Once transformed, they lose their sanity and require hormone supplements to transform.Furthermore, his emotions are heightened and it seems like his hiding ability is becoming a problem.』

「Now we have the data that Gregory had.Using this and Shin Kazamatsuri will not only make it possible to produce Lv.3 cheaply, but it will also greatly advance the aforementioned plan.」

『By the way, what's going on with Shin Kazamatsuri? Wasn't the reason for capturing him because the clinical data from five years ago was burned?』

「We will continue to have him fight other Lv.3s and confirm his usefulness to some extent before proceeding.」

『However, four of them were truly defeated, including Lv.2.Moreover, the report also includes a child of an ISS nurse.Therefore, he could become the biggest obstacle to our plans in the future.If we are caught off guard, we will end up like Himuro.』

「I understand.At worst, we will secure a specimen and carry out the operation even if we have to eliminate him.」

『The rapid population increase and the resulting depletion of food and resources...humanity is reaching its limit as a species.We cannot afford any more failures.』

「That's what this 'he' is for.」

『That's all.Well, I look forward to you proceeding smoothly.』

ビデオ通信がプツンと切れ、男は机にあるリモコンのスイッチを押した。すると遮光カーテンが自動で開けられた。

「As usual, they just look down on the situation and complain.」

「We have all the trump cards.They can't do anything.」

社長は右隣に立っていた綾小路と話しながらPCに刺してあるUSBメモリに一瞬視線を移した後、正面のデスクトップ画面に戻した。そのメモリは、かつて綾小路が那須北丘牧場の倉庫内のPCでバックアップを取るのに用いたものと同じであった。

「There's no need to rush into anything.If you get involved now, it'll just be a lot of trouble.」

社長はPCのリストを開き、佃島のマンションで真に倒された半獣半人の男・津田(とおる)のデータを抹消しながら受話器を持ちボタンを押した。

「I'll do it.Clear out all of his belongings.If it's too much trouble, I don't care if it's the whole apartment.」

 

1997年9月10日 午前0時半 東京都港区 バー・ビヤーキー

真はバーのカウンターで所在無げに座っており、浮かない顔で考えていた。勿論路地裏で変身を解き、ゴミ捨て場に破棄されていた服に着替え直している。そして財布も変身する際に服が破れ全裸になるため、戦闘前にバイクの隙間に入れていた。そのため、商品の購入や資格証明も問題なかった。だが、今の真にとってそれらは大した問題ではなかった。

(俺は、また助けられなかった。瑠里ちゃんや彼女の家族を…。)

真の前にホットミルクが出されても手を出す事をせず、ただ苦悶の表情を浮かべていた。

「プロテインじゃないのかしら、シン・カザマツリ?」

その声は聞き覚えのある物で、右隣の席に視線を移すと見覚えのある女性が座っていた。その女性は精悍な体つきをしており、黒色の肩まで伸びた波打つ髪に赤いコート、サングラスを着用して30代前半であった。彼女は前に出されたヤドヴィガのグラスに口を付けていた。

「君は_!」

「覚えていて嬉しいわ。私はセーラ深町。面と向かって話すのは5年ぶりかしら。」

「…何の用だ?」

その答え代わりにセーラは鞄から新聞を取り出し、その中の1ページを真の視界に入るようにカウンターの上に置いた。

「!?」

驚愕する真を尻目に、セーラは続けて話す。

「都内で突然発作を起こした死体が次々と発見されているの。被害者はフリーター、もしくは生活保護者で、なぜか直前に金回りが良くなっていたのよ。世間はまだ公表には至っていないけど、全員とある企業のバイトだったわ。」

「企業?」

「"株式会社シャッガイ"、大田区にある日本有数の醸造・飲料メーカーよ。ここの酒もあなたのホットミルクも全部そこの商品だけど、ドラッグは含まれてないみたいだから最低限のマナーは弁えているようね。」

「…。」

「どうやら、その顔じゃ行く気があるようね。でも、その時は私達の処理の対象になるのよ。改造兵士(サイボーグ・ソルジャー)は、人類にとって得体の知れない厄災(ハザード)だから。」

「関係ない、これ以上誰かが苦しむのを見たくないんだ。」

「そう。今日午後9時決行、場所はシャッガイ本社の工場。貴方が来るのを期待しているわ。」

聞きたくないと言う風に真は顔を俯く最中、セーラもヤドヴィガを飲み切っていたためバーのマスターとの会計を済ませて立ち去った。その様子を横目で確認する真は、少し苛立った風に既に冷まさなくても飲める温度になったホットミルクを飲み干した。

 

1997年9月10日 午前8時55分 東京 中央区 佃 城南大学附属学校高等部

教室札に「2-B」とある教室、そこには裕美を含めた30人ほどの生徒達が騒いでいた。

「ねえ見た、昨日のニュース?」

「見た見た。佃と中野のマンションでガス爆発事故が起きたって。」

「後、佃は出なかったらしいけど中野の方は全員死んじゃったんだって。」

「佃って瑠里が住んでた所じゃね?まさか。」

「そう言えばまだ来てないわね。ひょっとしたら巻き込まれちゃったとか。」

「どうでもいいじゃん。アイツ、自分のことしか考えていないし、周りができなきゃキレるし。」

「特に球技。あんなパスできっこないって。」

裕美は心配になって瑠里の席に目線を移した。そこには瑠里の姿は無かった。

(瑠里…どうか助かって…!)

(嫌われ者を心配するとは、大分良い子に育ったじゃないか。)

「⁉︎」

裕美の脳内で誰かが声を掛けている。声色は明らかに少年と青年の中間の声だった。

(なに、口を使わなくていい。人間でも使えるよう、波長を変えているからね。)

(財団内部でも存在を知っているのはほんと一握りな"戦神(いくさがみ)"が何故_⁉︎)

(嬉しいね、君が俺を知ってたとは。父さんから昨日、中野のマンションを片付けろって言われたから来たけどさ。夜中までに一室丸々やるの、面倒だったんだよね。後、君の友達はそこにいなかった。)

(本当ですか、瑠里は今どこに⁉︎)

(今は学校放ってバイトになったみたいだね。でも、このままだとマズいな。そこ、大分死人出てるみたいだし。)

(なんですって⁉︎)

(まあ、まだ希望はあるみたいよ。そろそろ真やCIAの連中が乗り込んでくるみたいだ。ただ奴等のことだ、彼らを無事に返すか知らんがね。)

(じゃあ、瑠里は…!)

(そろそろ君の担任が来る時間だ。学生らしく勉強しなよ。こっちも実験場の後始末で忙しいからさ。じゃあねー。)

(あっ、ちょっと待って…⁉︎)

裕美は一方的にテレパシーを切られ、困惑していた。同時に教室のドアが開けられ、教壇に立った担任が出席名簿を開く。

「みんな静かに、出席を取るぞ。阿部…。」

(お願い瑠里、無事でいて…!)

裕美は瑠里の無事をひたすら祈っていた。

 

1997年9月10日 午前8時55分 東京 中央区 佃 城南大学附属学校高等部

屋上に設置された給水塔、その上に座って雲一つ無い青空を俯瞰している人物がいた。その人物は、那須北丘牧場で吾郎にコルト45を渡した少年であった。

「うん、平和ボケしている国のシャバは美味いねぇ。ん?」

少年はポケットから濃紫色の携帯を取り出し、通話を始める。

「Hellow,this is Nogi.If the president himself called me,it must be a very important request....Oh,in that case, I'll outwit them and retrieve it.Good bye.」

野木は通話を切り閉まった後、右の掌から鉛色の塊を作り出す。それは徐々にワルサーp38を模った。

「さて。遠くの客席で楽しませて貰うとするよ、"兄さん"。」

そして立ち上がると瞬く間に少年の姿が消えた。

 

1997年9月10日 午後8時55分 東京 大田区 株式会社シャッガイ本社工場

車のクラクションが彼方から鳴り響く工業団地をバイクで走らせていた真は、シャッガイの看板を見つけるとバイクを止めてヘルメットのゴーグル部分を上げて再度確認した。

「間違いない、ここだ。」

真は駐輪場でバイクから降りて施設内の受付まで歩き、ガラス張りの自動ドアから入る。しかし、受付には既に1人の女性がいた。

「遅かったわね真。」

「セーラ⁉︎」

セーラはすぐ警備員の方に振り向き、話を続けた。警備員は1人で、40代位の男性であった。

「すみません、もう1人が今来ました。」

「分かりました。担当の方がこちらに向かっていますので、名簿を書いたら少々お待ち下さい。」

検問員が言い終えると、受付かうに着いた真はセーラの後で名簿に名前を書いて彼女に問う。

「どうしてCIAに入ったんだ?」

「死んだガールフレンドへの土産話かしら?」

「違う。改造兵士(バケモノ)と戦うんだぞ。怖くないのか?」

「私が?滑稽ね。改造兵士(バケモノ)の貴方が他人の心配事なんて。でも1つ言えるのは、そこに強い信念があることかしら。」

「俺は人間だ、俺を愛してくれる人達がいる限り。」

真とセーラが会話している最中、"担当の方"らしき人物が笑顔で歩いてきた。その人物は身長が170cm前後で、黒縁の眼鏡に清潔感のあるスーツを着用していた。

「皆様、大変お待たせいたしました。お忙しい中、弊社の見学にお越しいただきありがとうございます。私、"貞衛真里(まさと)"と申します。」

貞衛は笑顔で自己紹介しながら、スーツのポケットから取り出した名刺ケースから名刺を真やセーラに渡した。

「それでは弊社の仕事内容を紹介しますので、私について来てください。」

貞衛は真とセーラを現場へと案内し、通路の先へ移動した。

 

それから数分後、工場の門から入ってきた1台の軽トラックが出荷スペースで駐車した。駐車した軽トラックから、グレーの作業着に作業帽子を被った1人の男が降車し、建物に設置されたビデオ機能があるインターホンを鳴らした。

「すみません、依頼品を引き取りに参りました〜!」

「はぁ。本日は2名しか予約が入れられてませんが。それにアポは取られていないみたいですが、貴方は?」

警備員がテレビ画面を見ながら話していたが、一瞬ノイズが走るといつの間にか男の姿は消えていた。

「あれ?」

警備員がカメラの異常を確かめようと出荷スペースに向かおうとした。その時、パリンと音がした。警備員が音の下方向を見ると、受付のカメラが全て壊されていた。

「おかしいな、最近買い替えたとは聞いたけど。」

警備員が振り返ったその時、彼は驚愕していた。出荷スペースにいた野木が目の前にいたのだ。

「俺は野木健一。改めて委託品を戴くとするよ。」

野木は警備員の眼前に銃口を向け、引き金を引いた。

 

 

1997年9月10日 午後9時 東京 大田区 株式会社シャッガイ本社工場

「バブルや家庭の崩壊に物価高騰…これに対し各国の政府は定職や住所に困っている方々を社会復帰すべく様々な施策を実施致しました。しかしその多くは成果はいまひとつであり、今もや政府に対する期待は地に落ちてるのはご存知なので割愛致します。そこで私達は彼等を受け入れるため設立しました。弊社は国内有数の食品・醸造メーカーとして24時間稼働で貢献しております。」

真とセーラは、貞衛の案内で見学廊下の通路へと連れてこられた。

「次は仕事内容です。時給880円の"リスクの無い仕事"と時給1500円の"リスクのある仕事"の2つがございます。では、ご紹介します。」

真とセーラは、見学廊下に設置された窓から見た。

「こちらは他の食品会社と同じく、原材料の受け入れを行った後に保管、加熱処理、加工、梱包、そして出荷前の品質検査に機器室管理などを行っております。いずれも指示書やHACCPで指定された工程に基づいているため品質に問題はございません。ただし、こちらは変則シフト制なので人によっては少々厳しいかもしれません。」

貞衛の説明の最中、セーラは窓の視界の奥にある何かを見つけた。

「あの巨大なカプセルは何なのかしら。」

「あぁ、あれは"委託品"です。既に完成していまして、現在は出荷待ちとなっております。誰が依頼したかは企業秘密です。次に紹介するのはこちらです。」

貞衛は通路の先にあるドアを開けた。そこは、100人近くのバイトが患者衣を着て酸素マスクに天井から繋がる電極コードを付けられベッドに寝ていた。

「⁉︎」

「こちらは従業員の電気信号を用いて、弊社の工場の電力を賄って戴く仕事になっております。7時間労働のフルタイムとなっており、自由に時間を選べて定時で帰れる都合でこちらを選んだ方が多いです。ただし先程お話ししたように電気信号を用いて電力に変換している関係上、"寿命が縮む"リスクが存在しています。CO2を無駄に排出しない分、地球環境に優しいものとなっている関係で時給も高いです。」

「つまり、原因不明の発作も全てあの装置によるもの_。」

真が言葉を失っている傍、セーラは表情を変えずに対応する。

「流石CIA、察しが早い。」

「あぁ、もううるせーな。てめーらブッ飛ばすぞ。」

1人の青年がマスクと電極を外して起き上がった。

「待って。見学に来た人達だから…。」

貞衛の静止を聞かず青年は真に殴りかかろうとした直前、鼻から血を流して倒れた。

「おい、しっかりしろ…おい!」

「あーあ、だからやめとけって言ったのに。」

「貴様…!」

既に脈が無く白目を剥いた青年を抱えて怒りに震える真に対し、貞衛は呆れる態度を隠しきれなかった。

「私は、ただ自分の職務を全うしているだけです。勿論、面接の際にリスクも話していますし、入社して戴いた方々は了承しております。それなら、この仕事に加わった彼等も財団の一員になりますが?」

真は貞衛からバイト達に目線を帰る。

「君達は財団に利用されているんだ、早く外してここから立ち去るんだ!」

「それがどうかしたの?別に関係無いしー。」

「私達は今お金がいるのよ。お金くれー!」

バイト達は死んだような目で真に抗議する。

「命を削ってるんだぞ…君達のことを愛してくれる人達はどうなってもいいのか⁉︎」

真は溢れる怒りと哀しみの感情を抑えきれず叫ぶ。

「別に。それに俺らのことを対して知らないくせに偉そうなことを言うなよ。」

「そんな事より生活の方が問題だよ。楽して金稼いで好きな時に死んだ方がいいじゃん。」

真とバイトを尻目に、セーラは無線でコマンド部隊を呼ぼうとする。シャッガイの周囲にはCIAのコマンド部隊が配備されていた。だが、スイッチを押しても一向にコマンド部隊が来る気配がない。

「無駄ですよ。この建物自体、無線を通じにくくしてますので。」

セーラは腕を組みながら舌打ちした。

「なぁ新入り、お前もなんか言えよ。」

「…。」

真は聞き覚えのある声の方に目を移す。

「瑠里ちゃん…⁉︎」

患者服を着た瑠里の目元が徐々に涙で覆われ、嗚咽していく。

「…殺したの。…殺したの…殺したの、誰⁉︎」

「…。」

「…パパとママを殺したの、誰⁉︎」

「…!」

真は言葉を失い、動揺した。

「ちっとも嬉しくなかった…もっと友達をつくりたかった…あんな親なんて死んだって悲しくないよ…!なのに…なんで泣いてるの、私…。」

「瑠里ちゃん…。」

「ママが死んだ後に来た怪物、パパを殺した怪物に似てた…。アイツが…アイツがパパの次にママも殺そうとしたんだね⁉︎」

「‼︎?」

真は動揺を隠しきれず煩悶する。

「瑠里さん、お労しい思いをさせて申し訳ございません。彼等は私が返しますので_。」

「触るな!」

真は、瑠里に触ろうとする貞衛の手首を掴む。

「必死に生きているみんなを…お前の道具にするな!」

真は貞衛の手首を掴んだ腕をギリギリ握りしめ、もう一方の手で貞衛を殴り飛ばした。吹っ飛ばされた貞衛は四つん這いで吹っ飛ばされた方の壁に張り付く。その様子を見たバイト達は一斉にどよめく。しかし、殴った真も突然苦しみ顔を隠す。隠した手の中で第3の眼が開き、今にも触覚が突き破れそうになり、眼も赤黒くなる。

「ついて来い、装置を壊されては面倒だからな。」

貞衛はそのままの姿勢で目にも止まらない速さで移動して部屋を出た。

「真⁉︎」

瑠里は患者服の隙間に貼っていた電極を外しながら真に近づく。

「来るな!」

真は瑠里を呼び止め、振り返らず優しく声をかける。

「…ごめん、嫌な所を見せちゃって。」

瑠里は貞衛を追いかけて部屋を出る真を見つめた。

「瑠里と言ったわね。」

「…はい。」

「強くなりなさいよ。そこで死ぬ位なら、ペアレンツの仇討ちを糧にしなさい。」

セーラは服の懐から拳銃を取り出し、部屋から立ち去った。

 

株式会社シャッガイ本社工場 荷捌ルーム

「ここで良い、存分に戦える。」

貞衛は壁から地上に降り立ち、真も超人的な走力で走りながら怒りの蟲へ変貌し追いつく。

「自らの命を売る人間、そして"家族を殺した"とお前を疑う人間…お前はそんな連中のために戦うのか?」

「…!」

「そう。なら、お人好しのお前に教えてやろう。私にあの委託品を頼んた顧客…それは政府だ。」

「⁉︎」

貞衛はスーツの袖から落ちてきたホルモン剤のシリンジを掴む。稚内でグリゴリーが用いたものと同型であった。貞衛は胸に押し当て注入すると、彼の身体から青白い光と煙を放ちながら肌が白く溶けるように崩れ、赤黒い血管が体表を覆っていく。漆黒の体毛に透明の翅が生え、赤黒く染まった両目が肥大化。さらに筋肉も盛り上がり、口が縦に裂け、表皮も段々黄色がかった茶褐色へと変化していった。

怪物は奇声を上げながら羽音を上げながら飛び上がり、真に突っ込んでいく。真も怪物の突進を飛び上がって回避し、5m位まで積まれたプラスチックのパレットに着地する。

 

その頃、セーラも真を追って荷捌ルームに向かっていた。ものの試しとしてコマンド部隊に何度も連絡を発信していた。

「おい、そこで何している⁉︎」

巡回している警備員を一蹴し、セーラの無線は荷捌ルームの扉の前でついに繋がった。

「これより各隊は行動を開始。駆逐する改造兵士は2体。見つけ次第私に報告し、応戦もしくは抹殺せよ。」

 

一方真も怪物と戦闘を続けていた。相手が理性が保たれていないせいでまともな格闘ができないというのもあり、真が圧倒していた。怪物が羽音を上げ飛び上がり、体当たりを仕掛けるものの真にすぐいなされた。パレットや段ボール箱の山に放り投げられた怪物は、疲労や頭部を強打したのもあってかかなりふらついて立ち上がった。怪物は奇声を上げながら今まで以上にのスピードで真に突っ込み急上昇し、彼らは上空で格闘を繰り広げていた。

その最中、地上から何かが射出される爆音が聞こえた。真は下に目をやるとそこにはセーラやCIAのコマンド部隊がいて、彼女が発射したロケットランチャーの弾頭がすぐそこまで迫っていた。真は怪物の腹部に強烈な両足蹴りを叩き込み、怪物の手足から振り解いた。打ち上げられた怪物はそのまま弾頭に被弾し爆散。バラバラの破片は燃えたまま工場に落下し、施設全体が黒煙と烈火に覆われる。真もセーラ達の視界から消えるように爆発の余波に隠れるよう建物に急降下する。

 

「どうします、追跡しますか?」

「私と他4人で真を追う。残り4人は民間人の救出を。」

CIAは二手に分かれ、セーラ達は真を捜索した。

 

1997年9月10日 午後11時 東京 中野区 中野三丁目 住宅街

雲1つない夜空の下、閑静な道路をアクセル吹かせながら真はタンデムシートに瑠里を乗せたバイクを走らせていた。真はシャッガイの警備員のユニフォームを着ていたが、ヘルメットは1個しか無かったため安全のために瑠里に被せていた。

「…ねぇ、なんで助けたの?あと、私をどこへ連れて行くの?」

瑠里が後ろから真に話しかける。

「俺も、君と同じなんだ。」

「同じ?」

「俺も母さんも物心がつく前に亡くなったし、俺を愛してくれた人や親父すら救えなかった。その後、居場所を探そうとした度に周りから受け入れられず嫌になったこともあった…。」

「真…。」

「でも俺と同じような人に会ってから変わった。ただ逃げてるだけじゃ変わらない、助けを求める誰かの元へ行かなきゃって。だから君達を救えてよかったし、アイツの言ってることは正しいと思いたくない_!」

真が瑠里に語る最中、目的地に着いたためか道路の途中で真はバイクを止め降りた。

「ここは…!」

瑠里が思わず声を発した。そこは『結城サイクルショップ』があった。

(今、君を受け入れてくれるのは彼しかいない。)

真は心中で呟きつつ、ドアを叩く。

「全く、今何時だと思ってるんだ。営業…真⁉︎瑠里ちゃんも⁉︎」

結城は愚痴りながらドアを開けた途端、真や瑠里がいたことに驚きを隠せずにいた。

「怪我は大丈夫⁉︎火傷はしていないかい⁉︎」

「切り傷だけだから大丈夫だよ、オジさん。」

結城はホッと一息付くと、真から託された瑠里を店内に入れた。

「事情は後で話す、今は瑠里ちゃんを。それじゃ…。」

「待ってくれ、真!」

結城は彼を呼び止めた。

「あの時、頭の整理ができなくてお前にキツく当たってしまったじゃないか。あれからずっとお前にどう謝ろうと考えたんだ…。だから、本当にすまなかった…。」

「結城…。」

「でも…だからこそ言わせてくれ。真、『ここに住んでくれ』。例え言いづらい事情があったり、世界中が敵になろうとも、俺がお前の居場所になってやる!」

結城の言葉に思わず目頭が熱くなる。

「…あぁ、頼む!」

 

1997年9月10日 午後11時 東京 大田区 株式会社シャッガイ本社工場 門前

「あーあ、楽だったのになー」

バイトの女性は1人が助けてもらったことに感謝もせず愚痴を溢していた。

「さっさと乗れ。でなきゃ置いていくぞ。」

「はぁーい。」

CIAコマンド部隊の隊員の1人に叱られた女性は気だるそうに返事をして、軽トラックの荷台に乗った。他のバイト達も別の軽トラックの荷台に乗っては去っていく。

『生存者の救助が完了しました。救助活動を続けますか?』

「分かった。それで、"委託品"の所在はどうしたの?」

『"委託品"?それらしいものは全く見当たりません。』

「いいわ、すぐ戻りなさい。」

セーラは無線を切る。

(私達より先回りしてあのカプセルを回収した以上、財団との内通者がいることになる。随分手の込んだ真似をしてくれたわね。)

満月の夜空の下、サイレンが鳴り響く。

 

Cell Ⅲ telophase

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