Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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八王子の廃遊園地で、人間がミイラになって変死する事件が起きていた。一方結城は、ニュース番組の現地リポートの映像に叔父である幹蔓が写っていることに驚く。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
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・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Cell Ⅳ:Junkie

1997年10月30日 午後9時 東京 八王子市

閑散としている廃遊園地。『八王子オータムランド』と看板が描かれたそこは闇夜と分厚い暗雲に包まれ、雨が激しく降り注いでいた。入口には、「立入禁止」と書かれた古寂れた金属板や金網、黄色と黒の規制テープが設けられていた。

そこに1台の車が入口の手前で停車し、開く車のドアから大音量のヘヴィメタを流しながら2人の男女が降りた。男女共に19〜20歳位で、2人ともタトゥーや耳にピアスをするなど派手な出立ちであった。

「なんか看板があるよ?」

「それがどうしたんだよ。行こうぜ。」

2人は金網の扉を蹴ってこじ開け、廃遊園地に入っていく。

「ねぇ、やっぱ戻ろうよ。何か怖いよ。」

女性は不安な表情で、一緒に歩く男性に話しかける。

「うっせーな。有名な心霊スポットだから行きたいって言ったのはお前じゃねーかよ。」

男性は、飲み切れていない缶を投げ捨てながら鬱陶しそうな表情で突き放すように言う。

「だってさ、そこまで怖いとは思ってなかったし…。」

突然、背後から"何か"が落ちる音が聞こえる。女性は男性の腕にしがみつき、男性も後ずさる。2人は振り返って恐る恐る見ると、それはミイラとなって全身が腐敗しきって蛆虫が湧いている人間の死体であった。命の火が灯されていないその眼の視線は男女の方に向いていた。女性はおもわず悲鳴をあげ、男性も顔を青ざめる。

「静かにしろ!」

男性が視線の反対方向に振り返り女性を連れて進む。見晴らしの良い場所が見えてきた。だが、そこには老朽化して色褪せ、所々に錆ができた観覧車やメリーゴーランド等のアトラクションの設備があった。しかし、その静けさは返って得体の知れない不気味な様相を醸し出していた。

「もう嫌だよ、帰ろうよ…!」

女性が男性の腕をゆさりながら言う。その時、更に奥の闇の中から蔓のような黒ずんだ緑色の触手が際限なく伸びてくる。触手は男女に向かって伸び、男性は恐怖に駆られ女性を突き放す。四肢と胴を絡め取られた女性は、悲鳴を上げながら闇に引き込まれる。男性は絶叫を上げながら来た道に引き返そうと全力疾走する。しかし、いくら走ったところで入口まで辿り着かなかった。

「どうなってんだよ⁉︎」

男性の表情に余裕などなかった。だが、無我夢中に走っている最中、男性は転倒する。男性は足元を見ると、右足首を触手に捉われたことに気づく。右足首から徐々に生気が奪われ怯えていたが、触手の根本の方に視線を向け断末魔のような悲鳴を上げる。だが、その助けを求める声も雷鳴と豪雨に遮られた。

 

 

1997年9月17日 午前10時 東京 中野区 成願寺 長者閣

日差しを一切通さない鉛色の空、雷鳴と共に豪雨が降り注いでいた。まるで誰かの死に対して慟哭するかのように。

寺社の室内では、瑠里の母親の葬儀が行われていた。仏壇に飾られている母親の遺影に、かろうじて見つけられた遺体が納められた棺桶が、住職と参列者である瑠里と真、結城の3人の目の前にあった。

いつに無く暗い表情の瑠里の方を優しく叩く結城に、それを儚げな表情で見る真。木魚の叩く音と祈祷を唱える住職の声しか聞こえない部屋の中、真は1週間前の出来事を思い出して顔を俯かせていた。

 

1997年9月10日 午後10時 東京 大田区 株式会社シャッガイ本社工場

受付カウンター、機関室、生産ライン…貞衛"だった"肉片は燃え続け、宙から工場の様々な場所に落下する。落下地点から爆発・炎上し、施設全体が火の粉を舞い上がらせながら黒煙と烈火に覆われる。その光景はまるで地獄がこの世に顕現したかのようだった。

上空からその光景を目の当たりにした真は、急いで屋上に急降下する。降下地点にもセーラ達がいるかもしれない、そう思った真は着地と共に工場の建屋を潜める。だが、真の気管支に黒煙が徐々に入り込み、視界が遮られる。飛蝗の遺伝子を組み込まれ超人的な力や生命力を得たからって、人間としての限界がある。それに今の姿は素面に裸一貫である。呼吸困難に一酸化炭素中毒になるのも時間の問題であった。

真は、なるべく煙を吸わないよう施設の廊下を駆け抜ける。だがその道は迷路のようになっており、気付くと受付に到着した。同時に真は受付で倒れている守衛を見つけ、急いでドアノブを破壊して受付に入る。守衛は左胸から大量の血を流し、うつ伏せになって倒れていた。真は守衛の右手の脈を測ったものの、守衛は既に事切れていた。

 

機器室。辺り一面白色の壁に黒の床タイルが敷き詰められ、天井から繋がる電極コードに100台以上あるベッドが特徴的なこの部屋も地獄の様相に変わり果てていた。電極コードやベッドからそれぞれ、線香花火のような火花や業火と黒煙を放っていた。コードに繋がったままの者は火達磨となって倒れ伏し、それ以外の者も咳き込む者やベッド下に隠れている者もいた。

その最中、突如クランプの壊れたドアを破壊しながら入ってくる影があった。怒りの蟲への変身を解き、守衛の上着やズボン、靴を着用した真だった。真は煙や炎を掻き分けながら瑠里を探し、数十メートル先に瑠里が倒れているのを見つけ出す。真は力の加減に気を遣いながら、瑠里の肩を優しく叩く。

「瑠里ちゃん、瑠里ちゃん!」

返事のしない瑠里に対し、真は瑠里の患者服の胸元部を開き、左胸に耳を当てる。ドクン、ドクン。儚くも打ち続ける鼓動を聞いた真は、煙が薄い隙間に退避し人口呼吸を実施する。

「…あれ、真?」

瑠里が目覚めるのをみて真は安堵の表情を浮かべる。だがその時、複数の人間の足音が聞こえた。真達が気付く頃には遅かった。彼等の眼前には、ガスマスクを被りマシンガンを携えた4人のコマンド兵士に1人の女性のコマンド兵士がいたのだ。女性兵士の姿をしたセーラは顔にガスマスク、背中にロケットランチャーを背負い、右手には拳銃が握られていた。

「見つけたわ、あの時(5年前)の借りを返してあげる…Fire!」

セーラは部下に指示を出すと、瑠里を下がらせる真に機銃掃射を行う。その刹那、真は足元にあった消火栓をセーラ達に投げつける。消火栓は弾丸の雨を喰らって撃ち抜かれた孔から消火剤を吹き出し、それがセーラ達の視界を奪う。真はその隙を突き、瑠里を抱え一目散に逃亡する。

「Wait!」

セーラは消火剤の煙幕を突き進みながら真の後を追おうとする。だが、煙幕がなくなる頃には真達の姿は無かった。セーラは思わず舌打ちをする。

「追跡しますか?」

「駄目よ、完全に取り逃した。これ以上は建屋が持たないわ。民間人救出を最優先にして。」

「了解。」

セーラが指示を出す様子を、物陰に隠れていた真達は見つめた。その後、真は瑠里を抱えたまま音を立てないように急いで駐車場に向かい、バイクに乗って一目散に工場を後にした。

 

1997年9月17日 午前10時半 東京 中野区 成願寺 長者閣

シャッガイでの出来事を思い出し終えた頃には、既に住職が唱え終わっていた。同時に、外で降り注いでいた雨は止んでいた。

(お母さん、安らかに眠って下さい。瑠里ちゃんは俺が守ります、例え俺自身が瑠里ちゃんに拒絶されたとしても_!)

真は、棺桶に眠る遺体を見つめながら心の中で呟いた。

 

1997年10月31日 午前7時半 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

葬儀の日から時は過ぎた。窓から陽光が眩しく照らす2階の寝室。ジリリリ、と鳴り響く目覚まし時計を瑠里は手で押さえ、あくびをしながら体を伸ばす。台所に向かうとキッチンで割烹着を着て調理していた真と、台所のテーブルの椅子に腰掛けていた結城がいた。

「おはよー、オジさん、真!」

瑠里は元気よく挨拶する。

「おはよう、瑠里ちゃん。」

「おはよ、瑠里ちゃん!いつも以上に元気だね。」

真と結城が瑠里の挨拶を返す。

「うわぁ、何これおいしそう!」

瑠里はテーブルの椅子に腰掛けると、テーブルに広がっている朝食を嬉しそうに見渡した。メインとなり、ハロウィン限定商品として出す予定の『ハニーパンプキントースト』にスクランブルエッグ、彩りサラダ、ホットココア、ヨーグルトが3人分あった。

「すごいだろ、作ったのコイツなんだぜ?お前にこんな才能があると思わなかったよ。」

「へー、真って料理が得意なんだね。」

「1人暮らしや旅をした時に調理補助の仕事をしていてね。学生の時には栄養学を少し学んでいたけど、まさかここで活かせるのは驚いたよ。」

「じゃあ食べていい?いただきます!」

「あぁ、召し上がれ。」

瑠里がトーストを耳から食べ始める。

「んん〜何これ超おいしー!」

瑠里は真の料理を嬉しそうに口に入れる。その様子を真は微笑みの表情を見せた。それは、久々に見せた真の笑顔だった。

「ところでオジさん、なんでこの店を始めたの?」

「あれ、前も話さなかったっけ?」

瑠里の問いに結城が返事する。

「前聞いたとき、『後で話す』って言ったじゃん。それに今は真もいることだし、話してもいいじゃん?」

「結城、俺も気になってたんだ。」

瑠里と真の言葉を聞き、結城は少し苦笑いをする。

「バブル崩壊で資金繰りが難しくなって、スポーツクラブが潰れたんだ。ホテルマンとか色々と職を変えたが、中々馴染めずすぐ辞めまくったけどな。」

「そこで拾ったのが、"叔父さん"なんでしょ。」

「そう。淹れ方から運営まで教えてくれた上に、店内で流している曲も叔父さんがギターで弾いたものだしな。まぁ、今でも中々上手くいかないけどね。んで、他に雇う奴がいなくて結局俺に店を任せて出て行った訳。」

瑠里と結城の会話を真は見ていた。

「ごちそうさま。ありがとう真、明日もまた作って!」

「あぁ。」

瑠里は真の料理を食べ切り、手を合わせる。そして歯を磨いた後、自分の部屋に戻って鏡台の前で学生制服に着替える。シュシュを結び、学生バッグを持って家を出ようとする。

「あ、待って瑠里ちゃん。」

「?」

真は玄関から外に出ようとした瑠里を呼び止め、瑠里に弁当とプラスチックの使い捨てスプーンを渡す。

「え、弁当も作ったの⁉︎うれしー!」

「今日の朝ご飯の残り物だけど、良かったら食べて。」

「ありがとう!じゃあ行ってくる!」

「行ってらっしゃい。」

真は瑠里を見送り、同時に食べきった結城の分も片付ける。結城は別のテレビ局にチャンネルを回す。

『東京都の八王子で、またミイラ状の変死体が発見されました。現場の中継をお願いします。』

テレビ画面がニュースキャスターが座っているスタジオから、リポーターのいる八王子へと切り替わる。2人とも30代後半の男性であった。

『はい。現在、八王子の駅から離れた人気の無い廃遊園地にいます。昨夜、近くの住民が入口で死体を発見しました。死体からは特に目立った外傷が見られず_。』

「⁉︎」

結城はリポーターの後方の奥から人の姿を見つけた。それは毛髪の無い坊主頭に、グレーがかった黒のスーツに焦茶色のロングコートを羽織っていた。

「結城?」

「"叔父さん"…!」

結城は驚きのあまりにテレビ画面に釘付けになっていた。その直後に結城はふと我に帰り、真の方に向いて話を始める。

「…さっきの話の続きになるが、不治の病に患っていてな。それを言ったのがここを託す直前だった。挙句、『昔働いていた遊園地の近くで、残りの人生を過ごしたい。』と言ってさ。全く、今思うと自由気まま過ぎるよあのおっさん。」

「分かった、俺が探してくる。」

「おい、危ないってニュースでもあったろ⁉︎」

「俺のことは心配しないで、ここを頼む。」

「真⁉︎」

真は飛び出すようにドアを開けて外に出る。そして1階の車庫にあるバイクに跨り、八王子の廃遊園地に向かった。

「ったく、いつも勝手に話を進めやがって…。」

結城は戸惑いながら冷蔵庫を見る。

「あいつ、いつの間に。」

既にカフェで出すメニューが半日分できていた。

 

1997年10月31日 午前8時半 東京 八王子市 八王子オータムランド跡地

真は事件現場に到着し、ヘルメットを外して黄色と黒の規制テープの前に立った。しかし、前方は数台のパトカーに数名の刑事や警察官、複数枚の規制テープが貼られており、各テレビ局の報道陣が警察に抑えられ、交通もギリギリ渋滞にならない様相であった。

「こんな田舎町にも顔を出すとはね。」

「セーラ⁉︎」

右方から聞き慣れた声がしたため真は振り向くと、そこにはセーラがいた。

「今回も目当(ターゲット)は貴方と一緒かしら?」

セーラは掌サイズの写真を真に渡す。

「それは…⁉︎」

真は写真を見ると、それはテレビ画面に映っていた坊主頭の人物であった。

「結城幹蔓(みつる)。八王子オータムランドの元社長で、社員数が少なかったためかテーマパークのスタッフや振付師も行っていたそうよ。けど、実利に伴わないアトラクション増設などによる資金繰りが原因で閉園。その後、都内で喫茶店を開いてから消息を断ってそれきりよ。」

「…なぜそんなことを俺に?」

「決まっているでしょ?"財団"絡みの事件とあらば必ず貴方が現れ、手がかりを探す。その際、事件の犯人共々貴方を消す。これほど合理的なことが他に無いかしら。」

「そうであっても、俺は死なない。」

「それは結構。今夜8時決行、場所はここ。招待状としてはこんなところかしら。命が惜しくなければ、手厚くもてなしてあげるわ。」

セーラは踵を返し黒塗りの自動車に乗ってその場を去った。真も複雑な表情でその場から離れ、バイクに跨り去っていった。

 

1997年10月31日 午前9時半 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

真は1階の車庫の手前でバイクを停止させ、そのまま降りる。手でバイクを押しながら車庫に入り、駐車スペースにバイクを停める。階段を登り、ドアを開けて入ると、結城の所へ向かった。

「おお真、お帰り。お前が作った料理が大絶賛で午前の分が後少しだ。悪いが、午後の分も作ってくれないか?」

「え、もう?」

「いやぁ、先週から『新商品を出します!』ってアピールしてよかったよ。今までより来店する客が多くてさ。行列って程じゃないが、これ位来てくれれば赤字の補填ができるよ。」

真は結城の変わらない様子に安堵の表情を浮かべる。

「ところで真。お前、叔父さんとは会えたか?」

「いや、全然。」

「そうか、余計な世話を掛けちまったな。一休みしたらよろしく頼むよ。」

「分かった。」

真は自分の個室に戻った。同時、ベルの音と共にドアが開く音がした。

「いらっしゃい、何をお頼みで?」

結城はカウンターからドアの方向に視線を移すと、そこには野木がいた。

「ここが例の店ね。すみません、ブラックコーヒー1つにハニーパンプキントースト1つお願いします。」

「はい、かしこまりー。」

結城はブラックコーヒーを淹れつつ、在庫から指定されたメニューをカウンターにいる野木の前に出す。野木は右手でブラックコーヒーを一口飲み、左手でトーストをサクッと一口食べる。

「これは中々美味い。コーヒーの苦味と、蜂蜜とカボチャの甘味が絶妙なバランスをもたらしている。もっと宣伝すれば行列はできるだろうね。」

「ハハハ、買いかぶりすぎですよお客さん。」

結城は照れながら答える。野木は紙切れ1枚をカウンター前に出す。それには電話番号に住所らしき場所、日時が黒のボールペンで記載されていた。

「それは?」

「人を探しているのでしょ、マスター?書いてある時間と場所に行けば会えるよ。」

野木は言い終えるとそのまま食べ進め、結城は紙切れを見る。

「⁉︎」

結城は言葉を失った。そこは幹蔓の電話番号と八王子オータムランドの住所が書かれていた。

「ご馳走さん、気が向いたらまたここに来るよ。」

食事を済ませた野木は、固まっている結城を尻目に金を置いていきそのまま店から出た。

「結城?」

「…⁉︎あぁ悪いな真、少し席を外すから、ここ頼むわ。」

結城は急いで我に返り、カウンターの下にあるゴミ箱に紙切れを丸めて捨て自分の個室に行く。その様子を、真は心配そうに見つめていた。

 

1997年10月31日 午後5時半 東京 八王子市 八王子オータムランド跡地

日が沈みかけ、闇に包まれようとしている跡地に1台の白い軽トラックが遺体があった現場を避けながら入口手前で止まった。軽トラックのドアが左右から開くと、グレーの作業着を着た男性2人が降車した。

「うわー。前に友達とドライブしに行った時に通り過ぎたけど、相変わらず気色悪いなー。」

「あぁ、なんせここって『訪れた人は死ぬ"呪われた遊園地"』として都市伝説にもなってるからさ。しかも最近また死人が出たみたいだし。」

「でもどうしてこんな所を壊してゴルフ場を作る話になったんだよ。」

「俺も気になってたんだよ。周りからは『命が惜しかったら口をするな』って言われて聞けなかったけど、噂によると依頼主は政治・経済・文化に精通していて、本社はアメリカのニューヨークにあるらしいんだよ。」

「何だよそれ、派遣会社にしてはスケールがデカいな。」

2人は不安を隠しきれない表情して、携帯している懐中電灯を灯し会話しながら入口から入る。

「ん?」

男の1人が何かに足をぶつける。

「どうした?」

「いや、なんか妙に硬いのか柔らかいのかよく分からないものが足に当たったからさ…。」

男達は懐中電灯を足元に照らし、恐怖の余りに叫んだ。そこには、先日体液を吸われて白目を剥き腐り切ったカップルの女性の死体があった。

「都市伝説は本当だったんだ…!」

男2人は一目散に逃げようとする。しかし、緑黒い触手が朽ちたアトラクションの隙間の闇から際限なく伸び、断末魔のような呻き声を上げる。だが、それは虚空へと消えた。

 

 

1997年10月31日 午後7時 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしています!」

学校から戻った瑠里が、本日最後の来客に挨拶する。帰ってすぐ結城を手伝っていたためか、カーディガンを脱いだ制服の上から割烹着を着ていた。

「お疲れ瑠里ちゃん。今日もありがとね。」

「そっちもお疲れ、オジさん。」

キッチンから声がけをする結城に、瑠里が返事をする。

「あ、そうだ。今日は俺が食材を買いに行くよ。」

「へぇ、珍しいこともあるんだね。お腹すいたから、早く帰ってきてよ。」

「分かってるって、じゃ店をよろしく!」

結城は車庫にある自分のバイクに跨り、ハンドルに引っ掛けたヘルメットを被る。バイクのエンジンを点火し、そのままバイクを走らせた。

「あれ、結城は?」

バイクの修理を済ませた真がカウンター前に出てくる。

「今、丁度買い出しに出たとこ。いつも真か私に行かせてるのに。」

「え?」

真は思わず声が出た後、結城が急に席を外したことに対し何か思い当たることを模索していた。

 

『今夜8時決行、場所はここ。招待状としてはこんなところかしら。命が惜しくなければ、手厚くもてなしてあげるわ。』

『…⁉︎あぁ悪いな真、少し席を外すから、ここ頼むわ。』

 

「…まさか!」

セーラと結城の言葉を思い出し、真はカウンター下のゴミ箱を漁り出す。

「何してるの、真?」

瑠里が真に尋ねるものの、今の真には瑠里の言葉は聞こえなかった。

「…やっばり…!午後8時、場所は…!」

真は、ゴミ箱からクシャクシャに握られた1枚の紙切れを取り出した。それには幹蔓の電話番号と八王子オータムランドの住所、そして待ち合わせの時間が書かれていたのだ。

「瑠里ちゃん、結城を探しに行ってくる!」

「あ、ちょ待って真⁉︎」

真は急いで店から飛び出す。車庫にある真のバイクに跨り、車庫から出る。

「…たくもー、って全部私がやるわけー⁉︎」

散乱しているテーブルの皿を見回して、さらに当日分の会計をしなければならないことに瑠里は心底呆れていた。

 

1997年10月31日 午後7時55分 東京 八王子市 八王子オータムランド跡地

闇夜に包まれた跡地。1台のF-3型特型警備車が遺体のある現場や白の軽トラック、そして1台のバイクを避けながら、入口の金網に突っ込みながら停車する。警備車の荷台にある扉が開くと、コマンド部隊の兵士達が8人ほど降車。さらに警備車の先頭の右のドアから、コンバットスーツを纏い、拳銃とロケットランチャーを武装したセーラが降車する。

「私と他4人はそのまま進む。残り4人は生存者の探索を実行しなさい。」

「了解。」

CIAは二手に分かれ、周囲の探索を始めた。

 

それから約5分後、真のバイクが遅れて跡地の入口まで来て停車する。ヘルメットを取って周囲を見渡すと、入口の金網に突っ込んでいる特殊車両に結城のバイクがあることに気づいた。

「遅かったか…。」

真はCIAに見つからないよう、アトラクションに飛び移りながら結城を探した。

「結城、お前を死なせはしない…!」

 

1997年10月31日 午後8時 東京 八王子市 八王子オータムランド跡地内

CIAの工作員の数人が見回る最中、その1人が真上に何かが横切る気配を感じた。

「どうかしたか?」

「いや、なんか真上に何かが横切ったような…。」

残りが周囲を見渡す。

「誰もいないぞ。」

一人が首を傾げながら見回りを続ける。その様子に真は安堵した。

 

その頃、歩みを進めるほど深くなっていく霧の前を進む人影があった。

「確かここだった筈なんだが…。」

結城は隠しきれない不安な表情を見せながら、真っ直ぐ歩っている。そのとき、霧の中から1人の男の姿があった。

「…おい、待てよ!」

結城は幹蔓の影を追う。すると霧が晴れ、視界がよく見えるようになった途端に雑木林が見え始めた。結城は幹蔓の影を追い、獣道を真っ直ぐ走る。

 

「夜空の星々だけはちっとも変わらんのう。やはり、ここも無くなってしまうんか。」

幹蔓は湖を囲う木々と芝生に腰掛けていた。憂いた表情で虚空に輝く光を見ている最中、誰かがこちらに向かって走る音がした。

「…卓也!」

「叔父さん…なのか⁉︎」

幹蔓は息切れしかけている結城の方に視線を向け、ゆっくり立ち上がる。結城は幹蔓が眼前にいることに今も信じられずにいた。

「…俺はアンタに話があって来たんだ。店を任せた後、今まで何やってたんだ?ここで起こってる事件と何か関係しているのか?」

「…何を言い出すかと思えばそんなことか。」

「そんなこと…何年も連絡よこさなかったら気になるだろ?」

結城は幹蔓に問い詰める。

「覚えとるか。ここは勿論、あそこには綺麗な川の流れが、その向こうにはアサガオの花畑が…お前も含め町中の子供は笑顔で楽しんでた。その姿を見てわし達は『もっと楽しんでもらおう』と勇気付けて貰えた_!」

幹蔓の脳裏に楽しかった頃の記憶が蘇る。子供達が一緒に自分が運営していた遊園地でゴーカートに乗って一番早くゴールしたこと、お互いに川の水を掛け合ったこと、そしてアサガオの花畑で結城が自分に花飾りを作ってくれたこと…いずれも彼にとってはかけがえのない財産であった。

「だが、わし達がいくら手を尽くそうとも都会には敵わんかった。ここも閉園して、川も畑も全部道路やビルになった…。まるで夢のようじゃ。資金繰りで開いた喫茶店も結局体にガタが来て、お前に託し連絡をしなかった。それに関してはすまないと思っておる…。」

幹蔓が謝る姿に、結城は思わず動揺する。

「わしがここに戻った後、土地開発は仕方ないとして何とかここを復活させようと自治体や市役所などに駆け寄った。だが誰からも相手されず、さらには遊び半分でここを荒らす奴らも現れた!私は止めようとしたが、逆に半殺しにされこの湖に投げ捨てられた…だがそのとき、不思議なことが起こった_見ろ!」

幹蔓は量拳に力を込めると、服の隙間から複数の緑黒い触手を伸ばす。触手は木の枝に隠れていた何かを引き摺り出そうとし、何か人間大の陰が落ちて来る。木に隠れていた真だった。真が乗っていた樹木は枝から腐り果て、枯死した。この様子に結城は絶句した。

「真⁉︎…嘘だろ、まさかアンタがこの事件を⁉︎」

「そうだ…あの時わしが湖に投げ捨てられた時、何者かからわしの頭の中に話しかけられてな。『ここを守る力を授けてやる』と言われ、わしは頷き力を手にした。すると病や倦怠感が一気に取れ、力を手にしたのじゃ。ここすら奪おうとする奴を倒す力を…!」

結城と、彼を庇う真は思わず息を飲む。

「だが、次第に冷静になって気付いた。わしは人を殺し過ぎた。卓也、今のわしは危険だ…もう帰れ。」

幹蔓は悲痛な表情で絞るような口調で呟く。

「そう、今のあなたは危険。むしろ全人類にとって災いを齎す存在なのよ。」

幹蔓は声の方に顔を向ける。だが、彼が気付いた頃には既に銃声と共に眉間が弾丸に撃ち抜かれていた。彼の目の前には、拳銃の撃鉄を引いたセーラが立っていた。そしてコマンド部隊が一斉に現れ、射撃態勢に入る。

「Fire!」

セーラの掛け声と共にコマンド部隊のマシンガンが一斉に火を吹く。鉄の豪雨を受けた幹蔓は、受けるがままに死の踊りを舞い倒れ伏す。そしてセーラの終了の合図と共にコマンド部隊の射撃が終わった。

「…待てよアンタら。」

結城がセーラに呼びかけ、セーラも視線を結城の方に移す。

「…アンタら、なんでそんな涼しい顔ができるんだよ⁉︎」

「見たでしょ。身体の一部を伸ばして、栄養を吸い取る人間なんていない。それが人間じゃないのならどう説明がつくのかしら。」

「だからって…だからって簡単に殺していい訳ないだろ!叔父さんはここを荒らす奴らが許せなかっただけだ…ここを大事にして静かに暮らしたかっただけなんだよ!」

「!?」

結城の言葉を聞いて真は動揺し、その余りに大量の脂汗を流し、あらゆる感情がごちゃ混ぜになった。確かに幹蔓は人々を次々と殺した。しかし、彼が殺した人々はいずれも遊び半分で荒らしたり、土地開発で彼の最後の居場所を潰そうとした者達であった。

もし真が幹蔓の立場になったら、父・大門や愛だけでなく新も、結城も、吾郎も、そして瑠里も全て財団に奪われたら_!真にとって、その場で血を流し倒れている男は自分の可能性であった。

「叔父さん…⁉︎」

幹蔓は、血だるまになった身体をぎこちなく起こす。

「…許さん…何もかも、この手で叩き潰してやる!」

立ち上がると同時に幹蔓は殺意に満ちた眼差しでCIAを睨みつけ、虚空に向かって雄叫びと上げる共に両拳に力を込める。すると服の隙間から伸びた触手と蒸気が全身を包み、頭部に1対の角が生えたような2m前後の悪鬼のような怪物へと変貌した。顔や全身が針金のように緑黒い触手が巻き付けられ、表情を読み取るのが困難であった。

「人間以外の生物をベースにした改造兵士が既に作られていたなんて…。全員、散開し一斉攻撃!」

「了解!」

セーラの合図と共にコマンド部隊が散らばり、怪物に一斉射撃を行う。だが先ほどとは異なり、触手で覆われたその身体は弾丸がめり込むものの弾かれる。そして全身からの触手にコマンド兵士のうち2人が捉えられ、断末魔を上げながら体液や養分が吸い取られミイラとなる。怪物はミイラを放り投げつつ、伸びる触手を振り回して木々を薙ぎ倒していく。

「危ない!」

真はその場に立ち尽くす結城を咄嗟に庇い、触手の一撃を喰らって雑木林の闇に吹っ飛ばされる。その裏で、真は怪物を倒すべきか苦悩していた。しかし迷いを振り切り、怪物を倒さなくてはならなくなった状況に憤る。真はその怒りで"怒りの蟲"へと変貌する。

一方セーラもすかさずロケットランチャーで引導を渡そうとするが、触手に遮られて落としてしまう。セーラ達はやむなく拳銃やマシンガンで怪物に応戦しつつ、ロケットランチャーを回収しようとする。

「やめてくれ…もうやめろぉーッ!叔父さーん!」

結城に呼びかけられた怪物に呼びかける。

「これ以上人々を殺してもダメなんだぞ…もう村は、戻ってこないんだぞぉーッ!」

怪物は、結城に再度呼びかけられてピクリと動かなくなる。怪物は結城の方に振り向くと、結城の背後には綺麗な河原にアサガオの花畑があった。怪物の顔面に当たる場所から徐々に涙のような水が出て、虚空に向かって雄叫びを上げ、全身の触手を何度も地面に叩きつける。それはかつての故郷が無くなったことに対して慟哭しているようだった。

真はすかさずセーラのロケットランチャーの元まで跳び上がり、弾頭を取り出す。そして触手を避けて飛び上がり、怪物に向けて弾頭を投げつける。だが怪物は回避しようとせず両手を広げてそのまま喰らい、爆発し炎上する。

「‼︎?」

その場にいた怪物以外の全員が動揺した。怪物は湖に倒れ込み、身体が燃え尽きるまで浮かび続けた。その様子はようやく安息の時が訪れ、長い眠りにつくかのようだった。

「叔父さん…叔父さぁーんッ!!」

結城が呼びかける声が雑木林の山々や、星々が輝く夜空に響き渡った。そして怪物の亡骸は湖の奥底深くまで沈み、代わりにアサガオの花飾りが浮かび上がっていた。

 

1997年11月1日 午後1時 東京 八王子市 八王子オータムランド跡地内

あれから数時間、結城は真や瑠里を連れて今も幹蔓が眠ってる湖にアサガオの花束を浮かべる。そして3人で幹蔓を供養し、結城は心の中で彼に語りかけた。

(俺、叔父さんの分まで生き続けるよ。例え誰かに忘れ去られたり、取って変わられたとしても_!)

その裏で、重機の駆動音や地面の掘削する音が響き渡る。

 

Cell Ⅳ telophase

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