Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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瑠里は、裕美の後押しもあって疲弊した真を気遣いクリスマスデートを申し込む。
一方財団社長も後がなくなり、最強の改造兵士を刺し向けて真の抹殺を目論む。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
この作品には以下の要素が過剰に含まれています。それらに拒否反応を示すなら、コメント欄等で荒らし行為などをせずにブラウザバックして下さい。
・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Cell Ⅵ:Rejection

1997年12月20日 午後7時 エストニア ナルヴァ

空一面が雲に覆われ雪が降り注ぐ夜空の下、新雪やアイスバーンに覆われていない幹線道路を複数の戦車が走り抜ける。目指す方向には森があり、そこは辺り一面を焼き尽くすほどの炎を上げていた。

戦車は木々を薙ぎ倒しながら、新雪が降り積もっても炎が燃え盛る森の中で停車する。戦車の出口からマシンガンを携えたコンバット兵士が数人出てきて、森の中から出てくる"怪物"に銃撃を浴びせた。怪物は弾丸を何十発受けても襲い掛かり、鋭い牙を生やした口で先頭にいた隊長の兵士の首筋に噛み付く。だが、隊長の首筋から血液は出なかった。

隊長は顔の皮膚を引きちぎり、軀を肥大化させ金属と人工筋肉が混ざり合ったような姿になりながら怪物を殴り飛ばした。右手も鋭利な刃と長く伸ばした2本の鉤爪状へと変化し、"改造兵士(サイボーグ・ソルジャー)Lv.2(レベル2)"となった。

隊長は襲いくる怪物の口元を掴んで握りつぶしながら首から心臓にかけて右手で切り裂いた。怪物は、大量の鮮血と(はらわた)をぶちまけながら断末魔を上げ息絶えた。隊長は他の兵士達に先へ進むようジェスチャーで指示した。兵士達も機関銃を乱射しながら、森林内に設けられた突き破られた鉄柵を進行した。

 

一方、隊長がいる場所より深く森の中を走り逃げる者達がいた。そのうちの1匹は黒く長い髪をした女性は頭部から尾骶骨(びていこつ)にかけて長く鋭い針毛を生やし、全身の地肌を黒く染めながら薄い体毛を全身に生やした姿へと変貌した。

だが、森の外にいた戦車は次々と爆音と共に砲撃を加えた。 怪物達はその砲撃に直接被弾する者もいれば、着弾した砲弾の誘爆に巻き込まれ吹き飛ぶ者もいた。いずれも人のものとは思えない断末魔を上げて炎上し果てた。

 

女性の怪物は、残った怪物達と共に河原から上陸したもう1匹の怪物と合流した。その怪物は下半身がダイビングスーツを着込み、上半身は皮膚が滑らかで頭部や肩に(ひれ)、マントのような被膜、眉間に当たる部位に第3の眼があった。

彼等は獣道に沿って逃げながら立ち塞がる兵士達を薙ぎ倒した。Lv.2の隊長たちと相対した途端、口から高周波パルス音を相手に聞かせ、その場にいた隊長たちを支配下に置いた。ダイビングスーツの怪物は、直後に羽交締めしてきた別のLv.2改造兵士を今操ったLv.2を吹っ飛ばさせて争わせた。

その後、ダイビングスーツの怪物は森の一番内側の戦車まで走り、戦車の入口を無理矢理こじ開けて操縦士を殺傷し乗り込んだ。ダイビングスーツの怪物が乗り込んだ戦車は進行しながら砲弾を放ち、次々と他の戦車を破壊し周囲を火の海に変えた。

仲間の怪物達はその戦車を取り囲むように進軍し、そのまま素手で戦う者もいれば兵士達を殺して奪った武器を使って戦う者もいた。そしてダイビングスーツの怪物は敵に囲まれた仲間の怪物にも砲弾を放ち、そこら一帯を殲滅したと確信したら戦車内で嬉々とした態度をみせた。

 

突然戦車やその場にいた者達は尋常じゃない殺気を感じ、身体機能が麻痺して動けなくなった。その後、彼らは上空から赤黒い弾丸に全身を撃ち込まれ、足元に目掛け紫色の太陽のような形をした"超衝撃波"が降下した。地面に着いたと同時にそのエネルギーが一気に放出され、彼等が撃ち込まれた弾丸が一斉に引火し大爆発を起こした。その周囲一帯は丸ごと吹き飛び、その光景は森の外にいた戦車からも見えていた。

 

焼け野原となって炎と煙に包まれたその場所に、上空からゆっくりと降り立つ人影があった。

背中から生やし、古代エジプトの襟飾りのように胸や肩を覆う1対の猛禽類の翼。翼以外の全身を覆う紫色の(うろこ)。人体を極限にまで筋骨隆々させた、体幹や四肢が太く力強い肉体。その体躯に伴う非常に分厚い胸筋。湾曲したアメジストのような爪。猛禽類のような前腕と下腿。口元が裂け鋭い牙が生えた口。悪魔のように生えた(ひれ)のような鶏冠(トサカ)。爬虫類のような緑黄色の両眼。眉間に生え緑黄色の水晶に覆われた第3の眼。2m以上ある禍々しく神秘的な姿は、"(よこしま)なる戦神(いくさがみ)"そのものであった。

 

 

吹き荒ぶ吹雪の中、真は目を開ける。そこは空一面が暗雲に覆われ、周囲は炎の海に包まれ雷鳴が響き渡り、高層ビルや都庁を初めとした建築物は瓦礫と化している。

真は袖で顔を隠しながら、新雪が浅く覆うアスファルトの地面を真っ直ぐ歩く。風は強く、改造兵士であっても吹き飛ばされないように真は足を踏み締める。しばらくすると見慣れた建物が目に入り、急いでそこに向かう。真は建物に辿り着くが、その様相を見て絶句する。その建物は『結城サイクルショップ』であり、今にも音を立てて崩れさりそうな程に半壊していた。

「結城……瑠里ちゃん……!」

真は今にも壊れかけてる1階のガレージのシャッターを引き裂き、そこに入って周囲を見渡す。だが壁一面が血溜まりに覆われ死体の生臭さが漂っており、真はその匂いの元に目を向け駆け寄る。

「……結城⁉︎」

そこには首から左胸にかけて引き裂かれ、既に息絶えた結城の死骸があった。

「結城、しっかりしろ!おい!結城!」

真は亡骸を揺すりながら呼びかける。だが、その冷え切った骸は答えない。

「……して……殺して……」

「瑠里ちゃん⁉︎」

2階から啜り泣く声が聞こえる。真は階段を使わずに2階の窓まで跳躍し、窓ガラスを破壊して瑠里の部屋に飛び込む。そこには机の下に隠れた瑠里の後ろ姿があった。

「瑠里ちゃん、これは一体……⁉︎」

「……ごめん、ごめんなさい真……私を……(ワタシ)(コロ)シテ!」

瑠里は真の方に振り向く。その顔と皮膚は白く爛れ、半透明のそれからは血管が見えており、眼球も白目を剥いている。両手の爪が鋭く伸びており、全身返り血に塗られている。

唖然とし後ずさる真の目の前で、突然瑠里が呻き声を上げ膝から崩れ落ち苦しみ出す。すると瑠里の眼や口から大量の"何か"が突き破り、彼女の身体は穴が空いた風船の如く萎んでいく。それは被験者になった真がイメージで何度も見た"悪魔のような飛蝗(バッタ)の大群"であった。

「うわああああああああああッ!」

 

1997年12月21日 午前2時 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルクラブ

「⁉︎」

深夜の来客用のテーブルと椅子に座って寝ていた真は、急に目覚めた。衣服を着ていたにも関わらず、全身に冷や汗をかいており喘いでいた。外で少量の雪が降っているほどに冷え込んでいるにも関わらず、毛布1枚も被っていなかった。

「真?」

真はカウンターのテーブルの方を振り向くと、寝巻姿の瑠里がいた。

「…夢…とてつもなく、恐ろしい夢…!」

「何言ってる分からないけど、こんなところで寝てると風邪ひくよ。」

瑠里は真の前に温めたホットミルクを置く。真は、自分の視界にホットミルクが現れたと同時に脳裏によぎる映像が止まり安堵した。

「…ありがとう。」

真は、ホットミルクが入ったマグカップに口付けする。

「真。今度…私と一緒にデートして?」

「いいけど…。」

「反応はっや、まぁいいけど。」

瑠里は言葉を続ける。

「今週24日午後1時半。場所は一応、後楽園の遊園地の予定。とにかく、『当日になって風邪引いた』はナシよ。いい?」

「…あぁ、分かった。」

瑠里はそう言うと、自分の寝室に戻りながら呟く。

(最近、ここに来てから無理して笑ってる気がするのよね…。あと、私達に色々隠していること多そうだし。)

一方真はホットミルクを飲み切ったが、悪夢に対する不安は取り除かれなかった。

 

 

1997年12月23日 午前10時 アメリカ ニューヨーク・マンハッタン 高層ビル群

日差しが眩しく降り注ぐ青空の下に並び立つ、巨大な摩天楼の一角にある最上階。カーテンで遮光され闇夜に近い暗さの社長室でガラス張りの窓を背に、財団の社長が肘を机に立てて両手を組んで椅子に座っていた。社長は机にある目の前のPCのデスクトップに向かっていた。

『What on earth does this mean?』

「I had "him" annihilate them as you requested.」

『Stop being so sleepy.|Look at how those C.S's move.They're much more coordinated than C.S's Lv.3 you guys developed.』

財団社長は、デスクトップの右端に小さく表示してあるナルヴァの映像を見返す。そこには1体の改造兵士が仲間たちと連携して逃走し、戦車を奪って進軍する様子が映されていた。

この映像を見た財団社長は流石に脂汗を浮かべた。なぜならリーダーの改造兵士の額には"第3の眼"が生えており、理性を保っているためか戦車を運転し砲撃する複雑な操作を行っていた。それだけでなく、口からの高周波パルスで味方を統率しつつ敵を同士討ちさせていた。

『No matter how much we trade with other countries, there is a limit.The people of socialist countries, in particular, are more intent on improving their technology than we are.What would we have done if your son had not been there?This is the result of your continued obsession with capturing Shin Kazamatsuri.We do not want to make any more troublesome enemies than him.』

「|I understand,and I'm grateful to you for recommending me to be president.Next, I'll send out my "trump card,"this time to eliminate Shin Kazamatsuri once and for all.」

『|I believe you're not just a man of words.Shin is the only C.S in Japan.If you fail this time,there will be no next time,"Adelbert".』

ビデオ通信がプツンと切れ、財団社長はリモコンのスイッチを押して遮光カーテンを開けた。

「Send him to Japan now,there's no time left.」

財団社長・アーデルベルトは、隣にいた綾小路に伝えた。

「But he is our key player, having restored the Lv.3 treatment method from the documents left behind at the ISS company ruins.」

「I don't care,that's the only thing we can bet on for now.」

「I understand,I'll let you know right away.」

綾小路は社内線を繋げた。

 

同摩天楼の一室にあるラボルーム。そこはテニスコート約1.5面分の面積をもち、部屋の内装全体が無菌室のように白色を主体としていた。さらにラボルームには様々な生化学分野の研究を行うための各種試作機器や検査・評価機器が置かれていた。隣に併設された小さな研究室は医務室のようであった。微かに設けられた窓にはジャガイモのような白い花が飾られていた。

その研究室にパソコンを用いて、英字の論文を読んでいる青年がいた。その青年は187cm程の背丈の黒髪の日本人で、スーツのズボンに黒の革靴とネクタイ、白のワイシャツに白衣を着用していた。名札に"速水逸郎"と刻まれたその男は、固定電話の受話器を取って通話し始めた。

「速水です。要件をどうぞ。」

『綾小路です。社長の指示を伝えに繋げました。』

「あぁ、綾小路さんね。で、その依頼は?」

『貴方の手で真を倒して欲しいとのことです。』

「ほう、そんなに(アイツ)に手こずってるのかな?(野木君)が持っていったサンプル(寄生虫型改造兵士Lv.3)の1匹や美代子ちゃんもいたのに。」

『そう受け取って戴いても構いません。今や我々にとって最大の脅威です。交通は我々が手配します。』

「手際が良くて助かるよ。今すぐ日本に戻るとしよう。5、6年以上ぶりの顔を早く見たいからね。」

『かしこまりました。では、入口でお待ちしております。』

内線は切れ、速水は固定電話の受話器を置いた。

「さて。そろそろ行くよ、シドン。」

速水はシドンと命名した白い花に声を掛けると白衣から赤いジャケットに着替え直し、研究室を後にした。

 

同摩天楼の社内廊下。綾小路は早歩きで車庫に向かっていた。

「お疲れ〜。これから出張?」

突然、綾小路が過ぎた角の通りに野木が現れ、彼に話しかけた。

「武力制圧お疲れ様です。えぇ、空港まで案内する人がいるので。」

「相変わらず忙しいみたいだねぇ。ところで会議はどうだった?」

「えぇ、"次は無い"と。」

「これで父さんを無力化できたって訳か、意外と早く進むねぇ。」

「貴方達の指示通り、例のモノ(真の毛髪)を某国に送った結果です。」

「これで俺は社長に就きやすくなり、アンタも"より安全性が担保されたLv.3"(Lv.3+)に施術できる訳か。考えるねぇ。」

「私とて自分の命が大事です。寿命も、そして私という"個"も。」

「アンタと仲良くして正解だったよ。俺より顔見知りがいるし、速水さんとこの"変わったオモチャ"(寄生虫型改造兵士Lv.3)があることも知った。社長に就いた時は、引き続き秘書として頼むよ。」

「この会社を立て直すには、貴方の力が必要です。そろそろ待ち合わせの時間になるので失礼。」

「おう、行ってらー。」

野木は腕時計を見た綾小路を見送った。

「さて。今回も特等席で楽しませてもらうよ、"兄さん"。」

野木は通路を歩きながら呟いた。

 

1997年12月24日 午後0時半 東京 中央区 佃 城南大学附属学校

校舎内に鳴る鐘の音。それが鳴り終わると共に、閑静とした校舎内の廊下は生徒や教師達で賑わっていた。部活動以外で帰宅する生徒の人混み中に、「2-B」の教室から出てきた瑠里や裕美も混じる。瑠里や裕美は何とか昇降口から出て、校舎近辺の歩道を歩っていた。

「あー、ようやく終わったー!終業式もホームルームも長いのよね〜。」

「仕方ないよ、今年も大変だったし。怪物騒ぎで一部が行事どころか、学級閉鎖したことを考えるとちゃんとやってた方だと思うよ。」

「そりゃあ裕美は勉強できるからさぁー。優等生は言うことが違うよ。」

「そんな事ないよ。瑠里やみんなと話せたり一緒に勉強ができるから、今も楽しいと思ってる。あと、美代子とも…。」

「裕美…。」

裕美が途中で思い詰めた表情を見て、瑠里は気まずい表情になる。

「あ、そうだ。デートのことだけど、私じゃなきゃダメ?貴女の方が私よりよっぽど真のことが好きそうだし…。」

「うん。風祭さんを助けて、結城さんのお店を紹介したのは瑠里なんだから。」

「えぇ〜、真はただの居候だし。そもそも私、昔から恋バナとかあんま気にならなかったけど。」

「"あんまり"ってことは、少しは気になってるんじゃないの?」

「いや、そうだけどさ。だいぶ歳が離れてるし…。」

「歳なんて関係ないよ。世の中、見たものだけが常に正しい訳じゃないんだから。」

瑠里は少し引いた。昔から彼女は感じていたが、裕美は一旦決心すると中々折れない性格であった。

「あー、分かったよ。じゃあ約束通り、後楽園の遊園地まで着いてきてよ。」

「大丈夫よ。ちゃんと一緒にいるわ。」

瑠里と裕美はそのまま真との待ち合わせの場所へ向かった。

 

1997年12月24日 午後0時半 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルショップ

真は、1階にいる結城と交代して2階のカフェで配膳と調理を行っていた。

その最中、結城が2階のカウンターに戻る。

「お疲れ。そろそろ時間じゃないか。」

真は部屋に設置されたアンティークの時計を見た。

「もうこんな時間か…。」

真は割烹着を脱いで、ジャケットと入れ替えてハンガーに引っ掛けた。

「すまない、後は頼む。午後の分は作った。」

「いや、いいんだよ。ここんとこお前、大分疲れてるように見えるからさ。」

結城は言葉を続ける。

「それに瑠里ちゃんが積極的に振ってくるなんて珍しいからな。俺も羨ましいよ。」

「あぁ、行ってくる。」

真は1階のガレージ下に行き、そこにあるバイクに跨り出発した。結城はそれを見届けた後、急いで割烹着を着てテーブルカウンターに戻った。その時、鈴の音と共に意外な客が現れた。

「いらっしゃ…速水⁉︎」

「よう。」

速水は早速テーブルに座る。

「こうして面と向かって話すのは 、5、6年前の日本代表を決める時以来だね。」

「あぁ、もうそんなに経ったか…。お前、背中の方は大丈夫か⁉︎」

「あぁ、ロクに頼れる医師がいなくてね。職場見学で知った企業の大学病院にいた時、僕が考えた手術のやり方を同期の仲間にやらせて貰って治した。あぁそうだ、コーヒー1杯を頼む。」

結城は唖然としていた。

「あ、あぁ。話のスケールがデカくてそれに気を取られてた。」

「ハハハ。大抵の人間は言葉が出なくなったり馬鹿にするからね、それには慣れてる。」

結城は速水の前にコーヒーを出し、速水はそれに口を付けていた。

「今回、お前が来てくれたから特別腕を振るってみたんだが…。」

結城は思わず唾を飲んだ。

「…まぁ、こんなものかな。」

結城は思わず動揺した。

「ご馳走様、昔のよしみで出しておくよ。」

速水はカウンター前にコーヒー代を出した。

「ところで結城。真はどこに行ったんだ?」

「あぁ、アイツならさっき後楽園の遊園地に行ったぞ。」

結城は気を取り直して、速水の質問に返す。

「そうか、ならアイツによろしく伝えてくれ。」

速水はそのまま立ち去った。

 

1997年12月24日 午後1時20分 日本 東京都 文京区 後楽園遊園地

空一面が厚い雲に覆われ雪が降る中、真は東京ドームバイク駐車場にバイクを停める。

(そう言えば、雪が降ってたか。)

真は、後部座席に取り付けたバックの中からあるものを取り出して東京ドームに向かった。

 

一方、東京ドーム入口。瑠里は、物陰にいる裕美に見守られながら真を待っていた。

「今は目の前にいないからいいけど、友達にどこかから見られてるのは変な気分になるわ…さっぶ。」

瑠里が呼気で掌を暖めてる最中、真がやってきた。

「お待たせ、瑠里ちゃん。メリークリスマス。」

「真、これって…。」

真は瑠里にあるものを手渡した。

「マフラーに手袋、耳当て。今日までにミシンを借りて作ったんだ。」

これらのプレゼントは、茶色とカーキ色の縞模様に彩られていた。

「あ、ありがと。」

瑠里は思わず顔を赤らめる。

「しっくり来るデザインが無くて中々買えなかったんだよね。」

「じゃ、行こうか。」

「うん!」

瑠里は真のクリスマスプレゼントを身につけ、そのまま真とデートを始めた。

 

 

1997年12月24日 午後1時半 日本 東京都 文京区 後楽園遊園地

メリーゴーランドやコーヒーカップに一緒に乗る真と瑠里、絶叫マシンに乗って思わず叫ぶ瑠里、UFOキャッチャーで中々ものを捕まえられない真、真が買ったアイスクリームを食べる瑠里_。いずれも今の真にとって自分が改造兵士であること、財団との戦い、そして自分が瑠里に家族を殺した犯人と疑われてしまってること…などを全て忘れられる掛け替えの無い貴重な安らぎであった。その様子を見て、裕美はどこか寂しげであったが微笑んでいた。

「ねぇ、次はあれにしようよ!」

瑠里が指した方向には観覧車があった。

「あぁ。」

真と瑠里がゴンドラの1機に乗った後、裕美も続けて別のゴンドラに乗った。

 

ゴンドラ内。徐々に地上から上空の方へ離れ、窓ガラスから見える景色も見晴らしが良いものへと変わっていった。

(久しぶりだね、真。この様子では取込み中だったかな?)

真は何かの気配を感じ正面を見ると、速水が瑠里に代わって座っていた。

「速水⁉︎なぜお前が…⁉︎」

(人より進化した力を獲得できたのに、なんでそんなつまらないことばかりに使うかな?)

真が突然上の空になって自分の後ろのガラスに向かって話しているのを見て、瑠里は尋ねる。

「どうしたの真?」

速水の声はは真にしか聞こえなかった。

(君は、今も自分が"選ばれた唯一の存在"と思っているのかい?違うな、君は偶々力と適合しただけ。僕は違う。僕だけの力で復元したのさ、改造兵士の力を!)

「真⁉︎」

瑠里の声を聞いて、真は我に返る。同時に、観覧車のゴンドラが1周周り切ったことに気づいていた。

「…ごめん、少しトイレに行ってくる。」

「ちょっと⁉︎あーもー、何がどーなってるのよ⁉︎」

 

1997年12月24日 午後5時 日本 東京都 文京区 後楽園遊園地 地下

真は速水の気配を辿り、トイレの先にある舞台裏の扉の前に立った。

真は扉のドアノブを捻りドアを開け、扉の向こう側に入ると共にそっとドアを閉じた。そこからは陽の光が一切届かない、暗い闇の中だった。だが、闇の中を案内するかのように所々弱い光を放つ照明器具が高さ約3mの天井に取り付けられていた。真はその明かりに従い、慎重に歩み進めた。その靴の音は狭い道の中を反響した。

暫く歩くと、そこには巨大な放水路があった。ブルーライトで照らされた水槽内の空間に整然と太い柱が立ち並ぶ様子は一種の荘厳さを感じさせ、あたかも地下神殿のような雰囲気を持っていた。

「ここまで来れたようだね。」

「速水…。」

「よう、御足労かけたことは詫びるよ。」

真の目の前に、こちらに向かって歩いてくる速水がいた。

改造兵士(サイボーグ・ソルジャー)であっても、君の肉体は酷使されてるね。そんなになるまで、なんで君は戦うのかな?」

「それは、俺には…!」

「君個人の"自己満足"の為だよ。"愛と正義"という美しい言葉に酔ってるだけなんだ。」

速水が真の言葉を遮る。

「それに大嘘付きの君1人で戦うってんなら、どうやって立ち向かうんだよ。なぁ、教えてくれよ?」

速水が真に柔らかい口調で囁いた直後、鋭い裏拳で真の鳩尾(みぞおち)を殴り、真は改造兵士にも関わらず吹っ飛ぶ。真は喉に入った唾液を咳き込み、よろけながら立ち上がる。

「君が知ってるように、僕には生まれつき俗人が及ばない知性を持っている。だけど、それだけじゃない。」

速水は拳法と格闘術を組み合わせた打撃を次々と放ち、真は仰向けに倒れ昏倒する。

「体だって鍛えてきたんだよ!」

速水はネクタイとワイシャツを脱ぐと、鍛え上げられた筋肉美を真に見せつける。その上半身には背中から胸にかけて手術痕が生々しく残っていた。

「超人になる努力やリハビリはしてきた…だが君は、何も努力をしていない。」

速水は動揺する真の胸を強く踏みつけ躙る。真の肋骨の何本かは鈍い音と共に折れ、その激痛に真も押し潰されたような声で呻いた。

 

1997年12月24日 午後5時半 日本 東京都 文京区 後楽園遊園地

「真ー!どこ行ったの真ー!」

「風祭さーん、風祭さーん!」

瑠里と裕美が真の行方を探していた。

「裕美、見つかった?」

裕美は瑠里の問いに首を振った。

「ダメ、ここにはいないみたい。もしかしたら、本当に人気のないところに…。」

「確かここって最近、地下にデカい放水路が建てられた気がするけど…!」

「待って。1人じゃ危ないから、2人で行こう。」

「分かった。」

瑠里と裕美は地下の放水路に繋がる入口を探し、真が入った舞台裏の扉に辿り着いた。そして彼女たちは恐る恐る扉の中に入っていった。

 

1997年12月24日 午後6時 日本 東京都 文京区 後楽1丁目 地下放水路

「言っただろ?君だけが特別な存在なんかじゃないって。」

「…そうだ。俺は特別な人間じゃない。だからってみんなに自分の考えを押し付けたりしない!」

真は速水の足を振り解く。

「みんな?みんなは君を"人殺しの怪物(バケモノ)"と思っているんだよ?いいのかい、そんな情けない考えをしてさ?」

「何…⁉︎」

「そうだ、君は改造兵士の力に頼っているだけだ。僕が直々執刀した美代子ちゃんを含め、人類を新しい方向に導くのが僕の使命だ。」

 

一方瑠里と裕美は、真と速水がいる地下まで辿り着いた。だが、彼等に気づかれないよう物陰に隠れた。

「いた…!でも、あの人誰…?」

「速水逸郎…。IQ300を誇る世界有数の医学博士で、元バイクレーサー。」

「裕美、知ってるの…⁉︎」

「…お父さんの研究を引き継いだみたいだから知ってる。高校のときに論文を発表したことで、17歳で免疫発生学の博士号を取得したことで学会から"神童"と言われてたの。その後城南大学に進学して様々な分野で活躍したけど、ロードレース世界グランプリで脊椎を損傷した。今はニューヨークで療養しながら、バイオ医薬品などの企業に勤めてると聞いたけど…。」

「脊椎損傷って、今普通に立ってるじゃん…⁉︎」

「多分、速水さん自身が治したのよ。まるで、自分の知性を誇示するかのように…!」

 

速水はスーツのポケットからシリンジを取り出す。

「これは…⁉︎」

「そう、Lv.3と人間の姿を制御する"ホルモン剤"さ。君は"第3の眼"があるからいいが、大半は先生みたく自我を失うからね。だから、被験者が好きなときに変身やその抑制できるよう作ったんだ。だが、僕には必要無い!」

速水は力を込めてシリンジを握りつぶし、額の"第3の眼"を開眼させた。

「速水、その力は危険だ…止めろ!」

「アハハハハハ!やっぱり君は特別な人間だと思ってるんだ。見せてあげるよ、僕が新しい最初の人類であることを…変身!」

速水はそう呟くとエネルギーに包まれ、そのエネルギーの奔流に真は思わず顔を隠すがその奔流は鎮まった。真は唖然とした。

筋骨隆々とした、2m以上ある力強い肉体。軀の中心に近づくほど黒くなるライトオレンジの体色。鋏のようだが、人間の5本指の形状は残っている両前腕部。手足に生えた湾曲した爪。尾骶骨から生えた、勾玉に針を携えた形をした先端がある尾部。黒い眼に眉間に生えた漆黒の第3の眼。その場にいたのは"怪物"となった速水の姿だった。

(見ろ!脆弱な人の軀から解放された、"私"の…いや進化した人類の姿だ!)

速水はテレパシーで真に話しかける。

「今すぐ変身を解け!力を使い続けたら、お前は…!」

(どうなるかなんて後で分かるさ、来い!)

「速水!」

速水は掌を重ねて両腕を掲げながら跳び上がる。同時に尾を叩きつけ、その勢いに乗って地下の天蓋を掘り砕きながら地上に降り立つ。

一方、砕けた天蓋は瓦礫として落下した。

「危ない!」

裕美は瑠里をつき飛ばす。

「…え?」

裕美がいた場所は瓦礫の山となった。

「…裕美…⁉︎」

 

1997年12月24日 午前2時 アメリカ ニューヨーク・マンハッタン 高層ビル群

月光の下に並び立つ、巨大な摩天楼の一角にある最上階。カーテンで遮光され急遽部屋の照明が灯された社長室。アーデルベルトが肘を机に立てて両手を組み、デスクトップの映像に対して込み上げる怒りが収まらなかった。

「What on earth is he thinking⁉︎How is the media controlled⁉︎」

アーデルベルトは綾小路に電話を繋げるものの留守電のままだった。その映像は、改造兵士の姿になった速水が人通りが多い市街地に威風堂々と姿を現しているものであった。

 

1997年12月24日 午後6時 日本 東京都 文京区 後楽1丁目

異形の姿の速水は、白線表示を無視しながら幹線道路を優雅に歩いた。その様子をビデオカメラなどで録画している一般人や各テレビ局の報道陣もいたが、速水は特に気にする素振りすら見せなかった。

その時、1台のF-3型特型警備車が人混みに割り込みながら停車した。警備車の荷台にある扉が開くと、コマンド部隊の兵士達が6人ほど降車。さらに警備車の先頭の右のドアから、コンバットスーツを纏い、拳銃とロケットランチャーを武装したセーラが降車した。

「(こんな所に何故改造兵士が…)Fire!」

セーラは混乱しつつも速水に向け一斉射撃を行う。だが速水の軀は銃弾を受けるものの全身の外骨格が凹む程度であり、弾力で銃弾がボロボロと足元に落ちた。

「⁉︎」

セーラは動揺した。これまでのLv.3は機関銃だけでもある程度のダメージを与えていたが、目の前の改造兵士は目に見える傷やダメージすら負わなかった。それは豪島と匹敵、あるいはそれ以上の難敵とセーラは感じた。

(ならばこれで…!)

セーラは警備車から取り出した新調済みのロケットランチャーを用意し、速水に放った。だが、速水は逃げる素振りすら見せず、尻尾を伸ばして弾頭を絡め取った。

「‼︎?」

その場にいたものは全員衝撃を受けた。それを尻目に速水はセーラ達の方に弾頭を投げ返し、すぐ回避行動を取ったセーラと他4名のコマンド兵士以外は着弾の誘爆に巻き込まれ焼死した。

「…なんて奴…!」

セーラが舌打ちした後に無線に繋ぐ様子を見て、速水は嘲笑う素振りを見せた。

 

1997年12月24日 午後6時5分 日本 東京都 文京区 後楽1丁目 地下放水路

真は、裕美が下敷きになってる瓦礫を取り除いていた。

「瑠里ちゃん…瑠里ちゃん!」

真の呼びかけに瑠里は我に帰り、彼と共に瓦礫を取り除き始める。

「裕美…必ず生きていて…!」

そのとき、裕美の声が聞こえ始めた。

ドクッ、ドクッ…。

だがその声はあまりにも弱々しく、瓦礫の隙間から血液が流れ出ていた。

「裕美⁉︎」

瑠里と真は急いで瓦礫から裕美を引っ張り出して助け出した。だが彼女の体のあちこちから出血を出しており、体温が低くなり始めていた。

「ごめん裕美…私のせいで…!」

瑠里は裕美の体に抱きつき、涙を流していた。その様子を見た真は、かつての友だったとはいえ裕美を怪我させてしまった自分の不甲斐無さに怒り拳を握りしめた。

 

1997年12月24日 午後6時5分 日本 東京都 文京区 後楽1丁目

速水はCIAのコマンド部隊の銃撃をいなしながら、近づいた。両手の親指と人差し指の間を開き、CIAのコマンド兵士の首筋に目掛け挟み込んだ。コマンド兵士の2人はギロチンの如く首を刎ね飛ばされ、その死骸は機関銃を撃ち続けた。他のコマンド兵士の1人は、速水の正拳突きを急所に喰らい、CIAの特型警備車に叩きつけられ絶命した。そして最後のコマンド兵士は、速水の尻尾先端の毒針に眉間を刺され途絶えた。コマンド兵士全員死亡したが、手負いのセーラはそれでも拳銃を撃ち続けた。その時、サイレンの音と共に数台のパトカーや特型警備車がセーラの元に辿り着いた。

「間に合ったようね…!」

パトカーや警備車のドアから刑事や機動隊がゾロゾロ現れ、速水に銃口を向けた。

「ただいま到着しました、援護します。」

「助かるわ。」

機動隊員の数名はセーラを救出しながらライオットシールドで牽制した。

「全員に告ぐ!これ以上、あの怪物を民間人に近づけるな!」

「了解!」

刑事と機動隊は協力して速水に一斉射撃をしたものの、速水はビクともしなかった。

その時、突然速水が雄叫びを上げ苦しみ始めた。苦しさのあまり頭を抱えたものの、眉間の第3の眼が徐々に退化し始めていた。そして速水はさっきまでの威風堂々とした立ち振る舞いを一切見せなくなり、見境なく暴れ出した。

 

「もうタイムリミットか、遊びすぎたね。」

野木は東京タワーの鉄骨に座りながらその光景を俯瞰していた。

 

1997年12月24日 午後6時5分 日本 東京都 文京区 後楽1丁目 地下放水路

速水が掘り進んだ穴から、今真達が経っている地点の高さは目安20mであった。だが、変身前でも常人の2〜4倍の身体能力を持つとは言えあの高さまで跳躍するのは不可能であった、

(こうなったら変身して…。)

真が変身しようと第3の眼が開く。だが、

『いやあああああああああああああああ!!』

かつて、"怒りの蟲"の姿を瑠里に拒絶されたことが真の脳裏に過ってしまった。

(何を考えているんだ俺は!例え瑠里ちゃんに嫌われても、俺は瑠里ちゃんも裕美ちゃんも護る!)

「瑠里ちゃん、今まで騙してごめん。俺は、君が嫌ってる"人殺しのバケモノ"なんだ…。」

「…え?ごめん、まるで意味が分からないんだけど…。」

瑠里は裕美を抱えながら真の方を見る。

「裕美ちゃんを助けるにはこれしか無いんだ。変身ッ…!」

瑠里は真が変貌していくのを目の当たりにした。第3の眼が開いた真の額から1対の悪魔のような触覚が伸び、双眼が赤黒くなり全身が蒸気に包まれる。

「え…⁉︎」

蒸気に包まれた真は瑠里と裕美を抱え、次々と瓦礫や高層ビルの壁を足場にして飛び移った。穴から100mほど離れた高層ビルの屋上にゆっくりと彼女達を下ろした。

「嘘でしょ…なんで…⁉︎」

既に"怒りの蟲"となった真は、瑠里に振り返らずそのまま速水のいる場所へ飛び去った。

(さよなら…。)

それを見届けた瑠里は携帯電話で救急車や結城を呼んだ。

「もしもし、救急車ですか_⁉︎」

 

1997年12月24日 午後5時 日本 東京都 文京区 後楽1丁目

燃え盛る幹線道路に真は降り立つ。そこには一般人や機動隊、CIAのコマンド部隊の死体に、スクラップにされて炎上している自動車やパトカーがあった。そして、第3の眼を失い暴れ狂う速水の姿があった。

(速水逸郎はいない…死んだんだ。)

真はそのまま速水に飛び掛かり、速水もカウンターを仕掛けるように鉄拳を繰り出す。真はこれを避けると同時に速水の腕を固める。速水も尻尾を真の背中に叩きつけ真の技を外す。

両者は睨み合った。交互に左右の足を蹴り上げつつ足で防ぎ、真のスパインカッターの手刀と速水のシザースカッターがしのぎを削る。その隙に速水が尻尾の毒針を刺そうとするが、真にギリギリで避けられ距離を置かれる。

 

『|It's like the Colosseum.』

「|It's a battle to decide who will rule humanity.I don't really care who wins though.」

野木は、携帯を片手に"大統領"と通話しながら観戦を続けた。

 

距離を取った真は、速水の尻尾を織り交ぜた打撃を人間を遥かに超越した速さや3次元的な挙動によるジャンプやバク転、側転、次々と遮蔽物を飛び渡るなどして回避し受け流す。

尻尾の毒針を使い続けた速水は徐々に消耗していき、真は奇襲を仕掛けては何十発も打撃を喰らわせ、手足の毛爪で速水を引き裂く。その連続攻撃を喰らった速水は両膝を着き、軀から鮮血が迸る。

そして速水は跳び上がり、地下を掘り進めたと同じ姿勢で真に突っ込んでいく。一方真も上空にいる速水を迎撃するかのように右足を突き出すようなフォームを取り、両者は空中で交錯し着地する。

その場にいた生存者全員が息を呑む中、真が引き裂かれ出血する胸を押さえながら片膝を付く。喘ぎ苦しむ真を見て勝ち誇る仕草をする速水。だが、速水は背中から胸にかけて大きく傷口が開いていた。傷口から鮮血が噴水のように迸り、速水は倒れる。傷口は脊椎を切断するまで抉っており、その傷口は滑らかであった。

真は激痛に苦しみながら速水の元へ駆け寄る。速水の亡骸を握るが、その脈は無かった。真は力を込め抱き締め、彼の赤黒い双眼からは一筋の涙が流れていた。

 

そのとき、真上から弾丸が降り注いだ。真は辛うじて回避したが速水の軀は蜂の巣にされ、夢で見た超衝撃波が速水に目掛けて落ちた。そこを起点に大爆発を起こし、直径100m圏内のその場にいた機動隊の生存者や報道陣は爆風を受け焼き尽くされた。真も吹き飛ばされたが、大事に至らなかった。

煙が徐々に晴れ、業火が燃え盛るその場で立ち上がり、佇む者がいた。首だけとなった速水の亡骸を掴む"邪なる戦神"であった。その姿を見て真は戦神が出てきた夢が頭によぎり、思わず手が震えてしまった。

戦神は速水の首をテレビ局の報道陣の方に投げつけた。戦神は右掌を広げ鉛色の塊を作り出し、それをワルサーp38へと変形させた。その銃口を速水の首に向け撃鉄を引き、放たれた赤黒い弾丸は速水の首に直撃した。速水の首は報道陣や機動隊、一般人を下敷きにして大爆発を起こした。その閃光と爆風を防ぐため、真は両腕で頭部を隠した。爆発が収まったと同時に真は手を下ろした。だが、そこには戦神の姿は無く、あるのは今も燃え盛っているヘリと"さっきまで命だったもの"であった。

 

1997年12月24日 午後7時半 東京 文京区 関東医大病院

小粒の雪が降る中、1台の救急車が病棟の入口付近で停車した。救急車の後部から担架に乗せられた裕美と瑠里、結城が数人の救命士と共に降車し、急いで手術室に運ばれた。裕美は止血処置と血液パックによる輸血が行われ、口に酸素マスクが装着されていた。

「裕美!死なないで裕美!」

瑠里は手術室の前まで命の灯火が消えつつある裕美を呼びかける。裕美を載せた担架は手術室に運ばれ、医療表示灯が点灯した。

それから数時間後、表示灯は消え執刀医が手術室から出てきた。

「裕美…裕美はどうなりましたか⁉︎」

「一応命は助かりました。ただ、奇跡的に助かったとはいえ、日常生活に戻るにはしばらく時間が掛かるかと…。」

執刀医の言葉を聞き、瑠里は安堵する気持ちと自分の至らなさ、そして真が自分の父を殺した怪物だった事実が入れ混ざり、膝が崩れ顔を隠し啜り泣く。その様子を見た結城は彼女を抱擁した。

 

1997年12月24日 午後8時 東京 中野区 中野三丁目 結城サイクルクラブ

病院から戻ってきた瑠里と結城はテレビを付ける。

『ここで臨時ニュースです。先ほど異形の怪物2匹が路上で暴れ回っていた東京都の文京区後楽1丁目ですが、死亡者が30人以上、大怪我を負った人が65人であることが分かりました。警察は_。』

「なんてことだ…こんなときに(アイツ)はどこに行ったんだ…⁉︎」

淡々と状況を説明するアナウンサーの男の声がテレビのスピーカーから発される中、結城は内心から怒りが込み上がってきた。

一方瑠里は、テーブルカウンターに1枚の書き残しがあることに気づいた。

-今までありがとうございました。 風祭真ー

「あの野郎…!」

結城は書き残しを丸めてゴミ箱に投げ込むほどに怒りを隠せなかった。

「…いいの、これがお互いにとって幸せなことだから…。」

「瑠里ちゃん…。」

瑠里は自分の部屋に戻り、バッグを机に置きカーディガンを椅子に引っ掛けた。そして真から貰った手袋や耳当て、マフラーを全て外しベッドに叩きつけた。

「…ばか。」

 

1997年12月24日 午後9時 東京 中野区

バイクに跨り、路上を走る真がいた。服も現地のゴミ捨て場にあったものであったが、その異臭は北風に払われていた。

(結城、瑠里ちゃん。俺は、俺のせいでこれ以上、君達を苦しめさせたくないんだ…!)

真はヘルメットの内側に浮かべる涙を堪え、ただひたすら遠く、遠くバイクを走らせた。

 

Cell Ⅵ telophase

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