Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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何者かの手引きで、瑠里は真と共に下水道へ逃れ気を失う。
だが、瑠里が目覚めた場所は暗闇の蜃気楼の中であった。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
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・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Cell Ⅷ:Pilgrim

1997年12月27日 午後7時 東京 文京区 関東医大病院

 そこは最早、廃病院ともいうべき様相であった。照明が消え、院内の各所が老若男女問わず死体からの返り血で染まっており、非常ベルがずっと鳴り響き、千切れた医療機器などの配線の先端や配管からそれぞれ火花や煙が出ていた。書類や医療器具が散乱し、暖房器具が壊れたせいか院内の気温が冷え切っており、患者が療養して過ごすにはあまりにも厳しい環境であった。

 アーデルベルトは、鬼塚が変貌した怪物の姿となった患者と戦闘していた。怪物が右手の爪で切り裂くが、アーデルベルトの傷は瞬時に修復され怪物の右手をもぎ取る。アーデルベルトは絶叫を上げる怪物の顔面を掴み握りつぶし、右手を握りしめ怪物の左胸に目掛け心臓ごとぶち抜く。怪物の顔面はザクロの如く砕け散り、アーデルベルトは勝利の雄叫びを上げる。

 その裏、ヘリコプターからパイロットの1人がロープを伝って病棟の屋上に降りる。彼はライフル1丁と電磁ワイヤーを携え、院内を徘徊する。そのとき、雄叫びを上げているアーデルベルトを目撃して物陰に隠れる。彼はライフルを構え、アーデルベルトの背中に目掛け弾丸を打ち込む。アーデルベルトはそのまま倒れ込み、彼の周囲の空気が揺らいで見えるのと同時に肥大化した肉体が元の肌色になっていき、毛髪が生え、裸体の人間の姿に戻る。

「流石は改造兵士(バケモノ)用の麻酔弾だ、エトルフィンを2、3倍盛ったことはあるぜ」

 パイロットの片割れは、アーデルベルトが人間の姿になったことを確認する。

「……それにしても、アンタも不幸な人間だな。社長の座を追われ、改造兵士にされちまうとはな」

 パイロットの片割れは5年前に真を拘束した電磁ワイヤーを首と上半身に巻きつけトランシーバーを使う。

「エグゼクター・アーデルベルトの回収が完了。これより帰還する」

『了解。いくら上がマスコミ達を抑えてるとは言え、時間が掛かるとまずい。いち早く戻ってくれ』

 パイロットの片割れは通信を切ってアーデルベルトを肩に担ぎ、現場を後にした。

 

1997年12月27日 午後7時 日本 北海道 稚内市 宗谷岬

 夜空が雪雲に覆われ寒風が吹き荒ぶ中、『ISSオホーツク工場』と看板がある巨大な工場が1件建てられていた。その敷地面積は東京ドーム4個分であり、降り積もった雪に溶け込むような白色の建築物があった。その屋上、サングラスを掛けた黒スーツの男性がジャケットを羽織って待っていた。

「お待ちしておりました、新社長」

『おいおい、俺は"社長"だよ。今更新社長(それ)はないっしょ』

「失敬。社長、皆が貴方をお待ちしています」

 男が言ってるうちに、野木の周囲に光の奔流と稲妻が迸る。それらが収まると、"戦神"の姿から人間の姿と服に戻った野木の姿があった。

「ところで綾小路さんの方は?」

「手術は成功し、指示があればいつでも行けるとのことです」

「そう、もう伝えてあるから行っていいよ」

「了解」

 男は先に建屋の中に入る。野木は屋上のドアから建物内に入り、社長室へと向かう。屋内の廊下を歩く際、社長室に近くなるほど頭を下げた社員が彼等を迎えていた。

 

 

1997年12月27日 午後7時 日本 東京都 中央区 明石町10-1 聖路加国際大学 聖ルカ礼拝堂

 先程の真と野木との激闘で、礼拝堂は廃墟同然の様相となっていた。その屋内の隅々を、コンバット姿のセーラは痕跡が1つでも残っていないかしらみ潰しに巡回する。そのとき、セーラは端末からの呼び出しの振動を感じてすぐ取る。

「Hellow, this is Sara.」

『Sara,we've found the Foundation's new base.It's St. George's Church in Nördlingen, Germany.You'll arrive at Tokyo International Airport,and we'll provide transportation for you after you arrive.』

「Also, regarding the matter of additional personnel...」

『Unfortunately labor costs are high,and because of your rude treatment of employees, we can't immediately provide it.Before asking for favors,why don't you treat your subordinates with a little more respect?』

「I deeply regret my actions.」

『Besides,if we destroy that base,it would be a chance opportunity to deal a major blow to the Foundation.Go there alone this time,that's all.』

 通話の主は一方的に切った。

「……上はいつだってそうだわ、こっちの事情を知らず指図ばかり……!」

 セーラは急いで車に乗り、エンジンを付ける前に胸元に掛けてあるペンダントを開き見つめる。そこに入ってた写真にはテニスユニフォームを着て金メダルを掲げたセーラと、同じくテニスユニフォームを着た金髪碧眼の男性が笑顔で立っていた。

「……待ってて、カルロス。あなたに代わって財団を壊滅してみせる……!」

 

1997年12月27日 午後8時 日本 北海道 稚内市 宗谷岬 ISSオホーツク工場

 社長室。野木は座椅子に腰掛け、パソコンの電源を入れる。背にしているガラス張りの窓は、吹き荒ぶ寒風と雪を映し出していた。その窓を手動で遮光カーテンを閉める。

『Hey Nogi,thanks for your hard work on patrol.How's it going?』

「Yeah, it's cramped.Couldn't you do something about the location?We're used to the snow,but if it's like this every day, the employees' moods will be down.」

『Hahaha,that depends on how hard you all work.By the way, were you able to kill Shin?』

「I had some unexpected interruptions.It seems you didn't give any instructions this time,but has there been any change in plans?」

『I'm sorry about that.I'll give you a warning.Also,regarding that 'that plan',how's it going?』

「Yes,the first phase was a success.All the patients who received transfusions using blood packs turned into modified Cyborg Soldiers and went on a rampage inside the hospital.Dad managed to put them down.」

 野木は、かつて綾小路が那須北丘牧場で取ったデータが収められたUSBメモリを見せる。

『It's quite moving that even death as a human being can become the foundation for your son.』

「I just put it to good use.I've always had pretty good health.」

『Anyway,I'm glad that everything's going well.I'd like you to keep up the good work.I'll let you know if anything happens.』

 大統領のビデオ通信が切れ、野木は遮光カーテンを開ける。

「やれやれ、もう少し身分相応の対応をしろってか。でも、これもあと少しの辛抱か。次に会う時が楽しみだよ、兄さん」

 

 

「……どこ、ここ?」

 うつ伏せに倒れていた瑠里は重い(まぶた)を開き目を覚ます。瑠里は周囲を見渡すと、周囲全体が霧に覆われた白い闇の真っ只中であった。そこは何も見えず、誰もいなかった。だが、その霧は冷え切った彼女の心と身体を暖かく包んでいた。同時に瑠里を照らすように、彼女の目の前を一条の光が照らす。

「__行こう。」

 その光に導かれるように、瑠里は光に向かって歩き始める。(おぼろ)げな意識の中、瑠里の耳に1歩ずつ進む音が反響する。そして光の元に辿り着いた時、眩い光に包まれ、瑠里は思わず腕で顔を隠した。

 

 寒風が吹き荒ぶ雪の夜、那須高原にある田舎町の病院で(風祭真)は"一人息子"として生まれた。親父・大門は、亡くなった母の代わりに1人で俺を育ててくれた。そのため、俺は写真にある母の顔姿に実感が持てない。

 研究で何人も死んだことで親父を取ってくれる所は少なく、自営業で開いたクリニックで助け合って暮らしていた。それが理由で同級生から揶揄(からか)われ、特に「人殺しの親父」などと馬鹿にされた時は、揉め事を起こすこともあった。争いは嫌いだったが、担任もロクに対応しないのもあって周囲が信じられなくなっていった。それでも親父が学費を出していたのもあったから、俺はそんな親父に恩返しをするべく学校には欠席せず通い続けた。昔から人付き合いが苦手だった俺のことを考えてか、中学卒業後は親父が紹介した通信制の高校に入り、生物と体育が人一倍得意で親父が趣味でやっていたバイクをきっかけに城南大学体育学部に推薦で入学した。そこで俺は結城や医学部の速水と出会い、500ccロードレースの日本予選で初出場して初優勝を果たした。大学卒業後に就職したレーシングクラブでも結城や速水、そしてクラブの提携先の医療研究機関・ISSで看護婦として働いていた明日香愛をマネージャーにした4人で共に世界GP(グランプリ)制覇を目指していた。だがその最中、不慮の事故が起こってしまった。速水が俺を抜いた際に起こったスリップで脊椎を損傷し、選手生命が絶たれた。結城も速水のスリップに巻き込まれたが、幸いにも軽いケガを負っただけだった。だが結城もこのことで恐怖と自分の限界を感じてしまい、2人とも世界GP制覇を俺に託して身を引いてしまった。さらに、大学までの学費による資金繰りが上手くいかなくなったため親父のクリニックが閉院してしまった。何とか親父は俺が紹介したISSに入ったものの、親父の研究に志願する被験者がいなかった。そのため俺は自分から被験者に志願したが、それは結城や速水に託された世界GP制覇を諦めることでもあった。今思うと、速水に(ののし)られたのはこのことに対する罰なのかもしれない。

 俺は被験者として、暫く病棟で過ごしていた。だがある日、俺自身が怪物(バケモノ)になって若い女性を次々と殺害する夢を見ていた。湾岸で赤いスポーツカーに乗った男女の刑事の喉笛を爪で切り裂き、サイレンと共にパトカーのライトやストロボで俺を照らした刑事や警官たちを目にも止まらぬ速度や跳躍で飛び掛かって殺す夢を_。そんな俺を看護婦の愛や結城は心配してくれた。だがある日の夜の廃倉庫、俺は遂に目の前で人の死にゆく様を目の当たりにしてしまう。俺は親父と共に研究していた鬼塚義一にそのこと尋ねたものの軽くあしらわれ、再び廃倉庫に訪れたが死体など全て片付けられ謎の男に襲撃されたがセーラ深町の手引きで助けられた。その後の深夜、俺はISSの研究室に忍び込んだときに研究所から出る黒塗りの自動車とトレーラーを見た。俺は"何かある"と感じ、バイクですぐ追いかけた。俺がトレーラーの元に辿り着いた時には、セーラ達CIAにトレーラーが襲撃されていた。俺は止めるよう呼び止めたが、セーラはロケットランチャーでトレーラーのコンテナを爆破した。爆炎に包まれたコンテナの中から現れたのは、火達磨になり絶叫を上げながら連続殺人事件を起こしていた怪物へと変貌していく鬼塚だった。

 その時だった。身体中に迸る激痛と共に俺の心臓の拍動が増し、両眼が赤黒く染まる。衣服を破きながら膨張し、盛り上がり発達する筋肉。白く溶けるように崩れ、赤黒い血管が体表を覆っていく肌。眉間の両隣や両手足からそれぞれ長く黒い触覚と鋭い爪が、皮膚を突き破りながら生え、顎が縦に裂ける。自分が自分で無くなっていく恐怖に駆られながら、俺は呻きながら激痛に耐え意識を保ち続けた。激痛が病み、俺はセーラ達の方へと振り向く。同時に、眉間から"何か(第3の眼)"が生えるのを感じた。セーラ達が怯えるのを感じ、俺は両掌や足元の水たまりを見る。そこに(たたず)んでいたのは、鬼塚が変貌した怪物と同じ姿をした俺自身であった。俺は動揺を隠せずにいられなかった。声を掛けようとしても呂律(ろれつ)が回らず、獣のような唸り声しか出ない。黒塗りの自動車に乗っていた男からセーラを助け出すが、機械仕掛けの怪物となった男の猛攻とパワーに俺は追い詰められる。その時セーラのロケットランチャーの弾頭が迫り、俺は首を締め上げる男の手を振り解き彼女から逃げ去った。俺はその先の人がいない車道、俺のバイクを荷台に積んだジープに乗った愛と鉢合わせする。その時、愛は怪物へと変貌した俺に泣きながら抱きついた。

「ごめんなさい……ごめんなさい、真……」

 俺はその一言に救われた。怪物となってしまった俺を心配し愛してくれる人がいるのだと。俺は愛を抱きしめたが、人間離れした力を持ってしまったために彼女を力強く抱くことができず、どこか遠い場所にいるように感じてしまった。

 翌朝の無人の船舶、俺は愛によって事件の真相を知らされた。"財団"が政治・思想・文化・経済・科学、その他ありとあらゆる全てを掌握しようとしていること、ISSが医療研究機関は表向きのものであり裏では財団の下で"改造兵士(サイボーグ・ソルジャー)"と呼ばれる怪物を作っていたこと、そして俺自身にも"神への挑戦"として鬼塚に細胞の"根源からの創造"のために「改造兵士Lv.3」になっていたこと_。そして愛は泣きながら俺に「俺の身体を元の人間に戻すよう上層部と話をつけてくる」と言い、ISSへと向かった。僅かに残った猜疑心から、俺はその場に動けずにいた。だが、暫くしてから誰かが俺に助けを呼びかけていた。それも、俺にしか聞こえないテレパシーで。

「行かなきゃ、誰かが助けを求めて…早く行かなきゃ!」

 俺は船舶からテレパシーの元へ走り出した。歩道を走っている途中でトラックにぶつかりそうになったが、条件反射で跳び上がった。気がついたときは次々とトラックに飛び移り、車道で次々と車両を追い抜いていく。俺の運動能力はもう人間のものではない、だが今の俺はそのことで恐れる余裕などなかった。俺はISSの裏口に辿り着いた後シャッターを紙のように破き、シャッターの向かい側で財団に捕えられた愛と親父を助け出した。同時にスタングレネードが放り込まれ、周囲が煙幕に包まれた。俺は財団の隙をついて愛と親父を連れて物陰に隠れ、セーラ達CIAが財団と相手しているうちに別ルートを辿って脱出を試みた。そのとき、俺達の手前に銃弾の雨が降り注ぐ。俺達は立ち止まり、正面を見るとそこには白衣の下に黒のスーツを着た中年の男性がマシンガンを携えていた。

「所長……!」

 愛がそう呟いた男がISS所長・氷室(いわお)だった。氷室はマシンガンの引き金を引き、銃弾の1つが親父と愛を逃がそうとした俺の背中を(かす)める。

「真!」

 愛が俺を庇い、銃弾を受け崩れ落ちる。俺は愛の名を叫び、彼女の体を抱えたが急激に体温が低下しているのを感じる。俺は[そばにあった椅子を氷室に投げつけ気絶させる。

「愛⁉︎しっかりしろ!」

 俺は、今も事切れかけている愛の体を揺すりながら呼びかける。

「……ごめんね、真、(だま)して……でも、愛してた……真のことを……本当に…。」

「愛……!」

「例え……例えどんな姿で生まれようと……私と真との結晶……お願い……この子を……この子を…!」

 愛は俺の腕の中で永遠の眠りにつく。俺は愛の亡骸を抱きしめ慟哭(どうこく)した。改造され人間離れした身体になってしまい、愛が死んでから全力で抱けるようになってしまったやるせなさもあり、俺はどうしようもない悲しみと怒りが込み上がり、それが頂点に達した。俺は怪物へと姿を変え、奴を八つ裂きに切り裂いた。

 その後、俺は天井から現れた"機械仕掛けの怪物(改造兵士Lv.2)"と戦った。そのパワーと防御力、そして戦闘経験の差に俺はなす術なく追い詰められていく。だが、長く戦い続けることで次第に怪物が俺のスピードについて来れなくなっていくことを感じた。俺は隙を見計らい怪物の鉤爪(かぎつめ)を電気ボックスに接触・感電させ、怯んだ隙に鉤爪を叩き折り、視神経ごと怪物の両眼を潰す。激痛のあまりに右腕を振り回しながらのたうち回る怪物に向かって俺は一瞬で近づき、何度も引き裂き、左手で頭部を鷲掴みにして右手の毛爪で頸動脈を()き切った。怪物は頸動脈の下から崩れ落ち、首が引き抜かれていった。俺はさっきまで自分の命を奪おうとした存在が死んだことに対する一時の安堵と、俺自身がたった今目の前の命を奪ったことに対する罪悪感が混ざり合い、その場で立ち尽くしていた。だが怪物の頭部から伸びた脊椎は俺の右腕に巻きつき、自爆装置を作動させた。俺は何とか振り解き、それを投げ捨てた。

 その後、俺は愛の亡骸を抱え親父と共に脱出しようとした。親父の走るペースに合わせたためCIAに追いつかれた。だが謎のヘリコプターが機銃掃射やロケットランチャーでCIAを一掃し、親父をネットで捕縛しどこかへ連れ去ろうとする。俺は爪でネットを切り裂き、親父を捕らえたネットにしがみつき助けようとした。だが超合金のワイヤーに首や銅と両腕を巻きつけられ、高圧電流を流されなす術なく捕らえられた。

 

『例え……例えどんな姿で生まれようと……私と真との結晶……お願い……この子を……この子を…!』

 

 愛の最期の言葉が脳裏を(よぎ)り、俺は状況を打開できない自分の力の無さに対し絶叫を上げた。その最中、瀕死のセーラがロケットランチャーをヘリに向け弾頭を放つ。ヘリが被弾し、がISS本社に落下衝突しようとした。その衝撃でワイヤーが外れ、俺は親父を助け出そうとした。だが親父は俺の手を抑え突き放し、ISS本社とヘリとの衝突による爆炎の中に消えた。そのときの親父の顔は、安堵の表情を浮かべていた。

 地面に叩き付けられた俺は、周囲が焼け野原となり未だに炎が燃え盛るISS本社の跡地で愛を見つけ、早くこの場から逃げるため周囲の建築物に飛び移り近くのマンホールから入る。全く人気のない地下下水道に逃げ込んだ俺は、愛の亡骸の腹から"俺と愛の結晶(ミュータントベビー)"が投影された。俺はその子を守り抜くと同時に、これ以上大事な人達を奪わせないため逃げ続けることを誓い真っ直ぐ歩んだ。

 

 

 あれから3日ほどの月日が経った。俺たちは船舶近辺に駐車していた愛のジープからバイクを回収し、下水道に篭っていた。愛の亡骸にいる赤子に栄養を届ける為に極力人の少ない時間で買い出しに行って食材を揃えた。だがそれも使い切ろうとしており、手持ちの金はそれらを賄えるだけの金額が残っていなかった。口座から金を下ろしたり求職するにしても下手に行動すると、財団やCIAに見つかる可能性が高い。その為、俺たちは人気がなく食材を確保できる場所に移る必要があった。それで悩んで偶々外へ出る道とは逆方向に歩っていたとき、俺はこの先に貨物船があることを知った。だが、それには愛の亡骸を持って行かなければならなかった。そのとき不思議なことが起こった。愛の腰から頭にかけて緑色の光に包まれ、光の部分だけが宙に浮いたのだった。俺はこの光景に唖然としたが、ふと我に帰ってそれを布に包んだ。

 こうして俺たちは貨物船の倉庫に忍び込みつつ船員の残飯で食い繋ぎ、貨物船が現地に到着するごとに次の貨物船に乗り換えることを繰り返していた。そんな逃避行を続けていくうちに、いつしか世界各地に流浪するようになっていた。だが1ヶ月後、鉛色の雲の下で雪が降り注ぐ港で、俺たちは次の貨物船へと移るときに少年達が武装し発砲している男達に追われるのを見た。俺は少年達を狭い通路に案内し追跡から逃れた。その後俺は連中を少年達が見えない場所まで誘き寄せ、変身後の姿で機銃掃射を躱し、銃器を捻じ曲げて威嚇し退散させた。だがその直後、銃器を携えた複数の人々に取り囲まれた。俺が助けた少年達を含んだ人々の服装は私服姿がいればコマンド部隊から剥ぎ取ったものもあり、表情は険しく殺意をむき出していた。その中には後に密売グループのリーダーとなる少年の姿もあった。

 その後俺たちは彼らに連れられ、独房のような狭く汚く手足が凍える密室に入れられた。そこには10代前半くらいの儚げな表情をしている少年がいた。少年は自分の名前が"智樹(ともき)"であること、俺たちが今いる場所はテロリスト達が占拠したシベリアの収容所であること、ここにいるテロリスト達はリーダー格以外は戦闘技術しか教えられていないこと、そして彼がテロリスト達の雑用としてこき扱われていたことを教えた。俺は智樹と共に密室で、テロリスト達の雑用として暮らしていた。同時に、不測な事態に備えて彼等の銃器の扱いや格闘術などを窓越しから観察していた。その最中、テロリスト達に"バケモノ"と呼ばれるなど酷い仕打ちを受けることもあった。特に愛の亡骸が触れられそうになったときは我を見失って殴りそうになったが、その前に愛の亡骸からの衝撃波で彼等を吹き飛ばすことがあった。俺たちは互いに助け合っていくうちに、智樹が人間らしい喜怒哀楽を見せるようになっていった。そして俺たちはテロリスト達に認められ、傭兵(ようへい)として駆り出されることが決まった。

 それから数ヶ月後、テロリスト達の間で噂になっていることを耳にした。それは政府が"デストレイ"と呼ばれる超兵器を、極秘裏かつ各国に知らせず開発したことであった。それはありとあらゆる物質を破片すら残さず消滅させてしまう振動波を放つ恐るべき兵器であり、動力に核分裂を用いているため下手に破壊することはできなかった。デストレイを手中に収めることができれば、戦況を一気に逆転できるのは明白であり、そこで彼等は傭兵全員でデストレイを強奪することを決定した。

 翌日の夜明け前、政府が管理する武器倉庫に奇襲を仕掛け、弾丸の雨や怒号と共に次々と警備員や従業員を血の海に沈めていく。一方俺たち本隊は、別働隊が相手している間にデストレイが置いてある場所を探していた。だがその最中、智樹が姿を消していた。俺は智樹の身の安全のことで心配であったが、今はそんな余裕が無かった。決死の捜索の末、俺たちはデストレイがあると思わしき部屋の扉の前に辿り着いた。本隊の1人の少年が嬉々(きき)とした表情で扉を開けようと駆け寄る。その瞬間に数多の銃声が響き、少年は糸が切れた人形のように崩れ落ちる。俺たちは後ろを振り返った途端、完全に包囲されていることにたった今気づいた。20人以上の警備員達が銃器を持って通路を包囲しており、その中から背丈が低い影が姿を現した。

「……なぜ、君が……⁉︎」

 そこには、別働隊の1人の血塗られた生首を引きずっている智樹がいた。

「ごめんなさい、今まで隠して……。でも、ここで死んでください」

「何を言ってるんだ……⁉︎」

 俺は左手で生首を掴んでいる智樹の右手を見ると、それは彼の華奢(きゃしゃ)な身体と釣り合わない巨大な鉤爪が備わっていた。

「それは……⁉︎」

 俺の視線が智樹の右手に向けられていることに気づいた彼は、右手を見つめた後に再び俺を見つめた。

「これが気になるの?この身体は、僕の父さんと母さんを殺したコイツらをやっつけるために捧げた。そして僕はスパイとして入り込んで、デストレイが完成したらここに誘い込んで一気に叩く予定だった。」

 俺は膝から崩れ落ちる。

「……でも、風祭さんはそんな僕を温かく迎えてくれた…薄暗くて寒い部屋でいじめられていた僕を庇ったり、一緒に過ごしていくうちに本来の任務を忘れようとしていた……」

 喜怒哀楽に乏しかった智樹の表情は、今までにないほどに哀しみに包まれていた。

「だから……僕たちが戦う必要は無いんだよ、風祭さん!僕たちと一緒に戦おうよ!」

 俺は頷くことを躊躇った。"財団"は智樹を救ったのではない、彼の純粋な気持ちを利用しただけだ。かつて俺や愛、父さん達を利用したように_!だが、だからってその場で智樹を殺すことに対し俺は躊躇っていた。だが本隊の1人の青年が手にしている銃火器の引き金を引き、智樹の全身に銃弾の雨を浴びせる。だがその銃弾も彼の身体にはめり込ませただけで、足元にボロボロと落ちていった。青年が怯えながら後ずさるのを尻目に、智樹は生首を足元に叩きつけ踏み潰しミンチにした。そして智樹は血塗られた左手で顔を鷲掴みにし、そのまま引きちぎった。その中から醜悪な顔面が露わとなり、全身の皮膚や衣服を破きながら身体を膨張させる。その姿は機械と筋組織が入り混じった灰色と黒の大男の怪人となっており、智樹の面影は一切感じられなかった。

 智樹、いや"機械仕掛けの怪物"は俺を横切り、右腕の鉤爪や備え付けの機関銃で次々とテロリスト達を血の海に沈めていく。だが次第に敵味方の区別がつかなくなっていったのか、警備員達にも襲いかかった。怒号や悲鳴、銃声が響き渡る中、俺はこんなことになってしまったやるせなさと怒りが込み上がり、怪物となった。智樹は、俺の姿を見たと同時に鉤爪を振り上げ飛び掛かる。俺はそれを避けるが、着地した智樹はすかさず機関銃で俺に目掛け乱射した。俺はすぐさま飛び上がり、戦闘の余波で破壊された壁や天井の影に潜んで息を殺す。智樹は俺の居場所を探し出すためか、本能のままに周囲の瓦礫を怪力や機関銃で破壊している。その隙をつき、俺は智樹の背後に飛び乗り、上腕部に生えた毛爪で彼の首元を切り裂く。同時に智樹の身体から力が抜け、糸が切れた人形のように崩れ落ち、首筋の傷口から赤黒い血が髄液と共にドクドク流れ出す。

 俺はまたしても人を殺した。今回は仇でも俺の命を奪おうとした敵でもない、"財団"に弄ばれただけの少年だった。もう戦うのは嫌だ、戦いたくない、俺が誰かのために頑張ろうとしても結局バカ見るだけだ。それを何度も、何度も、何十何百と!

 俺は死屍累々とした倉庫の瓦礫から立ち去ろうとしたが、背後から意思のない殺気を感じた。智樹の死骸だった。首元があらぬ方向に曲がった状態で走り、起爆装置を発動させた死骸は俺に迫る。俺はすかさず身構えたが、突如人間大の光の柱が死骸を(ちり)1つ残さずかき消す。激しい閃光と衝撃のあまりに俺は両腕で隠し、それが収まり腕を下ろすとそこには1台のバイクに跨ったテロリストのリーダーがいた。リーダーはまるで玩具を貰った子供のようにはしゃいでいた。しかしそれは、人間が持つにはあまりにも過ぎた力だった。さらにリーダーは俺にバイクのライトを向け、空気中から光の粒子がライトに収縮し始め撃鉄を引きかける。だが突如リーダーの左肩から右腰骨にかけて両断され、鮮血を噴き出しながら崩れ落ちた。そこには今まで見たことのない"怪物(バケモノ)"が佇んでいた。背中から生やし、襟飾りのように胸や肩を覆う1対の猛禽類の翼。翼以外の全身を覆う紫色の鱗。筋骨隆々で非常に分厚い胸筋。湾曲したアメジストのような爪。猛禽類のような前腕と下腿。口元が裂け鋭い牙が生えた口。悪魔のように生えた鰭ひれのような鶏冠。爬虫類のような緑黄色の両眼。眉間に生え緑黄色の水晶に覆われた第3の眼。2m以上もある禍々しく神秘的な姿は、もはや"邪神"であった。

『あれ、テロ相手にこんなにやられちゃったの?ま、とりあえずコレ(デストレイ)を回収して帰るか。』

 怪物は周囲を見渡しながら呑気に呟いた直後、右手の掌から作り出した銃器で俺に発砲する。俺はギリギリ避けられたが背後で爆発する音を聞き、1秒でも遅かったらその場で死んでいたこと、そして怪物が人殺しに対して一切の躊躇いが無いことに戦慄していた。

『へぇ、これが"兄さん"。ISS壊滅の一端を担っていたのは伊達じゃないってワケか……』

 怪物の声が耳元で聞こえ、俺は振り返ると同時に右腕で手刀を叩き込みにかかる。だが背後の怪物は難なく右手に生じた紫色のオーラで受け流しつつ、俺の背後に回り裏拳を叩き込む。その拳は威力では俺と変わらないものの、明確な殺意が込められているように感じた。俺が振り向くと同時に怪物は右手の指を鳴らし、4体くらいに分身して俺の周囲を取り囲む。俺は次々と急所を狙った連続攻撃を喰らい、吐血しながら崩れ落ちる。それでも俺は力を振り絞り立ち上がって飛びかかるが、怪物は姿を消し俺は地面に叩きつけられる。上から殺気を感じて急いで立ち上がった俺は、戦闘の余波で破壊された吹き抜けの天井を見上げる。そこには拳銃を構えた怪物がいた。怪物は"第3の眼"から紫色の波動を放ち、それと目が合ってしまった俺はその場から動けなくなっていた。怪物はすかさず拳銃の撃鉄を引き、放たれた数多の弾丸が俺に降り注ぐ。

 そのとき、突如俺の目の前が緑色の閃光に包まれた。光が収まるとそこには、テロリストのアジトに置いたままの愛の胴体があった。緑のオーラを纏ったそれは、弾丸の雨から体を張って俺を守るかのように立ち塞がっていた。弾丸がオーラに弾かれ地面に突き刺さる様子を目の当たりにした怪物は、徐々に苛立ちの表情を見せ舌打ちをした。怪物は頭上に紫色の太陽のような形をした光球を作り出し、それを愛に目掛け蹴り込む。光球が緑のオーラを徐々に打ち消し、愛がそれを喰らってしまう。光球は愛の軀を徐々に分解し、閃光を放ちながら倉庫の周囲一帯を吹き飛ばした。

 俺が気がついたときは倉庫とは別の場所にいた。そこはテロリスト達がいたアジトだった。だが俺を含めた全員が倉庫襲撃に駆り出されていたため、そこには誰もいなかった。そして俺の目の前には、宙を浮く赤子の姿があった。その赤子は緑色のオーラに包まれ、額に赤黒い眼が開いており、怪物の姿の俺を受け入れてるかのように笑顔ではしゃいでいた。俺はただ、この赤子を優しく抱いた。

 その後、俺はこの"愛との結晶"である赤子に"新"と名づけ、4,5年ほど人知れず貨物船を渡り続けた。その最中、改造兵士に襲われた船長から吾郎君を託され、故郷の地での彼との出会いで改めて血の繋がらない誰かのために戦うことを決意した。その後上京して結城と再会し、瑠里ちゃんと出会った__。

 

1997年12月27日 午後8時 日本 東京都 中央区 明石町10-1 地下下水道

 瑠里は再び重い瞼を開く。そこは備え付けの照明器具が切れかかり、悪臭が漂う下水道であった。気温が低く、うつ伏せから起き上がった瞬間に一気に悪寒を感じた。足元を見ると1枚のボロボロの布に自分の全身を巻けるだけの新聞、そして目の前には怪物の姿の真がうつ伏せで倒れていた。先程までの真の胴体部の傷は塞がっており、真の周囲の空気が揺らいで見えるのと同時に暖かくなり、肥大化した肉体が元の肌色になっていくと共に収縮する。毛爪や触覚が引っ込み毛髪が生え、裸体の人間の姿に戻り意識が戻り始める。

「……ここは?」

 真が呟いた前後の一部始終を見た瑠里は、戸惑いを隠せないと同時に思わず顔を赤らめていた。

「どゆこと……⁉︎」

瑠璃は思わず呟いた。

「私が一緒に連れ出したのよ、瑠里。」

 瑠里は、聞き慣れた少女の声に下水道内を反響する足音がしたの方へ振り返る。同時に真も起き上がって瑠里と同じ方向を見て呟く。

「君は__!」

 そこにはガゼルのような1対の短い角が生えて黒ずんだ焦茶色のフード付きのマントを羽織った、瑠里と同じくらいの背丈をした人物が立っていた。

 

Cell Ⅷ telophase

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