Shin Masked Rider   作:真崎アスカ

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真と瑠里は、下水道内で自分達を助けた謎の少女と対面する。
一方セーラは、財団の要となる地・ネルトリンゲンへと足を踏み入れる。

※注意(読む前に必ず見て下さい)
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・元ネタ「真・仮面ライダー 序章」は履修済み前提
・平成ライダー初期5作並、または旧1号編を作品全体でやった作劇
・鬱展開および陰惨極まりない描写
・稚拙極まりない文体および言い回し
・皆無に等しい主人公補正
・非常に分かりにくい平山ライダー、平成ライダー初期5作等の特撮・アニメ・ドラマのパロディ
・パワーインフレ皆無
・亀の移動速度以下のストーリー展開及び更新速度


Cell Ⅸ:Equus

1997年12月28日 午前2時 日本 東京都 中央区 明石町10-1 地下下水道

「あなたまさか……!?」

 振り返った瑠里の視線には、黒ずんだ焦茶色のフード付きのマントを羽織った、瑠里と同じくらいの背丈をした人物が立っていたのが見えた。その人物はフードを外すと、瑠里は唖然とした。

「裕美⁉︎」

 だがそこにいた裕美は、ガゼルのような1対の短い角を生やしており、瑠里は驚きのあまりに声を上手く出せずにいた。

「裕美……角が……⁉︎」

 瑠里の指摘に裕美は思わず目を背けようとする。

「……私にもよく分からない。手術を受けてたとき、身体中に何かが入り込んだ感じがして、意識が戻って鏡を見たらこれが生えてたの……」

「だから怖くて病院から抜け出した……」

 裕美はゆっくり(うなず)いた後、真の方に眼差しを向けた。

「……風祭さん、これであなたの気持ちが分かった。怪物(バケモノ)になった私は何をしたらいいか、そしてそんな私を受け入れてくれる人がいるか……!」

「もうやめて裕美!」

 瑠里は今に泣きそうな顔で裕美の元へ駆け寄る。

「ごめんね……ごめんね、裕美……私、自分のことばっかで裕美や周りのこと全然考えてなかった……!」

「瑠里……!」

 瑠里は声を出して泣きながら裕美を抱きしめた。裕美も瑠里を優しく抱く。その光景を見た真はかつて愛が抱いたことを思い出した。同時に真は、かつての自分達と同じく彼女たちを理不尽な境遇に置いた財団に対し、拳を強く握りしめ憤っていた。

 

1997年12月27日 午後3時半 ドイツ フランクフルト・アム・マイン フランクフルト国際空港

 滑走路で1機の旅客機が轟音と共に着陸する。着陸した機体から降りる乗客の中にセーラがいた。私服にサングラスをかけた彼女の手持ちには武装や違法の所持物は一切無く、荷物検査に引っかかることなく入国する。セーラは空港入口まで歩き、目の前で止まっていた黒塗りの自動車のドアを開けて入る。セーラはシートベルトをつけ、運転席に乗車している綾小路に車を走らせるよう命じる。その自動車には、事前に調達した銃器やロケットランチャー、その弾頭が積まれてあった。

「教会まで時間は?」

「最短で2時間半掛かります」

「回り道とか無いかしら?」

「裏道を使ってもこの位掛かります」

 セーラは溜息をつく。赤信号で停車中、綾小路がスーツのポケットから手帳を取り出しセーラに手渡す。

「……それは?」

「5年前、ISSの跡地から回収した鬼塚の手記(しゅき)になります。機密事項として保管していましたが、貴方に渡して欲しいと」

「何故?」

「それ以上は秘密厳守となります」

 セーラは呆れながら手帳を開き、怪訝(けげん)な顔で項目を読む。

「⁉︎」

 セーラは驚愕し、急いで読み進める。読み終えたセーラは手帳を閉じ、ポケットに入れる。

「……急いで、あそこにあるのは一刻も早くこの世から消さなければならない代物よ……!」

 

 

1997年12月28日 午前2時 日本 北海道 稚内市 宗谷岬 ISSオホーツク工場

 分厚い雲に一面覆われた夜空の下、工場の建屋や周囲は今も雪が降り注いでいる。その積雪量は14cmにも及んでいたが、社員達が社内の寮を利用していたのもあって工場の運営には何も支障をきたしていなかった。

 社長室。野木はデスクに座り、PCのデスクトップに表示されてある中継衛星・TDRS-Gの画像や説明文をスクロールしながら眺めている。そのとき、野木はPCのタスクバーのアイコンの1つが点滅しているのを確認する。野木がそれをクリックすると、大統領のビデオ通信のウインドウが画面の4割程度で表示される。

「Hello, this is Nogi.」

『Sorry about the urgent matter,CIA has ignored my orders and headed to your hometown.We still need your mother's help.』

「So you want us to go there?」

 野木の口調が若干辛辣なものとなる。

「Yeah,that's surprising,I can't believe you actually have human blood running through your veins.」

「Thank you for that.I hope you don't get bitten by your dog one day.」

「Sorry about that.But you know,it's just a Sala.I don't think it'll be too much trouble.」

 野木は思わず舌打ちしかける。

「I understand.Also, I'd like to borrow a relay satellite for that project.I'll ask about this and other matters when I get back.」

「I know.I'll be counting on you again this time.」

 野木はビデオ通信を切りPCをロックした後、瞬く間に瞬間移動する。ドイツ・ネルトリンゲンへ。

 

1997年12月27日 午後6時 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会

 セーラ達が乗る自動車が教会に辿り着く。彼女は既に戦闘服とガスマスクを身につけており、民間人がいないことを確認し降車する。そしてすぐに自動車のトランクから各武装を取り出し、合図とともに門をぶち破って入る。

「The target has entered the church,I will return immediately.」

 綾小路はスーツから取り出した携帯電話で通話した後、自動車を残し瞬く間に姿を消す。

 教会内。セーラは周囲を見渡しながら、慎重に歩みを進める。そのとき、セーラは人影らしき何かの気配を感じる。セーラは振り返ると同時に拳銃の撃鉄を2、3回引き、乾いた銃声と共に年老いた男の呻き声が教会内に反響する。セーラが声の元に駆け寄ると、急所から血を流し倒れているハインリヒがいた。

「……Warum hast du dieselbe Person getötet……?」

 虫の息のハインリヒにセーラは銃口を向ける。

「……Du wirst sterben...um für deine Sünden zu büßen...ohne dass dich jemand liebt oder sich um dich kümmert……!」

 ハインリヒは白目を剥き事切れる。冷たい眼差しでハインリヒの生死を確認し銃を下ろしたセーラは、彼が倒れた際に落とした鍵を拾う。

「……鍵……?」

 セーラは不可解に思って再び周囲を見渡すと、目の前に背の高い人間の身長より二回り大きな門があった。

「地獄の門……⁉︎」

 セーラは早速、鍵が門を開錠できるか確認する。鍵穴に鍵を刺して捻り、カチャリと音が反響する。金属が軋む音と同時に扉を開き、セーラは懐中電灯を付け光が一切届かない洞穴を進む。通路の更に奥へと進むごとに湿度が高くなり、悪臭が漂い始める。セーラ達は一旦そこに立ち止まり、彼女は背負っていたロケットランチャーを取り出し、洞穴の奥深くに目掛けて弾頭を射出する。だが洞穴な手前に紫色のオーラが壁となって現れ、セーラは弾頭の爆風に顔を隠す。彼女が顔を上げると、そこには野木が立っていた。

「やれやれ、人が忙しいときに墓荒らしなんて味な真似をするじゃないか」

「Who are you⁉︎」

 セーラはロケットランチャーから拳銃に持ち替え、銃口を野木に向ける。

「俺は野木健一。父・アーデルベルト・ルートヴィヒの子息にして"財団"の新社長になった、しがない"戦神"さ」

 

1997年12月28日 午前2時5分 日本 東京都 中央区 明石町10-1 地下下水道

「……裕美ちゃん。前から思っていたけど、君はなんで俺や財団(奴ら)のことを詳しく知ってるんだ?」

 怒りを抑えた真は裕美に尋ねる。戸惑いを隠し切れない表情の裕美は、涙の跡が顔に残っている瑠里を見る。

「……裕美、聞かせて。パパやママを殺したのが誰か、真は一体何と戦ってるか。私、全部知りたい」

 瑠里も裕美に対し面と向かって言う。

「……分かった、今から全部話すわ」

 裕美は決心がついたのか、一瞬黙り込み話を始める。

「……今から5年前、ISS社は不治の病や難病の遺伝子医療のための医療技術開発をしていた。風祭さんはその被験者の1人だったの」

「ISSってたしか、ガス爆発が起こってから色々あって倒産したんじゃなかったっけ?」

 瑠里が裕美に尋ねる。

「表向きにはそうなってるけど、実際は違う。ISSは"財団"の傘下にある生化学研究所で、私の父たちは死を恐れない無敵の兵器"改造兵士"を開発していたの」

「君の親父ってまさか……!」

 何か気づいた真が裕美に尋ねる。

「"鬼塚義一"。風祭大門博士と共に"改造兵士"を生み、密かに自らと貴方を改造し瑠里の父親を殺した男です」

「嘘……全部裕美のパパのせいなの……⁉︎」

 裕美は深く頷き、瑠里は衝撃を受ける。さっき見た夢が本当に真の過去だったとしたら、自分のせいで真に深手を負わせるなど周囲に迷惑をかけてしまったと思い複雑な心境となった。

「……そうなの。瑠里、風祭さん、今まで黙っててごめんなさい」

「いいって、裕美が悪いんじゃないし。その後どうなったの?」

 瑠里は振り切って裕美に尋ねる。

「商品サンプルとして本部のニューヨークに護送されることになって、CIAの襲撃を受けて死んだ。けど大丈夫。バッタが世界を支配するとか、国家を守る兵士(ソルジャー)とか、あんな人でなし、死んで当たり前なんだから__」

 真も瑠里も裕美が無理して気丈に振る舞っていることに気づいており、複雑な心境であった。

「あー、裕美。"財団"とかサイボーグナントカ……とか、もっと話してくれる?私、この中じゃ部外者だし」

 瑠里は、話題を変えようとする。

「!?そうだった、ごめん」

 裕美は我に帰る。

「……全世界の政治、経済、思想、文化。人間の誕生から死まで、あらゆる経済活動を自分達の影響下に置くことを目的とする多国籍企業体(コングロマリット)。それが"財団"よ」

 裕美はさらに話を続ける。

「政財界や軍事産業などあらゆる分野で世界規模の影響力を持ってて、特に今、財団が力を入れてるのが"改造兵士(サイボーグ・ソルジャー)"だわ」

「"改造兵士(サイボーグ・ソルジャー)"……!」

 瑠里は唖然としつつ話を聞いていた。

「財団が超強力な軍事力として各国に販売することを目的に、人間を素体に造り出された生体兵器よ。」

「それじゃ、今まで起こってたバケモノの事件は全部改造された人たちが起こしてたってワケ⁉︎」

瑠里の問いに対し、裕美は頷く。

「人体そのものを強化させた『Lv.1(レベルワン)』、それに機械などで必要な状況に応じ強化させた『Lv.2(レベルツー)』、別種の遺伝子情報を埋めこむことで人体を変化させた"根源からの創造"『Lv.3(レベルスリー)』、そして『Lv.4(レベルフォー)』の4段階があるの」

「"Lv.4(レベルフォー)"……⁉︎」

真は新たな事実を知り、思わず声が出る。

「これまでの改造兵士が"人為的な施術による細胞の限界"に対して、Lv.3以下の改造兵士を他の生物と交配させることで解決を図ろうとしたのがLv.4よ。息子さんがそれに当たるわ。

……でも、それには重大な欠点があった。それでLv.4は、本部のごく一部しか知らされてなかった……」

 

1997年12月27日 午後6時5分 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会

「そう、"Lv.4(俺たち)"は生まれながらにして人間を超えた意志・知性・身体能力・超能力などを行使できる。そんな存在が気が変わって叛逆したら、最悪人間に取って変わられるかもしれない。ましてや、勝つための兵器によって全滅されるとか滑稽な話だ。それで連中はLv.4を封印したつもりだった」

「……けど、封印されたデータを基にあなたが"造られた"。未だこの星の支配者と(おご)る人類を(ただ)し、国家(ほし)を統べる"神"となるために__!」

 野木は冷たい眼差しで自分に銃口を向けているセーラに語る。

「よく知ってるじゃん、誰が吹き込んだか見当ついたけど」

「私も驚いたわ……まさか他にも改造兵士のプランがあって、真や財団の両方にいたなんてね」

「アンタ、確かセーラ・深町だっけ?悪いことは言わないから俺の仲間になってみてよ」

 セーラは思わず吹き出す。

「私が?神のジョークにしては鈍すぎないかしら」

「冗談じゃないとも、俺やアンタは今まで同じ人の下で動いてた。だが、そろそろお役御免になるし一緒に倒す?って話さ」

「私とあなたが?」

 セーラの脳裏にとある悪い予感が頭に過ぎる。その後、セーラは思わず絶句する。

「……まさか⁉︎」

「そうだ、CIAは財団に対する抑止力(カウンター)として活動していた。だからタイミングよく財団(俺たち)の邪魔ができたワケ。鬼塚(先生)抹殺のときも、俺と知り合った大統領が『用済み』としてCIA工作部隊(アンタら)を向かわせたんだよ」

「すると、あのヘリコプターも……⁉︎」

「あぁ、やり過ぎたから来たんでしょ。俺はいなかったから何とも言えないけど」

 セーラは愕然とし、膝から崩れ落ちる。

「どうする?俺と組むか、その場でやられるか。返答次第ではアンタが殺した神父(ハインリヒさん)のことチャラにしていいけど」

 野木は微笑んでセーラに右手を差し出す。

「俺ならこの腐った世界を素晴らしくできる、勿論争いや差別が無い世界だ。考えごと全て"(オレ)"が引き受け、アンタがたは何も考えず暮らす。その為に力を貸してくれるかな?」

 しかし、野木が差し出した掌は弾丸に撃ち抜かれ、風穴が開けられていた。

「……これが私の答えよ。例えグルが上だろうと、あなたのような神様気取りのモンスターがいる以上戦うわ」

「……あっそ、残念だよ」

 野木は撃ち抜かれた右手首を見つめ、呆れた表情で溜息をつく。

「じゃあ、殺すか」

 野木は傷口が塞がった右掌からワルサーp38を作り出し、セーラに銃口を突きつける。セーラもこれに応じてロケットランチャーを構え直す。その時、轟音と共に周囲が揺れ始める。あまりの振動にセーラはよろけていたが、野木は微動だにせず舌打ちしていた。

「What happened⁉︎」

「……始まったか。人間って奴はどいつもこいつも……!」

 

1997年12月27日 午後6時10分 ドイツ ネルトリンゲン 聖ゲオルク教会

 街は紅蓮の炎と爆音、民衆の怒号・悲鳴に彩られていた。上空にはアメリカ軍機やヘリコプターが数機飛んでおり、教会に目掛けロケットランチャーやナパーム弾を打ち込み続けた。教会は完全に破壊し尽くされ、門から繋がる洞穴が塞がった。

「Cease fire.」

 軍隊長が乗る軍機から終了の合図が出る。

「Is it okay?I have to go down to the ground and check.」

「Our mission today is to burn this place down to the ground.We'll leave the rest to the ground forces.We'll be returning immediately.」

「Got it.」

 軍隊長の指示に従い、軍機はすぐに帰還し始める。

「……It's a shocking end for a "God of War".」

 軍隊長が機内で呟く。だが、洞穴の底は全く焼き払われていなかった。

 

 

1997年12月28日 午前2時10分 日本 東京都 中央区 明石町10-1 地下下水道

「……その後、ISSはCIAと風祭さんによって壊滅した。けど……」

 裕美の話の途中で真が喋り始める。

アイツ(速水)は、自分のやり方で改造兵士を作り直した。そして、その技術で傷を治して改造兵士になった。俺を超え、人間を導くために__!」

「そう。そして速水さんは財団の幹部だけじゃなく、一般人や実験動物にも施した」

「まだいるの……他にも、改造兵士(ああいうの)……⁉︎」

 瑠里が裕美に尋ね、裕美は頷く。

「そして、Lv.3は各国に最低3、4体いることになったわ。でも日本だけは風祭さんとCIAによって全部倒された」

「その後どうなったの?」

「……分からない、私が知ってるのはここまで」

「そんな……じゃあ真はこれからも戦い続けなければならないワケ⁉︎無理に決まってるじゃん!」

 瑠里は裕美に訴えた直後、真が喋り始める。

「……無理かどうかは分からない」

「真……⁉︎」

「……俺が逃げなければ、アイツがああならなかったし、世界中に改造兵士がいることにならなかった。もっとしっかりしていれば……!」

「ちょ、真⁉︎」

 真は、視界が一瞬ぼやけると同時に強烈な眩暈を感じ倒れ込みかける。

「……少し疲れただけだよ」

「疲れたって……アンタさっき腹に穴開けられたじゃん!」

 瑠里と裕美は真の体を支え、下水道の内壁に寄り掛からせる。

「私と裕美で何か食べ物でも探すから、真はここで休んでて!いい⁉︎」

 瑠里は真に言い放ち、真は目が点になってうなづく。

「……と言っても、この辺にコンビニあったっけ?」

「それなら心当たりがあるけど……」

「ウソ⁉︎」

 裕美の言葉を聞いて、瑠里は思わず振り向く。裕美はその場所に行くため、瑠里を連れて30分ほど下水道を歩く。

「……裕美」

「何?」

「さっきから思ってたけど、寒くないの?」

「平気だけど……」

「え?」

 瑠里は思わず驚く。

「だって、冬になるとめっちゃ着込むじゃん」

「そうだっけ?改造兵士になるのも悪いことばかりじゃないのね」

 裕美が微笑んでいる傍ら、瑠里は俯いていた。

「……裕美も、真も、なんで普通にできるの?」

「?」

「もう人間じゃないのよ……たったそれだけで普通に生きることも、好きな人と付き合うこともできないのよ……!」

 瑠里がかつて無いくらいに悲壮感漂う深刻な表情を見て、裕美は思わず唖然としていた。

「アンタ今『悪いことばっかじゃない』と言ったよね?私はイヤ。オジさんも、愛っていう人や真のパパ(真の大事な人たち)もみんなイヤなの……!」

「瑠里……」

「……ごめん、急に怒って。悪い夢を見たからかな」

「夢?」

「……さっき見たの、真の記憶の全部」

「全部……⁉︎」

「ウソと思うでしょ?私、見た。ずっと苦しんで、迷って、ボロボロになって……。それでも真は、必死で私たちを守ろうとした。もし真と同じ立場になったら、私、無理かもしれない……」

「……着いたよ」

 裕美の視線が前に向けられているを見て、瑠里はその方向を見る。そこには、裕美と瑠里が丁度入る位の排気口の正方形の蓋があった。そして柵状の蓋から資材が規則正しく積まれているのが見えた。

「これって……⁉︎」

「瑠里たちを連れてきた後、何か食べ物がないか回って見たらあったの。多分、何かの倉庫だと思うけど……」

 瑠里と裕美は小声で会話する。

「私、ここ知ってる」

「瑠里……⁉︎」

「ここ、さっき夢で見たとこと一緒。この先には貨物船があって、真はここから海外へ出たのよ」

「だからあれほどの荷物が……」

「もしかしたらここに薬とかがあるかも……!」

「待って、罠だったらどうするの⁉︎」

 裕美は瑠里を制止しようとする。

「私、逃げない。今度は私達が真を助ける番だと思う__!」

 瑠里は蓋を外し、倉庫に入る。裕美は笑みを浮かべ瑠里に付いていく。

 

都内湾岸にあるとある倉庫の荷捌ルーム

 瑠里と裕美の足音が反響し、室温も吐く息が白く見えるほど下がっていた。その寒さに瑠里も肌寒く感じていた。

「ねぇ、本当にいいの?」

「いいよ別に。真を病院に連れて行けないんだから、私たちが何とかするしかないじゃない」

 瑠里と裕美が小声で会話しながら前に進んでいる途中、巨大なカプセルが目に着いた。

「何これ?」

「……"デストレイ"……⁉︎」

 そのカプセルは、かつて貞衛が預かっていた"委託品"と同じものであった。瑠里はカプセルにテンキーロックが取り付けられているのに気付いた。

「それってまさか……⁉︎」

「これは本来、改造兵士の外付けの強化の1つとして開発したものよ。旧ソ連で開発された後、最終的には回収されたと聞いたけど……⁉︎」

「解除する方法ある?」

「あるけど……」

 裕美はパスコードが書かれたメモ書きをポケットから取り出し、瑠里はそれを見る。瑠里はメモ書き通りにテンキーを打ち込む。するとカプセルが自動で開き、カプセルの隙間の蒸気が周囲を覆う。その中から現れたのは、鮮やかな黄緑と黒に彩られたオフロードタイプのカスタムバイクであった。ヘッドには1対の複眼のようなライトに鋭利な1対の触覚がついているなど、夢で見たものとは異なり全体的に飛蝗(バッタ)を思わせるような装飾が施されていた。

「これ、どうやって持ち帰ればいいんだろ……」

「お前たち、そこで何してる⁉︎」

 数十m離れた場所から男性の声が聞こえる。瑠里と裕美が振り向くと、関東医大病院に訪れたヘリコプターのパイロット2人がライトとマシンガンを携え佇んでいた。

「ヤバっ!」

 瑠里と裕美はその場から走り出す。

「待て!止まらないと撃つぞ!」

 パイロットの2人はマシンガンを発砲しながら瑠里と裕美を追跡する。

 

1997年12月28日 午前2時40分 日本 東京都 中央区 明石町10-1 地下下水道

 滴る雫の音が反響する下水道内、真は少しでも回復すべく睡眠を取っていた。裸体の真には、ボロボロになっている毛布が被せられていた。

(裕美!一旦二手に分かれるよ!)

(ダメよ、あなたが先に捕まっちゃう!)

 真の脳裏に瑠里と裕美の声と銃声が聞こえ始め、真は起き上がる。

「……瑠里ちゃん!」

 真は立ち上がり、第3の眼を開眼する。しかし同時にこれまでに無いくらいの心臓への負担が襲い掛かり、真は足を滑らせ倒れ込みかける。

「……俺は……俺は……誰も死なせない!」

 これまでに無い眩暈と動悸が襲う最中、真は歯を食いしばり呻き声を上げながら立ち上がる。真はそのまま走り出しながら1対の触覚が眉間の両脇を突き破り、両眼が赤黒く染まり、姿を変えていく。

 

1997年12月28日 午前2時45分 日本 東京都 中央区 築地 5-2

 瑠里は逃亡中、右足に弾丸を掠めて思わず転ぶ。その直後、パイロットの1人が瑠里の身体を無理矢理地面に叩きつけ捕まえる。

「瑠里⁉︎」

「裕美ダメ!早く逃げて!」

 瑠里を助けようと裕美は彼女のもとへ急ぐ。だが死角に隠れてたもう1人が裕美を捕縛し、彼女の首元に手刀を打ち込み気絶させる。

「ちょっとねえ!離して!」

 瑠里の抵抗も虚しく、裕美はパイロットの肩に担がれ連れて行かれる。

「それにしても、もう1人の娘には何で角が生えているんですかね?」

「さあな、とりあえず本社に連れて行けば分かるっしょ」

「で、この生意気な小娘はどうします?」

元社長(アイツ)に食わせておけばいいんじゃない?」

 パイロットの2人の会話を聞いて瑠里は周囲を見渡すと、遠く離れた場所に髪と涎を垂らしながら半裸で天井からの鎖で繋がれている筋肉質の男が座り込んでいるのを見た。瑠里は(アーデルベルト)と視線が合ってしまい、瞳の奥に潜む底知れぬ殺気に怯え眼をつぶる。

(イヤ……誰か助けて!)

 そのとき、アーデルベルトが鬼の形相で地獄から響き渡るような唸り声を上げる。同時に彼は鎖を引きちぎろうと必死に(もが)く。その様相を見たパイロットの2人は周囲を見渡し狼狽する。そしてコンクリートの壁が砕ける音が聞こえ、裕美以外のその場にいる者全員がその方向に視線を移す。霧が巻くような土埃が徐々に晴れると、"怒りの蟲"となった真が佇んでいた。

「アイツ、死んでなかったのかよ⁉︎」

 裕美を担いだパイロットの1人がライフルを構え、麻酔弾を発砲しようとする。その最中、瑠里はパイロットの手首を抓り拘束から逃れる。瑠里は発砲を阻止しようとライフルを取り上げてようとする。

「このガキィ!」

 もう1人のパイロットは拳銃を抜き、瑠里を射殺しようとする。だが真はすぐさま飛び上がり、拳銃を取り上げ破壊し胸倉を掴む。瑠里もパイロットの麻酔弾の軌道を外し、裕美を救出する。真はそのままもう1人のパイロットをパイロットに投げつけ、瑠里と裕美を庇いながら瓦礫の裏へ隠れる。

「裕美!しっかりして!」

 瑠里は裕美の身体をゆすり、裕美は目を覚ます。

「……瑠里?」

 裕美は目を覚まし、駆けつけた真を見て思わず申し訳ない表情をする。

「ごめんなさい!勝手に私たちが行動してしまって……!」

 真は小さく首を振る。言葉を介せない怒りの蟲の姿であっても、真の表情は優しいものであった。そのとき、向こう側から人と獣と区別がつかない雄叫びが倉庫内に響き渡る。真たちはその方向を見ると、アーデルベルトが白目を剥いて身体を肥大化させ叫びながら鎖を引き千切る。そしてアーデルベルトはその場にいる者全員に歩き迫りながら身体を変貌する。皮膚が白く溶けるように崩れ、赤黒い血管と粘液が体表を覆い、ダークブラウンになる。筋肉も盛り上がり、長い尻尾が生え、雄叫びを上げる。

 起き上がったパイロット2人はその光景を見て思わず発狂し、弾丸が無くなるまで拳銃を撃ち続ける。だが怪物の身体に命中してもすぐ再生し、パイロットの1人の首元を掴み握り潰す。パイロットは断末魔と血飛沫を上げながら絶命し、首と胴から下が転げ落ちる。その最中もう1人のパイロットはライフルを取ったものの、ライフルを取り上げられ破壊される。そして彼は情けない悲鳴を上げながら怪物の鉄拳を喰らい、顔面を潰され絶命する。その光景を見た真たちは思わず絶句していた。

 怪物は真たちが隠れている瓦礫に向かって走り、手首に生えた毛爪で瓦礫を破壊する。真たちは何とか回避できたが、怪物の尋常じゃない殺意に瑠里と裕美は恐怖を感じた。真は掌の大きさ程度の瓦礫の破片を怪物に投げつけ、怪物に向かって飛び込んでいく。

「真⁉︎」

 瑠里は真に呼びかけるが、裕美に制止される。一方真は一切振り向かず怪物と戦い始める。

「ダメよ、風祭さんは私たちを逃がそうと注意を引きつけたのよ……!」

「じゃあ一体どうすれば真を助けられるの……⁉︎」

 瑠里はあの怪物を倒して全員が助かる方法を考えていた。そのとき、瑠里は解錠したバイクのことを思い出した。

「アレしかない!」

「どこへ行くの⁉︎」

 瑠里は急いでバイクの所へ向かい、裕美も付いていく。バイクの元に辿り着いた瑠里はバイクに跨り、どうやってエンジンを点火するか様々な箇所を操作していた。

「待って、下手に操作したら……⁉︎」

「爆発してヤバいくらい知ってる!」

 瑠里はバイクの計器部分がテンキーになっていることに気付き、『Enter』キーを入れる。すると液晶画面のモニターが点灯し、コードの羅列が表示される。

「"6・6・6"……⁉︎」

 瑠里は呟きながらテンキーを入力し、点灯している『Enter』キーを入れる。すると、モニターに文字列が表示される。

「『GRASSHOPPER(グラスホッパー) 1997』……⁉︎」

 そのとき、バイクのエンジンが点火しライトが点灯し始める。

「な、何これ⁉︎」

 瑠里は驚きの最中に両ブレーキを握ろうとするが、機体のパワーとスピードについて行けずそのまま発進する。

「瑠里⁉︎」

 裕美はそのまま瑠里を追いかける。

 

 その頃、真は怪物と激しい戦闘を繰り広げていた。真は、手足に生えた毛爪で怪物の身体を切り裂く。だが怪物はどれだけ流血しようと痛みを感じる素振りを見せず、傷口や切断された部位を瞬く間に再生する。怪物は攻撃を仕掛け、真はその大振りな攻撃を回避する。しかしその最中、真は発作が起き視界がぼやけてしまう。隙を晒した真は怪物の毛爪にその身体を引き裂かれ、吐血し倒れ込む。怪物は真の首を掴み、貫手(ぬきて)でとどめを刺そうとする。真は視界に真のバイクが回収されていることに気づき、足の指に生えた毛爪で怪物の両眼を抉り脱出する。真は咳き込みながら跳躍してバイクに跨り、バイクが引火する寸前までにスピードを上げ怪物に突っ込む。真は怪物に直撃する直前に跳躍して脱出し、バイクは爆発する。真は棚に叩きつけられるように着陸し、棚に乗せられた資材の山に埋もれる。真は息を切らせ、資材をどけながら起き上がる。だが、そこには炎上しながらも身体を再生させる怪物の姿があった。迫り来る怪物を前に、真は底知れぬ執念を感じ後ずさる。

 

 そのとき、聞き慣れた少女の叫び声と共に謎の黒い影が急スピードで真と怪物の間に割って入る。凄まじい速度で黒い影に直撃した怪物は吹っ飛ばされ、黒い影はその場で急停止する。真の前にあったのは、"グラスホッパー1997"に跨って両サイドブレーキを握りしめた瑠里であった。

「大丈夫……真……?」

 力尽きるように滑り落ちる瑠里を、駆けつけた裕美が抱える。

「瑠里は任せて、風祭さんはあの怪物を!」

 裕美の言葉を聞き、真はグラスホッパーに跨りアクセルを吹かす。真を乗せたグラスホッパーは倉庫内を縦横無尽に駆け回り、怪物に体当たりを連続で叩き込み吹き飛ばす。怪物と距離を取った真はグラスホッパーの計器類に気づき、試しに『6・1・3』と打ち込み『Enter』キーを入れる。するとフロントの口のような部分が開き、バイクのライトのような構造が顕になり、車体からトリガーがせり出す。ライトに空気中の光の粒子が収縮し、最大になったことを確認した真は撃鉄を引く。周囲は青白い閃光と爆風に包まれ、真と裕美は思わず目を隠す。

「……うぅ」

 爆発が収まり、瑠里が目を覚ます。真たちは前方を見ると怪物を含めた建物ごと跡形も無く吹き飛ばされていた。これを見た真たちはグラスホッパーに対し恐怖を感じ、冷や汗をかいていた。

 

1997年12月28日 午前2時50分 日本 東京都 中央区 築地 5-2

 倒壊した倉庫の中、グラスホッパー1997と変身を解いて備品の警備員の制服を着用した真と瑠里、裕美の3人がいた。

「これから先どうするの?」

 瑠里は裕美に話しかける。

「このまま下水道()で暮らす。これが目立つし……」

 裕美は頭に生えた1対の角を気にする素振りを見せる。

「私、オジさんに話してみる。裕美のこと、真のこと全部」

「瑠里……!」

 瑠里の言葉に真と裕美は思わず驚くものの、少し喜びが混じっていた。

「それより……疲れた〜、寝る」

 瑠里は、慌てる真や裕美に支えられグラスホッパーに寄りかからせて貰ってその場で眠る。

「寝ちゃった、まったく瑠里ってば」

「いいじゃない、今回は君たちがいなかったら危なかった。俺が届けるよ」

 真はそう言うと、瑠里に備品のヘルメットを被せ彼女を背負いグラスホッパーに跨る。

「お互いに用事があったらマンホールをノックして下さい、私の方からすぐ駆けつけます」

「分かった、今日は助けてくれてありがとう」

 備品のヘルメットを被り走り去る真の様子を、裕美は見送った。

「風祭さん。今日、改めて貴方(あなた)のことを"救世主"と思えるようになりました。人間であることを捨てられても誰かのために走れる貴方なら、"私たち"に希望をもたらせてくれる。私はそんな気がします__」

 

1997年12月28日 午前3時50分 日本 東京 中野区 中野三丁目 住宅街

 雪が降り注ぐ夜空の下、真は閑静な道路でアクセル吹かし走らせていた。瑠里は眠っている間、真の肌と身体に触れたことで父の温もりを思い出していた。

 

『瑠里、大きくなったら何になりたい?』

『わたし、きしゃになってパパやパパのしごとをもっとみんなにしってほしいの!』

『そうか、パパも楽しみにしてるよ』

 

 クラスメートにバカにされ、悔しくてケンカしても一歩も譲らなかった夢。そして刑事として、1人の父親として好きだった父のことを思い出していた。そのイメージは真にも伝わっていた。

「……うぅ」

 街灯の光の眩しさで瑠里は目を覚ます。

「……真」

「?」

 瑠里は真に話しかける。

「私、思い出した。私のなりたかったもの」

「なりたかったもの?」

「秘密、恥ずかしいから」

「そんなことないよ。瑠里ちゃんのことだから、きっといいものだよ」

「ったくもー」

 瑠里は少し拗ねた後、一旦黙る。

「……ねぇ、"財団"やっつけたらどうするの?」

「そうだなぁ……もう一度レーサーに復帰して今度こそ世界GPを取りたいな」

「それならオジさん、もっと忙しくなるね」

「あぁ。アイツなら、喜んでサポートしてくれるさ」

 真と瑠里は、久々に笑顔で会話していた。その最中『結城サイクルショップ』に着き、真がグラスホッパーを停車する。真と瑠里は階段を登ってドアの前に立った真はノックする。急いで駆けつける足音が中から聞こえ、ドアが開く。

「瑠里ちゃん……真⁉︎」

 扉から出た結城は、真や瑠里が戻ってきたことに驚きを隠せずにいた。

「良かった、無事で……!」

 真と瑠里は、結城が安堵するあまりに全身の力が抜けたように見えた。

「……結城!」

 結城はハッとした表情で、自分を呼ぶ真を見る。

「……もう一度、ここに住んでいいか?」

「真……⁉︎」

「裕美ちゃんが病院に運ばれるときに一緒にいてやれなかったことや、紙だけ書いて勝手に出て行ったことは悪かった……すまない」

 真は言葉を続ける。

「あのとき、俺は怖かったんだ。俺といることで君にも辛いことを味わせ続けることが……。でも、瑠里ちゃんは俺を受け入れ助けてくれた。だから、俺も君を信じたいと思う__!」

「……当たり前じゃないか!俺たちは友達だ、秘密なんて後で言えばいいさ」

 結城の嬉しさが籠った返答を聞いた真は思わず喜びと安堵の感情に包まれ笑顔になり、瑠里と共にドアから入ろうとする。だが突然脳髄から全身にかけて激痛が(ほとばし)り、視界がぼやけ始め全身の力が抜けその場に倒れる。

「真⁉︎」

「おい、真!しっかりしろ!」

 瑠里は真を呼びかけ、結城は倒れた真の身体を揺すり脈を測る。だが真はその場で意識を失っており、瑠里と結城の声が届かなかった。

 

Cell Ⅸ telophase

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