特級過呪亡霊バラライカ   作:GRC

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1. 幼魚と逆罰と銃弾

記録―――2018年9月、東京都港区六本木 クラブ・ジプシー

開店前の夕方、身元不明の白人男性の変死体を従業員が発見

 

死因、頭部変形による脳圧上昇、呼吸麻痺

 

 

「間違いありませんわ。弊社、ブーゲンビリア貿易の従業員、ニコライ・サハロフです」

 

 警視庁の遺体安置場、ステンレスの解剖台の上に横たわる遺体。胸元までジップを下げた安置袋から覗く頭部は奇妙に変形していた。額は大きくせり出し、頭頂部はつむじを中心に深くひしゃげている。どう考えても人の領分を外れた所業だ。

 

 白い肌と長身、短く刈り込んだ金髪、かろうじて判別できたグレーの瞳、および発見現場の土地柄から、ホトケは外国人だとすぐに推察された。身分証を携行しておらず、元の顔立ちは見る影もない。唯一の身元の手がかりは、ジャケットの内ポケットに入っていた「ブーゲンビリア貿易」というロシア系商社の社名が印字された空の封筒だった。

 捜査員が代表取締役のヴラディレーナに話を聞きに行くと、彼女は解剖の前に直接遺体を確認したいと申し出た。

 

 少々歳はくっているが、美人だ。刑事は無遠慮な視線を彼女へ向ける。いかにもやり手の女社長らしいスカートスーツはぴったりとボディラインに沿っていて、その豊満な体を強調している。額から右目を通ってフェイスラインまで広がる火傷跡が()()()が、高い鼻梁と切れ長の碧眼は、"氷の微笑"のシャロン・ストーンを彷彿とさせる。しかし、数々の凄惨な現場を経験したベテラン捜査員でも顔をしかめたほどのひどい遺体を見ても、顔色一つ変えず平静を保つ彼女の様子は、普通のものではない。

 その彼女の後ろにまるで忠犬のようにひかえているその部下は、見上げるほどの体躯の大男だ。黒の短髪の下の厳めしい顔には、右の額から左頬にかけて袈裟懸けに傷跡がはしっている。ここに来るまでも、そして来てからも、ぴくりとも表情が動かない。まるでフランケンシュタインの怪物だ。

 

 不気味な遺体に不気味な参考人。妙な事件の担当になったことを内心後悔しながら、刑事は声を掛けた。

 

「お悔やみ申し上げます、ミス・ヴラディレーナ。彼のことをお知らせする必要のあるご家族は?」

「家族はおりませんの。私たち社の人間が家族代わりです」

「そうでしたか……では、大使館へはこちらから連絡を―――」

「いえ、それも結構」

 

 丁寧な口調だが、異様に鋭い彼女の目が刑事を竦ませる。

 

「後は我々が引き継ぎます。これは()()()()()()()()()()()()()()()()。ああ、遺体の引き取りには後で人を寄越します」

「は?何を言って……」

 

 彼女の迫力に気圧されながらも刑事が反論しようとすると、刑事の上司が慌てた様子でやってきた。彼は刑事に耳打ちをする。

 

「上からの指示だ。全て彼女の言うとおりにしろ」

「何を言ってるんです?そんな無茶、通るわけが―――」

「馬鹿野郎、こりゃどう考えたって"普通"の事件じゃあないだろう!長生きしたけりゃ黙って従え」

 

 納得のいかない刑事の訝しげな視線など、まるでどこ吹く風の彼女の肩に、部下の男がコートを掛ける。ビジネススーツには不釣り合いな、肩章の付いたミリタリーコートだ。

 

「お話は済みまして?では失礼、полиция(民警さん)

 

 最後に何か耳慣れないことば―ロシア語だろう―であいさつして、二人は去って行った。

 

 

「軍曹、サハロフ上等兵と組んでいたのは?」

 

 遺体安置所を後にした女は、ヴラディレーナという表の仮面を取り去って、バラライカへと戻る。帯同する側近の男―ボリス軍曹へ向ける顔は、上官のそれだ。遊撃隊(ヴィソトニキ)は、かつて共に戦場を駆け抜けた時の名残のまま、互いを当時の階級で呼称する。

 

「メニショフ伍長であります、大尉(カピターン)。昨日の一五○○時の定時連絡以降、連絡が取れておりません」

「捜索班を出せ。各班に二名、()()()ものを配置しろ。ああ、サハロフ上等兵の遺体は高専の家入にまわせ。残穢だけでは手口が分からん」

「は、直ちに」

 

 部下(戦友)が殺された。

 あらゆる困難()を打ち破ってきた元特殊任務部隊(スペツナズ)の精鋭兵が、あの熱砂が舞う地獄のような戦場ではなく、世界中の悪党のるつぼである悪徳の都でもなく、ぬるま湯でふやけきった極東の島国で、呪いなどという巫山戯たものによって、だ。

 先ほどまで抑えていた憤怒が、バラライカの体から漏れ出た呪力とともに立ち昇る。周囲の空気が呼応してざわつく。

 

 バラライカは立ち塞がるすべてを殲滅する。たとえ相手が魔女(バーバヤガー)怪物(ババイ)であろうが、彼女のやることは変わらない。

 

 

 バラライカの部下であるサハロフが変死体で発見されたのと時を同じくして、虎杖と七海もまた川崎の映画館で発生した男子高校生の"変死"事件を追っていた。類似の事件や失踪者の情報、"窓"による残穢の報告―不可侵の不文律のあるバラライカの勢力圏である六本木の件は含まれていなかったが―から犯人の居場所が導き出された。

 子供である虎杖を危険から遠ざけるため彼に別行動を指示した七海は、単独で犯人の元へ向かった。

 罠であることを承知の上で飛び込んだ地下水道で、七海の前に姿を表したのは継ぎ接ぎ顔の特級呪霊。知能も術式も持ち、軽薄さとその奥にあるドス黒い強さが、()()()()()()を彷彿とさせる。

 その術式は、手に触れた対象の魂に干渉し、形を変える。一連の件の種は分かったが、魂の守りを固めるなど、七海には不可能だ。既に一発くらった右の脇腹がずきずきと痛みを訴える。厄介なことこの上ない。

 

「まぁあと2・3回触れて人間やめさせてあげる」

 

 呪霊の両手に呪力の流れが集中する。術式が発動しているのは手だけだ。ブラフの可能性も捨てきれないが、手の接触を避ければ、致命傷にはならない。

 

 呪霊がカモシカのように変形させた両足で跳ねるように急接近する。体を捻り、呪霊の右手を避ける。死角を狙った左手が七海に迫る。気付いた七海はとっさに鉈で受ける。七海の術式が発動しない箇所なので単純な呪力での受け止めだ。鉈と左手で鍔迫り合いをしていると、三点バーストの銃声が響くと同時に、刃の横っ面にもの凄い衝撃がはしる。銃弾、それも呪力が込められている。新手の呪詛師か―――

 

 曲がり角から姿を表したのは人間ではなかった。ヒト型ではあるが、伸びた頭頂部が大きく右向きにねじれ、肌は土の色をしている。これまでの改造人間とは違うと一目で分かる。まるで軍人のように自動小銃を構えていた。

 

「そいつ、面白くってさあ!非術師なのにちょっと魂が固くて、思ったように変形させらんなくって。でも他のとは違う動き方するんだよね」

 

 まるで新しい玩具を自慢するように呪霊がはしゃいだ声を出す。

 

 呪霊の術式を避けながら、飛んでくる銃弾にも対処が必要となった。

 改造人間はこちらとの距離を詰めてくることはない。動物的な動きをするこれまでの改造人間とは異なり、訓練を積んだ理性的な行動パターンの残滓が見える。これで改造されずにまともに脳が働いていたら、と想像するとぞっとする。

 幸いにして銃弾に込められた呪力量は大したものではないから、遮蔽物を利用して銃弾そのものの威力を殺せば、何とかやり過ごせる。

 

 脇腹にもらった一発以外はしのぎきった七海は、逃げながら進んだ先で広く開けた空間に出た。遊水地だろうか。天井の高さ目一杯まで大きく跳び上がった呪霊が、壁や柱を蹴ってピンボールのように迫ってくる。改造人間の射線を考慮すると躱す軌道が限られてしまうが、もうそろそろ頃合いだ。わざと射線に飛び込む。銃弾は飛んでこない。弾切れだ。予想を外し空振る呪霊の脚部に七対三のクリティカル。

 呪霊の機動力を潰した隙に、改造人間に向かう。全長の七対三、胸部に向かって鉈を振り下ろす。改造人間は銃身で受けようと構えるが、七海の術式の対象は生物以外にも有効だ。そのまま振り抜く。銃身ごと改造人間を寸断する。

 どさり、と倒れ込む改造人間の口から小さな呟きが漏れ聞こえた。

 

 

「あーあ、やられちゃった」

 

 鉄柵に座り先ほど七海が潰した足を戻しながら、さして残念でもなさそうに呪霊が言った。

 

「ま、でもこんなもんか、一級術師。よく逃げ回ったけど、色々と限界でしょ」

 

 戻した足はヒト型だ。急接近は無い。七海は柱に背を預け、「フーッ」と一息つきながらネクタイをほどく。

 

「残念ながら、ここからは時間外労働です」

 

 時間による"縛り"から解放され、術式開示によりさらに呪力を底上げする。

 "魂の形を強く保つ"とやらで、こちらの攻撃はほとんど通らない。向こうの呪力が尽きるまで叩き続けるのは現実的ではない。取るべき戦法は自ずと限られる。

 七海は渾身の一撃にかけた。

 

 十劃呪法、拡張術式―――"瓦落瓦落"―――

 

 七海が鉈を叩きつけた下水道の壁に呪力が走る。蜘蛛の巣状にひびの入った壁は、無数の瓦礫へと砕け散る。瓦礫はその一つひとつが呪力をまとっており、凶器として呪霊に襲いかかった。

 

 

 呪霊の術式で負傷した七海は、高専に戻り家入の反転術式による治療を受けていた。みるみるうちに傷が塞がっていく。彼女曰く、「ひゅーっとやってひょい」で出来ることらしいが、何度聞いても理解しがたい。

 

「ん、終わったよ。後は増血剤飲んどきな」

「ありがとうございます」

 

 差し出された薬包の中身は感触からして粉末剤だ。粉薬だけを手渡した家入は、しれっとした顔でタンブラーのコーヒーを飲んでいる。

 「家入さん、水は」七海がたずねると、家入は親指で背後の給湯スペースを指した。シンクと、その隣の水切りかごには伏せたままになっているマグカップが並んでいる。

 彼女はそういうところがある。

 マグカップに注いだ水道水でざらざらとした粉薬をなんとか喉に流し込み終えると、ノックもなしに客が入ってきた。

 

 ブーゲンビリアのトップとその側近、バラライカとボリスだ。

 

 家入が「あれ、早かったですね」とふたりに声を掛ける。事前のアポイントがあったのか。何にせよ関わって良いことがあるとは思えない人物の登場に、七海が「失礼、先約があったんですね。私はこれで」と退出を申し出たが、家入がそれを引き留める。

 

「まあ待て七海。どのみちすぐには動けんだろう、少し話をしていけ」

 

 バラライカがソファに腰掛ける。ボリスはその後ろで彼女のコートを持って直立不動だ。家入はバラライカの向かいに座ると、その隣をぽんぽんと叩き、七海に着席を促した。バラライカが前置きもなく話を切り出す。

 

「サハロフの剖検結果は?」

「こちらで調べを進めてる件と同じ手口です。変形した体、イジられた形跡のある脳幹、犯人は共通していると考えてまず間違いない」

 

 あの特級呪霊はよりにもよってバラライカの身内を手に掛けていた。コーラとメントスよりたちの悪い、最悪の食い合わせだ。七海はとんでもない案件を振った五条のヘラヘラと巫山戯た顔を、腹いせに頭の中でぐちゃぐちゃに塗りつぶした。

 そんな七海のポーカーフェイスの下を知るよしもない家入から、彼にパスが入る。

 

「で、こっちがその犯人とさっき()り合ってきた術師」

「詳しく聞こう」

 

 自分の出番は終わったとばかりに立ち上がった家入は、食器棚からカップを取り出し、紅茶のティーバッグを入れた。電気ケトルからお湯を注ぎ、バラライカの前に差し出す。「やっすいインスタントで申し訳ないんですけど」

 自分との扱いの差にイラつきはしたが、社会人経験のたまものか、七海は顔に出さなかった。

 

 相手によって態度を変えるのは自身のポリシーに反するので、七海はいつもの任務報告と同じように順を追ってことの顛末をバラライカたちに説明した。川崎の映画館で発見された変死体、残穢をたどった先で襲ってきた呪霊が、呪霊ではなく人間だったこと。類似事件と窓の報告から探し当てた犯人の潜伏先である下水道で出会した継ぎ接ぎ姿の特級呪霊。その術式が魂に触れその形を変えるということ。術式を防ぐには、魂を知覚し守る必要があること。そして―――

 

「呪霊に改造された人間の中に、半呪具化した自動小銃を扱うものがいました」

 

 バラライカの空気が変わる。ほんの一瞬彼女の体から膨大な呪力が立ち昇るが、すぐに引っ込んだ。眉間に皺を寄せ、無言のまま鋭い目線で七海に続きを促す。

 

「呪霊が言うには、他の非術師たちと違って魂が固く、術式の"効き"が悪かった、と。実際、他の改造人間とは異なり、ヒトの原型をとどめていました」

 

 バラライカが小声で「……だろうな」と呟く。彼女が何に得心したのか引っ掛かりはしたが、こちらに聞かせるつもりの発言ではないであろうことから、あえて尋ねはしなかった。

 

「彼は、最期に"大尉(カピターン)、先に逝きます"と言っていました」

 

 それが彼女たちが探していたメニショフ伍長の末路だった。己に向けた部下の最期のことばを聞いた彼女は少し俯き、ゆっくりと一度だけ瞬きをすると、顔をあげた。その表情は戦場を前にした軍人のそれだ。

 

 バラライカが何を感じ、どんなことを思ったのか、七海には分からない。

 七海は話を続けた。通常の攻撃が効かないため、縛りによる術式の底上げでからくも特級呪霊を退けたが、おそらく祓い切れていないことを七海が告げると、バラライカは彼を「ご苦労」と形式的にねぎらった。

 

「七海、一連の件を上に漏らすな。年寄り連中に介入されると面倒だ」

「ええ、わかっています。こちらも虎杖君を連れて動いている以上、この件はオープンにできません。ですが―――」

 

 七海は話の途中でひと呼吸置いた。今から告げることばは、バラライカの逆鱗に触れかねない。

 

「ですが、まだ任務は終わっていませんし、()()()()()()()()()

 

 サングラス越しに合わさった視線は逸らさない。七海はひどく喉がざらついて、つばを飲み込んだ。このざらつきは先ほどの粉薬のせいではないだろう。

 

 しばしの沈黙がおりた。

 

 バラライカは何も答えないまま立ち上がり、ボリスに「行くぞ」と声を掛けて医務室を出て行った。

 ローテーブルに置かれた紅茶は、結局一度も手をつけられることなく冷め切り、深い飴色に変わっていた。

 

 

 バラライカが高専の校門をくぐり結界の外に出ると、スモーク貼りのメルセデス・ベンツ・Sクラスが出迎えた。ボリスが後部座席のドアを開き、バラライカが乗り込む。ボリスも反対のドアから乗車すると、車両は滑るように発進した。

 

「相変わらず不愉快な結界だ、ヘドが出る」

 

 天元の結界術の範囲は日本中におよび、とりわけその基底となる薨星宮がある東京高専の結界は厳重だ。結界は内包したものを守るシェルターであると同時に、その地に捕らえる檻でもある。バラライカにとって天元の結界は()()だ。

 

「―――しかし……失態だ。ひどい失態だ。二人一組(ツーマンセル)で行動させておけば、私の兵がやられることはないと……思い込んでいた」

 

 バラライカは懐から取り出した葉巻の吸い口をシガーカッターで切る。彼女がそれを口に咥えると、隣のボリス軍曹が杉のマッチで火を点けながら、上官の気を落ち着かせようと言った。

 

「サハロフたちだけでは対処は無理ですよ、大尉殿。まさか触れられるだけで致命傷となる術式だとは」

「パンジシールを思い出せ、踏めば吹き飛ぶクレイモアなど我々には珍しくもないだろう」

 

 かつて駆けた戦場に思いをはせる。灼けるような太陽、砂塵と硝煙、肉の焦げる臭い、昨日まで笑い合った戦友の物言わぬ姿―――

 

「魂にも脂肪は付くものだ、我々の魂にもな」バラライカが忌々しげに吐き捨てた。

「その通りであります、大尉殿」ボリスもまた彼の地を思い出していた。「以後、引き締めます」

 

「同志軍曹、これ以上の戦力低下は好ましくない。敵の術式は兵たちの手に負えるものではない。捜索班は撤収させ、以後高専の同行を見張れ」

 

 彼女の兵は対人戦闘を主任務としている。呪力を込めた銃火器を持たせれば、二級呪霊程度であれば難なく祓え、一級呪霊であっても彼女の指揮下であれば撃滅せしめる。しかし、特級呪霊を相手に出来るのはバラライカだけだ。

 無理もない。アフガニスタンにもロアナプラにも(向こうの世界には)呪霊などいなかったのだから。

 

()()()()()()()()()()、戦死はこれで八名だ。二度目だろうが何人死んでも慣れはせん」

「たとえ世界を超えようとも、あの日の誓いより、戦死は覚悟の上であります。サハロフ上等兵も、同じことを言うでしょう」

「もう殺らせんよ、軍曹。同志サハロフ、メニショフの両名の命は呪霊共の血で償わせてもらう」

 

「憎悪を込めて祓って(殺して)やる」

 

 バラライカの体内を、激しい呪力の嵐が渦巻いていた。

 

 

「君にはこれから吉野順平の監視をお願いします」

 

 七海は一晩明けて合流した虎杖に、再び別行動を命じた。七海にとって虎杖は守るべき子供だ。敵は改造した人間を武器として使う特級呪霊。そこにバラライカたちの介入というやっかい事も加わって、事態はますます混迷が予想される。虎杖には荷が勝ちすぎる。

 

「それから……この件では第三勢力が動いています。ある意味では、継ぎ接ぎの呪霊より脅威になり得る存在です」

「―――ッ!」

 

 虎杖が息をのんだ。

 

「いいですか、虎杖君。ロシア人を見たら回れ右です。あの呪霊の犠牲者の中に、バラライカの配下もいました。遊撃隊(ヴィソトニキ)が投入されるとみて間違いない。銃声が聞こえたら、できる限り遠くに逃げてください。そして、すぐに私に連絡を」

 

 七海があまりにも真剣な目で忠告をするので、途中で話を遮れなかった虎杖だったが、頭の中は疑問符でいっぱいだ。

 

「あのぉー……、ロシア人とか、バラライカ?とか、それって一体何のコト?」

 

 残穢も術式開示も知らなかった虎杖が、呪術界で避けるべき虎の尾(アンタッチャブル)の存在を五条から教わっているはずもなかった。アレな先輩を持つと本当に苦労する。どこから説明したものか。七海は長いため息をついた。

 

 

 青く晴れ渡った空に、ぽつりと黒い点が浮かぶ。その闇はまるで透明な椀を伏せて置いた上から、墨汁を垂らしたようにドーム状に広がり、やがて里桜高校の校舎と校庭をすっぽりと覆い隠した。

 

 

 バラライカの前に数十人の男たちがずらりと並び、一様に彼女に傾注していた。カーキ色の野戦服、その襟元からのぞくは水兵シャツのボーダー柄。皆揃いの格好で、各々の手には自動小銃を抱えている。

 

「同志諸君、里桜高校に帳がおりた(標的が動いた)。現刻より状況を開始する。勇敢なる同志諸君、我らにとってサハロフ上等兵、メニショフ伍長はかけがえのない戦友だった。鎮魂の灯明は我々こそが灯すべきもの、亡き戦友の魂で、我らの銃は復讐の女神(ネメシス)となる。カラシニコフ(AK)の裁きのもと、5.45ミリ弾で奴の顎を喰いちぎれ!!」

 

「Урааааааааааа!!!」

 

バラライカの言葉を受けて、兵士たちが銃口を頭上に掲げ、咆哮を上げた。

 

 

 虎杖が接触した吉野順平の通う里桜高校に帳が下りた。吉野は映画館の変死事件に居合わせ、その被害者は同じ高校の同級生。しかも吉野は呪霊が見える。さらにここに来て通っている学校に帳が下りたとなると、一連の元凶である特級呪霊と吉野には何らかの繋がりがあるのは間違いないだろう。

 七海は無駄だと思いながらも虎杖に待機を命じるも、あの虎杖が大人しくじっとしているわけもない。

 

「そういうわけなので後任せます、猪野君」

 

 昨日の特級呪霊との戦闘の跡が生々しく残る地下水道に戻ってきていた七海は、出迎えた改造人間を無視して踵を返した。同行していた二級術師の猪野が不満の声を上げる。

 

「いや数がさぁ、多いよね…しかもこれ人間なんでしょ?おまけに今回は遊撃隊(ヴィソトニキ)まで出張ってるって話だし…」

 

 七海はごねる猪野に一番効く魔法の言葉を唱えた。

 

「一級推薦の件、引き受けてもいいですよ」

「がんばるぞーっ!!」

 

 効果はてきめんだった。

 気合いを入れる猪野を置いて、七海は薄情なほどあっさりと地下水道を後にした。

 

 

 順平が殺された。

 ちょっと斜に構えてるところがあったけど、母親思いの良い奴だった。虎杖は悲しみと憎しみでぐちゃぐちゃになりながら、腹の底から湧き上がる殺意を継ぎ接ぎ顔の特級呪霊―真人に向けた。

 

 校舎を突き破り、闘いの場を校庭に移す。変形した真人の棘で少し体の風通しはよくなったが、まだ動ける。頭突きのラッシュからの顔面への蹴り一撃。ここで、追い込む。

 虎杖が雄叫びを上げながら拳を向けた先には、真人の代わりに真人の上衣だけが残されていた。

 

 ―――は?

 

 刹那の茫然。

 背後を取った真人が金砕棒状に変形させた右腕を振り下ろさんとした瞬間、荷台に武装した兵士を乗せ、重機関銃を取り付けたピックアップトラックが土煙を立てて猛スピードで突っ込んできて、真人を轢き飛ばした。

 

「はぁ?」

 

 虎杖の戸惑いは今度こそ声に出た。校庭の端まで吹っ飛ばされた真人。

 先行した一台と同じような後続車が三台、校庭に入ってきた。降車した兵士とトラックで半円状に真人を取り囲む。全ての銃口の照準は、真人に合わされている。

 

 闖入者にあ然とする虎杖が、不意に後ろから肩を叩かれて飛び上がる。

 

「ナナミン…!!」

 

 振り返った先の見知った顔に、虎杖の心に安堵が広がる。

 

「説教は後で。現状報告を」

「二人……助けられなかった……」

 

 血塗れで呪霊に殺されかけた状態でもなお他人を思う虎杖に、七海は自身の怪我の状況を尋ねたが「穴がいっぱい開いてるけど平気」の返答に閉口する。

 

「あと学校の人らは全員体育館でぶっ倒れてる。……俺からもいっこ聞いていい?この状況、何?」

 

 映画やテレビでしか見たことのないような兵士が銃を構えて真人を取り囲んでいる光景に、困惑でいっぱいた。

 

「今朝説明したばかりでしょう、彼らは―――」

「あー、びっくりした」

 

 真人がむくりと起き上がった。派手に吹き飛んだが、ノーダメージだ。それもそのはず、呪力のこもらない通常攻撃は呪霊には通用しない。

 真人を轢いた先行車の助手席から、スーツの上に将校コートを羽織った女が降りてきた。怜悧な視線を真人に向けると、鋭い声で兵士たちに命じる。

 

Огонь(撃て)!」

 

 車上のNSV重機関銃と兵士たちのカラシニコフが一斉に火を噴いた。地鳴りのような銃声が校庭に響き渡る。

 

「ナナミン!ほ、ホンモノの銃!!」

 

 興奮した虎杖が轟音に負けじと大声を張り上げる。

 

「彼らが遊撃隊(ヴィソトニキ)です!そして、彼女がバラライカ!」

 

 虎杖は腕を組んでたたずむバラライカを見やった。軍人の親玉と聞いていたので、もっと筋骨隆々の姿を想像していた。まじまじと観察していたが、静かに真人を睨みつける瞳の奥に、己の裡にある呪いと同質の()()()()()()を感じ取って背筋が凍った。

 

 遊撃隊(ヴィソトニキ)の包囲陣の中で避けるそぶりも見せず、銃弾のシャワーを浴びる真人は、体にめり込んだその内の一つをつまむと目を眇めて観察した。すると何かに気付いたのかにやりと嗤い、兵士に命令を下した女、バラライカへと一気に距離を詰める。

 フレンドリーファイアにならないよう兵士たちが引き金から指を離すと、すぐにバラライカは号令をかけた。

 

「下がれ!彼我の距離をよく取り、飛び道具にだけ対処しろ!」

 

 一糸乱れぬ動きで兵士たちが彼女の言葉に従い、先ほどとは逆向きの半円状の包囲がたちまちに完成する。包囲の中心で、バラライカは真人から二歩分の距離を置いて向き合った。

 

 以前見付けたちょっと固い魂の面白い男が持っていた銃と同じ呪力のこもった弾丸に気付いた真人は、眼前の女の目的は仲間の敵討ちだとすぐに思い至った。頭目の女は呪力量がバカみたいに多いが、引き連れているのはスカスカの呪力の雑魚だ。七三術師と知己のようだから、こちらの術式は既に知られているだろう。

 さて、どう料理していったものか。

 最もやっかいなのは魂を知覚している虎杖悠仁だが、足止め方法はもう考え付いている。

 真人は手持ちの改造人間をありったけ十体吐き出した。小型の改造人間が三体、虎杖に向かっていく。虎杖は案の定、その場で迎撃せずに三体を引きつけたまま校舎へ退避する。

 やはりアイツは人間が殺せない。

 七三術師へ向かった二体が鉈の数撃で片付けられたが、こいつの術式のネタはもう上がっている。打撃の瞬間に変形して術式の発動点さえ叩かれなければいい。

 半包囲を形成する兵士へ向かった残りの五体は即座に蜂の巣になった。しかし雑魚どもの銃撃程度、真人には痛くもかゆくもない。捨て置いても問題は無い。むしろ手持ちの補充にはうってつけだ。

 気になるのは女の術式―――。

 

 真人はのんびりと間延びした声で尋ねた。

 

「おばさんも呪術師?七三術師とは知り合いみたいだけど」

 

 バラライカは真人の問いに答えることなく、おもむろに懐から煙草を取り出すと、火をつけてゆっくりと一服した。

 

「あれ?だんまり?おしゃべりは嫌い?」

 

 黙したままのバラライカに、七海が進言する。

 

「バラライカさん、見ての通り奴には呪力をまとった程度の銃弾は通用しません。部下はこの場から退避させた方が良い」

 

 七海の口から発せられた部下というワードに、真人が反応する。先ほどくらった弾丸を見せびらかすようにつまんで掲げながら嗜虐的な嘲笑を満面に浮かべた。

 

「そうそう、そこの七三にやられちゃったけど、これと同じものを持ってた男、あいつもあんたの部下でしょ?せっかくだからあいつの魂いじったときの話でもしよっか」

 

 己を前にして凪いだままの魂を保つバラライカが面白くない真人は、戯れに揺さぶってやろうと一方的に話を続けた。動揺を誘って隙を突こうという目論見もあったが、動機の大半はただ目の前の人間をいたぶりたいからだ。呪霊らしく、愉悦を求めて。

 

「普通なら死んでるところだけど、あの男の魂は他より固くてさあ、ずいぶんもってたね。最後まで魂の汗が滲み出てたよ。"大尉!""大尉!"って」

 

 おどけて泣き真似をする真人を冷めた目で見据えながら、バラライカがようやく口を開いた。

 

「…………ふうん、そう」

 

 真人はがっかりした。バラライカの魂はかけらも揺らがない。こんなの全くつまらない。真人は本来の目的である虎杖と宿儺へと意識を切り替える。

 

「冷たいなあ、おばさん。でもすぐにあの男と同じにしてやるよ。宿儺の器の相手もしなきゃだから、ゆっくり遊んであげられないのが残念だけど」

 

「本当に残念だわ、坊やには悪いけど―――あなた、ここでお終いなのよ」

 

 バラライカは聞き分けのない幼子に言い聞かせるように真人へ語りかけた。優しげな声音だが、その底には得体の知れない何かが顔を覗かせている。

 

「でもその前においたのことは謝ってもらわないと、ねえ坊や。とりあえず、そこに跪きなさいな」

「やーだね」

 

 唄うように否やを返すと、真人はさっさとバラライカを片付けてしまおうと、初手から術式を仕掛けることにした。膝から下をばねの形に変えて跳躍し、一息にバラライカの懐に入る。あっけないほど簡単に手が届き、その魂に触れんとする。

 

「無為転ぺ―――」

「跪け!」

 

 マズルフラッシュが閃くと同時に乾いた銃声が響く。9mm弾に貫かれた真人の膝から鮮血が吹き出した。膝を砕かれた真人が崩折れる。

 バラライカが素早く腰からスチェッキン・マシンピストルを抜き、真人の膝を撃ち抜いたのだ。

 

「え?」

 

 真人は何が起きたのか、すぐには理解出来なかった。たとえ弾丸が呪力を纏っていても真人にとっては拳銃程度は豆鉄砲と変わらないはずだ。しかし、バラライカの放った弾丸は、真人の膝を()()()()()()

 この女は危険だ。どういう仕組みかは分からないが、この女は魂というものを()()()()()。ここで殺さなければいけない。真人は這いつくばりながらも術式を発動させた右手をバラライカへと伸ばした。それはもはや本能からの動きだった。

 

()()()()()()()よ、坊や」

 

 バラライカがトリガーを引くと、真人の右手はまたもや魂ごと弾けた。

 

()()()()理性が働けば気付いたはずだ。()()()()()()飛び込んだことを」

 

 頭上から窓ガラスの割れる硬質な音が響いた。砕けたガラスに乱反射する光の中、虎杖一人が降ってくる。差し向けられた改造人間を殺したのか。真人は潰された膝ごと足の形を急いで戻しながら、重力加速を伴って己を踏み潰さんとする虎杖から転がりながら逃れた。

 魂を壊せる人間ふたりを相手にするのは真人の想定外だ。この場はいったん引く方が賢明かと、身代わりを作るために呪力を練ろうとした真人の背後から、七海が鉈を振りかざす。真人は七海の術式をかわすため、練りかけた呪力を自身の変形に転向させようとした。しかし、呪力操作に気を取られた真人の顎に虎杖の強烈な拳が入る。後ろに傾いた真人を引き留めるように、バラライカが潰れたままの真人の右手を掴んで引き寄せた。倒れ込むように引き寄せられた真人の右頬に、バラライカの肘鉄が叩き込まれる。

 

「白兵戦は久しぶりだ。体は覚えているものだな」バラライカが言った。七海と虎杖が戦線に加わったことで、彼女は銃を腰のホルスターへと戻し、肉弾戦へ切り替えた。

 

 小細工を仕込む隙もなく、七海の鉈が、虎杖の拳が、バラライカの拳が真人を嬲る。魂の形を保とうとするだけで精一杯で、真人には反撃に転じる機が見えない。

 虎杖も七海も、バラライカとの共闘はこの場が初めてのことだったが、まるで二人がどう動くかよく知っているように彼女は立ち回った。バラライカと二人では、踏んでいる()()()()()。だからこそ虎杖と七海は何も考えずに、ただ目の前の呪霊を祓うことに集中出来た。

 そして真人もまた、圧倒的な暴力の前に「死」の感覚へと意識を研ぎ澄ませていた。

 

「結局、お前はどうしようもない呪霊として、ここで死ぬんだよ」

 

 バラライカの最後通牒が、真人の「死」のインスピレーションを完成させる。真人は掴んだ。呪力の核心、そして次なる扉への確信を。

 

 領域展開―――自閉円頓裹

 

 呪力で構築された真人の領域が、七海とバラライカを呑み込んだ。

 

 

 真人の生得領域内は、闇の中にいくつもの手が浮かび、互いに組み合い、網のように張り巡らされていた。術式が付与された領域内では、必殺の術式は必中必殺へと昇華される。領域展開にも対処法はあるが、魂に干渉する術式を受けて相殺出来る呪術も、領域外に出る方法も、ましてや自分も対抗して領域展開する実力など七海には無い。走馬灯のように七海の頭に呪術師から逃げ出した過去と、再び戻ろうと決意した日の何気ないことばが浮かんだ。

 

 何もかもを悟ったかのように晴れやに微笑んだ真人が穏やかに告げる。

 

「今はただ、君たちに感謝を」

 

「必要ありません」七海はサングラスを外し、真人をまっすぐ見つめながら返した。「それはもう大勢の方に頂きました」七海の心には、あの日の『ありがとう』が暖かく灯っている。

 

「悔いはない」

 

「はっ、感謝?感謝だと?それがお前の宗教か」

 

 真人と七海のやり取りを嘲るように鼻で笑ったバラライカが吐き捨てた。状況は絶体絶命のはずなのに、彼女には追い詰められた様子がない。

 バラライカはこれまで一切術式を見せていない。しかしどんな手を隠し持っていても、真人の領域内では無意味だろう。初めての領域展開で万能感に満ちた真人は、術式を発動させた。領域内ではその発動に対象への手の接触は必要ない。

 

―――無為転変

 

()()()()()?」

 

 真人は混乱した。確かに術式は発動され、魂には触れている。問題はその数だ。バラライカの裡には万の魂がひしめき合っていた。

 どれがバラライカの魂だ?何故ひとりの人間の中にこんなにも魂がある?

 

 そもそもこいつは()()()()()()

 

「不愉快な術式だ。戦友(とも)の魂に触れるな、呪い風情が」

 

 バラライカの声は静かだが、地を底から震わせ響くハデスのそれを思わせた。真人はちりちりと首の後ろが灼けるような熱を感じる。どこからか漂う血と硝煙の臭いが鼻をくすぐる。乾いた風と砂塵が肌を撫でる。

 

 バラライカの領域が形成されつつあった。群れで狩りをする彼女は、呪術という力を得てからも、個として追い込まれることなどなかった。生まれて初めて触れる完全な領域展開という呪術の極致によって、彼女の研ぎ澄まされた殺意が自身の呪術を高みへ運んでいく。経験は無いが、方法は知っていた。

 

 突如、虎杖の拳が真人の領域を突き破った。

 閉じ込めることに特化した領域は、外からの力に弱い。故に虎杖程度の呪力でも押し入ることが出来る。侵入できたところで虎杖には真人の領域内では手も足も出せないだろう。だが、虎杖悠仁の裡には、決して触れてはいけない"魂"が在る。

 

 両面宿儺は虎杖の裡に展開した生得領域から出ることなく、ただ己の不快に従って真人を切り裂いた。圧倒的な格の違いだった。たちまちに真人の領域は崩壊し、切り裂かれた左肩から鮮血が吹き出す。展開しかけていたバラライカの領域も霧散し、急激な呪力の消費に彼女を目眩が襲った。

 

 自身の中の宿儺が何をしたかを分かっていない虎杖だったが、誰もが動けない中、目の前の好機に体が動いた。今なら殺せる。

 領域展開で大半の呪力を消耗した真人が、最後の呪力を絞り出す。文字通り膨れ上がる真人に向かって虎杖が渾身の殺意を込めて拳を振り抜いた。

 真人はあっけないほど簡単に弾けた。手応えのなさに茫然とする虎杖の意識を、乾いた銃声が引き戻す。

 

「あれはデコイだ!本体を追え!」

 

 バラライカがスチェッキンを構え、七海に追われながら小さく萎んで排水口へ逃げ込む真人へ弾丸を撃ち込むが、真人はひらりひらりと躱してしまう。先の領域展開から回復しきれていない状態では、バラライカの射撃も常のように正確無比とはいかなかった。

 真人が今正に排水口へ吸い込まれるように入っていくその時、ようやっと追いついた七海が排水口ごと鉈で叩き伏せたが、空振りに終わった。苛立ちを隠さず舌打ちした七海が、下水道で改造人間と交戦している猪野へ電話で真人の捕捉を指示する。

 満身創痍の虎杖は、朦朧とする意識をついに手放した。

 

「大尉!」

 

 呪力の消耗により息を切らし膝をついたバラライカの元にボリスが駆け寄る。

 

「……軍曹、私は無事だ」

「肝が冷えますよ、大尉。呪霊の領域展開に呑まれた時はどうなることかと」

 

 差し伸べられたボリスの手は借りず、バラライカは自力で立ち上がった。

 

「すまん、私の我が儘に付き合わせたというのに、アレを殺しきれなかった。対象は排水口から逃げた。継続して捜索しろ」

「了解、大尉はどういたしますか」

「護衛をつけてそこの二人を高専へ送る。坊やには借りができた」

 

 バラライカが懐から出したパーラメントを咥えると、流れるようにボリスがジッポーで火を点す。

 

「……歳かな、少し―――」彼女らしくなく、ぼんやりとした声だった。

 バラライカは深く煙を吸い込んで、ゆっくりと、ため息のように吐き出した。

 

「少し……疲れた。まったく……こちらはこちらで因果な世界だよ」

 

 紫煙は風に流れ、やがて空に消えていった。

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