特級過呪亡霊バラライカ   作:GRC

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インタールード

「続いて人的被害です」

 

 特級呪霊と呪詛師が、徒党を組んで呪術界の要である呪術高専を白昼堂々と襲撃した。東京と京都の姉妹校交流会の最中の出来事であった。

 夜蛾、楽巌寺の呪術高専東京・京都の両学長と、五条、庵、冥は、姉妹校交流会襲撃の被害について伊地知から報告を受けていた。京都校三年の東堂、東京校一年の虎杖らの奮闘もあり、学生から死者は出なかったが、学生の救出に気を取られている間に忌庫から特級呪物が奪われ、術師や補助監督、忌庫番合わせて十二名の死者が出た。加えて、尋常ではないその死体の状態から、七海と虎杖、バラライカらが以前取り(祓い)逃がした継ぎ接ぎ呪霊の犯行は確定的だった。

 未登録の特級呪霊が複数対、呪詛師と手を組んで何か善からぬことを企み、動いている。五条は事実として表出した己が推論の、そのやっかいさに舌打ちした。

 

「この件って学生や他の術師と共有した方がいいですかね」

 

 庵が両学長に判断を仰いだ。二人とも余計な混乱を避けるために否の判断を下したが、五条が口を挟む。

 

「継ぎ接ぎ呪霊が絡んでるなら、バラライカには一報入れとかないとマズいよ。アレは彼女も追っている。後から黙ってたことがバレたら()()()()()ことになる」

 

 バラライカの名前を聞いて、楽巌寺の表情が苦いものになる。楽巌寺たち保守派の人間は、バラライカに散々煮え湯を飲まされてきた。彼も関わった宿儺の器である虎杖の謀殺の一件でも、バラライカは実行犯を文字通り吹き飛ばしている。木っ端術師がどうなろうが知ったことではないが、派手な演出の見せしめにより上層部の面子は丸潰れだった。しかし、天元とバラライカの()()()()()の手前、おおっぴらには彼女に手を出せない。

 

「え゙、何それ遊撃隊(ヴィソトニキ)案件とか私聞いてないんだけど!?」

「だって今言ったもん。マだいじょーぶ、姐さんもわざわざお前みたいなザコ相手にしないから」

「はぁ!?」

 

 呪術界のアンタッチャブルが話題に上がり、庵がぎょっとして五条に噛みつくが、どこ吹く風の五条は息をするように庵を小馬鹿にする。学生時代から変わらないクズっぷりに、庵が会議の進行そっちのけでキレる寸前、五条を諫める穏やかな声が耳に入ってきた。

 

「悟、本当のことでも言い方ってものがあるだろう」

 

 会議に遅れてやってきた夏油特級()()だった。夏油は東京校三年の担任だが、受け持つ教え子が停学中のため、長期の潜入任務を請け負っている。潜入先の仏教系新興宗教から直行したため、袈裟姿だ。断固として剃髪は断ったため、長髪のまま僧侶に成り済ますという無茶を通しており、はっきり言ってこの外見は胡散臭さが爆発している。

 

「歌姫がザコってのは否定しないのな」五条がにやっと笑う。

「君の方がナチュラルに煽っているよ、夏油君」冥が含み笑いで指摘した。

 

 しまったという顔で「あ゙」と思わず喉から音が漏れた夏油を、庵が般若の形相で睨みつける。

 脱線しそうになる空気を、楽巌寺が咳払いで引き締めた。楽巌寺の苛立ちを感じ取った夜蛾は、夏油に着席を促す。

 

「早く座れ、傑。ここまでの話は聞いているか?」

「悟と電話を繋いでいたので、全て把握してますよ」

 

 スマホを片手に掲げながらしたり顔をする元教え子二人に、夜蛾はため息を吐いた。こういう要領は良いくせに、庵を揶揄う悪ガキのような態度はいっこうに直らない。ともあれ、会議はまだ続く。

 

「それで、捕らえた呪詛師は何か吐いたか?」

 

 

 結局、呪詛師の供述は要領を得ないし、天元の結界への侵入は相性の問題という五条の説が濃厚、敵の狙いも分からずじまいで会議は終わった。実りの無い会議だった。

 

「もう行くのか?」

 

 五条は中庭でペリカンのような飛行呪霊を出した夏油に声をかけた。

 

「ああ、学生たちの無事も確認出来たし、あまり長く向こうを空けていられないしね」

「すっかり生臭坊主が板についちゃって、マァ~。ようやくお前に今年の一年を紹介できると思ったんだけど」

「仕方が無いさ、お楽しみはまたの機会に取っておくよ。今は秤たちの停学を解くためにも、上層部からの任務を優先して、彼らの機嫌を取っておかないと」

「だからってお前が非術師の宗教団体に潜入とか、特級の無駄遣いでしょ」

「上の連中は私とお前を離しておきたいんだろう」

 

 夏油は「じゃあ、本当に急ぐんだ」と飛び立っていった。教え子のためとはいえ、随分としおらしいものだ。ぐんぐんと高度を上げてあっという間に豆粒になった親友を見送りながら、五条はつまらなそうにため息を吐いた。大きな力の波が押し寄せる気配はすぐそこまで来ているというのに、上層部のくだらないパワーゲームにはうんざりだ。

 五条は脳裏に浮かんだ上層部の老人共の皺くちゃな顔を、頭を軽く振って追い出した。()()であれば、あんな連中よりもよっぽど楽しいおしゃべりが出来るだろう。

 

 

 ブーゲンビリア貿易のバラライカのオフィスに繋がる通信回線は三種類ある。一つはロシア系貿易商社の代表取締役ヴラディレーナのへ回線、一つはマフィアのボス・バラライカへの回線、そして残る一つが遊撃隊(ヴィソトニキ)の作戦行動用として存在する秘匿回線だ。バラライカは機密性の高い情報については、第三者による傍受を避けるため専用の特殊暗号回線を敷いていた。

 

「―――で、わざわざ秘匿回線にかけてきて何の用?」

 

 万が一のためにと教えてはいたが、基本的には()()用の秘匿回線を使った五条に、バラライカは不機嫌さを隠さずに鼻を鳴らした。

 

『いやぁ、こっちの恥の話だから、ナイショにしたくって』

「勿体ぶった話し方はしなくていいわ、そのための回線だから」

 

 あのバラライカを相手に、人を食ったような態度が取れる人間は限られている。五条悟はそのごくわずかな人間のひとりだ。

 

『んじゃ単刀直入に言うと―――継ぎ接ぎの呪霊が高専を襲撃した』

 

 怨敵の情報に、バラライカのアイスブルーの瞳に宿る業火が激しく燃え上がる。傍らにひかえるボリスにも緊張が走った。

 部下(戦友)を殺した呪霊を、バラライカは決して許してはいない。一度は七海、虎杖らと追い詰めたが、とどめを刺す寸前で逃げられ、その後は捜索もむなしく足取りは掴めていなかった。ここに来てもたらされた新たな情報だ。複数の特級呪霊が呪詛師と手を組み、高専から特級呪物を奪い取ったという。

 

「大方の事情は分かったわ。でも、特級呪物流出の隠蔽のためなんかに秘匿回線を使ったわけではないでしょう?」

『いや~さすが、お見通しだね。実は本題はここからなんだけどね』

「―――内通者、その存在を疑っているのね?」

 

 五条に先回りしてバラライカは問いかけた。問いの形をとってこそいるが、それは確信であった。

 

『ほんとうにお見通しってわけだ』

「そういう手合いには慣れてるの。昔取った杵柄ってやつね。ありがたくはないけど」

 

 バラライカは()()()()を思い出してうんざりした。軍人時代は旧ソヴィエト体制内の権力闘争に振り回され、マフィアに身を落としてからも仲間内の足の引っ張り合いに巻き込まれ続けた。その混沌の渦にはいつも元国家保安委員会(KGB)が暗躍した。そういう手合い(諜報)のやり口を知らないと、生き残れなかっただろう。

 

『じゃ、話が早いや。内通者探し、協力して欲しいんだよね』

「いいだろう、利害は一致する。お前たちは内憂が片付いて、我々は獲物への手掛かりを得る」

 

 左半分のみの美貌で獰猛な笑みを浮かべたバラライカは、通話を切ると部下であるボリスへ問いかけた。未だ軍人然としたそのやり取りは、作戦行動前のブリーフィングのようであった。

 

「軍曹、内通者の動機をどう考える?」

「は、脅迫による強要か、自己の利益誘導に二分されるかと」

「よろしい。軍曹、高専の人間の家族構成と"問題有(トラブル)"のリストを持ってこい」

 

 優秀な部下の回答に満足した上官が指示したものは、マフィアらしく、ゆすりや脅迫のネタを記録したリストだった。




バタフライエフェクトならぬバラライカエフェクトで、原作乖離が起こっています。
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