取り敢えず、刀を打つことにした。
理由は単純で、人を殺したからである。如何ともし難い気持ち悪さから逃げるために、また、殺してやった相手が化けて出てきた時、自衛のための武器がなければ困るため、ひとまず私は刀を打つことにしたのである。
しかし、私は刀を打つ方法などわからぬ。何せ、お偉い方に年貢を納めるだけでひいひい言っている小作人だった身、知恵も技術もあるはずが無い。
刀の刀身が鉄の塊であることだけはわかる。そして、鉄を熱し、金槌かなにかで打って作ることも。私はまず、我が荒屋中の鉄製品をかき集めた。
そして、次は火である。刀工共は専用の炉をもって刀をつくっているようだが、もちろん私の荒屋にそんなもの、あるはずがない。
仕方がないので、煮炊き用の炉を利用することにした。沢山風を送り込めば、鉄がとろけるぐらいの温度は出るだろう。
他にも色々やらねばならぬことがあるかもしれないが、ひとまず鉄を打つ準備は整った。
では、早速始めていこう____
随分と焦げ臭い匂いが私の鼻を突いた。気を失っていたらしい。
起き上がってみると、周りに変化した様子は無い。外を見て見れば、夜空に綺麗な三日月である。どうやら鉄を打っていた内に寝てしまっていたようだ。
荒屋に戻って、赤熱している鉄塊を前にした。じわじわと汗が滲み出てくるようである。
来る日も来る日も鉄を打つ。何せ、どのぐらい打てば刀ができるかわからないのである。
休憩に、と外へ出てみると、やはり夜空に三日月が浮かんでいる。鉄を打つのに夢中になってしまっているのか、毎回浮かんでいるのは三日月である。たまには満月となっても良いだろうに。
不思議なことに、我が荒屋の周りにある田畑は、米の収穫を終えた後の風景から動くことがない。さらにいえば、年貢を催促してくるお偉い方の喧しい声も、ここ最近は聞いた覚えが無い。よほど鉄を打つ音が大きいのだろうか。
ともあれ、私は今日も鉄を打たねばならない。休憩は終わりだ。
ひとりの男が私を訪ねてきた。人と会話するのは久しぶりで、心が躍った。
その男は、いわゆる忌子という奴なのか、目が四つもついていた。四つ目の男は、まだ刀は鍛え終わらないのか、と問うた。私は首を縦に振った。すると、男は満足したように笑って、この場を後にした。
今日は久しぶりが沢山で気分が良い。見飽きた夜空の月も、三日月ではなく半月になっている。まるで私を祝福しているかのようである。
炉に手を突っ込んで、焼き直していた鉄を引っ張り出して、台へ置く。熱々の鉄を素手で掴めるようになったのは大きな収穫であった、人間、慣れれば案外なんでもできるものだと、一人感心したものだ。
さぁさぁ、さらに鍛え上げていこうではないか。
外へ出てみたら、空には満月が浮かんでいた。
なんで清々しい気分だろうか。1000年は満月というものを見なかった気がする程だったから、その冷たい美しさにため息が出てしまうほどである。
しかしその実、私は焦ってもいた。いつまで経っても刀が完成しないことにである。刀というのは鉄を打てば完成するものではないのだろうか、私の鉄塊は、いまだに赤く、柔らかな状態だ。
男が1人、ここに訪ねてきた。しかし、どうも妙で、私の知るような服装では無いのである。
軽薄そうににやにやと笑っている、目を黒布で隠した白髪である。私の元へくる者たちは、何故皆一様に変な奴らばかりなのだろうか。
すると、白髪の男が、徐に口を開いた。
「よっ!名もなき特級呪霊くん?」
いずれこんな呪霊(呪具?)が出てきてもおかしく無いよね