「ここがイネス!一番大きい店だ!」
銀の誘いを受け、祝賀会として銀と須美の案内でイネスのフードコートにたどり着いた。平日のまだ就業時間であるからかフードコートにいる人並みは疎らで、どこでも座れる様になっている。
「ここが大衆食堂か……初めて」「ね〜」
「ちょっとそこの箱入りたち…」「まあまあ。」
生粋の箱入り、もとい世間知らずの聖と園子は非常に面白そうな物を見るかの様にキョロキョロと周りを忙しなく見る。勿論、そんな事をすれば須美から軽い叱咤と共に銀の嗜める声がする。勿論、そんな事は物珍しさに周りを見ている二人には関係のない話であるが。
「それで、これがイネス名物!食べるのだったらこれでしょ!」
多くの店が並ぶ中銀に連れられ、やってきたのは一つのアイス…ジェラート屋さんだった。二人にとってアイスという嗜好品がこういう形で売られている事を見る事自体初めてというレベルだ。聖は何となく知っていたとしても園子はどうか分からないが、二人の様子を見て初めてなんだなと須美も銀も察する。
「味…選べるんだね〜」「ホントだ……何が美味しんだろ。」
「何でも良いぞ!ここは美味しいのが沢山だからな!」「やっぱり私は…」
三者三様…いや。四者四様でジェラートを選ぶ。たっぷりと時間を使った上で、最終的に選んだ味は聖がオレンジ、園子がいちご、そして須美が宇治金時、銀がしょうゆ味である。
「はい。」「ん〜」
「やっぱり…仲が良いわね。この二人。」
「そうだな〜……というか鷲尾は聞いたこと無かったのか?」
何度も言うが銀も一応名家の生まれで有る。勿論、上里や乃木ほど大きくはないが大赦の情報に関しては親から多少情報を貰っている。……曰く、上里の御子息は300年前の英雄、神樹の使徒である大聖真君の生まれ変わり…などと聞いている。そしてあまり良い噂と聞かない…乃木家の御令嬢の良くいえば執着。悪くいえば依存。
勿論、噂なんて信じない銀だが一応有名な話である。
「私は……養子だから……」
「ああ…そっか勇者で」
うん。そう俯き首を振る須美の真名は◼️◼️◼️◼️。
勇者のお役目、そしてまだ聖以外に言っていないが高位の巫女としての適正。
その全てが見事噛み合い、鷲尾家に召し上げられる事になった。
そういう事だからこそ小学校でもあまり居場所が出来にくいし、正直こっちに来て友人と呼べるのは聖だけだった。
「なら今日から私と友達で良いんじゃないか?」
「………!良いの?」「うん。よろしくな。須美」
「よろしく…お願いします。銀さん。」
銀でいいのに〜と少し揶揄うように笑う銀を片目に、聖と園子は仲良くジェラートを食べさせ合いながら、味に舌鼓を打つ。
この何とも言えない空気差に銀も須美も苦笑する。
「……うん。ああ知ってたからね。」「お偉いさんなのだ〜よ?私たちは〜」
何度も言うが、この二人は四国の中で最も偉いとされる家の生まれだ。
勿論、勇者の適性を持つ子の事や、その中でも今回勇者としてお役目に従事しそうな子の情報は勝手に大赦が語ってくれる。正直、興味はカケラほども無かったが耳から耳に抜ける話だとしても多少は覚えている。
「……まあ…そっか」「乃木と上里だものね。」
「事実偉いからね。」「あがめよ〜」
「「嘘つけ(うそね)」」「本当はどうでも良いんでしょ。」
ほんの少し、ただ背中合わせて戦ったから分かる。
彼らは決して気難しい存在ではない事に。周りから名家故に関わってはならないアンタッチャブルとして言われるが、それさえも彼らはどうでも良い。
比翼連理であるが故に、有象無象の呼び声は耳にさえ入らない。
「正解〜!」「まあ僕はね……特にそうだし。」
事実、園子にとって執着も愛もありとあらゆる情動が聖に向いている。
そしてその聖は大聖の転生体と崇められる正に現人神。もし園子が聖に情動を向けていないのならば、もし聖が独りぼっちならば、きっと彼は誰も何も望まない願われたままの願望機として現人神をするだろう。
「園子で良いよ〜!すみすけにミノさん!」
「聖で良い。これからよろしく。皆」
そう。今ここでたしかに人の縁は繋がった。
二人で完結していた世界は少しだけ広がり、四人になり。
そしてそこから多くの縁が繋がる始まりの結果だった。
ちなみに余談だが、園子が須美に付けた“すみすけ”という愛称は可愛らしくないと言う事で最終的に“わっしー”になり、須美は園子の事を“そのっち”と呼ぶ事になった。
ついでにと付け足すとここ二人は友達の握手〜をしたときバチバチに視線を飛ばしあっていた事はただの蛇足だろう。
「あっ!そうだ!」「どうしたの?銀。」
「写真撮らないか?!」「……良いね。ずっとずっと残り続ける。良いと思うわ」
「賛成〜!ミノさん良い事言う〜!」
スマホのカメラの音が鳴る。子供たちだけで撮った写真だから構図だとか場所だとか言いたい事は有るけれど。確かにイネスで座って撮った写真は一生の思い出になるだろう。
「えい!やぁ!!」「そこだっ!」
イネスで祝賀会をしてからおよそ一週間ほど経った頃。
勇者の四人は大赦が持っている土地で、勇者の特訓が始まっていた。
須美は勇者武具によく似た弓矢で的をひたすら射る。射続ける。園子もよく似た槍で穂先がブレない様に同じ位置を穿ち続ける。そして肝心の銀と聖だが…………
『効率が悪い。もっと的確に行こう』
実戦はバーテックスという化け物だが、基本を押さえるために必要なのは経験を積み続ける事だ。その為に必要な事…それは多くの経験だ。特に攻撃手段が似ている銀と聖にとって、協力手段が増えていくのは明確だ。勿論、前回は空気を合わせられたとは言え何度も奇跡を捻出出来るわけではない…故に必要なのは奇跡を“必然”に出来るほどの練度。
「そーちゃん!行くよ!」「ひーくんこそ〜!」
銀と剣を交え、そして銀が疲れれば園子と交える。
聖にとって園子の槍とはリーチの差が多々ある。だが聖にはそれを覆す戦闘の記憶が眠っている。そして聖は少し考えた。“戦闘の記憶を戻す為には同じことをすれば良い”と。300年前。バーテックスは人並みの大きさが主流だった。
故にこれは聖ではなく大聖としての記憶を想起する彼の孤独な戦いが始まったのとも同等だった。
「……聖ってさ。大丈夫なのか?」「突然どうしたの?銀。」
聖と園子が武器を交えているのを少し休憩しながら須美と銀が話す。
「いや…無茶してるっぽいからさ」「そう……かしら?」
銀は聖を心配する。確かに前よりも社交的になって、園子を引っ張り出す様に一緒に居ることが増えている。銀は昔の聖を知らない。けど何処か第三者であるが故の歪さを不安に思う。……まるで聖が自分で自分を痛めつけてる様なそんな不思議な感覚。
「(まぁ。気のせいか……)おーい!聖に園子ー!ちょっと休もうぜ!」
銀はさっき感じた無意識の不安を振り払う様に、園子と聖に声を掛ける。
でもその不安は近い将来、その身を味わう事になってしまう。
「新しいバーテックスか。」
訓練が始まって一週間後。その一週間の間に体幹のトレーニングや基礎トレーニングがあり、そこでは以外と聖が一番体が硬かったと有って(それでも平均的には柔らかい)話題になったり、銀が遅刻が多いとして探偵ごっこで銀の家族と話すとなった時に、聖と園子が『そういえば親とは会わないよね〜』で少し修羅場になったりと今までの日常とは考えられない濃さで新しいバーテックスとぶつかる事になった。
「なんか随分見覚えのあるような形だな……」「天秤〜?」
バーテックスの姿は秤の様な姿をしており、それを示すかの様に両方に大きさの違う分銅みたいな鉄色の四角いのが付いている。
フォルムは金色で頭上や真ん中の歪み具合から、聖は心の中で(タツノオトシゴ…?)などと考えている。
バーテックスとの距離は前回の時と同じように結構距離が空いている。
だけど前回の反省を生かし、バーテックスに直接叩ける位置まで隠密行動を心がける。だが、前回とは違いバーテックスも神樹まで移動している。接敵の時はもうその瞬間まで。
「行くぞ!」「矢で援護するわ!」
前回とは違い何度か顔を出して武器を振ってみたりと、バーテックスを挑発するが全く応える素振りもなし、そして遠距離攻撃が無いと見てとりあえず銀と須美が突貫する。
「硬っっ!!」「あれ……矢が……?」
銀は軽めに斧をトマホークの様に投げ上げるが甲高い金属音を上げはじき落とされる。須美の矢は確かにバーテックスの中心らしい所を狙って打った筈なのにその全ての攻撃が左右の分銅に吸収される。
そしてその行動のお陰かバーテックスは勇者たちの存在に気が付き、捕捉を始める。
そしてその瞬間、バーテックスは横回転を始める。
「……えぇ……」「うそぉ……」
須美の矢が通らないと見えた瞬間、園子は須美を抱えて聖は投げた斧と銀を担いで元居た方向から少し外れた木陰の下に避難していた。
そしてその行動は正しかった。バーテックスは横回転を始め、その姿は正しく“竜巻”だ。分銅と本体を使って高速回転するその姿は巻き込まれた瞬間、ミンチになる未来しか見えない。
「……たっ…助かった…」「ええ。……でも」
全員が木陰から覗く。そこはまさしく絶望だ。バーテックスの回転は最初チラ見した時より明らかに上昇している。…何故かは知らないがバーテックスはその場所から動かず回転を続けているが、その影響のせいで激しい風が吹き始める。
「回転が止むのを待つか…止めるか……」「…でも〜」
あの中を突っ込む覚悟、ある?
園子が指さした先は黒い竜巻。バーテックスの姿は竜巻の中なのか姿はないくせに、暴風だけが結界内を蹂躙する。もしこのまま回転速度を上げられたらもう手も足も出ない事になる。(今でさえ手も入れられない状態ではあるが。)
「竜巻……止める……」「暴風……あ!そっか!」
勇者たちの頭脳的な須美と園子が必死にどうするか考える。
須美の竜巻という発言を受けて園子は閃いたように顔を上げる。
「そーちゃん?」「うん…うん……きっとこれなら!!」
園子が立てた作戦は一つ。あのバリア擬きが風で出来ているのならば内部は安定しているのではないかと言う事だ。つまり中まで突っ込めば後は破壊するだけ。
そしてそういう風は空間の関係上、上部に行けば行くほど風圧が弱くなる。
「そうなると………」
この中で最も火力が高いのは銀である。そして銀だけでは竜巻の上部には辿り着かない。……そう逆にいえば聖の手を使えば辿り着ける。聖の剣で銀自体を打ち上げると言う手段を使って。
「それだと安全性が無いわ。……まず私が矢を風の上部に打ち上げる。」
聖の腕を信じていないわけではないが、ぶっつけ本番は流石にマズイ。
そういう訳でまず須美が矢を打ち上げる。その矢は風の影響を受ける様に、されど何処までも飛び続ける様に祈る。
「……おー…」「須美…それは……」
矢を指の間に挟み、須美は真摯に祈りを捧げる。
その瞬間、須美の矢を中心に花の方陣が出来る。その花の姿は知っている。須美の勇者服の原点にもなった花。その名前は白菊。その意味は“真実”。
初代勇者とは程遠い勇者としての力の行使。
されど、少女の真摯の勝利への祈りはヒトに味方する神樹に確かに通じる。
「………飛べっ!」
祈りを込められた矢は白い光を纏って、竜巻の最上部を目指して飛ぶ。
竜巻の風のバリアを貫き、その矢は見えなくなる。
「…………………見えた。」
須美はその瞬間、小さくされど確信を込めた声で呟く。
空に放った矢は確かに竜巻の最も弱いところを見つけ出した。
それは最上部、数メートルに満たない小さな穴だけどそれで十分!!
「そのっち!中心から左3メートル!!」「………おっけ〜!!」
須美の荒げる声の報告を聞いて目を瞑って必死に投射角度や位置を考えていた園子が最後のピースを手に入れ、獰猛に笑う。
━━勝利への道筋は決まった。
「………ここだな。」「ああ。」
指定された位置にそして、指定された角度で銀と聖は息を合わせる。
これは少しでもズレた瞬間、失敗が確定する正真正銘最後の一撃。
銀のタイミングがズレれば、聖が剣で打ち上げる速度が少しでもズレれば全てが無に還る。そういう作戦だ。二度目はない。
「カウントは?」「…………今更。」「だな!」
もう聖にも銀にも恐れはなかった。
どうすれば良いか。この瞬間、確かに手に取るように分かる。
「…………行くぞ!!」
銀が全力まで溜めたジャンプを繰り出す。勿論、勇者服で強化された肉体は常人には出すことの出来ない飛距離を稼いだがそれでも竜巻の最上部には届かない。
だが、落下した瞬間、そこには既に剣を構えている聖が待っている。
「と ん で けぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!」
銀が剣身に足が付く瞬間。聖はタイミングを見合わせたかの様に決して両手で持たなかった片手剣を両手で持って銀を野球ボールの様に跳ね返す。
その威力も組み合わさり、銀は竜巻の最上部から飛び込む!!
(風圧ヤバいな!!……でも今は上まで!!)
(ここが隙間………入った!!)
「悪いな…バーテックス。」
銀は地面に落ちていく感覚に身を任せながら斧を構える。
勝利への確信、そして多くの作戦の上に成り立ってるこの一撃を強く意識した瞬間、神樹は二人目の勇者に微笑んだ。
「でも……お前はここにいちゃダメな奴だ。」
花の方陣は出てこない。でも銀の意思が斧に炎を燃やす。
奇跡とは程遠い願いでもその感情だけは彼女を勇者足らしめる存在証明。
「ああああああああああ!!!」
その瞬間、確かにバーテックスは縦と横に斬られた。
だが、忘れてはならない。
明確な手段を持ってバーテックスを討伐したのは二人だけだと言うことを。
result
ライブラ・バーテックスvs勇者
勝:勇者
上里 聖 無傷
乃木園子 無傷
鷲尾須美 無傷
三ノ輪銀 無傷
敗:ライブラ・バーテックス
ライブラ・バーテックス 討伐
「無傷…今ここは讃えましょう勇者の勝利を」
「ですが大聖様は…」
「ああ。300年の時が経っても」
「悪癖は変わらず。と。……プランの修正……」
あと2
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