この末期の世界に曇らせ好きの愉悦部が乱入した話。   作:ネマ

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間章・月星の誓い

 

 

2回目のバーテックスを討伐した勇者たちは更なる訓練をするため早朝から車に揺られ、大赦が持つ山中の大きな家屋に向かった。

どうであれ、一回戦、二回戦を共に乗り越えた勇者たちにはこれからも勝ち続けなければならない。故に、大赦の上層部は更なる強化のために大盤振る舞いを始めた。

勇者のお目付役兼教師として潜入していた安芸(勇者側にはサポート役として通達済み)に連れられ、強化合宿として寝食を共にし絆を育むとして今回、連れていかれる事になった。

 

(……そうね……でも大赦も大慌てでしょうね。)

 

正直に言うと大赦は鷲尾 須美、そして三ノ輪 銀にそこまでバーテックス討伐に貢献できるとは考えていなかった。大聖真君の生まれ変わりであり、上里家が作り上げた傑作“上里 聖”と乃木家の血の結晶、最も初代に近い適性を持って生まれた“乃木 園子”には多くの期待が掛けられていた。

だが、蓋を開けてみればどうだ。戦闘時の相性が最も良いのは近距離の銀と聖である。須美と園子も縁の下の力持ちではあるが、目立った活躍は少ない。

 

(大聖真君の生まれ変わり……ね。)

 

大赦の上層部では有名になっている上里の箱入り御子息。ただその選択を取った上里家を褒める声も有る。300年前、混乱の最中に有ったここ四国に神樹様が遣わされた最初で最後の使徒。“魔”を調伏する大いなる聖たる者。即ち“伏魔大聖真君”。

巫女からの信仰も厚く熱心で、今となっては初代勇者以上に崇められる存在。

故に、上里家は大赦から彼を遠ざけた。そしてその選択を安芸は支持している。

 

 

窓に映った後ろの光景を見ながら安芸は少しだけ息を吐き出す。

文面上の情報だけを見ていくと園子は聖以外に興味は持たないし、銀も先走る傾向にある。そして須美はあまり曲がったことが嫌いな性格だ。少なくとも犬猿の仲ではないだろうが、仲良くもないだろうと思っていた。

聖に寄りかかって寝ている園子、銀と須美と一緒に手遊びしているその姿を見た。

 

何度も言うが、安芸はただの一般人である。

親から愛情を受けて育ち、友人を作り、恋もした。だからこそどれほど平穏が愛おしい物か知っている。

ただ引いて言うならば、一般的に言われる“お役目”がどう言う物で有ってそして、誰が何を持っているのかは少しだけ知っている。

だからこそ、少年少女を使って生きている事に悩む。勇者は“大聖真君”か幼い無垢な少女にしか出来ないから。

 

(せめて……楽しい思い出があの子たちに出来ます様に)

 

300年前の記録をそのまま持ってしまった少年と、そして勇者の少女たち。

私たちに出来ることは少ないけれどせめて、今回の合宿が楽しい物であります様にと。

 

 

「皆。着いたわよ。」「はーい!」

 

着く頃には聖と園子は仲良さげに寝ており、銀も眼を擦りながら二人を起こす。

そこは既に山中。勇者にはどことは言われていないが、少なくとも今まで感じたことのないぐらい空気の澄んでいる所だった。

 

 

勇者の強化合宿と言えど、やる事なす事が大幅に変わると言う訳ではない。

引き続きフィジカル面での強化の為に必要なトレーニングの解説。鍛えるために必要な体幹ストレッチや、武器をうまく扱うためのワンツーマンの指導。

そして今回の合宿の要。それはとある全体訓練にあった。

 

「皆集まったかしら?」

 

「安芸先生〜集まるも四人だよ〜?」

 

昼過ぎ。勇者たちは泊まる部屋から出され、外に集まった。

山の中ということもあってか、暑くもなく寒くもなくちょうど良い気温のまま勇者たちは運動着を着用してグラウンドに着いた。

 

「今日の訓練は一つよ。」

 

安芸先生は少なくとも50mは有るかと思われる場所に白線を引いており、そこには見たこともない様な機械が有った。

 

「“回避訓練”……そしてここでは上里くんの手を借りることを禁止します。」

 

安芸が打ち出した作戦の一つ。それは“回避訓練”。ソフトボールをバーテックスの攻撃と見立て、一定の距離当たらずボール射出機までたどり着くという簡単な訓練。

ただ、忘れてはならない。これは勇者用にチューニングされている。勿論ボールが当たれば普通に痛いだろうし、何より精神的な要を排除する。

 

「……!そんなっ……」

 

「鷲尾さん。貴方は上里くんに何もかもで助けてもらうつもりかしら?」

 

一戦目、二戦目、共に勇者に大きな傷が無かったことは僥倖だ。

だがその実、一戦目はありとあらゆる攻撃を上里くんが引き付け、二戦目でも暴風により飛んでくる瓦礫でさえも上里くんは守っていた。

 

須美は身に覚えがあり過ぎるのか、赤面して黙ってしまう。

勇者全員が驚いて目を見開いているがその直後の斬り捨てるような安芸の一言で勇者3人娘は真剣に話を聞く。

 

「勿論、勇者の武器を出して迎撃することは禁止します。ただ避け続けて白線まで来ること。これが今回の訓練です。」

 

「あの〜……」

 

「はい?」

 

「その場合僕どうすれば……」

 

そうこの“回避訓練”は勇者のための物だ。そもそもが上里の手を借りるのが禁止ならば何のために聖はここに来たのか。

 

「貴方は一段階上げてやっていきます。」

 

「?」「付加器具を付けて、色が付けてあるボールだけを打ち返してください。」

 

聖に必要なのは回避訓練ではない。一戦目の単独行動にてあの弾幕の中を多少の切り傷と打身で済んでいる時点で、十分申し分ない。

だが、それ以上に聖には大きな問題がある。簡単に言うと剣と身体の使い方が覚束無いという点だ。それも仕方ないだろう。聖に眠る大聖真君の記憶は何歳のものかは分からないが、その記憶が今の聖の戦闘に悪影響を及ぼしている。

記憶の戦闘と、今の戦闘においては力の使い方が違う。簡単に言うなら“見るとやるは違う”と言うことだ。それ故に力を入れなくてはならない所で入らないから、威力が霧散していると言うことなのだ。

 

「勿論、乃木さんたちがやるのよりも速度が付けられています。良いですね。」

 

「………成る程。」

 

聖に一本のバットが手渡され、白線で分けられた向こう側で安芸の機械の説明を聞く。

簡単に説明を終えた後、聖は先に機械を起動してもらって訓練を始めた。

 

「……うゎ……」「……うそ……」「がんばれ〜!ひーくん」

 

勇者にとってはかろうじて目で追えるボールの波を聖は最低限の動きで避ける。

そしてその間、確かに色が違うボールが打ち返されている。

 

「さあ。貴方たちも始めるわよ。」

 

突っ立って、聖の観戦をしていた園子たちは自分たちの課題を思い出す。

 

「このボールをバーテックスの攻撃と思いなさい。もし一人でも回避を怠ったならその被害は全員全て受けることになります。」

 

安芸先生の鋭い声に勇者たちも位置に付く。

これは実際に脅しているのも一緒だ。一人でもその時にそぐわない行動をしたらその被害を被るのは味方以外ない。つまりは“死”。

安芸だって死んでほしいわけじゃない。だからこそ今ここで厳しくして少しでも生き残りの可能性をあげる。それしか出来ないのだから。

 

「始めます。」

 

「……っ!そのっち!」「ええ!大丈夫!」「そんなこと言ってられ……!」

 

ボールは確かに聖のより遅い。勇者でも十分に目で追えるのだから。

だが目で追えるのと、実際に避けられるのは話が違う。

いや。見えるからだろうか。何処のボールを避けるために何処に行くのかその情報の波に飲み込まれ、彼女たちの1回目の挑戦は終わった。

 

「今当たったわね。一から始めるわよ。」

 

「はーい……」「キッツ……大丈夫か?須美?」「…………ぇぇ……」

 

何度も何度も続けると疲れてくるものは疲れてくる。

少しずつ、されど少しづつだが前進はしている。だがやはり比べれば……

 

「いや〜…参るね。これは」「これが……聖くんの……」

 

少女たちが休憩として隣を見ると、始めた時から何も変わらない聖の姿だった。

 

「……殆ど身体動いてないね〜……」

 

少女たちが何度も何度も続けている間も彼はひたすらに避け続ける。

そしてその間も無理のない程度にボールが打ち返されているのを見るとやっぱり実力差と言うものが少女たちに降りかかる。

 

「…うん。もう少し頑張るか!」「ええ。次こそは。」

 

でもやっぱり聖の額からは汗が滲み出ている。

大分限界に近い事は少女たちにも分かる。だからこそ、前回の様なミスはもうしない。

皮肉な事にも、“聖が頑張っているから”彼女たちの心に火を付けたのだった。

 

 

 

「ふ〜……」「こらこら園子。はしたないぜ……」

 

時間は経ち、夜。

先に訓練を終えた聖の応援と教えを受けて、今日中に少女たちは訓練を無事突破できたのだ。

そして、ここには大きな風呂がある。

訓練で激しく汗をかいた勇者たちは皆でお風呂と洒落込んだのだった。

 

「さて〜?ここまできたのなら〜……恋バナと洒落込みますか〜?」

 

園子はにんまりと笑って、少女たちの心に火を灯す。

勿論、これは策略だ。最近、聖が自分と一緒の時間が減ってきている。それはつまり他の人に時間が割かれていると言う事…じゃあ誰かと言えばこの二人しかいないだろう。

 

━━私のひーくんに手を出した泥棒猫を見つけて潰す

 

 

「なら言い出しっぺから…始めましょうか?」

 

須美は分かっている。園子が今それを出した理由を。

園子と聖くんは幼馴染だと聞いている。そして銀からの情報を元にすると、園子は聖くんを取った泥棒猫を罰する処刑人という事だろうか。

 

━━バカらしい。彼は誰のものでもない。勿論園子貴方でも。

 

 

「まあまあ。園子も須美もそう喧嘩腰にならなくても…」

 

銀にとって恋愛とは遠いものだ。こう見えて勇者として責務を全うする気なのだからそう言うことはそもそも考えてもいなかった。

だが、忘れてはならない。時に無自覚な爆弾というのは被害が大きくなるのだ。

 

━━聖と何度か遊んだり、料理教えたのってそういうのに入るのか??

 

 

尚、この謎の空気は銀による須美のメガロポリスに目を付けるまで続いたことを明記しよう。

 

 

 

 

 

「おー!もう布団が引かれてる〜!」

 

「こういう時って基本男女分けるものなんじゃ……」

 

「別に聖くんなら問題ないわよ。」「まあわざわざ変えてもらうの。面倒だしな」

 

就寝前。部屋に戻ると、布団が四つ並べて引かれてある。

本来ならば男女は分けるべきなのだろうが、女子陣は誰も文句を言わない。

園子は普段が普段だからきっと離れても付いていくだろうが、なんとも釈然としないという風に聖は首を傾げる。

 

「はい!じゃあひーくんも!」「………はいはい。」

 

「「ちょっと待てぃ!!!」」

 

すると聖に園子が近づき、園子は聖に抱き上げられる。

そしてそのまま窓際の布団に……

そしてここで須美と銀からツッコミが入った。

 

「……いやさ。まあ言いたい事は色々あるけど……」

 

「それが普段の二人なのかしら……?」

 

「……?うんそうだよ〜」「気がついた時からかな。」

 

というかこうするしか無かったと見るべきか。聖は過去の回想を始める。

まだ物心付いて間もない頃。まだ聖が大聖の記憶が朧げだった頃。

園子と聖は一緒だった。それは勿論、寝る時も。でもベットは一つだけ。でも特に何も思わなかった(言われなかった)二人は、そのまま一緒に抱きしめ合って寝ていた。

勿論、小学3年の頃辺りで聖からあんまりよろしく無いんじゃ…と思い寝室を分けようとしたのだが、園子は大泣きで離れない所か今まで以上の力で拘束して朝まで離さなかった実績があるのだ。そしてそこからその話題が出て来れば出る程園子の行動はエスカレートし、今では抱っこでベットまで連れて一緒に寝るのが当たり前になっていた。

 

「……そう…」「いやいや……」

 

須美は何処か気落ちしながら、銀は何処か現実離れしたその行動に何処か納得のいく今までの噂話が実はそこまで誇張じゃ無かったんじゃないか。と頭を悩ませた。

その後、布団の場所とか特に気にもしないという事で、須美・園子&聖・銀の並びで横になって、またまた話が始まる。

 

「…zzzz」「…ぅにゃっ…」「スースー……」

 

「…………………………」

 

だが、それでもまだ小学生だ。次第に布団が自分の体温で温められていき、そして皆大体同じ感じで意識が落ちていった。

聖と抱きつき合っていた様な園子も少しずつ寝返りとかで動き始め、聖を拘束していた腕と脚が離れる。……そして聖はそれを見越したかの様に目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

音を立てない様に聖はそのまま起き上がり、部屋を出る。

最後に皆寝ているのを確認してから、聖は音を立てない様に少しずつ少しずつ外に向かう。外は街灯も無いから真っ暗で月の光と星の光だけが聖を照らす。

 

「………300年という月日が経とうとも月星は変わりなく…か。」

 

寝間着ゆえに少し肌寒く、ただそれが何処か心地良かった。

合宿場を出て外にあるベンチに一人腰を下ろし、楽にする様に背中を預けた。

なにも無い様に空だけを静かに眺め、聖は一人思考を巡らす。

 

「……………居るんだろう?」

 

肌寒い空気と共に、聖の思考は時間と共に研ぎ澄まされていく。

数十分ほど経った頃だろうか。聖は突然小さく声を上げる。

 

「…………早く寝ないとダメだよ。銀。」

 

聖が合宿場に近い物陰に声を掛ける。

もう日が変わって結構経っているのに、そこに立っていたのは特徴的な灰色の髪が月光で光が反射していた。……そして勇者の中で灰色の髪は銀だけだ。

 

「それ聖がいうことかよ……」

 

バレてるんだったら仕方ないって事でニヒルな笑みを浮かべ、聖の隣に座る。

 

「…………何か………考え事か?」

 

数秒か、数十秒か。少しの沈黙の後、銀から口を開く。

銀にとって聖が出ていくのを感じたのはほんの偶然だ。なんとなく動く気配がして、少し意識が戻っていたところに少し襖を開ける音の後に誰かが出ていった様な音。………しばらくしても戻ってこない。一体誰が出ていったんだと上半身を起こせば、隣にいた筈の園子と聖のうち、聖が消えていた。

これはただ事じゃ無いとして、銀は聖がどこに行ったのか探す事にした。

トイレでも無いし、何処かに行く場所があるのか。そう考えたら、外だろうか?と勘が嘯いて、靴箱を除けば聖の靴がなくなっていた。そして目を凝らせばすぐそこのベンチに座っていた。

こういうことはダメだろうと一言言うために外に出たら、そこは聖の髪が光で照らされ煌めいて……なんとも触ってはいけない様な神秘性を感じてしまった。

 

「そうだね。色々とあるよ。」

 

でも本当になにも無いよ。そう聖は言う。でも銀はそれが何処か本当に苦しそうで。そして辛そうで。……でも何もできない自分が居て。

聖の目だ。いつもは輝いて見えてるのに、今は何処か曇ってる。

三ノ輪 銀。私なら出来るだろう。大丈夫。やってやる。

 

「………ちょっとぐらい言っていいんじゃ無いか?」

 

銀にとって悩みを聞くのは初めてだ。しかもそれは過去の英雄“大聖真君”の生まれ変わり。でも…銀にとって彼は上里 聖その人だ。何を恐れる必要がある。恐れたら何も分からない。

 

「そうだね……銀は知ってるだろ?」

 

上里 聖は大聖真君の生まれ変わりである。それ故に、記憶を持っている。

 

「正確に言うと違うんだ。」

 

でも真相はそうではない。上里 聖にあるのは戦いの記憶と記録だけ。

そこには人間的な温もりも、当時の思い出も何もない。ただ無機質な剣の記憶と、痛みの記録だけ。

 

「たまにその中に見知った人が居てね……」

 

聖は何処か諦めた様に言葉を紡ぐ。

銀に詳しいことは分からない。でも銀は痛みが分かる少女だ。

 

「……………私たちの顔か?」

 

「………鋭いね。」

 

人間的な温もりも思い出もない。それはつまり戦いの記憶だけを幼い頃から見せられていると言うこと、バーテックスの被害の記録だけがあると言う事。

私たちの顔がその中に出てくるって事はつまり…私たちの空想の死に様を聖が見ている。そんなの気が狂ってしまう。

 

「分かった。約束してやる。」「?」

 

銀は何も言えない。それは聖彼だけが背負っている物。ここで憐憫も同情も簡単に掛けられる。でもそんなもの価値もない。だから銀は、一つ約束をしたのだった。

 

「私たちは絶対に生き残る。そして……」

 

聖の世話にはなり続けない。

そう。あろう事か銀は聖に向かって、救わなくて良いといった。

この300年、大聖に祈る声が有っただろう。聖に救いを求める声も出ただろう。

でも誰一人として聖の、大聖の苦しみを救わなかった。

 

━━救世主が誰かに救われないなんて間違ってる。

 

「まださ、全然頼りないけど。少しは頼ってくれよな。」

 

「…………………!!」

 

そう。それは期待でも、羨望でも、信仰でもない。

だからこそ、等身大の聖を見てきた銀だけが言える言葉だった。

 

「三ノ輪……銀……」「どうした?」

 

驚く様に銀の名前を呟く聖に銀は少し驚く。

何か気に障ってしまったのかって。

 

「ならさ。……期待してるよ……銀」

 

月光に反射されて聖の笑みが見える。

それは今まで浮かべていた様な微笑じゃなく、本当の心の底からの笑み。

花が開くようなそんな満面の笑みに銀は赤面する。

 

その笑みは何処までも綺麗だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………ギリッ…………」

 

何処かで爪を噛むような音が聖と銀に聞こえぬように、鳴った。

 

 

 






あと1



大聖(ほーん。なんか最近愉悦出来てないの…)

大聖(三ノ輪……銀ね。適当に返せばいいか……)

『まださ、全然頼りないけど。少しは頼ってくれよな。』

大聖(………へぇ……おもしれー女)




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