初投稿です(強調)
「ああ、そうだろうな」
燃えていた。文字通りすべてが
少女たちはその瞬間、これが夢で…そして遠くないうちに現実になる未来の予言だと理解する。何故ならそこは、神樹さまが守りし四国の結界の合間その樹海の中でたった一人、剣だけをその手にし目の前に広がる白い壁へと進む男の子の姿。
赤く染まった男の子、その全てが今も彼の体から滴り落ちる鮮血であることに気が付いた瞬間少女たちは反射的に悲鳴を上げる。幾ら『勇者システム』が彼の生命保護を担っているとはいえ、あれほどの出血はもう動けなくなってしまってもおかしくない。だがそれでも彼は前の前の白い壁を見上げる。後ろで倒れる三人の少女を守るように
「結局。ひなた、お前の忠告した通りになってしまうな。…だが何度、何百回繰り返してもなお、俺は必ず同じ選択を選び進むだろう」
その姿はまさに少女たちがずっと胸に、いや魂にまで刻まれた大聖の御姿
ドウシテ、なんで私は、私たちはその舞台に立つことができないのか。彼の隣で肩を並べ、彼と共に時を過ごした今代の勇者が妬ましい。羨ましい……なぜ、私は、私たちは
だがそんな想いに冷や水をぶっかけるような目の前の壁の正体に気が付いたとき、少女たちの心が悲鳴を上げた
嗤っていた。壁が、無数の口を開けて嗤っていたのだ。目の前に立つその壁は、無数の絶望だったのだ
数えることも愚かしく思えるほどの白色の怪物。バーテックス、その中には書物で見たような、脅威と共に名前が与えられているような怪物がたった一人の大英雄を討つために現れたのだと
「……犠牲は常に、等価値だ。ひとつの命で掬えるほどの価値だけがひとつの命で賄える。…その犠牲こそが、次なる希望の花を芽吹かせる土壌になる。…これら、新たな希望こそ、この世で最も奥深きもので、それらのみが、あれら絶望を、徹底的に打ち砕くことができる」
…………かつて大聖さまと共にあったはじまりの勇者たちも同じ心境だったのだろうか
何もできない、何もさせてくれない。あまりに近くて遠い
たったひとりで、戦場へと赴く勇者の姿に…そしてそんな英雄と共に有れない自分たちのこの姿に。
巫女とは勇者と共に、真なる勇者と命運を共にするものだと
それが巫女の歓びなのだと、大赦に教えられるのではなく今この時、この瞬間魂から理解した
「希望だけが、人々を、暗闇か、ら呼び覚ませる」
血反吐を吐きながらそれでも勇者は進む。
それが成すべきことなのだと、まるで星のように輝くその熱が
「───新たな希望だけが、世界を新生させられる」
蠟燭が消える一瞬燃え上がるようなそんな最期の輝きに
巫女たちは自然と傅いていた。あのような悲劇の結末を迎えても尚、人を守るその姿に
「…我こそは旧き世界の希望たり得たもの。それと、同時に、新たな世界の絶望に捧げる、もの。俺が、俺だけが最期の犠牲となり、安寧を、もたらす。それがかつての俺の答え」
「そして今、俺は新たな解を、見つけ出した」
勇者が剣を地面に突き刺す。まるでこれより先はここが死地だと指し示すように。
彼は剣を手放し、両手を胸に重ね合わせる。まるで祈るかのような姿に世界は、神樹は答える。それも彼の体をもって花が咲くかのような花園が彼を中心に広がる
「即ち、種蒔かれし華々の輝き。新しき希望の生誕を言祝ごう」
白菊、薔薇、牡丹、彼岸花、桔梗、姫百合、紫羅欄花そして…桜。
無数の花々が舞い踊り、そしてその全てが彼に渦巻き力を貸している。まるで勇者の魂が、祝福するかのように
「大社の民よ。さようなら」
「これから先、誰も泣くことのない未来が訪れますように」
だがそんな見惚れるような光景は長くは続かない。
血に染まった横顔、そしてそれ以上にゾッとするほど美しいその微笑みの後に彼は少しだけ振り返った。
「…………さぁ!持っていけっ!神樹よ。」
まるで惜しむように、まるで一片の悔いを隠すように
後ろで倒れる勇者たちの姿を見て、力強く彼はこう口にした
「満開っ!!」
少女たちはこの現の際となっても愚かしくとも祈った。『咲かなければ』と。
どうしてだか分らない。だがこの花が咲き誇るヒカリが、何故かとっても残酷に思えて
夢の中なのにまるでこれが夢であってほしいなんて
不思議にも、そう、思ったのだ
夢から醒める。鏡にもたれかかるように私はどうやら意識を手放していたようだと分かる。…一人ぼっちになった部屋はこんなに寒くて、これほど静かなものだとは知らなかった。
ずっと一緒だったから、ひーくんと朝から夜まで。最近はわっしーやミノさんとも一緒だったから
一人でいるこの時間がもう私も覚えてないぐらい久しぶりすぎて、冷たいものがずっと吹き荒れている感覚だ
「……ひー、くん」
この部屋に隔離されて以降、私はあくまで療養という事になっている。
わっしーと私はともかくミノさんは心が限界だったのだろう。今もベッドの上で括りつけられていると小耳にはさんだ…無理もない。多分、だとかおそらくとしか言えないけど、目の前でひーくんを失ってしまう衝撃には私もきっと耐えられないだろうから
こんなザマが勇者だとは笑わせる
伏魔大聖真君、ひーくんの事実上の前世であるその人はたった一人でバーテックスに討って出た。この四国に勇者という守りを置いて。今ならどうしてその布陣を敷いたのか理解できる
同じ性能、同じ勇者システムを使い、違うのは担い手だけ
受け継がれた勇者という血統でも大聖の足を引っ張ることしか出来なかった。つまり足手まといなのだ
勇者は戦力にならず、むしろ無辜の民であるため大聖は身を挺してでも守ろうとする
なるほど。これは確かに邪魔だ
これならすべてのリソースをひーくんに集中して強化した方がまだなんぼか勝率が上がる。…子どもでも分かるようなこんな簡単な話が大赦で出ていないわけではない。つまり今の療養は私たちのこれからを暫定上どうするか、を決める軟禁処置というわけでもあるわけだ。いやはや全く
「舐められた~……ものだね」
ふざけるなよ
喉の奥から噛み締めたはずの声が漏れる。自分でさえもこんな低い声が出せるんだという驚きさえも今や滾る炎が園子の意思を燃やす。ふと鏡に映ったその顔は今もこらえきれない力で力んでいるようでこんな可愛くない顔、ひーくんには見せられないなと苦笑して立ち上がる
めそめそしてる時間なんてもう終わりだ
私は乃木園子、私は勇者。そしていつかひーくんの幸せな花嫁になるもの、なら…旦那さまが倒れている間の背中を守り支えられるのが良妻なのだとどこかの小説で読んだ気がする。ならこんなところで折れている時間はない
「…………守られているだけの~私とは、さよなら」
じゃあ行こう。今日から、ううん。今から変わるのだと少女が一歩踏み出したその時だった
目の前の部屋の襖から園子がよく見知った顔が現れたのは
「あれ?わっしー?」
「…そのっち」
目の前に立つのは鷲尾須美、園子の親友にして恋敵にして…そして同じ役割を背負った勇者
そんな須美の顔を見れば目じりが赤くなっている。泣きはらしたのだろう気持ちはわかると園子は大分変わった須美のまとう雰囲気が自分の立てたこの想いと同じものであることに気が付く
「目が覚めた、って~感じ?」
「…ええ、うん。そう、だね。……そのっちも、そんな感じみたいだね」
こんな顔、誰にも見せられないだろう。
だけどきっと今の二人の心は考えるまでもなく合致していた
これ以上、無様な姿は晒せない
それは偏にお役目だからだとか、勇者としての心得だとか国防仮面だとか、ひーくんと肩を並べたいだとか。その全てをひっくるめて少女たちはもう、負けない。負けるわけにはいかないと立ち上がったのが同じだったのだ
確かに今も怖い。ずっと怖い。お役目の間でもしかしたら死んでしまうかもしれない。痛い、勇者の力が守ってくれとはいえ確かに痛くて、苦しいのだ。
「うん。…じゃあやろ~か」
「ええ、負けないわよ」
けど、そんな弱音で終われるかと少女たちは立ち上がった
そして──そんな姿こそが勇気ある者として、勇者なのだろう
◇
当たり前だが剣術は乃木の十八番だ。初代勇者から伝わるその剣は乃木に産まれたのなら様になるぐらいまでは仕込まれる。…最も、園子の武装は槍であるため使いどころがあるかどうかといわれると怪しいが基礎的な話になるとこれまた別だ
『あれ?乃木の剣だ。懐かしいね』
いつかひーくんが私の演武を見て言った言葉にお父さんや大人の人が喜んだ理由が今ならわかる
戦いの記憶だけが受け継がれたひーくんが子孫の剣を見て同じだと言ったのだ。つまり今園子が振るっている剣は過去確かにバーテックスを切り裂いた剣であるという事で
その足運びや重心の置き方など、園子は無自覚ながらも自己流に作り替えていた
そういう意味では園子も立派なサラブレッド、初代勇者の気質を最も継いでいる子孫だと言えるかもしれない。
だが勿論、須美も置いて行かれているだけではない
「…………ふっ!」
「やぁ…………!」
現状、聖を抜いた勇者の体格が一番優れているのは須美だ
そしてその恩恵は須美に最も不足していた近接戦闘である体術に対して花開く。…今はまだ多少心得のある園子が上を行っているがこれよりも先、バーテックスとの戦いの中でセンスを磨いたらおそらく点の動きでなら園子だけではなく、聖さえも上回るかもしれない才能を秘めている
最も、これが完全に花開く時が来るとは保証しきれないが
そんな話は置いておいて、やはり2人だけの訓練では限界が来る。
基礎訓練の積み重ねは大事だが今少女たちが渇望しているのは忌敵であるバーテックスとの戦い。対人戦を磨いたところで人間とは異なった戦い方をする怪物相手には通用しないという少女たちの見立て…と賢く言っているが少女たちの内心をひっくるめて言うのならくっそムカつくなぁ…ぶっころしてやりてぇなぁ。である
大聖の後ろで必死に牙を研いでいた初代勇者たちも色々とはあったが最終的に全員が単騎で完成体を塵殺しているその境地に一番近いものを宿し始めているのが、この勇者たちであった。黙々と殺意と覇気を砥いでいるその姿は確かに勇者なのだと、一皮むけたのだと大赦は
「「…………」」
ピリピリとした空気。まるで近寄らば切るとまで言いたげな空気を壊したのは少女たちの待ち望んだ停滞感
まるで全ての時から断絶したような、おいて行かれたかのような独特な雰囲気を前に少女たちの顔に笑みが浮かぶ。だがそれは決して枕詞に花が綻ぶかのような、だとか大輪の花が咲くような、という言葉が付くような笑い方ではない
正しくは、そう
……まるで三日月が裂けて嗤うような、獲物を見つけた殺人鬼のような笑み
どう考えても少女に、それも小学生の園子たちにはあまりにもそぐわない嗤い声。微かにその口から漏れるクスクス…という忍び笑いは辛うじて少女たちが上品な生まれであることを滲ませるが、その声はどこまでも乾いており聞く人を心底恐怖させるような笑い声。だがその声を聴くような人間はどこにもいない
今まで私の、私たち口から出た言葉は全て嘘だったんじゃないかと思えるくらい、腹の底から出た本音……
「「ぶっ殺してやる……っっ!!」」
──戦え。誇りも恋も、全てをかけて