この末期の世界に曇らせ好きの愉悦部が乱入した話。   作:ネマ

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正夢

────同時刻。

少女たちの世界が急速に変わっていく。樹海化現象、お役目のために神樹さまが用意した舞台に勇者たちは身を投じる。この四国という地を守るため、家族を守るため、そして…己の誇りのために少女たちは戦場に降り立った

 

「わっしー!!」

 

「そのっち!!」

 

すでに敵の姿は見えている。今まで現れたどのバーテックスよりも遅いがその巨体とそして歪な人型に翼を生やしたような姿に怖気づくような弱さはない。すでに換装を終えた勇者の二人はあいさつ代わりとして穂先のひとつと矢の一本をバーテックスに撃ち込む。

 

だが刺さらない。

そもそも威力が足りないのだろう。バーテックスは軽くのけ反るだけで嘲笑うように無数の翼を手のように変形した触手を伸ばす。

 

「………やらせんよ~」

 

「そこは、脆いみたいね」

 

しかし、それも織り込み済みだ。園子と須美に不足していて銀と聖に足りているもの…それは火力、或いは決定打と言われるもの。反撃されると分かっていた、だからこそ既に園子は展開を終えていた槍の穂先をリアルタイムで動かしながらその触手の掴みかかる手を弾き飛ばす。

 

カバーは園子にそしてその間、須美は今まで以上に冴えわたり一切の乱れもない腕前で触手を打ち抜く。

一矢が二矢に、そして三矢が同時に空に射られながら触手はその矢と相打ちになるように次々と消滅していく。今までのバーテックスとは考えられないほど脆いギミック。

 

だがバーテックスがこれで済むはずがない

何か、おそらくまだ見せていない隠し札があると少女たちは確信したと同時に……

 

(………感じる、胸の奥。その拍動を……!!)

 

(……広げろ、もっと、私はできるはず……っ!!)

 

少女たちもまた【何か】を掴みかけていた

 

だがそんな覚醒を待っているほど戦場は悠長ではない。ただ触手のように無造作に伸ばしてきていた手が手と手同士で絡まりあい威力と耐久力を底上げした触手が織り交ぜられるようになった。弾く穂先が二枚重ねに、そして須美が射る矢も一本では倒し切れない。

 

「バーテックスに考える頭があると思う?」

 

「さぁ~?ひーくんに聞いてみたら?」

 

「それは、名案、ね!!」

 

バーテックスもその多重腕を生成するにはほかの触手のようにノータイムとはいかずラグがある。しかしその合間を埋めるようにほかの触手が襲い掛かり偶にその強化された多重腕が強襲する。この攻撃のいやらしいところは強化されたのが襲ってくる間隔がランダムであることだ

思考と判断能力を強制的に奪うそれは正しく疲弊を狙ったものであり幾ら勇者が強化されているとはいえ長くはもたない。だが皮肉にも、刻一刻と迫る限界の時ほど少女たちの感覚は研ぎ澄まされていく

 

覚醒の時は近い

少女たちは今、その手にしようとしているのだ。はじまりの勇者の切り札を

 

「…………いく?」

 

「しか、ないでしょう!ね!」

 

だからこそわかる。ここで攻勢に出ないと押し切られてしまう事を

かつて聖がしたように犠牲を覚悟で前に出る。園子の穂先の弾数は無限ではない…バーテックスへとたどり着くための足場も考えて、少女たちはこの弾幕ゲームに躍り出る。

 

「「ここっ!」」

 

走り出した二人に触手を完全に捌き切る実力はない。先陣を切る園子は穂先の盾が必要か避けきれるかを捌く必要があり、その後ろに追従する須美もこんな変則的な走り撃ちはほぼ不可能に近い。…あまり言いたくはないがもう少し近代的な武器があればと…そう。例えば三十八式小銃(日本軍が扱っていた銃)とかあれば

 

「そのっち!」

 

「わかって~るっ!」

 

しかしそれがないものねだりである事も理解している。こうなれば大和魂を見せてやると銀の斧ではないが気炎を巻き上げた須美の視界に映る目の前に、迫る一本の触手に声を上げる。まずい、こんなに相手との距離か近づいているとは思わなかった

 

全力で弓を引き絞る須美に園子が獰猛な笑みで笑う。気が付かないとでも思ったか、舐めるなよとその速度を維持したままその触手に突っ込み…そして中から突き破った。グロテスクな音と何かの汁がかかるのも気にせず園子は前へ、前へと進む。

 

その姿はまるで修羅だ。ただ風になって突き進むその姿はまるで女武者だ

 

「じゃぁぁぁああぁぁまぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!」

 

バーテックスの距離はもう微々たるものだ。あとは跳躍力に任せて貫くだけ

……だがその機会を伺っていたのは人間だけではない。刻み込まれたそのバーテックスの模様が顔の如きその模様が勇者を嘲笑うように輝く。嗤ったのだ、まるで無駄な努力だというように、所詮は偽りで塗り固められた簒奪者の末裔だとその人間を鼻で笑うような悪意

 

さぁ。崇めよ。讃えよ。奴の名はバーテックス。ヴァルゴ・バーテックス。

示す星の座は『乙女座』、示す処は『鉄の処女』

人類を滅ぼす神の兵器の一角。その憎悪は血を以ってしても償うこと叶わず

 

丸型の何かが園子目掛けて無数に投擲される。触手が避けるように或いは運ぶようにその丸い球を届け、まずいと気が付いた瞬間、閃光が迸り衝撃が掛かる。…爆弾だと瞬時に気が付いた。だが最早止める手段など無に等しい。相打ち覚悟かと須美が歯を食いしばり矢を構えたその時だった

 

 

今、嗤ったね?

 

 

園子の今まで誰も聞いたことのない底冷えする声。今、此奴はこのバーテックスは嗤ったのだ

大聖に。ひーくんの威光に縋り、乞い願った弱い私たちを嗤ったのだ

 

お前 誰を前にして 笑ったぁっっ!!!

 

これは鬱憤だ。もはや我慢できないと園子が荒々しく吠える。

私を、私たちを嗤ったおまえを殺すとばかりに息巻くその姿に呼応するように風が、嵐が渦巻き一つの形を成す。それはまるで…歴史にあるような武士の装束

 

それは、かつての西暦勇者の切り札のひとつ

神樹、そして地の神の力をもって抽出された力の具現体『精霊』をその身に降ろす切り札

 

300年もの間誰も再現することができなかった御業

不完全ではあるが確かに今、乃木園子は成したのだ

 

風の刃、暴風の息吹きが爆弾全てを空で誘爆させる。だがそこまで限界だったのだろう園子に襲い掛かる急激な脱力感と共に装束が解けていく。辛うじて武器を振るう力は残されているが、そこまでが限界だと須美は()()()()()

 

(……なるほど、そうすればいいのね)

 

どういうものかはわからないが確かに今、園子という完成形を見て須美のこの高ぶる熱への解が生み出されそうになる。戦場の空気そして須美のこのネツの核心と共に極度の集中、瞑想に引きずり込まれる。1秒が限りなく引き伸ばされる感覚に迫る白い触手。

 

(園子も、聖君も既に私よりも上にいる)

 

今、置いて行かれているのは私。

再び聖君を一人にする気か、鷲尾須美?

 

オマエはここで手まねていているだけのつもりか、鷲尾須美?

 

(…………だから、力を貸して。いいえ、違うわね)

 

滾る熱意がひとつの尻尾となる

陽炎よりも薄い焔火が一筋の細い狐の尾が須美のおしりの上から生えるように立ち上る

確かに今はまだ蝋燭よりも頼りない火だとしても…いつか必ず燃え上がるために

 

(起きて、手を貸しなさい………っ!!)

 

『乱暴ね。けど分かるわ、その気持ち。だから…貸してあげる』

 

誰かの空耳が聞こえたようで、でもその声に耳を貸している暇なんてなくて…須美は必死に弦を引き絞る。弓の両端からまるで須美の色のような青い炎が宿り、そして矢へと集まりそして華を咲かせるようにその一矢が放たれる

蒼と赤が入り混じる空へと上がる閃光が樹海を照らしそしてバーテックスへと突き刺さる

 

本来ならばこの須美の一撃は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()焼き尽くし、その中にある御霊までを焼却し聖の言っていたようなバーテックスの進化も行えぬ完全な滅殺となる文字通りの必殺技となっていた。…だがこの世界では違う。人への憎悪が、大聖以外を認めぬ神の力がバーテックスを強化する

 

そう。この瞬間、バーテックスは判断したのだ

己の触手、全てを捨ててこの一撃から身を守る手段を

 

「「やられた………!!」」

 

無数の触手の手をひとつにたった一本に圧縮し、漆黒に変容したその多重腕はこのたった一撃を防ぐために消費された。これよりこの触手は再生は出来ない、何故なら完全に捨ててしまったから。…見誤っていた勇者への最大限の賛辞だとヴァルゴバーテックスは生み出した無数の爆弾を空から雨のように降らす

 

それに、打つ手はない

この場にいる勇者はもう振り絞る力さえも残っていない

 

詰んだか。さすがに無理だったか。

バーテックスの頭上にある無数の爆弾の雨を見ながら少女たちはそれでも武器を構える

 

(まだ~あきらめ、られるか……)

 

限界をさらに限界を振り絞ったその瞬間、声が聞こえた

 

 

 

「私が!ここに!いるぜ!!」

 

 

─────燃えるような『赤』が、そこにはあった

 

 

 

 

 

時は、さかのぼり

 

「…………ここですか」

 

勇者が再起するその少し前その少女は薄暗い廊下の中を一人歩いていた。

光がないがゆえに鈍く反射するその廊下の白色が辛うじてこの場所が病院であることに気が付くだろう。…ここは大赦が運営する病院の中で唯一、お役目のことを知っている病院兼祭壇である

 

ではなぜ神聖であるはずのその場所にまだ()()()()()()()()()()()()()()少女が一人で歩いているのだろうか。その迷うことのない足取り、そしてお札やしめ縄に手慣れた…もはや老獪ともいえるほど素早く印を切り封を解いていく姿は少なくとも一般人とは言えないだろう

 

「全く、大赦も変わらない。…まあ、変われないようにしたのは私ですが」

 

そんな金髪だと分かる少女が着ている服も祭儀服や勇者儀装、そして巫女装束とは全くかけ離れた普通に流通しているような男児のモノを着てその少女は今も眠り続ける銀と聖がいる病室にたどり着いた。もしも彼女が勇者を殺すために送り込まれた刺客であるのならもうこの時点で詰みだ。

 

なぜならば誰も大赦の誰もが少女の侵入に気が付いていないのだから

300年前から何も変わっていないなとその少女はまるで散歩するかのような気軽さで一番強い力で覆い隠していた銀の病室に侵入する。……もっとも、大赦が変われなくなった。あるいは巫女という存在を信じられなくなったのは私だとまるで日常会話の呟きの如く口にした

 

「さて、牡丹の勇者。あなたにひとつ、【魔法】をかけてあげましょう」

 

そんな少女が今も四肢を括りつけられて眠る銀の病床に近づく。閉じられた銀の瞼からはくっきりと涙の跡が残り今も尽きることなく泣いているような悲壮感があるというのにその少女はまるで芝居がかった口調で銀の額に触れる。

 

今から少女がするのは簡単なことだ

………銀の眠る意識に直接呼びかけるだけの魔法

 

『…………だれ?』

 

「さぁ、だれでしょう。誰でもいいですが…そうですね、聖くんの巫女、とお呼びください」

 

魔法というにはあまりにも…そう、あれと一緒だ。【こいつ直接脳内に…!】みたいなことだがと内心少女は苦笑交じりに訂正するが表には一切出さぬ微笑を浮かべながら銀に語り掛ける。その完璧すぎるポーカーフェイスはまるで少女が誰かの前に立つことに慣れているかのようだ

 

『園子?ううん、違う。……ってそうだ!聖は、聖は無事なのか!?』

 

「ええ、聖くんももう少ししたら目を覚ますでしょう…ですが」

 

聖の巫女。聞いたことも見たこともないその声の持ち主に深く沈んでいた銀の意識が起き上がる

()()()そう巫女はエメラルドの様な緑色の瞳を輝かせて嗤った

 

「あなたは、このままでいいんですか?」

 

今の銀の意識は全てを拒絶している状態だ。

無理もない、目の前であの光を失う衝撃は他のどの絶望よりも色濃く少女にも残っている。今も悪夢に見るほどには少女は銀の思いが痛いほど理解できた。…そしてそれ以上に、銀を立ち直らさせるのに必要な言葉も少女は痛いほど理解できていた

 

『…………でも、私は。だって…………』

 

「そうですね。……なら言い換えましょう」

 

少女の問いに銀は逡巡する

あの日からずっと銀は考えていた。もしも、もしもあの時、隣に立つのが私じゃなくて須美だったら園子だったら聖を一人だけおいて戦いの場に立たせることはなかったのだろうか。聖はもっと傷つくことはなくて私たちは勝利を掴むことができたのだろうか

 

私が、私が私が私が私が私が私が。何度も何十回も何百回も銀の思考を押しつぶすようにあの日の姿に苛まれる。目の前で敵の刃を受けて背中から貫かれる聖の姿とその鮮血を。尽きぬ絶望だけが今の銀の世界だ、もう銀には立ち上がる気力も何もない

 

──────ホントウに?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『…………』

 

少女は、見抜いていた。

銀のいじらしいほどの初恋を。そしてその相手に唯一、背中合わせで立っていたという恍惚を

昔と同じように少女は囁く。戦場において、同じように立つ者だけが彼の視界に入る。彼の寵愛を受けるにはただの木偶の坊では務まらないと銀の心に炎を焚きつける

 

「聖くんの隣はあなたのはずなのに、あなただけが戦場で聖くんの隣に立てていたのに」

 

『…………ぁ』

 

最も、そんなことがあり得るはずがないのに今の銀の心を揺らすにはこれで十分だと嗤う

初めての初恋だった。共に命を懸けて戦場に立つだけではなく日常でも銀のトラブルに笑って付き合ってくれる彼を、共にイネスで思い出を作った彼には

 

近くに自分よりももっとお姫様が、自分よりももっとお嫁さんの様な子がいる

 

「その場所さえも、奪われてしまっていいんですか?」

 

戦いの場所だけが、勇者としての立場だけが三ノ輪銀と上里聖の二人を繋ぐ絆だった

もしも銀が勇者に選ばれなければ、ふたりは出会わなかった。この銀の初恋さえも無かったことになる

………そんなこと、そんなこと、そんなこと

 

ゆるせるはずがない

 

『…………だ、めだ』

 

「ええ、このままだと貴方は聖くんに捨てられてしまいますね」

 

『だめだだめだ、だめ、だめだめだめだめだめ……そんなこと、だめ』

 

私よりも何もかも持っているくせに、私よりも昔から聖くんと一緒にいるのに

この場所までも奪われてしまうのか。勇者として隣に立つ場所さえも奪われてしまうか

 

「…ええ、そんなこと」

 

『許さない、ゆる、さない、ゆるさない、ゆるさないゆるさない許さない許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイ―――』

 

にくい、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い

憎悪が燃料になる。黒く、黒よりもドロッとしたものが銀の体に染み込み、そして力を与える。

居場所を奪われた怒りは天を突くような角となり、訳も分からず頬を伝う涙は銀の背後に幻影の両腕と握る銀の斧を大きくしたのを背負う

 

「あら、あなたはお呼びじゃないんですよ。敗北者。大人しく力だけ渡したらどうです?」

『相変わらず悪趣味だね魔女。…まあいいや、私を使う気質は十分だね。精々狂い哭け』

 

涙の様な痕を頬に宿し、赤い鮮血の様な額から延びる二本の角

その姿はまるで鬼。正しく修羅へと覚醒した少女は目の前に立つ少女の姿を垣間見る

 

「おはようございます。調子はどうです?」

 

「さいっこう!…………これなら、この力ならっ!!」

 

金色に輝く髪、そして緑色の瞳。

銀はやはり初めて見る少女のことは一目見て自分の底から湧き上がる力と愛に震えるように手と手を合わせる。…………これなら、この力ならアイツの、聖の隣に立てる。誰にも文句は言わせない、もう誰にも隣を譲るつもりはない

 

「では行ってらっしゃいませ。そろそろでしょうしね」

 

「……おう?」

 

一体この少女は何を言っているか。といかそもそもここはどこでなんなのか

そして目の前に置かれたスマホを前に銀が首をひねった瞬間だった

 

目の前に極光が侵食する。樹海化が始まったのだ

 

「さ、最後に……!あなたの名前を聞いていい!?」

 

「…………私ですが?そうですね」

 

全ての時間が引き伸ばされていく。勇者を来るべき舞台へと連れて行こうとする光を前に銀は最期に聞きたかったことを聞く。名前さえ分かれば、また再開できるはずだから

 

「ひなた、とお呼びくださいね」

 

「分かった!ひなたちゃんだな!…?」

 

どこかで聞いたことのある名前だと銀は首をひねる。

だけどどこで聞いたかわからなくて、有名なのか聞き直そうとして…銀は樹海に送られたのだった

 

 

 

「…聞こえていますか?大赦、神樹よ」

 

「始まりますよ。再び、我らの救世主」

 

「大聖の世が…………!」

 

 





そういえばわすゆって唯一仲間割れがなかった勇者たちって言われてるらしいんですね
特に関係ないんですけど西暦勇者の切り札って欠点があるんですね


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