この末期の世界に曇らせ好きの愉悦部が乱入した話。   作:ネマ

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人は踊る、神は見定める

 

当たり前の話だが──人が神の意志を図ることなど不可能である

300年近く続いた安寧、大赦が信奉する神である神樹は今日まで変わらぬ繁栄と安全を人に与えた。そしてその繁栄と神樹の慈悲がこれからも永遠と続くものだと誰も彼もが疑わなかった。…一部の真相を細々と口伝でのみ伝えてきた上層部を除いて

 

だが人の世界で300年という月日はあまりにも長すぎた。

それこそその真実の中身が欠落するぐらいには長くの時間が過ぎた。どうして大聖は大社によって引き裂かれてしまったのか、どうして奉火祭という生贄の儀式が必要になったのか。…そして神樹が人間を■■していることなんて、もう誰も覚えてない

 

覚えていないことは存在しない。誰も知らないのだから無いも同然だ

そして知るべきことは知る必要のある人間でのみ知る意味があるという大社から変わらぬ大赦の悪癖。それによって今まで大赦は神樹と大聖を崇めてきていた

 

────────赦しの言葉さえも、忘れて

 

 

だからこそ、その異変の始まりは巫女からだった

巫女、並びに巫女候補である少女たちがまるで示し合わせたかのように大赦に問い詰めた聖の安否。もちろん、傷つき眠る大聖の転生体である聖は今、神樹の守りも含めて大赦が総力を挙げて守護している。つまり今の聖に触れることができるのは人間では不可能である

 

であれば、神か

そしてそんな聖を害しそうな神を大赦の上層部は覚えている。人類の敗北の象徴であるバーテックスを操る親玉にして神樹様とは相反する神、天の神が転生してきた聖を殺そうとしているのか。

確かにかつて伝説によれば大聖は圧倒的な力でバーテックスと互角以上に戦い、世界を救うと考えられ信仰された勇者。敵からすればそんな勇者は脅威以外の何物でもない

 

弱り切って、意識さえもまま成らない子供を殺すなど難しい話ではないと分かるからこそ

巫女の予言が滅びの予言であると、あの300年前と同じ悲劇を繰り返してはならないと狂乱する巫女の言葉。だがその言葉にある予言は、大赦の背筋を凍らせた

 

『聖なるものは華咲き誇る時、旧世界のすべてに別れを告げ微笑みと共に朽ち果てる』

 

何故ならばその予言は大赦が勇者へと贈る新武装を正しく当てていたから

神樹様より下賜された眷属である『精霊』その力を使って武装の強化と勇者の肉体を完全に守護するバリア、このふたつで基礎能力の底上げと継戦能力の増強を可能とした。が、この装備を使う肝心の勇者からは

 

「もっと火力が欲しい、です」「必殺技~みたいなのが欲しいんよ」

「斧の切れ味を上げるとか?」「ぶった切れば終わる(ぶった切れば終わる)」

 

と、これまた将来が心配になるような火力全ブッパの思考に大赦の大人たちは頼もしいやら頭を抱えたいやらとその中でも勇者のサポート役兼お目付け役である女性はカウンセリングの回数を増やすことを決意したという。

さて、ならばそんな勇者たちのいう火力の底上げというのは簡単な話ではない

 

それこそ大赦に伝わる大聖のような三日三晩、空には無数の光の剣が迸り次々とバーテックスを殲滅していたなどと言う神話の様な伝説。だが聖が初めて勇者武装を展開したというその日、光は出ないんだなという小さな呟きを大赦は把握していた

 

つまり大聖の逸話は全くの誇張とは言えないのだ。そんな大聖の逸話を上げるなら…

 

一撃で5体のバーテックス討伐は当たり前、一撃8バーテックスも

開幕光で出来た剣ブッパで前面がすべて薙ぎ払われた

大聖にとっての通常攻撃は勇者たちの全力攻撃と同等

30秒殲滅は当たり前。なんなら何秒で終わるかトトカルチョまで開催していた

1:1000の戦力差、勇者全員が負傷の状況から一人で逆転した

一回の振り下ろしで剣が十本に見える

バーテックスでお手玉が得意

戦場に立つだけでバーテックスが泣いて謝った

英雄を超えた英雄。大聖がいるんだから勇者なんて話になんねーよ

人間か英雄かと言われたらバリバリ大英雄

私は同性愛者ではありませんが、大聖さまと一緒に森の中の丸太小屋に住みたいです

バーテックスを一睨みしただけで数日間侵攻が止まった

通常攻撃が大規模殲滅でMAP兵器の大英雄は好きですか?

剣を使わずに手でバーテックスを破壊したことも

剣でお手玉をしながらバーテックスを切り刻んだ

グッとガッツポーズしただけでバーテックスが消し飛んだ

四国が無事なのは大聖がいることは有名

 

など、など。正直大分誇張が入っているであろう大聖の逸話は今でも大赦の中に保管されている

ちなみにこれは余談だが当時の大聖はまだ齢14か15という子供であるため一部の劣情が混ざった逸話は普通に封印指定のご禁制だったりする。これを読んで大聖が闇堕ちしてもま、なるわな…と納得せざるを得ないので

 

さてそんな余談は置いて。今の聖にとって勇者装備というのは格落ちも良いところである。

それは偏に大赦が勇者システムの開発・発展を禁忌としてきたからであり、表には出せずとも裏で秘かに保持をしていたといってもそれは300年前から変わらない…むしろ劣化している中でのお役目であった

 

『タイマン程度ならこれでなんとかならないわけじゃない』

 

ギリギリ使えなくはない産廃。これしかないなら仕方ないけど、前使ってた剣返して

……これが大聖の転生体である聖が下した勇者装備への評価である。西暦の大聖の姿を知っている某300何歳の亡霊幼女巫女はさもありなんと頷くかもしれないが大赦としてはたまったものではない。

 

単純なことだ。300年前と比べて落ちぶれたねと言われて喜ぶ技術者はここにはいない

お役目。そしてこの四国全土を背負うのがまだ僅か二桁の年齢になって間もない子供だという重圧は大赦が決して逃げることのできぬ罪の様なものだ。…まだ、こども。そうまだ子供なのだ。そんな子供に世界の命運を背負わせる

 

大人である自分たちはただ見ているしかできないというのに

だからこそ、せめて。と勇者の武装を造るのに関わった全ての人間が祈った。

 

勇者の無事を。ただ健やかに帰ってくることを

だがその祈りは無意味だと嘲笑うように勇者の傷が増える。かつて大赦で崇められていたという英雄の転生体だって触れ込みだとしてもその姿はまだまだ子供だ。そんな子供が血塗れになって涙を飲み込んでお役目のために死ぬかもしれない戦場に送り出す。それが栄光だというように、生贄の台に立たせるのだ

 

『気にしないでください。こういう役には順番があります』

 

そしてそんな大赦は【大いな聖なる者】の真の意味を知る

いつか聖が勇者装備の試運転のために大赦に姿を現したとき優しげな声でそう言った。顔も見えない仮面をかぶった大赦の彼ら彼女らに、彼はただ優しく説いただけ。その一瞬だけでその場にいた全ての人間は理解させられた。大聖、その名前の本当の意味を

 

許しの言葉、ただそれだけでその場にいた全てが跪いた。

あまりにも気高き有りよう。まるで自然と神々しいものに敬意を表す様に首を垂れた。そんな彼の在り方を当時の大赦は彼を聖人へと祭り上げ、そして彼に全てを背負させその命を四国のために捧げさせた。僅か十年と少ししか生きていないような子供に、だ

 

そしてそんな子供に彼らは、大赦は今一度言わせてしまったのだ。もう一度背負わせてしまったのだ

順番であると、かつて大聖亡き後に勇者がすぐに代わりを演じ始めたように永遠と廻るメビウスのように【救世主】という役割だけがただ回り続ける。

 

300年もずっと、変わってやりたい大人だけが置いていかれて

 

「……だが、もはやこの局面、正気なくして勝機はない」

 

「大聖様が、大聖殿が死なれるよりは……」

 

大人だけが置いて行かれる。全ての命運をたった数人の子供に託して

だからこそ大人たちは肚を括る他なかった。たとえ全てが終わった後に大聖ないし勇者たちに粛清されるのだとしても少しでも生きて、帰ってきてくれるのならば。

 

()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()

 

……故にその計画のコンセプトは決まった。

勇者が求める短期決着、火力を増強する手段として『前借りをする』術理。咲き誇る花がいつか必ず枯れ落ちる様に、かつて大聖様の生きざまが短くとも流星の如き輝きが今も大赦に受け継がれているように

 

 

 

──────その名前は満開、勇者の切り札

 

 

 

 

 

戦いを終え、勇者たちはあの祠の前へと降り立つ。 

戻ってきた少女たちがまず最初に感じたのは、地獄の様な大雨。まるで空が大粒の涙を流しているかのような稀に見た大雨に少女たちはまず必死に木の下に隠れる。園子や須美は修練するための軽装だし、銀は病院服だ。雨に当たると体力が奪われて風邪をひく。集まって熱を共有していたその時だった

 

「……………………」

 

目の前で今、祠の前に帰ってきた男の子の姿を見て少女たちは息を呑む

その姿は間違いなく聖であった。だがどこか様子が変で雨に打たれているというのに祠の前で立ち尽くしたまま放心しているようにも見える。空を見上げ心ここにあらずのままその直後、お迎えの車がやってくる

 

「聖君はそのまま検査ね」

 

「はい。もちろんです」

 

車に乗り込み雨雫を拭いて再開に喜んだ直後に水を差すような大人の言葉に少女たちはムッと顔を歪めるが確かにさっきまで聖は背中からバーテックスに貫かれてベッドの上で目を覚まさなかったのだ。ベタベタとはしたなく触れて傷がない事は確認済みだが、言ってることがわからないわけではない

 

まあ、あとは

 

(聖くんって意外とがっしり……)

 

(お~良いですな、いいですな~)

 

(はわわわわ はわわわわわわ はわわわわ)

 

聖の意外と鍛えあげられている体に触れて顔を赤くしている生娘には流石の安芸先生も情けだと触れないことに決め込んだ。恋する乙女の姿は、遠い昔に置いてきたものであり眩しいものだからせめてこれ以上邪魔しないようにと黙って車を動かす。

 

そうして車の後部座席で少年少女たちが戯れて少し、緊張とストレスから解放された心理的な開放と体を温める微かな暖房の風に当てられて少女たちの寝息が聞こえ始めたころ一人、そんな少女たちの頭を慈しむように撫でる聖に安芸先生が口を開く

 

「………聖君は、」

 

「?」

 

ずっと見て来たからわかる、聖の一歩引いている態度

少なからず壁があるのだ。何かを遠慮するように、眩しいものを見る様に一歩どこか後ろにいるような

 

「何か心配していることでもあるの?」

 

「心配、ですか。……そうですね」

 

少し考えればわかるだろう。大聖の結末、そして勇者の狂乱

彼は今生きていながらも300年前たった一人で戦った勇者。ある日、突然300年後に産まれ直されて貴方は英雄だとよそよそしい態度を取られて、家族も友人も誰もいない一人の中で戦った敵だけが健在だなんて考えるだけでも地獄だろう。そしてその地獄に誰も寄り添えない事に安芸は踏み込んだ

 

「きっと、これから戦いは苛酷になるでしょう。…でも、俺の力は全盛期の半分にも満たない。これでは…」

 

「守れない、かしら」

 

「そうですね。これでは大聖の名前も返上かな」

 

軽々しく言っているが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

大聖は大聖であり、その前の少年の名前はどこにも残っていない。ただ微かにあったある勇者との繋がりが彼の生誕の地の名前が残っているだけでその場所ももう300年という月日の間に無くなっている。……世界を、四国を守った英雄の果てがこれだ

 

彼個人の何もかもが残ってなくて、ただ大聖という虚像だけが虚ろに残っている

彼が大聖という力と名前に縋るのもわかる。そうなるのも分かるからこそ、安芸先生はさらに彼に近づく

 

「実際、どうなの?大聖としての聖君なのか、上里聖君としての聖君なのか」

 

「…難しいことを聞きますね。うーん」

 

軽々しく転生と言っても人の心はそんな単純じゃない

過去の自分と今の自分。さらには彼のその死因と死後まで隠し通した彼の強靭な意思を考えればカウンセラーの診察さえも余裕で突破できてしまう正気のまま狂気に落ちていないかという心配。

 

「混ざりあう、といった感覚でしょうか」

 

「混ざり、合う?」

 

「ええ、戦いごとに自分のチャンネルが切り替わるような感覚がするんです。おそらくあれが大聖の意識なんでしょうね。……そうして戦いが終わった後にも残る大聖の意思の様なものが日に日に強くなっていくんです」

 

元々1:9だった大聖と聖の意思がバーテックスとの戦いという修羅場に置かれて、その割合が逆転する。もちろん戦いが終われば元に戻るがその時にはもう大聖の意識が強くなって2:8という割合が少しずつ聖の意思を圧迫する。まだ辛うじて聖が主導権を握っているがこのままだと逆転されるのは時間の問題だとサラリと聖は答えた

 

「それは…………」

 

「はい。いつか大聖となり果てるか、聖の皮をかぶった大聖になるか、はたまた別の何かに成り果てるか」

 

「……っ」

 

自分が自分でなくなる感覚、だなんてそんなの人に言えるわけがない

きっと聖は初めて吐き出したのだろう。戦い続ければ自分は自分でなくなる、けど戦いを止めることは四国全てを見殺しにすることになる。その天秤をかけて、彼は全ての言葉を飲み込んだのだとしたら……

 

運転する手の爪が安芸の肉をえぐる。滴る血も気にならないほどの激情が彼女を渦巻く

だが、もはや彼に止まってくれという資格はない。何故なら大赦こそが彼を地獄へと突き落とした犯人なのだから

 

「ですが、そう。悲願することではありません」

 

「…………え?」

 

「もとより、分かっていたことです。この神との争いの局面においてなんの犠牲もなく勝利などあり得ない。それは300年前から変わらず、そしてその犠牲だけが次なる希望を生む」

 

せめて怨んでくれと言いたかった。全て大赦が悪いのだと、全て大聖を止められなかった私たちが悪かったのだと

だがその言葉さえも吐き出すことは許さないと聖はその犠牲を受け入れたように、まるで…残せるものがあると今際の際に微笑む花がほころぶような笑みに安芸の息が止まる

 

「かつて大聖という愚か者が死に、勇者という希望が生まれたように」

 

「次なる希望の花が咲き誇る苗となりましょう。」

 

 

─────許されよ、許されよ。我らが罪を許されよ

どうしてだろうか。何故か安芸はこの言葉が脳裏に浮かんでそして消えたのだった

 

 

 






大社「─────許されよ、許されよ。我らが罪を許されよ」

大聖「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!だからよ、(曇らせが)止まるんじゃねぇぞ……」

勇者「うっあぁ…………(意気消沈)」

巫女「大聖様のおそばに……(奉火祭)」

民衆「大聖が逝った?ぶっさwコミュ(現世)抜けるわ…」(集団心中)

◇いろいろあって300年後………

大赦「許しの言葉?なに、それ」

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