この末期の世界に曇らせ好きの愉悦部が乱入した話。   作:ネマ

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千景は可愛い。
ということで想定していた以上に愉悦が浮かんでしまったので色々と練り直していたぞ。

千景は正ヒロイン。
ということで上、下に分けてしまったぞ。
千景。可愛いよ。千景。





彼岸花の章・上

 

 

…………どちら様?

ええ。私の名前は郡千景。

"神秘研究家"の郡千景よ。

…………勇者?

懐かしい物を聞いたわね。

ええ。そうよ。私は嘗ては初代勇者として生きたこともあるわね。

 

大聖。また懐かしい物を。

ええ。よく知っているわ。

…………そうね。最もカミに近い覚者。救世の英雄。大いなる聖たる者。

かれを讃える称号はいくらでも有るわ。死後も四国を護ってくれるのだからその扱いは至極当然……。

 

…………彼との関係?

"昔馴染み"が一番正しいんじゃないかしら。

私は少なくとも、まともな幼少期だったとは口が裂けても言えない環境にいたわ。

旧い、古い糞みたいな掟に縛られた小さな山中の村の生まれで録な大人も居なかった。

唯一の幸福は彼と会えて、親しくなれた事ぐらいかしら。

………そうね。彼は特別だった。

生まれが特別だとか、血筋が何が優れているとかじゃない。

 

彼の心が特別だった。

いつだって彼は"自由"だった。

掟も、暗黙の了解も、分かっていながらも何時だって彼は心の善悪に従っていた。

だからきっと、私に手を差しのべた。

私は、自分が嫌いだった。

男にのめり込み不倫に耽る母も、見て見ぬふりをして自分の都合の良い幻に浸かる父も。

なんでこんなやつらの血を引いているのか。私はこの身体が醜いと憎悪するほどだった。

それでもこんな私を何の物差しもなく"優しい"と、"華麗だと"。

彼だけなのだ。彼と居るときだけ私は"千景"になれるのだ。

 

………あの日もそうだった。

生家に居るなんて死んでも嫌だったし、少し村に出ただけで蔑まれる。私の居場所は彼の持っていた山小屋だけだった。

何時ものように何でもない時間を過ごすはずの世界は私一人で、彼は親戚に用事があるからと呼ばれていた。

空から降ってくる白い流星が昼間なのに輝いているのを見た。

きっとこれが夜ならもっときれいなんだろうなと思いながら。

私はそっと目を伏せた。

次、瞳を開けると私は何かに駆られるように"そこ"に行った。

そこには、錆び付いた鎌の刃だけが有った。

私にはそれが何となく要る気がして、持って帰った。

数日が経った。彼は一切帰ってない。

あの白い流星は空からバケモノが降ってきて、多くの人間を殺したらしい。

そんなの関係なかった。

彼さえ、彼さえ生きていれば。

 

そんな願いを裏切るように、私に"大社"と言う組織から来るようにと招待を受けた。

"大社"。耳にはしたことがある。

四国以外はもうモンスターに滅ぼされ、世界は絶滅しかけているということ。そして四国が生き残っている理由。それはただ一人モンスターに立ち向かう事が出来るとされたその人を支えるための組織。

正直、どうでも良かった。

その人と同じような力があると言っても私には戦う意思なんて持てないし持つこともない。

………その筈だった。

 

『大聖様がお待ちです。精々粗相が無いようにお気をつけください。』

 

『ああ。それは勿論だ。』

 

 

『………やぁ。待っていたよ。君たちが僕の後釜かい?』

 

『…………嘘………』

 

そこにいたのは、間違いなく彼だった。認めたくない。

でも間違いなく彼なのだ。認めたくない。

勇者の先駆け。四国を、そしていずれ世界を救うことを願われる英雄が私の目の前に居る。認めたくない。

………認めないといけない。

彼なのだ。彼こそが私が恋して止まない彼なのだ。

吐きそうだった。どうにかなってしまいそうだった。泣き叫びたかった。恥も見聞も投げ捨てて彼にすがりつきかった。

………ああ。でも心の何処かで彼らしいなと思ってしまった。

 

日に日に、彼の名声は高まっていった。

"大いな聖なる者"。この世界の最後の希望。終わりに向かう世界を救う英雄。

 

ああ。でも皮肉な事だ。

彼が"大聖"だと自らを偽るほど、彼は透明になっていく。

大社を騙して。勇者を騙して。

私を騙して。騙して。騙して。騙して。

"大聖"は完成したのだ。

人類全ての期待を背負う救世主。

人類全ての希望を抱く英雄。

気がついたときにはもう遅かった。

 

彼を"英雄"に成り果てさせてしまったのだ。

 

何処かで分かってた筈だ。

彼はきっと彼ならこうなるだろうと、何処かで分かってた筈だ。

英雄の末路を知っていた筈だ。

成り果てさせて、燃えカスの様な彼だけしか残らないだろうと何処かで分かってた筈だ。

そうか。私はまた間違えたのだ。

あの時再会をしたときに、彼の手を引いて何もかも投げ捨てて逃げれば良かったのだ。

大聖を色欲に惑わせた悪女だと蔑まれたとしても、彼の手を引けた筈だ。

………ああ。やっぱり私は大切なところで間違える。

何時だって、私は愚かで屑な馬鹿だ。そうだ。私が一番嫌っていたのは………私だったじゃないか。

 

私は今まで以上に自分を追い込んだ。

正直残った人間や、世界を救うとかには興味が一切ない。

彼を、今度こそ彼の隣で戦える力を得たんだ。今こそ彼の全てに報いなければならない。

他の勇者だとかどうでも良かった。

………ただ。まあ高嶋さんとは仲良くやれたと思う。

乃木さんは……苦手ではあった。

でも。それ以上に上に立つ才能はピカ一だと認めていた。

もし、大聖の後を継ぐのであるのならばきっと乃木さんだろうと認めていた。

 

 

多くの時間が過ぎた。

多くの悲しみが有った。

 

 

時が経つにつれて、彼は"大聖"に成り果てるようになっていった。

 

 

笑顔が減り、張り付けたような表情が増えた。

"不安だから"と寝ることが少なくって、食べる量が少なくなって……何よりも変わっていったのは彼の瞳だ。

汚泥の様に濁っていくならまだ良かった。何処か外れたように、可笑しくなっていくならまたマシだった。

硝子だった。見るもの全てが等しく彼の目に映って、映るだけの眼差しだった。全てが無情で平等なそんな眼をしていた。

ああ。その時点で私は気がついてしまったのだろう。彼はそこまで壊れてしまったのだと。傷口を自分だと思うほどとっくのとうに壊れてしまったのだと。

 

吐いた。食べた。吐いた。食べた。吐いた。食べた。吐いた。食べた。吐いた。食べた。吐いた。食べた。吐いた。食べた。吐いた。食べた。吐いた。食べた。吐いた。食食食吐吐食食食食食食吐吐吐吐吐吐…………

何よりも辛かった。私が悪いのに。何よりも気持ち悪かった。私が悪いのに。泣き叫びたかった。そんな事許されないのに。

 

許してはならないのに。

 

『……私は私を許さない……』

 

もうダメだ。■■を。大聖を支えるという名目で彼を貪る大社も。彼の重荷になるだけの勇者も。盲目に、怠惰に彼を狂信する民衆も。なにもできなかった私も。

 

『…………………………………………』

 

残っている手段なんてこれっぽっちもない。でも。一つ明確な方法がある。

何を手間取っている。何を考えている。私にできることはただ一つ。彼をこれ以上英雄にしないためだ。その為ならば私は……私の命だって天秤に乗せてやる。

 

『…………………憑依顕現。』

 

大社より、神樹より与えられた。

勇者が次代の大聖足り得る器の証明。勇者の更に後付けの力・補助を行う、過去に伝承を残した存在を呼び出す奇蹟。

 

『御託はいい!!どうでも良いっ!!私に従えっ!!』

 

人間が下ろしきれないと大社が判断をし、本当に緊急時以外には顕現、並びに力を借りることを禁じられた内の三体。

 

今なら、何となく分かる。

これは私に似ている。

 

『白面金毛九尾!!』

 

人間を嫌った。ただ。我が物顔で自然を世界を犯す人間を憎悪した。だから殺した。残虐に。

………きっと違うところは愛した存在が居るか居ないか。

 

下総国の伝承が一つ。

宮中を。天皇を惑わし、国を混乱に落とした九尾より出でる怪。

 

『玉藻前!!!』

 

私がその名前を呼んだ途端。穢れが満ち溢れる。少し触れただけでも不快感が溢れるようなそんな感じ。……気持ち悪い。触れたくない。そんな感情をすべてねじ伏せる。そんな事よりも大聖の。彼の足手まといになる方が気持ち悪い!!

ねじ伏せる。私の意思だけで玉藻の前を調伏する。

 

変化はすぐにでも訪れた。

頭からは黒い狐耳が、腰辺りから三本の尻尾が生えていた。

次第に頭のなかがクリーンになっていって、手をとるかの様に四国全土が把握できた。……どうでも良いとすぐさま大聖にだけ焦点を当てて、凝視する。

玉藻の前の力のお陰か。

自分の事のように大聖が感じ取れた。五感その細部に至るまで、私は大聖と一つになって溶けていくような……何処か心地が良い。じゃなくてこれで彼の足手まといにはならない。何の問題もなかった筈だった。

 

ああ。何も問題なく変わらなかった。

 

大聖を支えるという名目で彼を貪る大社も。彼の重荷になるだけの勇者も。盲目に、怠惰に彼を狂信する民衆も。何も変わらなかった。半端に力を手に入れてしまったのだ。その先は……地獄なのだろう。

 

『………魂が酷く疲弊していってるわよ。』

 

彼が隠していることも分かっていた。

人類最後となったのはここだけなのだと。大社は切り捨てたのだ。

"諏訪"、"北海道"そして"沖縄"。

同朋である勇者とそしてその勇者が守護する幾多の民を切り捨てた。その全ては大聖を護るために。見捨てられたのだ。見捨てる選択をしてしまったのだ。

バーテックスの侵攻も日に日に、時間を選ばず増えていった。

分散していた敵の戦力が最後の本丸を落とそうとする。正に合理的だ。

 

 

そうして、その日はやってきた。

何時ものように彼に焦点を当てて何をしているか見ようとした瞬間だった。

 

『………繋がらない?』

 

今までにない感触。固く厚く閉ざされた様な壁。

胸騒ぎがした。虫の知らせがする。耳も尻尾も逆立ち、冷や汗と鳥肌が同時に起きる。

 

『聞け。大社よ。』

 

始めに声がした。

 

『聞け。勇者よ。』

 

『この星は、この人類史は間違えていた。』

 

『大いなる神の………』

 

空から伝わる大聖の声。

にくったらしいほど演出としては最適だ。

 

『…………どう言うこと』

 

何となく、分かっていた。

きっとここなんだろうって。

私たちの思い出。夢の始発点にして終着点。

 

『どう言うことなのっ!■■!』

 

声にならない叫びだけが森に満ちる。

私はそう。思い出に深い村離れの小屋に来ていた。

私が私であることが出来たあの山小屋は彼が火を付けたのか既に燃え上がっている。

 

『そろそろ。"さよなら"しよっか』

 

止めて。そんな事言わないで。

 

『構えて。千景。』

 

どうして?そんな目で見るの。

 

『…………そうか。』

 

貴方まで私を置いていくの?

 

『……………すまない。』

 

私は最後の最後まで彼に武器を向けられなかった。

 

『大■きだよ。千景。』

 

最後。彼が何か呟いた。

何を?と手を伸ばしたその瞬間、私の身体は言うことを聞く前に崩れ落ちたのだ。

 

 

次目を覚ましたときにはもう全てが変わっていた。

結界の維持も儘ならない状態で、四国の凡そ半分がバーテックスの手に落ちた。そしてその全てを大聖が裏から引いていた。

火の手が未だに燻り、亡骸の弔いさえまともに出来ない。そんな世紀末真っ只中。私たちは現況を叩くのに尽力した。

その下に、護らなければならない者を見ないように目を伏せて。

 

『終わりだ。大聖。』

 

『ああ。そうだな。』

 

私は大聖と直接戦うことは、会うことはしなかった。してしまったら最後、きっと勇者で居られない。

 

だから少し遠いところで、眺めていた。乃木若葉と大聖の一騎討ちに近い状態を。私は遠くから見続けていた。

 

『…………言い残すことはあるか?』

 

『…………………何も。』

 

『そうか。』

 

両者とも万策を尽くし、削りあった。もし少しでも天運が彼に有ったのならばきっと負けていたのはこっちだろう。

そんな壮絶な争いのあと。

私は我慢ならなかった。

 

『待ちなさい。』

 

『千景………』

 

『……ちーちゃん?』

 

あらゆる力を使い果たしたのかもう大聖には立ち上がる気力さえ残っていなかった。魂の輝きもほぼほぼ薄くなって、死んでいないことの方が不思議だった。

乃木さんは今はどうでも良かった。

彼に近づいて、私は座り彼の頭を膝の上に乗せた。……膝枕というものだ。

 

この瞬間だけ、世界は静寂になる

まるで世界が英雄の死を悼むかの様に。

 

『………………………………』

 

それでも時間は進んでいく。

少しずつ、少しずつ彼の生命力が失われていく。

 

『…………終わり………か。』

 

『ええ…そうよ。』

 

どういうつもりで裏切ったのかは最早興味の範疇にさえなかった。

彼の魂の輝きは、何時までも何時からも変わらなかったのだから。

 

『ちーちゃん…………ごめんね。』

 

『ううん。』

 

何を謝っているのだろうか。

本来謝らないといけないのは私だというのに。

 

『ありがと

 

言葉が消える。

最後の最後まで恨み言一つないとか彼らしいななんて。

 

『……………馬鹿ね。』

 

ありがとう。なんて貴方が全てくれたのに。

 

楽しかった記憶を想いながら私は彼を運ぶ。肉体から魂が離れ、既に亡骸といっても過言ではないがそれでも私の愛しい人だった。

せめて、静かに眠ることは許される筈だ。

 

静かに眠れる筈だった。

 

『貴方達……どういうつもり?』

私を、私たちを待っていたのは大社の遣いだった。

 

『郡様……大聖様をお渡しくださいませ。』

 

正直に言うと激怒したわ。

何様のつもりだ。と。

また、また奪うというのか。

………何を口走ったのかしら。半狂乱になりながらひたすらに敵意を迸らせた。きっと、私はもう少し遅ければこいつらを皆殺しにしていてもおかしくはなかった。

 

『嘗めるなぁ!!郡千景!!』

 

そこには大粒の涙を溢し、それでもと私を睨み付ける多くの人間が居た。

 

『………分かっています。我らも分かっております。ですが今でも大社の希望は大聖様なのです。』

 

涙を拭くこともなくその初老の男性は、歩みを止めない。

 

『せめて。その死を悼む時間を我らにいただけないでしょうか。』

 

私たちの前に立った瞬間。

その初老の男性は崩れ落ちるかの様に膝を折り、土下座するかの様に私に懇願した。

 

『………そう………ね。』

 

分かっていた。筈だった。

彼は多くの人間に慕われていたことを。

きっと、彼の裏切りで心は彼から離れていったのだろうと錯覚していた。だから死体蹴りされるのではと渡したくなかった。

 

『……………おぉ………大聖様………』

 

でも違った。未だに彼の事を信じて、そして大聖様を敬愛する人間も多く居たのだ。

 

初老の男性を始めに多くの大社の人間が、巫女が彼の姿を見る。それでも亡骸は大聖様の物で、そこには多くの泣き声と啜り泣く声だけが満ちていた。

 

『…………最後の介錯は……』

 

『私がしたわ。』

 

致命傷を負わせたのは乃木若葉だけど、彼を黄泉路に見送ったのは私だ。

 

『…………まるで寝顔みたいだ。』

 

夢に就くようにそんな一切の苦悶なき顔に、誰も彼も文句は付けられない。

 

 

 

そこから先は、早かった。

重厚で、多くの装飾が成された棺に、これでもかと花が添えられて彼の亡骸は数日間置かれることになった。

私は特例として彼が送られるまでの数日間、彼の側に居ることが許された。

 

 

……ああ。私がもし少しでも悪意を察せられたのなら。

 

……ああ。私がもし少しでも大社の動きに注意していれば。

 

きっとあんなことにはならなかったのだろう。

 

 






大聖[千景初対面](なんか曇らせなあかん気がする………)

大聖[再開時](……なんからしい事してたらバンバン曇っていくねんけど……まあ想定内想定内。)

大聖[裏切りの再開](千景は可愛いですね)[千景の愛を背負って戦う男]

大聖(曇らせもこれで)終わりか。(これからめっちゃ曇るやろうけど)………ごめんね。


郡千景

原作より幼少期の環境が改善。
それにより、"玉藻の前"を下ろすことが可能に。
曇らせ野郎の幼馴染だったが故に曇らせ野郎の期待を一身に背負って戦う勇者。

正直に言おう。これまだ上章。
ここからが愉しみですね。
千景。理想を抱いて溺死しろ(愉悦顔)


次章。「彼岸花の章・下」

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