お待たせしました。彼岸花の章下です。
愉悦しながら書いてたらいつのまにかこうなってました。
そこから先は、早かった。
重厚で、多くの装飾が成された棺に、これでもかと花が添えられて彼の亡骸は数日間置かれることになった。
私は特例として彼が送られるまでの数日間、彼の側に居ることが許された。
何処からか話が漏れたのか、大聖様の死を悼む一般の人が姿を表すようになった。
私たちの対応は一貫して、人を入れることは出来ないと判断した。一体何時何処で彼が恨まれていないと判断できるのか。
『大聖様は亡くなられたのですか……?』
大聖の信奉者。大社の中でも信頼ができるということで、彼の棺を守るかの様に多くの大社の人間がその式場を取り囲む。
『……おぉ……大聖様……』
尋常じゃないほどの大社の人間が気を張り詰めて式場を右往左往し守る。"大聖を支援する組織"である大社が今までにない気迫でいる。
それは皮肉にも、大聖が亡くなってしまった事の証拠の後付けになってしまったのだ。
『…………花を。』
なにも言わず、花だけをいつの間にか置かれていた机に置いていく人が居た。
『お疲れ様。ゆっくり休んどくれ。』
手を合わせ、静かに彼の死後の安泰を祈る人も居た。
『おやすみなさい。大聖様』
多くの人が彼の死を悼んだ。
それは人類の裏切り者の末路にしては優しい終わり。
そして、彼は一般的な手順で火葬され、納骨される筈だった。筈だったのだ。
『大聖の遺体を連れ出せ。』
『はっ。』『………失礼します。』
彼の宗派は分からない。
だけどせめて同じようにお経を上げ線香を立てる途中だった。
『貴方達。どう言うつもり…!』
お経の途中だった。
突然喧しく戸が開かれたと思ったら、そこにいたのは多くの大社の人間だった。
『郡千景様。我らにも命令がございます。どうか邪魔されることなきよう。』
その中でも一番年長なのだろうか。威厳ある声と共に、大聖の棺を持ち上げようと動かし始めていた。
『これはどう言うことなのか。』
見計らったかのように隣から声がする。あの時、私に頭を下げてまで大聖の葬式を行おうとしてくれたあの初老の男性だった。
『申し訳ございません。"鷲尾"様。』
我らに命令が下されています。
どうか邪魔されることなきよう。
同じように、台本を読むかのような無機質さを持って大社の人間は動きを止めない。
『だから!その命令は……!!』
言っても聞かない。
ならば実力行使も吝かではない。
そう考え、私は指先に力を込め始める。
『私だよ。』
大社の人間の後ろ手。最後尾に居たのだろうか。彼女は…そう。"高嶋友奈"は満面の笑顔で私を見る。
『……高……嶋……さん?』
『久しぶりだね!ぐんちゃん!』
その場に立つのは確かに高嶋さんだ。
…………本当に??
なにかがおかしい。最早、動物的直感にも劣らない私の直感が全力で近づくことを拒否する。
『高嶋さん。もう一度聞くわよ?』
これはどう言うこと?
死者を悼むためでもなく、なにか知らせるわけでもなく、大社は大聖の遺体を何かしようとしている。
これは、私にとって到底認められるどころかこの時まだ怒りを抑えられた自分を感心する。
『………?ああ!ぐんちゃんは聞いてなかったけ?』
大聖という高嶋さんにとっても大事だったはずの彼の亡骸を前にして、その空気に合わないほどの底抜けた明るさ。私はその時気が付けたのは何よりも不幸で、幸福なんだろう。
『大聖様の後を継ぐの!』
その為には、大聖様にも働いてもらわないと!その言葉に一切の疑問がないような清んだ眼差しで、至極マトモだと言わんばかりに高嶋さんは言いのけた。
『…もう亡くなっているのよ。だから……』
『何を言ってるの?ぐんちゃん。』
それでも大聖様の繋げた"正義"を全うしないと。
その為には、大聖様の亡骸を使うと言うのだ。大聖様を使うことによって半永久的に大聖様が護る世界が完成すると、そう。高嶋さんは本気で考えていたのだ。
『……正気?上手くいくとは思えないわ。』
古来より、人の死を嘲るように出来上がってしまった代物は"聖遺物"と言うのではないか。そしてその"聖遺物"が人を、四国を護ってくれると何故保証できるのか。
まあ。最も、彼の亡骸を荒らされたく無い一心に、私は論弁を重ね続ける。これならもっとそう言うことを経験しておけば良かったと頭の片隅で後悔しながら。
『…………そもそも。どういう使い方をするのよ?!』
その一言が最悪の引き金を引いてしまったのだと今でも思うわ。
『え?』
その一瞬の沈黙の後に、今までに感じたことの無い悪寒と共に何よりも慎ましいと感じるイカれた計画が飛び出していく。
『大聖様の肉体には多くの力がまだ宿ってることぐらい分かってるよね?』
分かっている。知っている。
積み上げた徳が違う。願われた希望の量が違う。現人神に最も近い存在が普通の炎で火葬されるというのか。
『四肢を分け四国を護る土台にするんだよ!』
勿論肉体を利用した魂の召喚も行い、そこから読み取れる情報から大聖が間違ったことをしていないことを証明するというのだ。
『貴方…貴方は魂まで犯すつもり!!?』
それは非常におぞましい計画。
肉体だけでも相容れる事など不可能だと言えるのに、魂までも。
『人類が決して触れてならない域まで……勇者は気が狂ったか?!』
死んだ肉体に今一度魂を戻すというのは、生命の摂理から大幅に外れている。成功しても、失敗してもそこから先は救いようの無い末路が待っている。
その計画を聞いた少しでも知識を持っている人間は嫌悪感で派手に顔を歪ませる。
『うるさいなぁ……』
友奈から無造作に振り下ろされた拳。それは思わぬ威力を持って地面を陥没させる。
『正義だよ。正義。大聖様が守ったこの"人類"を護るために必要な事なんだよ。』
まるで大人が子供に常識を諭すかの様な、非情な非常識を語る高嶋友奈はもう以前まで知っている高嶋友奈とは違うのだと分かってしまった。
『分からないわ。大聖は……彼はもう眠りに付いたの。』
彼の後を継ぐというのならば、手段が有った筈だ。彼を少しでも思うのならもう眠らせてやって良いじゃないか。
……………………いや。違うのか。そう言うことなの?高嶋友奈。
『貴方は………』
『………………………………』
震える声を押し付けて、高嶋さんの本心を暴きにかかる。言っていたじゃないか。"大聖が間違ったことをしていないことを証明する"って。
『………そう。』
それでも
『高嶋さん。貴方は間違えている。』
貴方は間違えている。
確かに真実は気になる。何で裏切って云ってしまったのか。何で置いていったのか。……あの時、何て言ったのか。確かに私だって知りたい。でも。
その願いが多くの呪いを振り撒くのなら。
その望みが彼の護ったものさえ脅かすというのなら。
それは彼に対する冒涜だ。
どうであれ、護ってきてくれたものに今一度すがろうなんて、あまりにも話がよすぎる。
『そっか。そうだよね。』
満面の笑みで聞いていた高嶋さんは納得するかのように首を小さく縦に振り、そして鬼の形相と言わんばかりに顔をしかめる。
『本当に妬ましいよ。ぐんちゃん。』
吐き捨てるように言われたその一言。
どうして?貴方の方が相対的にも幸せに見えるだろう。
人当たりも良く、そして大聖の後釜としても誰からも期待されている高嶋さんがどうしてと。
………ああでも。女の勘ってするどいのよね。それは同じ相手に愛を向けているのなら。
『……………!貴方もしかして……』
そう。そうなのだ。高嶋さんにとっても初恋だったのだ。
自分という存在を、信じて見てくれる。という事実に"勇者"であった高嶋さんが縋るのは安易に想像できた。その縋りは次第に、甘い恋になり、そしてその恋は次第に憧れとそして愛を感じるほど強くなった。なってしまった。
『ぐんちゃん。どうすれば良かったのかな。』
愛する人は思いを告げられないまま逝ってしまった。私に残されたのは、彼の後釜という地位だけ。なら彼から残されたものに縋るしかなかった。きっと彼ならこうするだろう。彼が護ったものなのだからなによりも尊い筈だと。
だからこそ高嶋さんは暴挙を止められないのだ。だって止められる唯一無二の人は今も棺のなかだから。
『知らないわ。』
『ぐんちゃんらしいね。』
その言葉を吐いた瞬間、拳と拳がぶつかり合う。交渉は決裂した。後は殺し合うだけ。……その考えだけは手にとって分かるように二人は交差する。……ただ情けのつもりかその時、私は武器を取る気にはならなかった。
『チートでしょ!!』
『失礼ね……努力の結晶よ』
ステゴロなら明らかに高嶋友奈に軍配が上がるだろう。ただこれは勇者の争い。郡千景は"玉藻の前"を調伏し、自身に宿して使役している。その為、単純な筋力勝負なら勇者のなかで誰よりも優れている。かといって、高嶋友奈が劣っている訳ではない。今までに積み上げた武術の心得がある。経験というのは大きなアドバンテージだ。更には、大聖とさらに洗練された武を身に纏う。
言うなれば、技の高嶋友奈。剛の郡千景だ。
肉を裂く、打撃の音が骨を穿つかの様な音を響かせ、殴り合う。
だけどその時間は長くは続かなかった。
『………あーあ。負けちゃった。』
『……どうして?』
簡単に勝敗が分かれた。
それはその筈。単純にスタミナの差だ。勇者の性能は大差ない。がそこに"玉藻の前"という後付けが筋力を底上げし、そしてスタミナまで底上げしているということだ。ほぼ同じ実力。ほぼ同じ威力。ならば多く耐久・スタミナを兼ねている方が有利であるのは明白だった。
………そしてあんなことが高嶋さん気がついていない分けなかった。
『だって。私の"酒呑童子"は違うから。』
高嶋友奈宿す精霊の内の一体。
そして危険度という意味で大社から使用を禁じられている三体の内の一体。単純な破壊力はどの精霊よりも凌駕する。もしそれをこの争いで使っていたのなら、私には勝機が無かっただろう。
『私の酒呑童子はただの力だから。』
そう。違うと言ったのだ。高嶋さんは。同じ力では代わり無いというのに、違うのだと言って聞かなかった。………何故なのかそれは……
『……わたしだって一緒じゃない。』
始まりが違うのだ。と高嶋さんは言う。"玉藻の前"は大聖への愛ゆえに自力で制御して、そして当初の目的通りに大聖を支えた。……それに比べて、私の"酒呑童子"はどうか。まるで逃避の様に力をねがったのではないか。事実、私は酒呑童子を制御出来ていないというのに。
『悔いは無いよ。』
間違ったことはしていない。
正義を成す方法として正しい。
そう言う真っ直ぐな眼をしていた。
『そう。……でも』
『分かってる。』
敗者は勝者に従うもの。
ならば、道理は郡千景にある。
その後、すぐに大聖の肉体は火葬所に移された。大社からそう言う考えが出た以上。そう言ったことを考えない人間が居ないとは保証出来ないのだから。
でも甘かった。
大聖無き後の大社がどういう行動に出るかなんて少し考えれば最悪を想像できたはずなのに。
話は、納骨の時まで遡る。
その高嶋さんが襲撃してから数日が経った日。私は火葬所まで来ていた。
『………どういうこと?』
私は火葬所の職員に詰め寄っていた。……いやその表現でも優しいぐらいだ。私はその時、皆殺しにする覚悟があった。
『どういうことかと聞いているの。』
きっとその時の玉藻の前との同調率は今までと比べ物になら無いほどだった。……三尾だった筈が本来の七尾にまで多くなり、周囲が闇に包まれたとまで言われた。
『大聖の火葬が済んだ。……ですって?』
もう一度言ってごらんなさい。
そう憎悪と怒りを隠せずに言った。この職員が言っていることが正しいのならば、大社はやってはならないことをやってしまった後なのだから。
『おかしいわね。』
だって大聖の肉体は、焼けるはずが無いもの。
積み上げた徳が違う。願われた希望の量が違う。現人神に最も近い存在が普通の炎で火葬されるというのか。
答えよう。否だ。
だからこそ私の玉藻の前の力を借りて黄泉路に送る。そういう計画だった。例え、巫女であったとしても無理なのだ。……巫女が神に敵う理屈など存在しないから。だからこそ勇者であり唯一無二の力を展開できる私が焼き付くそうと思っていた。それが私に出来る最後の感謝だと思っていたから。
『………!郡様………』
『ご託は良いわ。大聖の居場所を吐きなさい。』
最早、こいつらを生かしておく道理など存在しない。生きたことを後悔させながら死すら救いになる地獄の底に送ってやる。
でも大聖の居場所が分からないという理由だけで私は止まった。
首を前からへし折るように持ち上げ、今でも溢れそうな憎悪と絶望の全てぶつけた。
『………の……………』
小さく吐かれた場所。
それは遠くもなく近くもないそんな場所。
私はその職員を捨て置き、その場所へと一目散に駆ける。風よりも速く、速く、速く、速くっ!!
『お引き取りを。郡様。』
人気が少ない筈の郊外に置かれているのだという。
確かに間違った情報ではなかったのだろう。そこに居たのは多くの大社の奴らだった。
『ここに居るという事ね。』
『お引き取りを。郡様。』
『……まあ随分と好き勝手な真似を。』
『お引き取りを。郡様。』
『……………邪魔よ。』
言葉を交わす気なんて、更々無かった。私は渾身の力を込めて殺さない程度に痛め付けた。
『っ!勇者様がご乱心だ!!』
『……………ふざけるな。』
何がご乱心だ。白々しい。
私は更に力を込めて、握り潰すかのように痛み付ける。死のうが生きていようが関係ない。そう考えながら。
数分後。その場に立っていたのは私だけだった。潰した奴らなんかには脇目も触れずドアを破壊し、壁をぶち抜き、最奥の大聖が安置されている筈の空間に進む。
『……………あ…………』
ああでも絶望とはこう言うことなのか。それを深々と分からされた。
もう既に分けられていたのだ。
彼の遺体からは四肢が、頭が、無かったのだろう。ごめんなさい。ここからはあまり覚えていないの。体が、心が思い出そうとすると痛みが走って思い出させないようにしてしまうの。
分かるのはただ一つ。
ひらすらに自傷行動ばかりを取っていたということ。そして高嶋さんとも酷い言い合い、殺し合いになったのは分かっている。……後々の事件で高嶋さんは全くの無罪だったのだけれど、既にもう……ね。
そして問題は次から次へと発生した。
その大きな物の一つに、天罰が有った。簡単に言うと世界が燃えたんだよ。
昔は結界の外、そこにはバーテックスという存在はあれど滅んだ景色のまま有った。でもある時から世界に火が撒かれ、私たちは天の神に赦しを乞う必要がある…………じゃあなんでその"ある時"から火を撒かれるようになったのかしら。
そう。大聖を切り刻んだあの日から。
天の神は、"英雄が護ったどうでも良い塵"から"確実に滅ぼさなくてはならない塵"に格下げられたの。
そうよ。私たちは間違えたの。
本当は世界はここまで滅ばなかった筈なの。
大聖様がその輝きを、天まで輝く英雄としての魂を、心意気を見せたのだから"四国"には手を出されない予定だった。予定の筈だった。
英雄を手に掛けたから、やってはならないことまでしてしまったから人間は滅ぼされる。だから、大社は名前を変えた。天の神にも、地の神にも、そして大聖様にも赦しを乞い続ける。故に"大赦"。
…………分かったかしら。
これが世界の真実よ。
私が伝えられることはここまでよ。
……………………………………もし。
更に聞きたいのなら聖遺物の守護者に聞きに行きなさい。
"土居球子"そして"伊予島杏"。
どちらからでも良いわ。
勿論とてつもなく不可能に近い道だけど、最後の欠片達はそれらの存在が鍵を握るわ。
でも。勇者という存在に今でも夢を抱いているならばここで辞めておきなさい。
貴方達は勇者であって、勇者じゃないのだから。
…………話しすぎたわね。
話はおしまい。……まだ何か?
大聖(なんか俺が死んでから凄い事になってて草)
郡千景
曇らせコンセプトは「無知」。
原作よりも幸せだったから。
原作よりも人の悪意を知らなかったから。
彼女はまた致命的に間違えた。
何故、火葬所が安全だと考えたのか。何故、大社が即断即決で動かないのだと思ったのか。……何故、大社は大聖に手を出さないと思ったのか。いや。手を出す気にはならなかったのだろう。甘い、甘い毒が充満していなければ。
ちなみに言っておくと、大聖の聖遺物を見て千景はすぐさま発狂をして、その施設を崩壊させています。……その点は守護者の章で語られるでしょう。
更に追記しておくと、これが原作通りの千景だったらこうなる可能性があるとして、アイデアが成功して大聖をキチンとお見送り出来ていたという事になります。
幸福の日々が続くなら、絶望はより深くなる。あたりまえですよね。幸福と絶望のバランスは差し引きゼロ。
それは何処かの世界の少女が言っていたじゃないですか。(愉悦顔)
次章。「守護者/姫百合の章」
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