「ーーきな。起きなにけ」
うぅん、とにけは身じろぎした
ベッドで寝られる快適さは格別だ
「起きないと大人のキスの刑だからね。ヒッヒッーー」
にけはがばと起き上がる
矢賀が毎朝起こしてくるのはいつものことだが、そんな妄言は初めて聞いたものだった
「うぅん……なんなの。矢賀」
「いや、対したことじゃないんだけどねーー」
目を擦り、ひとつ伸びをして。声の主の方を向いた
「すまないね、にけ。約束は守れそうにない」
矢賀の顔はそこにはなかった
「《ハイドランジア・マクロフィラ》」
雨多にけの放った魔法はマギウス本部にある瓦礫の山を消し飛ばした
「アハハ……アーッハッハッハ!
想像以上にエクセレンツなパゥワーなんですケド!」
アリナは大きく手を叩いて高笑いをする
にけの赤く染まった双眼は焦点があっていなく、顔や体に木片が当たっているがひたすら無感動に立っていた
「あ、アリナ! やっぱりやめにしましょう? こんなことはーー」
「シャーラップみふゆ。おまえを一緒に来させてるワケまさか忘れてないヨネ?」
く、とみふゆは歯を合わせる。にけの状態は不安定でいざという時みふゆにもにけの洗脳をサポートさせる必要があるとアリナは判断した
それについて言いたいことはみふゆにもあったが相手はアリナなので対話を諦めて、せめて糸口がないかと模索していた
「でも正直必要なかったかもしれないヨネ
だってこれだけ従順なんだカラ」
口元に手をやって歪んだ笑みを浮かべる。アリナの表情は恍惚極まるものであった
そもそもアリナ自身、魔女と魔法少女を掛け合わせるなんてことがはじめての試みで。期待と興奮を隠しきれていない
「そ、そんなことは……アリナ、ワタシもちゃんと見張ります。最初が肝心だってあなたも言っていたじゃありませんか」
「アイシー?
ま、どーでも良いんですケド」
回り込んでにけの瞳を覗きこむように見ながらアリナは答えた
「きっとエキサイティングになるヨネ」
カモンにけ、というアリナの号令に答えにけはアリナの背後からついていく
「あ、アリナ! どこへいく気なのですか!?」
アリナはみふゆの脇で跳ねるように素通りするが、一度止まった
「オフコース。神浜だヨネ?」
「ば、バカ! アリナあなた、今すぐ街を破壊するおつもりなのですか!?」
みふゆに回り込まれてアリナは片手の指を口にやる
「なんなワケ? 邪魔、しないでヨネ?」
「みなさんを、敵に回しますよ」
あはは、とアリナは笑った
「ナイスジョークみふゆ」
「わ、ワタシは止めてみせますから……!」
「じゃ止めてみてヨネ?」
アリナはみふゆを一瞥してよけて先へ進む
「……1つ、思い出しました」
はぁ、とアリナはうんざりと息を吐く
みふゆはにけの元に駆け寄ると横についた
「マチビト馬のウワサが攻撃されてます」
ふぅん、とアリナは溢した
みふゆの視線はアリナにはなく、むしろ後ろのにけに合っている
「ま、イベントには空気読めないヤツが付き物だカラ」
「ワタシとしては一般市民を攻撃するよりも彼女たちを攻撃した方が効果的なのではないかと」
ううん、とアリナは一瞬片手で頭を触る
そして体を捩らせるとみふゆに笑いかけた
「なんにしてもこいつを試すにはもってこいだヨネ。ゾクゾクするぅ……」
「ーー神を試したその罪、万死に値する」
にけの姿が、歪む。カエルの脚と車輪のついた子供のおもちゃを組み合わせたような姿。口には手綱、背には馬の鞍。マチビト馬のウワサがその本性を現した
「任せて! チャーッ!」
炎を纏う大きな扇を振り回し少女はウワサに突っ込んだ
しかし、まるで効いていない
「そ、そんな……わたしは最強なのにいいぃ!」
「鶴乃!」
やちよに鶴乃と呼ばれた少女は伸びたカエルの脚に絡め取られ、遠くに投げ飛ばされた
ウワサは車輪を激しく回すとそのままいろはとやちよに突進する
「これならどう!?」
いろはからの矢の援護を受けつつやちよはなるべく車輪を狙って槍を生成し放ち続ける
ウワサは止まる様子がない
「いろは!」
「やちよさん!」
やちよはいろはを庇おうと駆け出したがいろはに押し出されて逆に庇われる形になった
「いろは、いろは!」
ーー粉砕蹂躙猪突猛進潰!
やちよは倒れるいろはに駆け寄った
ウワサが方向転換し再び二人に迫る
「や、やちよさん……よかった」
「くっ……!」
車輪の音が近い
やちよはいろはを強く抱き寄せた
「《ハイドランジア・マクロフィラ》」
ーー嗚呼。嗚呼嗚呼
マチビト馬のウワサは紫に発光して爆発した
一度爆発すると誘爆し、マチビト馬のウワサの体をくまなく滅ぼし続ける
「うぅん、アートはエクスプロージョンだヨネ」
「あ、アリナさん。マチビト馬のウワサ壊しちゃったじゃないですか! どうするんですかあれ!?」
悦びを隠しきれないアリナとそれを非難するみふゆ。マチビト馬のウワサは消え失せ、結界もその役目を終えたように崩れていく
「この技はーーにけさん!? また助けてくれるなんて……!」
「いろは、動いてはダメ! それに様子がーー」
やちよはにけの姿を見て、言葉を失った
深くフードで隠された顔から覗く、ただ一点のみを見据える赤い双眼。広げる片手からは今にも二撃目が放たれようとしていた
「ーーハイドランジア」
アリナは手を上げる仕草をするとにけは淡々と詠唱する
みふゆが隙を見てにけに駆け寄るも突如出現した緑に発光した遮蔽物に頭をぶつけ、尻餅をついた
「マクロフィラ」
アリナが手を降ろすとにけの片手から紫の光弾が放たれた
「くっ……!」
やちよは槍をいくつも重ねて円のように構えて爆発を耐えた
それでも衝撃は残ってしまったようで
「やちよ、さん……ありが、とう」
「そ、そんな。いろは! いろは!」
いろははやちよを残った魔力で回復させると変身が解けてしまった
やちよは倒れて動かないいろはを揺らすが起き上がる気配はない
「チェックメイト!」
「《ハイドランジア・マクロフィラ》」
アリナが手を上げて降ろすとにけは再び紫の光弾を放つ
「やっちゃん、やっちゃん逃げてぇ!」
悲鳴のようにみふゆは願ったがやちよは最後までいろはの上から離れなかった。みふゆは思わず、顔を背ける
「《ティロ・フィナーレ》!」
紫の光弾は突如飛来した巨大な銃弾により大きく弾かれ、あらぬ方向で爆発する
「よその争いには付き合わない主義だけどーー」
リボンを伸ばして宙を舞い、いろはとやちよの前に少女は降り立った
「流石にちょっとやり過ぎなんじゃないかしら?」
金髪を縦ロールにしていて花形のヘアアクセサリーをつけており、片手にはマスケット銃という長い銃を構える
少女は真っ直ぐとにけ及び、アリナを睨み付けている
「へぇアリナに説教しようってワケ?
ジョークにしても笑えないカラ。部外者は引っ込んでてヨネ!」
アリナは険な雰囲気と共に緑に発光する六面体から光線を出した
しかし、少女はそれを長い銃の銃把で叩くことでこれをいなした
「ご丁寧に自己紹介してくれて感謝するわ。わたしは巴マミ」
光線が増える。巴マミと名乗る少女は銃の銃把で叩いてそれは捨て、銃を出すと再び銃把で叩くを繰り返した。その一つ一つの動作が丁寧でいて踊るようで余裕すら感じられる
すごい、というみふゆの感嘆が漏れた
「でも残念ね。アリナちゃんはやっぱりその娘の後ろでしか戦えないのかしら?」
「これはアリナの作品、いわばアリナの一部なワケ。勘違いしないでヨネ!」
アリナがマミに指差すとにけは再び動いた
「あんなヤツ、黒焦げにしちゃっていいカラ! ニケ。おまえのフルパワーをアリナに見せてヨネ!」
にけはひとつ頷いて片手に本を出現させ、宙を舞う
マミは容赦なく銃弾を浴びせるも、本から離れた頁の一枚一枚が浮遊し銃弾包む
「くっ」
にけの本の頁一枚一枚が切り裂くようにマミに迫る
マミは限界まで引き付けてからリボンでいなし、避けていく
「ーーつまり、魔女と同じってことね」
避け様に放った銃弾の一つがリボンによってズレてにけの額に命中した。確かににけの額をとらえたが、にけの魂は割れた先から再生する
マミは後ろのやちよと眼を合わせた
「感謝するわ、巴マミ」
気まぐれよ、とマミは返すとやちよはいろはと道中で鶴乃を抱えて離脱した
「アーッハッハッハ!
そのへんの魔女と一緒にされても困るヨネ、ニケ!」
マミは宙を浮かぶにけを仰ぎ見る
その顔はいつになく、真剣なものであった
「《ハイドランジア・マクロフィラ》」
「《ティロ・フィナーレ》!」