マギウス本部の一室。にけは長方形の実験台に乗せられ仰向けに眠っていた
実験台を四人が囲む。にけの頭の側に立つアリナが口を開いた
「灯花。ねむ。二人に一つ相談なんですケド」
にゃ?、と灯花は反応しねむはアリナを完全に無視したように膝の上で開いた本の頁を捲っている
「こいつ、いる?」
アリナは眠るにけを片手で指差した
丁度対面に立つみふゆが、びくりと飛び上がる
「アリナ的にはノーサンキュー。飽きちゃったカラ」
「それってつまり処分したい、と?」
みふゆの顔から余裕がなくなっていく
アリナは人差し指をくわえた
「デリートするよりリサイクルしたいカラ聞いてるんですケド」
「そ、そうでしたか。失礼しました」
礼をするみふゆにアリナは小さく頷いた
「……穏やかじゃないね。アリナ」
ねむはぽつりと溢した
くふ、と灯花は笑みを深める
「にけにはにけのお仕事があるんだよ?
それにウワサだって散々壊してくれちゃって。わたくし怒ってるんだからね?」
灯花はにこにこと楽しそうに続ける
ねむはぴら、と膝の上にのる本の頁を捲っていた
「君たち二人が揃うと録なことがないのはわかった。まるで暴風雨だ。自重してほしい」
「ほんとほんと。三つもウワサ壊しちゃってくれちゃってさ。散々なんだから」
ねむに強く同意し、灯花は朱色の柄が入る傘をくるくると回した
「……一つはこいつの犯行だヨネ?」
「とりあえず保留! アリナ。そんなこと議論してる場合じゃないんだよ?」
アリナは納得いっていないといった表情を隠せずいた
「記憶ミュージアムですよね。灯花さん」
みふゆが切り出すと灯花はみふゆに視線を合わせる
「そうそう。環いろはの大切な人はこっちが握ってるから場所を伝えれば来るだろうし。来なかったりしても、にけを使えば良いんだよ?」
「……そうですね」
みふゆは沈めた顔を起こして胸に片手をおいた
うんうん、と灯花は満足そうに笑みを浮かべた
「ザコ集めてセミナーなんて本当にやるワケ? 退屈極まるんですケド」
「わがままいっちゃダメなんだよアリナ。計画に必要なことなんだからね」
「アリナを巻き込まないでヨネ。心底どーでも良いカラ」
アリナは灯花に言い捨てて部屋を後にした
みふゆはそれを確認してにけの頭の上に陣取る
「どうしたの? みふゆ」
「……いえ。珍しくアリナさんが弄っていなかったのでそれならワタシがと」
ふぅん、と灯花はみふゆの様子を見守る
ねむは相変わらずぴら、と本を捲っていた
「ーー本当にアリナをにけが止められるのかにゃ?」
みふゆは神妙な顔をしつつ、にけの頭を両手で挟んだ
「ワタシはそう信じています」
「大丈夫だ。アリナの術に一時的にとはいえ抗ったそうじゃないか」
にゃ? と灯花は正面のねむに目を移した
ねむの目線はやはり本にある
「アリナは壊れ物を人の魂に無理矢理詰め込み混ぜている。正直、滅茶苦茶だ。そんな滅茶苦茶を受けて耐えられる魔法少女はそうはいない
よほど本人の意思がつよいのか。よほど融合した魔女との相性が良いのか。いずれにしても奇跡と言っていい存在だ」
確かにそうだね、と灯火は頷いた
みふゆは両手をにけから離した
「もういいの? みふゆ」
「ワタシは人質の三人の様子を見てきます」
みふゆは一つ頷いてから灯花に笑顔を向けた
「そっかぁ。見張りよろしくねみふゆ」
一礼してみふゆは部屋を後にする
足早に去るみふゆの背中を灯花は見送った
「よかったのかい、灯花?」
「うん。みふゆが特別贔屓してる人達なのは知ってるよ。別に良いんじゃないかにゃ?
環いろはに対する囮なんだから丁重に扱わないといけないよね」
そうか、とねむは頷いた
「仮ににけがこのままなら、にけは魔女でありながら魔法少女ということになる。僕たちの夢が小さな形ではあるがにけの身をもってして証明される」
「ねむはそれが嬉しいんだね」
そうだな、と答えねむは唸った
「例えば魔女を作り替え比較的大人しくさせて魔法少女に入れれば、にけのように侵食せずに済んだりしないだろうか?」
「くふっ。冗談うまくなったね。出来なくはないけど夢みたいな話。効率悪すぎじゃない?」
ああ、とねむは笑みを浮かべ答える
灯花はにけの顔を拝もうと両足を揃えて跳んだ
「穏やかな顔をして寝てる。どんな夢を見てるのかにゃ?」
「魘されているのを見たことがある。きっと幸せなだけの夢ではないだろう。実に興味深いね。どんな最後を迎えるのかも含めて」
「ーーやちよさん。みんな。わたしは絶対に取り戻してみせる」
記憶ミュージアムと書かれている門をいろはは意を決して潜った
「初めまして。環いろは。わたくしは里見灯花。マギウスのひとりだよ?」
「灯花ちゃん……?」
うん、と灯花は椅子の上で一人頷いた
「早速で悪いけど、講義始めちゃうね?
いいかにゃ?」
いろはは力強く頷いた
灯花の講義で判明したのは魔法少女の真実。ソウルジェムが魔法少女の命であること、魔法少女が魔女になること、神浜では魔女化ではなくドッペル化が起きるということ、それをマギウスが実現させたということだった
「くふ、驚かないんだね?」
「……覚悟はしてたから。だから、わたしは今さらそんな真実には屈しない。だから、もうやめよう? 人を操ってまで利用するようなことは」
「にけのこと? それだって必要なことだよ環いろは。あの娘は証明になる。身をもってマギウスのやり方が間違ってないという証明にね」
そんな、といろはは溢して。目を伏せる
「やっぱりわたしはマギウスのやり方に賛成なんかできないよ」
「くふっ、そういうと思った。だから交渉は決裂だね環いろは」
がたん、と灯花の背後に位置する施設が起動していく
いろはの目が驚愕で見開かれる
「《ティロ・フィナーレ》!」
「にゃっーー!」
灯花は傘を前にしてなお来る衝撃を感じた
記憶ミュージアムの入り口が破壊されている。完全に、予想の外からの砲撃であった
「ごめんね。灯花ちゃん。実はわたし、一人じゃない」
いろはは目を白黒とさせる灯花を見つめ返す
「その、動かないでもらえますか?」
にゃ、と灯花はこめかみに銃口の冷たい感覚を覚える
灯花の隣にいつの間に立つのは、赤い縁取りの眼鏡が特徴的なモノクロな服装の魔法少女だった
「話は聞かせてもらったわ。不可思議な力を使って。人を利用して。魔女まで呼び込んで。あなた達は一体なにがしたいのかしら?」
マミはスマホを片手に煙の中から現れた
背後からも三人魔法少女が現れる
「マミさん、いつになく燃えてますなー」
「さやか。敵地に来てるんだ。気を引き閉めな」
はいはい、とさやかは佐倉を嗜めた
全体的に蒼く騎士礼装の様な姿であり、サーベルやカットラスのような剣を片手に握っている
「大丈夫? いろはちゃん」
うん、といろはは振り返ってから答える
髪を両端とも結んだ桃色のドレスのような服装の魔法少女がそこにはいた
「に、にゃあああっ! 助けてぇにけぇえええ!」
灯花の声が木霊して間もなく。灯花の姿が消える
「ーーなっ」
あまりに一瞬の出来事で。ほむらは目を剥いた
灯花が今まで座っていた椅子はもぬけの殻だ
「まずーー!」
同時に施設が再起動する。いち早く反応したほむらだったが、光源にいち早く目を奪われた
「目をーー!」
マミは瞬時に目を瞑ったが関係なく。最後に銃撃を光源に一撃放ってから倒れた
「さやかーー! いたっ!」
「杏子! あいたっ!」
佐倉はさやかを守ろうとして、さやかも守ろうとして。頭をぶつける
「いろはちゃん……っ!」
まどかはいろはを光源から守るように抱き締めた
やがて。ばた、と五人とも倒れた
「そ、そんな……っ! みなさん! 大丈夫ですか!? 大丈夫!?」
唯一無事だったいろははまどかを中心に倒れる五人を揺さぶった