マギアレコードR マギウスルート完走RTA   作:すさ

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憐れですね

『みふゆが。梓みふゆがわたくしたちを裏切った。至急ホテルフェントホープに来て!』

 

 灯花からの通話を切る。街で一人魔女狩りに勤しんでいたところであったがやむをえない。にけはマギウス本部に急いだ

 マギウス本部。またの名をホテルフェントホープ。あの建物そのものがウワサであることは最近知った事だった

 

「灯花様……ねむ様……!」

 

 にけは祈るような気持ちで窓を割り飛び込んで。ホテルフェントホープの廊下を走った

 どの部屋を探しても。廊下のどこに視線を巡らせても、二人の姿は確認できない

 

「うああっ!」

「く、うぅっ!」

 

 随分遠くからの悲鳴だった。にけはやむを得ない、と思って片手に頁を開き続ける本を出現させた

 二人に逢いたい、と念じると目の前でどさ、という音がする

 

「にけか……間一髪だったね。灯花」

 

「あ。ああ、にけ。恐かった……死ぬかと思ったよぉ」

 

 ご無事でなによりです、とにけは水に濡れた二人に答える

 ねむは早速にけを抱き締める灯花にむ、と目を細めた

 

「そうだ。状況を伝えなくてはならないねにけ。手短に話そう」

 

「みふゆの交友関係はわたしも把握しています。捕まっていた三人全員逃がしてしまったと見て宜しいでしょうか?」

 

「話が早くて助かるよ」

 

 こくり、とねむは満足そうに頷いた

 にけからみた最近のみふゆは挙動不審であった。しかし、こんな派手なことをするとはと唇を噛む

 

「三人別々にここホテルフェントホープの一室に閉じ込めていた。しかしみふゆが裏切った以上、それは意味をなさない。これは僕が起こした誤算であり、失態だ

 申し訳ない。にけ」

 

「一応フェントホープに常駐させてあるウワサもいるにはいるんだけど、七海やちよにみふゆが揃った今どこまで耐えられるのかーー」

 

 ねむは礼をして灯花は顔に人差し指を当てて考え込む

 にけは二人の言葉を汲み取り大きく頷いた

 

「わたしにお任せを。必ずや、みふゆ他三人を灯花様ねむ様の前に」

 

 頼んだよ、というねむの言葉を背に受け。駆け出そうとして。にけはローブを引っ張られる感覚を覚えた

 

「絶対ぜーったい死んじゃやだよ。にけ」

 

「なにを仰いますか灯花様。わたしはもはや死とは無縁の存在。恐いものなしです。負けるなんてことはありえません」

 

 うん、と灯花は潤んだ瞳をねむに向けて。ねむは小さく頷く。にけは引っ張られる感覚がなくなることを確認してから、一度も振り向かずに走り出した

 

 

 

 熊型のウワサが常に発生しているが主にやちよ、みふゆを先頭にしてこれを押し返していた

 

「お待ちください! みなさん!」

 

 待て、とみふゆが号令したのはこれが始めてのことだ

 みふゆの視線の先、熊型のウワサがぶら下がる木の下にはにけが立っている。鬼気迫るとはこの事であった

 

「雨多、にけ」

 

 やちよは得物である槍をにけに向ける

 

「やっぱり最後はにけさんか……!」

 

 苦笑を浮かべ、鶴乃は扇に火を這わせる

 

「こんのにゃろぉ。今回はぜってー負けねぇからなあぁっ!」

 

 フェリシアは顔を真っ赤にさせる。にけを指差し大きな槌を肩に乗せながら駆け出した

 

「フェリシア!」

 

 やちよが間一髪のところでフェリシアの首根っこを掴んだ

 がるる、とにけを威嚇している

 

「一つ、聞こうか」

 

「……なんでしょうか?」

 

 にけがみふゆに目を合わせ口を開いた

 みふゆも覚悟を固めた顔でこれに応じる

 

「今なら間に合う。みふゆ。わたしと共に三人を捕らえ、灯花様とねむ様に献上するんだ。心配しなくてもいい、二人は寛大だ。きっと赦して下さる」

 

「ワタシは決めたんです。やっちゃんと共にここを出ます

 それにもう、マギウスにいること事態ワタシには耐えられませんから」

 

「後悔はないと?」

 

 ええ、とみふゆは頷いた

 にけは目をゆっくりと閉じて。開いた

 

「よく吠えた。命はないものと思え!」

 

 にけは頁を捲り続ける本を片手に出現させる

 本の中心から霧が噴出し廊下中に充満する

 

「相手は強敵よ。油断しないでフェリシア」

 

「うるせー! あいつはぜってーぶっ飛ばす!」

 

 やちよから解放されると、フェリシアは再び駆け出した

 やちよがフェリシアを追うように手を伸ばすが、もう目が届かぬほど二人の距離は開いた

 

「い、いねぇ! どこだ……ぐあっ!」

 

 大きなハンマーを担ぎフェリシアは辺りを見回す。熊型のウワサが腕を伸ばしてフェリシアを爪で切り裂いた

 

「くっそぉ。卑怯だぞ! にけ!」

 

「卑怯? 勝負に卑怯もなにもあるものか!」

 

 うあっ、とフェリシアは熊型のウワサに突撃されて吹き飛ばされた

 あははは、とにけの笑い声が響いた

 

「フェリシア! 大丈夫!?」

 

「いってぇ……すまねぇ鶴乃」

 

 そこから動かないで、と鶴乃は警戒しながら進み手探りでフェリシアを捕らえた

 フェリシアが倒れる場所で鶴乃は得物を振るう

 

「この霧、思ったより厄介ね」

 

 深い霧の中何回か熊型のウワサを串刺しにしやちよは溢した

 防衛はできるが、これではにけに近寄ることも叶わない

 

「大丈夫ですやっちゃん。《アサルトパラノイア》!」

 

「ーーなっ」

 

 みふゆの幻覚魔法が霧を上書きしていく

 にけは目を剥いていた

 

「見えた。《アブソリュートレイン》!」

 

「ぐ、ああっ!」

 

 やちよがばしりと槍の柄を地に着けるとにけの上から槍の雨が降る

 熊型のウワサの木がある程度傘になったものの、腕や背中を槍が貫ぬいた

 

「はぁ……はぁっ!」

 

 黒く染まり完全に機能を停止したウワサの木を背ににけは立ち上がる

 

「こ、こいつ……不死身なのか?」

 

「ええそうよフェリシア。でもね」

 

 一瞬フェリシアの肩にぽんと片手を置きやちよはにけに近寄る

 おい、というフェリシアの忠告をやちよは無視した

 

「……火球すら撃ってこないなんて珍しいわね。にけ」

 

「ふん、なにをいうかと思えば」

 

 にけは口から黒い液体を流しながらやちよに笑った

 にけの片腕は折れ曲がり、背に槍が複数刺さっている。やちよは眉間にシワを寄せた

 

「にけ……」

 

「なんの真似だ。貴様」

 

 やちよは顔を沈ませると得物をあっさりと手放した

 やちよは目を強く瞑っている

 

「わたしがあの時助けられれば。こんなことには……!」

 

「おまえは何をいってるんだ!」

 

「うあっ!」

 

 にけに切り払われやちよは吹き飛ぶ

 ふっ、とにけは笑みを深めた

 

「ししょー……」

 

「やちよ……」

 

 やちよは瞬時に立ち上がり、片手を挙げる

 戦闘中止の合図であることは鶴乃、フェリシアの二人にもわかった

 

「憐れですね。にけさん。あまりにも」

 

「もう一度、もう一度言ってみろ。みふゆ……!」

 

 にけの眼が光る。みふゆは瞑っていた目を開く

 みふゆの目は潤んでいた

 

「良いんですよ。にけさん。もういいんです」

 

 小さくみふゆは発して。ゆっくりとにけに歩み寄る

 にけは頁を飛来させ、みふゆを切り裂いた。しかし、その歩みは止まることはなく

 

「ありがとうございました」

 

 ついにみふゆの両手はにけの体を捕らえて包み込んだ

 にけは瞳を震わせる

 

「あなたはあの三人に利用されていたに過ぎないのですから」

 

「ーーなにを、意味のわからないことを。離せ!」

 

 離しません、とみふゆは頁で自らが切り裂かれるのを特に気に止めることもなく。にけを包み続けた

 

「ワタシ、少しあなたが羨ましいと感じてました。しかし、浅慮だったと今は思います

 気付かぬ振りをしてあなたから目をそらしていただけ。そうまでなっても、あなたは失わなかっただけ。もう少し、もう少し早くこうするべきでした。遅くなってしまい申し訳ありません」

 

「ええい、離せ。離せぇっ!」

 

 みふゆは抵抗が強まるとにけの頭を引き寄せて背に片手を回し、さらに強く抱き締めた

 

「あなたには命を助けて頂いた恩があります。感謝してもしきれません。せめて前のにけさんに戻れますよう、ワタシは心から願っております」

 

 アサルトパラノイア、とみふゆはにけの耳元で呟いた

 一回、二回、ともがくが至近距離で発動したみふゆの幻覚魔法の前では太刀打ちすることは敵わない

 

「灯花、様……ねむ、様……申し訳ーー」

 

 にけはうわ言のようにそう残して。色のない眼はそのままに意識を手放した

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