マギアレコードR マギウスルート完走RTA   作:すさ

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神浜に来て

『神浜に来て』

 

 そんな夢を見始めたのはいつのことだっただろうか

 しかしわたしは、この夢に誘われて孤児院を抜け出した。予感があったのだ

 もしかしたら魔女を狩りグリーフシードを食らうこの日々に発展があるかもしれない、と

 

『カミハマにキて』

 

 車窓から覗ける景色はどれも新鮮だ

 グリーフシードの用意もある。心は晴れやかだった

 

『ーー』

 

 あの夢のどこかに、引っ掛かるものでもあったのだろうか?

 ずっとその言葉が頭から離れなかった

 

 神浜駅を降りて改札へ向かう。以外と都会的な街だった

 これだけ大きなターミナルを構えておいて魔女の結界がないというのも不自然だ

 

ーー魔女共はすべからく餌にしてくれる

 

 おっといけない。欲というのは表に出さないから敵からの油断を誘えるのだ。だから今まで通り、それとなく歩くのだ

 

 改札を出た。深夜にわたしのような年ごろの少女がうろうろしておいて誰も呼び止めないという奇跡はあったが、それを駅員の責任にするのは酷だろう

 

 なんといってもそのような少女が多いというそんな事実があった。一人二人ならまだしも十人単位で動いていれば、団体さんかな? で終わるものなのかもしれない

 

 確信している。間違いなく同業者だ

 同業者同士のいさかいは分かっているし面倒なことこの上ないが、今この場で同業者である彼女たちに襲われても逃げられる自信があった

 

 わたしは自由だ。そして失うものがない

 この事実がわたしを強くしていた。今ソウルジェムを確認することが叶うならもう眩いばかりに輝いていることだろう。グリーフシードの手持ちも潤沢とはいえないので流石にそれは些か比喩的ではあるけど

 

「ん?」

 

 魔女の結界だった。このぞわりと背筋を撫でる感覚は今でも慣れることはない

 辺りを見回してみるとこの結界に気が付いた同業者はいないようであった

 

「ーーツいてる。今日は良い日だ」

 

 そう呟いて。わたしは変身した

 ちょっと髪が伸びて、肩に触る。ローブを身に纏い、片手に本をもつその姿は絵本にだって出てくる魔法使いを思わせる

 

ーーア亜部羅佳ィ薇!

 

 雑魚め。わたしは獲物を見据えて獰猛に微笑んだ

 

「ははっざまぁみろ! ここの魔女弱すぎぃ」

 

 わたしは一つ嘘をついた

 この魔女はけして弱くはなかった。しかし、認めたくはなかったのだった。獲物が狩人よりつよいだなんて

 

「これならダースでもいけるわ!」

 

 グリーフシードになったところを確認してからわたしは叫んだ

 誰に見られているわけでもないのだから、存分に自身を鼓舞するに限る。自分なりの生きる知恵だった

 

 ところが問題が発生した

 魔女の結界が、全く解除されないのだ

 

(ど、どどっどどういうこと!?)

 

 額のソウルジェムにグリーフシードを当ててから辺りを見回す。こんなことは一度だってなかった

 流石に連戦はまずい。しんどい。わりに合わない

 

「逃げよう」

 

 誰にいうでもなく呟いた

 判断はそんなに遅くなかった、と思ったんだけど

 

ーーツ亞蕁蟇騾我!

ーー熨熨我齲ア餾残懺!

ーー曁麒乖絶匕!

 

 回り込まれた。それなりの数に

 

「本当にダースで来いとはいってないんだけど!?」

 

 内心頭を抱えながらもわたしは片手から紫色の炎を飛ばしつつ、結界の外へと急いだ

 

「はぁ……はぁ。ぐっ!」

 

 わたしもがんばれば空を飛べる。なぜそんなことを思っているかと言えば、今一瞬宙に浮いているからだ

 脚を捻って転んだ。こんなしょうもない事実を理解することに時間を要してしまったのは致命的といえた

 

「そんな、バカな……わたしが、こんな奴らに……!」

 

 魔法少女の最後を知らないわたしではない。だからわたしは変身を解いた

 そうすることで、いざとなればソウルジェムを地面に叩き付ければ最悪にはならないで済む

 

ーー禍央ハ罵慯戯!

 

(逃げ道を塞がれた、か)

 

 魔女の声が近い。悔いは残るが。わたしは濁ったわたしの魂を握り振り上げる

 

ーーギ儀ァ!

 

 魔女の苦しむ声。途端にふわり、と浮遊感を感じる

 

「今回だけよ」

 

 す、と入ってくるそんな声に力が抜けたのか、わたしは意識を手放してしまった

 

 

 

「雨多にけだね?」

 

 長い銀髪の少女は黄金に輝く瞳を輝かせた。矢賀 (ヤガ)は驚くことにこの孤児院の主だ

 そして意外性もなにもなく想像通りのクズであった。わたしはこいつに衣服をとられたのだ

 

「白いタヌキを見たら必ずこう願え。一等を当たった宝くじを用意しろと。意味がわからんという顔をしてるね? いずれわかるさ。ヒッヒッヒーー」

 

 大きくため息をついた。妄想に取りつかれた娘。わたしの最初のこいつへの評価はそんなものだった

 大人たちも小さな矢賀の言いなり。そんな奇妙な孤児院の暮らしにもなれた、ある日のことだ

 

「僕と契約して、魔法少女になってよ」

 

「は?」

 

 寝ようとしたそんな瞬間だった。ふざけたケダモノとの出会いは最悪だった

 

「どんな願いだって叶えてあげられるよ? 君もなってみるといいよ」

 

「矢賀がいっていたのはこれか……だからといってはいそうですかとはいかないから」

 

 そいつはベットの上に乗ってきた。顔を覗きこんできている。血のように赤い双眼からは気味の悪さしか感じなかった

 

「そうか……確かに。そうなのかもしれないね。これは失礼をした

 でも君にメリットはない訳ではないよ」

 

「ふぅん。どういうこと?」

 

 ここから熱学的がどうのとか言い出したので話が長いとわたしが遮る

 

「ーー君が説明するように言ったのに。もういいのかい?」

 

「うん。わたしとしてはこの世界のことなんてどうでも」

 

 そうかい、と小首を傾げてくる。人の神経を逆撫でする才能ならこのケダモノは天下一品だろうと思った

 それからわたしはこのケダモノに魔法少女になった上でのデメリットを問いかけ続けた

 

「僕としては別にいっても良いんだけどなってもらって体験してもらった方が早い」

 

「それ、何度目?」

 

 吐いた言葉には険があった

 そろそろ我慢できそうもない。そんな確信があった

 

「ーー仕方ない。無理強いはできないからね。また機会があったらってことで」

 

 ようやく、といったところ白いタヌキはわたしの上から飛び降りた

 ベッドから降りて、窓の外へ向かうようだ

 

 わたしはこのケダモノが本当に諦めたとそう思った

 なにせ、わたしはこいつにとっては面倒臭い相手だろうから。会うチャンスは多くない。そう予感した

 

「待って」

 

「うん?」

 

 だから呼び止めた。そこから先は酷かった

 

 願いをいえ、と言われどうでもいいことを願った。わたしの親はこの世にいないから会えない、という答えはあまりに身も蓋もないが。まぁ、力は貰えたので文句は言えない

 

 そのあと急に魔法少女の真実を教える気になったらしいこのケダモノによってわたしという人間はその瞬間に死んだのだ、と思い知らされた

 このどうでもいい石ころこそがわたし自身なのだと悟った

 

 矢賀はこの事を知っていたのだろうか?

 騙されたという思いが膨らんだ

 

 何回か殺してやろうと思ったがこのケダモノには日本語が通じないことはとてもよくわかったので、堪えた

 

 それから普通に朝が来た

 わたしは自分のために願いを使ったが矢賀になにか言われるでもなく、日々を過ごした

 魔法少女になった後悔は好奇心で補った。色々と調べたり実際に魔女を倒すなりして自分がどういう存在なのかという理解を深めていった

 

 もちろん、そんな生活には簡単に限界が来た

 

「出ていくのかい?」

 

「……」

 

 こっそり抜け出そうとして、矢賀と玄関で鉢合わせをしてしまった

 かといって夢に謎の少女が出てきてうるさいだとか、魔女が最近少なくて奇妙だとかはあえて口には出さなかった

 

「あたしがいうのも難だけどね。最近どうもきな臭い

 あんたはまぁ、大丈夫だとは思うけど……もしもがあるかもしれない」

 

「おまえ、頭でも打った?」

 

 以外だった。矢賀に心配なんてされないものと思っていた

 矢賀と付き合う上で話題には困らない。罵り合うという意味では永遠にできる。そんな関係だったからかもしれない

 

「ヒヒ。なんとでもいうがいいさ

 でもね。あたしの知恵ってのもバカにはならんはずだよ」

 

 矢賀は笑っておもむろにアタッシュケースを投げて寄越した

 ずしりと重い。中身を確認すると札束が沢山とグリーフシードがいくつかある

 

「止めやしないよ。どこへだって行っちまいな

 あんたが金を願わなかった報いはキチンと受けてもらったからね?」

 

 そもそも矢賀という少女はここに至るまで様々な狂う要因を経てこうなったのかもしれない。そう予感させる笑顔だった

 

「矢賀。わたしが殺すまで死ぬなよ?」

 

「はっ。それこそ願い下げだね

 魔女になって殺しに来ましたじゃお笑いだ」

 

 皮肉を皮肉で返された

 やはりあちらの方が上手か。悔しい思いはあった

 

「あんたには期待してたよ。にけ」

 

 わたしは矢賀に振り返らず孤児院をあとにした

 少なくとも、魔法少女として生きるということの意味を学べたのは得難い経験だと思いながら

 

「ーーなるほどね」

 

 凜、とした声が聞こえて。わたしの回想は終わりを告げた

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